自らも財政が厳しい中で図書館によるオープンアクセス財政支援を考える:「図書館によるオープンアクセス財政支援」(第7回 SPARC Japanセミナー2012 参加記録)
皆さんはarXiv.org e-Print archive、使ってますか?
このブログは図書館系の方か、「PLoS ONE」でググってきたバイオ系の方が多そうなのでそれほど日常的に使っている方はいないかもしれませんが、コンピュータサイエンスよりの方はしばしば見られているかも知れません。
図書館情報学でも、計量書誌学よりだったり電子図書館よりの人は一度は使ったことがあるでしょう。
元は当時ロス・アラモス国立研究所にいた物理学者・Paul Ginsperg氏が創始した、最初期から成功し続けている主題リポジトリにして、オープンアクセス運動(その中でもセルフ・アーカイブ)自体arXivの存在に大きな影響を受けていることは間違いありません。
「arXiv(初期は主に高エネルギー物理学=HEP中心)ができているんだから他の分野/機関だって」。
そのarXivが、現在はCornell大学をはじめとする図書館等の協力を受けて運営されていることは、ご存知だったでしょうか?
自らも過去数年で15%人件費をカットされているというCornell大学がこの物理学や数学に既になくてはならないインフラを如何に持続可能なものとして支えていこうとしているか。
あるいは同じく物理学で起こった動きである研究コミュニティの力を結集した新たなGold OAモデルSCOAP3の現状はどうなっているのか、ここでも協力を求められた各図書館の動きはどうなっているのか。
今日のSPARC Japanセミナーはそんな図書館によるOA財政支援の話です!
高エネルギー物理学・数学等の分野で,図書館がオープンアクセスを財政支援する取組みが始まっています。今回はarXiv.orgやSCOAP3の現在の活動状況を概観し,図書館と研究者が協働して取組むオープンアクセス支援のありかたを考えたいと思います。
以下、例によって当日の記録です。
例のごとくmin2-flyの聞き取れた/理解できた/書き取れた範囲のメモであり、今回も記録漏らしが多発していてお恥ずかしい限りなのですが、その点ご容赦いただければ幸いです。
お気づきの点等あれば、コメント等へご指摘いただければ助かります!
オープンアクセス講座(柴田育子さん、一橋大学附属図書館)
- 本日のセミナーの位置づけの確認など
オープンアクセスとは?
- オープンアクセスのイメージ
- オープンアクセスの定義:
- 査読済み論文が無料で制約なくアクセスできること・・・BOAI*1
- 質の担保された論文を誰でも読めるのは素晴らしい?
- オープンアクセスの歴史
オープンアクセスの種類
- 2つの実現方法を細分化してOAの種類を説明する
- 説明の前に・・・OA=誰もが無料で読める
- しかし全部ボランティアで行われているわけではない。出版コストは誰かが必ず負担している
- OAの種類は様々で区別方法は色々ある。その中で今日はお金を切り口にする。なんの財政基盤で支えているのか?
- オープンアクセスの種類:費用負担の仕組み等で類型化できる
- Gold OA
- 従来の出版コストは購読料で賄われていたが、GoldではAPC=出版加工料で賄われることが多い
- 掲載論文全てがOAになる雑誌/雑誌自体は非OAだが追加料金を払うとOAにできる雑誌/リダイレクトモデル=図書館が購読費を出版者に振り返る。例:SCOAP3
- 他に財団等が出版費用を負担する場合も。例:eLife
- 従来の出版コストは購読料で賄われていたが、GoldではAPC=出版加工料で賄われることが多い
- Green OA
- Gold OA
arXiv.org:オープンアクセスにおける組織的なビジネス展望(Oya Y. Riegerさん、Cornell University Library)
はじめに
- この20年でOAのデジタルリポジトリが学術コミュニケーションインフラとして不可欠になった
- OAの動きは科学・知識を公共財として共有できることを目指している
- 自由に/無料で論文の出版・利用ができるようになることを目指している
- 「無料出版」ではない。コストがかかる。スタッフ、技術、施設・・・
- 健全なビジネスモデル・原則に基いて維持・管理・発展しないと、継続的に運用できない
- 今日はarXivを運営した経験に基いて話したい
- 組織的な面/ビジネスの面からお話したい
arXivの概要
- 皆様の中にはarXivを使っている人もいるんじゃないかと思う
- いくつかの分野の科学的な知見・成果を迅速に世界中に知らしめることを目指すもの
- 物理学、数学、コンピュータサイエンス・・・
- 科学・サイエンスをより民主的なものにする。投稿にも文献のダウンロードにも財政的な壁を作らない
- 簡単な概要:
- 1991年にギンスパーグが設置、2001年からCornellが管理
- 現在814,000の電子論文
- 2012年の利用状況:
- 84,603の投稿。2011年より10%以上投稿数が増加
