かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

「論文のオープンアクセスの動向 研究者と米国科学政策の立場から」:科学技術政策研究所所内講演会参加記録


7月に入ってからなんやかんやで2週間以上更新停止してしまっていましたが(汗)
科学技術政策研究所(NISTEP)の所内講演会、「論文のオープンアクセスの動向 研究者と米国科学政策の立場から」に参加してきました!

演  題: 「論文のオープンアクセスの動向」

  • 1.研究者の立場からオープンアクセスをどう捉えるか
  • 2.米国においてオープンアクセス化論議はどのように展開してきたか

講  師:

日  時: 平成22年7月21日(水)15:00−17:00

場  所: 霞が関ビル30階 3026号室 科学技術政策研究所会議室

講演概要:

 昨今科学技術情報流通に関して、論文のオープンアクセスというキーワードが頻出するようになった。論文誌の高騰問題や科学技術の社会説明責任など様々な要因を背景に、公的資金で行われる研究の成果が主である科学技術論文は無料で広く多くの読者に公開されるべきという考えに基づき、論文誌の論文の電子ジャーナルを無料公開にする活動が行われている。これまで、この論文のオープンアクセス活動について直近の当事者である図書館、学会、出版社の間では長年活発な議論が行われてきたが、政策面からの議論と、研究の主体である研究者自身が議論に参加することはまだ少ない。今回の所内講演会ではこの点に着目し、オープンアクセス活動を通じた将来の科学技術情報流通の在り方が変化していくことは不可避と考え、種々の立場からそれを考える機会としたい。

1.研究者の立場からオープンアクセスをどう捉えるか

氏が早くから行ってきた、セルフアーカイブなどを通じて自身の研究内容をオープンに公開する活動を通じて、論文のOA化が与える影響を比較的自由な研究者マインドに基づく実例と共に明らかにしていただきます。

2.米国においてオープンアクセス化論議はどのように展開してきたか

学術誌の高騰化の問題を解決し、学術研究の質を高めつつオープン化を進めるために米国ではどのような政策がとられて来たか、特に米国連邦政府による義務的なオープンアクセス化政策に関しどのような論議が展開されたかをご紹介いただきます。


講演概要にある通り、今回は図書館や学会の方メインではなく、「政策面と研究者」が主体と言うことで、いつも自分が参加しているイベントとは毛色が違い(参加者の多くの方は省庁関係の方だったとか)とても新鮮でした。


以下、いつものようにイベントのメモです。
例によってmin2-flyの聞きとれた/理解できた/書きとれた範囲でのメモですので、ご活用の際はその点をご注意願います。
お気づきの点等ありましたらコメント欄等でご指摘いただければ幸いです。


では、まずは日本化学会の林さんによる企画趣旨の説明からですっ。



「企画趣旨と概要の説明」(林和弘さん、日本化学会学術情報部課長/NISTEP客員研究官)

