第56回日本図書館情報学会研究大会・「半分」レビュー:2日目
なお、前エントリの第二部会最初のご発表について、自分がつけた「物理・天体クラスタバロスwww」というコメントですが、「物理と天体が一緒になることが面白い」という意味ではなく、他が複数分野でクラスタを作っている中でひとつだけひとりクラスタだったから面白がっていた、という意味です。
誤解を招く表現を用いてしまってごめんなさいm(_ _)m
さて、前日ぐっすり眠って2日目のレビューに備えた・・・つもりだったのですが、朝一発目の発表は脳が死んでしました(汗)
ってことで2日目は第一部会・2つ目の発表(慶應義塾大学・原田先生)からレビュー開始です。
第一部会(朝一は専門でないうえに脳みそ働いてなかったのでレビューないです(汗) ごめんなさいm(_ _)m)
公共図書館における絶版本の所蔵(原田隆史さん+、金子圭介さん)
- 目的、背景、方法
- 結果
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- 絶版+入手不可(「品切れ重版未定」)の割合は1987年以前でだいたい一定
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- 1997年の各NDCの入手不可・絶版・入手可の割合を見る
- 1・9類は比較的に絶版等が少ない
- 6・0・8類は絶版等が多い
- ただし9類は絶版は少ないが入手不可は多い。
- 6類とかは年鑑とか、年度に関係のある図書が多い(20%、1類は3%未満)。それらは重版されない。
- 1997年の各NDCの入手不可・絶版・入手可の割合を見る
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- 調査対象館80館以上のうちで、60館以上が持っている本とか一冊も持ってない本も数えた
- 60館以上が持っている絶版本の中で、さらに文庫や新装版もないのもあった
- どこも持ってないのは最初から買ってないっぽい(官能小説、記念出版物など)
- 調査対象館80館以上のうちで、60館以上が持っている本とか一冊も持ってない本も数えた
- 質疑
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- 購入が少なく絶版になるのは貸出も少なくて除籍になるのでは? そういうのを除籍不可に出来るようなのが必要と思うが、除籍との関係については調べてない?
- 保存のことを考えると都立/県立も含めて1冊は残そうとするところが多いだろうと思ってどこか1館が持っているのを調べた。破棄の方針等との関係についてはインタビューも含めて今後やっていきたい。出来るだけ早いうちに。
- 購入が少なく絶版になるのは貸出も少なくて除籍になるのでは? そういうのを除籍不可に出来るようなのが必要と思うが、除籍との関係については調べてない?
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- 補足説明
- 絶版本の利用がどれだけあったかも調べないといけない。履歴は残ってないが、いくつかの本については図書館に迷惑をかけない形でOPACで状態をチェックすること等が考えられる。出来るかどうか検討して、出来るようなら利用に関するデータ・・・貸出やILLとぶつけると面白いのではないかと考えている。組み合わせるための基礎資料づくりと考えている。今後も進めていきたいところである。
- 補足説明
- コメント
- うお、原田先生がマイク使ってる?! たぶんいらないですよ先生!
- 後にご本人曰く、マイク使うよう指示があったから、とのこと。なるほどそれならば・・・。
- 絶版になった本の利用がどれだけあるか、と言う話は面白い。っていうか絶版本の所蔵の話が全般的に面白い。絶版になってても利用がそれなりにあったりすると図書館の意義も絶版本の需要も見れて一挙両得??
- うお、原田先生がマイク使ってる?! たぶんいらないですよ先生!
ミシガン大学の図書館が実施する学習・教育支援に関するケース・スタディ:フィールド・ライブラリ案の活動を中心として(長澤多代さん+)
- 目的、背景、方法
- 結果
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- ミシガン大・・・2002に3人のフィールド・ライブラリアンを雇用
- 最初は自然科学系に話を持ちかけたが快諾されず
- (min2-flyコメント)なんで?? もう図書館なんかいらない??
