かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

"空間を考慮した知の構造化を考える:pingpong" "massiveなデータを語るべき言語そのものを作ることが理論、理解" "空間/動き/言語"(知の構造化センター「pingpongプロジェクトシンポジウム」参加記録(1))


昨日の予告通り、今日は東京大学知の構造化センター開催の「pingpongプロジェクトシンポジウム」に来ていますっ。

「動く地図をつくる」をテーマに、コンピュータ・サイエンスとデザインにおける境界領域を切り開いている知の構造化センター・pingpong プロジェクトが、2010年10月30日(土)にシンポジウム(一般公開)、10月31日(日)にワークショップ(参加者招待制・インターネット中継による公開)を開催することとなりました。


第1回目の開催となる今回は「 デザインと実験の間ー現実世界から/現実への〈変換〉」をテーマに、コンピュータサイエンス、ウェブ、ロボット、ARなどの世界を牽引する研究者・開発者を招聘し、実践の現場からのプレゼンテーションや、pingpongメンバーとのトークセッションを通して、デザインと実験の間から生まれる 創造と研究の今、そして未来を探ります。


pingpongプロジェクトについては自分も春日キャンパスでのワークショップに関係したり、共同研究をさせていただいたりなど関わりがあり、これまで当ブログでも幾度かとりあげてきましたが。


今回はシンポジウムとしての第1回目と言うことで、pingpongプロジェクトそのものについての紹介はもちろん、その関わりうる研究や理論、実践について様々な方を招いての講演+ディスカッションが行われています。


なお会場の様子は以下のUstreamで中継もされていますので合わせてご参照ください。


Twitterでのハッシュタグは"#pp007"です。


冒頭で「今日は」と書いている通り、このブログ記事を書いている段階でまだイベントは午前の部が終わって昼休みに入ったところなのですが、全てまとめてアップすると大変長くなりそうでもあり。
速報性を上げる意味でも、まずは前半のメモについて、例によってアップしたいと思います。


なお、いつもの通りこのメモはmin2-flyが聞きとれた/「理解できた」/書き取れた範囲の内容です。
2番目を強調しているのは、議論の濃さと展開の速さに理解が追いついていない部分が多々あるためです(大汗)
特についていけなくなったところは「Ustreamを見て!」と泣き言が入っていますが、それ以外の部分についても池上さんとMaroccoさんのお話しについては、かなり怪しい部分もあるかと思いますので、詳しく気になった方はぜひUstream(きっと録画公開されますよね?)などにてご確認下さい。
また、内容のミス等お気づきの点がありましたら、コメント欄などを通じてお知らせいただければ幸いです。


前置きは以上。
以下、まずは東大知の構造化センターについての紹介から!



開会のあいさつ(堀井秀之さん、東京大学知の構造化センター長)

  • 知の構造化センター・・・小宮山前総長が提唱した「知の構造化」概念の具現化を目的とする
    • 膨大なデータ・情報・知識に知の構造化技術を適用することで具体的な価値の実現へ
    • 岩波の『思想』構造化プロジェクト・・・100年分の『思想』をデジタル化、構造化、可視化する
      • それを思想史の研究者が見て議論することで新たな発見・価値へ
  • 今日のシンポジウム・・・空間の情報・データの構造化
    • 空間デザインの設計支援へ、というもの
  • センターとしては対象を広げることと行われるべき構造化について探っていきたい
    • 自己組織的な構造を支配する関係を見つけることなどが有益と考えている
    • 今日のシンポジウムは知の構造化の新たな発展の方向性を探るものと理解している

基調講演

「pingpongとは何か?」(岡瑞起さん、東京大学知の構造化センター・pingpongプロジェクトリーダー)