  • 論文のopen access
    • 学術電子ジャーナルへのアクセスの障壁を無くす=誰でも無料で見られるようにする運動
  • OAの背景
    • 論文誌の高等
      • 商業出版者の寡占化が電子化で加速、値上がりが図書館が買い支えられないレベルに
      • 商業主義から研究者に情報流通を戻そうと言う流れ
    • 政治:税に対する説明責任/大学の社会への説明責任
    • 思想・哲学:OSI*4などの知の開放・開かれた社会に関する哲学/産業系のopen innovationの考え・・・囲って小さな利益を得るより広めて皆で大きな利益を分かち合おう
    • 電子化、インターネット利用による情報流通のパラダイムシフト
      • 物流コストがかからなくなった
  • OA化の手段
    • Green Route:著者最終版を大学・政府系のリポジトリに掲載して無料ルートを提供する
    • Golden Route:雑誌自体をOA化する。掲載料や寄付・機関運営費で運営
    • 部分的OA:購読型雑誌に追加料金を払うと個々の論文レベルで無料公開される
    • 期間=エンバーゴ(公開後一定期間後に無料公開など)の有無がそれぞれに組み合わされる
  • 日本では?
    • 機関リポジトリの強化が一番進んでいる
      • 公開機関数、コンテンツ数ともに順調に伸びている。機関数ではアメリカに次いで現在、世界2位
      • コンテンツの内訳:学術雑誌掲載論文約24%、紀要44%であわせて70%弱がジャーナルに相当。あわせて94万のジャーナル掲載論文が公開されている*5
    • 第3期計画のフォローアップ⇒第4期科学技術基本計画にOAに関しても含まれている
    • J-STAGE搭載誌の結果的OA化(7割が無料公開)
      • 平成11年度から公開雑誌が着実に伸びる。現在600誌強
      • うちフリーが76%。結果的にOA
    • 一部の学会でOAオプション
      • ex: 日本化学会のChemistry Letters. 5万円でOA化*6。OAにすると2〜3倍のアクセス数の差
      • 世界的な傾向としてアクセス数には間違いなく差がある、とのコンセンサス
    • NIMS、日本機械学会などの完全OA雑誌
    • SPARC Japan*7DRF*8などによる啓発活動、学会・図書館の情報交流
  • 講演にあわせて専門家ネットワーク758人に質問・・・OAに興味はある?
    • 75%が興味がある、との回答
  • OAの課題
    • ビジネスモデルが成り立っていない
      • 購読モデルは利潤を還元で来ているがOAモデルは維持費すら賄えていない。投資のためのお金もないとじり貧になるので、ビジネスモデルの確立が必要だがそのレベルに達していない
    • クオリティの問題。トップジャーナルがフルオープンなことは少ない。
      • 雑多なものより洗練されたものへの要望も
    • 研究者の意識
      • トップジャーナルに興味があるのでOA化の有無をあまり気にしない
      • トップジャーナルは主要な大学では読めているのでOAをあまり意識しない
    • 旧来の枠組みで見たステークホルダーの利害関係の発展的解消・ないしは克服の問題
  • この講演会では・・・OAの行方を決めるのは図書館でも出版者ではなく研究者
    • 研究者は普遍的で無邪気でもあるが利己的でもある。研究者はOAでどんな利益を得るのか?
  • 一方で政治がOAの流れを決めるのではないか?
    • 研究者は研究費の出どころの決定には従う。米国の政策を見直せば得るところがあるのではないか
  • 注意:
    • 今日はデータのOAの話はしない。そのイベントは後日別に開催
    • 公的資金を得た研究成果の公開、というのは資本主義を否定するものではないのであしからず

「研究者の立場からオープンアクセスをどう捉えるか」(轟眞市先生、物質・材料研究機構主幹研究員)

  • 私は今年で46歳、中堅どころ
    • 光ファイバーの研究をしている。前職、大学院時代を含めても23年の研究歴
    • 弟子や部下はいない比較的自由な立場で関わっている。しがらみがないから無邪気であるのかも
    • あくまで一研究者の試み。OAに関するインセンティブは必ずしも高くはない
  • OAを語れるボスはいないのか?
    • OAが始まったのはBOAIを起源とすると2000年代に入ってから。研究現場にOA概念が入ってきたのは比較的最近
      • 論文が電子ジャーナル化したのが2000年を過ぎてから。電子ジャーナルがあってこそOAの考えが入ってくる
      • どの階層もOAに関する経験値がない。OAで良かった/悪かったが言えない
    • 論文の読み手・書き手で差はあるかも
      • ボスは自分の手で論文は書かない。弟子やポスドクの論文に指導
      • 中堅・若手は自らの手で書く。そうして書いた論文にインセンティブ、こだわりがあるのはこの層。だから若手の発表に意味がある
  • なぜOA推進派なのか?
    • インセンティブよりはイデオロギー面から推進したいと考えている
    • いわゆるフリーソフトウェアを用いて研究生活を過ごしてきた・・・「これだけいいものがただで使えることに恩返ししたい」
      • せめて自分の書いたものを世の中にフリーで提供しよう
  • これまでOA論文を何本書いたか?
    • 筆頭著者分で6本。まだ少ない
  • 今日の話の内容
    • 戦略的OA・・・どういう動機でOAにしたか?
    • ひとり歩き・・・理系の論文が文系の論文に引用されるようになった経緯
    • OA/not OA
  • これまでのOA論文・・・すべて単著/ファイバーヒューズ論文
    • 光ファイバーが光によって壊れる現象がファイバーヒューズ。これを研究している
    • 素人目に見ると面白いが、光ファイバーを使う企業にはものすごく嫌な現象
      • 回線が壊れる現象。インターネットの伝播容量が大きくなるときに、この現象が起こると設備に悪影響が出る
      • 光通信業界では火急の問題となっている
    • 2004年に超高速撮影でこの現象を撮影・・・国際会議に投稿
      • JJAP誌に投稿(その会議の論文が電子的に流通していないため)、後に選択的OA化のチャンスがあったのでOAへ*9
    • ファイバーヒューズの研究者コミュニティは非常に小さい
      • ファイバーレーザーの性能向上にあわせてファイバーヒューズも問題化、論文も増える
  • 2006.11末・・・ファイバーヒューズの動画をYouTubeに投稿


