親が本好きだからって子供が本好きとは限らない(?)
今日から読書週間だそうですね。
ってことで産経ニュースから以下のような記事が。
これについてDan Kogai氏が反応してエントリをアップされています。
Kogai氏のエントリは基本的に産経に反発しているんだけど、「子供が本好きになるにはまず親が本好きになること」という点については賛意を示されています。
普段、本から遠ざかっている子供に読書週間だからといきなり本を読むことを勧めてもあまりうまくいかないだろう。本好きに育てるには、知らない間に自らが本に手を出すように仕向けるのが最もよい。それには、まず親が本好きになることだ。中でも幼児期に親が本に親しむ姿を見せることが、子供が本への興味を持つきっかけとなる。
http://sankei.jp.msn.com/life/education/081027/edc0810270320001-n1.htm
これは半分本当。もう半分、いやそれ以上はマスメディアを遮断すること。TVと新聞をやめれば、いやでも本を読むようになるYo!。これは「弾言」にも書いた。本だけ読んでりゃいいほど、現代人は暇じゃないもんね。
まあDan Kogaiの本意は「TVと新聞をやめれ」であって「半分本当」の方じゃない気もするけども・・・
この話については先月末に行われた三田図書館・情報学会の研究大会で汐崎順子さんが大変興味深い発表をされていました。
三田図書館・情報学会
2008年度研究大会日時:2008年9月27日(土)
場所:慶應義塾大学三田キャンパス北館ホール
- 6.読書意欲・読書習慣の形成過程−子ども時代の読書を中心に (予稿集の誤植を訂正しています)- 汐粼順子(慶應義塾大学大学院)
リンク先から発表のレジュメ全文を参照することが出来ます。
内容は1980年代生まれの男女23人を対象に行った読書意欲・読書習慣についてのフォーカス・グループ・インタビューで、タイトルの通り特に子供時代の読書を中心に扱われています。
その中で家庭及び社会の読書環境が読書の意欲や習慣に与える影響についても扱われているのですが、そこでは
「子ども時代,読書が好きだった」20人中16人には兄弟(姉妹)がいたが,うち 11 人は「兄弟は読書が好きでなかった(兄弟が複数の場合,両方もしくはどちらか)」と答えた。これは同じ読書環境(家庭)にある兄弟間でも,読書の嗜好がしばしば異なることを示している。
汐崎順子. "読書意欲・読書習慣の形成過程:子ども時代の読書を中心に". 三田図書館・情報学会研究大会発表論文集. 東京, 2008-9-27, 三田図書館・情報学会. 2008, p.21-24(引用部分はp.22). (SIST02で書誌事項書こうとすると発表論文集(冊子体)からの引用とした方が楽だったんでそっちで示していますがネット上のものとは引用部分については差はありません)
とされており、また別の場所でも
《あまり「本が好きです」っていう感じではない》(P24),と発言した P の母親は文庫の主宰者で,家庭には本が沢山あり,幼い頃より積極的な読書への働きかけを受けた。しかし,《生まれる前から読み聞かせをされていたと思うんですけど・・・記憶はない》(P12),と述べた。
本人自身は一定水準以上の読書意欲を持っていないと思っているが,他の参加者との発言から多くの本を思い出して発言した。つまり子ども時代に一定の読書習慣があったことが分かる。この事例からは,「読書が好き」という基準には個人差があること,P は,自身の読書習慣と読書意欲を結びつけて考えてはいないことが示唆された。
汐崎順子. "読書意欲・読書習慣の形成過程:子ども時代の読書を中心に". 三田図書館・情報学会研究大会発表論文集. 東京, 2008-9-27, 三田図書館・情報学会. 2008, p.21-24(引用部分はp.24).
