かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

「L-1グランプリ2008 未来のスーパーライブラリアンは君だ」観戦記(遅ればせながら第34回ディジタル図書館ワークショップ感想)


先にお伝えした*1通り、3/24(月)に秋葉原ダイビルで開催された第34回ディジタル図書館ワークショップに行ってきました*2

お目当ては勿論、2007年日本の図書館界を騒がせた3つの図書館システムプロジェクトが一堂に会するという「コーディネータGJ!」としか言いようのないパネルディスカッション、「L−1グランプリ2008」。

L-1グランプリ2008 未来のスーパーライブラリアンは君だ」

パネリスト:
  「U-20プログラミング・コンテスト」最優秀賞
  秋山貴俊(岐阜県立東濃実業高校)
  加納愛実(岐阜県立東濃実業高校)
  ※図書館システム「猫の司書さん」を開発


  情報処理推進機構 未踏ソフトウェア創造事業 採択
  小野永貴(筑波大学図書館情報専門学群
  安西 慧(筑波大学図書館情報専門学群
  ※図書館システム "Shizuku"を開発


コメンテータ:Project Next-Lメンバー
  原田隆史(慶應義塾大学
  林 賢紀(農林水産研究情報センター)
  田辺浩介(東京工科大学図書館)
  小野 亘(国立情報学研究所


スペシャルサンクス:
  久保利光岐阜県立東濃実業高校)


コーディネータ:
  宇陀則彦(筑波大学

「猫の司書さん」、「Shizuku」、「Project Next-L」についてはそれぞれ以下あたりを参照*3

  • 猫の司書さん

「猫の司書さんはかわいい働き者」---U-20プログラミング・コンテスト,最終審査結果発表 | 日経 xTECH(クロステック)
「猫の司書さん」に会ってきたよ! - 図書館退屈男

  • Shizuku

Project Shizuku 〜次世代図書館情報システム〜

  • Project Next-L

http://next-l.slis.keio.ac.jp/wiki/wiki.cgi


Next-LのMLに(一応)参加していてShizukuの面々が寝泊まりしている(笑)部屋の上の研究室で生活しているとはいえ、「猫の司書さん」に会うのは初めてだし、よく考えると動いているShizukuの画面を見るのも初めてな気がするのでそうとうワクワクしつつ聞いてきたわけですが・・・。
やあ、マジ行って良かった。
卒業式前日、雨の中を傘もささずに*4行った甲斐があった。


以下、パネルディスカッションの流れに沿ってレビュー。


「Shizuku」、「猫の司書さん」の紹介

まずは大学生、高校生それぞれの開発した図書館システムの説明から。
Shizukuは小野くん、「猫の司書さん」は加納さんがそれぞれ自分たちの紹介したわけですが・・・
いやー、先手Shizukuは卑怯だろ。
大学生と高校生が云々じゃなくて、小野くんは(非公式)図書館情報専門学群プレゼンテーションランキング暫定1位だぞ。
今回もその実力はなんら翳りを見せることなく、「Shizuku」命名の由来である映画「耳をすませば」の説明で場内をどっと沸かせるなど本当手を抜くことを知らない。
「これは『猫の司書さん』不利だろ・・・」と思うも、奇才のプレゼンテーションの後であるにも関わらず自分のペースを崩さず冷静にシステムの説明をする加納さん。
「利用者にお知らせメールを簡単に送ることができる」という説明のところでは会場内で突然携帯電話が鳴り響き、何事か・・・と場を一瞬凍らせておいて「今、届きました」と自分の携帯電話を取り出して見せる演出付き。
やばい、この高校生出来るぞ
システム自体もShizukuが思いっきり遊びの要素に特化したものを見せれば、「猫の司書さん」はかわいいグラフィックを取り入れながらも実直なまでに「使える」システムであることを見せつけるという互角の勝負。
初戦はそのまま引き分け、続いて「Shizuku」と「猫の司書さん」それぞれによる相手へのコメントへと流れ込む。


「Shizuku」、「猫の司書さん」開発スタッフによる意見交換

(以下、いちいち書くのが面倒くさいので「Shizuku⇒S」、「『猫の司書さん』⇒C(Catだから)」と記述します)
(お題を出しているのはコーディネータの宇陀先生です)

