「大学からの研究成果オープンアクセス化方針を考える:ハーバード大学、レディング大学、北海道大学を事例に」(国立情報学研究所 国立大学図書館協会 共催シンポジウム)
すっかりイベントレポート掲載ブログとなっている当ブログですが(今更か)。
昨日は東京大学で開催されたシンポジウム「大学からの研究成果オープンアクセス化方針を考える」に参加してきました!
国立情報学研究所および大学図書館では、平成17年度以来、機関リポジトリの構築による教育研究成果のオープンアクセス化に努めてまいりました。その結果、現在日本で機関リポジトリを持つ機関数は180を超えるなど、一定の成果を収めています。また、SPARC Japanの取組みなどにより、オープンアクセスジャーナルへの関心も高まりつつあります。
一方、第4期科学技術基本計画の策定に向けて、「科学技術基本政策策定の基本方針」(総合科学技術会議・平成22年6月16日)には、機関リポジトリの充実や研究成果へのアクセスの容易化、学術情報のデジタル化やオープンアクセスの推進等が盛り込まれ、これらの施策は政策的にも重要な位置を占めつつあります。
今回のシンポジウムでは、世界に先駆けて、研究者自らの発案で研究成果のオープンアクセス方針を決定したハーバード大学を始め、国内外の最新の事例をご報告いただきます。研究成果の公開促進の意義と課題について議論する場といたしたく、関係者各位にはぜひご参加くださいますよう、ご案内申し上げます。
ハーバード大学と言えば教員からの働きかけで文理学部を皮切りにOA方針が立てられていっているところであり、興味がおありの方も多そうなイベントでしたが、当初(研究者以外は)1機関1名のみ参加可、となっていたことの影響か意外に会場が満杯、ということでもなかったようです。
しかしお話は色々と刺激的でした・・・ってことで以下、いつものように記録です。
間に休憩をはさみつつ、5.5時間にわたるイベントだったので全部まとめてアップすると「長い!」と突っ込みを受けそうでもあるのですが・・・(汗)
とはいえ途中で区切るにも、という感じであるのでまとめてアップします。
例によって例のごとく、min2-flyの聞きとれた/理解できた/書きとれた範囲でのメモであり、かつ今回は研究室で7時間ほど作業をした頭でそのまま参加しているので抜けも多いかと思います。
公式の記録は後ほど、主催者側でアップいただけるとのことですので、あくまで非公式・速報版程度のものということでご理解いただければ幸いです。
誤字脱字、誤り等はコメント欄等でご指摘いただけると助かります。
では、まずは東大附属図書館・尾城さんによる「オープンアクセス序論」から!
オープンアクセス序論:概況報告(尾城孝一さん、東京大学附属図書館情報管理課長)
オープンアクセスとは
- 定義・・・色々ありうる
- ここでは:査読済み論文に対する障壁なきアクセス、とする
- Budapest Open Access Initiative*1の考え方に則る
- ここでは:査読済み論文に対する障壁なきアクセス、とする
- OAの背景
- 商品としての学術論文の特殊性
- 研究者はなぜ論文を書くのか?
- 経済的な利益を求めていない(図書とは違う)。図書は印税が入るが、学術論文は多くの人に読んで引用して貰うことで研究者としての地位につながる
- 論文の流通性を高めるにはOAが適している
- 雑誌の危機
- 出版社の市場独占
- 購読タイトル数の減少とさらなる価格上昇
- そこから抜け出すための手段として、図書館・研究者からOAを求める声に
- 電子化とインターネット
- 紙の時代に比べて出版コストが大幅に下がる
- コストの面からOA実現可能性が生まれる
- 納税者の権利主張
- 商品としての学術論文の特殊性
- OA前史(ルーツ)
- 1991 GinspargによるLANL preprint archive(現在のarXiv*2)
- 2002 Budapest Open Access Initiative
- はじめてOAの概念を明確に規定する
- OAという用語も一般に広まる
- OA実現の道
- 1.セルフ・アーカイビング
- 2.OA雑誌の刊行
- いわゆるゴールド・ロード
- 雑誌自体を無料で読めるようにする
- コスト回収のビジネスモデルが必要になる
- 今のところは著者が支払う出版料によって成立させるモデルが主流
- 掲載全論文をOAにするモデルと、著者が自分でOAにするかどうかを選べるハイブリッドモデルがある
- DOAJ*3によれば・・・現在5,600を超えるOA雑誌が存在
OAをめぐる海外の主な主題
- OAの制度化・方針策定の現状
- SCOAP3*8
- 高エネルギー物理学分野のジャーナルのOA化を目指した運動
- 従来の購読モデル・・・購読契約を結んでいる機関の研究者しかアクセスできない
- SCOAP3のモデル・・・図書館等の購読費を集約して、出版コストにあてる/それによってコア・ジャーナルのOA化を実現する
- 新しい雑誌費用負担モデルの1つ
- 6つの雑誌、高エネルギー分野の90%をカバーする予定
- かかるコストは約1,000万ユーロ
- 著者数の国別割合に応じて各国が負担しよう、という提案
- 日本・・・全体の7.1%、日本円で約8,000万円の出資金(年間)
- 現在までに全体のコストの7割は確保の目途が立っている
- 出版社・学会の対応
- セルフ・アーカイビング対応
- オープンアクセス雑誌
- ハイブリッドモデル(著者支払選択型)の採用が増える。大手はほとんど採用
- 完全著者支払型を始める商業出版社も増えてきた
- 一見、出版社も前向き?
- OAの風潮にくぎを刺すことも忘れていない・・・ブリュッセル宣言
- 安易なOAに反対する声明
- OAの風潮にくぎを刺すことも忘れていない・・・ブリュッセル宣言
OAをめぐる日本の状況
- 日本のリポジトリの状況
- 国内学会誌の状況
- JStageの671の雑誌の7割以上は無料でアクセス可能
- 日本機械学会は全面的にオンラインのみのOA雑誌を展開
- ハイブリッド型OA導入学会多数
- 人文社会系でもOA雑誌の創刊が始まっている
まとめ
- 主観的な状況認識:
- OAはこの10年でますます多様化・全体的な流れはもう止まらない
- OAを成立させるコスト・費用負担のモデルは試行段階。安定的な・確立したモデルはない
- OAは今のところ商業出版社主導の学術情報流通システムを変革するに至っていない
- むしろ大手の出版社はOAへの適応を進めている
- OAを収益構造にうまく取り込みつつある?
