今日は参加希望者多数により抽選が出るほど盛況であったという、「日本の古本屋」シンポジウムに参加してきましたっ。
- シンポジウムwebサイト
- 当日の映像(録画)
- 「日本の古本屋」サイト
「滅亡か、復権か」という刺激的なタイトルをつけられたシンポジウムですが、中身も名前負けしない刺激的なものであったかと思います。
以下、例によって当日のメモです。
同じく例のごとく、min2-flyが聞きとれた/理解できた/書きとれた範囲でのメモですので、その点ご了解願います(引用等される場合には映像の確認をお勧めしますっ)。
誤りなど発見された場合にはコメント欄等を通じてご指摘いただければ幸いです。
開会挨拶(小沼良成さん・東京都古書籍商業協同組合)
- 今年は東京古書組合創設からちょうど90周年の年。
- 正確には現在の東京組合は戦後に創設した組織だが、大正9年に創立総会を兼ねた第1回組合総会を東京古書クラブで開催した。これを歴史的な組合発足とする
- 現在664軒が組合に所属
- 全国各地に53の組合があり、連合会を作って活動もしている。全国で2,200以上の会員。本部が東京。
- 正確には現在の東京組合は戦後に創設した組織だが、大正9年に創立総会を兼ねた第1回組合総会を東京古書クラブで開催した。これを歴史的な組合発足とする
- 今日も全国から同業の方が集まっている。
- 最近、急激に注目されているデジタル化の問題についてシンポジウムを開くことに
- 本日は大市会の下見も兼ねている。明日もあるので、入札よろしく
- 戦前のことは父からの股伝えで定かではないが・・・
- 外地への販売が多い。戦火拡大で理工系の雑誌が良く売れた
- 戦争が深刻化すると紙が高騰。本を紙として売って糊口をしのぐ
- 戦後は活字に飢えた人に広く本が普及。明日の衣食住にも困窮する人が図書に群がる
- 中国の爆発的な洋書輸入が行われたこともあった
- 社会が落ち着くと・・・
- 各地に大学が作られ、戦後の業界の基礎が出来る
- 最盛期には800を超す東京組合員。珍しいものはさらに高値になる。
- 大学進学率が一段落すると陰り。さらにバブルも弾け、高値神話が崩れる。加えてデフレ。急激に市会の出来高が落ち込む
- 阪神・淡路大震災の時期・・・
- 「日本の古本屋」
- 全国900の参加者
- 広範囲な価格帯で商売が成り立っている
- クレジットカード決済も昨年から導入
- 英語、中国語、韓国語での説明導入に向け活動中
- データベースはNIIのWebcat Plusにも参加。より正確なものにしようとしている
- 現在、われわれを取り巻く環境について・・・
- 一般参加者とともに、組合員の置かれた環境を理解していきたい
- 今年の桜は長かった。このように長期間楽しめることは稀。デジタル化の波がいつ本格的な流れになるかはわからない。インターネット台頭期とは趣も異なる気がする
- 電子化の世界が必ず来ることは間違いない。われわれの業界にも影響が出るのは時間の問題。個人的な意見としては、可能であれば前向きに、商機と商圏をいち早く確保できれば
基調講演「ディジタル書籍の時代と古書」(長尾真先生・国立国会図書館長)
- 国立国会図書館でのデジタル化の進行状況について
- 1947-今日までの国会本会議、委員会の会議録はすべてディジタル化(35億文字)。検索可能な形式。会議名、発言者名、キーワード等からの検索が可能(http://kokkai.ndl.go.jp/)
- 1950年代の国会議員の発話の仕方と今日の人間の発話の仕方が違うことなどが言語情報研究等で分析されている
- 戦前・帝国議会会議録もほぼ全部ディジタル化。ただし画像データ(インデックスはつけているから単語からひくことは可能)
- 明治初期〜1925年までの所蔵するほぼ全資料の本文をディジタルで読めるようにしている。カラー画像。
- ほかにも色々見られる。貴重書等。
- 「近代デジタルライブラリー」(http://kindai.ndl.go.jp/)としてまとめている
- 明治・大正期の本が15万6千冊。「明治時代にはこんな本を読んでいた」、「こういう本で教育をしていた」ということがよくわかる
- 江戸時代の本等を使った過去の展示会の内容もほぼすべて電子化
- いくつか内容紹介
- 1947-今日までの国会本会議、委員会の会議録はすべてディジタル化(35億文字)。検索可能な形式。会議名、発言者名、キーワード等からの検索が可能(http://kokkai.ndl.go.jp/)
- 最近の補正予算で・・・
- 現代に近づくデジタル化の実施
- デジタル化計画のアウトライン・・・
- 紙からのデジタル化のほかに、フィルムからのデジタル化をしている部分もある
- 新しいメディア文化財についての課題
- 今後はいろいろなメディアを対象に考えねばならない。そういう方向への配慮もいるが、簡単ではない
- 本以外の情報の例・・・写真、地図、演説、語り、CD・・・将来はデジタル化すべきだが未着手
- 「歴史的音盤」は現在デジタル化中。2年くらいで相当な量の古い音盤がデジタル化され、NDLのデータベースに入る。それはその時点で視聴可能にする
- パンフレット、テレビプログラム(放映データ+台本を組み合わせたもの)等も本当はデジタル化する必要がある
- 現在ではできていない
- 台本テキストはテレビ放映が終わったら捨てられて、残っているものが少ないという問題。どう保存していくか? 議論が始まったところ
- できればシステマティックに収集して、NDLなり適当なところでテレビの台本を集めてデジタル化して、番組本編とあわせて利用できるようにしたい。映画も。
- その他の試み・・・(NDL以外)
- 絵画のデジタル化(美術館等)。NIIでもいろいろやっている
- 博物館情報。三次元立体の計測とデジタル化。仏像等、映像だけでなく3次元物体を色々な方向から撮影して構造・3次元的なデータが残るように。任意の角度から再現可能なものを
- 遺跡デジタル化(東大・池内教授)。
- 無形文化財(舞妓の踊りなど)。京大・松山先生がやっている。踊りを多くの方向から取って解析、好きな角度から見たように再現
- インターネット上の情報。これはNDLで今年の4月から、公的機関のwebサイトを毎月、更新のあるたびに収集・保存している。
- 今後の電子図書館は図書・雑誌とともにネット上の貴重な情報も保存・活用する時代
- 広い範囲を考える必要
- マルチメディアそのものを考える必要がある
- デジタル情報の保存の課題
- メタデータ、データの国際的標準フォーマットの設定
- 緊急の課題。精力的に進めないと
- オフライン媒体での保存は媒体の変質・再生機器の消失による問題がある
- 全部オンラインにしておくといい? この場合はメモリが進化するごとに機器更新・データ移行のコストがかかる。
- 紙での保存が現時点ではもっとも安定的・信頼性が高い・維持費が安い(温湿管理)
- 電子的で何百年も変化しないような媒体はないものか? 電子媒体で、オフライン的に記録できるものの研究開発。なんとかできないかと期待
- メタデータ、データの国際的標準フォーマットの設定
- グローバルなデジタル図書館活動
- アメリカ議会図書館、フランス国立図書館、中国国家図書館、韓国国立図書館etc
- World Digital Library(http://www.wdl.org/en/): ユネスコ+アメリカ議会図書館がリード
- Million Book Project(http://www.archive.org/details/millionbooks)
- 著作権切れの資料をボランティア的に電子化+途上国に100ドル(今は180ドル。そろそろ100ドルになる?)コンピュータを普及
- Europeana(http://europeana.eu/portal/)
- デジタル表示だけで満足できるか?