「それぞれ相手のシステムの第一印象を教えて下さい」

S ⇒ C(Shizukuから「猫の司書さん」へコメント):「かわいい」
C ⇒ S(「猫の司書さん」からShizukuへコメント):「楽しそう。動きが多い」

「『ここはやられた!』と思うところは?」

C ⇒ S:「デザインが今風。ドラッグ&ドロップで操作できるところが凄い」
 (Sからのコメント:「どう動きをつけるかは皆で悩んだ。嬉しい」)


S ⇒ C:「『あったらいいな』と思う機能がしっかり入っている。完成度が高い」
 (Cからのコメント:「色々詰め込んだが、もっと追求したいこともあった」)


「(『猫の司書さん』へ)なんで猫なんですか?」

C:「作業中の落書きだった。結果オーライ。遊びで作った」


「『俺ならもっとこうするのに』というところは?」

S ⇒ C:「やはりLAN外へ出ること(「猫の司書さん」は現在まだLAN外との接続はサポートされていない)。外部連携やAPIを自分ならやる」
 (Cからのコメント:「当初は学内限定のシステムを想定していたが、どんどん拡張していった。外からもアクセスしたいし、図書館同士のつながりの利点もあるのでぜひやりたい」)


C ⇒ S:「(Shizukuは)動作が重い(デモ中、とまりかけることがしばしばあった)。マシンスペックや機種によっては使えないのではないか?」
 (Sからのコメント:「その通り。プログラムの最適化はまだ出来ていない。軽さよりも斬新さを狙った、と言い訳をしておく」)


S ⇒ C:「猫はもっとアピールしても良かったのでは?(ロゴとシステム起動時等のムービー以外では『猫の司書さん』における猫の登場場面は意外と少ない)」
 (Cからのコメント:「アイコンに猫を使いたかったが、プログラミングコンテストの〆切に間に合わなかった」)


「『自分たちのここを見てほしい』というところは?」

S:「『楽しさ』。(既存の図書館システムにおけるOPACの表示のような)文章だけでは『本』を感じられない。(Shizukuで)『本を使っている』感じを楽しんでほしい」
C:「利用者も、管理者も使っていて楽しいこと。機能としての売りはメール送信、特に督促状」




・・・・・・す、すげぇ。
褒めるところはしっかり褒め称えておいて、相手のシステムの弱点だと思ったところをつくときはこれと言って容赦しない・・・がっぷり組んで闘ってやがる・・・
それでいて、「ここを見てほしい」ところとしては両陣営ともに「楽しさ」を挙げている。
Shizukuは使う側のそれを「本を使う実感」として追求し、「猫の司書さん」は利用する者だけでなく「管理者も楽しめる」というこれまでになかった発想をさらりと述べる・・・あかん、まさに今自分は「未来のスーパーライブラリアン」たちに対面しているんじゃないかと思ってお兄さんちょっと涙ぐんじゃったじゃないか*5


両者一歩も引かないまま、事態は収拾するどころかさらに混迷を極める。
ここからずっとNext-Lのターン!


Project Next-Lメンバー(コメンテーター)によるコメントタイム

(4人のコメンテータがそれぞれのシステムについて一言〜三言くらいずつ感想を述べていきます)

(全体の感想)
・「Next-LとS、Cの方向性は近いと思う。協力してやっていきたい。」
・「両システムに共通なのは利用者志向/面白い/使いやすい、という点。その上でSは新しいものを、Cは現在により近いものを目指していると感じた。」
・「インタフェースについて・・・Cはよく考えられている。猫の登場が少ないのもかえって邪魔じゃなくて良い。Sは面白さが追及されている」


(コメント)
・Sへ:「使う分には面白いが、(「仮想本棚」を)作るときはつまらないのではないか? 作っているときも面白いことが要る。時間がかからなくても出来ている、というような」
 (Sからのコメント:「"見る面白さのために(ユーザは本棚を)作る"と思ったが・・・やはり、もっと作る時の楽しさが要ると思った。"本棚エディタ"とか。ただ、やはり〆切が・・・/いずれはShizukuで"本の街をつくる"ような感覚を実現したい」)


・Cへ:「(Cは)"大人のシステム"。逆に高校生がもっと「欲しい」と思うような機能があっても良かった。"お知らせは邪魔"とか、"受験対策"とか。今までになかったものも欲しかった」
 (Cからのコメント:「〆切が・・・/メールマガジンについては購読判断を利用者が出来るようになっている」)

  • 林さん(農林水産研究情報センター)