  • 知の構造化センターのミッションとpingpongプロジェクトについて紹介する
  • 大量の情報を構造化し価値や意志決定を実現する、という具体例
    • ex) iPhone・・・大量の情報にアクセスすることが可能
      • ふつうは検索して得たい情報を得たりする
      • 情報が見つからないこともある(これまで読んだ論文の全体像の把握など)
    • 日常的に大量の情報があり、電子化されている。それを構造化し、人が見ることで新たなひらめきや価値へ
  • 構造化って?
    • コンピュータを使って大量の情報を調べ、要素間の関係性を明らかにする
      • 例えば論文なら・・・論文を要素として参考文献を関係とし、ネットワークを構築する
      • そのネットワークを時系列情報とあわせて解析する
      • 関係性に注目した構造化により、時系列による分野のマージや分裂が見える
    • 関係性に注目した構造化を通じて、センターでは様々なプロジェクトを行っている
      • 対象データも様々
        • 雑誌『思想』100年分
        • 医療カルテ
        • Wikipedia等のweb情報
  • 空間を考慮した構造化を考える:pingpong
    • 空間を扱うことで構造を拡張する
    • ネットワークとしての構造化(要素間の関係性への注目)からシステムとしての構造化へ
      • システムとしての構造・・・個々のインタラクションや全体の機能から生まれてくる構造や、インタラクションから自律分散的に生まれる構造の仕組みを考える
        • 具体例・・・人を「賢いセンサー」として考える
          • 自由に歩き回り連絡し合う人を「賢いセンサー」と捉える
          • 人が発信するテキスト情報と位置情報を、地図のインタフェースを通じ構造化し、そこからわかることを空間レイアウトやデザインに生かす
          • 一例:「みんなの花粉症なう!β」(http://labs.nifty.com/beta/pollen/index.htm)・・・花粉症に関係する呟きをTwitterから収集、リアルタイムに地上にマップする。niftyと共同開発
            • 人をセンサーとして捉えて、得にくい情報を可視化する。しかしこの時点ではインタラクションから生まれる構造は捉えられていない
          • CITY 2.0・・・「動く地図」。人とのインタラクションから自律分散的に生まれる行為が街に与える影響を捉える
            • 街で行われていることを情報空間でも見て特徴づける
            • ばねモデルにマッピング、人々の体験を物理空間にマッピングする
            • 格子状に区切った表参道の地図の裏にばねモデルを動かす。つぶやきに応じて格子の中の領域が縮んだり広がったりする
            • 明治通り明治神宮前の交差点で人が呟いてたり、表参道ヒルズの裏の小学校近くで人が呟いていたり、が可視化される
            • 100年分のデータがあれば、人のインタラクションが街をどう変え、組織化してきたかが捉えられるようになるのではないか?
              • Twitterの情報から取れること・・・人が何に注目しているか、で街を捉えられる
          • 街の風景と人の欲望のインタラクションとして街を捉えること、構造化
            • 新しい構造化の視点になりうるんじゃないか?
  • pingpongメンバーの紹介でプロジェクト紹介の〆

