第8回SPARC Japanセミナー2009「Marketing to Libraries Worldwide」
2009年度ラストのSPARC Japanセミナーに参加してきました。
- 概要
2008年の米国に始まる経済危機は、ジャーナルを出版する側にとっても、またそれを購入する図書館、そして、それを販売する出版社にとっても、ジャーナルを取り巻く世界に影響を与えることになりました。私どもはすでに「学術誌の価格高騰」「オープンアクセスへの対応」などいくつかの重要で、避けがたいテーマを抱えていた上に、新たな課題が浮上したという状況が、2010年の今ということであるかもしれません。
今回のセミナーは世界最大の学会出版連合である、ALPSPから、Nick Evans氏、ジャーナル出版コンサルタントとして英国等を含め広く活躍されているMelinda Kenneway氏、そして英国物理学会販売マ−ケテイングのヘッドであるTony O’Rourke氏をお招きし、海外における大学図書館の状況やジャーナルの販売戦略などに関して、広くご講演を頂きます。日本からは、物質・材料研究機構科学情報室長の谷藤幹子氏に、ジャーナル出版者・図書館経営者としての2つの立場を踏まえた「図書館は何を求めているのか」といった視点で、日本の学協会誌への提案をお願いしています。
困難な時代を乗り切る知恵とスキルを学ぶ一助になれば幸いです。
図書館総合展で別のフォーラムと被ったため参加できなかった第6回を除き、2009年度にこれまでこのブログでも6回にわたって参加報告をアップしてきたSPARC Japanセミナー。
最後は2007年度の最終回でもご発表されていた*1Nickさん、Tonyさんに今回が初来日というMelindaさんもお招きしての学会出版をメインターゲットに据えたセミナーとなりました。
日本から迎え撃つ(?)谷藤さんのご発表も「スライドは後で出せるところを選んで」という、「図書館運営に携わってみて出版の方に伝えておきたいこと」の具体例を押し出されたもので大変刺激的です!(一応、「ここまでは書いても大丈夫かな?」と思う範囲で書いたのですが、問題ありましたらご指摘よろしくお願いします>谷藤さん)
9:30開始で途中休憩をはさみつつ17:30までという丸一日かけたセミナーでしたが、中身の濃さはいつものセミナーと同じかそれ以上というところでもあり・・・体力がけっこう危うくもありましたが・・・
ともあれ、以下いつものようにレポートです。
いつもどおり、min2-flyが聞き取れた/理解できた/書き取れた範囲内でのメモとなっておりますので間違い等も多々含まれると思います。
その点ご理解の上、参加者の方で気付かれた点等ありましたらご指摘いただければ幸いです*2。
開会挨拶(永井裕子さん、日本動物学会事務局長)
Marketing to Libraries Worldwide; Changing Markets and Changing Times (Nick Evansさん、Chief Operating Officer, The Association of Learned and Professional Society Publishers)
話す予定の概要
- ALPSPについて:ぜひメンバーになっていただきたい
- ジャーナル市場について:どの程度の規模、大きさで今何が起こっているのか
- ここ2年の不況にどのように対応するか、どう考えたらいいか
- ジャーナル市場も変わっているし、ジャーナルそのものも変わっている。
- 学術情報流通についてどのような新しい取り組みがあるか。
- オープンアクセス:学術情報の流通について非常に間違って使われている用語について
- 誰と話しているかでオープンアクセスの意味が変わってくる
- ビジネスモデルを明確化し、何がOAで何がOAでないかを明確にする必要がある
- 図書館員、出版者、研究者などの一つのグループとして議論できるようにしないといけない
- 「なにがベストか」で喧嘩しないように。ある状況ではあるものが良くても、別の状況では別のものがいいかも知れない
ALPSPについて
- 今日の会場にいらしている講師・参加者はALPSPをよくあらわしている。情報の共有がALPSPの目的
- 現在の会員数は昨日、アメリカ心理学協会が参加したので359になった
- 「定年までにALPSPのメンバーがいる33カ国全部をまわる」と妻には宣言している。「わたしも連れて行ってくれるならいいわよ」と言い返された
- ALPSPのメンバーの規模は色々。IOPのような大きな機関もあれば、小さな大学の出版局もある。規模は小さくても重要なUniBio Pressのような協会もある。OUPとかも
- 会員タイプには2つ。一つは非営利機関:正規会員。もう一つは賛助会員で、商業出版者や色々なサービスのsupplier。現在は正規会員の方が多いが両方いつでも歓迎している。
- ALPSPのメンバーが発行している雑誌数は約10,000. この中には日本のジャーナルも含まれている
市場の規模
- 2008年の英語のSTM出版物の市場規模は約80憶ドルと推測されている
- 雑誌だけでなく全ての出版物についての数字
- ALPSPのライバルであるSTMレポートの数字であるので、「彼らの数字が信頼できれば」という前提(笑)
- 雑誌出版者は全世界で2,000。かなりの雇用を創出している
- 出版団体に加入しているのは657. 11,550の雑誌がそれらの出版者から出ている
- 多くの非営利出版者は商業出版がうらやむようなマージンをあげて、団体に貢献している。非営利≠利益をあげない、ということ。
- 雑誌出版の市場規模をのばしているのは?
- 論文数の伸び
- イギリスよりも日本の数字の方が大きい! なので「ヨーロッパ」と呼ぶ。
- 中国がのびている。
- 出版上位5カ国で世界の論文の55%、23カ国で90%を生産
- 論文数の伸び
何が変わっているのか?
- 市場の動向
- 利用者の行動
- ビジネスモデル
- プロダクト
- 顧客
- 組織
- 技術
- 変化する市場
- 小規模のプレイヤーには非常に厳しい。大きなプレイヤーがより小さなプレイヤーを追い出すような状況
- 小魚がサメのような大きな魚から身を守るにはみんなで団結して一緒に泳ぐような策を使わないといけない
- 大手から小規模が身を守り競合するには、力を合わせないといけない
- 一方で出版者の合併や買収を考えると「どこと競合するのか」も変わってくる
- 刊行される雑誌の半分は10の出版者から出ている
- 小規模学協会はロングテール。がっかりするかもしれないが。
- 図書館の予算は頭打ちもしくは減額
- 興味深いことに、こういった話題を出版者と話しても実際の削減額や影響の具体的な話にならない
- 出版者に応じ減額のレベルは違うと思う。主題や規模、事業に応じて変わる
- 心配しなくてもメリンダとトニーがどうすれば教えてくれるはず!