講演1:"The Harvard Open-Access Policies"(スチュアート・M・シーバー先生、ハーバード大学 Welch Professor of Computer Science / Director of Office for Scholarly Communication)
- OA方針がいかに必要なのかを、ハーバード大の経験についてお話しする
- はじめに学術情報流通分野の問題を、その後にその機能不全を解決するために取り組んでいる方針について話す
- 方針は2つ:アクセスの問題についての短期的方針、ビジネスモデルについての長期的な方針
目標
- 各大学、色々な目標はあるだろう
- ハーバード大学文理学部の場合・・・
- 学術的な思索、思想について可能な限り最も広範な普及を目指す
- 可能な限り幅広いアクセスということで、大学の研究成果についてのアクセスがあることは重要。可能なら、完全に自由なアクセスが望ましい
- 出版サービス
- 伝統的には大学の研究成果は印刷されたものを、出版社を通じて手に入れる
- 出版社はその他にも様々なサービスを行う
- 査読、フィルタリング、出版の許可、製作、配布・・・
- これらは必要不可欠。経済的に持続可能な方法で続ける必要がある
- 出版社も可能な限り広範なアクセス、に協力するものである
問題
- 今までを振り返ると・・・学術出版のシステムにはシステム的な、根深い、不完全な点がある
- その具体例をこの後で示す
- 「幅広い」アクセスに対する問題の「症状」
- 過去十数年、あるいは数十年にわたる雑誌価格の高騰
- インフレ率の数倍、という状況
- 「雑誌の危機」をもたらしている
- 一般的なインフレ率と雑誌に対する支出の乖離はどんどん広がっている。インフレ率の数倍の価格上昇がずっと続いている
- 指数関数的な雑誌価格の伸びが永続的に続くはずがない。どこかで妥協点が出る
- 結果として・・・・図書館では書籍のコレクションに回す分が減る/雑誌購読タイトル数が減る
- 比較的潤沢なリソースのあるハーバード大学ですら、この問題の影響を受けている
- 過去十数年、あるいは数十年にわたる雑誌価格の高騰
- 雑誌のページあたり単価
- システム的な機能不全のもう1つの説明
- 雑誌の刊行費用が上がり続けている? との疑問への回答
- 商業出版社と非営利出版(学会)ではページ単価が6倍も違う
- 雑誌の引用あたり単価
- 商業的な学術出版者は非営利出版より良質な雑誌なのか、ということへの回答
- 商業出版社の雑誌の引用あたりの単価は、非営利出版よりも16倍高い
- ここまで価格が違うとはどういうことか?
- Andrew Odlyzko:「市場そのものの機能不全を示している」
- 何か全く上手くいっていないことがある
- その機能不全の副作用は、研究者であれ一般人であれ、より少数者しか研究成果にアクセスできない、ということに
- アクセスを取り戻すには、システムの中で起こっている問題を解決する必要がある
- この状況への対応:2種類の方針
- 短期的な問題解決策:アクセスの問題
- 長期的な問題解決策:市場そのものの解決。各大学がなんらかの方針を出す必要
- はじめは「そのような方針がうまくいくのか」という懸念もあった
- Andrew Odlyzko:「市場そのものの機能不全を示している」
- なぜ機能不全が起こっているのか? 根底にある理由とは?
- 1.出版社が売っている対象は「アクセス」である
- アクセスの提供のみにお金を請求できている
- アクセスの権利の販売は著作権法を通じ、独占的に売れる、ということに基づいている
- アクセスは独占的に所有され、価格競争にさらされない
- 2.いわゆるモラル・ハザード
- 消費者がモノに対してのコストを負担しなくて良い場合、過剰消費が起こる
- 例えば一般誌の通常の購読なら・・・消費者=購読者=購買者
- 購読者が出版社にお金を支払い、その見返りに出版社はアクセスを許容
- 一方、学術雑誌の場合・・・購買者=図書館、消費者=学生等≠購買者
- モラル・ハザード。弾力性のない需要が発生し、ハイパー・インフレへ
- このハイパー・インフレが今の現状
- 1.出版社が売っている対象は「アクセス」である
短期的方針:学部ごとの権利保持オープンアクセス方針
- ここまでで問題と根本原因を話した
- ここからはそれをどのような方針によって緩和し、よりよい方向に持っていけるのか話す
- まずは短期的な戦略=今起きている状況にのみ対処するもの
- OA方針の規定・・・3つの主要な部分からなる
- 1.許可:教職員は大学に、自身の論文の流通に対する許可を与える。非独占的、非商業的かつ譲渡可能なライセンスとして渡す
- 著者に権利を戻すこともできる。著者は必要に応じて自身の論文を流通させることもできる
- 2.権利放棄:この方針によって著者の権利が損なわれることはあってはならない。著者の任意の判断によって、どんな論文に対しても権利放棄ができる
- 1番目は大学への作業委託、2番目は権利放棄
- この2つ両方に関して言えるのは、著者が権利を保持し続けるかどうか選択できる
- 従来との差・・・デフォルトの状態が違う。方針以前は、著者は出版社との交渉に「入る」と明確に意思表示しないかぎり、論文についての権利を保持しない
- 方針以後・・・「放棄をします」と言わない限りは権利は著者にある
- 3.デポジット:大学に対してライセンスしたものを十分に活用できるよう、自分たちの論文を教員はハーバードの機関リポジトリにデポジットする
- 1.許可:教職員は大学に、自身の論文の流通に対する許可を与える。非独占的、非商業的かつ譲渡可能なライセンスとして渡す