- 5,000万回以上のダウンロード
- arXivの成長:分野別
- 分野別の総投稿数・・・各分野とも伸びている
- 全投稿数中に占める各分野の割合・・・当初はほとんど高エネルギー物理だったが、徐々に比率が減り、数学等が増えている
- 具体的な投稿率・・・数学約27%、物性物理・天文物理が14%くらいずつ・・・
- min2flyコメント:最新の状況だとhepの投稿をcomputer scienceの投稿が抜いてるじゃないか! すげえCS伸びてるな
- 運営にかかるコスト:2013-2017の予想:
持続可能なモデル
- 世界の研究者はarXivの継続的発展と安定した運営を望んでいるし、依存している
- Cornellへの全面依存からより幅広いコミュニティによる支援を受けるべく取り組んでいる
- 2010年から活動開始。NIIの安達淳先生にも色々な企画に参加いただいている
- 3年の計画の成果として整った持続可能モデルについて説明する
- メンバーシッププログラム
- ビジネスモデル 2013-2017
- arXivのガバナンスモデル・・・世界200のarXivをよく使う学術・研究機関に焦点をあてて成り立っている
- 大学・研究機関と協力
- arXiv利用は世界中でなされていて、2012年の利用割合で見ると、最大は北米のEDU(23%)。うちCornellは全体の0.5%、世界第25位でしかない
- 他のヘビーユーザはドイツ11%、イギリス7%、日本7%
- 日本のヘビーユーザ機関の内訳
- 日本1位は東大。世界全体でみても第3位
- 日本2位は京大。世界全体でみても第7位
- メンバーシップ支払いの状況等・・・ここでPCがトラブって詳しくメモ取れず(汗)
- CornellがarXiv全体の財政的・運営的責任を負う
- 戦略を負うBoardや管理的・学術的側面を監視するBoard等も世知
- Member Advisory Board・・・図書館・研究機関等のメンバー機関から構成
- 新しいBoardは最近、選挙で選んだばかり
システムを持続可能なものにするために必要な原則
- 過去3年間で学んできたことをお話する
- Cornell大学のarXivの将来を計画する経験から見えた、持続可能性の5つの基本原則
- 1. 学術コミュニティや学術プロセスの中に強く根付き、組み込まれること
- 特定の分野の性質や学者の実際の仕事のやり方が研究者が情報システムをどう使うかには重要
- 物理学、数学、CS、生物学、それぞれの学者は研究パターンもコミュニケーションの仕方も違っている
- arXivは学者のコミュニティから生まれたもの。技術の専門家や図書館員が作ったものではない
- 従来の学術情報流通システムを補完する形をとっている
- すぐに情報を広く、OAで行き渡らせる。学術文献を閲読可能にする
- 技術は重要だが、社会的・文化的問題に対応するよう使わなければいけない。技術革新だけが重要なわけではない。適切な技術で学者のニーズをサポートする
- arXivが世界中で受け入れられてきたことはユーザベースの戦略の重要性を示している。ITの修正もこれに基いて行うことが受け入れられていることの証
- 2. 明確に定義された任務とガバナンスの体制
- 主題リポジトリには明確に定義された任務とそれに伴うガバナンスが要る
- 長期的サービス運営へのコミットメントを達成できる
- ガバナンスの一般目的・・・組織が将来を描けるようにすること
- 計画を実現し、維持することも必要
- 良いガバナンスに重要なもの:参加型、コンセンサス思考、説明責任、透明性、対応力、効率的、公平、非排他的 + 敏捷性、フレキシビリティ
- 主題リポジトリには明確に定義された任務とそれに伴うガバナンスが要る
- 4. 体系だったコンテンツポリシーの作成
- 5. ビジネスプラン戦略への依拠
- ビジネスプランニング・・・民間/営利組織のみに必要なわけではない。OAでサービスにも戦略が必要
- そのプロセスの主な目的は投資を正当化するための価値の訴求。潜在ユーザに価値を訴えること
- 特定のサービス/製品の価値を伝える。「なぜそのサービスを買うべきなのか?」に応えるもの。顧客に対し、ステークホルダーごとの見方からメリットを説くものでなければならない
- ビジネスモデルは財務計画も伝えるもの
- arXivのようなサービスを発展・維持するには様々な経費がかかる
- コラボレーションを中心に置いたメンバーシップモデルでは、価格モデルを正当化する明確な定義がいるし、予算の理解と収益源、その支出先を明確化することが必要
- OAシステムの管理・発展に関わる経費についての理解をさらに深めることが必要
- ビジネスプランはゴールや達成事項、課題、戦略を様々なグループに伝えるためのツールでもある
- 様々なグループ=ステークホルダー
- ビジネスプランニング・・・民間/営利組織のみに必要なわけではない。OAでサービスにも戦略が必要
質疑
- Q. IOPの方(物理学系出版者):arXivの日本の利用が7%というが、これはダウンロード数で? 投稿数で?