    • 翌日、アメリカから説明を求めるメールが届く
      • ビデオそのものは1年以上前に別のところで公開していたが、問い合わせした人には発見できず
      • アカデミックな情報流通だけにとどまらず、大衆メディアでも情報伝達は効果があるのではないか?
    • 2年後、当該動画のアクセス数が2ケタ伸びる
      • スペイン語の科学ブログでこの現象が紹介されてアクセス数が伸びていた
    • 2009年夏、皆既日食の日にアメリカらから1,000以上のアクセス
      • LaserFocusWorld.com*10というサイトで自動車エンジンのレーザー点火研究について報道
      • それをうけSlashdotで誰かがファイバーヒューズ動画を紹介、アクセス数増加へ*11
      • 畑違いの技術者にファイバーヒューズを知らせることがYouTube動画によってできた。大衆メディアのポテンシャル
    • 動画に自分のサイトのURLも添付。動画閲覧者の1%強がwebの閲覧へ
      • そのうち何人かはOA論文にも流れたのではないかと思うが、追跡はできない
    • 今もYouTube動画のアクセス数は伸び続けている
    • Google検索「fiber fuse」の結果
      • 10位以内に何かしら轟先生の業績がヒット、うちYouTube動画は5位で敷居が低くなっている
  • (以上を踏まえ)戦略的投稿の動機
    • 分野を問わず読んでほしい。そこでself-archivingが呼び水に
    • 当時は「ブログってなに?」という人がまだ多かったころ。その頃、タイムリーにWSで発表
    • 予稿集に投稿した論文が2005年9月に公開(非OA)
      • 公開3日後に海外ブロガーが論文をブログで紹介
      • 印刷体発行後にスイス・アメリカでも紹介するサイトが
      • ブラジル・オランダでも取り上げられる。Elsevierの雑誌内ダウンロードランクが2006年第1四半期で11位に
    • 一方、著者最終版を自分のwebにPDFでアップ。2008年10月にはScribdやNIMSのeSciDocにもアップロード
      • SA版へのアクセスは3年たっても読まれ続けている。もうブログは陳腐化したのになぜ?
        • 心理学や法律学の分野で引用されていたらしい。イタリアやトルコなど
        • 2004年当時のテクノロジーとブログの試みについての例として紹介されていた。社会系にはディシプリンによらず関連するものを引用する傾向があるため?
        • 轟先生の手を離れて一人で読まれるように*12
    • さらに和訳版も公開。英語だと日本人は読まないだろうと考え
      • 若い大学院生、社会人がブログで紹介
      • WSから3年たった2007年にWikipediaで紹介され*13、さらに言語学ポスドクブログに掲載される
      • 日本語版にも1年間で1000くらいのアクセス
  • さらに・・・若者の間で流行っている文献管理ソフトMendeley*14
    • PDFファイルを放り込むと文献管理DBを勝手に作ってくれる
    • 職場で作るとサイトにアップされて自宅で開いても同じものが見られる/利用者40万人
    • さらにMendeleyにどれだけの読者がついたかの統計も示してくれるように。どのような分野、国、職位にある人が文献を登録しているかが著者からも見える
      • 論文の流通が見える時代
  • というわけで・・・求められる中身があれば検索されておのずと読まれる
    • セルフアーカイブによって自力でそれを広げることもできる
  • 研究者はどういうことを考えて投稿する?
    • まずは認めてくれる読者層がいる雑誌へ投稿する
    • なるたけIFの高い雑誌に投稿したいが、論文すべてがクオリティが高いわけではないので内容に見合った採択率のあるところに出す
    • 費用負担の問題。自分のところで出すなら、妥当な費用負担があるところに出す
    • 付加価値。ビデオファイルが添付できることや速報性、反響の公表など
      • PLoS系の雑誌ではどれだけのアクセスがあったかも去年から公表するように*15。それも著者として気になる情報の付加価値と言えるかも
  • 私がOAを優先させる理由
    • ファイバーヒューズは境界領域。光通信に限らず関連領域の研究者、もしくは一般まで広げたい
    • 研究自体がビデオを添付できる媒体がふさわしく、それがOAでなければ意味がない。動画はコピーを取り寄せても見られないので、OAでなければマルチメディアの意味がない
    • フリーソフトウェアの恩返し
  • OA論文へのアクセス誘導
    • YouTubeのような敷居の低いメディアの活用
    • 関連・周辺領域の研究者には英語原著論文より日本語の総説・一般記事が有り難いし、それが原著論文へのパスにもなると思う
    • わかりやすさも必要になる。研究裏話の公表など
    • 自分のエトスの向上。プレゼンスの向上へ。研究を見てもらうには自分のところにまでたどり着いて貰う必要。そのために名声、実績、評判、IFで呼び寄せる
      • エトスを高める上でどれを優先するかは研究者個々のフィロソフィー。どういう戦略が一番プレゼンスを上げることができるのか、が研究者の行動原理
    • 届けたい読者層に発見され易い発表手段で。セルフアーカイブ併用も吉。

