かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

「丸一日、研究から解放されて自由に時間を使えるとしたら?」「何か新しい研究はじめちゃうよ、きっと」


M1の癖に某知識情報・図書館学類の大学説明会で「4年生は何をしているか」というお題で話すことになり、去年の今頃何をしていたか研究日誌とかを見て漁っていたのですが。
呆れた・・・毎日毎日、よく飽きもせず夏だってのに旅行にも行かず卒業研究ばかりやってたもんだ(苦笑)
もっとも、今年の今月の日誌を来年の自分が見たら似たようなこと言ってそうな気もするが。


しかし高校生に「大学4年生は何をしているか」説明しろと言われても、就職活動なんか端から眼中になかった自分に説明できるのは卒業研究についてくらいなんだが、卒研の話を高校生が聞いて面白いか?・・・とか思い、「なんかいいネタ本でもないかなー」とか思って適当に蔵書を漁ってたらちょうどいいものを発見。

本章の終わりに、物理の講義で聞いたことのある「究極の試験問題」を紹介しよう。これが解ければ、あなたはすぐれた研究者である。

 次の質問に答えよ。
 
 問題1 何かおもしろい問題を考えよ。
 問題2 問題1で作った問題に答えよ。


酒井邦嘉. 科学者という仕事―独創性はどのように生まれるか (中公新書 (1843)). 中央公論新社. 2006, p. 148.


この問題を見て、面白いと思えるか、やってみたいと思うかどうか。
面白いと思えるのなら、大学4年生の生活(と、人によってはそれに続く大学院生生活)ほど楽しいものはないと思う。
大学・学部によっては学年の早いうちから研究課題等をやらせるところもあるとは思うが、少なくとも自分について言えば、自分で「何かおもしろい問題を考え」て、「作った問題に答え」る作業に初めて本格的に取り組んだのが卒業研究で、ぶっちゃけめちゃめちゃ面白かったのだ。


もちろん、実際には自分で考えた問題と同じものを既に別の誰かが思いついて、なんらかの方法でそれに答えてしまっていることもあり得るし、そうなると同じように解いてもつまらないし評価されない。*1
ゆえに研究文献なんかを探ってまだ誰も解いていない、面白い問題を探すことが必要になるわけだが、これもぶっちゃけた話、図書館情報学(あるいは図書館・情報学/知識情報・図書館学)の分野についてはまだ解かれていない問題なんかゴロゴロしているし、実際のところどんな研究分野だってそもそもその問題の存在に気づかれていないような問題なんか探せばいくらだって出てくると思う。
その中から自分だけの、世界でまだ誰も解いていない問題を見つけてきて挑戦する快感は、好きな人にとっては麻薬みたいなもんじゃないだろうか。*2


もちろん苦しいこともある。主に肉体的に。
自分の場合、卒論では大学図書館の外部委託*3についてやっていて、徹夜で質問紙調査の結果を分析したり、インタビュー調査に行くためにこれも徹夜で遠征してみたり、英語で書かれた求人広告40件くらい日本語訳して中身を分析したうえであんまりそのデータ使わなかったり・・・とか色々あったことはあった。
ただそんなもの、自分が面白いと思ってたてた課題の、まだ他の誰も知らない答え、世界で自分だけ知っている答え(まあもちろん答えが間違っている可能性もあるわけだが)が明らかになっていく快感に比べりゃ屁でもない。
その結果を発表して、同業者や関係者からそれなりに反響があった時の嬉しさを考えれば、おつりが有り余るくらい来るってもんだ。
そんなだから卒研以外でも全然関係ないような内容まで勝手に考えたり自分で調べたりしてブログに書いたりもしているわけで*4、こいつはもう中毒、あるいは習性みたいなものだ。
ワーカホリックならぬリサーチホリック、あるいはサイエンスホリック。
どんなものかと言えば、ある日大学院の先輩と交わした以下の会話がだいたい示している。

「丸一日、研究や雑用から解放されて自由にできる時間とか欲しくならない?」
「欲しいですねー。でもそしたらどうせ何か新しいこと(研究)はじめちゃいますよ、きっと」
「違いないw」