「シンポジウムの目的とは?」(岡瑞起さん・池上高志さん、東京大学情報学環

  • pingpongに関わり出したのは今年の6月くらいから
  • 自分のバックグラウンドとからめてシンポジウムに至る経緯を
  • 今日は3つのポッドがある
    • 1.空間と動きと言語
    • 2.プログラミングとしての言語からネットのデータフローへ
    • 3.空間と時間をフォーマットする
    • この題を見てもわからないと思うので、バックグラウンドから話す
  • バルバシという人の最近の本・・・
    • これまでと最近での一番の違いは、今までと比べものにならないくらい複雑で大量のデータが集まっている
    • traditionalな学問とCSが離反するところ
    • これによってものの考え方が変わりうるか?
  • maximalismとminimalism
    • オッカムとレーザー・・・物理学はminimalなものを指向する
    • 最近のデータからの要求・・・maximalismが要請される
  • 自己組織化とエマージェンス
    • 自己組織的な人工細胞の作製、化学反応等はminimalなデザインから自律的に動くものが出来たりする
      • 本当にその自己組織化は生命にとって本質的か? 疑念を挟まざるを得ない
      • 20年もやっているが生命を作れないとの批判。自己組織化に重きを置いているのが間違いなのかも。何かが違っている?
  • デザインと実験
    • デザインと実験を考え直す必要がある? 自己組織化はなんのデザインもしていないし、実験的要素もいる
    • 自己複製に関するデザインを最初に考えたのはフォン・ノイマン
      • 簡単にはいかない。どういう空間でやるにも空間の制限
      • そこでデザインがいる。初期状態を考えたりするデザイン
      • 1ビットでも壊れると動かない。初期状態をきっちり作らないと動かない。自己組織化とどう折り合い?
  • 一方で・・・minimal theory
    • 理論とは何か? 大量にデータがあって、どう考えるのか、新しいことがはじまるといっても、人間は小さいものに落とさないと理解できない?
  • ばかでかいモデルを考えるか、小さいものをメタファーにするか
    • どっちかでやるのは簡単だが、今までにない理論や分かり方を考えないといけない時期
      • ムクドリの群れのデータを取っていた研究・・・群れのサイズに関わらず一個体性?
      • 自分の子供の1〜3歳の行動をひたすら記録したという研究・・・お父さんと子供が良く会う場所があり、子供はそこで相互作用により言葉を獲得していることが空間の軌跡からわかってくる?
      • massiveなデータを取ってくることでもののわかり方が変わってくるかも?
  • 理論とは言葉を作る、言語を作ること
    • massiveなデータを語るべき言葉を作ること。ソフトウェアかもしれないし違うものかもしれない
    • データを扱う言語そのものを作ることが理論
      • 言語を作ることが理解?
      • massive data flowに対してやるべきことは言葉と文法を作ること。言葉を作ることが理論
  • ポッド1:「空間/動き/言語」
    • 言葉(さっきの言葉ではなく自然言語)は空間とも運動とも関係ないと思われがちだが、そうではない
    • 言語は身体化されている。それを考えることが必要、というのがポッド1のメッセージ
    • 言語を考えるとき・・・objective, perspective, theory of mind
      • 世界の表象、世界との関わり方の表象、ヒトとの関わり方の表象
      • どういう風に世界を見るかが文法に反映されている
      • 表象についてLakoff(1990)・・・世界との関わり方から見ていく
      • 言葉は単に状況をあらわすのではなく、話者のperspectiveが成立させている
      • mirror neuron・・・猿に電極をつけて研究者がジェラートを食べると、猿が反応する。誰がやるかに関係なく行為に発火するニューロン
        • 脳の中にはものの使い方に反応するニューロンがある
        • 言語の起源について考えられる
  • ポッド2:プログラミングとしての言語からネットワーク上のデータフローへ
    • ルービックキューブ・・・やるとできないことはない
      • 今年の6月・・・どんな初期状態でも20手で揃えられることをコンピュータを用い発見される
      • そこで使われたアルゴリズムやプログラムそのものに意味がある
    • HashLife・・・途中から加速するシュミレーション
  • ポッド3:空間を変換する、時間を変換する
    • Twitterとかで「〜なう」と言うのが流行っている
      • 今に注目する世界
      • 万博の頃は未来について夢を語っていたが、そんなのはもう30年前?
      • 技術を使って芳醇な今を獲得するには?
    • The Long Now
      • 長い今を作ろう・・・長いスケールで動くものを作る技術やそれがあることが人の心に影響?
      • 時間・空間は所与のものでなく作るもの
  • maximalなデータに対して、理論を作るときに考えていること・・・
    • 言語そのものの設計。言語そのものの構造を取り込むこと。自律的なシステムの構成
      • そこに行くことでシステムそのものが具現化出来ているようなものを作ればいい、それが時間と空間の設計になっている
    • 時間と空間の様相に対して実験してデザインを作りこむことが世界の構造化
      • 大事なのはシステムが自律的なこと。全部設計するのはやめて、半分くらい設計して自律的なものを放り出して、それと相互作用すること
      • そういうことが1〜3を通じて理解できてくれば、これからの10年の理論の方向がわかってくればいい