- A. 7%というのはダウンロード数。投稿数の比率で同じ円グラフを書けないかと聞かれるが、難しい。その背景を説明したい。
- 投稿時に必要とする情報は最低限にして、障壁を下げようとしている。障壁を下げて、多くのことは聞かない。文献によっては複数の著者がいるが、登録者、誰が主たる著者かだけ聞いている。著者名の名寄せもしていない。ということで、投稿ベースの利用比率を追跡することは難しい。
- 投稿ベースの統計についてはサンプリングベースで集めてはいる。人ががんばってデータクリーニングしないといけない。その結果を見てみると、投稿の比率とダウンロード数のそれはかなり近い。
- A. 7%というのはダウンロード数。投稿数の比率で同じ円グラフを書けないかと聞かれるが、難しい。その背景を説明したい。
- Q. 質問の趣旨は一般的な投稿のレートと近いので興味深かった、ということ。納得した。
- Q. 静岡大学図書館の館長の方(これほとんど個人特定できるな・・・(汗)):スライドp.22。コンテンツのバージョンについて、種類別の比率はわかる? Published versionはGold OAも含むのかもしれないが。
- Q. 加藤さん:他の分野から、自分たちも入れて、というリクエストがあると思うが、どう対応している?
- Q. 加藤さん:OA雑誌が増えてくると、分野が違うから棲み分けができるんだろうとは思うが、どうお考え?
- A. arXivではあまり野心的にやらずにおこう、と考えている。いま、うまくやっていけていることに当面、焦点をあてる。もちろんオープンではいるが、野心的になって手を広げすぎないように。
- Q. 日本動物学会の方:一般の人のアクセスはarXivではどれくらい? それをどう考えている?
- A. ユーザの詳細情報は収集・分析していない。IPアドレスはあるが、それで研究者か一般化は判別できない。
- Q. 東京大学附属図書館の方:ビジネス的な見方のメリットと図書業務との兼務の大変さについて・・・?(聞き逃したのでかなり不正確かも??)
- Q. 横浜国立大学図書館の方:お金の話について。サイモンズ財団というところがけっこうな金額をくれているとのことだが、ここは今後も継続的にお金をくれる? 見通しがあれば。
- Q. 早稲田大学の方:スライド22。バージョン管理は誰がやっている? 人? ソフトウェア? 管理はしてなくてポリシーだけがある?
- A. 現在のところポリシーはない。ただ、このようなポリシーをきちんと持ち、対応することが重要と認識している。特に出版者や学術界、学会から寄せられる質問でもあり、重要性は認識している。去年、7つの学会・出版者、コンテンツの大半を占めるところとミーティングを持った。彼らとしてもポリシー・バージョンのコントロールに関心を寄せている。ユーザのためにもなるし出版者のためにもなる、ということで、相互に恩恵があると思う。ただ、まだ何も作業は始まっていない。プランニングの段階。
- Q. 常磐大学・栗山先生:創立者のギンスパーグ氏はもう関与していない?
- A. ギンスパーグさんは関与はしているが、数年前に「そろそろ足を洗いたい。物理に専念したい」と希望を述べられていて、それに応じて彼を解放できるよう人材を整えつつあるところ。
- Q. 東京女子大学・坂井先生:クオリティ・コントロールというのが意外。プレプリントとは違うので科学的価値は判断しないと思うのだが。全く同じ内容の二重投稿とか盗作がないように警戒する、というようなレベルのこと?