- 権利保持OA方針の採択
- この方針の利点(重要性降順)
- 1.原則についての集団的意志表明・・・大学の成果への幅広いアクセスを支持する
- 2.権利の状態を完全に明確化・・・すべての論文の権利の状態を明確化できる
- 方針の中で大学・著者の権利保持が明記されている
- 権利放棄を行う場合は明確に意思表示される。その種の論文は権利状態をトラッキングして、認められている権利を明らかにできる
- 3.大学の論文のデポジットプロセスの容易化・・・より簡単にリポジトリへのデポジットができる
- 4.大学に集団交渉を許可・・・大学が教職員全体を代表できる。全教職員が論文についての権利を持つため
- 5.オプトアウト対オプトインによる、権利保持の増加・・・イン⇒アウトに移行することで、権利保持を増加させる
- オプトアウトにすると、教職員の元来の怠慢さを活用できる。楽な方法をとると権利保持の増加につながる
- 新たな方針の適用以後
- この方針がしないこと
- ジャーナル出版の代わりとなることはなし
- 出版社に提供されるサービスは今でも必要
- ジャーナルの存在を脅かすこともしない
- なにも影響を与えていない
- 雑誌にとってかわるものではなく、ジャーナルが提供するアクセスへの補完である
- 根本的な市場の機能不全に対処することはしない
- 根本的な問題は購読ベースでの出版から生じたこと
- ジャーナル出版の代わりとなることはなし
長期的方針:持続的なビジネスモデルのサポート
- 短期的なアプローチはアクセスの改善に対処するためのアプローチ
- コミュニティとしてのアクセス改善のアプローチ
- 対して、長期的なアプローチ・・・違ったビジネスモデルを模索する中で取っているもの
- 購読料ベースの学術出版の生み出した市場の機能不全に左右されないもの
- 従来・・・大学が出版社にお金を払い、出版社は読者にアクセスを与える
- 代替モデル・・・ゴールド・オープンアクセス=OA雑誌
- 出版社にはアクセスのためではなく、サービスのために料金を払う
- 大学が出版社に払うのではなく、著者=教職員がOA出版社に支払いを行う
- ここでは教職員は読者ではなく著者になる
- ここで1つ問題・・・著者としては刊行費用を負担することに。1,000〜1,500ドルを支払わなければならない(従来は著者は何も払わない)
- 解決策は明白・・・大学が刊行費用を払う。アクセスの為ではなく、刊行コストのために支払う
- これは新しいアイディアではない・・・Roger Nollによる先行研究(1996)
- 出版システムの中で最良なのは出版コストを助成することである
- 目的達成の最良の方法であるだけでなく、OA出版社に必要なことでもある
- これがあって初めて購読料モデルの出版社と同じ土俵に立てる
- このようなビジネスモデルに対する、寄せられた質問の一部とそれに対する回答
- 1.短期的に、大学が多額の費用を負担することになるのではないか?
- 2.発展途上国のような資金面のリソースが限られるところの著者はどう考えればいい?
- 3.購読料のハイパー・インフレと同じように、出版社が出版料を高騰させないようにするにはどうすればいい?
- 他にもいろいろあるし、皆さんご自身も質問・疑問があるだろう
- すべてに今、ここで答えることはできないかもしれない
- とはいえ、ぜひ皆さんに知っておいて欲しいのは・・・全ての質問・疑問に対して前向きな、ポジティブな答えがある
- このあとの質疑でもいいし、時間が足りなければ今日の後の時間で直接、話を聞いていただいてもいい。時間の許す限り説明したい
まとめ
- OAは我々の目標であり、目標であるべきである
- 学術出版の市場には構造的な不全があり、この目標の達成を阻んでいる
- 短期的にはOA方針は問題を軽減することができる
- 長期的には、今とは別のビジネスモデルが必要であり、それによって学術出版を効果的・効率的に運営できるはず。すでにそれを検討しているし支援してもいる、方針によってそれを実現しようとしているところである
質疑
- 政府系シンクタンクの人:質問とコメント。アメリカと日本の体制は違うと思う。"public benefit"の達成は、日本の方が簡単だと思う。日本の研究は公的資金でほぼ賄われているがアメリカは企業のお金も多い。やりにくいのでは? もう1つはコメントだが、COPEはいい仕組みだと思うものの、日本でそれに投資をするには大学主体ではやりにくい。どこがやるのがいいかわからないが、UNESCOみたいな機関に事務局を委ねて、日本政府から出資を依頼された方が、出しやすいと思う。2点目はコメントだが、1点目についてアメリカの大学で本当にできているのか聞きたい。
-
- A:コメントについてもう一度。
- 会場:大学連合に大学が政府からお金を貰ってお金を出すのは日本だと難しい。国際機関に事務局があって、そこに日本政府がお金を出す方が容易。仕組みの作り方によって日本政府のお金が出せるかは変わってくる。
-
- A:まず最初におっしゃっていたことは、日本における資金提供・助成金の状況を考えるとOAが推進しやすいということだろう、そうならそれは好ましい。2番目のコメントはSCOAP3とCOPEの対比かと思うが、この2つは二者択一ではない。どちらも目的は同じ、同じ目標に向かっていて、やり方が違う。ここでの目標はGold OAの達成。SCOAP3は複数のジャーナル・機関をなるべく多く集めるアプローチ。これを特定の分野でやろうとしている。対してCOPEは分野を限定せず、論文ごとに考えている。より細かいので運用しやすい、ということがある。
- 会場:Harvard Med School(医学部)がOAのリストに入っていないが?