- 近代デジタルライブラリーは使われるが、手元に置いておきたい、プリントしたいと言う欲求
- コンビニの写真プリントで出せるといい? ビジネスになる可能性も
- 本はKindle等の電子読書端末で読める環境もあるが・・・実物を見たい、という欲求も
- 近代デジタルライブラリーは使われるが、手元に置いておきたい、プリントしたいと言う欲求
- 実物のもつ魅力
- わたしが言うまでもないが・・・古書を愛する方々ばかりだと思うので語らないが、そういうものがある
- そのためにも書物をデジタル化して、誰でもいつでも見られるようにして、そこで面白いと思ったら現物を買う、という相互関係が成り立たないか?
- この後のお2人のお話の中で出てくると思う
- 質疑(長尾先生は国会対応のため途中退出するから先に)
- 元NII・山本さん:著作権許諾について。著者が生きていて、年を取っているのが一番許諾を得やすいのではないか? 著者の子供くらいが一番欲深なので、本人が年を取って定年になったりしたときに著書をwebで公開していいよ、と言うのがいいのではないかと思うのだが、どうか? もうひとつ、出版界が慎重であるのは悪いことではなく、そうではないと世界的なものに席巻されるかとも思うが、NDLの中だけではなく、例えば県立図書館にNDLの出張所を設けたりはできないか?
- 長尾先生:許諾の問題については、例えば1968年までの書物ははっきりした統計はないが、8割くらいは著作権者がどこにいるか見つけられないものだと思う。それは文化庁長官の裁定を待つしかない。また、著者が亡くなる前に著作権を放棄してもらえるといいが、遺族も生きていかねばならないのでそうはならないだろう。2点目については事実で、私どもも協議しているが、確かにデジタル化すると世界中どこにでも持っていける。その便利を利用しない手はない。人類の知的資産は平等に、誰でも使える知的環境を整備することが日本にも、どこの国にも大事と思う。しかしそれを何も配慮せずにやれば出版・著作権者が生きていけない。そこで提案したのが遠いところから国会図書館に来るには交通費がかかるのだから、NDLの電子書籍を読むのにバス代分くらいのお金はいただいて、それを著作者・出版社に払う。そういうメカニズムを作れば、日本で図書館には年間のべ3億人くるらしいので、その人が200〜300円払えば年間1千数百億円になる。それを業界に還元する、というのはいいのではないか。ある種のビジネスモデルを作って、win-winの関係になるような方向に持っていく必要があると思う。
- 元NII・山本さん:著作権許諾について。著者が生きていて、年を取っているのが一番許諾を得やすいのではないか? 著者の子供くらいが一番欲深なので、本人が年を取って定年になったりしたときに著書をwebで公開していいよ、と言うのがいいのではないかと思うのだが、どうか? もうひとつ、出版界が慎重であるのは悪いことではなく、そうではないと世界的なものに席巻されるかとも思うが、NDLの中だけではなく、例えば県立図書館にNDLの出張所を設けたりはできないか?
-
- ?:本の中に、洋書など、翻訳のされ方によって原書と形が変わっているものもあったりする。翻訳版がおかしければ原書にたどれるようなやり方があれば。古い文字の読み方もそれなりに価値があるかと思うが。
- 長尾先生:素晴らしいご提案と思う。今日の言語情報処理技術を使えばかなりの精度で実現できると思う。そういうソフトウェアを整備することと、それをやるためのコストを考えてやれば、すぐは無理でも将来はそういうことができるのではないか。私の友達に研究しないか伝えておく。
- ?:本の中に、洋書など、翻訳のされ方によって原書と形が変わっているものもあったりする。翻訳版がおかしければ原書にたどれるようなやり方があれば。古い文字の読み方もそれなりに価値があるかと思うが。
基調講演「出版業界におけるDNPの戦略:出版・印刷業界の活性化・拡大をめざして」(森野鉄治さん・大日本印刷株式会社常務取締役)
- えらい先生に挟まれて場違いな気もするがあえて出てきた。今日話す経緯は、冒頭にもあったように10数年前に古書店のネットワークの仕事について声をかけていただいて関わったことと。それから十数年のことを話したい。
- DNPは出版界で言えば「士農工商印刷屋」とも言うが、いわゆる印刷業はブランドがないので、世間で知られるような会社ではない。癪なので「無印〜」と言ったりもする。
- 出版界の「三位一体」というのも出版・取次・書店。印刷屋は出版社の裏にいる扱いらしい。
- しかし今、起きているのは技術革新。技術革新の時代にモノづくり屋に声がかからないのはおかしい、ということで一枚かませてほしいと自ら出てきた。
- 出版をエンジニアリングする、出版工学。出版をエンジニアリングするとどうなるのか。技術屋として今の破壊的変化にどう対応するか、ということでのこのこ出てきた
- DNPについて
- フリーモデルは知の再生産につながらない?