「米国においてオープンアクセス化論議はどのように展開してきたか」(遠藤悟先生、東京工業大学教授)

  • 米国国立保健衛生研究所(NIH)におけるオープンアクセス
    • 2004年にPubMed Central*16で論文の公開が始まる
      • NIHが支援した学術論文の査読済み学術論文の最終版。刊行後6カ月以内
      • 2005年に12カ月に期間を遅らせる
      • 2008年に義務的に提出させる法案可決、著作権法との整合性も取る
    • NIH助成論文の半分以上が提出され、1日に40万人が70万回アクセス
  • 立法府におけるOAに関する動き
    • アメリカCOMPTES法:2007年
      • NSFの最終研究報告書および研究論文の引用の全部または一部を速やかに公開すべき
    • 研究成果における公正な著作権法案:2008年
      • 下院法務委員会で提出・審議
      • 著作権法の観点からOAについて否定的な法案
      • 議会においてはOAについて否定的な意見もあることの例・・・審議未了(米国では審議未了・廃案の方が圧倒的に多い)
    • 連邦政府研究パブリックアクセス法案:2009年
    • 2010年にもパブリックアクセス法案提出
      • 査読論文を対象とする。著作権と整合ある形で、出来る学術雑誌に掲載された版を公開
    • 米国の著名研究者の動き:ノーベル賞受賞者41人の連名でパブリックアクセスを推奨する公開書簡を議会に提出
    • 下院科学技術委員会:2009年・・・学術出版ラウンドテーブルの設置
      • 2010.1に報告書*17
      • 大学関係者、図書館関係者、学会関係者、Elsevier、PLoSからの委員によって報告書作成
        • 査読の重要性が第一。
        • ビジネスとしての出版も持続させる形が念頭
        • 幅広いアクセス可能性を持たせるべき
        • アーカイブ化・再利用が基本的な理念
      • 具体的な提言:
  • 行政府における動き
    • OSTPによる意見募集*19
      • オバマ政権に代わったことを背景とする。Open Government Initiativeの推進、その理念とOAの一致/openに人々から意見を徴収する
      • OSTPによるブログの設置。そこで意見募集。9つの項目について2009.12-2010.1の間にブログに316件、メールで206件の意見が寄せられる
        • 図書館・出版者の意見が多い
        • メールの方では100件以上が賛成意見、20〜30件が否定的意見
      • メールによる意見の内容の例:
        • SPARC:図書館より。適切な時期に公開されることが人々の利益にかなう/版は著者最終原稿か、可能なら出版者版。エンバーゴは6カ月
        • IEEE:学術出版における査読・編集・出版・アーカイブにかかる投資の見返りはなされるべき。著者最終稿は掲載原稿と違うし複数版は認められない、著作権問題の解決がいる。エンバーゴは12カ月かそれ以上が望ましい。政府の関与は求めていない
        • 英国生物学会:(米国だけではなく海外機関、特に英国の学会はかなり敏感に反応)。査読の健全性と、著者が費用負担するモデルについても言及。
        • BioMed Central:商業OA出版者として。著者が資金を出すビジネスモデルは可能。民間商業出版でも政府によるOA化と矛盾は生じない、とする立場
        • American Institute of Biological Sciences:アメリカの一般的な学会の意見。OAに賛同を示したうえで、学術出版を崩壊させないためどうすればいいか。また、分野によって異なるのではないか?
      • ブログでの意見の例:個人が多い
        • Harnad:300強の投稿の中で数十件がHarnadの投稿。「無料公開すべき」と強く主張する人が先頭に立っている?