-
- A:まだやっていない、というだけ。ハーバードの各学部は完全に運営が分かれているし、規模も様々。文理学は2番目に大きくて、教職員は750名くらい。750名といえど、2008.2の採択に至るまでには2年を費やして学内で協議している。教職員が納得して理解して、浸透するまでにそれだけかかった。医学部は1番大きくて、教職員は1万人くらいいる。それだけ多いと教職員を納得させるのは難しい。ただ、医学部の研究の大半はNIHから助成を受けているので、NIHのOA方針の影響もあるかも。ただ、医学部がOAの必要性をそこまで感じていないのかもしれない。いずれにしてもそういったところへの働きかけも続けるし、他にまだ3〜4の学部と合意交渉を続けているところである。
お昼休憩
講演2:"Open Access in the UK: University of Reading and Beyond"(英国におけるオープンアクセス:レディング大学の事例から)(アンドリュー・A・アダムス先生、明治大学大学院経営学研究科特任教授)
- レディング大学(前勤務先)での経験を踏まえて話をしたい
- 幅広い視野から話したい
- 前のスピーカーがお話しになった話も含む。重複するところは省いて行く
- アウトライン
- 最初に最適な状態とそこに至る方法について
- シーバー先生のお話とも関連
- 短期的なソリューションを中心に話したい
- シーバー先生のお話とも関連
- その後、OAの歴史について
- ePrints*14について
- 一番関心があるであろう、私自身のアーカイビングの普及活動について
- 最初に最適な状態とそこに至る方法について
最適な状態とそこに至る方法
- シーバー先生から今の状況と問題点についてはお話しいただいた
- 長期的な解決についてもお話しいただいた
- 短期的にはすぐにアクセスできることが必要
- そのためには・・・機関リポジトリが必要
- 「なぜそんなものがいるのか? それをやるなら、自前で何か作る必要はあるのか?」とも言われるが・・・
- 小規模のものをそれぞれでやるよりは規模の利益がある、ということも考えられるかもしれない
- しかしスケールそのものが大きすぎると規模の利益が逆に働く。複数大学が参加する大規模システムは運用そのものが手間になりすぎるかもしれない
- 自前のものがあれば、目的としている外部からのアクセスは担保できる。目標は達成できる。学術雑誌論文への外部からのアクセスができるので、十分
- PhDに必要なものなどもそこからアクセスできるようになる
- リポジトリができたとしても、今後もデポジットしてもらえなければリポジトリとして100%機能しない。
- ポリシーがないままだとデポジットは3割程度にとどまる
- ポリシーがあれば100%も期待できるかもしれない
- では、上手く運営するためにはどうすればいいのか?
- レディング大学での経験では・・・運営をきちんとするには政治力が重要になる
- 政治力を誰が持っているのか。誰が一番権限があるか、めざとく見つける必要がある
- ハーバードであればそれが教職員であるだろうし、別の大学なら違うこともあるだろう
- 権力が一点に集中しているか、複数の組み合わせか、というのもある
- その人たちにわかる言葉で、納得するように、どんな便益をもたらすかを説明しないといけない
- レディング大学で初期に失敗した、義務化がうまくいかなかったのもまさにそれ。私自身にはOAの利点は明らかだったが、他の人の視点だとそうではないことに最初、気付かなかった。そういった人にどういった便益があるかをしっかり説明しないといけない
- そういったことの準備でフラストレーションもたまるだろう。皆さん自身には必要性も利点もわかっているのに説明相手がわかってくれない。そう考えるとイライラするかも知れない
- そういった過程は長くかかる。そうなる、ということは覚悟しないといけない
- 時に、機関リポジトリを運営するようになったときに、義務化の推進に罰や恩が必要か、と聞かれる
- 経験的にはそんなことは必要ない。大学が必要だ、という声明文を出せばいい
「破壊的提案」から最初の義務化まで
- 1994年・・・S. Harnadによる「転覆提案」:「秘伝的な」論文の著者はそれをコンピュータ上で読めるようにすべき*15
- 1990年代を通して、ゆっくりと、今の状況につながる進化が行なわれてきた
- 2000年・・・ePrintsのプラットフォームが実際に導入される
- 2001年にはハーナッドの所属しているサザンプトン大学の学部レベルでデポジットが義務化される
大学での義務化、助成団体による義務化
- ROARには248の義務化機関が登録されている
- うち複数は学位論文取得時のみの義務化。学術文献のほんの一部にしかならない
- 5年ほど前・・・機関レベルから助成団体レベルに義務付けの機関が移る
- 2003年・・・ウェルカム財団がOAを支持、2005年・・・ウェルカム財団が助成を開始
- 2004年、英国議会がOAを義務付け。しかし政府までは届かず
- Research councilのOA義務付けの声明・・・採択にはいからなないが「推薦」
- これを受けて助成を始める団体も
- アメリカ・・・2008年、NIHによるパブリックアクセス方針
- 助成団体によるOA義務化・・・5年前の期待ほどは進んでいない
- 機関リポジトリによる義務化・・・非常によい進み
- さらに進めるには、より多くの研究機関が事務化を採択すること。そこに注力せねばならない
- 3年で100%に近い達成を目指す
リポジトリソフトウェア
私のアーカイビング普及活動
- レディング大学での経験
- 博士号取得論文を1990年代に執筆中
- 修士号取得論文をwebページに記載。その後は、本の1つの章以外は全てOAで掲載してきた
- 自分の著作だけでなく、OAというムーブメントに対してより広い視野で関心を持つように
- 2002-2003年ころ
- 数学的な知識マネジメントについて活動中、著作権がそのような活動を阻害していることにも気付く
- 2004年にOAのメーリングリストに参加、幅広い問題点について考えるように
- 2005年・・・自分の論文をwebサイトにのせるだけではなく、学部にとってのリポジトリを立ち上げるために技術スタッフと話し合いを始める
- シンプルで基本的なOAのためのリポジトリ、以外の機能まで作りこもうとしてしまった