とされており、少なくともこの研究の対象においては「親が本好きなら本が好きになる」とは言えない場合もある(同じ家庭環境で兄弟の読書意欲・習慣が異なりうる/親が読書好きでも本人は好きではない場合もある)こと、そもそも読書が好きであることと読書習慣があることが結びついていないことがある(本は読んでいるが好きではない場合がある)ことが示されています。
言われてみればそりゃそうだというか、例えば自分の家は3人兄弟(自分は末っ子)なんですが長兄と自分は読書好きであるのに対して次兄はそこまで好きと言うわけではなかったですし、兄弟でそういう嗜好が違うってケースはけっこうあるわけで・・・
また、発表中では逆に親が本好きじゃなくて読み聞かせをしてもらったこともなく、学校図書館の司書の先生(司書教諭を指すかは不明)は怖くて公共図書館は近くにない、なんて読書環境でも読書が好き、と言う人の例もあり、親が本読まない=子供も本読まない、も(これも言われてみれば当然なんですが)成り立っていないケースもある、とかなんとか。
結局、同レジュメのまとめにもあるとおり
本研究では,一般的に読書を促す,と見做されている各『一般的+要素』が,実際各自の読書意欲,習慣の形成に結びつくか否かは,受け止める個々人の内的要素に左右される様子を明らかにした。
汐崎順子. "読書意欲・読書習慣の形成過程:子ども時代の読書を中心に". 三田図書館・情報学会研究大会発表論文集. 東京, 2008-9-27, 三田図書館・情報学会. 2008, p.21-24(引用部分はp.24).
ってことで、親が本好きだろうが読書環境が整っていようがそれで本好きになったり本をよく読むようになるかはその人次第である面が強いのかも、とか。
もちろん、フォーカス・グループ・インタビューの結果をどこまで一般化できるか、って議論はありうるかと思いますが、そこら辺は今後逆に量的調査をする際にこういう観点も取り入れてみていくことで明らかにされていくんでしょう。
ちなみに同じ発表中では本を読んだ理由として、「読書の楽しさ」以外の理由もあるとしていて、
- 友人不在:《あんまり友達がいなかったので・・・ひたすら本を読んでました》(O25)
- 運動が苦手:《運動できないから・・。その分本ばっかり読んでたみたいな》(G93)
- 一人が好き:《友達とかとつきあってるのが嫌いで》(C33)
- 現実逃避:《現実と違う世界・・・学校に行っても面白くなかったから・・・違う世界に入っていく感じ》(Q39)
汐崎順子. "読書意欲・読書習慣の形成過程:子ども時代の読書を中心に". 三田図書館・情報学会研究大会発表論文集. 東京, 2008-9-27, 三田図書館・情報学会. 2008, p.21-24(引用部分はp.23、実際のレジュメでは改行はなかったが見やすさのため挿入).
など、これまた言われてみればその通りなんだけど読書に対するポジティブ要因で本好きになったとは言えない場合があるってことが指摘されていたり、そもそも読書に対するイメージとして
例えば読書好きの子は「暗い」,「運動が苦手」,「ガリ勉」などの発言が多かったが,これは各自の性格や能力,行動を否定的に捉えたものである。
汐崎順子. "読書意欲・読書習慣の形成過程:子ども時代の読書を中心に". 三田図書館・情報学会研究大会発表論文集. 東京, 2008-9-27, 三田図書館・情報学会. 2008, p.21-24(引用部分はp.23).
など、そもそも(世間のメディアでやたら推奨するほどには)「読書好きである」ことにいいイメージが持たれているとは限らないんじゃないか、とかっていう話もあり。
どれもつくづく、「言われてみればまさしく」と思うことばかりなんだけど、読書離れの問題や子供の読書量について扱う場合には触れられにくいことでもあり・・・それだけに会場で発表を聞いていてスカッとしたと言うか「言ってくれた!」感があったというか。
今年の三田図書館・情報学会研究大会はその他にも面白い発表が多々あったので、興味がある方はぜひ上のリンク先を辿って読んでみてもらうと良いのではないかと。
同じく産経で取り上げられていた電車内でのメディア利用に関する話もあったりして、これまた実に面白い感じです。
そんな感じで親が読書好き=子も読書好きとは限らないし、子供が読書好きになる・読書習慣を持つのは本が好きって言うポジティブ要因によるものとは限らない(運動が嫌い・友達がいないetcの別の要因かも知れない)、って言う話をしてきたわけですが。
読書習慣がどうとか子供を本好きにするためにどうとか考えないで、好きな本を好きな時に好きなように読んでればいいし、読みたくないなら別に読まないでも構わないんじゃないかね、とかなんとか。*1
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2008-10-28 15:55
一部誤字修正