「Open Access Week:日本におけるオープンアクセス この10年これからの10年:セッション1 オープンアクセスにまつわる海外動向を俯瞰する」(第5回 SPARC Japanセミナー2012 参加記録1)
毎年10月はオープンアクセスウィークの季節ですよ!
オープンアクセスウィーク2012は,10月22日〜28日です
オープンアクセスウィーク(Open Access Week: OAW)は,オープンアクセスを広め,考えるためのイベント週間です。アメリカのSPARC主催のもと,毎年,10月の最終週に設定されて,いまや世界規模のイベントとなりました。
日本でもオープンアクセスについてより多くの人が知り,共有できるよう,盛り上げていきましょう!
このブログ読者の方には今更と思いますが、オープンアクセスとは学術的な文献を、インターネットを通じて誰もが自由にアクセスできるようにしよう、というコンセプトです*1。
オープンアクセスウィークではこのオープンアクセスにまつわる広報活動やイベントが世界中で開催され、自分も10/23には筑波大の附属図書館でお話させていただいたりしたのですが*2。
日本国内のイベントで一番注目と言えば、毎年OAWで特別セミナーを開催してきた、SPARC Japanセミナーですね。
オープンアクセスを推進するイベントが世界で毎年開催されます。無料で論文にアクセスできるようにする制度や基盤作りに加えて,研究や教育を推進することを目的とした論文情報の自在な活用を支援する活動に発展し,現在では情報流通や評価という側面も併せ持つ,より大きな活動に拡がりました。これら活動の趣旨を広め,賛同する科学者,図書館,出版社が共に研究環境支援について考えるのがオープンアクセス週間です。
今年は10月22日(月)から10月28日(日)となっており,NIIでは26日(金)にセミナーを開催いたします。今回は全日の講演日として,海外事例の紹介,国内のさまざまな立場の方々の活動報告,オープンアクセス運動が研究や教育にもたらす影響について情報を共有し,日本におけるオープンアクセスの全体像を俯瞰する会として企画いたしました。さらに今後のオープンアクセス運動についても,政策的な側面からの講演も織り交ぜ,皆様と一緒に将来を展望したいと考えています。
もちろん自分も行ってきましたよー。
今回はオープンアクセスウィーク特別セミナーということで講演者数もいつもより多く、時間も増大6時間。
当然記録量も大増大・・・! ・・・過ぎるので、今回は午前の部と午後の部の2エントリに分けてアップしたいと。
午前の部では物理系の出版者で活躍されるHaynes氏と、大学図書館で機関リポジトリについて活動されているお2人による、主には海外の動向紹介でした。
以下、当日の記録・・・ですが、例によって例のごとく、min2-flyの聞き取れた/理解できた/書取れた範囲の内容であり、かつ今回は長丁場に備えていささかペースを押さえ気味にしていたので記録漏れも多いです(汗)
ご利用の際にはその点、ご留意いただければ幸いです。
誤字脱字、事実誤認等はコメント欄にてご指摘いただければー。
では、まずは会の趣旨説明から!
開会挨拶(安達淳先生、国立情報学研究所)
- 今週はOpen Access Week、世界的に色々なイベントがある
- SPARC Japanはもう10年近く活動
- それではコーディネータの谷藤さん、よろしくお願いします
概要説明(谷藤幹子さん、物質・材料研究機構 科学情報室)
- OA Weekは今年6年目。その今週最後のイベントとして、できるだけ良い会になるようにしたい
- 今日の会は長いが、バックグラウンドを10分でお話したい
- なぜ谷藤さんがモデレータ?・・・物材機構は図書館がOA誌を出す、それも購読型からOA誌に移しインパクトファクターも上がっている
- 機関リポジトリも努力し、研究者の役に立つようなアーカイブを目指している
- OA Week 6年目に色々な方がお話することで、これからの10年の夢をともに抱けるといいと思う
- オープンアクセスという言葉はあちこちで効かれるようになった
- OA・・・インターネット上で流通=デジタル、フリー/オープン/パブリック、クリエイティブ・コモンズ・・・CC-BY
- それを支える出版/投稿料についても議論
- OAアーカイブ・リポジトリ・・・arXiv、Open DOAR/Open Repository、Data Repository
- OAジャーナル・・・査読・受理された論文を無料で閲読できる/Article Processing Charge(掲載料)・・・その金額は?
- コスト、持続性から考える金額の適正さ
- 物材機構の研究者・・・APCの使途、その内訳がわからないので納得いかないという人もいる/どこにいるかで金額が変わる(円/ドル)のが納得がいかない、など
- OA・・・インターネット上で流通=デジタル、フリー/オープン/パブリック、クリエイティブ・コモンズ・・・CC-BY
- PeerJ・・・ピーター・ビンフィールドさん(OAメガジャーナルの回で来日)のビデオレターが紹介!
- (min2flyコメント:ここの記録は無理です(汗) 英語で話聞きながら日本語でメモは取れないんだって! 同時通訳を同時に文字化できるスキルがあったらそれでご飯食べるわ!)
- 登録すれば生涯99セントで投稿できるモデルの登場
- OAメガジャーナル・・・安く、手軽に出して論文が集まることでジャーナルのボリュームができる/全体観のあるビジネスモデル
- もうOAリポジトリに近い存在??
- 生化学・遺伝学・コンピュータサイエンスで活性化
- 文部科学省・学術情報基盤作業部会の2012.7の提言・・・2012.10.25には英訳版も公開!
- http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/toushin/1323857.htm
- フィンチ・レポートよりも日本の実態にあっているし穏やか
- 欧米での状況・・・
- OAジャーナルそのものの出版詐欺の話も見逃せない
- 図書館という信頼性あるところを通じる限り、お金も情報流通もある程度統制できる
- 研究者が出版者と直に、ということだと、その出版者・雑誌の実在や質に関しての問題も
- OAジャーナルそのものの出版詐欺の話も見逃せない
- 以上のような背景のもと、今日は・・・
- 図書館界(重鎮・現場)、研究界からそれぞれ人を招いてお話いただく
第1セッション:オープンアクセスにまつわる海外動向を俯瞰する
基調講演「学術出版とオープンアクセスに関わる学術の発展」(John Haynesさん、American Institute of Physics, Publishing)
- 他己紹介:出版界で長く化学、物理出版、それも英米双方で関与。世界でもこの分野に厚い方
- OA Weekなので少し遊び。フランスのあるテレビ番組でインタビュアーがする10の質問、というのがある。うち2つを今日は全員に尋ねる
- Q. 今の職業以外でやってみたい仕事は?
- A. レストラン・・・(聞き取れず)
- Q. 絶対にやりたくないのは?
- A. 図書館員(min2flyコメント:同感)
- Q. 今の職業以外でやってみたい仕事は?
はじめに
- OA Weekに話ができることを嬉しく思う。SPARC Japanに感謝したい
- American Institute of Physics(AIP)・・・物理分野では中規模の出版者。様々なアウトリーチ活動をしている
- どういう分野をカバーしているかはまた後ほど
- 話に入る前に・・・質問があればいつでも挙手を
- 会場に図書館員は? 出版者の人は?・・・それぞれそこそこ?
- 今日の話は3部構成:
- イントロダクション・バックグラウンド・・・OAの背景から一歩踏み込み、その機動力とは何か、阻止しているのは何かまで話したい
- 最近の調査の結果も話したい。過去10年のOAのトレンドを示す結果
- AIPとしてのOA、特に物理分野での経験について
- アメリカ、イギリス、ヨーロッパの政策状況について・・・日本との比較もしつつ
- イントロダクション・バックグラウンド・・・OAの背景から一歩踏み込み、その機動力とは何か、阻止しているのは何かまで話したい
イントロダクション・バックグラウンド
- OAの定義
- デジタル/オンライン/無料/ライセンスの制約がほとんどない=CC-BY
- 「真の」OAは価格だけではなく権利面でのアクセスの障壁を除いたものを指す。無料かつ制約のない利用が可能
- OAの種類・・・Green or Gold
- OAモデルのバリエーション
- 真の/完全なもの・・・出版と同時にOA
- Delayed OA・・・出版後、一定期間を過ぎてからOAに
- Hybrid OA・・・多くの雑誌で採用。著者がAPCを追加で払うとOA、そうでないものは購読モデル、という組み合わせ
- 購読⇒OAにあまりリスクなく移行できるので日本でも検討できるかも?