- A. 査読とクオリティ・コントロールは関連はしているが全く違うこと。arXivは査読はしていない。ただし、ギンスパーグが設立した時から、arXivは他のリポジトリと違う点があって、arXivには130人以上のモデレータがいる。モデレータがいることが見えづらいと思うが、ヘルプに書いてある。機関が推奨しないといけない=学術機関に属している人であるということ等をとっているし、モデレータが論文をざざっとチェックして、少なくともアブストラクトは見て、分野的に関連するものであることや、学術的なものであることは確認している。繰り返しになるが査読ではないが、特定のクオリティを維持するためのチェックをしているということ。詳しくはドキュメントを参照して欲しい。
- 実際のポリシーは次のとおり「投稿される資料は特定の学術領域に関連が有り、興味を持たれるもので、なんらかの価値を持つものであることが期待されている」
- A. 査読とクオリティ・コントロールは関連はしているが全く違うこと。arXivは査読はしていない。ただし、ギンスパーグが設立した時から、arXivは他のリポジトリと違う点があって、arXivには130人以上のモデレータがいる。モデレータがいることが見えづらいと思うが、ヘルプに書いてある。機関が推奨しないといけない=学術機関に属している人であるということ等をとっているし、モデレータが論文をざざっとチェックして、少なくともアブストラクトは見て、分野的に関連するものであることや、学術的なものであることは確認している。繰り返しになるが査読ではないが、特定のクオリティを維持するためのチェックをしているということ。詳しくはドキュメントを参照して欲しい。
休憩タイム
e-print arXivと京都大学基礎物理学研究所の20年にわたる関わり(奥平千秋さん、京都大学基礎物理学研究所図書室)
- 1990・・・SPIRES Hepのミラーを基礎研が運営しだしたことが契機
- その後・・・e-print archiveのdaily abstract mail配布の日本のサーバに
- 日本のミラーサーバ jp.arXiv.orgを始動
- もともと物理は進取の精神がある・・・webもCERN由来
- e-print archiveも後にweb以降/そのミラーサーバを基礎研に置く依頼が来て、1997年に始動
- 管理負担も下がる(リモートでロス・アラモスからできるので)/承諾、始動
- 利用料に応じたサポート金負担について・・・2010.2にNIIから打診
- arXivはもはや物理学になくてはならないツール。京大を代表して基礎研が負担するのが当然と考え、支援
- 常に京大の部局の立場を超え、全国を支援するのが使命。20年に渡る長い関わりもある
- 今後も支援の用意はある!
SCOAP3への日本の大学図書館の対応(砂押久雄さん、東京工業大学附属図書館)
SCOAP3の枠組み
- SCOAP3とは?
- SCOAP3のビジネスモデル:
- 図解・・・(講演ではスライドがありました)
- 従来モデル:著者が雑誌に投稿料を支払い、大学は個々の雑誌を費用を払って購読する。しかしある雑誌を購読していない大学はその雑誌にはアクセスできない。大学に所属しない研究者はどれも読めない
- SCOAP3モデル:各大学が雑誌を購読する替わりに、SCOAP3が個々の出版者と契約。出版費用を払う。OAになって誰でも読めるようになる。各大学は今まで払っていた購読料をSCOAP3へ(リダイレクション)。投稿時にも投稿料は発生しない。大学に所属していようがいまいが誰でも読める。
SCOAP3タスクフォースはどのような活動をしてきたか?
- 日本におけるSCOAP3への対応
- これまでの動き/今後の動き
- 最終目標は2014年のSCOAP3のOA提供
- それに向かって参加機関・パートナーとの覚書を締結しないといけない
- 日本におけるSCOAP3をめぐる関係
- SCOAP3・・・運営にはNIIの安達副所長も参加
- タスクフォースはNII+国公私立協力委員会の設置する連携・協力推進会議が設置
- NIIが事務局担当・メンバーは国公私立から・JUSTICE事務局も協力
- SCOAP3タスクフォースの任務:
- 日本としての期待金額をいかに拠出するか? その額の確定が最大の仕事
- SCOAP3各国メンバーが作るTechnical Working Groupへの参画も任務
- SCOAP3タスクフォースの取り組み
- 広報サイト・FAQサイトは立ち上げ済み
- 拠出額確定に関わる一連の作業をこれまで行なっている
- 額算出の基礎となるツールの作成
- 大学図書館には依頼もいっているが、対象雑誌の購読状況/参加の意向調査など
- 計算ツールを使って各参加館の拠出額を計算してもらうツール
- その後、リコンシリエーション(拠出額確定)
- さらにもう一度、最終的な意向の確認・・・参加館の確定
- リコンシリエーション?
- 図書館、コンソーシアムと出版者の間で、拠出額と削減額の調整を行う
- 日本ではNIIが事務局としてとりまとめる
- 手順:
- 1. 参加機関が、SCOAP3タスクフォースが用意するツールで拠出額を計算
- 2. NIIがそのデータを計算。リコンシリエーションファシリティにデータをアップロード
- 3. 出版者は出版者が見積もった削減額をアップロード
- 4. 両者が一致すれば問題ない。一致しなければ調停に入る
- 5. 額が合意されれば覚書を結ぶフェーズに進む
- 試算ツールの作成
- 試算例等の詳しい説明・・・記述は省略
- 購読状況調査・・・リコンシリエーション作業の一つとして、SCOAP3対象誌の購読状況も把握する
- 11月時点では91。現在はもっと増えている
- 2012.12・・・参加意向調査
- 今後のロードマップ
- 2-3月・・・リコンシリエーションを経て、確定
- 4月・・・参加館とCERNの覚書へ
- 課題:
- 参加館数を増やすには
- 期待額>購読額
- 支払い方法:請求はユーロ建て
- 2017年以降はどうするの?
