かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

大学図書館員のキャリアの問題ととらえてみる


NIIのオープンハウスをきっかけにはじまった「能力のある方(図書館員)が、公的な形で表にあらわれてこないのは、大学図書館界の損失」問題、いよいよ盛り上がってまいりました。
そういや岡本さんがこの発言をする元になる質問したのは俺でした・・・まさかここまで波紋が広がるとは・・・

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以前はkatz3さんの記事を受けて"Library Engineer"の話題をとりあげたが、その後の展開で個人的に気になるのは以下のようなあたりの話題。

 最大の問題っていうのは、かつての事務官、所謂一般職、事務職である図書館員が何か研究活動的なことを行ったとしても、教員あるいは研究機関の研究員と違って、それを「業績」「キャリア」としてカウントする制度がないということだと考えます。
(日々記―へっぽこライブラリアンの日常―)

・学術コンテンツサービス研究開発センター

http://www.nii.ac.jp/cscenter/

のような組織のメンバーに研究者だけではなく、別の職種の人間を集めてみることはできないのだろうか。学術コンテンツサービス研究開発センターの可能性ももっと広がると思うのだが。同センターのメンバーには、研究者としてだけでなく技術者としても優秀な方々が集まっているが、それだけでは足りないものがある。失礼を承知で、自分自身のIT企業でのプロデューサー経験に基づいていえば、やはり優れたプロジェクト研究が実際そうであることが多いように、

* プロデューサーを務める人間
* ディレクターを務める人間
* エンジニアを務める人間
* デザイナーを務める人間
* カスタマーサポートを務める人間

と、多種多様な人材が揃っていたほうが、もっといいものができるに決まっている。必ずしも図書館員に限定する必要はなく、min2-flyさんがいうように「学術情報流通」という大きな枠で考えて、優秀な人材を集めてみてはどうだろう。図書館員にとっても福音となるのではないか。
(ACADEMIC RESOURCE GUIDE (ARG) - ブログ版 )

 それ専門&公的な部門や職務や身分があるかどうかじゃなくて、或いはどっか別の組織にもぐりこんだところで、そういうものを受け入れる度量なり姿勢なり土壌なりがあるか総体にあるかどうかでしょう。あれば、いまだって受け入れられてるはずだし、なけりゃ、部門・身分をつくったところで、下働きさせられるか、厄介者として遠巻きに扱われるのが関の山なんじゃなかろうか。(その遠巻きに見られてるのが、いまの”研究開発室”なんだとしたら、なるほど教員ばかりで事務側が加担しようとしないのもうなずけるというものだよ。)
(HVUday)


特に気になったのは、「日々記―へっぽこライブラリアンの日常―」さんに寄せられたid:tzhさんの以下のブックマークコメント。

評価?あるじゃん。客観的に「できる」と思われた職員は壊れるまで激務部署へ、そうでなければ閑職で定時上がりの日々。で生涯賃金は一緒。激務部署の人は無理が祟って早死。それが俺たちの人事管理システム。


これが大学図書館(に、限らず学術図書館)の実情か、と思うと、凹むorz


いっそ図書館員についても研究者ばりに流動的な人材活用ができないものか。
「できる」と評価を得た人間は周囲の組織からヘッドハンティングされるような環境があれば、そんな飼殺しみたいなことは起こらないんじゃないか。


例えば研究者なら、業績が認められた場合、もちろん現在所属する組織内で待遇が良くなる、という場合もあるが、それと同じかそれ以上に、より良い待遇を保障してくれる他大学・研究機関に移る、というのもよくあることだ。
っていうかうちの先生方、皆さんそんな方々ばっかりだし*1


その他に学術情報流通業界で言えば、海外の学術出版社の流動性もときどき眼を見張ることになってる。
大手の編集者がライバル他社に引き抜かれるとか。
オープンアクセス関係で活動してた人が引き抜かれて商業出版社へ、なんて話も聞くし、それが認められる環境がある。


対して日本の学術図書館員はどうか、となると、こういう流動的なキャリアに乗るにはそれこそ研究者になるくらいしか手がないのが現状なんじゃないだろうか?*2
そうじゃない(研究に行かない)人が、どんなにできる人でもずっと半飼殺し状況なのでは・・・そりゃ「事務職の憂鬱」にもなるよ。


ARGで言われてるとおり、学術情報流通の世界に限ったところで、研究以外の色々なスキルを持った人(マネージャーなりプロデューサーなりエンジニアなりアシスタントなり)がいた方がよりよい研究成果が出せる、っていうかそういう人に支えられて初めて成り立つのが研究活動だろう。
なら、研究者以外についても「できる」=「より良い研究成果を出すことに貢献できる」人については、人材の取り合いが起こっても良さそうなものである。
逆にいえば、そういう緊張感(いつ自分とこの職員が他にいっちゃうかわからない/有益な人材を流出させちゃったら元上司の評価ダウン)のある環境であれば、各図書館内の組織の体質も多少は変わるんじゃないだろうか(変わらないと淘汰されてしまうような環境になるのが個人的にはベターだと思うが)。
というか、組織内の業績評価システムだけでどうこうできる問題ではあるまい、おそらく。


その他にも人材が縦横に動くことによる効果とかも望めるかも知れないし*3大学図書館員のキャリアとして、そういう枠組みが出てきてもいいんじゃないだろうか。


その第一歩として、優秀でやる気抜群な図書館員(や、その他の学術情報流通関係者)をNIIやNDLが引き抜いてプロジェクトを組むようなことが必要なのかも知れない。
もちろん研究者やエンジニアとしてのみならず、いろいろな形で。


この間、一年生のフレッシュマンセミナーという講義のときに「自分が面白いと思ったことに本気で打ち込んでれば、どっかでそれを見ててくれる奴がいる」と楽観論を言い放ってきた。
あれが嘘にならない大学図書館界が実現してくれればいいなあ・・・と心底、思う。
「いいなあ」じゃなくて実現するにはなにをしたらいいか考えないといけないわけだが・・・
目下、自分のキャリアプランの問題が・・・(大学院の推薦入試は来月上旬です)。

*1:誰をどういう待遇で引き抜くか決めるシステムってどうなってるんだろう・・・?

*2:もしかすると俺が知らないだけで一部では違うのかも知れないが

*3:ただまあ、図書館単独でそれをやっちゃうと学内他部署との横断性の方で問題が出てくると思うが。いっそ大学運営/経営もアメリカみたいにプロを雇っちゃうような体質にしてみればいいのになー