かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

「温故知新 Natureアーカイブ140年の軌跡」


筑波大学で開催されたNPG Nature Asia-Pacificとトムソン・ロイター共催のセミナー、「温故知新 Natureアーカイブ140年の軌跡」に参加してきました!


NPGとトムソン・ロイターセミナーということで、きっと興味深いお話しが聞けるだろうと思い参加しましたが予想通り大変面白かったですっ。
と言うことで、以下いつものようにメモ・・・なんですが、今回は1つ目のLincolnさんの録音プレゼンテーションが英語のみだったので聞きながら記録を取るのが困難だったり、最後の後藤先生のご講演が専門分野外過ぎて下手なこと書くのが怖い&途中で電池切れて強制終了、といつになく散々です(汗)
いつも以上に、min2-flyが聞きとれた/理解できた/書きとれた範囲でのメモでしかないことをご了承いただければ幸いです。



Treasure in the Nature archive, 1869-1996(Tim Lincolnさん、Nature Publishing Group Nature News & Viewsエディター)

  • 本来はTim Lincolnさんがいらっしゃる予定だったが、アイスランドの火山噴火の影響で空港が閉鎖され来日できず
    • 本人が録音した内容に合わせてスライドを操作する。画面と音声があうようにする。この方式で東大でもなんとかなったので、ご了承願いたい
  • Tim Lincolnさんの紹介(NPG Japan 中村さんより)
    • Natureのmagazine部分(原著論文じゃない部分)を30年間担当。特にNews & Views. 全ての分野をカバーする立場
  • Natureの今と昔(通訳なしなので翻訳しながら記録作成は無理! そんなのできたら通訳になるよ! ってことで以下、本当に拾い書き。しかも多くは会場で配布された和約資料に基づきます)
  • NPGについて
    • 最近Nature Communicationsを創刊
    • 15のレビュー誌、16の論文誌を保有
  • Nature創刊号〜初期の歴史の紹介
    • 最初から国際的。オーストラリア、フランス、アメリカ、オーストリアからの投稿論文が掲載されている
    • 植物の自重性、日食について長編論文掲載
    • 初期の掲載論文の紹介:進化についての論争、探検の報告、マクスウェルの講義資料なども掲載
      • 初期の日本人著者:南方熊楠。48本論文掲載。網の発明、拇印の起源、「鬼除けに用いられる籠」など/関谷清景(帝大教授)。地震発生時に灯油ランプが倒れることによる火災の危険性を指摘⇒1923年の関東大震災で裏付けられることに
    • 技術に対する熱意。マルコーニの無線技術。一方、1898年には無線実験中の事故死についての記事も。
    • 1920年代:物理と化石
      • ボーアによる原子構造についてのレビュー、アインシュタインのレビューなど
      • 1925年にはアフリカの猿人の論文。
    • 1930年代:物理と魚
    • 湯川秀樹について
      • 1939年のNature掲載論文を含む成果によって、1949年にノーベル物理学賞受賞
      • 長岡半太郎の追悼記事も投稿(長岡本人の論文も1925年に掲載されている)
    • 1953年:ワトソン、クリックのDNAの構造についての論文掲載
      • 現代生物学の夜明け
    • 1950〜1960年代・・・物理学、生物科学で画期的な研究を掲載
      • タンパク質の3次元構造解明
      • レーザー作用の実証(1960)・・・300語+単純なグラフで劇的に説明
      • 海洋底拡大、逆転写酵素
  • Nature archiveについて
    • レビュー論文も含まれる
    • Natureの後半、原著論文とレビュー論文の部分だけでなく、前半、magazine部分も含まれる
      • News & Viewsの記事の中で影響力のあったものの紹介
    • 特集号の存在:特定の国をテーマとする特定号を発行している。日本特集は1972年、1983年、1992年に
  • 再び優れた論文の紹介
    • 1985年・・・オゾンホールについて/C60バックミンスターフラーレン
    • 1995年:太陽に似た星の周りを回る太陽系外の惑星を初めて報告した論文の掲載
  • Nature archiveには・・・過去130年分、6,617号/417,000本の論文が収録
    • 今回紹介したのもごく一部
  • 質疑
    • ?さん:ノーベル賞を取った人が多くてステータスの証みたいなところもあるが、論文を投稿する側にしてみれば通る/通らないというのもある。どういうものが通るか、というのはある? 社会的にインパクトのあるもの? 将来的な警告? 論文を書く側からすれば「こうすればいい」というアドバイスがあれば。
      • 中村さん:私は編集部にいるわけではないが、聞く限りにおいてはNatureは商業誌。買ってもらう必要がある。どうしても時流に乗っていることは選ぶ。ファッショナブルと言うか、超電導が盛んになった20年くらい前は毎週のように載っていた。注目される分野に注力する性質はある。それから、社会に対するインパクト、専門分野に限らない、異分野にも「これはなんだ」、「嘘じゃないのか」と思われるような、影響力のある論文に注目する傾向もとても強い。それから、Natureは30種類以上の姉妹誌があるが、創刊の動機としてNature本誌には年間1,000本程度しか掲載できない。それで全分野をカバー。いい論文がたくさんあっても載せられない。雑誌なんだからページ数を増やし過ぎてもいけない。そうなると、凄くいい論文だけど本誌には載せられないので専門分野の雑誌に、となる。それで最初にできたのはNature genetics。創刊当時、遺伝の論文が多くあったので作った。20世紀はBiology関係を創刊し、21世紀になってからは物理系、材料系の雑誌が出てきた。
    • 中村さん:(質問がないようなので)私の方で補足。Natureは過去、驚くべきことに一度も休刊していない。世界大戦中も木曜日は毎週出ている(12月の最終木曜日を除く)。ロンドン空襲時すら発行を続けている。それから、Nature archiveには130年分しか入っていないが、デジタル化自体は全号されている。140年分すべてデジタル化されているので、サーチエンジンで過去の論文を調べることはできる。また、日本とNatureの関係についていえば、Nature東京オフィスは24年前に出来た。南方熊楠大英博物館滞在時に出した。そうなると、湯川秀樹長岡半太郎の追悼文を書くよう編集部でお願いをしたはずなのだが、どうやったんだろう?