研究者から見たオープンアクセス(坂井典佑先生、東京女子大学現代教養学部)
- 砂押さんの講演に出てきた、SCOAP3の日本選定雑誌、PTEPの編集長でもある
- オーピンアクセスについて:柴田さんは「査読済み論文を」とのことだったが・・・
- 広く定義すれば、学術情報を、とも言える
- 広い意味でのOAはarXivによって実現できているとも言える/狭義のOAが今日的課題
- SCOAP3・・・それを財政的に可能にする国際的運動
- インターネットと研究情報:
- 1970年頃・・・郵送でのプレプリント流通が最先端の研究情報を得る手段
- 誰もが自分の考える学術情報を発信できる/査読はされていないので信頼性は自分で判断
- 郵送なのでゆっくりした時間の流れ
- 1980年頃・・・電子メールと電話で研究情報が交換される時代
- 共同研究を電話を常時つないでするような時代
- 1990年:preprint archiveの出現
- インターネットで全世界が対等に研究情報にアクセスできるようになった/色々なハンディを乗り越えて世界中に研究情報を提供できる可能性
- 1970年頃・・・郵送でのプレプリント流通が最先端の研究情報を得る手段
- arXivの特徴:
- 開始・・・1990年頃
- プレプリント=出版前の論文の投稿が原則/査読はまだ受けていない
- 誰もがアクセスできるが、内容は見る人が各自で判断するしかない
- 情報提供ははやい。出版を待つと半年〜1年かかるものがいち早く読める
- 実際にはこちらの方が、進歩の早い学問の世界では内容の確定した1年先の論文よりも今日・昨日出た論文が重要に
- 論文のバージョン=修正履歴が残っている。最初の投稿⇒2番めの修正⇒3番目にどうなったか。時には結論まで変わるものがすべて残っている
- ある意味では公平性が保たれている/最後には出版が待っているが、これが載るかどうか? 多くのarXiv論文は出版直前の形態で、一語一句おなじものが載っている可能性は高い
- 1990年頃以降の主要な論文はほぼ網羅しているが、それ以前の有益な論文はない
- 今は数物を中心に多くの領域をカバー
- 電子化時代の学術誌と図書館
- 1990年以前の学術誌はarXivにはないので、それを閲覧するのは困難。所蔵している図書館・図書室の存在は貴重
- 古い学術誌が倉庫に行くようでは困る。1990年以前の学術誌は利用可能な状態で保存して欲しい
- 電子化は進んだが、色々問題もある。コピーや再利用の制限、契約打ち切り後に今まで読めていたものが読めない、など
- 1990年以前の学術誌はarXivにはないので、それを閲覧するのは困難。所蔵している図書館・図書室の存在は貴重
- arXivと学術誌
- OAによる学術誌の変化
- 従来・・・購読料が要る/投稿料も要るものもある
- 購読料が非常に高い・・・研究者主導・電子版のみの学術誌も出てくるが出版は無料ではなくて誰かが払う課題はある
- 従来・・・購読料が要る/投稿料も要るものもある
- OA学術誌の今日的な課題
- 高額の購読料は自由な学術情報流通を妨げている
- 査読付き学術誌でも自由な流通を実現したいが、ビジネスモデルが未確立・・・
- Green OA:プレプリントでは実現
- Gold OA:ここを査読付き雑誌でできないかが今日的課題。経費の負担はどこで誰が行うのか?
- OA誌の課題
- 購読料を無料にしないと誰もがダウンローできるようにならない
- APCを著者に負担させたら耐えられるのは少数で研究情報発信源を限定してしまう
- 特に理論分野は零細が多いので支払えないところが多い
- そこでひとつの試み・・・主要な学術機関をメンバーとして、そこから投稿される論文は投稿料も機関負担
- SCOAP3を中心とするOA運動・・・
- OAを研究成果の社会還元と捉え、社会全体で支える仕組みづくりをしたい
- 分野によって要求が異なる。一番、SCOAP3を主導しているHEP・実験分野は、巨額の公的投資があるが企業出資は困難。そういう公的出資を受けたものが社会還元するシステムを求めるのは当然
- 審査を通った学術誌に、OAを条件に出版経費を補助、原資は各国で割り当てる
- PTEPを例として:SCOAP3の影響
パネルディスカッション
- モデレータ:
- 木下聡さん(東京大学附属図書館)
- パネリスト:
- Oya Y. Riegerさん
- 砂押久雄さん
- 坂井典佑先生
- 木下さん:
私は東大附属図書館の情報管理課長で、東大のarXiv.orgのとりまとめ役で、かつSCOAP3タスクフォースもやっている。両方に関わっているということで今日はモデレータに。
まず、休憩後のご発表についてフロアからご質問あれば。
SCOAP3は図書館購読費の振替だけではカバーできないのでは?