- 小規模のプレイヤーには非常に厳しい。大きなプレイヤーがより小さなプレイヤーを追い出すような状況
- 不況に対応するには?
- 質にこだわりたい。
- セグメント化、統合
- 利用を最大化する
- 新市場向けに新しいコンテンツパッケージを設計する
- 新しい方法でコンテンツに関心を引くような方法を考える
- 今朝早くにメールを見ていると、NatureからiPhone向けのアプリが出たと書かれていた。最新の科学情報をバスの中でも入手できる。
- STM系だけでなく、HSS系でも雑誌は技術の最先端にある。論文がPDFであるだけではない。セマンティック・ウェブ…と書いているが私自身はよくわかっていないのだが…
- 他にもデータマイニング。SFは良く読んでいるので知識の自動抽出の素晴らしさはよくわかる
- セマンティック・ジャーナルの例にはイギリスのBiocemical Journalが最近セマンティック・ジャーナルを発行するようになった。
- そのセマンティックシステムの立役者はマンチェスター大学のTerri Attwood教授
- 「PDFは、科学的知識の適当で効率的な利用を妨げる」
- 「研究者はデータの海に溺れている」。助けてあげないといけない
- 図書館も変わっている(Jane Harvellさんの講演より)
- 共用所蔵:各ジャーナルをすべての大学で持つ必要はない。共有してstorage。
- 授業支援を行う柔軟な体制を持つ
- より適した体裁のコンテンツ
- Nickさん:皆さんは自分のサイトにどれくらいお金をかけている? それは無駄かも。研究者は直接コンテンツンに行く。自分のブランドを強化したいなら、研究者がコンテンツを探すときに所在をはっきり理解した上でやってくるようにしないといけない。
- Liverpool大の図書館サイトの例。図書館OPACは出版者と競合関係になってきた。皆さんとしてはお持ちのコンテンツが如何に使われるかを考えないといけない
- Nickさん:皆さんは自分のサイトにどれくらいお金をかけている? それは無駄かも。研究者は直接コンテンツンに行く。自分のブランドを強化したいなら、研究者がコンテンツを探すときに所在をはっきり理解した上でやってくるようにしないといけない。
<永井さんから:共有所蔵についてコメントを:筑波大学・斎藤未夏さんへ>
- Nickさん:図書館員の人って共有所蔵って考えている?
- 斎藤さん:具体的なビジョンはないが、ありうるとは考えている。できれば共有所蔵という形がどのようなものか、想像でいいので説明を。
- Nickさん:複数の図書館でコレクションを持っていて、雑誌や本は同じものを重複して持っている。一方でスペースに対してのコスト圧力も感じられている。Janeさんの考えとしては、地域にある4〜5か所の図書館で協議して共有スペースを確保して、そこに1冊だけ雑誌なり図書なりを入れておく。そうすることでコストを削減できるという考え方。もうひとつ考えているのは、専門的なコレクションは図書館に残して研究者が見られるようにして、一般的な部分は共有することを考えているよう。アメリカではかなりの図書館が既に物理的なコレクションの保管スペースを削減し始めている、ということでいい?
- Tonyさん:アメリカの大学では物理学の図書館は閉鎖されているが、物理的な図書館はある。ヨーロッパの大学図書館はまだ開架式の書棚を使っているところが多いが、それが使われなくなりはじめてはいる。資金面を言えば、プリント版よりも電子版に多くの予算を振っている。
- 永井さん:地域で図書館が連合して購入するとなると、商業出版はどういうofferをするかという問題もある。興味深いので後でまた議論しよう。
オープンアクセス
- オープンアクセスのタイプについて詳しく話をするつもりはない。
- 即時完全ゴールド(出版即OA)もあるが、伸びているのはハイブリッド型OA。Learned PublishingでもハイブリッドOAをしている。ただLearned Publishingの著者のほとんどは出版関係者なので先に払ってくれない意地悪な人が多い(笑)
- ハイブリッドOAは図書館に問題を起こすかも知れない。
- 機関リポジトリ(Eprints限定)は平均4,500編の論文を公開
- 主題リポジトリ
- Nickさん:私の上司が言うには、「リポジトリはジャーナルの査読体制を目当てに現在の雑誌に寄生している」。勇気ある発言。こういう発言を文脈を無視して引用すると、全文を読んだ場合に比べて極端なことを言っているように聞こえる。これはTimes Higher Educationの中でかわされた議論の一部。
- OAについては色々な人が色々な立場で発言しているが、実際に言っていることはそんなに過激ではない。
- アメリカの下院で科学技術に関しての委員会が開催されており、ホワイトハウスのOSTPでは学術情報についてのアクセスについての議論を始めている。このモデルはヨーロッパ、そしてここ(日本あるいはSPARC Japan?)でも後に続くべきではないか。
- US Scholarly Publishing Roundtableには小規模な大学の管理者や図書館員、学会、図書館情報学者等が招かれている。出版者はPlant Biology学会の人など。
- US SPRで合意されたこと:
- 査読、そして査読の質は非常に重要である
- ある一つのビジネスモデルではなく、状況に応じ変化できる、従来と異なるビジネスモデルが必要である
- 学術出版には幅広くアクセスできるようにしなければならない
- 保存
- 出版された研究結果はクリエイティブなやり方で最大限、利用できるようにすること。その情報をホストしている側が相互運用可能であること
- US SPRからの提言:
- 興味深いのは4つめの提言。レコードのバージョン(Version of Record)を保持しておく、それをフリーにアクセスできるバージョンにしておくべきだ。
- VoRとは?:査読済みで雑誌に掲載されたバージョンを指す。
- 出版者側の考えとしては査読等のプロセスを全て経ていないと共有できるものではない、と考えているのだろう。ここであえてその提言をしていることは興味深い。
- 興味深いのは4つめの提言。レコードのバージョン(Version of Record)を保持しておく、それをフリーにアクセスできるバージョンにしておくべきだ。
- 出版についてもドラマ『ホワイトハウス』で委員会が予算をめぐってやりあっているのと同じようなものである。
- OSTPはラウンドテーブルに参加する一方で、Public Access政策のコンサルテーションをしている。
- ALPSPもコンサルテーションについての考えを述べている。私たちの考えとしては「出版者が論文のバージョンや、いつ公開するか、無料で公開すべきか否かの判断はするべきだ」ということ。
- AIPのサイトの紹介
- UniPHYというサービスがある。AIP所属メンバーに対してのサービス。
- リサーチについてのコミュニケーションの形態を考える必要がある
- DeepDyve:論文のレンタル。1本99セントで借りられる
つまりどういうことか?