Natureの世紀:100年の論文引用にみる雑誌Natureの軌跡(宮入暢子さん、トムソン・ロイター リサーチ・ソリューション・コンサルタント

  • このプレゼンテーションはまだ半ば、消化不良気味。
  • およそ100年分の歴史を40分内外のトークでこなすのは無理な話ではあるが、私自身勉強になった部分もある。Natureの世紀をどう切ってみたか、という切り口から紹介したい。
  • はじめに
    • Natureとはどんなジャーナルなのか?
    • Natureは他のジャーナルとどのように違うのか?
    • Natureに掲載される論文とはどんなものか?
      • 41万以上の論文。トムソン・ロイターのデータで辿れるのはその半分ちょっと、20万を超えるくらい。それでも相当な量。どう切るか?
    • Natureにはどのような著者が投稿しているのか?
      • 先ほどの「どういう論文が載るか?」ということにもつながる。
      • そういうことを、計量書誌学的に見てみる。
  • Natureに掲載される論文
    • 絶版になっている本で、『知の歴史』という、Nature掲載論文を面白く紹介したものがある*1。半分が一線の研究者による解説、もう半分は論文の日本語訳。
      • そのまえがきより・・・
        • 1950年代までは短報が多い。まずNatureで紹介、その後詳細なものを専門誌に
        • Natureの採用の方針
          • それまでの概念を覆す
          • 成果が全く予想外のもの
          • 学問分野全体、あるいは複数の分野にまたがるものを掲載する
  • 計量書誌学データからよみとるNature
    • Natureは特別な雑誌なのか?
    • 計量書誌学のスタンダードな手法を、普通でない雑誌に応用していいのか?:まず確認
    • Nature・・・総被引用数でトップ(本当は分野を越えて比較しちゃ駄目、とは注意あり)。また、Eigenfactor*2でもトップ。
    • Natureの中を切ってみると?
      • 特徴:掲載文献のタイプがバラエティに富む。前半部分、エディトリアルやブックレビューの部分もたくさんある。
      • 文献タイプのトムソン・ロイター側のデータポリシーがぶれない、1980年代以降を分析すると・・・
        • 原著論文、レターも多いが、書評や追悼文等も多い。
        • レビュー論文は数は少ないが引用は多い。これは計量書誌学の一般的な傾向にもあてはまる。少し安心。
      • ユニーク著者名は188,000人以上。
  • 1900年以降、ノーベル賞の受賞者とどれくらいオーバーラップするのか?
    • ノーベル賞受賞者のべ539名とNatureのデータをぶつけると、ノーベル賞受賞者のうち362名がNatureに論文掲載(受賞前後、あるいは受賞論文そのものかは未特定)。
    • 10年ごとに区切って分析すると、近年になるにつれ、ノーベル賞受賞者がNatureに書いている数が増えている
  • 科学社会学のツールとしての計量書誌学
    • Merton:科学の社会を「自律的な社会システム」としてとらえる。基本的な科学コミュニティの捉え方、norm(規範)を紹介。その中で科学文献の引用は「先行研究に対する知的債権の支払いである」とする
    • Lotka/Priceなど・・・計量書誌学データは常に偏って分布する/非常に少数の大量の引用を集める文献の存在
    • Natureもその法則にあてはまるのか? そうなら、ごく一部の影響力のあるものを見るといいのでは?
  • そこで・・・先の約188,000人がNatureに掲載された論文数を分析
    • 1本しか書いていない人:65%
    • 2本:1本書いた人の4分の1, 3本:1本の9分の1...=見事にLotkaの法則にあてはまる。情報学に興味がないと面白くないだろうが、私には大変面白い。Natureも普通に分析していい
    • 普通の分析=全部を見るのではなく、一番生産性の高いところだけ分析する
    • ノーベル賞受賞者はNatureの論文掲載者の0.2%にすぎないが、トップ100名の著者の9%を占める。
      • トップだけを分析することの正当性をjustify.
  • ノーベル物理学賞、化学賞、医学生理学賞の受賞者について・・・
    • 各年代から3組ずつ抽出。どういうものがホットか見れないか?
      • 無理はある。医学は引用数が多いので。不公平は承知で、トップの研究の世界でNatureがどう見えるか分析
    • Davissonの電子の波動性についての研究を詳細分析
      • Davissonの論文は被引用数自体は多くはないが、非常に後年に出版された論文からも引用されている
      • 引用をたどれば研究間のつながりがクリアに見える。