- Q. IOPの方:砂押さんに。坂井先生とも関係。
費用回収について、既にゴールドのOAについては図書館からの購読費ベースでのお金の取りまとめではカバーできない。SCOAP3の場合、既にゴールドの分はどこから捻出しようとしている?
- 砂押さん:
現状で購読額を集めても期待額にならないのは明らか。いくら集めればいいかも未定なのでなんとも言えないが、少なくともOA分については購読分からは集めない。今はまず図書館分を集めているところ。
- Q.
現在OA分は図書館によるものではない。それもあわせないと全部捻出はできないのでは? 多くを占めているのはAPSやElsevierなのでゴールドOAは微々たるものなんだろうが、購読分を回収できても理論的には回収しきれないのでは。
- 砂押さん:
足りない分についてもCERNがなんらかの支援、どこから・・・財政的支援団体も入っているので、CERNが補填するのではと推測している。
- 坂井先生:
PTEPの場合、PTPの段階では購読料があった。ちょうど切り替えの時期に、SCOAP3が遅れてしまったので、ゴールド後にSCOAP3、ということになる。ただ、SCOAP3との交渉ではPTP実績に従って、と言われているのだが、購読料リダイレクトについてはいよいよはっきりしなくなる。
分野の特性とAPC金額の設定
- Q. 静岡大・図書館長の方(だからこれ匿名性が・・・):
その他の分野の人間からすると、ある限られた、背景と歴史がある分野で進んできた話という印象がある。OA化される雑誌が選ばれたとき、個々の雑誌が著者負担でやっていく意思はどれくらいある? 安達先生にも聞いてみたい。
- 安達先生:
物理学者は賢い集団で、基本的に全て自分たちでやろうとする。加速器を作る時には電磁石の設計からやろうとする。出版もそうしようという。
私は最初の挨拶でも言ったが、これは実験だと思っている。砂押さんは真摯なのできわどいことは言わなかったが、過去20年の電子ジャーナルの問題が出てきている。アメリカの図書館がどうやってきたか、これからどうしようかという情報も得つつやっている。HEPという狭い分野の話だが、そこから出てくる情報は他の分野でも共有できる。成功するかどうかはよくわからないが、arXivでも日本は米独に次いで3番目に位置する国なので、それだけの貢献を研究者コミュニティとしてもするべきと思う。その時に、著者支払いのゴールドモデルが妥当かどうかも検証されるだろう。
SCOAP3は第一に、マクロに見てAPCの平均値を下げた。これは1つの成果。
ミクロに見るともっと別の問題がある。ミクロを積み重ねてマクロになるかが学問的にも難しい問題で、砂押さんの参加しているタスクフォースはその矛盾をどう現実的に解決するか、極めてプラクティカルな問題をしている、その普遍性も検証しているという認識。
ストレートには全く答えていないが、大変興味深いと思う。他の分野ではずるずるといくんだろうと思うが、だんだんきつくなってくるだろう。例えば、ユーロが高くなってくるだけで日本にとっては危うい。半年前までは強気だったんだけど・・・(苦笑) 大変困惑中。大学図書館で次に契約する際には円安は極めて厳しい。笑い事ではない。このあたり、国際的な場で電子ジャーナルの問題を解剖していく、そのプロセスとして大学図書館の方々にぜひ参加して欲しい。
34の大学が参加、44の大学が未確定、といったが、名前をCERNに送った。名前を出すと出版者からの請求書の根拠がわかる、出さないとわからない。とにかく手を挙げることは重要だし、日本の今までの学術活動を国際的に見てもコミットして行かないといけない。図書館も、少なくとも大学図書館はそういう状態に置かれている。情報交換・戦略会議でもある。ぜひ大学図書館のご支援もいただきたい。
- Q.
こういうことは図書館長の仕事、それに学会というコミュニティの仕事と思う。こちらにも渡して欲しい。
もう1つ、走り出しているところご苦労も多いと思うが、1論文のAPC単価がまだ高い。私自身はOA雑誌をJSTを使って早くからやっているが、1,000ドルでできている。Trialであればなおさら、コストダウンをがんばっていただくと末広がりになるんじゃないか?
- 木下さん:
今日のテーマはOAの財政支援、図書館によるということだが、実は図書館の財政の方がヤバイ。OAをネタにEJやAPCのことが今日のディスカッションになってもいいかと思う。
- 安達先生:Oyaさんに。
arXivのメンバーシップは基本的に各大学等が参加しているんだと思うが、イギリスのJISCやドイツ、フランス等は、国の財政支援が背景にあるように思う。日本ではこの手のことを国が支援する雰囲気が全くなくなっているが、ヨーロッパの英独仏は国がもっと関与して見える。arXivのガバナンス確立に国が出てきて、支援することはあった? 例えばJISCの意思決定の場合。あるいはイギリスも名前はJISCだが各大学が個別に意思決定?