- 市場の変化を理解する
- 自分に対しどういう影響があるかを理解する
- 皆さん自身のイメージやプロバイド、ブランドの維持はこれまで以上に重要
質疑
- ?さん:論文出版数の国別の分布が最初の方であったが、これは日本人がアメリカの雑誌に投稿して掲載されたらUSAに入っている? Japanに入っている?
- Nickさん:どこで出版されていても、日本人が書いた論文なら「Japan」として集計している
- Tonyさん:ソースも考えている。10カ国のコラボレーション等なら、それも加味している。ただパーセンテージに引き直せば主な著者ベースでのカウントになる。
- Nickさん:ソースは後で出します。
View from the front line: what do librarians want? (谷藤幹子さん、物質・材料研究機構 科学情報室 室長)
- 今日の回は学会出版者向けのプログラム。私が過去、出版の仕事をしていたときに「あのとき知っていれば…」と思うことが図書館に関わるようになってわかったこともある。私が望むもの、それは他の図書館の方の本音にもつながると思うが、そこを具体的にお話ししたい。今日のお話は考え方とか将来の俯瞰が多いと思ったので、できるだけ数字とかを示したい。
目次
- 図書館の今
- 図書館経営の今
- 雑誌分析:世界最先端の事例
- 周辺の話題
- 論文単位
- 論文レンタル
- まとめ
- 日本初学術出版者への提案
図書館の今
- 業務(購入、発注、契約、納品・検収など)
- 書籍は最近はクレジットカードで、Amazonや紀伊國屋で調べて買う。八百屋に行くようなレベルで値段を調べて買う。
- 洋雑誌・和雑誌の区別は言語ではなくどこで買うかで分けている。円で買うものは和雑誌、外貨で買うものは洋雑誌。会計処理が違うので。
- 日本語で買う方が会計は簡単。外貨で買うものは手続きが長い。国立研究所で言えば50万円・100万円などの段階があって、ある段階を超えると入札になる。
- 官報に載り、1月待つことになる。
- 日本の英語雑誌が和雑誌分類なのはある意味、幸運。買い方もシンプル。
- 英語雑誌でも海外出版者から出せば洋雑誌扱いになる。買うのは難しくなるが、大きなところに埋もれて図書館員からは目立たない。和雑誌として1本勝負よりはいいところもあるかも。
- 日本語で買う方が会計は簡単。外貨で買うものは手続きが長い。国立研究所で言えば50万円・100万円などの段階があって、ある段階を超えると入札になる。
- 研究シーンにおける利用の流れ
- 資源はそれぞれ別のプラットフォームがある
- 外部資源もそれぞれにある
- 研究者のアプローチは?
- 分野によっても違うが、まずは使いなれているところから入る例が増えている。NIMSであればWeb of Knowledge, SCOPUS, Scifinderがgateway. そこでデスクトップ上で解決することが望まれている
- Nickさんへ:NIMSから10分で筑波大学もあるが、研究者は行きたがらない。Shared storageは厳しい?
- (min2-flyコメント:10分どころか、3階の研究室から1階の図書館に行くのだって面倒でスヨ! Please don't say "you are lazy"!)
- 図書所在へのナビゲーション
- S・F・Xの例の紹介
- NIMSの場合、GoogleもしくはWoSからみんな入るので、図書館サイトの優先度が相対的に低い。S・F・Xで迷子を出さないことの方が重要?
図書館経営の今:もっとも深刻なこと
- −10%:大学法人で年−5%、研究機関は10%レベルで運営費交付金が落とされる。世界トップクラスの研究拠点として認定もされているのに。
- 購読費は決して下がらない。どうやって買うのか?
- 研究領域がイノベーションすると新たな領域が派生し、領域をまたがった資源が必要になる。しかしジャーナルが統合することは決してない。
- 雑誌は増える、値段は上がる、予算は下がる。
- 図書館員に求められる仕事の変化:分類から情報処理へ
- システム投資:紙ベースの処理⇒電子情報の統合と検索・案内
- 出版者が思うシステムはかなり洗練されている。それは売らなければいけないから。サービスを売るにはプラットフォームの見た目や機能性がいる。
- それに比べると図書館業界で入手できるシステムは穏やかな状態にある。海外のlibrary systemはもっとcompetitiveだと思うが、日本は洗練度が落ちる。将来は長い
- 具体的な話
- NIMS全体で図書館の予算規模は0.14%. 世界的に見ても少なめ.
- 業務のさらなる合理化、人員削減、優先度の低いもののストップ
- 同時に新しい分野の雑誌購入を進めなければいけない
- NIMS全体で図書館の予算規模は0.14%. 世界的に見ても少なめ.
- どう対応する?
- ビッグディールに入るか?