- ただしあまりHybrid OAへの関心は高くない
- どのOAモデルも著者から直接、掲載料を徴収するのは困難。機関メンバーとして、大学や図書館にメンバーになってもらい料金を払ってもらう、その機関の著者のものは無料で掲載、という形態が多い
- 図書館がライセンス料の一部を負担することでAPCに関わることも。図書館の予算をAPCに回すモデルの一つ?
- ほとんどのOA誌は低所得国の著者はAPC支払い免除としていることが多い
- Article Processing Charge:APC
- 平均すると900ドル/論文?
- 幅がある・・・OA雑誌では20ドル〜3,800ドル/論文
- そもそも実際には多くのOA雑誌はAPCを取っていない
- 主なOA出版者
- PLoS(非営利団体)
- BioMed Central
- Hindawi Publishing Corporation(エジプト)
- Oxford University Press(10年以上前に開始。先駆者)
- Copernicus
-
- Springerはかなり早くからOAに着目。後にBMCを買収
-
- 2000-2010の各出版者の論文数推移・・・伸びている
- OAの市場を牽引しているものは?
- インターネットを通じて学術文献を広く流通させる、という理想の追求。その動きは加速的に広がっている
- 資金を提供するファンドや学会等も、論文をできるだけ広く周知することがミッション。OAのモデルと目指すところは合致する
- シリアルズ・クライシス・・・論文・雑誌も増えしかも値上がりし図書館の予算はそれほど増えず危機を迎える
- OAの阻害要因
- 研究者の従来のジャーナルに対する見方が新しいものを受け入れない。特にインパクトファクターの高い雑誌に投稿・発表したいという従来の姿勢からなかなか変わらない
- 経済要因。著者/研究者がAPCを負担できるか?・・・なかなか負担できない者も多い
- Publisherもfunderも大学の管理部門も、今までの拠出方法からOA出版支援にどうお金を出すのか、うまく移行できていない
- OAマーケットのサイズ
- DOAJには7,372のOA雑誌がリストに
- 主要なデータベースには入っていないものも多い。小さく、インパクトファクターも低いあるいは持たない
- 年に200以上の論文を載せるのは100誌程度
- いわゆるロングテールをなしている。極小のものも含め数が多い
- DOAJには7,372のOA雑誌がリストに
-
- Laaksoほか*3より・・・OA論文数/OA雑誌数はどちらも非常に伸びている
- 2001年はOA論文は2万程度。2011年のOA論文は34万以上。しかし世界の論文数はScopusによれば2011年で約170万。
- 34万のうち、完全即座のOAは全論文の11%。Hybridは0.7%。あまり人気がない。Delayedは5.2%。
- 一番論文数が伸びているのはAPCをとって出しているOA雑誌掲載論文
- 出版者のタイプごとに見ると・・・初期は学協会/大学出版会が多かった⇔現在は商業出版によるもののほうがそれぞれよりも多い
- 分野別では・・・一番多いのは生物・医学。物理や化学・数学は数の面ではあまり多くはない
- Laaksoほか*3より・・・OA論文数/OA雑誌数はどちらも非常に伸びている
- ここまでで質疑:
- Q. 商業出版によるOAが増えている、というのは、そもそも商業出版者の数が増えている?
- A. それもありうるが、おそらくはSpringerとHindawiの伸びがかなりの部分ではないだろうか
- Q. 引用文献について。最後の方の数字は全部Laaksoほかから?
- A. そう。全部Laaksoたちの論文から
- Q. 商業出版におけるOA出版の伸びについて。これは商業出版にとってOAがビジネスとして魅力的ということ?
- A. おそらくそうだと思う。学会・商業出版も含め、出版者にとってOAがビジネスモデルとして立ち行く、という認識は高まっていると思う。もちろん分野によっては全体に占める割合は少ない。2011年でもまだOA論文はScopusの中の17%だし、即座のOAは12%でしかない。まだまだ先行きは長い。この数字がいつ50%になるのか。伸びは加速するかも知れないし減速するかも知れない、それは誰にもまだわからない。どう推移するのかは、資金提供者、政府がどの程度助成するかにもかかっている。
AIPとしてのOA、特に物理分野での経験について
- AIP・・・12の雑誌を出版、年16,000論文
- arXiv・・・物理分野のサブジェクト・リポジトリ(実際は物理だけではない)
- 月あたりの投稿数は右肩上がり
- 領域別に見ると・・・初期から高いのは高エネ。現在は高エネ物理の論文はすべてarXivにある
- 天文、数理物理学も伸びている。最近では数理物理はかなり多い
- Phys. Lev. Lettersの全てがarXivに入っている/セルフ・アーカイビングは物理学に何も影響しない、等の言説がある
- 本当にそうか?
- APSの雑誌でarXivに入っているものの割合
- Phys. Rev. Lettersは55%のみ。Phys. Rev. Bでは40%。Rev. Dは100%に近い、これは高エネ物理論文が多いから
- 物理学全体では必ずしもarXivへの投稿が多いわけではない
- AIPの雑誌だと?
- 応用物理学ではarXivへの投稿はかなり少ない。物理学がみんな同じ行動をしているわけではない
- 雑誌の方針を定める際には実際の行動を理解することが重要
- AIP Author Select(ハイブリッド型)
- 10の雑誌で実施している。1,500〜1,800ドル追加で払うとOAにできるが、浸透度合いは非常に低い
- 2006-2011の推移を見ると、一番数の多かった2011年でも、16,000論文のうちAuthor Selectで出版されたのはわずか80本
- AIP Advances(ゴールドOA雑誌)
- ハイブリッド型は関心を集めない様子。ではゴールドだと?
- arXivでもう自由に見られるわけだが、さらにお金を払って雑誌掲載版もゴールドにすることに関心はあるのか?
- AIP Advancesを立ち上げ挑戦
- 結果:
- 関心は非常に高い。2011.3に立ち上げて現在までに、1,300以上の投稿があり、出版論文数も500近くに
- ハイブリッド型には関心が薄いが、ゴールドOA誌への関心は高いらしい
- (講演で言及はなかったけど表から:でもコメント機能やratingはそんなに使われていない)
- 商業出版者もOA雑誌に乗り出している
- ここまでの話(AIP/物理学分野の経験)から得られる教訓とは? 購読モデル⇒OAモデルに移行することによる帰結・影響とは?
- 現在、AIPではかなりの購読費を非常に大きな機関、東大のようなところから貰っている一方、小規模であまり論文を出していないところからも受けている
- 購読料の世界では幅のある/多くの機関から収入を得ている
- OAモデルに移ると・・・研究重点型で出版論文数の多い大学の方が負担が大きく、小さな/教育中心の大学では負担が少なくなる
- AIPは法人顧客からも利益を得ているが、そこからの購読料はなくなるし、法人顧客はあまり論文は出さないので、APCでの代替も期待できない
- 自分が出版側なら、著者の属性をよく考えておく必要がある。購読⇒OAへの移行の金銭的影響を考える
- もしバックファイルで儲けているなら・・・そこへの影響も考える必要がある
- AIPの雑誌の場合、2011年の論文ダウンロードの50%は2007年以前に出版された論文に対するもの
- 引用半減期・・・やはり古いコンテンツの価値を示している(10年より長い雑誌がけっこうある)
- OAへの移行を考える場合、収益源がどの程度多岐に渡っているか、うちOAに移行することで失われるものをどうreplaceするか考える必要がある
- 現在、AIPではかなりの購読費を非常に大きな機関、東大のようなところから貰っている一方、小規模であまり論文を出していないところからも受けている
アメリカ、イギリス、ヨーロッパの政策状況について
- アメリカにおけるOAをめぐる政策動向・・・2000年代は関係者がみんな感情的だった?
- 特にアメリカでは図書館員、provost、大学管理者、出版者等の当事者が一同に介して話し合う必要が感じられるようになってきた
- その結果、米国議会はScholarly Publishing Roundtableを組織。その提案が2010年にAmerica COMPETES Actとして議会を通過
- 2011-2012年のPublic Accessに関する動向
- 緩慢ではあるが秩序だった形で進んでいる?
