かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

"Open Access to Science Information" - IFLAサテライトプレカンファレンス ハニア参加レポートその2(?)



'10 8/6 オープニングセレモニーの様子


前回に引き続き、8/6-8にかけて開催された(ってもう2週間前ですね!)IFLAサテライトカンファレンスへの参加記録です。

この会議はIFLA(国際図書館連盟)の大会(今年はスウェーデンで開催)にあわせて各地で開催されるサテライトカンファレンスの一つ。
IFLA大会自体、今年はオープンアクセスがテーマになっているのですが、ハニアでのサテライトカンファレンスはその中でも科学情報が主題と言うことで、自分たちのプロジェクトにぴったりかと思い投稿しました。
会場はこじんまりとしたところですが、南米を除く4大陸・20カ国からの参加があり、アジアからは自分たち日本の他にインドネシア・中国の方も参加されていました。まさにInternational。
発表者の所属も多岐にわたり、図書館員だけでなく出版関係者や研究者、自分のようなドクターコース在籍者もいて、発表内容も実践報告からより一般的な提案を行うようなもの(図書館員が如何にあるべきか等)、あるいは自分のようにより研究発表的なものありました。


前回は自分の発表のみの紹介でしたが、今回は他の方の発表の中で気になったものをいくつか紹介していきたいと思います。
・・・と、言っても自分の拙い英語力で、必死になってメモ取りながらだったので内容はいつも以上に不正確なところが多いと思いますが・・・(滝汗)
色々と差っぴいて読んでいただければ幸いです。




Open Access and Academic Library Public Services: Roles for Reference and Instruction (Laura Bowering Mullenさん、Rutgers University、アメリカ)

大学図書館のパブリック・サービス(主にレファレンスとインストラクション)にオープンアクセスを戦略的に取り入れる必要がある、という話。
サービスの前線にいるレファレンス・ライブラリアンにはオープンアクセスコンテンツの紹介など出来ることも多いし、インストラクション(講習等)も、オープンアクセスが普及すればそれについて教える必要がある。
「OAコンテンツを最大限、発見できるようなGoogleのスキルを教員・学生に伝える」役割、OAコンテンツと購読コンテンツをまとめて見せられるような役割を果たす、ということを考えると、オープンアクセスを図書館業務のあらゆる段階に統合していくことが重要。
レファレンス・ライブラリアンにも機関リポジトリ等を浸透させていくべきだし、そのためには、図書館情報学教育のあらゆる水準でオープンアクセスについても取り込むべきだ、と言った内容。
リポジトリ担当者等の一部の図書館員にとどまらず図書館全体にオープンアクセスを浸透すべし、というお話は興味深かったです。
質疑では、「既にいる図書館員をどう説得するのか?」という話が出ていましたが、そのあたりはやはり難しさを感じられてもいるようで、だから図書館情報学教育を変えることで新たに参入するスタッフから意識を変えていくことが良いのではないか、とか。

An institutional repository project as an organizational change vision in IRTA (Institute for Food and Agricultural Research and Technology) (Romaguera Xantalさんほか、IRTA、スペイン)

機関リポジトリに収録した文献の被引用数について、Web of Science、Scopus、Google Scholarでの状況を比較・分析してみた、という内容。
分析の結果、Google Scholarで見ると被引用はされているが、Web of ScienceやScopusではあまりされていない。
Google Scholarにだけindexされていて、WoSやScopusには入っていない、という文献からの被引用がけっこうある。
そのため、Google Scholarベースでみれば機関リポジトリによってビジビリティが向上したと言える、とのお話。
WoS等での被引用数が伸びない理由として、分析対象リポジトリはスペインの研究機関のもので、文献もスペイン語で書かれたものが多く、そのためWeb of ScienceやScopusにはそもそもindexされていない、というようなこともあるのでは、とのこと。
記述言語の問題は日本もしばしば話題になりますが、非英語圏はどこも抱えている課題ですよね。

Surabaya Memory: Open Access Digital Repository of Heritage Resources(Liauw Toong Tjiek (Aditya Nugraha)さん、Petra Christian University、インドネシア

タイトルの通り、インドネシア・スラバヤ市の文化資源に関するデジタルリポジトリ、Surabaya Memory*1についての発表。
古写真、絵、地図等のデジタルリポジトリの取り組みの話なので機関リポジトリ/科学文献についてのOAの話が多い中ではやや異質でしたが、「Surabayaの人々との協働を試みる」、「建築学や観光学、ホテル学の分野で教育にも活用されている」、「個人のノスタルジーだけでなく、本や新聞、観光地図の資料にするなど様々な用途で使われている」等、学術にとどまらない活用例の紹介もあり興味深かったです。
また、対象となる文化資源はしばしば個人のものであったりすることもあることから、収集のための戦略が重要で、その一つとして電子的なエキシビジョンだけでなく、踊りの再現や展示等のオフラインでのエキシビジョンが効果的である(そこでオーディエンスからポジティブな反応があることを見た人が資料を提供したりする)との紹介もありました。
Surabaya Memoryの評価向上が大学のWebometrics Rankingの向上にもつながり、"Silent marketing for university"になっているのだ、とも。

Developing a Repository: The Library’s Journey(Claire Bundyさん、BioMed Central)