こんな感じ。
この楽しさに比べれば卒研配属されるまでの授業は長い長い前座、準備運動のようなもの。
もちろん準備運動なのでおろそかにしてはいけないのだけれど。
まだ誰も解いていない問題を見つけるには何が既に解かれていて何が解かれていないのか、図書館情報学がこれまでどんな問題にチャレンジして、何をやっていないのかを知っておかないといけない。
あとは、卒業研究に関して言えば「約1年」という時間の縛りがあるので、大変心苦しいところではあるが1年で解けそうな問題を作らないといけないわけだけど、じゃあどんな問題なら1年で解けてどんなのは無理か、ってのもこれまでの研究成果や各種の研究手法について知らないと判断が難しい。
さらに言えば研究として解くことが可能な、意味のある問題の作り方も知る必要があるし、せっかく面白い問題を作ってもそいつを解く方法がわからなければ勿体ないのでそこら辺も身につけておく必要がある。
だから3年生までの授業も決して疎かにしてはいけないし非常に重要なのだけれど、でもやはり大学の最大の魅力である研究に僅かなりとも触れられる、卒研着手以降の日々の楽しさはこっちの世界が好きな人にとっては段違いだろう。


まあ別に礼儀正しく卒研配属されるまで待って行けないわけもなく、某プロジェクト関係者のように早くから自分で問題作って予算取って来て取り組んだりすることもできるけれど、4年生以降は(それまで真面目に授業取っていれば)他の授業に時間を割くことなく、卒研に集中できるというメリットもある。
ま、要は

  • 「おもしろい問題を考えて」「それを解く」ことが好きな人にとっては、それに時間を割ける大学4年生の生活は割とバラ色(傍からどう見えるかは知らないが本人的には楽しくてたまらないはず)*5


というだけのことなのだけれど。
そういうことを楽しいと思えるなら、就職して社会に出るんじゃなくて大学院に進む、という選択肢もありかも知れない・・・ただし、博士後期課程を修了した人の就職難はそれは深刻であるし、最近は採用する場合も任期付きでの雇用が多いので、安定した生活を送りたい人には絶対お勧めしない。




・・・おお、大学説明会でする話はこれでいいんじゃないだろうか!
なんか自分が大学院の進学説明会で聞いた体験談に似ているような気もするが・・・そう言うのが好きな人が院に進んでるんだから当然っちゃあ当然か。


と言うわけで3日後の知識情報・図書館学類の説明会ではこんな感じの話をするので、ネタ被らないようによろしくお願いします(笑)>他の体験談話す人各位。*6
あと、(いないとは思うけれど)当日、説明会に来る予定の高校生でここを見ちゃった人は見なかったことにして全力でスルー推奨。
そういうスキルも意外に大学では大事だぜ!(爆)
まあ実際にはそこであえて空気を読まない、というか読み切ってあえて場が避けたがっている方向に爆弾投げる人がわらわらしているのが大学でもあるのだけれどー。

*1:もっとも、再現性の確認と言う意味では誰かの解いた問題を自分でもやってみる、ってのもそれはそれで面白いし重要な作業ではあるんだけれど。評価はやっぱ微妙だし、うちの卒研でも厳しいと思う

*2:もっとも、実際には卒研…どころか修士、博士の段階では指導教員はじめ先生方がアドバイスやヒントをくれるので、厳密には自分だけの力でたてた問題ではないのだけれど・・・って話をして高校生に水を差しても仕方ないか?(2008-07-28追記)

*3:どんな大学でどんな業務がどの程度、専任職員ではなく外部の業者によって行われているのか。委託を行っている大学の特徴は何かetc...

*4:もっとも、実際には発展させれば「研究」になり得る内容を含む記事はそう多くないんだけど。月に1〜2件くらい? なんだかんだ言って調べものとかすると時間がかかるってこともあり・・・

*5:この場合、就職活動はもちろん考慮に入っていません(苦笑)

*6:もちろん、ここであえて全被せしてくるような猛者がいればそれはそれで楽しいのでいいかもしれないがそれをフォローできる力量は自分にはたぶんない(苦笑)