- 研究系独法でも2年前にコンソーシアムは立ち上げた。時すでに遅しだが、遅くてもやるべきことは。
- コンソーシアムのメリット:値上げに年率の上限設定可能/非購読誌までアクセス/"機関間の学術情報格差をなくす"
- コンソーシアムのデメリット:図書館自身が取次店の仕事をする必要がある。谷藤さんは半年以上、残業してやった。
- 途中で離脱したり抜け駆けしたりする機関もある。「あれだけ約束したのに!」という。大変。それが仕事ならいいが限りなくvolunteer. 日本語でコミュニケーションのとれる日本学会の雑誌は、そこはメリットと考えるべきだろう。
- コンソーシアムについていちいち説明するのも面倒。なのでwebページを作って説明を全部英語で公開した。
- 参加機関の基本情報や地理関係も見られるように。値段に影響するので
- CMSで作ってあるby NII
- 予算化から契約まで:自分が出版者にいたときに知りたかったこと
- 予算は11月に翌年の規模の内示が出る
- 図書は11月に入札・契約まで終わってないと更新できないので、先に図書は予算を確保する. 動きがあるのに図書の予算だけ取りに行くので、内部ではかなり厳しい対応.
- その前の段階では既に内部での利用状況などから、9月には中止する候補を選定している。図書員会・研究者会議で議論。
- 10月くらいには結果を広報、個別対応、仕様書作成。
- 並行して会計監査。監査者は出版者の事情を知らないので、成り立ちから説明。会計は研究者の論理を知らない、その説明から図書館員の仕事。
- 図書は11月に入札・契約まで終わってないと更新できないので、先に図書は予算を確保する. 動きがあるのに図書の予算だけ取りに行くので、内部ではかなり厳しい対応.
- 予算は11月に翌年の規模の内示が出る
- 研究環境の変化
- 2008年:オンライン版がない雑誌は中止、国内学会の会誌(非査読誌)も中止
- 2億円の予算のほとんどは外国雑誌(75%)。国内誌2%のことを後でごちゃごちゃ言われても対応していられない。「長いものに巻かれれば」というのはそのため
- 出版者と取次店の関係
- 出版者の値上げ率が、代理店を挟むと値上げ率が上がることがある
- 為替レートをどれだけ踏むか
- 取次店がどれだけ本気で「売りたい」と思っているか
- 本当は出版者から直接買った方がいい? サーバが落ちない限り問題は起きない。英語の困難はあっても経営にとってははっきりするのでいい。そこが日本円ならもっといい
- 出版者の値上げ率が、代理店を挟むと値上げ率が上がることがある
- 雑誌の継続/中止の根拠
- pay per view(1本2,000〜3,000円)よりも1DLあたりの価格が高くなっているような雑誌を斬る
- 学会出版はどうやって利用を伸ばすか、というアクションが必要
- 購読誌を切る際にはIFと、Eigenfactor、Article Influence Scoreも付けて出す
- 使う人がなんとなく使っていてはだめ。ものはただで来るわけではない、全てはお金がかかっている。研究・教育に必要なものを使い手が明確化して図書館とシェアする必要がある
雑誌分析:世界最先端の事例
- Max Planck Digital Libraryでやっている例
- MPDLの購入タイトルにlibrarianがfeed backできるようになっている(MPは研究所がドイツ国内に散っているので)
- ElsevierのJでも、top10 titleで利用の20%を占める
- Big dealを脱したい!
- これくらい細かくやらないと出版者とは交渉できない!
周辺の話題
- IEEEの論文単位購読:350論文(unique. 同一論文の重複はお金がかからない)で年50万円、というような契約がある. NIMSフォルダが作られて、350 unique articlesが使える
- ただし購読をやめるとfolderへのaccess権はなくなる
- 論文のレンタル
- Deepdyve:24時間だけ閲覧可能
- いよいよ買えなくなったらレンタル?
まとめ
- 日本発学術出版者への要望
- オンライン版ライセンス料の設定根拠を(定量的に、説明を付して)明示して
- オンライン版ライセンスの契約内容の整備
- オンライン版の機能性アップよりも、まずやるべきことをやって欲しい
- COUNTER準拠のアクセス統計を常に図書館から見られるようにしてほしい。頼んだら見られる、というのでは他誌と比較できない
- IFは参考にはするが研究者の意見とは関係がないこともある
- Usage Factor(論文利用数/期間)は意識した方がいいかも
- 日本発学術出版者への提案
- 日本ならではの、日本らしいやり方を模索しては? 学会会員、研究者のサポーター
- lunch meeting
Marketing to Libraries: A Strategic Overview (Melinda Kennewayさん、Director, TBI Communications Limited)
自己紹介
- 学術出版の分野で18年、マーケティングに携わっている
- 仕事を始めた時は凄い若かったんです、と断っておきます(笑)
- うち13年はOxford University Publishingにいた
- 5年ほど前に仕事が変わった。これまでになく出版におけるマーケティングの重要性が高まっている。特に小規模出版者や学協会で重要性が高まっている
- 私が仕事をしていたのは比較的大きく、リソースも豊富でスタッフも揃っていた。しかし多くの学会にはそのような潤沢なリソースはないことも知っている
- そこで泣く泣くOUPを去り-いい職場だったので辛かったのだが-自分自身のビジネスとしてマーケティングコンサルタントを始めた。小さな学会が大規模な会社と同じようにマーケティングの知識等を身につけられるための授業
- それから5年たった。スタッフは7人と規模は小さいが、出版については小規模学会から大規模出版者まで、多くは非営利だが一部営利も仕事相手の中にはいる
- 本日はマーケティングの話をしに来ているが、これは出版者にとっては興味深い分野だと思う。そして多くの変化が迅速に起こっている分野でもある
- 今回、日本に来てすでにいくつも興味深いことを知っているが、日本ではsales & marketingという言葉を一つの言葉であらわしていると知った。私たちにとってsalesとmarketingは密接にかかわってはいるが2つの別個のものである。と、いうわけでTonyさんもsales & marketingとしているが、私はmarketing、Tonyさんはsalesの話をする。それを聞けばおのずと私の話がわかってもらえるはず。
- salesとmarketingの定義については色々ある。これから私の場合の話をする。
- 私にとってmarketingとは出版者の方に対して長期的な価値を生み出すもの。salesとは短期的な売り上げの機会を実現するもの、と考えている。出版者の中ではこういった2つの機能を分けて考える重要性が高まっている。リソースを短期的なsales、あるいは長期的なmarketingの一方に集中して投入してしまうと双方のベストなバランスが失われかねない。出版者にとっては両方とも必要。