ポッド1:「空間/動き/言語」

「Modeling the origins of communication with evolutionary robotics」(Davide Maroccoさん、Univ. Plymouth)

  • 進化ロボティクスを使って研究している。それを使ってコミュニケーションについて今日は話す
  • 我々がとっているアプローチについて
    • 行動は生命体としての創発的なものと見ることができる
    • 行動は身体と神経システムと環境の相互作用から生まれる。環境の中には主体も含まれる
  • センサー・モーター・コーディネーション
    • センサーからモーターがどう作られるか、モーターが環境に影響を与えてそれがセンサーに入ってくる、というつながりの中から考えないといけない
    • 主体の中でのセンサー⇒モーターへの変換とモーター⇒環境への影響、さらにそのフィードバックが身体を通じ理解される
    • 自然界にもよく見られる。ハエは触覚をセンサー・モーター・コーディネーションの中から作り出している
    • 問題として、コーディネーションまでどうやって作るのか
    • センサー⇒モーターへの変換を作ることが問題になる
      • そこで使う方法・・・進化ロボティクス
  • 進化ロボティクスを使ってコミュニケーションのある側面についてのシミュレーションを示す
    • コミュニケーションシステムは自然界にも色々あるが・・・その発生過程はよくわからない
      • 進化ロボティクスでコミュニケーションのないところからコミュニケーションを作り出し、その新たな側面を考えたい
    • ソーシャルなコミュニケーション行動と、餌をとるようなコミュニケーションに関係しない行動の関係性
    • シミュレーション・・・4つのロボットと2つのターゲットエリア
      • ロボット・・・赤外線センサーとターゲットを認識するグラウンドセンサー、コミュニケーションチャネルを持つ
      • 4台のロボットが2台のグループに分かれて、2つのターゲットエリアに入ることにrewardを与える。コミュニケーションにrewardはない
        • 行われたコミュニケーションを解析すると、5つの異なる使われ方をするシグナルがある
        • 出したシグナルによって行動を変えている
          • (min2-flyコメント:このあたりの詳細はustreamのスライド・デモ参照)
        • individualな行動とsocialな行動は独立にあらわれるのではなく相互に適用しながら出てくる
        • いったんsocialな行動が獲得されるとそれが個人の行動にも変化をもたらしうる
  • まとめ
    • コミュニケーション行動・・・最初は個人的な行動だけだったものが、コミュニケーションが出てくる。コミュニケーションが出ると行動も変わり、コミュニケーションとそれ以外の行動に別れてくる
    • コミュニケーションは生命体の振舞全体に対して影響を与えている
      • コミュニケーションが文化的・社会的なプロセスに影響を与えている?
    • 意味・・・外の環境にラベル付けされているものではない
      • signal・・・センサー・モーター・コーディネーションの経験の中にマッピングされている
      • signalのtypeと意味・コンテクストは相互に依存関係にある
    • 意味・・・2つのエージェントの双発的なもの