      • 1999年にノーベル賞を受賞したツヴェールも引用している。ノーベル賞受賞者の名前が引用ネットワークに何人も出てくるのは珍しい
      • Davissonの論文は91回しか引用されていないが、第二世代が爆発的に広がっている。影響力が非常に大きい
      • ノーベル賞受賞論文は非常に大きく広がっていくことが多い。その一例。
    • 1940-1980年代から:Molina MJ(フロンガスによるオゾン層の破壊について)
      • 論文掲載時(1974)はすぐには社会的な動きにはつながらなかった
      • Farmanらのグループが、南極におけるオゾン層破壊について発表。それをきっかけに南極のオゾン層破壊についてNatureに関係論文が多数掲載
        • Farmanらのデータ自体は多くの研究者がそれまでに手に入れられるものだったのに、「機械の異常では?」「なんかの間違いでは?」と考え分析していなかった
      • Web of Science上の論文数の変化で見ると・・・1974年はそこまで盛り上がらなかったが、Farmanらの発表の後に大きな盛り上がり。
        • 1995年にMolinaらの受賞へ
    • 1980年-2010年代から:2000年以降は最近過ぎて分析・予想は難しいが・・・2000年代のNatureを被引用数順に並べると阪大の先生の多さ等は見える
      • 単純な切り口で重要な論文をさっと見られることは素晴らしいこと。10年前、20年前に比べれば喜ばしいこと
      • 一方で情報の洪水はますます激しい・・・どこをどう見ると効率的なのかを考えるヒントとして、トップから並べると言うのをやってみて欲しい
  • トムソン・ロイターノーベル賞予測について
    • Szostak, Greider, Blackburnらは予測に入っていた
    • 予測は1989年からやってきた。日本人も多数予想候補に挙がっている。詳しくはweb参照
  • 哺乳類クローン技術(ドリー関連)のネットワークについて
    • クローンの引用を辿ると1920年代の蛙の胚の論文までたどり着く。大元まで辿れば簡単に100年前までたどり着く
    • 先行研究を辿る、あるいは時代を最先端まで下ると言うような探し方を試してほしい
  • おわりに
    • 20世紀前半までにレターとしてNatureに掲載⇒後に専門誌、と言う方向が成り立っていた
    • Natureの編集方針は引用分析からもサンプルの宝庫になるようなもの
    • Natureの著者の生産性の分布は一般的なLotkaの法則に従う
    • 各年代のNatureトップ研究者の中には多数のノーベル賞受賞者
  • 最後に:神経伝達物質に関わる諸研究のネットワーク
    • Natureに載った筑波大学の論文だとダントツにエンドセリン発見の論文が出てくる。1980年代のNature全論文の中で、被引用数降順でトップに出てくるような論文
    • 数多くの日本人研究者がこれまでNatureに論文掲載。
    • Web of Scienceの制作者から見ると、雑誌編集者から良く「どうやったらImpact Factorが取れるか?」と聞かれるが、Journalは最先端の研究を迅速に、関係者に届けることが命。迅速とは速いだけでなく、定期的かつ信頼性のあるものでなければいけない。毎年、Web of Scienceに送られてくる雑誌の多くはWOSに収録しないが、その理由の大部分は定期的に刊行できておらず、合併号や休刊が多いから。140年休刊がないということには経緯を表したい。
  • 質疑
    • ?さん:温故知新と言うことで興味を持って参加したのだが、自分で研究テーマを考えるときにインパクトがあり革新的なもの、と漠然と考える。そうしたときに計量書誌学やNatureからこれから出てきそうなテーマを見出すことはできる? 方法があれば。
      • 宮入さん:お気持ちはよくわかる。そこを目指して絶えず新しい技術の開発をしている。図を書かずに説明するのは難しいが、共引用、co-citationを分析すると、今出版されていて、まだ引用もされていないが確実にホットになる論文が見つけられると考えて、ヘンリー・スモールが30年以上研究している。Essential Science Indicatorsで探せば簡単に見つけられるので、そこからWeb of Scienceで探すとリサーチ・フロントが簡単に見られるのではないだろうか。あとは、キーワードは人間があとからつけるもの。HIVの研究はその言葉が出来る前からあった。なので最初の研究はキーワードでは探せないが、引用でならば見つけられる。まずはそのやり方を試されてはどうか?
    • 中村さんから補足:Natureは過去、ノーベル賞を受賞する論文を3回rejectしている。人間がやるものなのでそういうこともある。もうひとつ言うと、追悼文は今でこそ情報が早く伝わるが、戦前は噂が出ると、ふとした間違いから存命中に追悼文が掲載されてしまったことがある。