- 女性学、美術デザイン、古典学に配置
- 最初は自然科学系に話を持ちかけたが快諾されず
- ミシガン大・・・2002に3人のフィールド・ライブラリアンを雇用
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- フィールド・ライブラリアンの業務
- 選書、レファレンス、学習支援+部局決定業務の遂行
- レファレンス等では大学図書館で業務(他のライブラリアンよりは少ない)
- 部局にオフィスがあって、1日の大半はそっちにいる(部局次第で内容が違う)
- 選書、レファレンス、学習支援+部局決定業務の遂行
- フィールド・ライブラリアンの業務
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- フィールド・ライブラリアンの学習・教育支援
- 部局のニーズを把握している(個別の面談などを通じて)
- 女性学研究科のFLは多くの教員と着任時に個別面談している
- 古典学研究FL・・・教員全員とグループ面談
- 学習支援
- 学科関連の指導を実施
- 教育支援
- 個別の支援を中心に多様な支援
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- フィールド・ライブラリアン・・・教員との個人的関係を構築、それに基づきニーズを把握、各種支援の実施
- 部局内にオフィスがあり、支援者と対象者が空間を共有していることが上のようなことが出来る要因
- フィールド・ライブラリアン・・・教員との個人的関係を構築、それに基づきニーズを把握、各種支援の実施
- 質疑
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- 教育支援について、ミシガン大にFDを専門に担当する部局はある? そことフィールド・ライブラリアン(FL)の関係は?
- FDセンターは一番古いセンターの一つがミシガン大にある。多様なFDを実施。そことFLが直接に連携していることは今のところはない。FLはそこのWSの案内等はしている。センターと図書館、メディアセンター他のミシガン大の施設は連携して、キャンパス規模のFDを1週間規模でやっている。その1週間はFD週間。でもFLはそれには関係してないっぽいが、図書館とFDは連携している。
- 教育支援について、ミシガン大にFDを専門に担当する部局はある? そことフィールド・ライブラリアン(FL)の関係は?
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- p.74のレジュメから従来も部局に図書館員が派遣されていたようだが、そこはどうなの?
- ではSLとFLの類似・差別化は?
- 部局にオフィスがあるか否かの違い。SLとFLの違いは尋ねていて、部局にオフィスの有無と、中央の業務の量が違う。部局中心か中央図書館中心か。あとは、FLは教育プロセスにかかわることが期待されているので研究支援をするSLとは違うと捉えられているっぽい。
- FLは増えているの?
- 学内で成果は挙げていて他でも欲しいと言う話はあるが予算関係で工面できていない。
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- SLとFLの明確な差異と人的な配置の問題で、FLはSLとは別?
- そうです。
- ある部局にSLがいて、FLにかえるはなしは?
- 今は聞いていない。
- SLとFLの明確な差異と人的な配置の問題で、FLはSLとは別?
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- 自然科学に打診したが快諾されなかった理由は?
- (min2-fly)コメント:Yes!!!
- 物理的な図書館の存在理由を示したいと言うのが打診した側の理由だった。が、やっぱり「いらない」と言われた。
- 自然科学に打診したが快諾されなかった理由は?
- コメント
- サブジェクト・ライブラリアンのジョブチェンジした感じ?:フィールド・ライブラリアン
- 自然科学系www まあ気持ちはわかるが。ライブラリアンって言葉が良くないんかね??
- 「フィールド・ライブラリアンがいるからミシガン大に決めた」って教員もいるという一方で、自然科学系のように「いらねーよ」と断る部局もあるというのは実はかなり重要で、特に後者で断られた理由についてはもっと詳細に検討すべきだったんじゃないだろうかと思う。「いる」と言ってくれるところを重視するのはもちろん大事だが、「いらない」ってところはライブラリアンへの意識に問題があるのか、本当にライブラリアンや図書館なんかもう必要ないのか。(場としての)図書館がいらないってのは実によくわかる話なのだが、スタッフとしてのライブラリアンがいらないってのは・・・サポートスタッフ雇う金があったら教員なり技官なりを雇うのか?? ふーむ・・・
・・・ここでノートPCの電源が切れ、午前の最後の発表はメモ取れず(大汗)
昼食時にはいろいろ楽しい話があったりしたのだけど、それはまた別にアップする機会があれば・・・とかなんとか。
で、午後はまるまるシンポジウム「情報リテラシー教育と図書館」。
シンポジウム 情報リテラシー教育と図書館:図書館情報学における研究の意義と課題
- コーディネータ
- 野末俊比古さん
- パネリスト(氏名:観点)
- 瀬戸口誠さん:理論の面から
- 長澤多代さん:人の面から
- 市古みどりさん:評価の面から
- 河西由美子さん:学校図書館の面から
- コメンテーター
- 山田礼子さん:教育学の観点から
- 情報リテラシー教育の理論的動向(瀬戸口さん)
- 教員⇔図書館員の連携・・・必要性は認識されているが困難
- 先行研究例の紹介とまとめ
- 教員⇔図書館員の連携・・・必要性は認識されているが困難
- 情報リテラシー教育の評価について(市古さん)
- アメリカで何が研究・実践されてきたか
- 市古さんが担当されている授業(「資料検索法」)とその評価の実践例の紹介
- 実践担当者の本音がぽろぽろ出てきて面白い。「やっても意味ないのかなあ」とか、「面白くないんだろうなあ」とか。
- 口ではいろいろ言うが、結局「図書館の可能性を示す方法を探している」??