- 本来は広く公開すべきだが・・・
- デジタルで流れるものに広く薄く課金しつつも、本物は残るようにするには?
- セキュリティの管理が最大の問題。そこにクレジットカード等で培った技術を使えないか
- デジタルフォト:業務用ではDNPがトップシェア
- デジカメで撮った写真を出力しないこともある
- フィルムの時代には考えて取ったが、デジタルになってパシャパシャ取るようになった
- じゃあアルバムに残すとはどういうこと?
- リアルに出力することの意味。送りものなんかでもあるが、送る人も貰う人も嬉しい。
- デジカメで撮った写真を出力しないこともある
- 電子ペーパー
- 出版・印刷から始めた会社として、出版印刷に馴染むディスプレイを考えたい
- デジタルの利便性とアナログのテイストを残したもの
- ハイブリッド出版の時代
- 最終的にはデジタルの時代もあるかも知れないが、出版エンジニアリングのコンセプトとしてはハイブリッド出版のプラットフォームを作りたい
- 業務拡大の流れ
- 重視しているテーマ
- 40%近い返本率・・・世の中にある問題点を解決すれば企業は金を貰える。この業界では返本率。
- いい本が出るのがいいだろうがDNPはそういう立ち位置ではない。エンジニアリングでロスを解決できないか?
- デジタル化・・・雑協の会合で、フォーブズの会長が「7年でやっと赤字解消」と発表。なかなか課金できない。
- アナログだけじゃ無理だがデジタルにいっても課金できないと言うのでは・・・エンジニアとしてはどうやったらデジタルコストを下げられるか?
- DNPもNDLのデジタル化に入札中。長尾館長は「安ければいいですよ」と言っていた。いかに低廉化していくか。
- プリントメディアも作る過程は100%近くデジタル。それをぽろっとデジタルに出せば、考え方によってはコストゼロ。デジタルだけならコストがかかるが、アナログでも出すなら(本当は出漁の形は違うが)若干のコストでできる。ハイブリッド出版の方が各社が悩んでいるデジタルコストを最低廉にできる。
- これからはそれでいい。今までは? そこのインフラが整備されないとアナログ&デジタルの時代にシームレスに進めない。長尾先生がリーダーになって進めて欲しい
- 販売経路の拡大・・・MLA(museum, library, archives)というが、本屋ってどこまでで美術ってどこまでか? アナログの時代はどこかに線があったが、デジタルの時代には売る場もシームレスになっていんじゃないか?
- 本そのものの広い販売機会の獲得?
- 広告の場でお金を獲れるコンテンツをどうやって提供するか?
- この3点をソリューションにおいて業界に出てきた。その中でサプライチェーン、メディアの作成から流通・販売・二次流通。
- 40%近い返本率・・・世の中にある問題点を解決すれば企業は金を貰える。この業界では返本率。
- 我々が目指しているのは、今で言う計画販売/責任販売。委託販売、委託されたものを小売業が何も考えず売る仕組みは、他の業界から見れば欠陥のある仕組み。小売店が顧客を見て初めてマーケティングができる。それが書店は委託の上に、再販制度で価格まで考えなくてもいい。それをなんとかできないか。
- 考えてみれば、古書店が一番マーケティングが進んでいる。お客が見えているからリスクを負って、入札している。しかも値段も自分で決めている。逆説的だが、古書店がこれから求められるビジネスモデルの最先端にいるのではないか?
- 今、コンテンツは年間8万出ている。デジタルになったらもっと泡沫まで出てくるだろうが、本当に残るのは4万かも知れない。その目利きができる二次流通があることで、大量の情報がある時代に本物がリアルに残る。それを古書店はずっとやってきた。本当の「ビジネスモデル」だったのではないか。だからこそネット通販を10何年も前に仕掛けてきた。コンテンツを見極めて値段を決めてきた。文化財を売り買いする、しかし資本主義の中でやっている。
- ブックオフは効率一本化。あれはあれでありだが、委託再販制にパラサイトしている面もある。古書店のような形がこれからのモデルなのではないか? ビジネスモデルをわれわれ自身が取り入れていけたら。
基調講演(高野明彦先生・国立情報学研究所)
- 自己紹介がてら、NIIのWebcat Plusを紹介する
- http://webcatplus.nii.ac.jp/
- 連想検索が可能。Webcat Plusのトップページの文章の一部をコピペして連想検索にかけると高野先生の本がトップに!
- 言葉を選ぶ苦労をしなくてもとっかかりが得られる。とっかかりが得られたら、選んだ本に近い本をさらに探す・・・ということを出来るサービス
- それを何百万冊、という規模の本に対してできるのである程度便利かと思う
- これを見たからか、同じようなものを古書でできないか、ということを神保町の古書店連盟から相談いただいた
- Webcat Plusは大学図書館の人間でないと本を借りることすらできない。「なんのためのサービスですか?」と聞かれる
- 古書店なら実際のものを売れる。さらに古書店の書棚をバーチャルに見せることも魅力的と考えた⇒JIMBOU
- JIMBOU(BOOK TOWN じんぼう)
- 神保町ベタにならない、抽象的な名前
- 170店のデータを徹底的に集めた。個々の古書店を説得して、「日本の古本屋」と同じデータの提供をいただき、52店が現在参加
- 神保町の52店を一つの古書店のように検索できる。各古書店のオンライン書店にリンクして、買うこともできる
- けっこう話題を呼んで、テレビ等にも取り上げられる。古書店という古そうなものを扱うところで新しいものが使われている、ということで話題に
- 気を良くして、街自体のポータルサイトも作って提供を始めている
- 本、食、街の情報をGoogle Mapを使って発信していく
- 神保町の真ん中に案内所も用意してもらって、ボランティアで協力しながら日々、案内をしている。多い日は150〜200人来訪、50〜60人がなんらかの質問。
- 「本を探している」とか「美味しいラーメン屋を教えて」とか
- 文化財について・・・文化遺産オンライン(文化庁がやっているが作成はNII)
- http://bunka.nii.ac.jp/
- 文化として残す記録を支えるものは、博物館/美術館にもある
- 地域/分野/時代から検索が可能。あまり知識がない人でも楽しんで探せる。
- 関連検索も可能。普通なら並ばないようなものを比べながら見られる
- 全国数百の博物館・美術館が参加。1万数千枚の写真、6万点の文化財データが登録されている
- しかし現物を味わうには説明だけでは不十分。本も読みたくなるだろうし、現物も見たくなるだろう
- 関連する情報を掘り出してくることが必要では?