- 2006年・・・気象学部と協力、機関リポジトリを提供できるように
- 2008年・・・所属学部で先に、義務化を進めましょうという試みをする
- 研究委員でもあったので、その立場から運動を起こす
- うまくできなかった。結局、自分にとって利点は明確だったのに、研究委員会からは「やりません」と言われてしまう
- ここから、大学にアピールするときには違うアプローチがいいかも、ということの教訓になった
- 大学にアプローチする際には義務化について積極的に説明、義務化の採択へ
- 2009年・・・経営上層部に対して義務化の重要性を説得し、義務付け。機関リポジトリ運営側にも話を持っていき、2010年には義務化方針実施開始
まとめ
- 研究者は怠け者なのではなく、忙しいのである。あまりにも彼らの時間を必要とするものが多すぎる
- デポジットの義務付けが唯一、機関から論文を公開する働きかけになる
- 所属学部で大学の前に義務付け出来なかった経験から、義務付けの問題点が明らかに
講演3:「北海道大学の機関リポジトリの状況について」(山本和雄さん、北海道大学附属図書館学術システム課長)
- 前の3人の話と共通する部分もあるが日本独自、北大独自もある。今日はそういう部分について
- 北大のリポジトリ:
- ROARMAPを見ると・・・
- 北大が日本で唯一登録
- NIIが日本のリポジトリを後押ししている
- ファンディングを受けている
- その中で北大は・・・
- 大学としては方針を定めたが・・・
- 定めてどうにかなるものではない
- 大学の研究者情報サイトは義務化されているが、担当課でプロモーションもしているが、70%しか登録していない
- 大学とはそういうもの? ポリシーを定めてやっても全会一致では進まない
- 余談:このシステムの更新時にはリポジトリと連携したい
- OAをやる、と大学でポリシーを定めた
- やるのは教員
- もう1歩話を進めたい・・・学内で議論
- 「トップダウンの話ではない、何か大事なことを忘れていないか?」との結論に
- 教員1人1人へのアプローチが重要である、との結論
- 今までやっていなかった?・・・やっていた
- もっとやらないといけない・・・展開
- 教員が論文を書き、図書館は先生にアプローチ、大学はポリシーを出す
- OAにしたいときは図書館員が出版社と交渉して推進する
- リポジトリに載せることで教員に副次的な効果が生まれている
- もう1つ大事なもの・・・統計的な事実
- 大学としてのリポジトリ方針
- 大学の支出930億円中、定期刊行物には7億円弱、0.84%程度の支出
- 0.84%の話ではなく100%の話をしよう・・・アカウンタビリティ
- ポリシーでは「研究成果を社会に還元する」ことを前面に
- とはいえ図書館員としては価格のことも忘れられない
- ZS project:北大、京大、筑波大のプロジェクト*19
講演4:「海外におけるオープンアクセス化に関する政策議論の展開(米国を中心に)」(遠藤悟先生、東京工業大学大学マネジメントセンター教授)
- 他の講演者と違う角度の話
米国におけるオープンアクセス化に関する動き
- すでに紹介されているが・・・NIHのOAから
- 他に・・・PLoS、BioMed Central等
- 今年の夏にScience誌で特集
- ハーバード大でのシーバー先生らの努力もOAの大きな力に?
- 国の観点に戻ると・・・議会でOAについて議論しているのが日本との違い
- 同時に・・・2009.12-2010.1にかけて、OSTPで人々の意見聴取*22
日本における学術研究活動の特徴とオープンアクセス化の動き
- 科学技術政策研究所専門家ネットワークによる2010年の調査
- 全体の4分の3がOAに興味がある
- 国としてどうしている?
- OAの影響・・・
- 幅広い人へのアクセス
- ビジネスモデル
- 自国がOAにしたら他国に論文が盗まれる?
- 我が国の学術研究にOAがどんな影響をもたらす?
- NIHの論文がOAになって、日本の論文がOAにならないと、被引用数が減って相対的に存在感がなくなるのでは? 根拠はないが、どういう影響をもたらすかはわからない
- 去年と今年でTHEの大学ランキングが落ちたのは日本の研究論文の引用され方が違うせい、という話も
OAのステークホルダー
- 日米で大きく違う
- 大きな商業出版社が日本にはない
- 議会での議論
- 日本は国民の影が薄い?
- Fundingの仕方
- 日本:大学主体?
- アメリカ:研究者主体?
- 情報の流れ
- 状況は大変ややこしい
- どこから政策検討始めるべきかもわからない
- しかし基本的には・・・
- より幅広い人々に対して提供される研究成果へのオープンアクセスの実現
- 高い質の査読を通した日本発の学術出版の強化
- ここにいらっしゃる皆さんのご活躍に期待したい
休憩タイム
パネルディスカッション(司会:安達淳先生、国立情報学研究所学術基盤推進部長・教授)
最初に加藤先生からショートスピーチ
"A few thoughts on the "contents"; what are to be openly accessed and to whom?"(加藤先生)
- 学会で完全フリーのOA雑誌を出している
- IFが今年ついて、2.238
- 進化についての研究をしている、そこから言いたいこと
- ビッグ・ディールはロング・テールが問題
- 出版社は「コミュニティが広がっている」と言っているが、それはおかしい
- 論文を作って発行するコストの、substantialな部分はフリー。OAジャーナル作成に本質的な困難はない、みんな給料もらってない
- OA、リポジトリを含めて、あるいはフリーなOAが近い将来出来れば、一番アドバンテージがあるのはacademyのdiversityをkeepできることではないか?
- 「どうしたら増やせるの?」という話があったが・・・
- tax payer意識、あるいは自身の研究が何に支えられているかの意識が低い
- 1980年代のある集まりでノーベル賞受賞者が高校生に向けて一生懸命説明・・・理由を尋ねると「taxpayerへの責任だ」と言う
- それが日本の大学に根付くか
- 反論するために時間を使う人がまだいるんじゃないか?
- 皆さんOAの中身の話をしているが、ちょっと違うことを考える
- 将来を見据えると・・・contentsが問題
- なんでもかんでもOAであればいいってもんではないのではないか?