(コメント)
・Cへ:「ちゃんとやればちゃんと出来ることの見本。良くを言えばこの先が欲しかった。機会があれば続けてほしい」
・Sへ:「スライドの全てが素晴らしい。/貸出履歴を使うには現実には厚い壁がある。一般の人に見てもらうことで、その壁を超えられれば」
 (Sからのコメント:「貸出履歴の利用については当初から多くの意見があったが、mixiAmazonなど現在のサービスを見ると、多くのユーザはむしろ自分の情報を公開したがっているのではないかと考えた。ならばそのニーズにも対応し、公開したい人は出せるようなシステムにしたい」)

  • 小野さん(NII)

(コメント)
・Cへ:「完璧。開発スタッフは図書館のヘビーユーザだったの? とにかく聞き取りが完璧。/今は図書館員とシステムの間に壁があるが、Cはそこを超えられている」
 (Cからのコメント:「(加納さんは)もともと学校図書館のヘビーユーザ。/学校司書への聞き取りは頻繁に行った。専門用語もわかりやすく、順序だてて説明してもらえた」)


・Sへ:「履歴を使ったユーザの相性判定システムとかもあると面白い。仮想本棚における分野別の棚へのドラッグ・・・というのは、実は(ユーザによる資料への)タグ付けになっている。難しかったことをインタフェースでさらっとクリアしているところが凄い」
 (Sからのコメント:「作っている段階から考えてやっていたわけではないが、結果的に出来た。/相性判定については・・・今は1つの本の貸出履歴からユーザ間がつながる仕組みだけだが、次は複数の本を用いてそのような試みもやりたい」)


と、ここまで順調に来たところで田辺さんが(さすがに4人目ともなるとネタが尽きたのもあるのか)Next-Lの機能説明のために突如乱入!
ファイルもOPACで扱える、Youtubeなどの動画も扱える、ソーシャルタグもあるし流行りの機能はたいがい詰め込んである、という説明に会場も「Shizuku」、「猫の司書さん」とはまた違ったシステムへの興味をひかれた様子。


そうしていよいよ盛り上がってきたところで、最後にフロアーからの質問タイムに。
だが待て、気をつけろ!
この場にはid:ceekzさんはじめ数名のはてな図書館系ブロガーがいる様子だぞ?!

フロアーセッション

  • 久保先生(「猫の司書さん」顧問)

「(Sへ)Aさんの本棚の本を見たBさんが自分の棚にその本を入れた場合、Aさんには通知されるの?」

S:「現在はインタフェース上で明示できないが、重要だと思う」

「自分がすごい好きな本を紹介して、それを見た誰かがその本を本棚に入れてくれた・・・そこから交流が持てると凄く楽しいと思う」

  • 杉本先生(筑波大)

「(両方へ)ケータイ、DS、Wiiなどのハードを使えるとしたらどんなインタフェースにしたい?」
S:「ケータイの画面で何かするよりは、IC等、接触することで何かインタラクションが起こると面白い」
C:「やはりケータイで、アプリで検索/予約ができるとか。あとは本のバーコードをケータイで読んでレビュー、とか」


「DSについて考えたことは?」
S:「Shizukuはドラッグ&ドロップで動くので、DSのインタフェースは面白い」

(Sへ)「自分用の本棚と、他人に見せる本棚は一緒? "人に見せる"ための並べ方と自分のための並べ方に違いが出せたりはしない?」
S:「現在は一緒。でも確かに他人用と自分用では違うと思う。それから、シリーズものを束ねる方法などについても色々検討したい」


(フロアー全体へ)「別のプログラミングコンテストにも出すなど今後も両システムを続けて行って欲しい・・・という話もあったが、例えば図書館総合展でまたプログラミングコンテストをやってみては? フロアーに関係者はいない?」
林さん(農林水産研究情報センター):「それは面白い。今年は例年の倍、スペースがあるらしいし、誰かコネのある人はいないか? フォーラムとして場所を借りるとお金がかかるよ」
原田先生(慶應義塾大学):「呼びかけをしてみる」
宇陀先生(筑波大):「L-1グランプリ2009開催の可能性もある」

(両方へ)「求められる最小公倍数をとろうとすると機能は膨れ上がっていく。取り込む機能の取捨選択はどうやっているの?
S:「"本の向こうに人が見える"ことを重視している。ユーザが楽しく思うか否か。あらゆるソースからドラッグ&ドロップできるようにしたい」
C:「図書館のシステムに必要なことを最低限入れた上で、自分たちが欲しいものを、実装しやすそうなものから入れていった」