前半は機関リポジトリを大学のマーケティングツールとして活用する利点などについての一般的な話。
業績データベースとして使える、そこに被引用数を併せて表示すれば研究評価にも、コラボレーションのツールにもなる、ダウンロード数の情報を活用、などなど。
しかしリポジトリの設置にも障壁はあり、フリーソフトであってもただより高いものはないかも・・・と続けて、BMCの商品の一つであるOpen Repository*2の紹介へ。
内製したリポジトリは技術の進歩に追い付けないで常に古いものになりがちだし、かえって有料でもOpen Repositoryを買う方がcost effectiveになることもある、とした上でOpen Repositoryの機能の紹介へ。エンバーゴ管理機能もあるとか。
会場でDSpaceのサポート業者の話とかすると「フリーなのになんで? 自力でできるでしょ?」というような反応を受けることもあったのですが、Open Repositoryについては皆さんどのようにお考えだったのでしょうね。

How to get a picture of the impact of copyright policies on the open access journals?(Assimina N. Vlachakiさんほか、University of Athens、ギリシア

ギリシア生命科学系の出版社・研究者を対象に、著作権に関する態度についてのインタビュー/質問紙調査を行った、という話。
出版社はセルフアーカイブは認めているが、OAに理解があるというよりは著作権の存在を意識していない。
研究者に対しては過去2回、調査を行ったが著作権への認知は低水準でとどまっていて、時間が経っても浸透していない。
ギリシア生命科学研究の中では著作権についての認識が浸透しておらず、また出版社は著者に対して十分な情報を与えることも怠っている、とのこと。
・・・このあたりの事情は大手国際企業以外はどこも同様なのですかね・・・

Open Access and STM Publishing, a publishers perspective (Michiel Kolmanさん、Elsevier、オランダ)

Elsevier(そういえばBMCとElsevierは今回のスポンサーでもあります)のVice Presidentの立場から、学術出版者の役割について。
Elsevierが目指すのは「質の高いコンテンツへの、持続可能な"universal access"」。
Elsevierの雑誌はオープンではないものもほとんどの研究者はアクセスできるようになっている、機関の規模の大小によるアクセスギャップはなんとかしたいと思ってもいるが、そもそも図書館の予算が少なすぎるんだ、とか。
Elsevierは"open access"より広い概念としての"universal access"を目指して、これから中小企業向けのサービスや医療系の学校の視野に入れた展開を行っていく。
また、患者向けには(患者自身の支払い能力の問題も考えて)医療機関に対してセールスしていくことを考えている。

Mapping the Intellectual Structure of Open Access Field Through Co-citation Analysis (Guleda Duzyolさんほか、Hacettepe University、トルコ)

オープンアクセス分野の文献を、Web of ScienceのCite Spaceを使って共被引用分析してみた、というお話。

  • OAに関する論文数は年々増えている
  • 文献単位でみると、Lawrence (2001)*3等がコアペーパー。
  • 著者ではStevan Harnad
  • 雑誌ではJASIST、Learned Publishing、Nature、D-Lib Magazineがオープンアクセス分野のコアジャーナル

なんとなくそうかなーとは思っていたけど改めてなるほど、と言ったところ・・・しかしそうか、雑誌だとJASISTがオープンアクセス研究のコアジャーナルなのですねー。
JASIST自体のOA状況は微妙なわけですが・・・LPも基本、delayed OAだし、完全OA雑誌はD-Lib Magazineだけか・・・

Managing content quality in an open collaborative environment: Health science articles on Wikipedia as a case study (Ariel Glennさん、Wikimedia財団、アメリカ)

Wikipediaの記事の質を如何にコントロールするか、そもそも質ってなんだ、そして質ってどうやればあげられるんだ・・・というようなお話。
今回のプレゼンの中ではやはりちょっと異質な発表でしたが、「査読済みの文献がオープンアクセスになれば、Wikipediaにコンテンツを足すのにも、編集するのにも使えるし、それによって論文が広く読まれるようにもなるので皆win-winだよね!」ということをおっしゃっていたのが、自分の考えにも近くて「おー、中の人もやはりそう思うかー」と興味深かったです。





'10 8/6 Coffee Breakの様子. 料理等はElsevierの提供でした


以上、min2-flyが拙い英語力でも辛うじて理解できた/面白いと思った発表ダイジェストでした。
繰り返しますがそもそも聞き取りスキルがないので(自分のリスニング能力は平均的な大学・学部生以下です。そもそも日本語でも他の方の話に集中できない性格なのに・・・)、誤り・聞きもらし等も多数含まれるかと思います。その点は請、御容赦。
その他にも、各国での機関リポジトリやオープンアクセス運動に関する取り組み事例の紹介などが多々あり、普段は全く情報の入ってこない国の状況も知ることが出来て興味深かったです。


全体を聞いての感想としては、「どこも皆似たようなことで悩んでいるなあ」ということであり、「みんな情報欲しがっているんだなあ」ということでした。
国際会議と言っても特に優れた取り組みを寄せ集めるというよりはそれぞれが情報を持ち寄って交換する、という感じの、アットホームな集まりであったということもあるのでしょうが、CSI委託事業報告交流会や、DRFワークショップ等で行われるどの発表であってもここで通じるだろうし、かなりの人は興味持って聞くのではないか、とずっと考えつつ聞いていました。
それで日本の側も得られるものは多いと思うし、オープンアクセスの理念的にも積極的な情報発信と交換(誰かが代表になってするんじゃなくて、それぞれがぽんぽん発信していくような)は歓迎されるもの・・・と思います。


しかしまあ、如何せん言語の問題と、あとは旅費の問題は大きいかもしれません(汗)
それと時間。
乗り継ぎの関係でハニア行くのに片道24時間かかりましたし。
「丸一日」って言って本当に丸一日かかったのは初めて見たわ・・・っていうか時差があるから実際は24時間以上かかっているんだけど・・・。


さて、真面目な会議参加記録はこのくらいにて。
次はクレタ食紀行をアップ出来たらいいな、とかなんとか・・・思いつつもこの更新頻度じゃ9月になってしまうか・・・?!