「言語と「私」の視点の前景化」(宇野良子さん、東京農工大

  • 背景:認知言語学とは?
    • 認知と言語を関係づける
    • チョムスキーは両者はばらばらに研究できる、と言ったことに対して出てきた学問
    • 特にものの見方と言語の関係を扱うのが得意
      • 例・・・議論を戦争に見立てる比喩。「君の主張を守りきることはできないよ」など。普通の文章であっても比喩は用いられる
        • 文は言語表現だが、議論を戦争に見立てるのは認知
        • 議論をダンスのメタファーにすれば表現とともに議論の見方、議論の仕方も変わるはず
    • ものの見方と言語は切っても切れない関係にある
      • 「見方」は持っている主体がいる。必ず誰かの、私の見方である
  • そこで「私の」に注目したい
    • そこで注目される文章・・・「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」(川端康成の『雪国』)
      • 「私」と言っていないのに主体の存在を感じる文章
      • 対象×主体、ということで外と自分込みの文章
      • 「語る私が前景化する」文章。「私の見方」を提示する文章
    • 日本語だけのものではない・・・英語でも主体の視点からの描写と客観的描写の違いはある。「me」がない方が私が前面に出ている
  • 宇野さんの研究紹介
    • 自然言語の新動詞の分析
      • 喜連川研のweb archiveのデータを使いながら共同研究
      • 新語の利用は「私の見方の前景化」と関係。聞くと、相手の視点を強く感じる。
    • ロボットのシグナルの分析
      • ロッコさんの研究を少し変えたバージョン・・・シグナル+相手の存在確認で信号する
      • ロボットの見方の前景化に近づく?
    • 人間が用いる人工言語の研究
      • コミュニケーションの為のコミュニケーションツール(プロト言語)の分析
      • 仲良くするために使うコミュニケーションツールを言語に見立てて分析
      • 伝えられるのは「私の見方」だけ。
      • 最初は粘土で予備実験・・・粘土を変形する⇒相手に渡す、の繰り返し
        • 計量化しにくいので、シンボルを使うように現在は変更
  • 実験概要
    • 3*3のメッセージを送り合う
    • 「メッセージを用いてコミュニケーションしてください」との指示。なんらかのタスクを解くわけではない
    • メッセージのやり取りが終わった後で、自分の送ったメッセージの意図や相手の意図の解釈を自然言語で書いてもらって分析
  • メッセージと解釈の例・・・ここはUstream参照
    • 解釈の2つのモード・・・ほとんど2つにわかれる
      • ダイナミカルモード:見えている図形パターンについてしか考えない
      • メタフォリカル(比喩的)解釈:@マークを人に見立てるなど、物語として解釈する
    • メッセージ本体は解釈のモードと相関するか?
      • メタフォリカルは動きが少ない、ダイナミカルは動きが大きい、とぱっと見で見える
    • 数理的分析:
      • 2人ともダイナミカル・・・動かし方が大きい、2人ともメタフォリカル・・・動かし方が小さい
      • 2人ともダイナミカル・・・同じ図形を繰り返し使うことがある、メタフォリカル・・・同じ図形は使わない
    • コミュニケーションする、と言われると一番簡単なのは単なる真似だが、退屈。その解決策が2つ
      • 面白い図を作る/とりあえずやり取りを物語として筋を通す・・・意外な手を返せる+1コマしか動かさなくてもコミュニケーションできる
    • 2人のモードが違うと?
      • 動かし方の距離はリーダーにつられる
      • 解釈のモードは違っても「私の見方」は伝わる・・・ダイナミカル×メタフォリカルでも、それぞれそれなりにコミュニケーションはつながる
  • まとめ
    • 「私の見方」しか伝わらないプロト言語でも複雑なコミュニケーションを作り出せる
      • 自然言語だけ見ていると「私の見方」の大事さがわからないが、実験で「私の見方」だけでもこれだけ楽しいコミュニケーションができるとわかる
    • 自然言語の発生でも「私の見方」が大きな役割を果たしたのではないか?

トークセッション(Maroccoさん×宇野さん×池上さん)