エンドセリンの発見から創薬まで:From Discovery of Endothelin to Drug Development. Conquer an Incurable Disease(後藤勝年先生、JSTイノベーションサテライト茨城 館長)

  • タイトル通り、ちょっとした物語になっている。
  • まず血管の話から。動脈は外膜、中膜、内膜の3層からなる。
    • 内膜の内皮細胞は脆弱。麺棒でこすると取れてしまう。この内皮細胞に血管を弛緩させる作用があるとわかり一躍注目される
    • しかし内皮細胞を培養すると血管を収縮させる因子が出てくる。血管を弛緩させるのはNO(一酸化窒素)。
    • 血管を収縮させるのはペプチドであるらしい、ということでそれをやってみることに。
      • 柳沢の研究で21個のアミノ酸からなるペプチド、ENDOTHELIN-1を発見
      • (このあたりから話が難しくなってきたのでわかったところだけメモ)
      • 薬理活性が1時間続くことも発見⇒一切まとめてNatureに投稿.1988.3月号に掲載
        • 非常に多くの引用を受ける。累積9,105件。まだ引用され続けている。なぜ?
  • John Vane(ノーベル賞受賞)が論文発表後、最初に筑波に来訪
    • 1988.12に国際WSが開催され、世界中に研究が広がる⇒引用が増える一因に
  • 1990年代最初の仕事・・・血中にエンドセリンを投与すると内皮のBレセプターを刺激して血管拡張、後に平滑筋部分のBレセプターを刺激して長時間にわたる収縮
    • その後、創薬につながるまでの話
    • (面白いんだけどmin2-flyが詳しいことを理解できないのでメモ取らず)。
電池切れにつきここで終了




メモは途中で切れてしまっていますが、後藤先生のお話も大変面白かったです。
総被引用数が9,000を超えたという論文が、いかに創薬にまでつながっていったか・・・というのを丁寧に説明されていました。


残念ながら来日はできなかったLincolnさんのご発表も、なるほどあの発見もNature掲載であったか・・・というように140年の歴史の凄味が伝わってくる内容でした。


宮入さんのご発表はmin2-fly的に今回の本命だったのですが、最初にNatureも普通の雑誌と同じように分析してよいか、の確認から入られているのはさすがと思いました。
頭抜けたインパクトはあるものの、やはりNatureの著者の間でもLotkaの法則(一定期間にn本の論文を書く人の数はn^2に反比例する)は成り立つのですね。
一方でノーベル賞受賞者のような卓越した研究を見出すのは引用分析の最も得意とするところの一つなわけで、あらためてその威力が見られるプレゼンテーションだったと思います。
Essential Science Indicatorsも筑波大学では購入しているので、ぜひともリサーチ・フロントを探されている方は活用されてみてはいかがでしょうか、とかー。


それにしても全体に「自分も研究しなきゃ!」という気分が湧いてくるセミナーでした。
早く体制整えて論文書かないとなー・・・