かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

近年の「近年」の隆盛と現在の「現在」の凋落


多数の反響(特に「実は自分も・・・」という多くの告白)をいただいた先日の"近年、「近年、」ではじまる卒業研究が増えている"という話のつづき。


前回はあくまで自分の研究室にあった過去5年分のうちの学群(学部みたいなもの)の抄録集を対象に集計を行ったわけですが、ここで当然ながら気になってくるのは、この現象(近年、「近年」が増えている)は

  • 図書館情報大学⇒図書館情報専門学群の卒業研究だけで起こっていることなのか
    • 異分野の卒業研究や、学術論文等ではどうなのか
  • 本当に近年、「近年」ではじまる抄録が増えているのか
    • 実は平成14年度とかが少なかっただけで、過去にも「近年」の多い年はあったのでは?


という2点です。


このうち前者を確かめるのはサンプルの取り方等を細かく検討する必要がありすぐにはできませんが*1、後者を調べるのは簡単です。
図書館情報大学開学から筑波大学への合併、そして現在に至るまでに卒業研究を行ったのは全部で26代、4343人。
全部数えてみればいいのです。


ってことで深夜の図書館にこもって4343の卒研抄録全部チェックしてきてみました。
以下がその結果の表(「近年」、「現在」、「今日」、その他の似たような語(最近、昨今、ここ数年、近来)ではじまる抄録の数)です。

S58 S59 S60 S61 S62 S63
近年 0 2 2 6 8 8
現在 6 6 8 5 12 12
今日 0 1 1 3 1 4
その他 2 3 2 2 3 0
全体 8 12 13 16 24 24
卒研総数 118 136 142 131 144 136
H1 H2 H3 H4 H5
近年 10 10 6 5 9
現在 10 9 9 10 11
今日 2 2 3 3 3
その他 6 5 4 2 4
全体 28 26 22 20 27
卒研総数 156 165 158 162 167
H6 H7 H8 H9 H10
近年 10 9 12 21 21
現在 18 13 12 17 16
今日 5 4 2 7 4
その他 6 3 8 6 3
全体 39 29 34 51 44
卒研総数 178 812 195 190 184
H11 H12 H13 H14 H15
近年 20 11 11 23 14
現在 17 12 11 19 9
今日 4 3 5 4 3
その他 4 2 3 3 1
全体 45 28 30 49 27
卒研総数 198 183 169 187 175
H16 H17 H18 H19 H20
近年 20 23 20 30 33
現在 11 10 14 7 12
今日 4 2 1 3 4
その他 5 1 2 3 1
全体 40 36 37 43 50
卒研総数 178 178 158 178 195
全期間合計 割合
近年 344 7.9%
現在 296 6.8%
今日 78 1.8%
その他 84 1.9%
全体 802 18.5%
卒研総数 4343 -


さらにこのうち各語の合計が卒研全体に占める割合、「近年」が占める割合、「現在」が占める割合の推移をグラフに示したものが以下です。



年によって上がったり下がったりしていますが、あらためてやはり近年、「近年」ではじまる卒業研究が増えています
より具体的に言うと平成14年度⇒平成15年度でいったんかなり「近年」開始率が減った後、平成16年度以降再び回復、そして平成20年度にはついに「近年」開始率が16.92%に及び、つくばの図書館情報26代の卒業研究の中で「近年」開始率が過去最高となります
ちなみに平成19年度卒生における「近年」開始率は16.85%とその差わずか0.07%なので、まあ去年と今年がやたら「近年」で始める人が多かったってことですね。
以下、「近年」開始率3位が平成17年度(12.92%)、4位が平成18年度(12.66%)、5位が平成14年度(12.30%)と続き、平成17年度以降「近年」開始率は高水準で維持されていると言っていいでしょう。
つまり前回エントリの"近年、「近年、」ではじまる〜"というのは、より正確には"この4年間、「近年、」ではじまる〜"あるいは"平成17年度以降、「近年、」ではじまる〜"と言い換えた方が無難かも知れません。


とはいえ、より長いスパンで見ると「近年」ではじまる卒研の数は増えたり減ったりを繰り返しつつもやはり基本的には26年間で増加していく傾向にあります。
図書館情報大学一期生の卒研には1本も「近年」ではじまる抄録はなかったものが、十期生の時には5本、二十期生の頃には23本の抄録が「近年」開始ですから。


ただし、類縁の語まで含めた全体が卒研に占める割合(グラフの青線)を見ると、平成9年(26.8%)をピークに増減しつつもそれ以上割合は増えていません。
これはなぜかと言えば、近年の「近年」の隆盛に伴い現在は「現在」の使用率が低くなっているからです


そもそも一期生の卒業時から平成7年までの13年間(集計期間のちょうど前半分)は「現在」ではじまる抄録の方が「近年」ではじまる抄録よりも多く、昭和61年度、平成2年度の2回「近年」が上回った以外はすべての年度で「現在」の方が多いか、同数かとなっています。
これが平成8年度以降は立場が逆転、平成12年度に一度「現在」の数が「近年」を上回った以外は「現在」の数は近年を超えることがなくなり、平成19年度にはその差は最大(23回差)、平成20年度でもなお21回差と歴代2番目に両者の差が開いています。
過去において「現在」は「近年」を上回り、「現在、〜である」から始まる論文が多かったのが、近年では「近年」に「現在」は大きく水をあけられる形になっているのですってああーややこしいっ!


ちなみになぜ「近年」が「現在」を逆転したかの理由は現段階では全くわかりません。
なんとなく語感で選ばれたのか、本当にただの偶然なのか・・・それについては今後のさらなる検討が待たれるところですね。


・・・あととりあえず、自分は今回のエントリで一生分「近年」って書いた気がするので、しばらく「近年」で論文をはじめるのは控えようと思います・・・なんかゲシュタルト崩壊してきた感じがするし・・・*2

*1:楽しそうなのでいつかやりますが

*2:「ネ申」みたいに一つの漢字を分かち書きしてるんじゃないのかとか見えてきた・・・