承前:50万冊の資料を利用可能な状態で一時的に退避させる方法を考えよ。ただし新しい図書館を建てることは不可能とする。 - かたつむりは電子図書館の夢をみるか
先月半ばにお伝えした「筑波大学附属図書館(中央)の1Fの所蔵資料約50万冊が耐震工事のため来年度半ばから2〜3年使えなくなる」という問題ですが。
その後の、附属図書館からの広報によると、新たに新聞の復刻版については保管スペースを確保して利用できるようにするとのこと。
また、使えなくなる資料の「改修長期貸出」について、当初は4月中で締め切る予定だった受付を図書に限り6月末まで延長するとのことです。
詳細は以下から。
自分辺りは「なかなか頑張ってんじゃないの、附属図書館」と思っていましたが、世間の風はなかなかに厳しく、mixiの筑波大コミュでは以下のようなトピックも立っています。
mixiにログインできない人向けに簡単に現在トピックで挙げられている意見を見ていくと以下のような感じ。
- 今年、筑波に入学した人間の卒論には間に合うのか?
- 図書館に抗議すべき。法律専攻には明治期の資料や紀要を使えなくすることは「研究するな」と言うことに等しい。
- 図書館離れ防止にスタバを誘致、とか言っておいてこれはない。
- 筑波にしかない資料だけでも利用できるようにしないと・・・。
- 史学専攻も1Fの資料が使えないのは「研究するな」と言うのに等しい。
- 友人が抗議文を提出した。
- 工事の告知が学生のいない3月なのもおかしい。
- 人社系(場合によっては理工学系も)全ての研究室・教員が協力して、長期貸出制度を利用し各研究室で 1F の書籍を分割管理すれば
確かに、史学系の専攻にはあそこの資料が使えないのはそうとう致命的でしょうね・・・紀要はまあ、複写依頼するなりなんなりで解決できる気もしますが、図書はなあ・・・ILL*1だと金もかかるし、ちょっとしか引用しないのに全部ILLとかやってらんないだろうしなあ・・・
あと工事の告知の遅れについては、これはまあいくら弁解しても不満の声はおさまらないでしょうね。
特に院進学者の場合、「そんなことがわかってたら筑波大に進学しなかった」と言う人もいないわけではないでしょうし。
資料の豊富さを図書館の売りにしておいて土壇場でこの発表、は詐欺扱いしたくなる気分もわかります。
いつもこの手の告知が土壇場になって、後手後手に発表されるのは図書館に限らず筑波大全体の傾向ではあるわけですが・・・反対運動とかが起こるのを防いでいるのか、確定しない状態で変に情報を小出しにして混乱が起こるのを防ごうとしているのかはわかりませんが、いずれにせよこのやり方のせいで学内から不要な反感を買っている気はします、筑波大。
まあそれはさておき。
50万冊全部を使用可能な状態で一時的にどこかに対比させる、ということの不可能性*2については前回エントリで既に考察したわけですが・・・じゃあ実際にどんな対策が考えられるでしょうね??
トピック内でも色々意見は出ていますが、そこら辺を整理しないで話を進めるのは危険な気が・・・
ってことで以下、考えられる対策案諸々について。
ただし今回は電子化の話はそれ単体で長くなるにも関わらず実現可能性が薄い(50万冊電子化し終わる頃には工事終わってるよ)ので扱わない方向で行きます。
工事自体について
- 改修工事自体、必要なのか?
ここは建築のことはよくわからないのでとりあえず保留。
現行の耐震基準を満たしていない=地震が来たら即倒壊、ってわけでもないだろうが、地震が多いのも事実だし。
- 資料を移動しないで工事できないか?
参照:はてなブックマーク - eastofのブックマーク / 2008年3月14日
いいアイディアだと思うのだけれど、これも専門ではないので出来るか否かわからない・・・
ただ、外装の塗り替え程度とかならともかく、耐震補強の工事を中に資料を置いたり、まして人が出入り可能な状態で行うことが出来るのかはやっぱ疑問かなあ。
仮に出来るとしてもそれで工事期間が伸びたりコストが上がったり、ってことだとトータルで見てマイナスなわけだし。
- 工期を延ばす
改修工事の実施が公になったのが遅すぎた、って点ではこれも考慮すべきかとは思うが…
着工が遅くなれば遅くなるほど地震のリスクが増える、とは考えられるし、単に先延ばしにするだけでやることが変わらないのであれば将来の利用者にリスクを負わせるだけだしなあ。
今年からの利用者は耐震工事なんて知らなかったが来年以降入ってくるものには広報できる、って点はメリットと言えばメリットやも知れない。
…いずれにせよ地震リスクが依然としてあるので難しいか?
50万冊全部の利用可能性の担保について(再考察)
- 50万冊すべてをどこかの建物に保管
前回エントリでも言ったが、50万冊の資料ってのは単純に日本の大学図書館の平均所蔵数の倍以上。
この「平均所蔵」には製本雑誌等は含まれていないので実際はもうちょっと多い(もしくはうちの「50万」が実際はもうちょっと少ない)ってのはあるが。
もうちょっとわかりやすく言えば、割とでかい街の公共図書館まるまる1個分。
つくば民にわかりやすい例としてはつくば市立中央図書館の所蔵資料(雑誌含む)がまさに約50万点(雑誌含む。参照:http://www.city.tsukuba.ibaraki.jp/lib/)。
全部まとめて保管しようと思うとあのクラスの建物が必要、ということで現実味の薄さが分かってもらえるかと。
集密書架とか自動書庫を駆使すれば省スペースは可能だと思うが、既存の建物にそんなのくっつけたら恒久的に図書館にしないといけなくなるので、学内に現在ある建物で賄うのは難しいだろうね。
新館つくる金なんて当然ないだろうし。
- かまぼこ型の兵舎みたいなプレハブをどこかに土地を買って作って置けば?
参照:はてなブックマーク - wackunnpapaのブックマーク / 2008年3月14日
これは割とありかも知れない、と思ったが…うーん、やはりコストが問題か。
プレハブを作るコスト、土地コストも勿論だが、3年間の退避のためにそこに資料を運びこむ・配架する・また持って帰る、というコストも馬鹿にならないし。
・・・それこそ資料の利用を求める人社系の院生・卒研生を中心にボランティアでも募るか??
いや、ボランティアの研修・指揮コストの方がかかるか・・・。
金さえなんとかなればなあ・・・。
- 検索・取り出し可能な形でどこか倉庫とかに保管するとか。
前回もみたように*3実際にそうしたサービスを行う貸倉庫業者はあるが、そこを使うとべらぼうに高い。
「それなら自前でやれば…」という考えも出てきそうだが…恒常的にそういうシステムを運用する(自館に収まりきらない図書を遠くの倉庫に保管するとか。実際、そういうやり方をしている図書館も都市部にはある)
ならまだしも、今回のように一時的な処置においては自前でやることが外部委託より安くつくとは考えにくい。
っていうかこれこそまさに「アウトソーシング」の一種なわけだし。
臨時措置であることを考えれば今回のために新たな常勤スタッフを置くことは難しい。
かと言って現在の内部スタッフだけでこんな貸倉庫のようなことができるか、と言えばそれも難しい…ただでさえ耐震工事がらみで本館の運営だけでも普段より負担増となるだろうに、この上貸倉庫まで、ってのは無茶だろう。
で、非常勤でスタッフを雇うとして、自前で(直接雇用で)臨時職員を取るとなると、その研修や指揮なんかは結局常勤がとらざるを得ないだろうし、そうなると結局常勤が数名とられる。
さらに言えば常勤スタッフも臨時スタッフも、もともと貸倉庫的に要望のあった資料を取り出すシステムの構築-運用の専門家では全くないので、クオリティを保証することも難しい…端的に言ってそんなノウハウは今のうちにはない。
っていうか50万冊の出庫-入庫システム(しかも書架のある書庫があるわけじゃない!)なんて自動書庫もなしに運用した例は聞いたことないし、自動書庫作るとなるとそりゃ新図書館作るのと一緒。
当然、システムも組まないといけなくなるだろうし、面倒この上ない…最終的にはJCCに頼みでもしない限り実現可能性は薄いだろう。
おまけにそこまでやっても結局ブラウジングはできない。
よってボツ。
- 研究科/研究室などで連携して「改修長期貸出」を利用して資料管理?
mixiトピック内の意見から。
話としては面白いのだが、如何せん問題はやはり多い…まず第一は、また出てくる話だが、「どこに置くのか?」
附属図書館ページでも言われているが、通常の教室に大量の資料を置くのは重量に耐えられない可能性等があり危険だし、分散して置くとなるといろいろな教室の一部が資料にとられて使えなくなるわけだが大丈夫なのか。
あとその分の書架はどっから持ってくるのか(たぶん図書館の書架をそのまま入れるのは難しい)。
研究室単位で分ければ、理工系も含めれば筑波の教員は全部で1700人くらいだから1人300冊くらいで済むが…
それらすべて、どの先生がどの資料を持っているかの打ち込みを誰かがするのか?(汗)
あと、そんだけ分散すると使いやすさはほぼ皆無(学内全部に散ってるわけだし)なうえに、全部自分で利用申し込みをするとなればけっこうな手間ではある。っていうかぶっちゃけILLできる分はILLした方が絶対楽*4。
もし誰かシステム全体を管理する人間を一時的に置く、ということになれば少しはマシかも知れないが…人件費は人社系研究科とかで折半か?
理工系が乗るとは考えにくいが…電子ジャーナル経費が全学予算になってることをたてにとれば出来なくもないか…?
いや、しかし結局他大学からILLの方がいくらか安くて早いんじゃないかという根本問題が解決していない…
結局、他館所蔵がある分についてはILLで済ませた方がいいんじゃないか、と思う。
閲覧可能性を保つにはコストがかかりすぎるし、「コストがかかる」ってことは結局、かかったコストの分だけ「学内のほかのサービスのクオリティが落ちる/サービス自体消える」ってことなわけだし。
外部から補助金とってこれるなら話がだいぶ変わるが、内部で賄うとして…以前の試算だとJCCを使った貸倉庫式でも年間5千万円、3年で1億5千万円くらい?
建物新築だなんだ、となればもっとかかると思うが…そんだけの金を費やすことにコンセンサスを得られるのか、ってのは難しい問題だと思うよ。
大多数の学生・教職員にとってはほとんど使わない資料なわけだしね。
(そんなことを言い出せばあらゆる設備がそうである、と言う話でもあるんだが…)
50万冊はとりあえずあきらめて、じゃあどうするか?
- 筑波大にしか所蔵のない資料だけでも利用できるようにしておけないか?
これがたぶん最大の懸案事項。
ここだけはILLでも確保できないわけだし、筑波大に限らず日本全体の問題になる。
ただ、そもそも1F部分の蔵書でどんだけが筑波にしかない資料なのか、の実態がよくわからないからなあ…
数が少ないのであればそれだけ抜き出す、というのも可能だろうが、多すぎるとまた保管場所の問題等が出てくるので。
さしあたり、NACSIS-CATで筑波にしか所蔵のない資料抜き出して来て、それらの中で1Fにある資料がなにか、ってあたりをチェックするのが手順としては妥当かな?
さらに抽出された分をNDL-OPACに検索かけて、なかった分がほぼ「国内で筑波にしかなさそうな資料」ってことに。
問題はNACSIS-CATの検索だが…図書館側のインタフェースがわからないんだが、所蔵館って検索フィールドに入れられるのかなあ??
それが無理なら生データ触れる人に頭下げて使わせて貰うとかか。
とにかく実態を把握しないことには何ともできない。
逆に実態を把握できたらそこを優先的に改修長期貸出するなりなんなりやりようもあるだろうし。
- 他大学図書館への協力要請?
ILLや文献複写である程度は対応できるとしても、何冊も本を広げて見比べる必要のあるような研究をするとなるといちいちILLしてたらコストもかかるだろうし手間がひどいことになると考えられる。
どうしても直接来館利用が必要、ってことになってくるんじゃないかと考えられるが…そこで近隣、例えば都内でうちの1Fの代替になるようなコレクションを有する大学に、直接来館利用について、今だけなんらかの優遇措置(例えば使いたい資料が特定されてない状況でも利用できるとか、外来者が本来は入れないような書庫への入室を認めてもらうとか)をとっていただけないか、とお願いしてみるとか。
激しくムシのいい話なのでタダで乗ってくれる大学があるとは考えにくいが…なんらかのリターン(将来的にも連携し続けていく/その際は当然、筑波からもそれに見合う見返りを提示する、とか)を合わせることでお願いできないか知らん。
…難しい気もするが…筑波大、いつもフリーライダーだしなあ…ってそうか、提携館には複写料金を値下げするとか???(NACSIS-ILLの会計処理が死ぬほど面倒になる気がするが)
- 複写/ILLの料金優遇?
本来、1階で入手できたはずの資料については工事期間中だけ複写/ILL料金を優遇する(タダとまでいかないまでもせめて半額とか)、とか。
校費の使える人はそこまで負担じゃないだろうけど、そうではない卒研生とかで私費ILLあまりやるのはえらい負担かかりそうだし。
いずれも決定的とは言えないけれど、まあ現状できるのはこんなところだよなあ…
…いやいや、どれも本当にやるとなると図書館の人大変そうだけど…っていうか別に何か不手際があったわけでもないのにこんな事態に追い込まれている附属図書館員の方々が一番かわいそうといえばかわいそうな気も…
まあ、この機にILL/文献複写のweb申請の認知度を拡大したり、自学にしか所蔵のないコレクションを明らかにしてそこを今後はアピールしていくとか、うまいこと災いを転じて福になして欲しいもんだと思うが…。
あと、筑波大生はあんまり附属図書館の人をいじめないであげて下さい。
告知が遅かったとか確かにこん畜生と思う部分もありますが、それ以外は取り得る処置としてはそんなにまずい対応をされているわけではないと思うので・・・って言ったって、利用者にしてみれば学内全体から見てどうであろうが自分の利用が妨げられればそれが全て、というのも当然ではあるのだけれど・・・
そして今回はたまたま人社系の資料が集まっている中央図書館1Fの資料が使えない、って話だったから自分にとっては対岸の火事的な面もあるが、似たようなことがいつ何時自館に降りかかるかも知れない、ってことを考えるとこの手の問題への対策を常日頃から考えておくことは重要だろうなー。
普段からマイクロ化&電子化を進めておいていざとなったらそっちで対応、ってのが今のところのベターかも知らんとは思うが・・・いずれ臨時ではなく本格的に所蔵スペースが足りなくなる日が来るだろうことは容易に考えられるわけだし。
他大紀要の話とかも、そっちで電子化進めておいて貰えれば別段困らないわけで・・・んー、まあそれはそれで別の金はいるわけだが・・・結局なにをやるにも金と人と時間かあ。
*1:Inter Library Loan.(相互貸借、あるいは図書館間貸出とでも)の略語。ある図書館が所蔵してない資料等について、利用者から要望があった場合に、連携する他の図書館等から図書館が借りて利用者に提供する方法。筑波大でILLを利用する(借りうける)場合、郵送費が利用者実費負担となる
*2:というかコスト面からILLした方がマシ、と考えられる件
*3:50万冊の資料を利用可能な状態で一時的に退避させる方法を考えよ。ただし新しい図書館を建てることは不可能とする。 - かたつむりは電子図書館の夢をみるか
*4:ILLであれば利用者が実費負担しなければいけなくはなるが、かと言って学内分担保存だと保存を請け負ったものがコストを負担するわけで、システム構築にかかるコスト等を考えるとトータルでどっちの方が金かかってないのかは微妙だと思う