  • 民間及び他国におけるオープンアクセスモデル
    • PLoS:著者支払型のモデル。Harold Varmusらの呼び掛けをきっかけとする
      • 2000ドル前後の著者負担で論文出版
      • 金額については立ち場等で安くなるなど、配慮もある
    • arXivコーネル大学が運用するアーカイブ。物理、数学関係が多い。Creative Commonsを利用して再利用可能
    • 英国・ウェルカム財団:現時点でβサイトが公開されている段階
  • オープンアクセス化における論点:
    • 1.認識の共有
      • 国民の税金で払われたものが一部の営利に用いられることは許されない/当然無料であるべき、という理論
    • 2.質の確保に関する論議
      • 査読の議論
    • 3.学術研究活動組織の経営基盤に関する論議
      • どう査読を含む経営基盤を確立する?
      • エンバーゴ期間はどれくらいを設定するのがいいのか、が大きな問題
    • 4.経費負担
      • 著者支払いのビジネスモデルも含めさまざまなモデルを検討する必要
      • 加盟大学は少ないが、ハーバード・コーネルなどの"Compact for Open-Access Publishing Equity"*20.
    • 5.論文提出の義務化
      • 義務化しなければ意味がない
      • 研究者自身がNIHに論文を送付する形でどの程度、可能か?
    • 6.対象機関
      • 医学に関しては国民の意識が非常に高い。「自分の痛いところを治すためにNIHがなにかすべき」という考え
      • 他の機関にも強い要望はあるが、NIHについては特に米国独特
    • 7.著作権
    • 8.エンバーゴ期間
      • 特に社会科学分野では12カ月は短すぎる、とする学会も
    • 9.論文の版
    • 10.相互運用可能性、アーカイブ
      • ここで政府の役割がある?
  • ステークホルダーの観点から見た日米比較
    • 国の政策:
      • 対象機関:競争的資金と校費の区分が日本では色々あり、対象をどうするかが変わる?
      • 民間との関係:米国ならPMCと民間の支援、とかとなるが日本だとNII、その中のSPARC Japan、JST・・・
        • 昔の科研費の学術定期刊行物みたいなものとなるのかもしれないが、新たな課題となる
      • 相互運用可能性・アーカイブ化:日本でも検討の対象
    • 出版者の立場:
      • 日本には営利的な国際学術出版企業がない(ElsevierやSpringerのようなものがない)
      • 言葉の普遍性の問題。分野によっては日本語が多い/英語についてもIFの高いところにまず出す、駄目なら低いところ。高いところは欧米雑誌になりがち
        • 日本の学会誌の価値も含めてOAを考えなければいけない
      • 査読も含めた質の確保
      • もし国が関わるなら、エンバーゴ期間も検討することに
    • 大学図書館
      • 日米とも購読料の問題
      • 米国には多くの学部中心大学。多くは教養教育中心で政府のOA化に大きな議論
    • 一般の人々:
      • 納税者
    • 研究者はステークホルダーとしてどのような意見を持つ??
      • なかなか捉えにくい・・・学会に関心があれば学会の財政も含めた自立性に、図書館に関心がある人は無料公開に興味
      • 民間企業の意見もあまり拾えていない
  • まとめに代えて;我が国におけるオープンアクセス化の意味は?
    • 日本の学術研究をどう広めるか?
    • 学術誌、学会活動の活性化
    • その質保障にどう国が関与するか、国全体としてどう支援するか
    • 一般の人々についてどういうことが考えられるのか?

