かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

REFORM-電子情報環境下における大学図書館機能の再検討 成果報告会

秋葉原から電車を乗り継ぎ茗荷谷の大塚キャンパスへ。PASMO導入は3/18からのため、Suicaのみでの乗り継ぎはできず切符を買わなきゃいけなかった。惜しい。3/20に院生ゼミに参加するときまでPASMOの恩恵にあずかるのはお預けか。

REFORM 電子情報環境下における大学図書館機能の再検討 成果報告会@筑波大学東京キャンパス(大塚地区)G204教室


千葉大学の土屋俊先生が代表の、科学研究費補助金プロジェクトの成果報告会。
わがゼミの先生も発表されるうえ*1、自分の研究テーマである大学図書館の話でもあるだけに聞かないわけはないだろこれはー、という感じ。


以下、各発表のレビュー

わが国の大学図書館政策の歴史的回顧

発表:逸村裕(筑波大学教授)

ここ30〜40年間の大学図書館行政についてや、大学図書館の動向のまとめ。
NACSIS誕生に至るまでや、そこからNIIになるまでの話とか、初見だったら超面白いところだと思うんだが・・・如何せん、図書館経営論Ⅱの授業で先に聞いてしまっている部分もあり・・・


ただまあ、こういう通史があると大変便利なのは確かで*2、話自体は大変興味深く聞いた。
薄々感じてはいたが、政策面から見ても、日本の大学図書館って教育/学習支援よりは研究支援を主眼にすえて来たんだねえ・・・


ちょっと思ったのは、大学における「学習支援」と「研究支援」の違いってなんだろう、ってこと。
「学生用図書費が減っている」って話があったんだが・・・教員が自分たちで何買うか決められるのが研究用図書費で、そうじゃないのが学生用図書費ってことか? 入門書や教科書の購入費、ってこと?
でも教科書なら図書館で借りるよりは自分で買うことの方が多いわけで・・・実際、周囲を見てても、レポート書くときに使うのって入門書にとどまらずがっちがちの専門書だったりしたりもするし、区分けがよくわからない気がした。


時間がなくて質問できなかったので、今度逸村先生に聞いてみよう。
・・・でもあの人めちゃめちゃ忙しいんだよなあ・・・今週末は九州とか言ってたしなあ・・・

大学図書館を中心とするILLと文献需要の動向

発表:佐藤義則三重大学教授)

NACSIS-ILL(国立情報学研究所が提供する大学館の文献複写/貸借システム)のログを分析していろいろ見てみよう、という話。
文献複写の全数ログ分析なんてのは海外でも行われたことがないらしく、そういう意味では非常に画期的な取り組み。
・・・そりゃ、年100万件を超えるログデータを解析しようなんてなかなか思わないよなあ・・・


全般として、NACSIS-ILLは充足率も高いし、所要日数も少ない、非常に優秀なパフォーマンスを誇っているらしいことがわかったとか。確かに、頼んだ翌日に複写文献が届くこともよくある。


あと、もともとは海外のレアな雑誌をいくつかのセンター館で集中的に集めて、それを各館に提供しようというのがNACSIS-ILLのもくろみの一つだったわけだが、実際には近年、外国文献への複写依頼は減ってきていて、むしろ国内の文献への複写依頼が多い(2005年に国内が海外を逆転)。
また、センター館への複写依頼が集中、というよりは、各館がいくつかのグループ(私立大、国立大、私立医系、国立医系の4グループと、さらにそれぞれについて地理的な近さによる4グループ)に分かれていて、そのグループ内でのやりとりが多い。


つまるところNACSIS-ILLは非常にうまいこと動いているが、当初の目論見とはやや違う形で動いている、ということか・・・
海外文献の複写依頼が減ったのは明らかに電子ジャーナルのため、という風に発表中で述べられていた。
国立大でコンソーシアム組んで電子ジャーナル契約したときから複写依頼が減りだしたとのことで、こりゃあ間違いないだろうね。


国内文献への需要が高いのは看護・医療系など、新興大学からの複写依頼が多いからとかの理由が考えられるとのこと。
あとは日本の文献が全然電子ジャーナル化されていないからで・・・これはまあ、情けない話だよなあ。
電子ジャーナルが使える場合には文献複写はセカンド・ベストの選択でしかない、とは佐藤先生もおっしゃってたし、今後国内文献も電子化されていけば複写依頼は減っていくのかも知れない。