- 「想 imagine」(http://imagine.bookmap.info/index.jsp)のボタンをつけた。自分たちが作ったものにはたいてい付けている。
- クリックするとその文化遺産に関連する情報がずらずら並んで出てくる。「日本の古本屋」、「近代デジタルライブラリー」、ジュンク堂、大学図書館・・・
- ここで見つけた情報で興味のあるものをクリックすると選んだ情報でさらに検索できる。
- もちろんWikipediaのようなものも入っている。ちょっと怪しくても最新情報
- 拘りが全然違うものを取ってくる。ふつうは絶対出会わないような情報を興味に合わせて隣り合わせて関連付けて見られるのがこのインタフェースの面白さ
- 神保町に散歩に行く楽しさはこれでは? 全く違う拘りをもつ店が並んでいて、そこを歩く楽しさに近い
- 実際の街歩きとこのインタフェースがお互いにインタラクションしていくといい
- 渋沢栄一記念財団の「錦絵絵引」データベース(http://ebiki.jp/)
- 絵引・・・渋沢さんの孫の一人が考えられた構想。これを実業史の錦絵に適用したプロジェクト
- 例えば家を作るための話し合いをしている錦絵の人物にカーソルを合わせると、それそれの立場の説明が出たり、置かれている道具の説明が出たり
- 注釈は専門家が間に入って作成。20枚くらいの画像に1,000以上の注釈
- 「総髪」など、言葉は聞いても実物を見たことがないものを見られる
- 言葉から画像を検索することも可能
- 知的好奇心を刺激しながらドキュメントを示していく仕組み。専門家が考えて歴史的に加えた解釈に、何も知らない人も触れる機会を与える
- 古書店の奥にあるお宝をこういう形で公開すれば・・・
- さらに多くの人を引き付けられるのでは?
- それが教育につながれば、将来の古書店ユーザも増えるかも
パネル討論会(総合司会・河野高孝さん)
- 出演者:
- 森野鉄治さん
- 高野明彦先生
- 中野智之さん(中野書店)
- 河野さん:最初に中野さんから。本日のお話の感想から。
- 中野さん:軽い気持ちでお受けしたら凄い大きい会でびっくりした。古本屋には色々な業態があり、自分がしゃべることはその中の一人の言うことと考えて欲しい。私は昨年の6月まで神田の古書店連盟の長だった。それ以前には副会長をしていて、あしかけ4年間周囲の面倒を見る役割をしていた。それから高野先生のBOOK TOWNプロジェクトにも関わっている。10年くらいお金にならないことをやっている。今頃お客さんが来ていないかと心配もしている。
- 中野さん:まず簡単に感想を。しかし実はお二方のお話を聞けていない(苦笑) 国会図書館の長尾先生には本日はじめてお会いした。神田は千代田図書館と仲良くやっていて、昔館長だった柳さんは国会図書館から来ていた。その柳さんから「図書館で本を売りませんか?」と声をかけられ、「何言ってるんだこの人?」と思ったがその縁で図書館で古書の展示をやっている。値段はついていないが、売ってもいいと言われているので、買いたい人はお店に連絡をいただければ。図書館で「売る」というのは、図書館が所蔵資料にこだわるのではなく新刊書店も含め情報を提供する、ということ。もうひとつ「本と街の案内所」というのがあるが、そこにも図書館からコンシェルジュを派遣していただいて、本だけでなく街の情報も発信。図書館の機能は情報を集めて地域に発信することなので、展開すれば街の情報を集めたり、図書館の知っている新刊/古書店の紹介にもなる。今ある知識を集積して、必要な人に与えることの延長上。その方向性を古本屋が否定することに意味はないと考えている。古本屋としては現物を私たちも持っているので、それをどう生かすかに話を持っていくべきと思う。国会図書館の電子図書館のサイトを一度ご覧になってみるといい。キンダイデジタルライブラリーや貴重書。僕も見ていたが、おこがましい言い方をすると、古本屋の力は負けていない。まだ商機がある。不況だから古い本は厳しいが、若い人は苦しい中でいい本がなにかを理解して、余力があれば集めておけばいい。図書館は今、現物を買う以外のことにお金を使っている。今は不況だが、書物は将来、購買層が帰ってくる気がする。デジタル化はそう早くはないだろうし、千二三百年の本をどう扱うか。
- 中野さん:DNPの森野さんのお話は聞けなかったのだが、TRC、丸善、ブックオフと凄い。現代の出版流通の台風の目のよう。それをなぜ印刷屋さんが? 書籍のデジタル化はずいぶん前から言われている。再販制度もしかり。ブックオフのような新古書の対応も近年の話ではない。それに真剣に取り組んだ出版社の話を知らないし、積極的に機能しているようには見えない。問題があり、情報もあるのに対応していない。どうしてうまく解決できないのか、とは思っていた。DNPが解決策になるのかはわからないが、一つのテーマをもって流通の再編成に向かっているのは、憶測も含めて感心している。
- 中野さん:高野先生にはもう言うことがない。いろいろお世話になっている。図書館、博物館、街の僕らのような古本屋をバランスよく見てくれている。本職は研究なのだろうが、余力で大変お世話になっている。
- 河野さん:いかにもな真面目な意見。そこから今日の滅亡か、復権かという話にどうつなげていくか。その前にまず森野さんと高野さんのお話について、それぞれどうお感じになったか。ちょっとお話しいただければ。