- 米国では出版者と政府機関が密接に連携。学術情報流通に関しての進歩も見られる
- OAを法制化する試みは今のところ法案は通過していない。今は大統領選中なので、終わるまでは何も動きはないだろう
- 出版者と政府の連携に関する紹介:
- 学術文献へのアクセス改善に関連するもの
- FundRef・・・研究助成団体が、自身の助成の結果を把握するのが難しい、という状況を改善するためのもの
- 著者/出版者が協力し、助成機関名の書き方/助成番号の書き方の標準を定める・・・追跡可能に
- 現在パイロットプロジェクト中
- Linking agency reports to publications・・・助成機関に出す研究レポートと実際の論文をきちんとリンクする
- Linking data to publications・・・研究データと論文をリンクする
- ORCID(Open Researcher & Contributor ID)・・・研究者同定のために出版者・図書館・他機関が共同して一意のIDを振る試み
- いかに色々な利害関係者が協同しているか、という点でポジティブな動向と思う
- フィンチ・レポート(Finch Report)について
- http://www.researchinfonet.org/wp-content/uploads/2012/06/Finch-Group-report-FINAL-VERSION.pdf
- イギリスで出されたもの。アメリカのRoundtableの結論と似ている内容だが、利害関係者それぞれの関与の重要性を指摘している
- その主な提言内容・・・
- イギリスとしてはOA/Hybrid OAを推進・サポートすべき
- 学術出版活動の価値も認める
- 査読を続ける手段としてはAPCが望ましい、とする
- どのようにOAに移行すべきか議論されたが、あまり大きな支障がないよう、徐々に進化させよう・・・という書き方。革命ではなく
- 英政府のレポートへの反応
- Research Councilsの新たなポリシー・・・政府による資金提供を受けたものは、リポジトリに登録するか、"より望ましいのは"、Goldモデルに移行する・・・来年の4月1日以降
- そのために1,000万ポンドの予算を確保することに。現在の図書館の購読料は2億ポンドなので微々たるものではあるが、予算がついたことは契機としてはいい動き
- イギリスは先陣を切った。今後、どう動くかが見もの
- どのような形で/どう予算を出すかの全容は不明・・・作業中
- 欧州委員会(EC)・・・科学文献のOAに関する勧告は同じように出ているが、具体的な動きはない
- AIPとしての対応・・・色々と対応している
- 関連当事者を一同に集めた後に動く、ということは高く評価している
- なんらかの形で費用分担が計上される、ということでないと、スキームとしては動かない
- 一挙に変えるのではなく段階的な発展/色々やってみてどう動くか見るのが望ましい
まとめ
- OA出版は急速に成長しているが均一な成長ではない。領域やモデルによるばらつきがある
- OAの現状を見ると、現在のスピードのまま伸びるのか/OAが主流となるのか、どちらもまだ疑問
- 疑問/問題の先を考えるには政府・助成機関の動きが重要。OAの経済性、どう成り立つかが動向を決める鍵となる
- 何が起ころうとも、科学者/研究者としては査読を受けて雑誌に載ることに価値を感じる。その中核さえ守られればビジネスモデルはどうあっても
- 質問は午後、パネルディスカッションで!
「eScienceへの広がり:Open Repository」(大園隼彦さん、DRF, 岡山大学附属図書館)
最初の質問:
- Q. 今の職じゃなければどんな職につきたかった?
- A. 農業
- Q. 付きたくない職業は?
- A. 高いところが苦手なので、パイロットは嫌だ
- Open Repositories 2012参加報告
- Open Repositoriesとは?・・・リポジトリ開発・運用関係者が集まり情報共有・交換を行う国際会議
- 今年は30カ国以上、400人以上の参加者
- Open Repositoriesとは?・・・リポジトリ開発・運用関係者が集まり情報共有・交換を行う国際会議
-
- 研究データ管理
- なぜ管理する必要があるのか・・・永続アクセス/再利用/引用
- 研究データの保存・統合検索インフラ整備の発表など
- 例:Australian National Data Service・・・より多くのオーストラリアの研究者がデータを利用するようになることを目的に
- 研究データについては色々な動きが他にもある
- 研究データ管理
- 日本でも研究データ管理を始めるべきではないか?
- OR2012参加の率直な感想
- その管理に図書館のノウハウも生かせるのではないか?
- 長期保存、再利用、アクセスに機関リポジトリのノウハウが生かせるのでは?
- まず図書館でできること・・・
- 保存、引用環境構築?
- 考えること・・・何を保存する? どこに? どのように?
- Monash大学の研究データ管理ガイドラインの例:
- 研究コミュニティが既にプラットフォームを持っているならそれを利用
- ないなら、最終手段としてはプラットフォームを開発する・・・特定の分野のニーズにマッチし、さらに他機関でも使えるもの
- メタデータの充実/識別子の付与/データ連携
- 研究コミュニティが既にプラットフォームを持っているならそれを利用
- 何を保存するのか?
- 研究データ=研究で利用するすべての情報
- 構造化データ/非構造化データ
- ビッグデータにいきなりいくのではなく、できる範囲で?
- 研究データ=研究で利用するすべての情報
- どこに保存するのか?
- 図書館でサポートするならば機関リポジトリを活用する
- その他の可能性・・・研究者はコミュニティのシステムをより利用する
- 日本の機関リポジトリでのデータ管理の例
- どのように保存する?
- サービスの展開は?
- まず保存、次に利用の環境を提供
- より多くのデータを保存し、再利用されるためにはポリシーの作成が必要
- 他システムとの相互運用性/データ再利用の仕組み
- 研究データ管理支援を開始する図書館への10の提言(LIBER)の紹介
「リポジトリで世界とつながる:COAR第3回年次集会(スウェーデン)参加報告」(城恭子さん、DRF,北海道大学附属図書館)
はじめの質問
- Q. 今の職業以外でなるとしたら?
- A. 形あるものを作り出す、ということで建築家
- Q. これだけはなりたくないのは?
- A. 植物アレルギーなので農業は無理
- 5月に行われたCOARの年次集会の参加報告
- COARとは?
- http://www.coar-repositories.org/
- 欧州、南米、アジア、北米の90以上の組織が参加するOAリポジトリの連合
- OAをめぐる様々なファクターをトータルで支援することを目的とする
- 日本とCOARとの関わり
- 立ち上げ当時から、NIIとDRFが参加
- Executive Boardメンバー等に参加、各WGにもメンバーを排出し、運用に積極的に参加してきた
- 第3回年次集会概要
- COARのこれから
- 日本とCOAR
- 日本の事例に対する関心は高い
- 世界中のリポジトリ関係者に、COARを通じて日本の取組を発信することが求められる
初っ端から次々と重要なキーワードが出てくる、SPARC Japanセミナーの集大成的なところもある前半部でしたが・・・
いや、Finch Reportについてはもしや今回がセミナー初出かな??
ググるといっぱいネタが出てきて、オープンアクセスが必ずしも一枚岩ではないことを思い出せます・・・OAWに思い出す必要がるかはさておきw
しかし内容は盛りだくさんありつつ、午前の部はまだまだ穏健なお話!
午後は研究者の皆さんが講演&ディスカッション、ということで、会はどんどんヒートアップしていきます。
特に大園さんが触れられた研究データ管理は大スパークですよ!
引き続きアップする予定ですので、後半も乞うご期待!
*1:より細かい分類が絶賛、進行中でもありますが、それに触れるのはまた今度
*2:その内容は、思い切り博士論文の内容なので・・・学位ゲット次第公開したいと!
*3:http://www.biomedcentral.com/1741-7015/10/124
*4:min2flyコメントBOAIの成り立ちとか考えると中国で盛り上がりって面白いな・・・参照:岡部論文
「Open Access Week:日本におけるオープンアクセス この10年これからの10年:セッション2 オープンアクセスと日本&セッション3 オープンアクセスは研究・学術活動にどのような未来をもたらすか」(第5回 SPARC Japanセミナー2012 参加記録2)
引き続いてOAW特別編SPARC Japanセミナー、午後の部の記録です。
オープンアクセスを推進するイベントが世界で毎年開催されます。無料で論文にアクセスできるようにする制度や基盤作りに加えて,研究や教育を推進することを目的とした論文情報の自在な活用を支援する活動に発展し,現在では情報流通や評価という側面も併せ持つ,より大きな活動に拡がりました。これら活動の趣旨を広め,賛同する科学者,図書館,出版社が共に研究環境支援について考えるのがオープンアクセス週間です。
今年は10月22日(月)から10月28日(日)となっており,NIIでは26日(金)にセミナーを開催いたします。今回は全日の講演日として,海外事例の紹介,国内のさまざまな立場の方々の活動報告,オープンアクセス運動が研究や教育にもたらす影響について情報を共有し,日本におけるオープンアクセスの全体像を俯瞰する会として企画いたしました。さらに今後のオープンアクセス運動についても,政策的な側面からの講演も織り交ぜ,皆様と一緒に将来を展望したいと考えています。
以下、例によってmin2-flyの聞き取れた/理解できた/書取れた範囲でのメモです。
午後はバイオ、物理というOAに関する動きが色々出ている2分野の先生方+図書館系の先生方によるお話の後、白熱のパネルディスカッションに突入。
まずは有田先生の、いきなりのパンチの聞いたバイオ系のお話から!!