- Oyaさん
非常に多様な戦略を使っている。arXivのメンバーシップを見てみるとわかるが、arXivの利用の多様性にも似ている。スタンダードがあるわけではないが、大学レベルで見た資金源は図書館、学部、provostなどもある。
実際に色々見ると、組織文化の違いは確かにある。ドイツの場合、arXivへの協力を募ったら最初にドイツ技術情報図書館が関心を示し、国内の連携。コーディネーションを一手にやると言ってきた。ドイツはドイツ技術情報図書館ともう1機関が、ドイツを代表してドイツ分を払っている。コンソーシアムもたちあげて、ドイツの様々な機関から資金を得るだけではなく、ドイツの学者・研究者を巻き込んでarXivの将来に関わっていこうとしている。
イギリスの場合、JSICが最初に拠出金の集金を申し出てきた。実際にイギリス国内で利用頻度の多い機関に代わって集めてくれている。最初の3年はJISCが支払っていたが、2013年以降はイギリス国内での集金をJISCが行うようになる。ということで、2013年以降のJISCの関わり方は日本・NII・安達先生の役割と似ていると思う。
私たちとしては資金提供あるいは運営への関与、その他のサポートとして国ベースのコンソーシアムを通して関わってもらうことを奨励している。また、そのような関心を広める方法として、Member Advisory Boardに席を設けたり、そこでの役割を果たしてもらうべく、その一員になってもらている。
Member Advisory Boardは4つの席が今、ある。JISC、ドイツ、カリフォルニア大、アメリカCIC。将来的には是非、NIIにもその中に連なって欲しい。
- 木下さん
安達先生の質問意図としては国別にやり方があり、EJも日本とは国によってやり方が違う。どうやってどこが主体にどう出すかが国によってバラバラとわかったのだが、arXivも似ている、と。国際事業をやる際には避けて通れない問題といえるかも。
- 木下さん:
主題は「図書館によるOA財政支援」ということですが、それぞれの図書館が財政的困難を抱えている時にどう支援できるのか?
まず研究者から見て、図書館にどう貢献して欲しいか、坂井先生、一言。
- 坂井先生
難しい。東京女子大学に来る前は東京工業大学に長くいたのだが、その前にはKEKにもいたが、比べてみると大学によって大きく違うのではないかと思う。東京女子大学の図書館にもPhys. Rev.もJHEPもあるが、それがOA化して購読料がなくなるとき、リダイレクトして欲しいとは要望はするが、図書館全体の中でどう実現できるかは見えない。一方、東工大なら当然、Scienceのセンター館でもあるし、正面から取り組んで道筋をつけられると思う。大学によって対応が違うのでは?
- 砂押さん
一担当者の立場からすると、参加を未確定としている図書館さんの事情もわかる。タスクフォースとしては支払うんだったら貢献、という形がいいと思うが、参加意向の調査で「未確定」のところでご意見ももらっている。様々あるが、意思決定にそれなりの委員会を通さなければいけないところもあるだろうし、中には雑誌費用自体を見なおさないといけないので回答できない、というところも。あるいは図書館ではなく研究室で研究費として購入しているので決められない、という話もある。担当者としてはやりにくいところもあるんだろうと思うが、研究費の場合にはむしろ研究コミュニティから働きかけがあれば図書館としてもスムーズにできるのでは?
- 木下さん
東大の事情も。SCOAP3は「雑誌が安くなったから払え」という根拠だが、図書館は色々な学部等から預かったお金で雑誌を買っていて、安くなったからと右から左にはできない。やはり図書館だけでは片付かない。館長を通して、大学執行部から、図書館ではなく大学が学術情報を支えるんだという視点から、図書館は広報するにしても関わるのはもっと上のレベルからではないか、と考えている。
- Oyaさん
Cornell大学の図書館は、この3年で、人件費が15%削減されている。予算に苦しんでいるのは日本だけでなくアメリカも一緒。厳しい財政の中でやっていかないといけない。現在は混乱期というか、非常に複雑な時期。
出版モデルのインフラが何百年も前に確立して、ずっと踏襲してきたが、OA等も出てきて変わろうとしている。どう変えるかは苦戦もするし耐えないといけないこともある。Cornellも苦心しているところ、1ヶ月に1回は新たなOAの取り組みが協力を求めてくる、それにどう応えるかの基準を考えている。痛みを伴いながら取り組んでいるのは共通の問題ではないだろうか。
- 木下さん:Oyaさんに。
5つの持続可能性のための原則があったが、どれが一番大事で、どういう手順で進めるのが良いとお考え?
