かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

オープンアクセスの背景にある思想とは?/オープンアクセスに対する市民の需要は?/Wikipediaのリンクはどれくらいリンク切れしている?・・・最近の研究発表状況


怒涛の5月ももう数時間で終わりを告げ、苦闘の6月が始まろうという昨今、皆さんいかがお過ごしでしょうか?
・・・ごめんなさいブログ更新すっかりサボっていましたm(_ _)m
そろそろ地震の影響云々ではなく完全に自分の怠惰が原因なわけですが、一方で更新サボって仕事しているのと仕事サボって更新しているのではどちらがより問題かという深遠な疑問も湧くところです。
どっちもサボって遊んでるのが一番問題という点については「本質を指摘するのはやめろ!」とお返ししたい。


閑話休題
ブログ更新をサボっている間、執筆活動や研究活動もサボっていたかといえば当然そんなことはなく、5月は割と発表したり昔の投稿論文が公開されたりしていました。
以下、1件ずつ紹介していきます。




「Budapest Open Access Initiativeの思想的背景とその受容」

本稿ではオープンアクセス運動の契機となったBudapest Open Access Initiative(BOAI)について分析し,これがどのような意図のもとで公開されたか調査した.まず,BOAIを提唱し,オープンアクセス運動を支援している財団であるOpen Society Institute(OSI)と,その設立者であるGeorge Sorosについて紹介し,彼らの思想的根拠であるKarl R. Popperの提唱した「開かれた社会」概念について概観した.また,BOAI中にその思想が影響していることを明らかにした.次に,オープンアクセス運動に関連する文献群中でのPopperおよび「開かれた社会」への言及状況とBOAIの受容状況の定量的計測から,オープンアクセス関係者の間での「開かれた社会」関連思想の認知状況を検討した.その結果,OSIは「開かれた社会」という政治思想の実現を目的にオープンアクセス運動に関与しているにもかかわらず,他のオープンアクセス運動関係者はこの思想の存在には言及していないことがあきらかになった。

岡部晋典, 佐藤翔, 逸村裕. Budapest Open Access Initiativeの思想的背景とその受容. 情報知識学会誌. Advance Publication, 2011, doi:10.2964/jsik.21-032. http://www.jstage.jst.go.jp/article/jsik/advpub/0/advpub_1105120030/_article/-char/ja/, (2011-05-31 accessed).

本研究科の先輩で現在は近大姫路大学にお勤めの岡部晋典さんと、指導教員の逸村先生との共同発表。
思想的背景の分析は岡部さんが、OAの歴史やデータ分析のあたりは自分がメインで担当するという、それぞれの得意分野を活かしてのコラボレーション論文です。
この論文を岡部さんと書くために生まれて初めてPopperを読んだってのは公然の秘密。
高校時代からプラトンに覚えていた謎のいらだちを『開かれた社会とその敵』を読んでやっと言葉にできた・・・のももう1年前の話なわけですが・・・難産だったなあ(汗)
J-STAGE早期公開でフルテキストが無料で閲覧できるので、興味がおありの方は是非。


「学術論文のOA化に対する市民の需要」

本研究では一般市民(非研究者)における論文のオープンアクセス(OA)化に対する需要について明らかにすることを目的に、日本の社会人800人を対象とするインターネット調査を行った。結果から、1) 市民のOA認知度は低く、OA論文利用経験も少ない、2) 回答者の過半数がOA論文は自身の役に立つと考えている、3) 専門的な情報を得るためにOA論文を用いたいと考えている、4) 最もOA化の需要が高い分野は心理学や医学だが、性別による有意差があり、男性は情報学や工学、女性は教育学や言語学にも需要があること等がわかった。

佐藤翔, 数間裕紀, 逸村裕. "学術論文のOA化に対する市民の需要". 2011年日本図書館情報学会春季研究集会. 東京, 2011-05-14, 日本図書館情報学会, 2010, p.55-58.

自分が在籍している逸村研究室の、昨年度のゼミ生である数間裕紀くんの卒業研究を元にした学会発表。
「研究者以外の人でも、学術論文を無料で読めたら嬉しいと思うかどうか、思うとしたらどんな分野の論文が読みたいのか」を検討した研究です。
ハイライトは男女による興味を持つ分野の差。
医学・心理学に興味を持つ人が多いであろうことは先行研究から予想されていたのですが、女性では心理学選択者が(「OA論文が自分の役に立つと思う」人の)60%以上にのぼる一方、男性では30%に満たない、逆に工学は男性では20%以上が選んでいるけど女性では数%くらいしか興味が持たれていない等、事前の予想を超えた差があったり。
先日、九州大学数学科の後期日程に「女性枠」を設ける・・・という話が撤回された件がニュースになっていましたが*1 *2 *3、本研究の中では数学に興味を持つか否かは性別によって有意な差があり、女性は男性に比べ興味を持っていない・・・というような結果も出ています。

もちろん交絡因子はいくらでも考えられますし今回の発表における分析だけで詳しいことを論じるのは危険ですが、せっかく面白い結果が出たので今後も継続して分析して詳細を見ていきたいですね。


「日本語版Wikipediaからの外部リンクの特徴とリンク切れの発生状況」

本研究では情報探索行動の起点としてのWikipediaの有効性について検討することを目的に,日本語版Wikipediaの外部リンク約119万件について,URLの詳細やアクセス障害・リンク切れの状況について調査した.結果から,1)日本語版Wikipediaからのリンクの11%程度でアクセスに障害がある,2) edu,co.jp,go.jpドメインの外部リンクでアクセス障害が多い,3) 新聞社が運営するニュースサイトで特にアクセス障害が多いこと等を明らかにした.

佐藤翔, 吉田光男, 安蒜孝政, 逸村裕. 日本語版Wikipediaからの外部リンクの特徴とリンク切れの発生状況. 情報知識学会誌. 2011, vol.21, no.2, p.157-162.

研究室の後輩、安蒜くんの何気ない疑問から始まり、[twitter:@ceekz]さんことシス情の吉田光男さん、逸村先生を巻き込み発展していった研究。
情報知識学会誌掲載論文として上では書誌記述をしていますが、第19回情報知識学会年次大会で発表した論文です。

上の方で何気なくasahi.comや毎日.jpに対して僕はリンクを張っているわけですが、ここら辺の記事はしばらくするとネット上から削除され、リンク切れしてしまいます。
Wikipediaでも同様のリンク切れが起こっていて、出典情報が追えなくなっているのでは・・・というのが本研究の趣旨です。
結論からいうと機械的に判定する限りでは全リンクの11%程度にリンク切れはとどまっているのですが、毎日.jp、MSN産経ニュースasahi.comYOMIURI ONLINE等、新聞社が運営するニュースサイトは非常に多くの記事に対してリンクされている+リンク切れしている、というようなことが書いてあります。
当日の質疑もけっこう盛り上がり、これも是非継続してやっていきたいですね、と共同発表者の皆さんとも相談しているところです。



・・・と、まあ、こんな感じで5月は研究に勤しんでみたり、筑波大の授業*4のTeaching Fellow(TAよりは待遇が良くTAよりも多くの責任が貰える役割)として毎週1年生の前にアロハで登場してみたりしていたためになかなかブログが更新できなかったのでした(あとは学会以外のイベントに参加しなかった、というのも大きいかも?)。
6月はきっともっと更新が増えるはず!
・・・はず!?