第2セッション:オープンアクセスと日本
「生命科学はどうしたらオープンになるか」(有田正規先生、東京大学大学院理学系研究科 生物化学専攻)
はじめの質問
- Q. 今の職業じゃないとしたら?
- A. 牧場経営
- Q. つきたくないのは?
- A. 接客業
- 今回のチャンスは有難いが、僕の意見が生命科学全体と思わないで
- 生命科学の特徴=「オープンじゃない」
- エラくなった後は?
- 仲間を増やす。とにかく人に頭を下げて自分のラボを大きくする
- 人が増えれば論文も増えるし網羅的に研究できる。CNSはなくても数を稼げる
- 生命は数物に比べ分野としてはるかにクローズド。OAの対局
- OAが盛んなのはインパクトファクターが高いから。それだけ。ビジビリティ
- OA雑誌は通りやすくもある。PLoS ONEは年に1万も通すのにIFが4。権威あるJBCすら最近は落ち目で4.7、PLoS ONEに並ぶ
- 微生物学の非常にいい雑誌も、1-2年の実験じゃ通らないような雑誌なのにIFはPLoS ONEより低い
- コンピュータサイエンスのJACMだってPLoS ONEよりずっと低い
- 分野内のクオリティとIFは全然関係ないが、今の研究者の評価では毎年、IFやh-indexを聞かれる。だからIF
- OAはなんか格好良い。今時っぽい。だから選ぶ、というのもある
- CNS落ちた⇒OAにしよう、というのもよくある
- 今後のOAは?・・・時間とともに進む
- 税金を使ったものは公開せよという圧力で公開に
- 情報量はどんどん爆発。囲い込むよりもオープンにしてどこかに預けてしまったほうが安くなる
- 人一人のゲノムを読むのが数万円とか、食品中の成分を測るのが3,000円とかいう時代がもうすぐ来る
- そのときに信用/信頼される=ブランドが一番価値を持つようになる
- ブランド重視の時代にはどうなる?
- 現在・・・伝統サイエンス
- データは囲い込んでしゃぶり尽くす
- 研究者は特権階級、研究クラブのドレスコードをまとい、メンターの弟子でないと入れない
- 今後・・・オープンサイエンス
- データは腐る前に預けた方がよくなる
- 研究者・・・職業研究者に。「論文書いてればいいんでしょ」となる。年1本書けば給料、そういう時代
- OAJはこの時代の産物。従来は特権階級の同人誌だった雑誌が、研究日誌になったのがOAは雑誌
- 研究クラブ/特権階級を残したままでOA雑誌にしようとするので騒いでいるだけ。いずれデータは囲い込まず、研究者はただの職業になる。そうなればOA雑誌は当然
- 現在・・・伝統サイエンス
- 今後はゴールドのOA雑誌が中心で、図書館の役割はなくなるだろう
- 生命科学をオープンにして、それから?
- 意識改革がいる。今の研究者は「論文とWikipediaを一緒にするな」とかいうかも知れないが、そんな時代は20年もして今のシニアが消えれば終わる
- その頃には職業研究者の集団に成り下がる。大衆化する
- 大学・研究機関のブランドが重要・・・そことタイアップする雑誌が今後、どんどん出てくるだろう(min2flyコメント:それ紀要じゃね?)
- 有名な国際会議とのタイアップも増える
- 対抗するには「いいね!」ボタンのような評価の仕組みを取り入れる必要がある
- えらい先生が若手のポストを握っている限りは上のようにはならない。皆の評価を確立するには、研究者ここにBIのようにデフォルトでお金を配り、それら研究者が評価する相手にお金を配ればいい
- エフォートが今はまるで機能していないが、エフォートに合わせて自分の研究費をどのボスに何万円上げるか選べるようにすれば、民主的にお金配分を達成できる?
- 意識改革がいる。今の研究者は「論文とWikipediaを一緒にするな」とかいうかも知れないが、そんな時代は20年もして今のシニアが消えれば終わる
- 参考になるのはスポーツ:
- J1 / J2のように、サッカーのようにcompeteするようになれば良い世界
- 文科省の英語名にはMEXT、Sportsが入っている。これは今考えると実に先見の明がある
「物理分野の研究者からみたジャーナルOAについて」(植田憲一先生、電気通信大学 レーザー新世代研究センター)
はじめの質問
- Q. 物理学者じゃないとしたら?
- A. 文学者。文章ヘタで諦めたけど
- Q. なりたくない職業は?
- A. セールスマン。無理だと思う。
- 研究者としての私からみたOAの話をする
- ただ、自分に与えた自分の役割は・・・大事なことは、今なにが変わっているかだけでなく、変わらない重要さ
- リタイアして消えていくべき研究者の代表。
- 物理学者はだいたいへそ曲がり。人の予測に反したい
- 研究者は幾つもの役割がある・・・著者、研究者、編集者、学会の理事、etc・・・
- その立場によってみんな違うことを言う。publicな立場とpersonalな利益
- 著者としては:
- OA・・・みんなに読まれるのはいい(権威があるところ)
- 著者負担・・・研究費が減るなら困る
- 論文発表に機関格差が出るなら大問題。大きな大学なら出せるのに地方大学だといい仕事をしても出せない、というのは絶対にあってはならない
- 研究者にとって重要なのはライセンス緩和。データ再利用がどれだけできるか。自分の論文なんだから次にどう使うかはどうこう言われたくない
- 本当にいい雑誌が残るのか? また、一極集中=独占が起こるならそれも反対
- 自分が思う存分、好きな事を書ける雑誌が欲しい
- 読者として:
- ただは嬉しいが質の保証は欲しい
- まったくのフリーだと質が落ちる。ただより高いものはない?
- 査読者として:
- 本来、OAと査読は無関係のはず
- ただ、OAMJは毎日出版なので、査読の期日が厳しくなる。それは嫌かも
- 編集者として:
- 査読者以上に負担がかかる
- 質と定常的な出版の軋轢がある。トップジャーナルならいいが、弱小ジャーナルだとリジェクトしすぎると次の号が出ないなんてことも。著者支払いの場合、リジェクト=収入カットになってしまう
- しかし裾野のジャーナルもないと困る
- 編集長として:
- トップジャーナルは問題ない
- 強くないところ・・・一流誌の圧力が強くなる
- OA化には競争力を求めているフシもある
- 従来、編集長は出版委員長と別で、質さえ保てば出版が成り立つか考えなくてよかった。それを考えないといけなくなる
- OA化=論文の質低下のメカニズムがあるように思える
- 学会員/理事として:
- ただではやっていけない
- 論文品質の向上とは無関係? 競争力がどうなるかが重要
- 従来のOAは費用がはっきりしなかった。著者が支払うお金にだんだん定まってきたが、最終的な払いはどこかはクエスチョン
- より大きな公益性:
- 研究者には特権性が、という批判もあるが、研究者そのものがわがままでいい加減でも、その生産物はpublicにreturnされている
- 学問分野の差を越えて学術活動全般をどうするかが大事。現在の制度、100年以上かけて作ってきたものをそんなポンポン変えてしまっていいものではない
- OA化がどこにいくか、安定的かつ持続可能な絵が描けるかまで考える必要がある
- Optics Express・・・Gold OAでこの分野で一番成功
- それでも赤字解消にはそうとうかかった
- 今は論文数も増えて黒字になっているが、分野の研究が急速に進んだわけではない。論文数≠クオリティ
- OAの保存則:
- Goldにしても結局、コストはかかるのだから払い方が変わるだけで金額は一緒では?