- 研究者は自由にやっていると言っても、IFに束縛されているし自分たちで決めたパラダイムで走っていてそれが必要かは・・・
- 本当に社会の開かれたところにパスがいく確率はかなり少ない
- それをスルーでサポートできるシステムはそう作れない
- 情報の洪水は好まない
- なんでもかんでもOAは好まない
- 将来を見据えると・・・contentsが問題
パネルへ
- 安達先生:この機会だからぜひ皆さんから質問を受けたい。会場が慣れるまで時間がかかるだろうから、まず私からスピーカーに質問を。私は日本でSPARC Japanを6〜7年やっていて、忸怩たる気持ちでいるのは、図書館の人とは仕事ができたが研究者へのアプローチができなかった。advocacyがやりにくかったし、日本でどうするか努力がいる。だから今日のようなシンポジウムをやったわけだが、シーバー先生のお話は現時点までについて綺麗にまとめられたので汗の話がなかった。北大では日常的な努力の話があった。イギリスではどうなされているのか。シーバー先生はポリシーを立てるまで2年かかったのでそうとうな努力があったと思う。そういう経験談を。
- シーバー先生:OA方針を実施するまでのプロセスですが、各学部では、そもそもこのプロセスは学部長のイニシアティブの下に始まった。OAについて採決するまでには文理学部では2年間かかったが、この間、できるかぎり多くのグループの方々と話をした。学部長や委員会の委員等と話をして、全ての関係者が十分理解し、納得した状況を作ろうとした。方針への理解を求めたのは権利保持の問題があるため。一度採択されると永続的に権利が保持される。一度採択されたからと言って、そこで終わるわけでもない。権利保持の部分は採択されたらそこで終わる部分もあるが、それ以外の部分は他の方のご発表にもある通り、採択されて終わりとはいかない。常に働きかけて、デポジットするようにしないといけない。学術情報センターでも継続的なプロセスとして、なるべく教員がデポジットしやすいように、いかに登録プロセスが簡単でわかりやすいものになるか、ということを心掛けてきた。この採択に至る別のプロセスで重要なのは、プロセス自体を進めることを急がないこと。例え長くかかったとしても、方針に対する支持が幅広いところから出てくることが重要。素早く方針が採択出来たとしても、それが渋々認めてもらった的な空気が流れることもあるだろうし、多数で、ではなく多数決で、となるかもしれない。長い時間をかけても支持を取り付けることができれば、圧倒的多数あるいは全会一致での採択にこぎつけることができると思う。
- アダムス先生:レディング大学でうまく出来たのは、テクニカルライブラリーとアカデミック・スタッフを連携出来たところにあるライブラリー・スタッフがとても熱心にアカデミー・スタッフに働きかけたのだが、最初に明らかにしないといけないと考えたのは、既にスタッフの著作がリポジトリンに入っているかどうかを確認する、自分のwebサイトにアップしているかを確認すること。そういう場合には、そういった方を新しいリポジトリに招く形で受け入れることができる。もう1つ、主要な指標として見ようとしたのは、対象となる人たちが研究の対象としているフィールドが幅広いのか、ある特殊な分野を掘り下げた研究をしているのか。特殊な、狭い分野に特化して深いところを研究している方は、往々にして大学全体に関する疑問・問題に関心を持たない場合が多い。大学組織にそういう方は必要だが、お話をするにあたってそういう方は大学全体の問題に関心が低い場合が多い。私の場合は学際研究をしているので様々なバックグラウンドの方と話すことも容易である。他の方への研究を深めることで、わかるような言葉で話すことができる。また、どれくらいの幅の研究をしているかは、アクセスを必要とする文献の数にも関係する。私は幅広くみないといけないが、絞って研究をしている人なら5〜6の雑誌で済むこともあるだろう。私は必要なジャーナルが多いので「探したけど購読していない」問題に直面することが多い。それから簡単な方法としては、すでに学内にいるようなアーカイビングを提唱する活動家を引き入れること。そうすればアカデミックな方同士の話しあいもしやすい。簡単な方法になる。
- 安達先生:加藤先生の大学では? 研究者の呼び込みを。
- 加藤先生:先ほども言いましたが、ある学部では投稿のサポートをつけた。
- 安達先生:山本さんから何か補足は?
- 山本さん:図書館員は研究者がわからない。余談を持たずに話を聞く。
- 加藤先生:研究者は単純だからWoSを見てメールを貰ったら大喜びすると思う。研究者は単純
- 山本さん:advocacyについては、デポジットするときにメールでくれる人もいれば、オンラインで投稿を受け付けるフォームを希望する人もいたし、全部自動でやってくれという先生もいた。まだ自動のシステムはできえいないが。
会場
- ビジネス系の学会にいる方:シーバー先生へ。ProQuestのヘビーユーザなのだが、ProQuestはどう評価する? コマーシャルだが持続可能で多くは抄録までしか見れないが、ILLで本文は取れる。ProQuestがないと自分の研究は出来ない。ProQuestはどれくらいアメリカで使われている?
- シーバー先生:ProQuestの利用統計については知らないが・・・アメリカどころかハーバードでの利用状況も知らないが、購読しているので使われているとは思う。ただ、ご自身の研究に役立てていらっしゃるようなので、どんな価格を支払っていても価値があるだろう。OAについて1ついいこととして、質問を返すようだが、OAの論文があれば、あるいはあるからこそ、ProQuestのような商品が市場に出てくる。
- 安達先生:ProQuestの議論をする場ではないので次の話にいきたいが、遠藤先生のお話しにあるように、日米英で国の関与の仕方が違う。アメリカではNIHがpublic access policyを持っているが、国は関与すべきかすべきでないか、適当に分担してやるべきか?