そして最後に久保先生からShizukuが説明すっ飛ばしてた機能についての質問があり、L-1グランプリ2008のプログラムはすべて終了、と。
やあ・・・熱い、なんとも熱いセッションであった・・・
っていうかなんか最後の方でとんでもない提案がなされてすんなり受け入れられていたのはなんだったのか。
冗談抜きで、パネルディスカッション終了後に会場で色々と関係者が画策していたらしいし・・・
今年の総合展時期はさすがに院の授業がある気もするが・・・こりゃ総合展優先でカリキュラム組んでおくべきかなあ。


感想

とにかくShizuku、「猫の司書さん」ともに打ち出した「ユーザ志向/楽しさの追求」という図書館システムの在り方に衝撃を受けた。
自分はどっちかっていうと研究に使って便利かどうかばっか考えてるタイプなわけだが・・・仕事とは別に、プライベートな部分でああいう楽しそうなシステム使えたら本当にいいなあ。
あるいは実際に自分が図書館員だったとして、「猫の司書さん」みたいなデザインのシステムが入っていたら毎日の仕事が潤う気がする。
Shizukuがもうちょっと軽く使えそうだったら、はてブ使うようなノリでどんどん仮想本棚に本を入れていってしまいそうだ(もちろん一番膨れ上がる本棚は「あとで読む」だろう)。


・・・と、一利用者としてはそう思うわけだが・・・
図書館界の中の人からのリアクションはどうなんだろう。
特にShizukuの貸出履歴の使用とか。
まあでも、たとえそれで反対にあったとしても、コメントの中で林さんも述べられているように、より多くの一般の人の目について、それらの人々がShizukuみたいなシステムの存在を望んだならば、それが力になって実装への後押しになるのではないかと思う。
・・・っていうか俺が使いたいー。
筑波大学附属図書館で実験やろうよー*6



あと、結局パネルディスカッションで聞けなかったのですが。


で、どうやったらShizukuを使って月島雫みたいな女の子に会えるんですか。
ポイントは雫に出会うことと同時に聖司みたいな男子にかっさらわれないことであると思うんだが・・・
あ、でもShizukuの中に複数の本から連想検索が出来るシステムを取り込むと、聖司がやった「意中の女性が読みそうな本を先読みして読んでおく」という技が誰でも使える技術に陳腐化するな・・・それである程度妨害出来るか?*7

        • -

3/28 1:19a.m.追記
そうそう、すっかり書き忘れていたけれど明日はShizuku学会デビュー第2段、「第65回デジタル・ドキュメント研究会 第90回情報学基礎研究会 合同研究会」の日なのですよ。


先ほどid:kunimiyaの発表練習風景を見てきたのですが・・・
あれはヤバイ。
DLワークショップで垣間見せたのとは全く違うShizukuの新たな面が明らかに!
時間に余裕のある方はぜひ現場で目撃してくることをお勧めします。
朝一ということで大変そうではありますがー。*8

*1:ディジタル図書館ワークショップ行ってきます - かたつむりは電子図書館の夢をみるか

*2:その他の観戦記についてはこちらも参照:「ライブ見ました: さ迷う」、「http://kamata.lib.teu.ac.jp/~tanabe/diary/20080324.html」、「図書館雑記&日記兼用:猫の司書さんに会ってきた - livedoor Blog(ブログ)

*3:「2007年の図書館界を騒がせた」というのは誇張でもなんでもないので検索すればまだまだいくらでも情報出てくるんじゃないかと思います。気になる人は色々追ってみてください。

*4:まあ忘れた俺が悪いのだけど

*5:っつってもShizukuよりは1歳しか上じゃないんだけどね。「猫の司書さん」とは4つくらい離れてるが・・・って後者は自分で言ってて凹むなぁ・・・

*6:きの規模の図書館、この規模の蔵書群でどう作動するのかはさておき

*7:雫的な女性の仮想本棚から選んだ本で連想検索かけて、関連性の高そうな本を先に読む・・・を繰り返すと出来る。ただし、他人の仮想本棚を見た際に通知が行くという久保先生提案の機能が実装されると単なるストーカー野郎になり下がるので注意が必要。なお「聖司も単なるストーカー野郎じゃなかったか?」という点については議論の余地がある。

*8:ところで今確認したらDLワークショップで質問者だった矢代さんも発表者として参加されているのですね。Shizukuの面々、レビューよろー。