  • 池上さん:デブロイのやったような、massiveなデータを取り続けるようなアプローチ、宇野さんの話にも出てきたが、その中に立ちあがってくる構造として言語を見る、ということに言語学者はどう考える?
  • 宇野さん:massiveなデータがある場合に困る、というのは経験している。新語の話も少し紹介したが、言語学者が普通アクセスできないような大量のデータが自然言語処理の研究者と組むと手に入るが、従来の言語学ではそれをさばけない。こんなにあるのに、その一部を従来と同じ方法で分析することになる。データが大きくなったら言語学も大きなものを扱うように変わらないと行けなくて、その方法は模索しているところ。
  • 池上さん:チョムスキーの普遍言語はmassiveなものを捉えるのとは方向性が違う。pingpongとの関係で面白いのは、言葉と空間は無関係とみんな思いがちだが、お父さんと子供が出会うhotspotがあり、そこで言葉を聞くだけではなく、受け取りに行く、ということがある。どういう空間で、というのはチョムスキーは考えていない。だからこそ空間と時間。それと、言葉に意味はあるのか。言葉は情報伝達よりも使っていることに意味があるのでは。
  • 宇野さん:本当は伝えたいことがない、コミュニケーションのためのコミュニケーションと言うのはある。そういう時こそ空間というのが出てくる。言語でコミュニケーションをしたいと考えても、平板だとモチベーションがない。なんらかのコンテントがいる。hotspotはそういうものを提供してくれるものだと思うが、具体的にhotspotって部屋のどこ?
  • 池上さん:それぞれによって違うと思うが・・・
  • 宇野さん:話す内容は?
  • 池上さん:そこは書いてなかった。
  • 宇野さん:空間がコミュニケ―ションの理由を作ってくれるのではないか?
  • 池上さん:Davideは?
  • Maroccoさん:ローカルな場はコミュニケーションに凄い影響を与える。環境を共有して、そこで何かしないといけない、というのがコミュニケーションに影響を与える。
  • 池上さん:ふつうはちゃんとした文法があって現実の場だと壊れる、と捉えるだろうが、そうではなく普通にしゃべっているのが正常で、書き言葉が特別な状態なんじゃないか。少ない形で書かれた文法が理想、というのをやめよう、という。本当は理想的な文法はなく大きな流れがあるだけで、それをまとめたのが文法。人間の脳は実は小さいものを扱うことにはなれてなくて、もの凄い大きなものを扱う方が慣れているんじゃないか。言葉を簡単なルールから考えるのではなく、環境の複雑さを反映したもの、ガンガンデータが入ってくるのに対処するために言語がある、と考えるとものの見方が逆転できるのではないか?
  • 宇野さん:チョムスキーのように考える人ばかりではない。チョムスキーは例文を内製しているが、コーパスから分析している人は完ぺきな文はほぼない、ノイズのない文と言うのは幻想なんじゃないかという。それでも全体を縛るルールはあるように感じられて、そこをどう記述していったらいいか。池上さんはそこを獲得して行くようなソフトウェアを作ってそこからわかっていくということだろうが、それ以外に背後にあるのかないのかのルール的なものを理論化するにはどうすればいいか。ソフトウェアを作るしかない?
  • Maroccoさん:何もなかったらわからなくなる、なんらかの見方はある。
  • 池上さん:何かフロアから、もしも質問があったら。
  • フロア:analysisすると文法は出てくるがevery dayにはない、というのは90年代にも言われているが、どっちに行ってしまうのでもなく両方の間を行き来するのが大事といった。pingpongはその両義性の視点に行こうとするのか、それとも別の視点を提示するのか。客観はチョムスキー、主観はeveryday。
  • 池上さん:どこまで自然でどこから人工か、privateとpublicがどこに解消されていくのか。主観と客観はpublicとprivateの境界が変わることで変わるのでは。webと現実が混じり合い、publicとprivateがわからなくなる中で言葉も変わらないといけないのではないか。pingpongは、massiveデータを解析して落とすと同時に、落とす先も自律的なシステム。そこにプロジェクションすることでわかることがあるのではないか。両義性を失わない形で翻訳する装置。翻訳装置そのものが研究であり、科学になるのではないか。昔、インドでは自然科学がなくて言語しかなかったという、その一部に自然科学があったという話がある。広い意味での言語を構成することが複雑さを捉えることでは。pingpongは新たな言語、それ自身自律性を持った言語を作ることで・・・というプロジェクトでは。