- このような考え方はこれからの私のプレゼンテーションでよりはっきり理解してもらえるはず。
目次
- 出版者と図書館員
- 関係性も変わっていかなければいけない。今後10年を双方が生き残るために
- インテリジェントマーケティング
- 戦略的なマーケティングを取り上げる。従来の、プロモーション目的のような戦術的なものではない、戦略的なもの
- academic contentsのマーケティングはsimpleなこと。productがあり、価格がついていて、普通であればaudienceが1つあってそこにマーケティングするものである。
- 今は状況がもっと複雑に。複雑かつexcitingにもなっている。そこには今まで持っていたよりも多いさまざまな機会がある。私たちはもっと想像力にとんだ、クリエイティブな形でその機会を戦略的にとらえる必要がある。
- 受け手のグルーピングと、それぞれに製品を組み合わせてアプローチしたり、価格付けを変えたりしながらいかにして生み出された機会を最大限活用できるかを考えてみたい。
- これから話すことはすでに大手の出版者、営利/非営利にかかわらずほぼすべてがマーケティング活動として行っていること。それを踏まえて、より規模の小さい皆さんについても、自分たちがこういったアプローチをどうとらえられるのか、競合するにはどうしたらいいかを考えてみることは重要。
- 「どうやって」ということについては2〜3の答えをプレゼンの中で示せるかと思う。
- その1つとして私のお話する原則を考察して、それを自分たちの活動に適用できるかを考えてみて欲しい。simpleなレベルからでもそういうことによってmarketing活動に。
- 第2に、皆さんが仮に問題を抱えていたとしても、それは皆さんだけではない。より小規模な学会でも皆さんと同じ立場に置かれている。だからこそmarketing agencyの取り組みがある。ここでの課題は、個別の学協会・出版者がmarketingなりsalesなりを管理していくとすれば骨が折れるし、時間もかかるだろうということ。
- なので、学協会はaggregateすることがひとつの解ではないか? 将来的に考えて例えばコンソーシアムのような形でサービスについての交渉をしたりできるのではないか。
- これが向こう5年間の大きなトレンドになると考えている。今は学協会の選択肢は限られていて、大きなところに対抗するには大手出版者と契約するか自前でなんとかするしかない。しかしもっといい結果を学協会に生み出すような選択もたくさんある。惜しい。
- 「どうやって」ということについては2〜3の答えをプレゼンの中で示せるかと思う。
- 時間をかけてお話ししたが、これから行うプレゼンテーションに「でもリソースがない」とか思ってほしくはないため。今後5年間で起こるであろう競合状況を考えて話した。ここで問題となるのはグループとして、より大きな出版者と本当に戦っていけるのか、その方法を考えること。そうでなければより大規模なプレイヤーに伍していけなくなる。
- はじめに、「こういう世界を望むべき」という理想的世界の話をする。
出版者と図書館員の関係
- OUPにいたころを振り返ると、図書館員と話をしたのはOUPで働き始めて10年くらい経ってから。出版の代理店にいるものとしてはそれが現実。図書館員より読者・著者に関心がいってしまう。なので、大規模出版者でも図書館員やその職場を知ることは大変。一度に多くのことを学ばなければいけない。
- 確かに言えること:今まで以上に図書館員と直接お話しすること
- 谷藤さんのご発表は興味深かった。図書館員の仕事について知る良い機会。図書館員の役割が劇的に変わっていることを知る必要があるし、その役割を手伝うために何がひつようか?
- 図書館員はユーザがどのようなサービスを使ってもコンテンツを見つけられるようにしないといけない。
- 図書館にとっては問題でもある。「図書館」が全く見えなくなる
- この問題は多くの図書館員からも耳にする。所属機関に対して説明できなければいけない
- 図書館と言うブランドが今まで以上に重要になってきている。
- 出版者と図書館員はいずれもリスクにさらされいる
- 直接コンテンツをネット配信できるなら出版者・と。図書館の約役割とは?
- 究極的には出版者と図書館は同じ役割を有する:なるべく多くの読者にコンテンツを見てもらいたい
- これはOAのビジネスモデルでやっているところには特に重要。無料のコンテンツを見つけてもらい、使ってもらうことが重要。
- 図書館をコンテンツの売り先としてではなく、パートナーとして、協力対象として見るべき
インテリジェントマーケティング
- 大きな市場としての学術コンテンツの売り込み先がある
- Ringgoldという会社を是非、Googleで検索して調べてみて欲しい。世界中で学術コンテンツを購入している全ての機関を調査している
- 世界には20万の学術コンテンツを購入している機関がある。
- 市場や機関について分析するデータになる
- うち13万5千機関の調査によると・・・
- 重要なマーケットは北米、ヨーロッパ、アジア
- 機関のタイプ:学術機関以外に、企業・政府が最近伸びているというところもある。
- これだけあるグループに意味のあるようなコンテンツ開発にはどれくらいの予算を振り向けることができるのか?
- コンテンツ自体に投資できないなら、彼らに今あるコンテンツをより魅力的に見せるには何ができるか?
- コンテンツのメッセージだけでなくビジネスモデル、流通チャンネルの組み合わせになる
- 一つの例は特に北米で顕著な、病院という市場。病院の大きなトレンドは、テクノロジーを使って病院に情報を入れ、意思決定を管理しようというものがある。コンテンツはそういったプラットフォームを通じて利用できるような形になる。図書館の場合にはそういった意思決定、コンテンツ購読の意思決定はそういった形ではなく、プラットフォームのプロバイダが関わってくるのかも知れない。将来、病院に何かを売るとすればより小規模の限られた人たちである。
- 今後、5〜10年で機関タイプのセグメンテーションはもっともっと複雑になると考えられる。出版者の観点から考えると、どういった市場にどういった戦略を持って取り組むか決めると言う、非常に大変なことをしないといけない。地域や国ごとか、機関別に考えるかと言うことがいる。今は1つの市場に対して考えているだろうが、7年後には20〜30の戦略を分けて考えなければいけなくなる
- いろいろな機関、図書館を一つのグループととらえてはいけない。扱う製品等によっても変わるし、組み合わせも変わる。
- 「セグメンテーション」
- セグメンテーション
- 一つのコンテンツを複数の売り方をして市場浸透を図る等。従来の雑誌販売モデルに加え、法人向けや政府向けのパッケージや病院向けにアグリゲータにサービスをしてもらうとか
- どこから始めるか?