- 物理学者に浮かぶ「すごい考え」はだいたい危ない。永久機関とかエネルギー保存則に挑戦とか
- 入出力はバランスがとれていないとおかしい
- 学術出版のステイクホルダーとは?
- ステイクホルダー=掛金を払った人
- OA化を自ら進めようとするのは正しいが、他人に強いるのは、持続可能な舞台を作って「さあここで」というところまでやらないと
- 理念が正しいからやれ、ってものではない
- 現状のOAは短期間としてはいいが、最終的にどこにいくのかよくわからない
- 出版者にとってOA=差別化。みんながOAになると差がなくなる。最終ゴールはどこ? 100%がOAになるとメリットがなくなるのでは?
- OA化が最後、どこに続くのか議論しないと難しい
- 今のところOA化が質につながる保証はないし、研究者としては研究自体の質の方が重要
「SCOAP3と日本:高エネルギー物理学」(野崎光昭先生、高エネルギー加速器研究機構)
はじめの質問
- Q. 今の職業じゃなければ?
- A. 映画監督
- Q. つきたくないのは?
- A. 医者と弁護士
- 今日はSCOAP3の話をする・・・前に、高エネルギー物理学とは、という話から
- 分野の宣伝でなく、その理解がないとSCOAP3の背景がわからない
- 高エネルギー物理学とは?
- 目標・・・自然界の最も基本的な法則を知るなど、根源的な問題に答えること
- 高エネルギー実験
- 高エネルギー物理学の論文:
- ATLAS実験グループの論文・・・ElsevierのPhysics Letter Bに掲載
- 著者は「ATLAS Collaboration」
- 29ページの論文だが、本文は17ページで終わり、「ATLAS Collaboration」の著者名リストと所属機関リストで残り12ページ
- Collaboratorは3,000人くらいいる。実験論文は毎日のように生産されている
-
- 実験論文はほとんど海外に投稿されている
- 日本人のみでも海外との共同でも
- 評価の高い実験論文誌は海外にしかない状況
- 国内誌だと海外の共同研究者を説得しないといけない・・・国内誌は共著者の所属図書館になかったりするので
- 実験論文はほとんど海外に投稿されている
-
- 過去にも国内誌への投稿促進の試みはあった
- 定着はしなかった
- 実験系から見ると、PTPは小林・益川理論も載ったり朝永先生の論文が載ったりはするものの、理論に偏っていて出しにくい
- JPSJ・・・「Japan」がタイトルについている雑誌には出しにくい
- 過去にも国内誌への投稿促進の試みはあった
- 日本のHEP論文をめぐる最近の大きな変革
- PTPとJPSJの統合・・・OAとは別の流れ
- 日本発の素粒子・原子核・宇宙実験分野の成果が出るように
- ニュートリノ、Bファクトリーなど、世界が注目する実験成果が日本で出るように
- 日本発のデータが全部海外のジャーナル・・・「まずいよね」というのは身内からも言われるように
- CERNからKEKへのお誘い・・・「SCOAP3に入らない?」・・・2006-2007年頃に来た黒船
- 世界トップレベルの雑誌が参加するもので、日本は無理かなあ・・・という雰囲気が当初はあった
- SCOAP3云々よりもまずは日本発のジャーナルのクオリティ強化が重要?
- そのためにOAにしておけば、海外の共著者も説得できる?
- 独自にOA雑誌を持とう、という流れに
- 結果・・・2012年にPTP+JPSJ=PTEP創刊。来年からは通常の投稿システムでの受付開始、さらに2014年からのSCOAP3にも参加
- PTEP創刊
- PTP + Experimentalで理論・実験どちらもカバーするよ、ということに
- 独自にOA誌として創刊/原則APC(著者支払い)で運営
- 論文が多いのは理論・・・単著もしくは2-3名がほとんど。何千人も著者がいる実験系とはスタイルが全く違う
- 実現可能性を高めている要因:
- コミュニティがよくまとまっている・・・1,000人に行かない規模
- 大規模実験/協同もやりなれている・・・つくばでも数百人参加の実験をやっている
- 分野の大黒柱になる研究所も存在する・・・その音頭でまとまる
- SCOAP3の仕組み:
- 各大学が出版者に支払っていたお金を、研究者・図書館からなるSCOAP3コンソーシアムに払う
- SCOAP3コンソーシアムは入札によって出版者を選定・・・集まったお金で払える分だけ、出版者にAPCを一括して払う
「OAと図書館:IRは研究を支えるインフラとなり得るか?」(栗山正光先生、常磐大学 人間科学部現代社会学科)
はじめの質問
- Q. 今の職業じゃなかったとすれば?
- A. マンガ家になりたかった
- Q. つきたくない職業は?
- A. 血を見るのは医者も肉屋も全部ダメ
- 現在は司書課程の教員だが、もとは大学図書館員
- その思い出話も含めてする。気楽にお聞きいただければ
- 今日のテーマはこの10年、だが、30年前の話から始める
- 1980年代・・・図書館業務をコンピュータで機械化する、プチ変革期。プチ「坂の上の雲」
- 通常業務機械化。カード目録⇒オンライン目録。抄録索引誌⇒文献情報データベース
- そのピークがNACSIS-CAT/ILL
- 業務効率の劇的改善に成功
- 電子化の流れは止まらず
- 21世紀・・・大学図書館の新たな目標:OA擁護と機関リポジトリ
- 入れ物を作ってもコンテンツがなかなか集まらないのが世界共通の悩み
- 海外ではOA・セルフアーカイブ義務化の動きが出ている(研究助成機関 or 大学)
- 国内では義務化は数機関のみ。PR活動による地道なコンテンツ拡充(「ひたひた」 or "hita-hita")
- 機関リポジトリが研究を支えるインフラとなり得るか?
- なぜ図書館員はOAに肩入れするのか?
- OAと雑誌価格の高騰はからみ合っているが基本的に別問題?・・・雑誌価格高騰が収まる or 十分な資金があればOAはいらない、とは言わないはず
- 今までの図書館のビジネスモデル、サービスの形は雑誌を購読して提供する。足りない部分はILLで補完してきた。電子ジャーナル化しても基本は変わらない
- OAになると根本的に崩壊してしまう
「OAとIRをめぐる日本の政策」(宇陀則彦先生、筑波大学 図書館情報メディア系)
はじめの質問
- Q.今の職業以外でつきたいのは?
- A.ちょうど最近、学生とそういう話をしていた。なりたいのはサッカー日本代表の監督。ザックはなかなかだが、私なら優勝は間違いない。
- Q. IRも?
- A. それはちょっと簡便を・・・
- 今日はおおむね、学術調査官としての話。
- H.24年7月に出た「学術情報の国際発信・流通力強化に向けた基盤整備の充実について」(審議のまとめ)を紹介する
- 皆さんにこれをちゃんと読もうと思ってもらうことが目的。
- http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/toushin/1323857.htm
- 「審議のまとめ」の章立て
- 何も知らずに見ると違和感があると思う。ぜひ、議事録もいっしょに読んで欲しい。特に42-46回。それも面倒なら42回と46回
- 通常、議事録というのは面白くないのだが、今回のはジェットコースターのようで面白い。これも読めば「審議のまとめ」もよく分かる
- 以下、本体の紹介
- 公的助成を受けた研究成果はOAに、というのがまず出だしに
- 日本の研究は世界トップクラス⇔国際的に有力な雑誌はあまりない、という(SPJではある意味いつもの)話
- 国際的に通用するジャーナルをどう育成しよう?
- この審議のまとめは複雑な文脈が絡み合っていて、それをどうほどいて1つのストーリーにするか苦労した
- 1つは科研費の研究成果公開促進費(学術定期刊行物)のあり方を見なおさないといけない、というミッションがあった
- 当初は文科省はこれを早くやりたかった。H.25の公募要領に間に合わせたかった
- しかしものがOAである以上、単に科研の成果公開促進費の文言を変えるだけでなく、背景を踏まえて整理した上で位置づけの理屈を付ける必要があった
- もう1つ、SPARC Japanの人は知識の共通基盤があるが、作業部会は色々な分野の先生がいたのでこの場だと当たり前のことを網羅的に議論する必要もあった
- 議論としては健全だった?