ディスカッション

講演者の発表に対する質問
  • Q:遠藤先生に。OAが望ましい方向性とは思うが、出版者からもっと反対がありそうなものだが大手の出版者の反応は? 強い反対をしない? 一部の有力雑誌は著者負担で成り立つと思うが、そうではない雑誌は成り立っていけるのか?
    • A:米国においてもオープンに議論されたのはOSTPのブログがいい機会で、メールで投稿した方ではElsevierも投稿していた。ここにはIEEEを出したが、ラウンドテーブルの報告書が中立的な意見になったりしたのはElsevierの意見が反映されている。他の学会についても意見は様々で、自分たちは苦労しているしOA化が進むと学会活動に支障をきたす、という意見も人文社会系を中心にある。一方で、納税者が公的資金による研究を一部の人の利益になってはいけない、との意見が強く、それに抗するような強い意見はなかなか出てこない。
  • フロア:アメリカの非営利の学会には反対している人もいる。学術雑誌での発表が価値のあるものとなったから、オープンにしろという話になった。BOAIでもfundingのないOAはありえないとされているのに、fundingが放ったらかしになっている。研究者には2つの面があって、まずアメリカの学会は出版によって資金を得ていてそこはおろそかにできない。NIHのパブリックアクセス方針には簡単には反対できなかったが、それは医学の分野だから他は動かなかった。NSFに広がるなら反対、という学会は多い。また、税金でやったから納税者にも、というのも全員賛成しているわけではない。論文に価値を与えているのは査読、査読者と著者と編集者が一緒になって論文を作っているので来たものをそのままオープンにしているわけではない。査読は無料でやっているから問題になっていないが、もしいちいち研究者にお金を払ったらえらいことになる。研究者は自分の活動をストップして人の論文を査読している。研究者はジャーナルの健全な運営に多大な貢献をしているわけで、税金=無料が当然、というものではないはず。一般の人はそのあたりをあまり理解していない。轟先生も言うように色々な人に見てもらうことは重要だが、それがpublishされたもの、質の高いものであることが重要で、最初の価値づけの部分、お金で換算できない部分が・・・ただ、それはアメリカでも苦しいので土壇場にならないと言わない。
    • A:おっしゃるような意見も多く見られる。特にブログで一般の人の意見も探したが、一般の人はなかなかそういう意見がない。
  • Q:実際に海外の論文の分析をしているが、無料化は有り難いと研究者も思う。さっきの、学会の経営面、論文作成についての経費負担の問題以上に、簡単に論文が入手できるようになると学会に入会するメリットがなくなってしまうのではないか? そういう不安感があるのでは? 例えば日本化学会でも最初からOA化をしていたわけではないと思うが、学会の人数はどう推移している? あるいは、著者がお金を負担するとなると5〜10万円払うとけっこうきつい気もするが、どれくらいの負担?
    • 林さん:日本と世界では議論のコンテクストが変わる。情報の質的保証、査読を担保するコミュニティのよりどころとしての学会の存在意義は揺るがない。「このジャーナルにはこのランクの査読がついている」というブランド力は維持されていて、その結果がOAなのか購読費モデルなのかが今後の持続性を占うことになると思う。会員数は漸減傾向にあるが、OAで減ったとは言い切れない気がする。後半は、著者の費用負担はおっしゃる通りで、ハイブリッドモデルを化学系では世界ではじめて始めたが、いまだに全論文の3%しか選んでいない。ポケットマネーでやるのは著者は躊躇する。研究費とは別に、欧米に既にあるように研究費と別にOAオプションの助成をすればいいのかもしれないが、それについては今も議論がある。
  • Q:実際にいくらかかるの?
    • 速報誌で5万円、本論文誌で4010万円*21
  • Q:それではコストに達していないのでは?
    • はい。1論文2,000〜3,000ドル貰わないと回せないと言われている。
  • Q:物理の場合はアメリカで原価2,000〜3,000ドル、それも査読で却下された分は全部ただ。現実はお金がかかる。本当は今も著者はお金を払っている。技術系だと20〜25万円の出版費を払っている。しかし購読料だけで費用をとれるようになると著者は無料で出せるようになって、それがさらに強いジャーナルは強く、弱いジャーナルは著者がお金を出さないといけないという差が出てきてしまっている。
  • Q:轟先生のファイバーヒューズの研究者コミュニティのお話の中で、研究の優先権を得るという意味では顔が見えるほど狭い世界はあまり問題にならないと思うが、小さいコミュニティの特性について教えて欲しい。
    • A:私の言い方が誤解を招いたかも。ファイバーヒューズ自体はOAだろうがなかろうが、国際会議に出てきたらその業界には知れ渡る。コミュニティの大きさの話は馴染まない。それを専門的に研究している人の数が少ないだけで、成果は皆知りたいと考えているが、OAはあまりされていない。ファイバーヒューズの論文でOAなのは2〜3報くらい。それでも光通信業界だけを考えれば問題ない。あまり出版方法には頓着していない。
  • Q:論文自体が数十本くらいの中でやっている、とのお話だったのでその少ない数だと、コミュニティの人は査読回ってきても名前伏せてあってもわかるかと思った。そういう狭い業界でOAってどういう役割なのか。