- 将来は?
- いったん顧客・市場についての情報が集まったら、それをもとにして高度な分析を行う発想が出てくるはず
- 統計的手法を用いて、どの機関ならばどういう値段でどのコンテンツを買ってくれそうか推測できる。このようなテクニックは著者や市場についてやってみた方がうまく機能する
- 現在の学術出版についてのマーケティングはこちらの方向に向かっている。対象は読者。
- OAの出版者にとっても同じように重要。
- 顧客についてグループ分けをしてみていただきたい/マーケットについての情報を提供するRinggoldのような会社を上手く使う/master visionのようなツールを上手く使うこと
- master vision: 顧客データベースをつなげるツール. 非常に細かく分析が出来るようになる。ある著者がe-mailで送った目次のどこにアクセスしたか等
- セグメンテーションにはかなりの時間と投資がかかるが、小規模の学協会でもできるものであるし、うまくいけばかなりの改善が望める
- それをするためにもデータを見直してみよう
- パイプライン管理
- <図を用いてインテリジェントマーケティングについて説明>
結論
- 出版者がマーケティングで優れているところ:良質のコンテンツの提供と、その受け入れられ方を理解すること
- 出版者のマーケティングで不十分なところ:市場を理解して適切な定義を行うこと、何をどのように提供していくべきなのかいまひとつ定まらない
- 大手出版者でも必ずしもうまくできているわけではない
- マーケティング活動の多くは戦術的
- 今日の話をスタートポイントとして、色々なことを考えるきっかけとなれば
- 今日ま難しいかもしれないので、明日からでもお持ちのデータを見ていただきたい
- リソース関連の話で言えば、マーケティング活動の50%くらいは時間の無駄になっているはず。今日のような分析を活用して、今うまくいっていないことはやめて、もっと結果が出るような、意味を持つような活動に作業を振り向けて欲しい
How to protect and develop sales issues for journal publishers in Japan(Tony O'Rourkeさん、Assistant Director, Journals, Institute of Physics)
目次
- IOPとは?
- 市場を理解し、どういうコンテンツならその潜在可能性を最も引き出せるのか?
- あなたのビジネスモデルは?
- コンテンツの国際性は? 世界中でコンテンツを販売するために現在どんなプロセスを用いている?
- 価格と成功の測定基準
IOPとは?
- 「イギリスの」物理学会
- 目的:化学的知識の発展を目指す物理学の促進と支援
- 世界中で活動しているが、主にイギリスで行っている
- 過去10年での大きな変化は途上国での経済的・社会的支援の実施
- 現在の会員数:36,000人。25%は英国・アイルランド外に居住。
- IOP publishingはIOPの完全子会社
- IOPの出版物:自前のものとパートナーのものの2つに分けられる
- IOP publishingについて
- 2009年の総売り上げは約6,000万ドル。Nickさんは大きいと言うが中規模だと思う
- 過去5年で2倍近くになった
- 2009年には30,000編の論文を出版
- そもそも出版者は投稿論文に基づいて出版している。2009年は10万編受け付けて、3万編出版。
- コストが上がった分を顧客に課さずに済ますには、内部のプロセスを効率化しないといけない
- 90カ国に顧客がいる
- お金を払っていない人も含めると120カ国に利用者がいる。
- 2009年の刊行タイトルは64。2000年は29タイトルだった。
- スタッフとリソース
- 2000年には2カ国・200人⇒2009年には6カ国・300人
- 国際的に成功するには国際化する必要がある
- IOP publishingのビジネスでイギリスが占める割合は10%に満たない。出版するものの中でも20%に満たない程度がUKからのもの。
- 2009年の総売り上げは約6,000万ドル。Nickさんは大きいと言うが中規模だと思う
マーケットを理解する
- 繰り返しになるが、国際的に成功するにはジャーナルの潜在可能性をきちんと理解する必要がある
- 実際、何人くらいの研究者がいるのか、研究者のグループ数は、何カ国にいるのか、どれくらい関心があるのか
- Ringgoldは機関のDBだが、個人について抄録・索引データベースによって検索することも可能である
- Chem. Ab., INSPEC, PubMed, Biomedical Experts (AIP UniPHY)
- 個人と機関、両方を見据えなければいけない。A&I DBとRinggold両方を見ることで全てを網羅した全体像をつかめる?
ビジネスモデルを明確にする
- 科研費が削減されたというのは、日本政府が将来的にここをどうやるかということだと思うのだが、ビジネスモデルの定義はそういうこととも確認
- ビジネスモデルを考えると、持続可能性がなければいけない
- 持続可能性についてはOUPのRichardson氏が昨年プレゼンテーションしていた
- 学協会出版者としては・・・費用回収だけでなく、剰余金から関係者にいかに資するかを考えることも必要
- 費用回収モデルは一番人気があるモデルだが、リスクも伴う
- 費用回収+剰余金モデルにもリスクは抱合されているが、費用回収モデルよりは低リスク(剰余金がリスクを多少吸収する)
- 「剰余金」≠「利益」
- あくまで今後の物理学のために再投資する、剰余金
- イギリスで剰余金が回されることが多いのは教員支援:イギリスとアイルランドで物理学を教えている先生(16歳以下の子供に対して)の3分の1は物理学のバックグラウンドがない
- 途上国での教育・研究の支援に回すプログラムもある
- あくまで今後の物理学のために再投資する、剰余金
国際化するには
- 答えを話すと言うよりは質問を投げかける形になる:皆さんのコンテンツはどれくらい国際的と言える?
- 経験知から言えば、国際的な雑誌で日本の占める割合は10%. それは投稿論文数でもそうだし、予算についても同様。
- 皆さんのtotalのうちに占める割合は? 同じように経験から言えば、USが30-40%, EUが25-30%, 日本が10%.