ただ、それでNACSIS-ILLの役目が終わりかと言えばそうではなく、今度は現物貸借が重要な役割になっていくんじゃないだろうか。
実際、日本でも現物貸借については一定の率で件数が伸び続けているらしいし(文献複写は頭打ち状態)。
日本は文献複写が多く、現物貸借は全然少ない、っていうのが傾向らしいが(理由はよくわからない)、アメリカなんかは貸借依頼の方が多いらしいし。

まあ当面はまだまだNACSIS-ILLへの複写需要は大きいだろうけど、今後の動向に注目、ってところですか。
あとはログデータのさらなる解析を待つ。


利用者調査の必要性

発表:佐藤義則三重大学教授)

電子情報環境の進展で利用者の行動がどう変化したのか、などなど、利用者の行動に関する調査が必要なんじゃないか、という話。


質疑中で発言もしたが、どうせやるなら単に利用者が図書館の中でどんな風に情報探索をしているか、ってところに留まらず、利用者がそこで得た情報をどう利用しているのか、ってところまで踏み込んでほしい。
例えば論文探索だったら、目的のものをどう探すか(DBを使うか、どのDBを使うか、冊子版を探しに行くか電子ジャーナルを使うか)、ってところでとどまらず、見つけたあとどうするか(レコードをRefworksに取り込もうとするか、あるいまMetalibでMyspaceに保存しようとするのか。文献が英語だったりしたときには、エキサイトで訳したりGoogleでページごと訳そうとしたりするのか。レポートに引用する際にはコピー&ペーストしようとするか)まで調査するとか。


図書館の役割がどう変化していくかは難しいところだが、「研究・学習活動の支援」が図書館の役割であるなら、「情報の探索・発見」のサポートにとどまらず、その先の「活用・発信」までサポートしていくようになるべきだと思う。


できるなら、利用者の情報行動すべてをサポートしたいところ。
それが「情報ポータル」ってことの意味なんじゃないだろうか。まる。


オープンアクセスの動向

発表:三根慎二(慶應義塾大学大学院)


あのOpen Access Japan(Open Access Japan | オープンアクセスジャパン)の運営者さんの発表。
っつーか運営、院生がされてたんですか?!
自分はまたてっきりそういう団体かなにかの職員の方がされているのかと・・・
「毎日見てます! サイン下さい!」とか言おうか迷ったのはここだけの話。


発表自体は近年のオープンアクセスの動向の紹介、っていう感じだったんだが、つい先日発表されたばかりのブリュッセル宣言もフォローしてあったりと、さすがに情報のキャッチが早い。


あと、質疑応答の際に会場にElsevier Japanの人が来てたことがわかって驚いた。
三根さんもおっしゃってたが、今のところオープンアクセスを巡っては出版社の方が一枚上手。
それはやっぱり、こういう成果報告会にも顔を出して情報を得たりとか、まだ全然オープンアクセスが進んでない状態でもすぐに手を打ってみたりとか、全く油断しない姿勢があるからなんだろうなあ。
努力をする上に油断しない王者に勝つ術ってなんかあるのか。

提言

発表:土屋俊(千葉大学教授・附属図書館長)

科学研究費の期限は今年度まで。また申請してはいるが、つくかどうかはわからない、とのこと。


全般に非常に有意義な研究だったとは思うんだが、「電子情報環境下における大学図書館機能の再検討」というタイトルを考えると・・・まだ検討中、って感じがして否めない。
今回は動向分析とか、状況分析、これまでの経緯のまとめにとどまっていて、むしろこれらの結果をもとにこれから大学図書館機能の再検討が始まる、っていう雰囲気。
会場からも「(新時代の)大学図書館ガイドラインを作成してほしい」とか意見あがってたし。
ぜひまた科学研究費獲得して、さらなる研究を重ねて欲しいところである。


・・・「ところである」って自分も研究者になりたいんだから他人事みたいに言ってる場合じゃないんだが。
また科学研究費がつくなら、次はぜひ一枚噛みたいところー。

*1:見る人にはバレバレだけど、あえて誰かは伏せる方向で。ほら、顔の見えない匿名性が自由な論議を呼ぶって言うじゃんbyげんしけん

*2:まあこれまでなかったのがどうなんだ、っていう気もするが