あなたの愛読誌は何位? -Publish or Perishによる図書館情報学系雑誌ランキング-
以前、国内で筑波が1位(世界8位)という結果をはじき出して物議をかもしだしたリポジトリランキング。
この度、ランキングが更新されて筑波が300位圏外に吹っ飛んで行ったり北大がやや本来の評価に近づきつつも相変わらずGoogle Scholar八分にされていたりしたそうですね。
上述のようになんか色々問題もあってそのまま捉えるわけには行きませんが、とは言えこの手のランキングというのは見てる方もなんとなくイメージが掴めるし、ランク付けされる方もついつい一喜一憂してしまう面白さがありますよね。
そんなわけで、自分もなんかランク付けしてみたいなー、と思い作ってみることにしました、『国内図書館情報学系雑誌ランキング』。
使用するツールは先日、紹介したフリーの研究インパクト評価ツール"Publish or Perish"(PoP).
基本は研究者個人を評価するツールなのですが、その機能の一つに研究者個人ではなく学術雑誌の研究インパクトを測定する、と言うものがあるので今回はそれを使います。
研究者個人ランキングだと色々角が立ちそう・・・と言うのもありますが、それよりなにより名寄せが面倒くさいので今回の評価単位は雑誌、とすることにしました。
使い方は研究者を評価する場合と同じで、雑誌タイトルをウィンドウに打ち込んで検索ボタンを押せば、Google Scholar上の該当雑誌掲載論文データを取得して来て、各研究評価指標の計算結果と合わせて出力してくれます。
基本的には英語圏向けのソフトウェアですが、Google Scholarで検索出来れば別に日本語だろうと中国語だろうと関係なく検索・表示が可能なようです。
出力される指標としては総文献数(ただし1000件前後でカウンターストップする)、総被引用数、年間平均被引用数、1論文あたりの被引用数など色々ありますが、今回のランキングにはその中でh-indexとg-indexを使います。
h-indexについての説明は以下のエントリ等を参照:
- SPARC Japan連続セミナー2007 第1回:「計量書誌学からジャーナル・論文のパフォーマンスを測る-2-」 - かたつむりは電子図書館の夢をみるか
- Hatena-Index - かたつむりは電子図書館の夢をみるか
g-indexはまだweb上で適当な説明がないのですが*1、h-indexの欠点*2を補うためにEggheが考えた指標で、"被引用上位g位までの文献の被引用数の和>=g^2"を満たすような最大のgを取る、という指標です。
g-indexの説明はこちらも参照(*英語です/SpringerLink未契約だと見れないかも?)
この指標のを使うと高頻度引用論文を評価に反映できる、という利点がある反面、h-indexだと打ち消せる「一発の大当たり」(まぐれで超いい論文1本書いただけで、あとは大したことない人とか)が打ち消せないという欠点もあり。
なので、今回はh-indexを優先的に評価し、g-indexは補助的に使う(h-indexが同じ二誌についてはg-indexが高い方を上位とする)こととします。
ちなみに本来はどっちも研究者個人の業績評価指標なんだけど、雑誌の評価に使う場合もアルゴリズムは特に変わりありません。
評価対象とする雑誌群については、筑波大学図書館情報図書館に最近1年以内に新号が受け入れられた雑誌のうち、キーワード「図書館」または「情報」で検索されたものの中から、明らかに紀要である(発行や編集が大学である)ものと情報処理系を除いた33誌とします。
情報処理系を除いたのは、別にハブにしたわけではなく、あそこら辺は学会の規模がでかいだけに分冊がごろごろありすぎて名寄せが死ぬほど面倒そうだったからです。
以上のやり方に基づいて、国内図書館情報学系雑誌33誌をランキングした結果がこちら!