- 中国は最近伸びている。ほとんどの国際出版者が向こう5年のうちに中国からの売り上げが日本を追い越すだろうとしている
- 皆さんの雑誌がinternationalというなら、日本が占める割合は10%くらいであるべき.
- 今、皆さんのビジネスがほとんど日本だとしたら、残る90%が皆さんの潜在的価値
販売ルートを理解し活用する
- 日本には代理店の素晴らしいネットワークが存在する
- そういった日本の素晴らしい代理店が提供するサービスが、国際的にもサービスされると思わないでほしい
- 海外に向けてどう販売する?
- 直売? 誰かを仲介する?
- 具体的にやるにはどうすればいいのか?
- IOPが過去10年に成長したのはsalesとsupportに多大な投資をしたから
- regional managerを用意
- 専任の企業向け販売担当者も設置
- テレマーケティングへの投資
- まずは機会を見極めて、それをどう活用できるかを考える。そのためのスタッフを新しく雇うのか、外のサービスを使うのかの判断が要る
- 専任のリソースがあったとしてもお客様の大部分でthird partyを介しての販売が希望されることも
- エージェントを独占契約で使うことになったら:契約時に必ず目標を明確化して、達成できなかったらどうするかもきちっと理解しておくこと
- 専任のリソースがあったとしてもお客様の大部分でthird partyを介しての販売が希望されることも
- 代理店・・・日本の代理店が同じように質の高いサービスを海外でも行うとは思わないで
- ある会社がある地域で提供しているサービスを他の地域でも提供しているとは限らない
- 販売のやり方・・・内部でどれくらいのリソースを割り当てられる?
コンテンツを最大限に活用する
- コンテンツをどううまくパッケージングできるか?
- 分野別?
- だけではないはず
- 外部の力を借りる可能性もある.
- 今日来場の出版者でコンソーシアムに入っているのは?(2社くらい?)・・・非常に心配になってきた(汗) 皆さんは脅威にさらされている。如何に皆さんの雑誌が良くて、IFが高くて、国際的だろうと、どんなジャーナルであろうと図書館がその年にどうやって予算を使うか決める段階では後回しにされる可能性がある。図書館はまず「このコンソーシアムは払わないと」「このライセンスを」と決めていくので、コンソーシアムに入っていないジャーナルは「残った予算で買えるか」と検討されることになる。
- コンソーシアム契約は完ぺきではないし、むしろ受け身・防御的なもの。今あるものを守るためのもの。
- 新しいジャーナルにとってもコンソーシアムはあまりいいものではない。
- 例えば日本のジャーナル同士で組むとか、ALPSPの中でそれをやるとかを是非ご検討ください。なんらかの方法を考えないと、今の収益は守れなくなる。今まで購読してきた機関がこれからも購読を更新するための方法を考える必要がある。
- あるいは国際的な出版者と協力して自分のジャーナルをそれらのライセンスの中に入れること等を検討すべき
- アグリゲータに入れるのはいい策。今までにない収益を出せるし、エンバーゴをつけることも可能である。そうしない限りはコンテンツを買ってくれないような図書館からも売り上げを上げられる。
- バックファイルを創刊号からデジタル化しているところは? ビジネスモデルは?
- IOPでは2002年に全てをdigitalization. それにより図書館が求めるものを提供できる。図書館は予算に何が起こってもback issueについては永続的にアクセスしたがる。その対価として手数料を支払う準備が図書館にはあった。
- 世界の機関の中には例え無料で提供されているものでも、お金を払うと言うところがある。ある機関にとってはある種のコンテンツが非常に重要なので、安全性や永続性が保証されるならお金を支払うところもある
- archiveをdigitizeするためのビジネスモデルを作るべき。必ず後で回収できる。すでにしているところは、ビジネスモデルを見直してみて欲しい。コンテンツへの永続アクセスの保障を得たがる機関があるはずで、そういうところは手数料を払うと言うはず
- 他にも収益は生める
- pay per view:多くのthird partyにサービスを提供することも可能になる。
- article fees:持続可能性が重要になる
- まだこれらのモデルを使っている論文・機関は少数派だが今後は上がってくるはず
- NIHやWellcome Trustなど、immediate accessを求めるところもあればエンバーゴがあるところも
優先順位の明確化
顧客はあなたの雑誌をどう評価するか?
- 潜在力として何があるかを理解して、事業を長期的に持続可能な形で行うにはどうすればいいか理解しなければいけない
- 戦略的な目標(知名度/利益etc)に応じて提供すべきサービスを決める必要
- 誰が最良のサービスを提供してくれるのか? 優先順位を置いているのは? 顧客視点から見ていいサービスが提供されなければ評価は下がる。提供されるサービスが素晴らしいと思えば評価は上がる。
- IF? 北米・ヨーロッパではIFが一定値以上なら自動的に買うと言う大学もある。そこを顧客として捕まえることもできる。どうやって引用を増やすかを考えなければいけない。
- 向こう5年間で、計量指標の占める重要性はさらに大きくなるだろう。
- 雑誌が使われているかを尺度にするプロジェクトも増えてきている。 SUSHIプロジェクト等。SUSHIを使うと図書館は雑誌の使用率の比較が出来る。
価格設定
- 価格設定は科学(science)ではない。Arts。勘を働かせないといけない領域。
- 既に複数の学協会が導入しているが、マーケットや研究グループに応じて段階を設けた価格設定は導入されているだろうか?
- IOPではジャーナルには設けていないがDBには設けている。
- 実験をしてみることが要る。リスクはあるが、価格設定の際には市場に応じて違うものを設定してみるような、実験的な試みが必要。
まとめ
- まず市場の潜在性を理解する
- それからビジネスモデルの限界や事業上の期待されることを明確にする
- 国際舞台で成功するには自身が国際的でなければいけない
- sales channelを明確にし、明確にターゲットを定める
- コンテンツについてはそれぞれのマーケットに対し違う形のアプローチをすることで最大限活用する
- 優先順位を定義する。それによってビジネスが決まる。知名度か収益か
- 顧客の評価方法を理解する。社内の一人が顧客の基準を理解して、お客とのやり取りをどうすればいいか考えて欲しい
- 価格設定で大きな違いがもたらされることもある。悪い意味で違いが出ることもあるので注意してほしいが、特定の市場で実験はしてみて欲しい
- どのようなレベルのサービスを提供するかは明確に考えて欲しい、後にコストとしてはねかえってくる
成功への道に王道なし、ただ仕事をするのみ!
