かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

死ぬほど大雑把に有料化した場合にとられる利用料金を試算してみる


図書館の有料化についての話題が盛り上がってますな。


・・・これ、タイミング的にはうち*1が火種なのかなあ・・・(汗)
時系列的には図書館法 改正 : 丸山高弘の日々是電網 The First.より先に上のエントリがアップされているのは確かなのだけれど、内容が直接関連しているわけではないので、有料化の方も表面的な注意では気づかないこと - Ceekz Logs (Move to y.ceek.jp)さんのところとうちが発端になった議論なのかどうかがいまいち判別つかない。


まあ、別にどっちもでいいと言ってしまえばそれまでなのだが。
っていうか元は図書館喫茶の話をしていたはずなのに、気付けば遠くへ来たものだなあ。
まあ「どうやったら珈琲を電子化して遠隔地の利用者に提供することができるか」の方で話題が盛り上がられても困るところではあるが*2


で、図書館利用に料金をとることの是非とか法的な問題についてはid:kunimiyaさんとこの記事で紹介されているリンク先で議論されているところであるので、とりあえずそっちの話は置いておいて。


実際のところ、利用者からの料金で図書館を賄うとしたら、どんくらい料金を取る必要があるんだろう??
ってところが気になったのででちょっと試算してみることにした。
とはいえ、卒研時期な上に、『日本の図書館』冊子版の統計データを見ようにも目が覚めたらすでに図書館が閉館している時間だったので*3、死ぬほど大雑把かつ不正確なところがある試算ではあるのだが・・・まあ、それはそれ。
考える上での目安、ってことで一つ。




で、まずは公共図書館編。
本気で計算するなら

で紹介されているみたいにレファレンス1件いくら、貸出1件でいくら・・・ってやるのが筋ではあるんだが、それだと簡単に利用できる統計データから算出しにくいので、今回はとりあえず「利用登録をしている人が年会費を払って図書館を利用するモデル」で営業した場合について考えたい。
用いるデータは

・・・いや、本当は刊行された正確なデータを使いたいところではあるんだけれどね・・・
なにぶん、図書館がね・・・起きたら閉まってたのよ・・・


上のデータの2006年版に掲載されている公共図書館都道府県立・市町村立に市立を含む)における経常経費と臨時経費*4の和は1305億9053万円*5
それに対して登録利用者数*64856万3千人
で、(かかる経費/利用登録者数)を計算すると・・・2689.0952円(byGoogle電卓)。
つまり年会費3000円くらい徴収すると一応は図書館経費をペイできるくらいの額にはなる、ってことか*7
でも有料化されたら当然利用登録者数は減るだろうし、中でも登録しただけでしばらく図書館を使ってない人とかが年会費とられるといっきに退会するだろうから、実際にはこの倍〜数倍くらいはとらんとやっていけないだろうなあ。
ある程度は今後も税金で賄ったとすれば年会費3000円くらいは狙えるかも知れないが・・・
うーん、どうだろう。


ちなみに同様の計算を設置主体別(都道府県立、市区立、町村立別)に行った結果は以下の通り。

設置主体 経費の総和*8 利用登録者数の総和*9 推定年会費*10
都道府県立 1234243 3265 3780円
市区立 10597093 40637 2607円
町村立 1195139 4551 2626円

県立図書館はやっぱ機能上余計に金がかかるか・・・
市区町村立と県立を両方使う場合の年会費は6000円くらいかかるわけね。
毎回利用に金を取られるよりは良いかも知れないが・・・うーん、微妙な額だ・・・



続いて大学図書館編。
こちらは全体の統計データで計算するのもまた面倒なので、さしあたり筑波大学について単純計算を試みる。
用いるデータは下記のページに掲載されている図書館統計。


