かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

ピンク街化問題―アダルト本・雑誌専門店化戦略の利点と現実


先日のエントリ(「町の本屋」の生き残りと大型書店増加傾向への疑問)が予想外のブクマの伸びを見せた末に人気エントリに入ったりしてから早数日。
ここ数日はアクセス数もスパムコメントも落ち着いて、いつもどーりのテンションに戻ったようです。
あわせて読みたい」に表示されるのがいつものタイトルになってきたことからもそのことが読み取れます。
こういう使い方もできるんだなっていうかそういう使い方しかしてない気がするけど。


一方で、先日の日記にトラックバックしてくれた福間晴耕さんの下のエントリの方はその後も着実に波紋を呼んでいるようです。

福間さんのエントリ

  • こちらの記事(というかコメント)の引用部分

 そしてそれと同じ流れを、今度は「町の本屋さん」がたどっているらしい。その背景を先ほど紹介した「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」さんのエントリー「町の本屋」の生き残りと大型書店増加傾向への疑問」のコメント欄から引用したい。

とおりすがり 『うちの近所の本屋さんには、殆ど雑誌か漫画しか置いてないですね。それもアダルト系メインで。たぶん元からそういうお店だったわけではないんでしょうが、やはりメシ食っていこうとするとそうなっちゃうんですかね。』 (2007/08/19 00:00)
min2-fly 『アダルト系は・・・根強い需要がある上に、あればっかりは人の多い大手書店/大型書店で買いたいものではないですからね(汗)
ネット書店で買うにも下手に個人情報残ると恥ずかしい思いをしかねないし、生き残るにはいい手段なのかも知れません。実際、昔住んでた街でも、ほかはほとんどシャッター閉めてるアーケードで、アダルトメインの書店だけはしぶとく営業し続けたことありましたし。
ただまあ・・・営業する側としては複雑な気分になりそうですし、あんまり数が増えるとまた危険でしょうね・・・。

あ、でもコンビニにおけるアダルトな本は最近は規制が入ってることを考えると、コンビニとも競合しないしいい狙いどころではあるのかな、やっぱり・・・』 (2007/08/19 00:30)

以前も地方では娯楽がパチンコに席巻されている(というかそれしかない)話しを書いたが、書店や駅前店舗もまた確実に風俗街化が進んでいるようなのだ。しかし多くの地方商店街がシャッター街化している今、生き残るためにはそれしかないのもまた実情なのである。

アダルト本・雑誌特化戦略のメリット

元もとの記事のコメント欄にもちょっと書いたが、「町の書店」=中小書店がアダルト本・雑誌に特化する戦略には他の書店にはない幾つかのメリットがある。
具体的には、

  1. (男性がいる限り)ある程度どこにでも根強い需要が存在する
  2. 顧客ニーズの在り方が他のタイプの書店と異なる
  3. 大型・超大型書店、郊外型書店などの大手と競合しにくい
  4. コンビニエンスストアと競合しない
  5. ネット書店と競合しにくい

などである。

第1のメリットは言わずもがなであるが、基本的にそこに成人男性*2が居住している限りアダルトなものへの需要は存在する。
他の書店の専門化戦略だと、そもそもその専門性へのニーズが地域にある程度以上存在しないと商売として成り立たない、という問題があるわけだが、ピンク化戦略だとよほど枯れた地域でない限りはその点への配慮があまりいらなくなる(のではないかと思われる)。


第2のメリットについては若干の説明を要するかも知れない*3
前回のエントリは「町の書店にベストセラーが入らない」問題がasahi.comで取り上げられたことがきっかけだったわけだが、ピンク化戦略においてはベストセラーや新刊が入らないことはあまり問題にならない。
もちろん、さすがに大手レーベルの本が全然ないとかだと困りものだが、基本的にピンクな書店に対する需要と言うのは「○○という本が欲しい」とか「今話題の○○に関する本が欲しい」とかではない。
一部の例外*4を除き、人がピンク書店に求めるものは「自分の性癖/性欲を満たしてくれるものが欲しい」ということであり、もっと直球で言うと「今夜のおかずが欲しい」ということである。
その点のニーズさえ満たしてくれれば数年前の本でも全然問題はないし、さらに言えば人間のピンク方面に対するニーズの多様性は某友人をして「ネットの世界は広大だ」と言わしめるほどのものなので、売れ筋の本がどうこうとかはあまり問題にならない。
この点で、ほかの(もともと特定の本を買うための客がメインで来る)中小書店とは趣を異にする。
ジャンルと品揃えさえ豊富なら、あとは客はじっくりと内容を吟味してその日の一冊を買っていく、それがピンク書店の醍醐味である。


第3のメリットと第4のメリットは近いものがある。
大型書店・超大型書店や郊外型書店のように、客がたくさん来る、それも女性も家族連れもたくさん来るところでアダルトな何某かを買うには若干の勇気もしくは厚顔無恥っぷりが必要になる。
そうした書店では店員が妙齢の女性であることも多く、(中にはそれに興奮するド変態もいるとは思うが)まあ基本的にアダルト誌を積極的に買いたい環境ではない。
その点で中小書店に若干の利がある。
まあ、大型書店の中にはわざわざそっち方面に特化したコーナー・レジを設けている親切なお店もあるので一概には言えないが、とりあえずmin2-flyが2006年につくば市内の郊外型書店を対象に行った調査(ピンクな本の調査ではなく、書店に関するレポートを書くために市内全店のほとんどの棚を見て回っただけ)では、どの郊外型書店もアダルト方面の品揃えはいまいちか、むしろ意図的に排除している節もあった。せいぜいコンビニに置いてるのと大差ないレベルの本である。


「客が買いづらい」というのはコンビニの場合も同じとして、コンビニに対するピンク中小書店の強みのもうひとつは、コンビニには置けない雑誌が中小書店には置ける、ということである。
一連の記事に関するコメントの中で「コンビニにだってエロ本はあるし、やってることは一緒でしょ」みたいな書き込みがあったが、いやいやいや、コンビニに置いてある本と置けない本の間には海より深くエベレスト級に高い溝があるから。
だいたい、「やってること一緒」なんて言ったらそこら辺の少女コミックだってやってることは一緒なわけだし。
そこら辺、深く述べ出すと方向性が変になるので詳細は避けるが。


第5のメリット、ネット書店との競合しにくさについてはさらに細かく分けると2点あって、一つはネット書店で買うと変に個人情報が残るということ。ただまあ、こちらは気にする人は気にするかも、くらいの問題。
もう一つは、第2のメリットにも通じることだが、ネットだといくら中身検索とかができるようになってきたとはいえまだまだ「十分に吟味する」ということが難しい、ということ。
「実物を手にとって確かめたい主義」の人はよくいるが、アダルト本はその最たるものの一つだろう。
よほど周囲の評判がいいか、作者買いとかでない限り、出来ることなら実物を手にとって確かめたい人は多いはず。
っていうか実物があっても表紙やグラビアに騙されること多々なのに、ネットの情報だけで買うとか危なすぎるから。


・・・と、なんか色々なものをかなぐり捨てながら書いてきた気がするが、中小書店のピンク化戦略にはだいたい以上のようなメリットが存在する。
ただ、世にメリットしか存在しないものなどあるはずもなく、当然デメリットも存在するし、こちらも割と切実である。


ピンク化戦略のデメリット

大きなものとしては以下の2点。

  1. 競合他業種(競合他メディア)の存在
  2. ネット上のアダルトコンテンツ


まずアダルト戦略においては、新刊書店以外の競合他業種が存在する。
最大のものとしてはアダルトビデオショップ・アダルトの多いレンタルビデオショップ・アダルト系に強い古書店新古書店など。
基本的にアダルトなものへの欲求とは、前述のとおり「今夜のおかず」であって、他の分野より遙かに突出して「紙媒体であること」への要求が低い。
ニーズさえ満たしてくれればあとはVHSでもDVDでも良いわけで、特にPCが一般化してる現在だとDVD攻勢に対して如何に対抗できるか、というのは大きな問題である。
もっとも、この点については至極わかりやすい解決策があって、自分のところで競合他メディアも扱えば良い(実際、そういうところ多いよね?)。
ただまあ、それだけの資本がなければ厳しくはなるかも知れない。


で、競合他メディアの中で特にヤバいのはたぶんネット上のアダルトコンテンツ。
特にここ数年ではブロードバンドもすっかりおなじみとなって、動画でもなんでも快適にダウンロードできる環境を備えた人も多くなり、単にアダルトな欲求を満たしたいのであれば(特に特定の作家へのこだわりとかがないのであれば)わざわざメディアを買う、ということは特に若い世代では少なくなりつつあると思う。
実際、min2-flyの周りでも「アダルトDVDも本も一冊も持ってない!」っていう奴けっこういるしね。
彼女がいる奴なら本当にアダルトコンテンツを所持していない場合もあるが、そうでない場合はハードディスクの中身をくまなく探せば即ゲームオーバーだったりする(もうちょっと工夫しろよ)。


特に後者のデメリットがかなり強いために今後書店のピンク化戦略もすぐに行き詰まりを見せるだろうな、とか思う。
実際、近所でもそっち系に強いことで有名だったレンタルビデオ店が潰れてたりしたし、まあピンク化は中小書店の寿命を多少延ばしはしても「生き残り戦略」として売り込めるほどのものではないだろうなー。


ところで書店のピンク化って本当に起こってるの?

さんざん書いてきてなんだが、ところで本当に書店のピンク化って今起こってるところあるのか??
min2-flyの見る限り、「もとからピンクだった書店」は存在しても、「最近ピンク化著しい書店」ってあんまり思いつかないんだけど・・・むしろどピンクだったのが沈静化したところとかはあったが・・・
そもそも、発端になったコメント欄を確認すると

とおりすがり 『うちの近所の本屋さんには、殆ど雑誌か漫画しか置いてないですね。それもアダルト系メインで。たぶん元からそういうお店だったわけではないんでしょうが、やはりメシ食っていこうとするとそうなっちゃうんですかね。』 (2007/08/19 00:00)
min2-fly 『アダルト系は・・・根強い需要がある上に、あればっかりは人の多い大手書店/大型書店で買いたいものではないですからね(汗)
ネット書店で買うにも下手に個人情報残ると恥ずかしい思いをしかねないし、生き残るにはいい手段なのかも知れません。実際、昔住んでた街でも、ほかはほとんどシャッター閉めてるアーケードで、アダルトメインの書店だけはしぶとく営業し続けたことありましたし。

って感じで、「開店当初からピンクだったわけではないんだろうが」という意味での記述はあるけど、どこにも「今ピンク化している」とは書かれてないんだよね。
仮に「書店のピンク化」という現象が起こっていたとしても、それってもうとっくの昔に始まって終わってた現象なんじゃないか、とか思うのだが。
出版不況なんて今に始まったことじゃなし、もしピンク化が起こるなら初期段階から起こるところでは起こってるでしょう、と。


商店街のピンク化には中の店の入れ替わりとかが必要だが、書店がピンク化する分にはなんもしなくてもそっちしか売れなかったら勝手にそういう風になっていくわけだし。
最近なにかがどうこう、っていう話では別にないような気がする・・・
むしろこれからは出版不況開始⇒ネット普及までの間にピンク化した書店が潰れゆくフェーズに入るんじゃないのか、とか。
さんざんメリット並べて置いてなんだが、そうは言ってもやっぱ中小は勝ち残りにくいだろコレ。
ましてやピンク書店じゃ書店擁護派も微妙な顔しそうだしなあ・・・やっぱどこも大変だね、しかし。

*1:しかし自分とこの先生たちも読んでるらしいブログでエロ本の話とは我ながら・・・。あくまで真面目な考察ですよー。真に迫ってる表記とかもきっと気のせいですよー。

*2:実際には昔は中高生とかの方がパワーがあったもんだが、まあ一応彼らは買えないはずの存在なので今回は除外

*3:多くの成人男性は説明しなくてもわかってくれると思うが・・・

*4:定期購読しているアダルト雑誌があるなど