ディスカッション
- NIMS・谷藤さん:日本特有の問題として、学会誌が西洋に比べて情報格差で負けていると思うが。雑誌のサイズを問わず、JCR自体買えない。そもそも客観的なデータを手に入れるためのお金がない。どうしたらいい?
- Nickさん:一番最初の話を思い出してほしい。小魚が一緒に泳いでいる、と言う話。小さなところでも集まって協力し合えば今まで出来なかったこともできるはず。メリンダさんを雇ったり、Ringgoldと交渉したり、IOPとライセンス契約をしたり。当然、大きな出版者とやっていくこともできるが、小規模な出版者でやるなら出版者同士で協力することが今後の道では。
- Melindaさん:現実的な話で追加。例えば私の会社で市場の分析をする場合、5つの学会に対してやることと1つの学会に対してやることを比べたらどうなるか。その場合のコストは1つの学協会のためだけにやるとコストが5学会でやる場合のコストの130%ほどになる。
- Tonyさん:日本のジャーナルが外からどう見られているか意識する必要がある。多くの分野で日本の研究は世界でも最も先端を行く、ホットなもの。しかしその成果として、あまり国際的でないジャーナルはコンテンツを活用していないということになる。私の所属組織における掲載論文を断る比率は、日本の科学者からの投稿では却下率が低い。中国からだと高い。
- 永井さん:自分たちのジャーナルをまず、海外からどう見られているか。それを自分たちの目ではなく本当に海外がどう見ているかが重要と思う。それから、国際ジャーナルになりたいならまず自分たちが国際的であれというのは、当たり前のことだが大変重要なこと。日本は大変居心地がよくて、なんか幸せだった。ところがそうやって幸せに暮らしている間に世界は先に行っちゃって、取り残されてしまった。私たちは情報を獲得しようとすることもしてこなかったのではないか。
- NII・杉田さん:本日の構成は素晴らしかった、ありがとう。Tonyさんのお話を聞いて、やっぱりバランスが大事なのかと思ったが、学会さんと図書館が理解し合って、どこが自分たちのバランスなのかと言うのをクリアにしなければいけないと思うのだが、そのために協力し合えることはある?
- Nickさん:ハイブリッドモデルが一つの方法では? 午前中の「リポジトリは寄生している」という引用はフェアではなかったかと思った。彼は今、アメリカにいるのでいいが・・・。あのコメントは実際には非常にたくさんの数のリポジトリが、出版者が多額のお金をかけて作ったものを引っ張っておきながらお金を払っていない、という話。それが出版者の購読ベースのモデルに影響を及ぼさないならいいが、実際にはそこのところでお金を出さなくてもいい、出してもいいという分岐点にいずれ到達してしまう。そういう分岐点に到達し始めている状況だと思う。両者ともに協力をして、システムに対してアプローチしようと言うこと。
- Tonyさん:研究機関で今後5年でどんなリソースを買おうか、作ろうかというときに、根本的に方法が変わるのは間違いない。Journal of High Energy Physicsを例に科学者のプロセスも変わると言う話をしたい。JHEPは規模も大きく、IFも高い。年間800編以上の論文が載り、IFも5以上つく雑誌。しかしDL数は少ない。HEPのコミュニティ自体、雑誌を使っていない。そこでIOPと協力して課題を克服しようとした。フルテキストが読めるだけでなく、ユーザエクスペリエンスとしてより良いものを提供するにはどうすればいいか。通常、他の例でIFが5あって何百も論文があれば購読するはずなのだが、JHEPはコミュニティの方が購読したくないという形だった。TonyさんやMelindaさんが前提として考えるのは、質が高い雑誌でもそれが通用する時代ではない。色々な面でコミュニケーションをより良くしようとしてもいるが、機関リポジトリはpreprintとかweb2.0とかいろいろあるが、これによって査読の価値が損なわれるのではないか、雑誌が消えるのではないかと思える。Scientistの観点からすれば、なんらかの方法でコンテンツの質の評価が必要なはず。なくなるというなら何か新しい方法を。
- Nickさん:日本の出版について、皆さんは常に謝っている。外にいる私たちとしては喜ばしい、私たちの競合相手が手ごわくないということだから。皆さんのためのキャッチフレーズを考えている。日本の学協会出版に適切なキャッチフレーズを探そうと昨日、5時間Googleにかけた。うそ、2分くらい検索した。「これは」というのを見つけた。"Yes, we can." 皆さん組織だって始めてみてください。
な、長かった・・・(汗)
非常に内容の濃いお話が続いていたのですが、あえてハイライトするとすればやはりNick氏の、
小魚がサメのような大きな魚から身を守るにはみんなで団結して一緒に泳ぐような
一番最初の話を思い出してほしい。小魚が一緒に泳いでいる、と言う話。小さなところでも集まって協力し合えば今まで出来なかったこともできるはず。メリンダさんを雇ったり、Ringgoldと交渉したり、IOPとライセンス契約をしたり。
"Yes, we can."
これがやっぱり、興味深かったでしょうか。
付け加えるなら谷藤さんの
予算のほとんどは外国雑誌(75%)。国内誌2%のことを後でごちゃごちゃ言われても対応していられない。「長いものに巻かれれば」というのはそのため
というあたりが、さらに補強する要因にもなるかと。
「2%内部で協力しても・・・」*3とおっしゃる向きもあるかもしれませんが、2%がさらにばらばらに何かを言ってくるのに比べればまとまってきた方がきちんと対応する気にもなりますよね・・・とかなんとか。
そのほか、全般に本当に内容が濃いお話で噛み砕くにはもう少し時間もかかりそうな気もします(汗)
紹介されていたものでもいろいろ・・・USのラウンドテーブルの話とかも、読まなきゃと思いつつまだ読めていなかったりもするので、是非これから見ていきたいなあ、とか。