    • A:査読は必ず専門分野にマッチする人に回るわけではない。評価できるバックグラウンドがあれば回る。誰だかわかることもあるが、そうではないこともある。
  • Q:査読に限らず、OA全般に興味があったのだが、出来れば・・・
    • 林さん:僕の理解が正しければ、コミュニティが小さいと内輪受けに終わってしまうので、それをOAにすることで周辺にも広がってコミュニティをエンハンスする、そういうことにOAが役に立つのかも。境界領域は共同研究も進むので、自分がやっていることを積極的に出して共同研究相手を探すと言う。そういう意味でも、購読費モデルで囲ってしまうとチャンスの確率は減らすことになるのかも。もちろん有力研究者の間ではいらないかもしれないが、そうではないところでOA化の効果は大きいかも知れない。
  • Q:機関リポジトリの推進やSPARC Japanの運営に携わっている。科学技術基本政策の基本方針の中で機関リポジトリの充実や研究成果へのアクセス推進、電子ジャーナルの効率的・安定的な提供等の話があった。その中で、研究者はそれぞれの研究について内容や成果をわかりやすく発信すること、公的資金による研究論文は機関リポジトリに投稿し一般にもわかりやすい数百字程度の説明を添付する、ともある。これはまさに轟先生が何年も前からされていることで、そこに政策の方が追いつこうとしている。一方でジャーナルを出すことにはお金もかかるし、将来への投資も必要。査読も重要な要素である。何か一つを取り出して「こうすべし」と決めてもおそらく上手く行かないと思う。轟先生のような志の高い人を除けば、多くの研究者は英文雑誌の抄録を和訳化しようとはなかなかしないだろう。そうなると、論文の本数やIFだけじゃなく評価の在り方がそういうことに及ばないといけないのだろうし、公開についてもfundingが追いつく必要があると思う。諸先生方のお考えは?
  • min2-fly:関連して、遠藤先生のスライドの中で口頭では読まれなかった部分に、アメリカでは一般の人々が納税者として当然、論文を無料公開すべきという要望を持っているが、日本では強くないのではとのことだった。そう思われたのはなぜ?
    • (自分がディスカッションに参加していたのでメモはしきれず(汗) アメリカの例では議員を通じてのロビイング等もあったのに対し日本ではそういう動きが今のところ見られない、ということかと)
  • フロア:物理だけでも年間6万本、論文が出ている。それは真理を追究するためで、論文の中にはいっぱい間違いもある。それをただオープンにするのはどうなのか。arXivは高エネルギー物理ではじまった、そこでは嘘が書かれて騙されたら、騙される方が悪い。そうではないところでは、査読があったから信用で来ていたところもある。それを他の分野もすべていったん出たものは正しいとしてしまうと、まだ論争の途中で、時間のフィルタを通して決まるものを途中で公開することになる。専門家の中でやることと啓蒙することは、対象も違うし、信者は出来ても正しいことが伝わるかはわからない。Scientific Journalのフロントは正しいことを決めたわけではない。査読についてすら、正しいかどうかではなく出版して論争するべきか否かで決まる。そこのところは科学者同士は重みも利害もなく真理かどうかだけで評価し合う場所が重要で、それが査読。査読を通っただけのものを、判断できる能力もない人に、正しそうなアブストラクトを書いて宣伝することが果たして正しいのか。
    • 林さん:いわゆる理学系の研究について示唆に富んだ話。一方で医療系については市民からの声でパブリック・アクセスからの論点。非常に難しい議論があって、論文のオープンアクセスと言ってもその中の分野や国による。総論としてOAに反対と言う人はいないが、中身を議論するとこうしてディスカッションのコントロールに苦労している。そこの中で分野別にしろなんにしろ、研究者の自発的活動とそれを支える施策のサポート抜きにして次の世界はなさそうな気がする。
    • NISTEP・奥和田さん:今日の講演の仕掛け人。研究者や学会の人、図書館の人の間だけで話されている。米国のように科学技術政策の上でこういうことをやるべきかどうか、という議論にあげるべきことではないか。一段違うフェーズに持っていくべき。何故かと言えば、おそらくNIIの方がちょっとおっしゃったように、基本計画に書かれたかどうかを抜きにして、これからの科学技術の成果は納税者に対して「これだけのお金を投資したことになにかを還元する」ことを求められる。研究開発の成果の影響にまで言及するのは時間がかかるが、少なくとも研究についてはフィードバックするという、最初の成果還元の一つがOAなのではないか。そういう議論が日本ではされていないが、米国ではされ始めていることは認識すべき。一段上げるために今後、科学技術政策の中で議論する必要があるのではないか。そこで問題になるのは、特に学会に対する、今までの補助のスタイルを変えないといけない。あるいはfunding agencyのお金の付け方がこういうことに対応しなければいけない。質を上げるためにお金を使う形に補助するようにしないといけない。刊行数に比例して補助するようなスタイルから質の向上に行かないといけない。今日で結論を出そうとは思っていないが、日本でも早晩、そういう議論が必要になる。そう考えてこういう企画を実施した。
  • 林さん:ここは政策研なので、政策を軸に議論することに意味がある。今後、もっとステークホルダーを増して政策議論することも考えられる。




