9月初更新は筑波大学・知的コミュニティ基盤研究センターで行われた、江渡浩一郎さんのご講演記録ですよ!
- 知的コミュニティ基盤研究センターサイトの紹介ページ
- 演題:「ユーザーのユーザーによるユーザーのための研究」
- 講演者: 江渡 浩一郎 (独立行政法人産業技術総合研究所 社会知能技術研究ラボ研究員)
- 日時: 平成24年9月21日 (金) 13:00〜14:00
- 場所: 筑波大学 筑波キャンパス 春日エリア 情報メディアユニオン3階 共同研究会議室1
- 概要:発表者はこれまでソーシャルメディアやWikiといった集合知の研究を続けてきている。その中でも特にWikiに焦点を絞り、研究を進めてきた。具体的なシステムとしては、qwikWebやWedataなどといったWebシステムを構築・運用してきた。その理論的な背景としてWikiに関わる思想や歴史的背景を 自著『パターン、Wiki、XP』として出版した。その活動から幅を広げ、最近ではユーザーが直接研究に関われるようにするための新しい学会「ニコニコ学会β」を立ち上げた。これらの活動を貫く背景を要約すると「ユーザーのユーザーによるユーザーのための研究」となるのではないだろうか。 発表者のこれまでの活動を紹介し、今後の展望について述べる。
- 当日のTogetterまとめ:
江渡さんといえば講演中でも出てくるqwikWebの開発者、『パターン、Wiki、XP』の著者、そして最近ではニコニコ学会βの委員長として知られる方ですが、今日はまさにそういうお話。
これまでのご自身の活動について振り返りながら、タイトルのとおり「ユーザーのユーザーによるユーザーのための研究」について話される・・・という体でした。
Wedataまわりやニコニコ学会βに至った着想に関するお話は初めて聞く内容で、「え、こんなことにも関わりが?」と驚くこともしばしば。
以下、例によって当日のメモです。
例のごとくmin2-flyが聞き取れた/理解できた/書き取れた範囲のものであり、ご利用の際はその点ご留意願います。
お気づきの点などあれば、コメント欄などを通じてご指摘いただければ幸いです・・・そう、それぞまさに集合知ですよ!(ですか?)
「ユーザーのユーザーによるユーザーのための研究」(江渡浩一郎さん)
- 作品紹介
- WebHopper (1997)
- ネットのトラフィックを解析してブラウザ遷移行動を世界地図上に表現
- WebHopper (1997)
- 研究紹介
- Modulobe (2005)
- 生き物のように動くモデルをマッチ棒のようなものを組み合わせて簡単に生成できるモデル/無料公開
- これを利用したワークショップを山口県の小中学校でも開催
- 文化庁メディア芸術祭で展示も
- 工夫点:モデルがアップロード/ダウンロード/改変/アップロードされたとき、元のモデルが何か、親子関係を自動追跡できるようにした
- どんなモデルが一番使われたか/傾向等がつかめる
- Modulobe (2005)
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- これを2009年に本にまとめた!
パターン、Wiki、XP ~時を超えた創造の原則 (WEB+DB PRESS plusシリーズ)
- 作者: 江渡浩一郎
- 出版社/メーカー: 技術評論社
- 発売日: 2009/07/10
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- 購入: 75人 クリック: 1,306回
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- 現在のメインの研究・・・共同である「データ」を作る仕組みを調べる
- ソフトウェアを開発するとして、あるwebサイトから本文を抽出するものにしようとすると、特定のサイトなら簡単でも様々なサイトを対象にすると困難に
- 「人力でなんとかできないか?」
- ユーザ自身によるサービス設計/タスクを実現したいユーザ自身が情報を入力すればうまくいく、人間の情報入力をいかに中央集約化する
- 例・・・AutoPagerize(会場意外に知らない人がいてびっくり)・・・スクロールするだけで、ページ最下部に行くと自動で次のページが出てくる
- その仕組み・・・Xpathを使って次のページの情報を入手/ページ一番下までスクロールしたら次のページの本文情報をXpathで取得して取ってくる
- (AutoPagerizeのデモ)
- サービスごとに必要な情報を書く必要がある。現在、3,057サービス対応。また、デザインが変化するたびにupdateしないと動かなくなる
- Google検索なら30回以上もうupdateされている
- このデータを一箇所に集める仕組みとしてWedataというサイト*2を運営
- json記法でデータが取得できる/パースしてデータを取得
- 2011.6時点で134万ユニークIPが使用
- AutoPagerize利用者+類似サービスもバックエンドではWedata利用
- ソフトウェアを開発するとして、あるwebサイトから本文を抽出するものにしようとすると、特定のサイトなら簡単でも様々なサイトを対象にすると困難に
- 現在のメインの研究・・・共同である「データ」を作る仕組みを調べる
- コラボレーションでデータを作るとは? どうやるとうまくいくのか? データセットごとに細かく見たい
- AutoPagerize・・・2011.7で103万のユニークIP/3,200以上のサービスに対応
- 共同編集の頻度を調べる・・・約3,200アイテム中、約2,100は複数人による編集が行われている。3分の2は共同編集。人数で言えば1,000人程度が編集・入力
- LDRize・・・livedoor Readerのようにすべてのページを使いやすくしようというもの。32万ユーザ。510アイテム
- 共同編集アイテムは210くらい。半分に満たないくらいだが、共同編集で作られている
- HatenaBookmarkUsersCount・・・はてなブックマーク数を表示してくれる/32万ユーザが利用しているがアイテム数は8個
- うまくいかなかった例・・・Tween。一時は180万ユーザが利用。しかしTwitterデザインはそんなに変化しないが、Wedataを使うとWedataが落ちるとTweenも落ちる
- Wedata使用をTweenは中止。対象が頻繁に変わらないものではWedataは機能しない
- AutoPagerize・・・2011.7で103万のユニークIP/3,200以上のサービスに対応
- なぜWedataは成功した?