- (min2-flyコメント:!!! 凄いこと言った!!! でも本当、そうだと思う!!!)
- 初等中等教育における情報リテラシー(河西さん)
- 学校図書館分野での話
- 「大学図書館はうらやましい」・・・学校図書館は「情報リテラシー」の共通理解すらない感じ(コンピュータリテラシーとごっちゃ?←(min2-fly)いや、学会だからであってふつうは大学でもコンピュータリテラシーとごっちゃだと思うよ)
- 日本の情報教育:図書館情報学における研究活動とかが全然取り入れられないままだった
- 学校図書館分野での話
- 「情報リテラシー教育と図書館」に対するコメントとして(山田さん)
- パネルディスカッション(事前に集めた質問への一問一答形式)
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- 情報利用研究との連携について、どんな方向性が考えられる?(瀬戸口さんへ)
- 研究領域ごとに情報利用パターンが違うということで、情報探索行動の分野では重視するメディアが違うことや研究の仕方が違うことが指摘されている。そういうメディアの使い方なんかを、学部でも3-4年生の専門教育や大学院生をターゲットにした形で組み込んでいければいい。
- 情報利用研究との連携について、どんな方向性が考えられる?(瀬戸口さんへ)
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- 図書館員の養成における情報リテラシー教育の能力開発の問題についての研究は?(長澤さん・瀬戸口さんへ)
- (長澤さん)研究動向はわからないが、ブレンディッド・ライブラリアンという新しい図書館員像が2002年度くらいから指摘されるようになった。情報リテラシー教育を担当するための図書館員。提唱者の一人のシャンクはアメリカで初のブレンディッド・ライブラリアン。まだ実践レベルの報告しかなく、研究するには蓄積がない。C&RLの論文の中には採用情報を分析した論文もあった(min2注:あったあった! 卒論で引用したわ!)。養成課程については事例レベル以外では見たことがない。
- (瀬戸口さん)情報リテラシーを教えるということでは図書館員は情報を探すことではエキスパート。領域ごとに教員が図書館員に何を求めているのかについての合意形成を図る必要がある。それを指摘している文献はあるがそれにどう関わるか研究していく必要がある。
- 図書館員の養成における情報リテラシー教育の能力開発の問題についての研究は?(長澤さん・瀬戸口さんへ)
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- 日本の大学教員は図書館を使った経験がない人が多いのでは?(長澤さんへ)
- 現状については、図書館の存在を知っているか知らないかというレベル。そういう先生が多い。図書館情報学会だからこそ共通理解があると言う感じ。一歩外に出ればそうじゃない。
- 日本の大学教員は図書館を使った経験がない人が多いのでは?(長澤さんへ)
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- 大学院生に基本的な論文の書き方を身につけていない例が多い。それらのスキルを包括的に訓練するのは誰の責任? 初等・中等・高等教育、それとも学生自身?(長澤さん、市古さん)
- (長澤さん):山田先生の話にもあったが連続性があり、それぞれが育成することが大事。大学レベルだと、まず大学の中で体系的に育成するのが良い。最初に初年次教育で基礎ゼミやフレッシュマンセミナー。1回じゃなく、それをもとに体系的に指導するのが大事。そのときに、図書館員も大事だが先生ご自身に理解してもらう必要。まずカリキュラム担当に理解を深めてもらう必要がある。教育センターや教育担当の理事に話すべき。次にFD等を通じて教員自身に紹介して普及を図ると良い。
- (市古さん):段階ごとになされていけばいい。特定の誰かは挙げられない。日本の教育は高校まで受験勉強やって大学でほっぽり出される。考える力を身に付く段階がないと。
- (長澤さん):高大連携もFDのプログラムの一つ。高校の先生と大学の初年次の先生の懇談会をやったこともあった。高校の段階から接続を考える。
- 大学院生に基本的な論文の書き方を身につけていない例が多い。それらのスキルを包括的に訓練するのは誰の責任? 初等・中等・高等教育、それとも学生自身?(長澤さん、市古さん)