轟先生のお話は去年のSPARC Japanセミナーでお話されていたことともつながっていましたが*22、去年から今までの間にもさらなる展開があってますます面白く拝聴しました。
今回、件の動画をブログに貼ってみても思いましたが、最近ではオープンになっているものは他の媒体でもどんどん流通させる仕組みが様々出来ていますし、仕組みがなければ(ものはオープンなんだから)作ってしまえばいい、という風潮もあるわけで、公開から何年も経っても再び話題になって閲覧数が増える、というのも然りと思います。
オープンアクセスにしたり和訳も出したりすることで多くの人や異領域からの読者・視聴者も増えているということ、さらにそれをきっかけに引用して新たなコンテンツも生まれているということで、草の根的でありつつまさにオープンアクセスやセルフアーカイビングが目指す世界を体現されているのが轟先生なのでは、とすら思ったり。
マッシュアップも出来る場所(YouTubeScribd)にあるのが素晴らしいです!*23


とは言え、轟先生や、ディスカッションで盛んにご発言されていた電通大の植田先生*24のように自ら積極的に発言されたり、セルフアーカイブに励む研究者の方がそう多くはないこともまた事実。
ということで、そこで草の根だけではない政策の話と言うのが重要になるのだ、というのが今日の全体の構成の趣旨かと思います。
遠藤先生がNIH、OSTPを中心にアメリカでの政策議論についてご紹介下さいましたが、学術雑誌購読費の口頭にあえぐ大学図書館/研究者だけではなく、「納税者への還元」や「教養教育中心の大学からの要望」というようなところからもOAへの要請が高まって政策に反映される流れが出てきている・・・というのは今のアメリカの面白いところと前から思っていて*25
それを日本ではどうか・・・というところで、ディスカッションの中にあった第4期科学技術基本計画の中で一般への情報発信にも触れられ、さらに言えばそもそもNISTEPでこのような講演会が行われ関係省庁の方がたくさん集まっている現在、下地は既にあるのかな、と。


下地はありつつ、自分でもちょこっと発言しましたが、そして奥和田さんの最後のまとめにもありましたが、日本における「市民」の考えってのが・・・まあそもそも全く一般的な「市民」なんていないだろうとも思えますが、研究者でも学術情報流通関係者でもない方にとって、「納税者への還元」の要望がどれだけあるのか、ってあたりも今後興味深いかな、と。
機関リポジトリのログ分析やってる身として、一般の方がOAになった論文を良く使うってことはよーくわかってるんですが、一方で英語論文が全然アクセスされないとか、やはり分野によって違いもあるようだとか。
かつ、どの範囲までの公開を求めるのか・・・エンバーゴはあってもいいのか最新までみたいのか、でも最新みたって植田先生のディスカッションでもあるように最先端のことはまだ議論が終わっていないところなのに見れて嬉しいか、いやそれでも見たいという人もいるだろうとか・・・と、まあいくら考えても答えは出ないのでどこかで調べることが必要になると思いますが。


林さんのお話にもあったように今回の講演に先立って行われた調査では研究者・技術者のOA認知度は75%もあったとのことですし、OAが一部の熱心な研究者や図書館、出版者の間だけの議論ではなく、科学技術政策の俎上に上がってきていることは大変いい流れと思うので。
あとはここで図書館情報学者やこれまでOAに関して活動されてきた方の知見もうまく活かしつつ話が進んでいくと・・・かつ実践にもつながっていくとさらにいいな、とかなんとか。

*1:Budapest Open Access Initiative | Budapest Open Access Initiative

*2:Subversive Proposal - Wikipedia

*3:arXiv.org e-Print archive

*4:Open Society Foundations

*5:IRDBコンテンツ分析システム

*6:

*7:国際学術情報流通基盤整備事業

*8:http://drf.lib.hokudai.ac.jp/drf/index.php?Digital%20Repository%20Federation

*9:ipap.jp - このウェブサイトは販売用です! -&nbspipap リソースおよび情報

*10:http://www.optoiq.com/index/photonics-technologies-applications.html

*11:このお話の詳細についてはこちらの論文も参照:http://pubman.mpdl.mpg.de/pubman/item/escidoc:108043:2

*12:このあたりの詳細はこちらの論文も参照:http://pubman.mpdl.mpg.de/pubman/item/escidoc:198879:1

*13:実験ノート - Wikipedia

*14:http://www.mendeley.com/

*15:

*16:Home - PMC - NCBI

*17:Report and Recommendations from the Scholarly Publishing Roundtable | Association of American Universities(PDFなので注意)

*18:Office of Science and Technology Policy | The White House

*19:http://www.whitehouse.gov/administration/eop/ostp/public-access-policy

*20:Compact for OA Publishing Equity - Overview

*21:2010-07-22 日本化学会・林さんのご指摘を受け修正

*22:SPARC Japanセミナー2009 第1回「研究者は発信する:多様な情報手段を用い、社会への拡がりを求めて」 - かたつむりは電子図書館の夢をみるか

*23:例えばブログに貼って中身を紹介、というときの容易性でいくと機関リポジトリ等はまだまだなんですよねえ・・・ScribdやMyOAはPDFをダウンロードしなくても中身表示させるコードとか吐いてくれますし、やはりそっちも併用すべきかなあ・・・

*24:物理分野について主にお話されている方です。ちなみに植田先生も一昨年のSAPRC Japanセミナーでご講演されていました: 「研究成果発表の手段としての学術誌の将来」・・・SPARC JAPANセミナー2008に行ってきた - かたつむりは電子図書館の夢をみるか

*25:ごく個人的な意見ですが、イギリスってあまりそういう議論じゃない気がします。あっちはむしろ学術情報流通のコストをいかに下げるか、の方が強く扱われている感じが