- ブラウザ拡張制作者がWedataを利用して外に出す+一部の利用者がWedataを編集すると、データセットが育っていく
- 未来像:サービスの提供者と需要者の関係をうまく変えていきたい
- 少数の提供者と多数のユーザがいるとき、ユーザの一部分でもサービスに貢献できる仕組みを作ると、サービス全体を改善できるような社会システムが設計できるのでは?
- ニコニコ学会β・・・これは会場は多数派が知っている
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- 通常、学会等はプロが発表し、プロが聞くためのもの
- しかしニコニコ動画には「作ってみた」とかで画期的なものを作っている動画もある。研究者の役割ってなんだろう、と考えてしまう
- 好きなもの勝手に作っちゃった方が研究者が研究で作ったものよりいいかも?
- 垣根をなくして両者が一箇所で発表する場があるといい・・・ニコニコ学会βへ
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- プロモーションムービー再生
- 野生の研究者とプロが入り混じる場
- 当日の動画は第1回・2回ともまだ無料で公開中
- 本も出版:『ニコニコ学会βを研究してみた』
- プロモーションムービー再生
- 作者: 江渡浩一郎
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2012/05/08
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- クリック: 26回
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- 併読をおすすめ:『南極点のピアピア動画』
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- 作者: 野尻抱介,KEI
- 出版社/メーカー: 早川書房
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- メディア: 文庫
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- ニコニコ学会βは何を変えようとしたのか?
質疑
- Q. ニコニコ学会β全部見ました。お金はどうなってるの? 運営の
- A. 人件費はただ。全部、参加スタッフの人件費はない。登壇者もほぼ全員ノーギャラ。謝礼もない。会場費が大きいが、色んな方法で限りなく低く抑えている。色々な方法の中身は言えないところもあるが、我々が払うところは限りなく少なく。企業スポンサーにお金を設定して貰ってもいる。交通費や機材費はそこから出している
- Q. どうしてニコニコ学会βの登壇者は男ばかりなの?
- A. 深く考えてなかった。たまたま? 第2回は女性研究者・発表者も。第1回が男性だけなのはたまたまで・・・野生の研究者マッドネスでは審査員に2名女性もいたが・・・
- Q. (性別によって)感性の違いって出てくる?
- A. 正直、深く考えていない。女性らしい感性とか期待して誰かを呼ぶとかはしていない
- Q. Wedataについて。利用者とサービス双方メリットあるとのことだが、Wedataを提供する人のメリットは?
- A. 今回に限って言えば提供者はぼくで、ぼく自身の関心がメリット。拡大した場合には今のところ答えはない。ビジネスモデルというものは・・・今はWedataは一銭も利益を得ていないし研究費がなくなれば止まってしまう。100万人以上使っているのに利益を出していないことは、持続可能ではないとの指摘もあり自分でも気にしている。今のところ答えはないが。
- Q. すごく研究を楽しんでいる印象。研究者のいいところ、楽しいところをぜひ。
- A. 難しい。
- Q. あんまり楽しくない、実は?
- A. 簡単に言っちゃえば自分が何やるか自分で決めて実施できるところ。それにつきる。でも自分で何やるか自分で設定するのが苦しい人には、すごく苦しい職業だと思う。自分が何をやるか設定することが楽しい人には向いている。
最後はちょっと時間切れ感もありましたが。
Wedataまわりの話は大変おもしろく・・・「え、そんなところでも使われているの?」とか。
そして「どういうときには使えなかったか」の事例も包み隠せずご発表いただけるのは有難いですね。
むしろ失敗例の方が聞ける機会が少ない、とはよく聞くところ。
あと、とりあえず『ニコニコ学会βを研究してみた』は、未読だったのでぜひ読まねばなりませんな。
加えて『パターン、Wiki、XP』も再読したくなりました。
一読して大変おもしろかったのですが読んでから2年ほどたってだいぶ記憶があやふやになってきているので。