- 森野さん:印刷屋がプラットフォームを作ろうと思ったのは、デジタルになるとメディアを作る人も売る人も1人になりうる。アナログの、既存の商品のような「〜屋さん」という境目がなくなるのがデジタル。だけど私たちは「ハイブリッド出版」と言ってリアルとデジタルな本の最適な組み合わせが10〜20年のマーケットと考えた。そこでリアルの人間としてデジタルのプラットフォームを見ると、一番の原点は書店。これは教室もそうだが、情報が消費されると同時にそこで作り出される。それも同時になってきた。一方的に、先生からというのではない。それだけなら機械に変わられるので、そこになんの価値を加えるか。DNPの出資はアナリストにはこてんぱんに言われているが、やった以上はやっていく。オープンなシステム、一方で先生の話ともつながるが、私たちのグループでプライベートな、私だけの「本棚」のようなものを。なんでも検索できる時代だけに、自分の棚。ケータイ電話がなくなったら人生を失うようなもので、ケータイにしか連絡先がないから親友すら失うように、リストこそが自分をあらわす。そのように書棚を。一方、自分のようなずぼらな人間が自分で手を動かして書くとは考えられないので、書評のようなものを取ってくる。一方でTwitterのようなもので自分の情報も加える。リアルな棚でありバーチャルな棚。やっぱり、デジタルデータをもう一度見直してみると、例えば音楽なら「一番聞いている曲」がぱっと探せる。「最近はこれに偏っている」、「これを忘れている」というのがわかる。そういうものを、高野先生のプラットフォームをパクって。ある意味では以前の業界のルールがなんでもなりになってきたことは、カオスでもあるし、偶然の出会いで新しい発見の場となると言うことではいい時代でもある。閉塞された日本社会だが、知の消費なら誰も迷惑をかけないし心も豊かになる。そんな思いで出資している。NDLは網羅的にやってくれればいい。それをうまく使えるようにはしてくれないだろうから高野先生のようなシステムがある。そういうプラットフォームがあればまた商売できるので、出資した甲斐があった。
- 高野先生:森野さんにお会いできるのを楽しみにしていて、想像以上だった。Webcat Plusは8年前、6年前には新書マップと言うweb書棚もアップした。それは松岡さんの「千夜千冊」を見て、あれはいいけど、もうちょっと一般の人が作れて、参考にできるものを作ろうと思って始めた。実は長尾先生にいただいたファンドでやってきた研究。長尾先生がいなくなってから感謝した方がいいと思うのでここで感謝したい。松岡さんのようなとんがった人と、長尾先生のような研究の活用に価値を置く人がいてああいうものが出来た。僕らも自分でビジネスをする気はないが、GoogleやAmazonに全部やられるんじゃなくて日本からも出るといいな、と思っていろいろ働きかけてきた。しかし全然動いてくれない。「やっても見えない」と言われるだけ。ここ数年は限界を感じていたのだが、森野さんの動きを見て、やっぱりGoogleや電子端末の影響もあるのだろうが、日本でもそういう動きが出てきたことを嬉しく思う。僕らは国立の研究所なので、社会全体にインフラ/公共財のような、情報を資源として公共財として使いでのあるものを社会に届けたい。それが面白いビジネスをやろうという人に有用なものだと嬉しい。今日のお話を聞いてわが意を得たり、走って行く方向は間違っていないなと感じた。MLAという話もあったが、文化財系も僕は強烈にやっている。MLAの中に真剣にMLAを考えている人はあまりいない。何をしたらいいかわからない、というのが本当のところのよう。僕らのようなMLAにそもそも思い入れのない情報屋が外から言えたらいい。そういうところまで森野構想が広がっていくことを期待している。
- 河野さん:今日は御三方のお話を伺っていて、いずれも壮大なスケールのお話で、特に森野さんのお話で知の流通、生産・消費・流通のサイクルがデジタルで大きく変わることが長いスパンでは想定できる。その中でそれぞれの持ち場を見つけてチャンスをとらえ、成長のパターンをつかむのだろうが、一方われわれの今日の大半はほとんど零細な自営業者。その生き延びる道は? 「本なんか売ってていいんだろうか?」というのが多くの方の考えること。それからもうひとつ多い参加者は出版関係の人。同じように「本なんか作ってていいのだろうか」と考えていると思う。大きな流れの中で小さな営みがどう生き残っていくのかのビジョンがあれば。
- 森野さん:DNPもいわゆるエレクトロニクスに展開して成長してきた。本の分野に戻って大丈夫なのかと。新刊の売り上げが2兆円割ったというが、鈴木自動車は2兆5千億円。これだけ集まって2兆円と言うのは、何か金の付け方が違うと言うか。ものづくりは際限のないデフレスパイラルに入る。知はそれに比べれば。Natureなんかに日本の論文が載ると嬉しそうにしているが、岩波に出て何が悪いんだと。そこに出てauthorizeされたものが世界に出て交換されるならいいが、必死にあそこに載せてもらおうというのは日本が知的に独立した状態にないし、ものづくりじゃアジアに追いつかれちゃう。そのあたりを出来れば。ただ、2兆円を分けあったって仕方がない。そういう意味では多重な利用が要る。私たちも、知をgenerateする人は多様である必要があると思う。最終的に破滅しない、というのは、本が破滅しないというのではなく、コンシェルジュのような機能はなくならない。古書店で言えば黄色のビラビラみたいなものにこそ価値がある。デジタル化はツールであるが、絶対にものでなく売れないものはサービス。その観点から印刷業をわれわれもやっている。今の時代は双方向。前は本も一方向だが、デジタルの時代はもっと双方向。消費レベルで言えば4〜5兆円くらい出してくれるマーケットになるはず、と思ってアナリストに文句言われながら我々の経営資源をこの分野に向けた。最低でもスズキ一社に負けることはないだろう。
