かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

「野望円舞曲」(7)


[rakuten:book:12104484:detail]
Amazonはまだ書影がないから楽天から)


田中芳樹荻野目悠樹 著のスペースオペラ、田中の御大が原案や設定提供をし始めた最初期の頃から出ている作品でありながら「&」という謎表記(荻野目と田中の明確な役割分担が見えない)をしていることの意義を今回は遺憾なく発揮しています。


いや、なんていうか、実際の文章書いてるのはたぶん荻野目の方なんだろうと思うんだけど(田中芳樹の筆の遅さは異常なので)、他の田中原案系と違って、「筆の遅い田中芳樹の代わりに書いてる」のではなく、この作品だけは本当に「田中芳樹と二人で書いてる」って感じがひしひしと伝わってくるんだよね。
荻野目さんの文体自体は淡々としすぎている感があるというか、うまく書けば名シーンになりそうなところも割とするっと進んじゃう、ゲームやアニメのノベライズみたいなところがあるんだけど。
文の素っ気なさを差し引いても十分面白いくらいに、ストーリーがヤバい。
これは田中芳樹一人では書けない。


もともと政治や戦争、あるいは陰謀(工作)などの面から諸勢力の駆け引きを書かせたときの田中芳樹の実力は保証済みなわけだけど、そこに荻野目が経済(金融)面での駆け引きを持ち込んで、なおかつそっちをかなり主眼に置いたもんだからなんだかとんでもない化学反応が起きている。
戦争ものの背景として経済面の話が書かれてる小説とか、逆に経済戦争のエッセンスのひとつに実世界の戦争の話を入れるとかいうのは今までもあったような気がするけど。
経済戦争と実戦争をここまで直結させた(両者のプレイヤがほぼ一緒で、経済戦争に勝つために軍隊を動かして直接相手を叩こうとしたり、金融の変動が自分に有利になるように紛争介入する描写があったりする、なおかつそれらが経済面で勝てないゆえの暴発でなく、取りうる当り前の施策の一つとして扱われる)小説は初めて読んだ気がする・・・
レバレッジで増やしまくった資金で空売りしかける」部分は荻野目がいないと田中単独では書けないだろうし、一方で「逃げているかに見せかけて実は相手をはさみこんでから一気に逆転」みたいな戦術描写は田中芳樹お家芸なわけで。
その2つを組み合わせて、しかもそれが不自然じゃない設定(トルコVSヴェネツィアがモデルのボスポラス帝国とオルヴィエートとか)を組み込んでるんだから、そりゃあ多少文体がそっけなくても面白くてたまらないよなあ。
むしろそっけなさが逆にストーリーとしての面白さを純粋に引き出している気がするから不思議だ・・・
キャラクターの性格設定とか限りなくお定まりな感じになってきてるのに。


・・・いやまあ、最盛期の田中の筆力があれば絶対もっと盛り上げられるだろ、と思うこともやっぱあるんだけどね・・・でも田中芳樹の文体も好き嫌いあるしなあ・・・


閑話休題
話としてはいい感じに一段落つけたような気がする「野望円舞曲」だが、さて、次巻が出るのはいつの日か。
田中芳樹がからむとどんな作家でも筆が遅くなるからなあ・・・「銀河英雄伝説」で殺しすぎたキャラクターたちの呪いでもかけられてるんじゃないかなあ・・・まあ、あまり期待せずにのんびり先を待とう・・・