- その中で・・・土屋先生、倉田先生、安達先生が意見を述べつつ、九大・有川先生がストーリーを作っていった
- さらに成果公開促進費だけに言及をとどめると、日本もGoldになったかと思われかねない。Green=機関リポジトリもバランスよく書く必要があった(ある、と安達先生から提言があった)
- 1つは科研費の研究成果公開促進費(学術定期刊行物)のあり方を見なおさないといけない、というミッションがあった
- 日本のジャーナルといえども、日本に閉じるのではなく、諸外国からの投稿もある以上、投稿したくなるような、日本以外の編集者も含めた雑誌に・・・みたいな話も
- 最終的に・・・1章の最後では
- 2章:当初のミッションを満たす部分
- 論点:日本の学術情報発信力強化=学会だけの話にしてしまっていいのか?
- 複数の学会の協力体制の申請も可能に
- 成果公開促進費(学術定期刊行物)はどんどん減っていた・・・改善でこれがどうなるか、は、作業部会のレベルを越えてしまうのでどうなるか・・・
- 電子化についてきちんと言及・・・紙媒体の費用以外にも柔軟に助成
- 成果公開促進費評価体制の話・・・ジャーナル編集関係者が審査に参加すべき?
- 応募区分は英語が基本に・・・分野と内容次第では例外も
- 「オープンアクセス誌(スタートアップ支援)」の設置
実際の公募要領を見ながらどうなったかを確認
- 3章:2章は科研費特化。その理由、OAの必要性をこちらに持ってきている
- 4章:機関リポジトリってなんなのか、をまとめて整理した章
- 知識インフラ構築の中核要素
- 図書館を中心とした自発的な努力
- 「しかしながら」よりいっそうの整備・拡充が求められる
- 「自発的な努力でやってくれてるけど不十分」的な書き方・・・だけど怒らないでね(汗)
- 文科省の文書に「図書館の努力」と明記された点が重要
- 5章:SPARC Japanにも言及
- その他:今後は?
- ビッグデータ etc...
第3セッション:【パネルディスカッション】オープンアクセスは研究・学術活動にどのような未来をもたらすか
- パネリスト:
- 谷藤さん
今日はここまで質問時間を設けなかったので、まず議論ではなく、単純な質問があれば。
- Q. NIMS・轟先生
SCOAP3について、野崎先生に。Gold OAは質のKeepが難しい、と植田先生がおっしゃっていたが、SCOAP3になるとその力学は変わってくる?
- A. 野崎先生
今回参加する12誌で75%を占めている。漏れている雑誌でクオリティが高いのは、Phys. Rev. Lettersだけ。あれは高すぎるので落ちた。どうするかは現在交渉中。他は質の高いものは入っている。
- A. 植田先生
SCOAP3では価格とクオリティを50/50で毎年、チェックするとのこと。Phys. Rev. Let. は価値はノン・リニアと主張している。
- Q. 谷藤さん
通訳の方に。「裾野のジャーナル」って英語でなんて訳しました?
- A. 通訳の方
「non-major」とか「low-appearlower tier」とか(2つめの方はちょっと自信がない*1)。
ディスカッション
- 谷藤さん
ここからはディスカッション。
OAは科学者にどういう意味を持つか? 研究成果のre-useを国際規模で広げようという政策、相互に補いながら各種の取り組みが発展することはあり得るか? OAによるフラット化に有田先生も言及されていたり、購読誌のreplacementとは別の話、ということもあったかと思う。図書館員が研究そのものの基盤を支える話。宇陀先生のお話も政府もそう理解、という話だと思う。
「なにがあるからなには消える」ではなく、互いに補い合うとはどういうことなのか。
また、OAがある程度の割合になったとき、個々の著者が支払うというのは流通システムとしてどういうふうになるのか、とも考えた。
それから、OAによる障害なきアクセスが科学の進歩に寄与するとはどういうことか、なんてことも考えた。
お昼休みには方向性について軽く話すと、議論がわかれた。まず、野崎先生からお話を聞きたい。
- 野崎先生
OAは研究者から見ると、研究をいかに進めるか、それにどう役に立つ・・・そう思っているから参加している。OAにすることで高くて買えなかった人も読めるようになるし、零細企業の研究者を支援する仕組みを作ればいい論文がより集まるかもしれない。
あくまでも研究を発展させたい。どう発展させたいかは、高エネがどういうものなのかもお話したが、その状況は分野によって違うだろう。分野ごとの状況を理解した上で、研究者と図書館が議論しながら分野にあった仕組みを作るのがいいのではないか。場合によってはOAは選ばれないかもしれない。
先ほど、研究者は機関リポジトリに登録しないという話があったが、それは研究者が使わないから。役に立つものを作らないと無駄な努力をすることになる。HEPではSCOAP3を作って、お金持ちが貧しい人を支える形にした。しかしこれはHEPだからできるのだろう。それぞれの分野がそれぞれの仕組みを作ったらいいのではないか?
- 有田先生
生命科学では、Open ScienceとかOpen Dataとも言われるが、論文だけが成果ではない。ゲノム解析やシステムを作る人にとっては、論文を書くというのはものができたあとに伝統にしたがって無理やりやらなければいけない、面倒なこと。本当はOAになった時点で論文の形式はやめて、バックグラウンドデータそのものをreferできるような媒体にすべきではないか。なぜ昔ながらの紙媒体を一生懸命真似るのか。
- 植田先生
ビジビリティの観点から言えば、研究者個人は雑誌のビジビリティはどうでもいい。だからプレプリントがあった。研究者が見せたい相手は自分の競争者であって、他の人は研究上、あまり関係ない。そういうことは出版者や若手には重要かも知れないが、自立した研究者ならやろうと思えば自力でできる。
- 谷藤さん
物材機構からフロアに轟先生もいらしているので、ぜひご意見を。ご自分の領域におけるOAについて。
- 轟先生
材料学の中でも風変わりなことをしているのだけれど・・・OAの話が生命やバイオで先行している理由を有田先生のお話でいただいたが、材料科学はそこまでではないもののIFはやはり重視される。私自身はOAが大好きだが、それはボスではないから。私の下には誰もいないし、IFを稼ぐモチベーションよりも自分の成果が素人にも受けがいいので、オープンにすることで見てもらった方がいい、という格好。そういう考え方の人はたくさんいるわけではない。研究者は評価・評価・評価。話がまとまらないが・・・その中でも理念的にはOAでいたい。本物の仕事をすれば勝手に広がるはず、というのが・・・材料の人は使われてなんぼで特許・事業化しないと意味が無い。障壁なきオープンで合ったほうがいい、というのはそういう考えによる。
- フロア・化学者の方(Royal Society of Chemistry)
化学ではけっこう皆にOAってなんですか、と聞かれるが、あまり皆、自分たちが関係しているという意識がない。JACSだとかAngewanteに出したいが、今までは無料で出していたのにお金を払わないといけないなんてなんでだ、という段階。今日、ここに来たのは、他の分野や日本での議論の状況を知りたかったから。
- Haynesさん
ジャーナルはどういう人のためにあるか。1つは著者のため。1つは読者のため。著者のため=インパクトやステータスにつながること。購読モデルでもOAモデルでも、著者に対する役割は担ってきた。一方、読者は? ジャーナルにしろ論文にしろ、ダウンロードしてPDFで、というのは最も効率的かつ効果的、というわけではないし、使い勝手がいい形でもない。
科学者・研究者が求めているのは、テクニックやアルゴリズムや化学式の一部や数式の一部。研究者が必要なものを容易に入手できるサービス・ツールの開発が出版者の役割であり、それが生産性の向上にもつながる。
OAによってデータ・マイニングや論文のエンリッチメント、セマンティックなタグをつける、といったことが出版者にとってやりやすくなる、そういうきっかけにはつながると思う。
- 谷藤さん
Haynesさんのプレゼンの後半でリンキング等の話があったが、あれはOAも購読も含めたentireな考え?
- Haynesさん
ええ、ビジネスモデルとは独立で、OAでも購読でも使える考え方と思う。
- 谷藤さん
OAが必要/必要でない分野のイメージを会場の人たちは掴んだのではと思うが、それと切り離して。研究成果を皆に読んでもらいたいという、その最初の動機と、成果と受けた人と助成金と・・・が番号によってつながって、個々の研究者の研究成果の履歴が見やすくなる、言い換えれば定量化される、それが全く予想しない文脈でも使われるかも知れない。そういう時代が近いうちにくる。そういう受け止め方はあっている?