- 高野さん:どういうところがビジネスの肝かがわかっているわけではないが、今うちのNPOのスタッフと千代田図書館のヘルプでやっている案内所の問答集を一部、印象に残ったものを5つほど登録してもらっている。その中には「こういう質問をしたら古書店の親父には怒られて相手にされないな」ということがわんさか。それをアルバイトのスタッフがツールを使いながら回答していく。ヘルプをすると、凄い感謝されて、神保町で見つかったら御礼に来たりお土産をくれたりもする。そういう機能が今の古書店にひょっとしたら欠けているのかもしれないし、あればいいのかもしれない。神保町のようなところならリアルでできるが、1店しかないようなところでは無理なので、国なりがwebサイトで用意できるといいのではないか。図書館で言えば一番いいレファレンスサービスのようなもの。今はそれがYahoo! 知恵袋やおしえてgooに投げかけられて、怪しげな答えが返ってくる。それがずっとインターネット上で保存されているので知的なやり取りのレベルがそのレベルになってしまう。本当の模範演技のような、古本屋で親父に相手にされて成立しているような会話がネット上にはない。それがどこかにアーカイブされていて、お客さんの満足の成功例として蓄えられると古書店のサービスとして一番文化に貢献できるのでは。作る気があれば僕らもヘルプします。
- 中野さん:おっしゃることはよくわかるが、相場は秘密でもあり、あんまり言っちゃうと・・・というのもある。僕自身はわりあいオープンにしていい時期になっているようにも思う。デジタルになっていないところに価値があると思うので、ものを扱う本屋としてはそこが生きる道かな、と思ったりはする。
- 河野さん:今の話の続きを言うと、JIMBOUを最初見たときから、凄く羨ましかった。「神田の人はいいよね」という。あれが神田でしかできなかったのはどういうところ? 広いところでは難しい?
- 高野先生:今は可能だが、古書店側のシステム、店舗側がシステムを持っていて準備が整っているところが少なかった。店舗システムを一緒に売り込まざるを得ず、そういうときに江戸川区や千葉県まで足を運んで、マシーンのインストールまで手伝うのは辛かった。連盟全体としてまとまって依頼が来て、個々の交渉がいらず、徒歩15分圏で済むのが神保町ではじめたきっかけ。今は、JIMBOUは神保町だけじゃなくてもいい、誰でも参画できるようにできれば、日本のJIMBOU、全国版JIMBOUができると思うし、僕らもやっていきたい。僕らが出店してもいいかもしれない。
- 河野さん:森野さんに。知の再生産のサイクルの中で、いわゆるデジタル化の流れの中で一番、脆弱なところ、ここが辛いと思う点と言うのは?
- 森野さん:正直言って黒船が来て、AmazonスタイルとGoogleスタイルは違うと思うがあの黒船が来たから・・・今日の会の標題もその黒船のおかげもあるだろう。一社ぐらいは向こうの国に旗揚げしたいとも思うが、その中で一番は・・・あまり出版社の文句を言ってはいけないのだが、出版社がもうちょっと権利を確立して欲しい。今、編集工学の松岡さんにグループに入ってもらっているのだが、編集・企画は明らかに知の確立に寄与しているのであって、もうちょっと確立できないのか。一度公にしたものは公共財で、いかに社会の資産として使われるかを考えると。出版社が中抜きされるとも言われるが、中抜きになるような出版社はもともと役に立っていない。価値を著作者に加えるような編集・企画が大事で、それはauthorizeされないと。ハイブリッドで、知全体の消費を増やしていく、それで幸せにつながるという思いからするともっと頑張ってほしい。それが官の主導で確立するのか、勇気のある人間が手を挙げてデファクトにしていく、その競争で選ばれる・・・声をかけていただければ手伝うが、そこがデジタル/アナログに知を広げるのでもう一歩必要では。国に頼るのではなく。
- 河野さん:やっぱりビジネスの最先端にいる人は厳しい。古本屋でこういうこと言ったら総スカン。
- 河野さん:高野先生に。今の局面と違うデジタル化の局面はある?
- 高野先生:わかれば教えて欲しいが、学術系の論文のような世界ではデジタルのないジャーナルは生き残っていない。そこで何が起きたかと言えば、昔は抱き合わせと言うか、くだらない論文もいい論文もまとめて雑誌として売るモデルだったが、今は消費は論文単位。出版の単位は小さくなった。そうなると、今のところはまだ購読モデルでやっているが、本当のところは読みたい論文だけ読めればよくてあとはいらない。個人レベルでは。そうなると雑誌のビジネスがなりたたくなるのでどうしようか、ということになっている。本も、知識の発信の単位は変わるだろう。厚い本でも特定の章しか読まれないものはそこだけ拾い読みされたりする。一部だけでも役に立つものじゃないと日が当らなくなる。そういうものを束ねて必要なものを見つけるところがうまく提供されればブレイクスルーになる。今のGoogleやAmazonの全文検索ではそれができていない、対象となるページが増えた分だけ見つかりにくくなる。人気投票で上のものは見つかるが自分にとって役に立つものをどうやって探せばいいかは技術的にも手掛かりがない。そこが解決されればぐっと見つかりやるくなるし、そうなるとそこで見つかりやすい単位に知識が再編集され、過去のソースも役に立つようになるのではないか。
- 河野さん:もう一度森野さんに。アナログ&デジタルのハイブリッド出版、というのに大変感銘を受けたが、ビジネスとしての採算は? イメージがある? 「やってみよう」?