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- 遠藤先生:基本的には先にお話しした通りだが、基本的には研究支援自体をあつくする。科研費を増やせばそこから著者支払もできる。国としての研究支援を期待したい。
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- 山本さん:政府の関与とのことだが、今はジャーナルがあまりにビジネスの枠に行きすぎたことが問題。研究者が情報を元に行う基盤整備が問題で、基盤をビジネスで整備できるのか。一定程度は公的資金で整備すべきではないか。
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- 安達先生:SCOAP3が日本で問題になっているが、数年前に日本にその話がはじめてきたときの反応は、まず「文部科学省に1億円なり下さい」と頼みに行くこと。これが典型的な日本のパターンだが、それでは全然OAではない。政府の関与と言うと日本の典型例は先ほどの指向性と裏腹の関係にあると思う。
- 安達先生:新しい制度を作るのがOA。古い購読型のものとCOPEやSCOAP3のようなそれ以外のものは、共存してうまく最後の着地点に向かうのか、排他的なのか。非常に複雑にできあがっている学術研究システムを悪い方向にする可能性はないか? 複雑なシステムなのでちょっといじると変になる、みたいな。スナップショットではちゃんと考えているが最終的に化けものみたいになった年金システムのようなこともある。楽観的に考えていいのか? 特にシーバー先生に。
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- シーバー先生:楽観的になっていいと思う。色々なアプローチや方法があるが、学術コミュニケーションのためにどうやって資金を得るかの方法にはさまざまあるが、それぞれ共存できると思っている。ある雑誌は購読料が必要で、ある雑誌は著者あるいは大学・助成団体が刊行費用を負担する、それとSCOAP3のような特定のジャーナルについてコンソーシアムが様々な方法で資金を工面するものも共存できると考えている。私としては市場のアプローチのファンであり、上手くいくと考えている。真に効果的で競争が働く市場があれば。問題は、今の市場は上手くいっていない。新しいモデルを作っても今までより悪い状況になることはないだろう。私の想像では、将来の予測は難しいが、色々な種類の雑誌が色々な資金面でのサポートを受けることが続くのではないか。
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- アダムス先生:予測したくない内容だが、アメリカと異なるヨーロッパの状況を申し上げると、例えばジャーナル以外の分野はどうなっているか考える。著作権を扱うという場合には、中間の業者が入ってくる。中間に存在して収益をとる手法が音楽、本、雑誌にはある。そうした業態がずっとこれまで行為として認められた、当たり前だった。そういう業界の慣行、商業出版と学問の世界の間のことを考えて、それを打ち崩せるのか。私たちは研究をしている者として、結果を出版することを名誉に思うとか、質の高いものを出して内容で勝負することに重きを置いているわけだが、それとお金で全てが決まってしまう市場で解決が見出せるのかを考えると、あまり幸せな結末が出てくるとは思えない。10年くらい困難な状況が続いて、どうにもならなくなったところで新しいモデルが出てくるのかも。
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- 加藤先生:どの立場から考えるかで色々あるが。日本の、STM分野から考えれば、OAジャーナルが伸びることは間違いない。OAにしてIFがつくことに決まったとき、それまで6〜7年、文科省の出版助成が取れなかったのが、今年取れた。コミュニティが国の掛け声だけでなく、世界に打って出る強い意志を持つことが最初に重要だと思う。
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- 安達先生:遠藤先生から補足があれば。
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- 遠藤先生:楽観的か悲観的かで言えば。どっちとも言いにくい。最後のスライドですらまだ書き足りない。査読の議論がされていることは話したが、それがOAにどう影響するかわからない。研究者のインセンティブがどう変わるかもわからない。しかしこれは徹夜してもできないくらい難しい。ただ、その議論が始まっていて、ここにいる方だけではなく一般の方まで広がっていくことが楽観的になれることではないか。
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- 加藤先生:査読の質はOAに関係する問題ではなくて、編集が電子化して、簡単に査読も査読しない意志表明もできる、それに帰属している部分が大きい。そこに日本の研究者は言語的な障害を持っている。考えてしまう
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- 山本さん:先生方は研究の中で競争している。競争があればビジネスチャンスもある。私は楽観的に考えている
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- アダムス先生:矢印が既にたくさんあるものに矢印を付け加えたいという話だったが、数時間つけてさらに線をつけると、その図の示したい意味がわからなくなっていたと思うので、足さなかったのが良かったのではないかと思う。それによって考えがよりはっきり伝わった。
- 安達先生:フロアから何か。
- 会場:物理学の教員、兼、物理学会の出版にも携わっている方。2つ質問がある。シーバー先生が最後に出していた疑問、特に大学が高い雑誌価格を払いながらファンドを作るのは抵抗がある。また、実際にファンドを作っているところはもう出ているわけで、成功例についてお話を聞きたい。
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- シーバー先生:おっしゃる通り、COPEのステートメントは協定のステートメントだが抽象的。サインした大学が実際にそれをどう実行するかを決める。そこが決まれば、コストやどう実行するかも決まる。すでにいくつかの大学では実施しており、その経験が積まれてきている状態にある。今、ある程度の結果がそういった大学から出始めている。実際にCOPEを実施するのに必要なOAファンドをどう実施し、運用するかの設計にはかなり時間をかけた。コストについては短期的には非常に低く済む。2つ目に背後にある経済システムは従来の購読費モデルのような市場による機能不全は持ち合わせていない。やり取りするものの独占もモラル・ハザードも起きないようになっている。今日はあまり時間がないので詳細は話せないが、PLoS Biologyに書いた論文*24を是非読んでほしい。COPEについて詳しく書いている。実際にCOPE署名大学の1年間の支出を見たところ、予想した通り非常にコストは低く済んでいる。もちろん長期的に見た場合、COPEや似たような取組みが成功した場合は出版社側もビジネスモデルを変えてくるだろう。購読ベースから出版にかかる費用を貰う形に移行してくると思う。そうなるとOAファンドのコストはかなり上がるが、それまで購読料にあてていた金額を払わなくてよくなればセーブ出来たお金があると思う。
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- 安達先生:最後のことが会場の最初のご質問に応えているかと思う。
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- アダムス先生:1つコメントさせていただきたい。私自身、持続可能なモデルがないと思っているわけではないが、問題なのはどのように目指すべきところに到達するか。英語でよく言われるジョークを引き合いに出せば、ある地点への行き方を尋ねると今のスタート地点から抜け出すのが難しい、ということもある。目指すべき点は一緒だと思うが、そこにどうやって到達するのかはシーバー先生に後ほどじっくりお話を聞きたい。道のりは必ずしもスムーズではないのではないかと思っている。
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- 加藤先生:今日の2人のお話は英語圏のお話で、日本語をしゃべるpublicが我々の英語論文を読んでくれるとは考えにくい。コンテンツとそれを誰にを整理しないと、IRやmandateっていきなり言うのはconfuseするんじゃないか?
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- 安達先生:英語国民のお2人にはわからないかもしれないが・・・日本には日本の学会のジャーナルをどう強くするかが問題で、研究はinternationalなのだからそこで闘えば、ともなるが・・・
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- 加藤先生:少なくともpublicが英語の論文を読むとは思えない
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- 安達先生:そんなことはないだろう、読むんじゃないか
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- 加藤先生:専門外で?