- Haynesさん
確かにビジビリティだけではない。文献へのアクセスが良くなったかと研究者に聞くと、アクセスはもう十分だという。もうビジビリティの問題ではなくなっている。研究の成果、生産性をfunderや政府が判断しやすい、そのツールが構築できれば科学の生産性や効率等も見えてくるだろう。
- 谷藤さん
そういう世界は歓迎すべきもの? 有田先生は?
- 有田先生
もちろん歓迎する。本や論文の形を今後もずっと続けていこうと思うのではなく、研究成果を分解して、再構築して、別の視点から見るとか、研究成果をデータとみなしてデータ・マイニングするアプローチを見ていきたい。そういうことをやっている研究者を取り込んで、図書館は本ではなくデータベースを扱う施設になれば・・・
- 野崎先生
成果が論文だけに限らない、というのは我々の分野でも深刻な問題。例えば加速器は、あれを作ったことがそもそも凄い。ジャーナルの評価と別の指標がいる。ただ、ああいう誰が見ても素晴らしいものはいいんだけれど、それ以外のものについて危惧しているのは、そのデータが本当に正しいのか誰が評価するのか。あるデータが東大のリポジトリに載ったら、それが間違いのないものか、リポジトリは保障するのか? 今のシステムはそれは保障するものではないはず。論文以外のデータを残すことは我々の実験グループでも将来の人が解析できるように保存する動きはあるが、そのデータの質を誰が保障するのか。ジャーナルは査読で質を保証する仕組みを含む。
- 植田先生
著者IDの問題について。ORCIDについて最近、ある会議で話題になった。ORCIDは中国・韓国を中心に、同姓同名の方を同定できず不利になっていることをなんとかしようというのが最初の動機。実際にいま、ORCIDも動き出したが、それをどう扱うかはこれから、やりながらの議論になる。財政当局が使えるものになるかもしれないが、現状はまだそれをすべきかも定まっていない。民間出版者でそういう使い方はするかもしれないが・・・データを入れるときにどういうことが許容されるかも含めて議論して決まるのだと思う。
- 安達先生
僕は基本的にはオープンでないよりもオープンである方がより良いだろうという漠然たる気持ちで仕事をしている。OAはビジビリティを上げるとか、税金を使った効果が出ていることを示すという観点もあり、それは評価にもつながる・・・fundingの視点での説明が多いが、OAの系譜を考えると、これは基本的に出版者が膨大な利益をあげていたしわ寄せが大学図書館に来ていたことからはじまる。方策はいろいろあったがOAに収斂して、その後、税金を使ったものは公開すべきとか言う話になっていった。
リポジトリについても野崎先生からはネガティブな、厳しい意見もあったが、多くの出版者のセルフアーカイブの許可は、自分のwebか機関リポジトリでの公開、という風になっている。制約がある。そのルールを変えようという話と、ルールの中で最善を尽くすことをごっちゃにしていることがある。ルールを変えるならトップダウンにやればいいが、それはPubMed Central、NIHのPublic Accessと同じような議論が起こる。
もう1つ、OAで不思議なのは誰も本の話をしない。著作物をOAにしろ、というのは誰も言わない。教科書では進んでいることもあるが。もし本当に理念的なことをいえば、大学の教員の小説は無料で公開しろ、というような言いがかりもつけうる。
また、データまで共有するとみんなハッピー、とは皆さんいうが、これは非常に難しいと思う。野崎先生もおっしゃっていたが、データの中身がきちんとわからなければ再利用はできない。ちょっといい加減、と思うと結局使えなくて、全部自分でとることになる。なんとなくデータを保存することにあえてネガティブなことを言えば、SLの動態保存みたいなもので、ずっとSLを残すのは面白いかも知れないが、それが科学やエンジニアリングの世界でいいことなのか。論文、著作物に行きがちなのは、ある程度抽象化された知識、知の交換がもっとも効率的だから。生のデータが集まったから知を再生産、というのは本当の専門家同士だけの話で、外のコミュニティに出すのであれば言語化したものがいる。インフラとしてのデータとか専門の論文の世界を抽象化したところに知識の構造がある。そこにどうコストを払うのか。アメリカの大学図書館はデータキュレーションの取り組みもしているが、研究成果データを文献と結びつけて構造化するプロセスは従来以上に多大な努力を要する。必要なコミュニティはもうやっている。化学者は化合物を網羅するためにDBがいる。研究者はそういうところには網羅性・オープン性を要求する。OAが新たな知の基盤になる期待感はあるが、道のりは遠いし、100%OAになるのはそう近い将来ではないだろう。研究者は競争的に仕事をしているのでオープンへのジレンマもある。人の仕事は知りたいが、人より先に成果を出したい。ただ、OAはいいこと。
- 谷藤さん
データリポジトリはNIMSでもやっているが、研究者と一緒にやるべきもので、かつやっていることによってデータ構造も違う。しかもそれをやっても何かすぐにいいことがあるのか。
- 有田先生
安達先生の話に基本は賛成だが、生命科学の場合はデータを全てとっておくことが重要。例えばmicro-array(?)の研究でも、初期のものは半分以上が間違っていたという話がある。論文だけだとその間違いに基いてやることになる。生データがあればその間違いに気づける。
- 安達先生
ライフサイエンス統合データベースはNIIと同じく情報・システム研究機構の中でやっているので、その難しさは知っている。それでも統合時に確執があってうまくいかない。もちろん、先生が言われるようなものをデータとして確保することは重要だが、主に強調したいのは、それに対する投資は生半可なものではない、ということ。
- 谷藤さん
Haynesさんに。学会出版として、論文からデータを抽出してデータベース化した、新たなサービスの展開や付加価値が出てきているが、あの方向性はこれからも進む? 図書館側から見ればそんなことより購読料を上げないで、と思うのだが
- Haynesさん
おしゃるとおりで、単純に論文を出版するならそれが冊子でもオンラインでもテキスト/グラフィック/参考文献リンクで済むのに、データを扱うとなると形態もファイルも様々。何十年も前からsuppl. dataは持っているが、どうしたものか、ということはある。どうすれば有用/アクセスしやすくできるのか。コストがかからずにできるものでもない。それを可能にするビジネスモデルはどんなものか。今でも明確ではない。
ただ、これに対処する賢い方法はあると思う。例えばRoyal Society of ChemistryではChemSpiderというサービスをやっている。クラウドで、何千という化学者が参加してデータ提供している。
- 安達先生
おっしゃっているのは「crowdsourcing」の方の「クラウド」?
- Haynesさん
そう、Wikipediaの方。
(min2flyコメント:これは補足しないと、カタカナにしちゃうとCloud computingの方のクラウドとわからないので安達先生が確認してくださったのかと。大変ありがたい・・・rとlは発音聞き取りにくいっす・・・文脈でわかるけど)
- 野崎先生
CERNのLHCで出てくるようなデータは、そうそう追試ができるものではない。今の解析能力では出てこないものがあるかも知れない、なのでデータを残すという動きはある。一方で、データは年間で何十ペタバイトになり、世界中のデータセンターをグリッドにしておいておこう、というものでもある。その維持には非常にコストもかかる。いい知恵があればご教授いただきたいくらい。
- 谷藤さん
大園さんのプレゼンで研究データ保存支援の話もあったが・・・
- 大園さん
欧州研究図書館協会の試み。支援というか、そういうこともしないといけない、という提言。これから歩き出そうというもの。
- 有田先生
クラウドソーシングの話も出たが。生命科学ではタンパク質の立体構造をクラウド化して解かせる、という話もある。同じようにすべてのサイエンスが誰でも参加できる土台ができつつある。LHCのデータも在野の人がゲーム感覚で分析できるプラットフォームを作ればいけるのでは?
- 野崎先生
我々のデータは何かキーワードを入れれば出てくるというものではなく、高度に物理の知識があってはじめて出てくるものなので・・・確かにCETIのような、市民参加のプロジェクトもあるしああやってできればいいが、今のところは・・・
- 有田先生
僕はもう、みんなが面白いと思うものが残る世界になると思う。国や大学の壁なんかなくなる。自分の大学やポジションは、もちろん僕も気になるが、それを抜きにして皆が役に立つ/面白いから、とならないとダメではないか。
- 植田先生
天文学は市民参加もあるが、ああいう分野はローデータとパブリッシュされる成果の間に長い道がある。そこを説明できる一般の方はなかなかいない。
- 安達先生
Dataについて、アメリカのNSFが打ち出した、コンピュータサイエンスで言われているのは、機械学習、Cloud computing、Crowdsourcing、ということになって、道を探している。具体的なものを提示できればと思うが、crowdsourcingは解決策として提示されている。
- 谷藤さん
審議会ではデータ保存は話題になった?