- 森野さん:たぶんこの黒船騒ぎは、もう10年、もっと前に。自分のところで出していた「本とコンピュータ」が言うようにやればよかった。やらなかった。電子ペーパーとかKindleとか、じわじわと節目があって、去年は一つ抜けたところだと思う。抜けたところで、来年あたりはもう小康状態になってこの会のようなタイトルじゃきっと人が集まらないだろう、太陽電池のバカ騒ぎみたいなもの。今はその節目で、デジタルとアナログは技術的なところはもう抜けていて、インタフェース的にデジタルがいいかアナログがいいかはまだ議論がある。『フリー』を全部デジタルでスクロールして読もうとは思えない、面白そうだと思ったから買った。作家さんも「訳せば売れるだろうと思っていた」と言っていた。ビジネスとしてはそこに安全弁を置きながらできる。分野によっても違う、ジャーナルは一気に行っちゃったが、分野ごとのプラットフォームができれば商売になるんじゃないかなあ。色々と不安ですが。
- 河野さん:今日は我々の業界では第2回目のシンポジウム。1回目はクローズドだった。前回は出版関係に関わりの深い方と、もうお一方は千葉大学の先生で単純明快に厳しいことを言われた。今日は御三方から長期的な展望で知の世界の変貌を見とおしていただいた。主催者側に対する配慮か、業界にも先があると言うお話をいただいた。残りの時間で、会場の皆様からご質問を伺いたい。
質疑
- 岡本真(ARG)さん:最初にTwitter上の質問から。森野さんへ。Amazon検索では絶版になった本等、古いものでは書影なしが多いが、ここに古書店の財産やTRC MARCの強みを生かせるか?
- 岡本さん:大日本は結局、何をするのかという突っ込みもきている。
- 森野さん:その筋に詳しい方? よく言われる、「わかったけどDNPなにやるの?と。全くその通り、ネットになってからはきりもみ状態で各社が強くなったり弱くなったり。ただ、少なくともコンテンツのデジタル化には大した強みもない。その他大勢と同じ。それをどう発信するか、というときにアナログでの本になるのと、ダウンロード、これをどれだけ必要なときに必要な形で提供するかと言う、一気通貫のところがわれわれの住みか。半分は商売の機密なので言えないのと、もう半分はまだ出来ていないので言えないところもある。システムの作り方やデータの持ち方は。コンテンツを全部デジタルで持ったら爆発的で、Googleがどう持っているかはわからないが、本の形で持つと非常に大きいデータをどうもつか、それをどう分散するかと言う苦労がエンジニアリングにはある。そこを我々の競争力、商売にしていけばDNPの役割を果たせると思うし、それはオープンにするのでそこで健全な競争をする。もっと強い奴が出てきたら負けてしまうが、Kindleでしか読めないとかそういうものではないものにする。彼らもそっちに舵を切りつつある。iTunesのようなものは前世紀的。オープンにしても勝てるのが商売と思う。半分しかできていないけど。
- 栃木県のネット古本屋さん:本をネットで売り始めたのは6年前、副業から本業になり組合にも入った。デジタル化の中での本の可能性にも関心があるが、田舎なのでリアル書店の形態ではない。うちはAmazonで古本を売っている。それで家族ともども暮らせている。とはいえ、本と言う形態に思い入れはあるので、時代の流れのデジタルの方向はわかるが、デジタル時代だからこそアナログの良さが光るとも思う。例えばケータイ小説は本になるわけだし。そこで質問なのだが、デジタル化の時代におけるアナログの本の優位性とは? どの辺で優位性を発揮したらいい?
- 高野先生:寝ても読めるとか、いろいろありますよね。僕はもう古い世代だから紙の本で厚い本を読みたいですが。じっくり読むのは紙の本がいいですが、そこで引用されている本を参照する先はデジタルでもいい。紙の本がいきるようなコンパニオンシステムがあると言い。むしろデジタル本に光明がない。デジタルだからこその決定的な利点が出てきてはじめてアナログ本の新しい使い方も見えてくるかと思う。これに乗じて言うと、ハイブリッド本は紙で買うとデジタルコンパニオンがくっついてくるようになるといい。
- 森野さん:その通りです。日経新聞が今度、新聞を取っていると1,000円でデジタル版が読めると言う価格帯をつけて、マイクロソフトに半端だとけなされていたけれど。販売店があるので最初からデジタルにはできないのだろうと思うが、やっぱり本当にあの一覧性の中には重要なものがあるのでは。読者の選択肢で自分のパターンで読めるよさと、探すときの良さを考えるとアナログとデジタルのバンドルがいい。おっしゃったとおりのサービスを、できていないうちに言うのはなんだけど、ビジネスモデルと再販委託制度の中でどうすれば出版社の方が一番載りやすいのか。業界全体の賛成と言う発想が古いのかもしれないが、成功モデルを作れれば。最初からデジタルファースト・デジタルエンドな世代はわからないが、少なくとも20〜30年くらいは今の組み合わせがトータルでSUZUKIを抜くのでは? 本当ならデジタルはおまけで、新聞を取るとデジタルがくっつくモデルにすればいい。値上げで2兆5千億にするのではなく、読者を増やせばいい。今日は出版社の方もたくさん来ているのでうまくできれば。
- 愛知県の書店さん:大学院で勉強し、高校で教員をしながら古本屋をしている。本を使う側、読む人を育てる側、売る側と言う3つの立場。インターネットで文学のものを探そうとすると、なんでもあるようで案外、なにもない。昔に比べればましだけど、ある程度のところで行き詰る。結局、夜行バスで東京や新幹線で京都に行くことになる。本を1冊買うときでもそう。「日本の古本屋」のおかげで遠くの本も買えるようになったが、それでもなかなか見つからない人がいる。IT分野の技術がもう少し、長尾先生のお話にあるような、何百年ももつような記憶媒体が見えないと。お金のない地方で何か思い切ってやったら、何年か後に取り換えないといけないと言うのでは腰が上がらない。NIIでそういうことをご専門に研究されている先生からご覧になって、そうした安定したITメディアの実用化はどれくらいかかる? 具体的にどんな構想があるかというのが、もしあれば。