これによると2005年は決算額7億9875万1千円
奉仕対象者数の合計が2万2568人であるので、公共図書館の場合と同様に利用可能な学内者全員から年会費を徴収するモデルで運営したとすると、ペイするのに必要な金額は・・・35393.0787円
来ました3万5千円超え!
これは高い。公共図書館の実に10倍。
まあ大学図書館の機能を考えれば当然だが・・・ていうかこのうちいくらかは実際に学費から出ている部分もあるわけだが・・・なんとも贅沢なものを日々利用しているのであるなー。


ちなみに、大学図書館の場合はゲートがあるので入館者数もカウントされているので、入館ごとに料金をとるモデルも試算できる。
これも本当は電子ジャーナルの利用とかその他のwebを介した利用について考えたりする必要があるのだが、とりあえずそこら辺は排除して、単純な入館利用だけでペイさせるモデルを考えよう。
図書館にかかっている額は同じ。
で、2005年の入館者数が103万6752人であったので、単純に割り算すると・・・770.435938円
やっぱり高い。
来館ごとにこんな金額とられてたらたまったもんじゃないね・・・まあ、大学図書館で有料化はどうやったってあり得ないので別に計算する必要もなかったかもしれないが、いやいやいや・・・*11


まあ大学図書館の方はおまけだからいいとして。
問題は公共の方だよね・・・ちなみに年会費モデルでなく貸出点数で課金するようなモデル(それだと借りない限り料金はかからないわけだが)だと、年間貸出点数が利用者1人につき12〜13冊だから、逆算して1冊200円前後くらい、ってことになる。
これまた微妙な数字・・・ないよりは有難い気もするが・・・その金額ならレンタル料で新古書店で買える場合もありそうだしなあ。
「こんなんじゃ高くて利用できない!」ってレベルじゃないが(いや中にはそう言う人もいると思うが)、さりとて「なんて安いんだ! ぜひ使いたい!」って言うような額でもなし。
実に微妙。


ま、実際は他にも色々と考えるべきことがあると思うし今回のはあくまで大雑把な計算なので考え込んでも仕方ないところはあるが。
そもそも図書館でなんらかの対価を得るったって単純な利用料金も出る考えている人は少ないだろうしね。

*1:「なんで図書館は有償じゃないん?」とか「有償じゃないと利用者増やすメリットないん?」とか - かたつむりは電子図書館の夢をみるか参照

*2:ぱっと思いつく限りでは電脳化技術により脳に直接味覚・嗅覚・熱感覚等のデータを叩きこむ方法と、化学物質を合成するデバイスをPCにつないで送られたデータにそって珈琲を合成する方法が考えられるが、今のところ大人しく自分でドリップする方が安いし美味いし安全であると思われる。研究室の水回りが整備されればそれでおk

*3:筑波大学附属図書館は22:00まで開館しています

*4:ところでこれって経費の中に図書費含んでるんだっけ? 含んでないとするとさらに値上がりする

*5:思ったより少ないなこれ。東大・京大に支給されている運営費交付金の和の方がでかい

*6:実際には貸出カードの登録者数なので貸出を利用しない人は含まれていないが・・・まあ、そこは置いておこう

*7:ちなみに登録者数が5000万人に満たないくらいなので、この額の2/5くらいが日本国民1人が(税金の中から)公共図書館に対して1年間に支払っている額に近似する。だから・・・1000円〜1200円くらい? 逆にその程度の額を有料化してまで払いたくないか、って聞かれると微妙だが・・・図書館に限らず公共セクター全部で同様のことを実施すればちりも積もれば山となるか?

*8:単位:万円

*9:単位:千人

*10:単位:円。小数点以下四捨五入

*11:この結果からさらに逆算すると構成員全員が年間45回くらい利用するとすれば年会費モデルと来館利用モデルがイーブンになる。週1にやや届かない頻度で図書館を使う人にとってはどっちのモデルでも大差なし。週1以上使う人は年会費モデルの方が得。それ以下の人は来館料金モデルの方が得。・・・ん、ってことはさらに考えると筑波大の構成員は平均すると約8日に1回図書館を利用する(年間45回くらい)、と・・・職員込みの数値とはいえ微妙だな・・・