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- 卒業後など時間をおいた評価が必要じゃない?(市古さんへ)
- よく言われるが、卒業後何年もたつと何が影響してくるか限定するのは難しい。色んなものが影響する。
- 卒業後など時間をおいた評価が必要じゃない?(市古さんへ)
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- 評価等を設計する方法論はInstructional Designなどの視点からどう考えられる?(市古さんへ)
- 何を教えるかでデザインだと思うが、私自身はもやもやしている。答えがまだ見つかっていない。
- 評価等を設計する方法論はInstructional Designなどの視点からどう考えられる?(市古さんへ)
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- 日本の高等教育のリテラシモデルは北米で開発したのに基づいている。北米のモデルは日本に適用すべき? 新たなモデルを作るべき? 実証的研究が少ないのはなぜ?(河西さんへ)
- 北米のは強力なモデル。強固な専門職集団に支えられている。日本はアメリカをモデルとしてきてはいるが、学校図書館のモデルが半世紀たっても定着しないってことは受け入れるには無理があるんだろう。学校図書館において行われてきた情報スキルとかも取り入れようと言う動きが出てきている。全国SLAで出ているのとか。日本の文化的モデルに入れていくことが大事。塩谷先生は日本の学校の中で実現可能なモデルを開発している。このあたりを受け入れて広げる必要があるのでは。
- 学校図書館分野で実証研究がないのはフィールドがないから。まず学校図書館の整備。鍵がかかっていて好きなときに使えないとか。鶏が先か卵が先かと言う話にはなるが・・・。
- 日本の高等教育のリテラシモデルは北米で開発したのに基づいている。北米のモデルは日本に適用すべき? 新たなモデルを作るべき? 実証的研究が少ないのはなぜ?(河西さんへ)
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- 中等教育との接続について、非接続があるというが、情報科を学んできた学生を見て感じるのは個々の能力の差。そこはどう受け入れる?(山田先生へ)
- 「多様化の多様化」の問題。進学率が上昇して、2008年には55%が高等教育に進学する。当然多様化する。その中で今まで語られてきた学力や意欲の話はある意味当然。アメリカだと高校-大学は青年心理学上の転換期。アメリカはそれを支援するが日本はそれがない。さらに学生の側にはレディネスがない。これが「多様化」。さらに格差が広がっている。進学率が低かったころと同じ資質を持っている学生もたくさんいて、この学生は自立して学習する予備軍。しかし「多様化の多様化」は、一方でそういう学生がいつつ、全くレディネスのない学生もいる。「一年生」を同じ文脈で語れない。コンピュータの操作能力とかも格差は広がっているのが当たり前。各大学・関係者が学生の特徴を把握しない限り基準を置くのは難しい。各大学で測定した結果をもとに自分の学生についてわかったことに合わせた教育を。ただこれも格差があるので、一律的な提供は難しい。初年次教育の中でもチャレンジングなことが出来る学生を育てるコースがいると思うが、どう選ぶかは難しい。学力と言うよりはチャレンジングな学生をどう育てるかを考える必要がある。
- 中等教育との接続について、非接続があるというが、情報科を学んできた学生を見て感じるのは個々の能力の差。そこはどう受け入れる?(山田先生へ)
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- 山田先生から〆の言葉
- 今自分がしている研究で大事なのは評価の問題。非常に難しい。一時点の評価を評価と片付けられない。1966からずっとモデルを研究している人がいて、それが常に進化している。日本は50年以上も遅れている。さらに評価が簡単に使われて独り歩きするのも危険。学会としてどうみるかも関わってくる。
- 「初年次教育学会」をこの3月に立ち上げた。いろいろな分野の人が参加している。図書館の人も参加している。そこでノウハウを交換しつつ多様化の多様化を考えていきたい。
- 山田先生から〆の言葉