- ?:古書店は本を楽しむ、読む楽しみを提供するところで、Amazonはただ買うところ。Amazonには見たい、買いたい本がない。良書がない。Amazonにない本が古本屋さんのネットワークにはあったりもした。高野さんのお話にあった連想のようなところにそういう拘りを活かしているのか? また、絵引のような形で案内して本に触れる楽しむを伝えるには? 売るのではなく楽しむ、と考えると違う解があるのではないか。高野さんのお話を聞くと凄い未来があるようにも思えたのだが。
- 中野さん:古本屋の仕事は基本的にはそういうこと。ただ、あわないお客さんが来ると邪険にしちゃうところもあってよくない。自分のところの本をよく知っている人がくるとよくコミュニケーションを取る。市場と言うシステムも、古いものかもしれないが全国から集まってやる。中では知られているが外では知られていないこと。そこでいい本、悪い本を知るシステムがある。市場のシステムは僕自身も残していきたいと思っている。上から下につながるというのは、先輩が後輩に知識を伝えるいい場であるし残したい。
- 大阪の書店の方:テーマと外れるかもしれないが。DNPが丸善、ジュンク堂を傘下に入れるのはわかるが、ブックオフを傘下に入れたのはどういう戦略があるのか密接に関係すると思うのでお聞きしたい。ブックオフを傘下にするということは売り場を手に入れると言うこと。戦略があると思うが、話せる分だけ。
- 森野さん:今日の業務の中で最大のテーマ。なくて終わるかと思ったのだが・・・。私自身は、DNPは出版印刷から始まったのは間違いないが、今は10%そこいらのシェア。私自身も電機業界のビジネスモデルとどう組むかをここ10年以上、海外と考えていた。はたと気付くと、日本の出版流通は二次流通がないのか。それから取次がなぜマーケティングをするのか。卸がマーケティングというのはおかしい。生産者が読者の期待にこたえたものを作って売る、となると出版社と書店が担うはずだが卸がマーケティングしている。それは再販委託制度があると思うが。いずれにせよ、普通に一次流通と二次流通があるはずで、それがない中でブックオフが一人勝ちしていた。普通の業界なら大した規模でもないのにAmazonやGoogleが新聞に出るのはそれだけ注目される特殊性にある。そうしたときに、二次流通がないと健全ではないと思ったので出資した。ただ扱いかねている、全然調子よく行っていない。ただ、彼らも言っていたが新しい本が売れないと中古本は売れない。直近で言えばゴルフクラブ。ゴルフクラブの近くに中古屋が出来ている。あれはそれで新しいのが売れるから。いいのが出ると欲しくなる、そこで昔のものを売る。そう考えると一次流通・二次流通はあるのが当たり前。そこで最大手があったので、出資した。もう一つは、入札のときにどこが出資するかで、とんでもないところが手を挙げていた。本を景品にするような流通業者が手を挙げていたので、それはないんじゃないかと思って、ブックオフを他の全く違う業態の会社に買われるのはとんでもない、まず止めようと言うこと。その上で今の健全な二次流通で何ができるかを話し合って半年、何も成果は出ていない(笑)
閉会挨拶(小沼良成さん・東京都古書籍商業協同組合)
- われわれは古本屋として市会をもっている。どんだけがんばっても2兆円にはならないだろうが、独自の市会をもって、ニッチを担っている。明日から大市会がある。復権をかけてご入札を。
今回は電源も整備いただいていたので快適に記録作成できました。
それもあって後半のメモの量がいつになくあれですが・・・こりゃTwitterで実況してたら100%規制食らっていただろうなあ・・・
個人的に興味深かった点としては、長尾先生のお話しの中ではテレビ番組を台本と併せてアーカイブして・・・というところ。
脚本とか見ながら視聴できると面白そうですよね、どこがアドリブでどこまでが脚本か一目瞭然。
森野さんのお話の中では出版を2兆5千億円産業にしようというポジティブさと、「古書店が一番マーケティングが進んでいる。お客が見えているからリスクを負って、入札している。しかも値段も自分で決めている。逆説的だが、古書店がこれから求められるビジネスモデルの最先端にいるのではないか?」というところ。
個人的に『書棚と平台』を読んだばかりということもあって*1、今のような体制には色々理由があったりなかったり、というのも少しは以前よりはわかったつもり(あくまでつもり)ではあるのですが、それを踏まえてやっぱ現在の古書店に残っているモデルを再評価すべき部分は多いのではないか、とかなんとか。
高野先生のお話の中では「こういう質問をしたら古書店の親父には怒られて相手にされないな」ということがわんさかであるという、案内所の問答集のことと、「本当の模範演技のような、古本屋で親父に相手にされて成立しているような会話」という古書店をめぐる人に関わる部分。
自分は本についてはド素人なので「古書店の親父には怒られて相手にされない」ようなことばかり今のところ興味があり、それゆえに神田の古書店街も入口付近まではうろちょろしていますが親父さん付近に接近するのは怖く。案内所のようなものはとても有り難く思います。
でも一方で(シンポジウム後に懇親会にお邪魔させていただけたのですが)古書店の方々のお話は聞いていると大変面白く、そこは圧倒的に現在の古書店業界の強みであるのだろうなあ、とも。
めっちゃめちゃ業界内のコミュニケーションが密そうでしたし。
たびたび話にも挙がっている「市会」のこととかもあってつながりがないとどうにもならない、ということもあるのでしょうが・・・別におべっかではなく「滅亡」ルートはなさそうというか、他がなくなってもここは残りそうにも見えるような・・・。
最後にはDNPの森野さん自らブックオフを傘下に入れた狙いについても言及があったりと、冒頭でも述べましたが全般に大変刺激的なシンポジウムだったように思います。
参加された古書店組合の方々にとっては明日が本番の「全古書連大市会」の入札の日だそうで*2、今回のシンポジウムに出るまでそんな仕組みの存在も自分は良く知らなかったのですが(汗)、そちらもきっと盛況のうちに行われることでしょう(一般人は参加不可だそうですがー)。
・・・あー、なんか唐突に凄く本が買いたいなあ・・・
*1: