かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

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「天竺熱風録」

天竺熱風録 (ノン・ノベル)

天竺熱風録 (ノン・ノベル)


春先に買ったまま積読状態だったのだが、昨日のプールバイト中にあっさり読了してしまった・・・あのバイトの暇さ加減はもはや労働とは呼べない・・・


ちなみに積読化の原因は作者である田中本人も苦慮したという文体。
擬講談調というか、「岳飛伝」や「隋唐演義」みたいな翻訳調になっているのがちょっととっつきにくさを感じてしまう(苦笑)
まあ慣れれば全然平気だったが。


本作は田中芳樹が他のところで「こんな凄い奴がいたんだ」と吹聴していた唐の時代の役人(外交関係に従事)・王玄策の第2回天竺行を描いた作品。
この王玄策っておっさん、「西遊記」の玄奘三蔵が1回行って帰ってきただけであんだけ長い物語になる唐-インド旅行を生涯で3回やった、しかも全部ちゃんと帰ってきた、ってだけでも凄いのに、本作で描かれている第2回ではたまたまインドに着いたときにマガダ国(インド北方のでかい国)が名君の死と簒奪者登場の混乱で荒れていたのに巻き込まれてしまい、最終的には隣のネパールとチベットの軍勢借りてきて簒奪者を打倒した挙句に唐に連れて帰ってしまったという、実在してたとは思えない破天荒野郎。
異国の地で、異国の軍隊を率いて、何倍ものインド軍に勝つ、ってだけでも恐ろしいのだが、さらに恐ろしいのはこの王玄策、軍人じゃなくて文官。
身分もそんない高いわけではない・・・どころか完全に中級官僚。
唐に帰ったあとも(異例の出世はしたものの)大将軍とかになったわけでも武官に抜擢されたわけでもなく、それまでどおりの仕事をそれまでと変わらずやっていた・・・というから、当時の唐の人材の厚さには空恐ろしくなる。
まあ太宗・李世民がぎりぎり存命の頃だから唐の勢い自体すさまじいことになってたんだろうなー。


小説としては若干ご都合主義のところも感じられないではないのだが、この場合先に史実としての王玄策の業績があるもんだから、どうやったらそれを実現できるか・・・ってとこで田中芳樹なりの苦労があったんだろう、と。
また、藤田和日朗の挿絵によって登場人物がイメージしやすくなったのはノベルス版ではかなり良かった点なのではなかろうかと思ったり。


あと、これ読むと田中の他作品にも出てくる人ら(「隋唐演義」や「創竜伝」など)の名前が出てくるもんだから、ついそっちの作品も読み返したくなってしまったり。
いや実際、王玄策もとんでもないが、唐の建国の英雄たちの活躍もたいがい正気の沙汰とは思えないところがあるからなあ・・・。


しかし、日本に知られてない中国の史話とか演義持ってくることに関してはそろそろ円熟の感も出てきたな、田中芳樹・・・この人、間違っても歴史小説家とは呼ばないと思うんだが、じゃあなんなんだと問われるとなんなのか返答に窮する感じではある・・・
あとがきの中では「楊家将演義の翻訳もやる」と放言していたが。
20年くらい前からずっと言ってることだからやってほしいとは思うけど、その前に自分の未完の作品群をなんとかせいや、という気もしないでもない。
創竜伝」もさることながら「タイタニア」はあんなに気になるところで終わっているのは本当どうかと思うのだが・・・そこら辺どうなんだ・・・