- Oyaさん
5つの原則はあくまで統合的に見るべきものと思うが、1つだけ選べというなら、実際の科学者のワークフロー、ニーズにきちんと応えられるシステムを作り、サポートすべき、というところだと思う。色々な技術を実験してみるのももちろん大事だが、それ以上に学者や研究者にとっての価値、実務にあっているのかどうかの観点から何が重要なのかを考えることに重きを置きたい。
- 木下さん
日常業務に紛れているとついつい金のことに目がいくが、一番大事なのは研究活動の支援ということを思い出した。忘れないで取り組んでいきたい。
- Q. 横浜国立大学図書館の方:皆さんに。
SCOAP3について、今まで著者が投稿料を払って雑誌に投稿していたのが投稿料もいらなくなる。図書館は出資金を・・・とのことだが・・・
- 木下さん
投稿料については誰も全貌を把握していないんじゃないか? その把握の必要は感じてタスクフォースでも議論している。投稿料相当をSCOAP3が払うわけではないが、払わなくていいようにしよう、コミュニティ全体で支えようというのが意図だと思う。
- 安達先生
より正確に言うと、CERNが出版者に払うのは、その雑誌で出版する論文×入札で決まった投稿料。Phys. Rev. Eなら1,900ドル×論文数。それが普通のモデルだと各著者が払っているのに相当するわけだが、出版経費をまとめて払う見積もり根拠としてAPCを使っている。逆に言えば、未来にその雑誌に論文が何本採録されるかわからない、そうなるとお金が足りなくなるはずで、何%論文が増えるかも入札範囲に入っていて、多少は増えても払うことになっている。マクロに見るとトータルの出版経費、ミクロに見ると投稿料、ということになる。
その結果、PTEPには高エネルギー分野の論文が載ればCERNからお金が入る、ということで動く。
- 坂井先生
たぶん今のご質問の趣旨は投稿料と購読料がはっきりしない面があることだと思う。かつてはHEPでも投稿料をとる雑誌があった。現状では投稿料はもう・・・昔は有料雑誌があったのだが、みんな無料に流れてしまって、少なくともHEPでは購読料として経費を集めるモデルになっている。たぶんSCOAP3はその部分がはっきりしないのを改めて、すべて出版経費である、とした。実際にはHEPではそれは購読料として図書館に請求されている。物理でも物性の分野だと購読料を取り、かつ著者からも投稿料を取る方が多い。日本物理学会でもそう。そのあたりは複雑。
- 木下さん
前回セミナーでは問題提起がなされたが、今日のセミナーは演習だと思う。
分野は限られるが高度な難問。これを我々は長い時間かけて解いていかないといけない。すぐに回答が出る問題ではないが、日々の業務で実績を積み重ねてできることからやるしかないと思う。
さえない結論ではあるが、これでディスカッションを終えたい。
Oyaさんの「Cornell大学でも人件費は15%減っている・・・」というコメントがあったのは良いタイミングであったように思います。
「お金がない」で色々片付けたくなるわけですが、お金がないからこそどう持続可能性を担保するのか頭を働かせないといけない・・・と、今まさに実践されている方から述べられると、色々逃げが打てなくなり。
図書館だけで予算の振替が困難であれば研究者の側にも働きかけつつ・・・ただまあ、研究者は基本やたら忙しいので、その忙しさを軽減するものですよー、的な形で提案し巻き込んでいければ、とは思うんですがさて具体策は。
"CERNからの「君のところは入らないの?」メール対応時間が減りますよ"とか?(そんなメールがあるのかは知らない)
それにしても、Oyaさんのお話で初めて気づきましたが、いやもともともうHEPがarXivの第一勢力ではないのは知っていましたが、今やコンピュータサイエンスの方が投稿多いくらいなんですねー・・・
それでもCS研究者にとってarXivをまず朝見る、という行動が定着しないのは圧倒的な母数と論文数の多さによるものですかね。
数学研究者がもう第一勢力でもあるそうですが、このあたり、「物理学の」と紹介されることの多い主題リポジトリ・arXivの変化と、それがどういう影響を持ってくるのか、というのはちょっと気になってきています。
もっとも研究者の母数とうちarXivを常用する割合、という視点で見ると昔とそう大きく変わっているのかは不明ですが。
今回のセミナーを受けてarXivのDigital librariesカテゴリ論文を見てみたら最近も面白そうな/よく知っている著者の投稿があったりもするし、自分ももうちょっと常用してみますかね。
英語でDigital libraries枠に入れられそうなの書いたら登録してみるとか・・・?