かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

令和の時代に図書館学の復権を:『図書館を学問する なぜ図書館の本棚はいっぱいにならないのか

本記事は2024年12月30日配信のACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)メールマガジン掲載レポートからの転載です。

 

ARGメルマガについて

 

arg.ne.jp

 

そもそも拙著の元になった連載もARGが刊行するライブラリー・リソース・ガイド(LRG)に掲載されており、書籍化についてもARGの岡本真さんにご尽力いただき、メルマガでもご紹介の機会をいただいてと、お世話になりっぱなしで本当にありがとうございます!!!

 

メルマガ掲載からだいぶ時間も経ち、前回記事(『図書館を学問する』出版後~最新状況まとめ - かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版))でも紹介のとおり増刷も決まったという折で、当ブログでも内容あらためて掲載させていただきたいと思います。

なおARGメルマガ掲載時より引き継ぎ、本記事はCC BY-SA 4.0/表示-継承 4.0 国際で利用できます。

http:// https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0/deed.ja

 

では以下、ARGメルマガより転載。

 

同志社大学図書館司書課程の佐藤翔と申します。かつて「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」[1]という、図書館関連のイベント記録や、調べ物・思考実験をまとめた記事を公開するブログを運営していました。ブログについてはこの10年、ほぼ休眠中ですが、雑誌『ライブラリー・リソース・ガイド(LRG)』で「かたつむりは電子図書館の夢をみるか LRG編」という連載を持たせていただいているので、そちらをご覧いただいたことがある方はいらっしゃるかもしれません。

その連載をこの度(2024/12/25)、青弓社より『図書館を学問する なぜ図書館の本棚はいっぱいにならないのか』と題した本として刊行いただきました!

https://www.seikyusha.co.jp/bd/isbn/9784787200884/

目次
はじめに──なぜ「図書館を「学問」する」姿を本にするのか
第1章 図書館の本棚はいっぱいにならないのか
第2章 本棚のどこにあるかで本の使われ方は変わるのか
第3章 図書館の本棚に書かれている数字はなんなのか
第4章 なぜ図書館は月曜日に閉まっているのか
第5章 図書館を訪れる人は増えているのか、減っているのか
第6章 雨が降ると図書館に来る人は増えるのか、減るのか
第7章 どんな図書館がよく使われているのか
第8章 人はどのタイミングで図書館を使うようになるのか
第9章 図書館を使っているのはどんな人々なのか
第10章 図書館に税金を使うことは人々にどれくらい認められているのか
第11章 子どもと行きたいのはどんな図書館か
第12章 「あなた」はなぜ、図書館に行くのか
第13章 人々は図書館のどんな写真をSNSで発信しているのか
第14章 図書館への就職希望者が増えるのはどんなときか
おわりに


そのプロモーションを兼ねてこの場でもご紹介の機会をいただいた、というわけです。簡単な紹介については自分のブログにも書きましたが[2]、雑誌連載の中から厳選した14本を大幅に修正+書下ろし「はじめに」「おわりに」を収録しています。連載の中でも本として取り上げるべきを取り上げつつ、内容的にもまとまりのある1冊になったのではないかと自負しております。

おかげさまで出版早々からご感想をメールやSNS等でお寄せいただいております。特に書下ろしの「はじめに」を読まれた方から、図書館学・図書館情報学研究者とは何か、その研究の様子を紹介する際に使えそうという、有難いご評価もいただいています。実はこれは岡本さんたちと本書のコンセプトを話し合っていた際の狙いの一つでもありました。
初学者(高校生すら視野に入れていました)に向けて「そういう学問もあるんだ」というスタイルを紹介するという。その点では、「ゼミで使えるかも!」という意図ぴったりのお言葉もいただいたりしまして、嬉しい限りです。

もっとも、それでは本書が図書館情報学研究の見取り図になっているかと言えば、正直まったくなっていません。図書館情報学の全容がわかる類書は他にいっぱい出ていますので、この分野を志す若人にはぜひそれらもきちんと読んで、学んでいただきたいと思います。

ではこの本はなんなのかと言いますと、令和の時代に蘇ってきた「図書館学」の本です。それも図書館の実践に役立ちそうな知見を、現場の実践経験から”ではなく”、データの分析や実験などの科学的手法を用いてこねくり出そうという、20世紀前半以来の「図書館学」を、あえてこの時代に復権させようという目論見の本なのです。
それというのも、日々、新しいサービスや実践が世に現れ、現実の図書館が移り変わっていくのにあわせて学問も進歩している……のはよいのですが、その過程で見過ごされてきた基礎的な知見、「え、そこまだわかっていなかったの?!」「え、ここで止まってるの?!」という、いわば学問としての「取りこぼし」が、やたらといっぱいあるのではないかと思うのです。

LRG連載のための準備をしているときも、あるいは日々の研究の中でも、こうした思いを日々感じています。
本書で取り上げた中でも除籍論の必要性(第1章)、書架上の位置と利用の関係(第2章)、天候と図書館利用(第6章)、自治体・図書館の特性と貸出冊数のモデル化(第7章)、書架番号の必要性(第3章)、利用者の類型化(第9章)、なんで月曜日ばかり休館なのか(第4章)等々……どれも素朴な疑問であり、実践と直結していて、「図書館学」なんて学問があるならいかにもやっていそうなのに、よくわかっていなかったり、ある時期には取り組まれていてもその後、後続研究がなかったりします。

いわば図書館学分野は超・ブルーオーシャン。取り組まれるべき研究テーマに満ちており、その多くは現場の実践にも役立ちそうで、単純に興味深くもあります。流行りのテーマではないのでアカデミアでは評価されにくいかもしれませんが……いや、でもそうか?
そうした基礎からしっかり固めておくことは、現代の「図書館情報学」においてもやはり重要なのではないか。そんな問題意識の下、「はじめに」の中では「この本を『新・図書館学序説』にする!」なんて大見えきったりもしています。それが実際うまくいったのかについては、未読の方はぜひ、お手に取っていただければ幸いです。

もちろん、元が「電子図書館の夢をみるか」と題した連載ですから、電子書籍版も多数のプラットフォームで配信いただいていますが、本書は表紙のすばらしさにも定評がございます(なお表紙は全面的に配偶者である佐藤聡子先生のアイディアを頂戴し、それをイラストレーターのasuminさまと、装丁はナカグログラフの黒瀬章夫さまに形にしていただきました)。
「素敵な表紙の本をそばに置いてテンションをあげたい」という需要を満たしつつ、いつでも手軽に読んだり検索したいというニーズにも応えるには、紙も持った上で電子書籍版も購入いただくのが最適解なのでは?少なくとも自分はそうしています!

 

[1] min2-fly. かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版). https://min2-fly.hatenablog.com/, (2024-12-27 参照).
[2] min2-fly. “本ブログをもとにした連載、を、まとめた本が出ます!”. かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版). https://min2-fly.hatenablog.com/entry/2024/12/08/145309, (2024-12-27 参照).