かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

「システムズライブラリアン」ってなんやねん?


id:humotty-21さんの以下の記事(の、1番上の記事)のコメント欄が面白かったのでコメントしようかと思ったのだけれど。
予想外に長くなったので、エントリ立ててトラバすることに。


コメント欄では実際に公共図書館の現場で必要なのはパソコン関係のトラブルシューティングとデザインの素養(広報物・webページの作成のための)、それに図書館情報学である・・・っていう風な流れで、それらが出来れば「初級システムズライブラリアン」を名乗ってもいいのではないか・・・と言う感じなのだけれど。
自分はそれはちょっと(例え初級であっても)「システムズライブラリアン」と呼ぶべきものとは違うのではないか、と感じる。


「システムズライブラリアン」の走りであるアメリカの場合、あえて職名を「システムズライブラリアン」と指定するときには、現在だと「コンピュータにちょっと強い人」レベルではなくて「図書館システムの管理者」、あるいは「開発者」クラスの役割を求められることが多い(もっとも、ネタ元のCAの記事で指摘されているように、図書館の規模等によってシステムズライブラリアンの位置づけにはまだばらつきがある。あと時代によって求められる役割がガンガン変化していくのでこれもいつまで通用するかわからない)。


以前、研究の一環でシステムズライブラリアンの採用情報(アメリカの)を分析したのだけれど、そこでは

・図書館オペレーションのコアな部分に関する知識を有し、MARC及び書誌レコードの構成を理解していること
・情報技術の国際標準規格やプロトコルの知識
・web技術や他の技術に優れていること(具体的には・・・以下、20個くらいソフトやプログラミング言語、標準規格の名前が列挙)

などが要件として挙げられている。
図書館業務のフローや図書館が扱うメタデータについての深い造詣を持つと同時に、それらをシステムに反映できるだけの技術的なスキルを求められるのが「システムズライブラリアン」と言う感じ。
もちろんシステムを全部一から構築するわけではなく、そこはパッケージを買ったりどっかと契約したりはしているんだろうが、カスタマイズやメンテナンスくらいは自前でできるようにする。
あわよくば便利なツール開発して導入できるようにする。
さらに現在のシステムや新製品の評価を行い、自分とこに導入するか否かの決定に参加することも業務内容の一環。
その他にも専門性を活かして教員との連携を図ったりなんだりも求められることもあるが・・・いずれにせよ基本的には「システムに関すること」がお仕事で、「PCを使う作業」が仕事なわけではない。
それは初級であっても上級であっても揺るがないのではないかと考えられる(単にPC使って作業をすることとシステムを組むことでは方向性が違う)。


また、humotty-21さんのところのコメント欄では「”個人的に(PCを使う作業/技術に)強い人”に名称を与えただけなのか」と言う疑問も呈されているが、それも(少なくとも合衆国では)ない。
あちらさんはジョブ(ある役割の集合)とジョブディスクリプション(あるジョブがやることになる役割を列挙して明示したもの)の国なので、採用時にはその人が採用されたらやることになる業務を(読むのが面倒なくらいに)長々と列挙して示すし、採用された側もその列挙された内容から大きくはみ出すことはしない(頼まれても断り得るしマジで断る)。
「○○さんはPCが得意だからこれもやってー」ということが起こりえないお国柄だし、採用されてから徐々に役割が固定化していく・・・ということもあまりない(例外はあるが例外である)。
「システムズライブラリアン」として採用されればそこに書かれた役割を行うだけだし、「システムズライブラリアン」(的なもの。名称は違いうるので)として採用されなかった人がシステムズライブラリアン的な業務を行うことも(基本的には)ない*1


もちろん以上はすべてアメリカの話ではあるわけで、日本に概念を導入するとすればまた別のものにならざるを得ない(雇用慣行が違いすぎるから)とは思うが・・・ただまあ、ちょっとコンピュータに詳しい図書館員とか、ちょっと図書館をかじったIT技術者とかいうレベルではない人間を求めて、その養成体制の不備を嘆いている国があるんだ、ということは抑えておいた方がいいと思う。
もちろんhumotty-21さんのところのコメント欄で言われているパソコン関係のトラブルシューティングとデザイン系のソフトウェアの素養が不必要ってことではなく、そこら辺はむしろこれからの図書館員全体の必須要件になっていくべきだしそうなるだろう、とかなんとか。


・・・まあ、そもそも今の日本の公共図書館でシステムズライブラリアンをうまく運用できるところがどんだけあるのか、って問題はあるわけだが・・・大学でも厳しそうな・・・*2
・・・海外で「養成体制がない」って嘆いているんだから、ガンガン養成して海外に送り出せばいいのか・・・?


**直後に追記

・・・っていうかそうか、そもそもの違和感の原因は「システムズライブラリアン」をジョブと捉えるか一定のスキルを有する職員を指す語として捉えるかの違いか。
どんなに秀でたスキルを有しようがシステムズライブラリアンとして雇用されない限りシステムズライブラリアンとは言い難い、と・・・・・・・・・
・・・むう、この定義だといよいよもって日本にシステムズライブラリアンはいないわけだが・・・

*1:ただしこちらはシステムズライブラリアンのジョブを設定していなかった図書館でどうしてもそれ的な仕事が必要な場合には話が別かもしれない

*2:システムズライブラリアンの走りであるアメリカにおいても公共図書館への導入は大学/専門に比べ少ない。参照:Library Jobs - ALA JobLIST | Jobs in Library & Information Science & Technology(システムズライブラリアンの募集の大部分が大学-university、college-と専門機関)