  • フロア:日常の汚いコーパスとその裏のルール、という話を考える上ではピジンクレオールのような、文法のないコミュニケーションのための言語や、そこから文法を持ったものを自分たちで作ったようなものが重要ではないのか。汚いところから構造が生まれるのはmassiveなところから・・・というpingpongとも関係すると思うが。
  • 宇野さん:クレオールの場合、それを作る子どもはpingpongでどこに当たるか。pingpongが作る自律性のあるシステムがクレオールである、と考えると、通常の場合と違って、元の言語が出来てくるのは交易しなくてはいけない等の理由があるが、pingpongの場合は目的があるわけではなくただ出てくる。池上さんにうかがいたいが、今の話でpingpongが作っていくものは、動く地図が言語、クレオールになっているということだと思うが、それを作っているのはなんのため? クレオールはみんなが使えるものがないから混ぜて使う。pingpongはそれを原宿での人の振舞いとかを知るため? 岡さんに聞いた方がいい?
  • 李明喜さん(デザインチームmatt・pingpongチーム):言語というのは時間を作ることかと思う。空間は捉えられる、間違いなく捉えているという実感を持てるが、時間は捉えようがない。それを埋めるのが広い意味での言語、クレオールもそうだし、pingpongはそれを動く地図として時間を作ろうとしている。それが環境との身体性を持った言語、と思うが。
  • 宇野さん:今の話を聞いて思ったのは、pingpongがすべきことは動く地図を作ることではなく、動く地図を作るプロセスを自律的にやることでは?
  • 李さん:それは最初からそう思っている。動く地図を作るところは設計思想と変わらない。環境に放り込むことで動く地図を作るようなシステムを作ることが・・・
  • 岡さん:「動く地図」ってなんのことかわからないかも知れないが、先ほどの表参道のtweetを収集したものを反映したものを指している。で、私は作る場面からやっているので、「なんのために」というところにダイレクトに答えると、人と人のインタラクションがどう街を変えるのかとか、人の短い時間スケールと街の長い時間スケールのインタラクションを捉えたい、ということがある。皆さんの凄く難しいお話にちゃんと答えているのかはわからないが、私のものを作る観点からはそう。
  • フロア:面白そうだなと思うが、少し具体性に欠けていたのでどういったものが合うのかと思うと、例えばプロポーズするときに最適な素敵な場所を探して表参道を見つける。そこに彼女を連れていき、傍から見るとクサい言葉を交わす。大量のデータがあるときにそこから学ぶことはできるが、コンピュータサイエンティストとしての立場からすると、機械学習は間違ったデータを間違いとして指摘しないとコンピュータはわからない。しかし世の中の言葉は間違っているし新語もあるのに僕らは言語を学べる。それはくやしいが、チョムスキーが言うように頭の中に何かあるのかも知れない。話は面白いが、どうなんだろう?
  • 池上さん:前半の話については、kiss mapというのを今やっている。kissしている場所にハッシュタグをつけてtweetする。この間、造形の学長さんと話すと、行為が時間を作るのではなく時間が行為を作るのだ、と。時間と空間を触らないでやろうとするのがチョムスキーだが、時間と空間に触ってこそはじめて意味とかに触れる。所与のものとしてその上に規則が走るというのと、時間や空間が規則を作ると言うのでは違う。そこにトライしたい。どういうタイミング、どこで、というのが関係する。文章の言葉の意味は言葉にはなく、環境にあるのかもしれない。言語の理解が意味を理解することだとするなら、空間や時間に意味があって、言葉は後付けなんじゃないか、ということ。
  • フロア:空間と時間に言語が埋め込まれていることは賛成。




前半のメモは以上!
繰り返しますが、特に池上さんとMaroccoさんのお話部分については普段のこのブログのメモの精度の3分の1くらいの精度ですのでご了解願います。
池上先生のお話、内容超濃いったら。


では、後半の記録作業に戻ります(前半の感想等は後ほど追記する、かも?)
後半については早ければ明日中、遅くても月曜日くらいまでにはアップできるようにしたいと思います。