- 京都大学・古賀先生:国民への還元、税金の還元が強調されるが、加藤先生は地域への貢献を言われていた。そのあたりの差が1つの論点になるのではないか。税金の還元だと国民全体や患者グループ、地域なら地域。そのあたりをOAの促進にからめて考えるときにどういうきっかけにすればいいのか。
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- 安達先生:例えば病院のネットワークで地域のお医者さんのために文献を提供できる環境を作る、とか? いかがですか?
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- 加藤先生:STMで国際誌に載ったものはどこに載っていても問題ない。どこにあってもいいなら、フォーマットが綺麗なところに行く。私の場合はtax payerを絞り込んで、目が見える、声が届くところでの公開となれば地元は意識すべきと思う。
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- 安達先生:競争力保持のために、という話があったが、tax payerというと国、となる。国を超えて、と国で議論はある? 国のinnovationを加速するにはどうすべきか、というような意見が。
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- アダムス先生:納税者に関しての議論だが、この場で納税者について考慮することは間違いではないと思うが、あまりにそこにfocusするとアカデミックな議論の枠組みの中で、あまりacademicではない方々の利益を強調しすぎてしまう。臨床試験の文献等が出てくるが、臨床開発・治験のレポートは一般の方では読めない。これは締め出そうとしているわけではなく、内容が利用に耐えられるような、作業に関わるexpertにfocusしているため。そこで研究開発に関して納税者のお金が使われることにもう一度focusすると、その改善には2つの考えがある。1つはOAが必要である。納税者の支払ったお金が研究開発に使われても、その結果が民間の出版社の懐に入るとすれば納税者のお金も、アクセスできないことによって時間も無駄になる。もう1つは経済的な仕組みも変えられれば状況がもっと良くなる。アカデミックな議論が一般の方にも寄与することでもっと価値が高まるのであればこの仕組みは機能する。それは必ずしもジャーナルのアクセスではなく、別の方法で還るのかもしれない。
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- シーバー先生:先ほどのご質問で対象が地域社会か、国際的な一般的な人たちか、他の研究者なのか、ということだが、システムをいかにチューニングすることで適切な情報の受け手に伝わるようにするのか、になってくる。OAによってその部分は簡素化されると思う。例えば、論文を書くとき、出版するときに誰が読むか、その時点でわかるだろうか? わからないだろう。わかるのは今の平均的な購読している読者層の中にいる人が読んでくれる確率は低いが、ネットに接続できる人がたまたま読み手になる確率は高い、ということ。OAがそのようなことを実現できる。カバーする対象となる人の数をあげることがclosed accessよりも格段に実現できる。
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- 加藤先生:英語で書かれた論文と言った方がいいかもしれないが、日本語で書かれたものはaudienceがわかる。そこをはっきり考えるべきと言いたかった
最後のところで「public access」を日本で考えるときの本質的な問題の一つ、日本人は研究や仕事以外で英語論文そんなに読まないだろう(publicがaccessしたいのは英語原著論文以外にあるんじゃないか問題?)問題が出てきたわけですが・・・このあたりは自分も研究でやっていますし、確かに機関リポジトリに搭載された英語論文への日本からのアクセスは少ないです。
日本語論文に対する海外からのアクセスと同程度の回数しかなく、はっきりと日本人は日本語論文、海外からは英語論文へ、という傾向があります。*25
これはおそらく日本に限った話ではなく、日常使用する言語とアカデミックな世界の言語が異なる国ではどこでも共通して現れうる問題だと思うのですが、やはりシーバー先生とアダムス先生にはうまく伝わっていない感じもしますね・・・(そりゃそうか)。
講演中ではあまり言及されなかったのですが、シーバー先生の用意されていたスライドの中では機関リポジトリによるアクセス確保についての問題として、それが普及しきって大学図書館が購読キャンセルを選ぶレベルにまでなると、現在の購読出版モデルに基づく学術コミュニケーションが崩壊する・・・という点にも触れていて、これは機関リポジトリによるOAがはらむ大きな問題だと自分も考えていたので興味深かったです。
その問題に対する自分の見解としては「エンバーゴをつければ最新号は買わざるを得ない+たぶん購読キャンセルできるほど普及することはないから大丈夫だよ」、という楽観的なんだか悲観的なんだかわからないものなんですが、それだと機関リポジトリはなんにも学術情報流通の抱える問題に対処できていないことにもなるわけで(苦笑)
その点で長期的な方針が必要・・・というところからCOPEにつながっていたのかあ、というのが今日のお話でよくわかったのですが、しかし、そのアプローチでどうモラル・ハザードを防ぐのか・・・というところはやはり気になるので、リンクもしましたがPLoS Biology掲載論文をあとで読んでみたいところです。
その他、研究上大変興味深いというかネタにできそうな刺激も多く受けたのですが、それはブログで言及してしまうとネタバレになるので割愛(笑)
もっと日本でやっている取組みとかも発信していきたいよね、とかなんとか。
*1:Budapest Open Access Initiative | Read the Budapest Open Access Initiative
*3:Directory of Open Access Journals
*4:Open Access to the Scientific Journal Literature: Situation 2009
*5:Welcome to ROARMAP - ROARMAP
*6:http://publicaccess.nih.gov/policy.htm
*8:SCOAP3 – The Sponsoring Consortium for Open Access Publishing in Particle Physics
*9:SHERPA/RoMEO - Publisher copyright policies & self-archiving
*10:Society Copyright Policies in Japan
*11:http://www8.cao.go.jp/cstp/pubcomme/kihon4/honbun.pdf
*13:Compact for OA Publishing Equity - The Compact
*15:http://www.arl.org/sc/subversive/
*16:http://drf.lib.hokudai.ac.jp/
*19:http://drf.lib.hokudai.ac.jp/drf/index.php?Zoological%20Science%20meets%20Institutional%20Repositories
*21:http://homepage1.nifty.com/bicycletour/sci-index.htm
*22:http://www.whitehouse.gov/administration/eop/ostp/public-access-policy