順位 | 雑誌名 | h-index | g-index |
---|---|---|---|
1 | 情報管理 | 6 | 7 |
2 | 情報の科学と技術 | 3 | 4 |
2 | ディジタル図書館 | 3 | 4 |
4 | 医学図書館 | 3 | 3 |
5 | カレントアウェアネス | 2 | 2 |
5 | 大学図書館研究 | 2 | 2 |
5 | 日本図書館情報学会誌 | 2 | 2 |
5 | 薬学図書館 | 2 | 2 |
5 | 情報知識学会誌 | 2 | 2 |
5 | Library and Inhormation Science*3 | 2 | 2 |
5 | 現代の図書館 | 2 | 2 |
5 | 図書館雑誌 | 2 | 2 |
5 | 専門図書館 | 2 | 2 |
14 | 学校図書館 | 1 | 1 |
14 | 図書館界 | 1 | 1 |
14 | みんなの図書館 | 1 | 1 |
14 | 情報メディア研究 | 1 | 1 |
14 | コピライト | 1 | 1 |
19 | 学校図書館学研究 | 0 | 0 |
19 | こどもの図書館 | 0 | 0 |
19 | 私立大学図書館協会会報 | 0 | 0 |
19 | 私立短期大学図書館協議会会報 | 0 | 0 |
19 | 資料組織化研究 | 0 | 0 |
19 | 大学図書館協議会誌 | 0 | 0 |
19 | 大学図書館問題研究会誌 | 0 | 0 |
19 | 東海地区大学図書館協議会誌 | 0 | 0 |
19 | 図書館学 | 0 | 0 |
19 | 図書館情報メディア研究 | 0 | 0 |
19 | 図書館評論 | 0 | 0 |
19 | 図書館文化史研究 | 0 | 0 |
19 | 日本学校図書館学会会報 | 0 | 0 |
19 | 日本図書館文化史研究甲斐ニューズレター | 0 | 0 |
19 | 病院患者図書館 | 0 | 0 |
・・・偏ってるなあ・・・
まず予想はしてたけど、根本的にどれもh-index/g-indexともに高くないですな。
その中で比較的高いのは『情報管理』、『情報の科学と技術』、『ディジタル図書館』ということで思い切り情報系に寄ってる感じ。
もちろん、このランキング=質のランキング、と言うわけではなく、こいつはあくまでGoogle Scholar上での引用データに基づくものなので、データベースを変えれば結果もまた違ったものになると考えられます。
ただ、Google Scholar上における該当雑誌の存在感(インパクト)を示す、と言う意味では的確な指標であるとも同時に言えるかと。
そこまで超メジャーってわけではない『ディジタル図書館』の評価が高いのはそこら辺に起因しているんだろう、と。
そこら辺が如実に表れるのが海外雑誌を見た時。
以下は同じくPoPでmin2-flyが良く使う海外の図書館情報学系雑誌の指標を計算した上で、2006年のImpact factor*4順に並びかえて表示したものです。
雑誌名 | h-index | g-index | Impact factor |
---|---|---|---|
JASIST*5 | 6 | 9 | 1.555 |
Scientometrics | 45 | 66 | 1.363 |
College & Research Libraries | 29 | 39 | 1.164 |
Library Trends | 32 | 43 | 0.545 |
JOURNAL OF ACADEMIC LIBRARIANSHIP | 32 | 43 | 0.516 |
Library Journal | 23 | 30 | 0.271 |
D-Lib Magazine | 50 | 72 | なし |
まだImpact factorのない(SCI収録対象でない)D-Lib Magazineについての判断はとりあえず置いておくとして、2006年のIFがこの中では最も高かったJASISTがPoP上ではぶっちぎりで評価低かったりします(苦笑)
まあJASISTは名寄せが難しい、ってこともあるのかも知れませんが、IF第3位のC&RLもPoP上での評価は低く・・・両方高いのは、まさにg-indexに関する論文等も掲載されたScientometrics誌くらい?(絶苦笑)
そこら辺はさすがといえばさすがというか、わかってらっしゃると言うか。
Google Scholarの引用データを用いた評価自体、Thomson ISIなど既存の企業による指標へのカウンター的な意味合いもあると言えばあるわけですが・・・それにしたって、こんだけ評価がぶれすぎるとなるとちょいとばかし研究者がどの雑誌に投稿するかとかを選ぶ指標としては微妙だなぁ。
PoP自体は非常に面白いし、有益ではありそうなんだけど、まだちょっと単独で使えるレベルではない、ってことを再確認。
Web of Science(Thomson)とScopus(Elsevier)の二巨頭による支配(?)に対するものとしては大事なんだけどね、GS.
一方で、雑誌編集者/学協会所属社にとってはPoPによる評価は重要な意味を持つかも。
今やGoogle Scholarも研究者にとっての重要な情報源となりつつある、ということを考えると、そこでの目に見える評価指標(被引用数)が漏れている、というのは看過しえないものではないだろうか。
実際の自分のところの雑誌の存在感に比してPoPでの評価が著しく低い、という雑誌の作り手さんはPoP上での評価が高いところが何をしているのかを観察してみると良いかも・・・
自分が見た限りでは(エンバーゴの有無はともかく)OA化されている雑誌の方が若干高い傾向にあるように思えたが、それだとLIS誌が低いことの説明はよくわからないっちゃあわからない・・・メタデータの問題か??
ま、参考程度の一つの指標、と言うことで。
気になった図書館情報系以外の分野の方は自分の分野で試されてみても面白いかもー。
・・・やあ、しかし、そりゃあこんだけ開きの出るサーチエンジン(GS)の結果によって順位が低くなってたら、北大のリポジトリの人が怒るのも無理ないよなあ・・・
*1:twitter上での自分とid:myrmecoleonさんのやり取りとかが探せば出てくるかも?
*2:超高頻度引用論文とかがあっても、h-indexを上げるのに十分な本数がなければh-indexは上がらない。被引用1000の文献20本でも、被引用20の文献20本でもh-indexは20
*3:これだけは名称が一般名詞なのでかなり複雑な検索を要したり(苦笑) 最終的には人目で結果を確認して自分で計算しました
*4:雑誌評価の指標。詳しい計算式は説明すると面倒なので気になる人は調べてください。今回はThomson Scientific社のJCRの2006年版Impact factorを使っています
*5:Journal of the American Society for Information Science and Technology
*6:h-index, g-indexはPoP(=Google Scholar)のデータに、Impact factorはJCRのデータに基づきます