- 宇陀先生
ちらっとは出たがこれから、という感じ。ビッグデータの話は出た。
- 安達先生
パネリストに物理の先生もいるので質問を。野崎先生がSCOAP3でHEPの97%はarXivにある、ということだった。定評のある雑誌がなくてもコミュニティ内では情報共有できている。それなのに10M Euroをかけて、12の雑誌をOAにするという。それは、arXivにある論文の、査読というプロセスに払うと考えられるが、その理解はそれでいい?
- 谷藤さん
最後の10分はSCOAP3と思っていたので、ぴったし。
- 野崎先生
その理解でいい。日々の研究のために情報を得るにはarXivでいい。その上でなおOA雑誌を、というのは、査読を通ったもの・・・というか査読の仕組みを維持したいから。
- 植田先生
HEPはかなり特殊。arXivに入っているだけじゃなくて、論文へのアクセス自体がarXivとINSPIREに完全に閉じた世界を作っている。最終的に雑誌のどこに価値があるのかはずっと議論しているが、最後は査読、そこで保証することがarXivのほかに雑誌がいる理由。
- Haynesさん
確かに物理は特殊。ただ、物理学者の間でもarXivの使い方は領域によって違う、というのは午前にも言った通り。HEPの研究者は朝のコーヒーの前にまずarXivをチェックするんだろう。HEPの雑誌は、投稿することに重要性がある。著者のためのもの。読み手ではなく信頼されるブランドに載ることに価値がある。
- 野崎さん
arXivに載るとジャーナルに載る前からもう引用もされ始める。出版前から引用が始まる。
- 谷藤さん
栗山先生、どうしましょう? というのは、audienceの半分くらいは図書館の方で、リポジトリの必要性は意見もあったが、ここから一段上がる、5−10年と考えると、データ保存はハードルが高い。大変そう、というのがじっくりわかった。それだけが解決ではない。研究・教育そのものを助けるものとしての機関リポジトリにとって今後10年とは?
- 栗山さん
現在の機関リポジトリの理論的根拠で一番わかりやすいのは、Harnadがいう、査読済みの論文をアーカイブする、許可された原稿を載せる、という形。それさえもできていない。せいぜい20%。ひとまず査読済み論文で許諾のあるものは全部載せてしまえば、分野によって違うという話もあったが、原理的には全分野でOAが実現できる。単純かも知れないがそれが一番わかりやすい。そこから先は、できれば、データの保存とか付加価値をつけるところに進めればいいが、まずは査読済み論文のアーカイブを着実にやることではないか。
- 谷藤さん
OA Weekにちなんで研究者にインタビューしている図書館も多い。研究者と連携しながら、ということは皆わかっていて、データ保存までは道のりは長いものの、そもそも「保存する」ことを続ければ・・・ただ、CC-BYにすることはリポジトリのハードルを下げるのでしょうか?
- 高橋さん・Elsevier
- ElsevierはCC-BYについて聞くには・・・取り組み遅かったので・・・
- 谷藤さん
NIMSの英文誌はCC-BYにするよう求められているのだが、私自身は商用も含めての許諾を躊躇している。研究・教育目的での自由な利用はいいのだが、範囲が広がることは躊躇する。研究をする人にとっての将来に本当にプラスになるの?
- 高橋さん
- CELL Reportは著者が選択できるようになっている。
- 安達先生
- 機関リポジトリについてはFinch ReportやHarnadとの議論も続いているが、ぜひ皆さんからご意見あれば伺いたいのだが、機関リポジトリ自体は広い概念で、博士論文公開にも使えるような一般的なもの。存在価値はある。ただ、セルフ・アーカイブに関する限り、研究に専念している研究者ほど「論文を発表もうしているのになぜそこにまで」ということで評判が悪い。「面倒くさいことはしたくない」という。イギリス等は制度化の方向で、OA雑誌 or 機関リポジトリにしようとしている。日本でいえば科研費の成果は全部機関リポジトリ、というようなもの。ただ、同時にOA雑誌に出せ、となると、助成機関が投稿して良い/悪い雑誌を決める、ということでもある。今まで研究者は自分で投稿先を選べたのが、「OA誌の方が楽だから」とか「APC払わなくていいから」という雑誌選びになる。それは学問の発展の阻害要因にならないか? 次の日本のステップはこの制度化をどうするか。科研費の成果はOA化、となるとそれが科学の阻害要因にならないか。
- 谷藤さん
最後に1人、1言ずつ。
- 安達先生
当面はSCOAP3をがんばる。
- 宇陀先生
図書館にとっての利用者は2種類。目の前の人と、可能性、いつか誰かのため。本も雑誌もそうだった。「役に立つの」というのとすぐ聞かれるが、短絡的な役に立つ/立たないではなくインフラとして図書館は働くべきでは。
- 栗山先生
図書館員は図書館員であることにこだわらない方がいい。
- 野崎先生
今後10年、HEPは日本から情報発信の仕組みを定着させたい。いい研究はしているわけだから、これまで欧米に頼っていたところを変えたい。CNS症候群、そういうことをやっているような分野はまだまだ幼い。物理は自分たちで世界に誇れるジャーナルを育てる。
- 植田先生
インパクトファクターよりも被引用数よりも自己評価が一番大事。世の中みんなにダメって言われたっていいと思えることをやる。そういう、自分で判断する訓練が要る。その点では査読を・・・査読の部分をどう強くするかが日本にとっては重要。日本も諸外国の学会もお金がかかっていないから、と思っているが、競争の激しいジャーナルではプロフェッショナルも入っている。研究クオリティを維持・発展させる査読を追求し続けなければ。
- 有田先生
知識は論文の形だけではない、ということを強調したい。知識を蓄えるアーカイバーとして。
- Haynesさん
現在、出版という意味では大きな変化がいろいろ起こっている。その中には破壊的な、イノベーションにつながるものもある。大きな変化があるのは間違いないのだが、結局は全部プラスの方向に働くのでは、と思う。研究者にも図書館関係者にも。私は学術情報流通の将来については楽観的に見ている。情報の提供者とテクノロジーの間で新しいパートナーシップが生まれ、情報がより豊かな形で提供され、科学・研究の進展に役立てられるのではないか。
事前に筑波大の某先生から、「宇陀先生がおとなしくしていたら煽ってきて」との指示を受けていたのですが、会場から煽る間もない、マイクの奪い合いのごときこのパネルディスカッション・・・!*2
個人的な感想としては、有田先生/植田先生・野崎先生/安達先生のそれぞれの方向性、そして皆さんご自身がおっしゃるように分野ごとにまるで違う、というか実質は人によって言うことが違う、ということを勘案すると、まだまだお話を伺うべき方がいるかな、と思ったり(これだけいっぱい色々聞いたのに!)
CiNiiのアクセスログ中の機関リポジトリ利用を分析したりしているのですが*3、機関リポジトリをよく使われているのは人社系の方・・・という傾向もあったりして、そういう点では今回のパネリストの皆さんはリポジトリ担当の方にはあえて厳しいことをおっしゃるかもしれない層であったのかも、とか。
紀要を研究に使う人なら昨今じゃリポジトリにアクセスしない週の方が少ないかもしれないような感じですし。
そう、紀要と言えば有田先生の「これからは機関とジャーナルのパートナーシップが出てくるかも・・・」というお話には「それなんて紀要?!」と思わずメモに書き込んだりしてました。
一周回って紀要に帰ってくる・・・のだとすると、紀要的な仕組みが現存していた日本はいっきに世界をリードする存在に・・・!?(なるかなあ・・・や、今でも日本の機関リポジトリは世界で一番成功していると個人的には思っていますが)
オープンアクセスウィークも残すところあと1日ですが、オープンアクセスをめぐる動向自体は来週以降もめまぐるしく変化するはずですので。
引き続きの注目と、華々しい1週間が終わってからの地道な取り組みこそがOAの実現につながっていくのでしょう・・・とかそれっぽいことを言って無理やりしめます(汗)