「CiNiiのいま、これから」
*ブクマ等から直でこの記事へ来られた方へ・・・6/6の記事は(うちでは珍しく)全体で一つのまとまりとなっています。単独で見てわからないところがあったら6/6分の他のエントリをご確認くださいm(_ _)m
お昼休みを挟んで、午後のワークショップは「CiNiiのいま、これから」。
割と人数の多かった午前からさらに人数が増え、会場は人がひしめいているような感じでした。
そうだよなー、みんなCiNii興味津々だよなー。
ワークショップの構成は最初に学術コンテンツ課長の尾城さんからCiNiiの現況の簡単な紹介があって、その後5人のプレゼンテーターの方から説明がある、という形式。
例によって資料は後に公開されると思うので、プレゼンテーションについては自分の気になったところを抜き出していく感じで。
尾城孝一さんから
- CiNiiの利用は急増していて、システムが追い付かない。最近レスポンスが遅くなっているのはそのせい。特に午後、14時くらいが「魔の時間」
- 現在、CiNiiの書誌は1,200万件。本文搭載300万件以上。個人登録者1万人以上、サイトライセンス登録機関800以上。
- 本文ダウンロード回数は2007年、1年で1,000万件以上。
- 「学術コミュニティに不可欠の共有財(コモンズ)」になりつつあるし、変えていかないといけない
研究者の立場から:清水先生(千葉大法経学部)
- 同僚15人くらいに認知度を聞いて見た・・・「あれって『さいにい』って読むの!?」ってリアクションが一番多かった(みんな『しーあいえぬあいあい』って読んでた)
- キーワードや著者名が確定している時は満足。
図書館員の立場から:筑木さん(京大附属図書館)
- CiNiiは日本語論文サービスの中で中心的な位置づけ
- 京大ではリンクリゾルバを入れて、CiNiiともリンクさせている
- 今のタイミングなら、医学におけるPubMedのように「日本(語)論文を探すならCiNii」と呼ばれる存在を目指せる
- そのために、CiNiiだけで日本語論文が事足りるよう収録誌の拡充、オープンアクセス文献へのリンク、学位論文検索、研究者単位での論文検索(著者典拠の拡充?)を。
情報リソース専門家の立場から:岡本さん(ARG)
- CiNiiへの不満はあげればきりがない・・・期待への裏返しである
- つかいにくい(アイコンの位置が悪いなど)、つながりがない(webで無償公開されているコンテンツへのリンク欠如など)、有償の壁(ペイパービュー)
- CiNiiに期待することはオープン化。すなわち無償提供と外部提供(API公開など)
情報デザイン専門家の立場から:篠原さん(ソシオメディア株式会社)
- CiNiiのユーザビリティ評価をやった・・・結果について説明
- 情報が見つけられやすく、つながりやすくすることは、学術研究の発展に不可欠
- 「偏在」(特定の場所に分散)から「遍在」(どこにでもある)へ
新CiNii開発の立場から:大向さん(国立情報学研究所)
- Google連携との効果について・・・PDFダウンロード月100万?!
- 負荷が増大した・・・「先に作ったものが、あとで利用が10倍になるなんて考えないし考えて作るなんてありえない」
- 次期CiNiiは完全に再設計。「ユーザサービスとしてのCiNiiのベストを尽くす」
- 要望があれば、今なら間に合う(1ヶ月後だともう無理)
- 次期CiNiiのコンセプトの一つはウェブAPIによるエコシステム作り。
- 情報源としての人にも着目(研究者リゾルバαみたいな)、徐々にフィーチャーしていく
- 次期CiNiiは2009年4月リリース!
CiNiiのいま、これまで:阿蘇品さん(国立情報学研究所、飛び入り)
- CiNiiの今をあらためて説明
- 約半数の本文データは無料提供、さらに定額契約で大半が個人課金なしで利用可能
・・・面白い(笑)
六者六様というか、同じものの話をしていても視点が違うとこれだけ色々な話が出てくるか。
そしてここから、こちらも仁義なきディスカッション。
・・・相当みんな言いたいことたまっていると思うので、予想以上に熱い感じになっていきます・・・
ディスカッション
(パネリストから、お互いについて)
- 清水先生:(筑木さんへ)図書館はなにしたいの? お金があるとコンテンツ豊富なのはわかるが、うちはそんなにコンテンツない。
- (岡本さんへ)オープン化はいいけどお金はどこから出るの?
- (篠原さんへ)ユーザビリティテストの被験者をやったんだが、気合い入れて床屋行って着飾って行ったのに手しか撮影されなかった。先に教えてよ。
- (NIIの2人へ)初心者とプロを別に誘導するような仕組みがあっても。
- 筑木さん:確かに、京大は電子ジャーナルの数が多い。だからリストの提供だけでは無理があり、論文タイトルDBからのリンクリゾルバがいる。
- 阿蘇品さん:CiNiiの契約価格は極めてリーズナブル。サイトライセンス契約でもMaxで100万円+税。min5万円/年。大手の大学なら、1論文当たり60円〜70円で見られるようになる。海外電子ジャーナルの1論文あたりにかかるコストと比べてもはるかに安い。
- 岡本さん:CiNiiの想定ユーザの問題もある。研究者なら研究費も使えるが、市民には難しい。CiNiiでとったアンケート結果を独自に分析したところ、一般のユーザは増えてきていて、6.3%が無料コンテンツの少なさに不満を覚えている。市民でも使えるようにするには個人に課金しないモデルがいる。CiNiiでは難しいと思うが、ファイルのダウンロードごとに広告が入るとか。
- 篠原さん:オープン化していかにビジネス化するか、というところで「エコシステム」が重要。ビジネスとしてのエコシステムをいかに組むか。/ユーザビリティテストについては、ユーザに構えさせないことが大事なので(笑)>清水先生
- 大向さん:想定ユーザが一番大事。システム側では、多様なインタフェースをつくれる準備はする。デフォルトから外れたインタフェースはそちらでやってほしい。
ここから、フロアの質問受付。
・・・ごめんなさい、「今ならまだ間に合う」の言葉につられて真っ先に手挙げました(爆)
- 佐藤(筑波大、自分です):CiNiiを使っていて、一番しっかりしてほしいと思うことの一つはやはり本文リンク。特に、すでに無料でwebにあるコンテンツへのリンクがない、と言うのが不満。図書館系でも『Library and Information Science』や『カレントアウェアネス』、『ディジタル図書館』は無料で本文見られる(LISは部分的に)のにCiNiiではリンクがない。これらはリンクリゾルバ(S・F・X)でもリンクされないので、結局Google等で探さないと見つけられない。また、機関リポジトリ搭載コンテンツでもリンクがないことが多い(筑波大の某紀要本文を見ようとしたら、リンクリゾルバ⇔CiNiiをぐるぐるまわる羽目になった。IRに載っているのに)。有料ジャーナルは機関によって契約状況が違うので一元管理は難しいと思うし、リゾルバが有効と思うが、無料ジャーナルはできるだけリンクを張れるようになんかならないか。
- 大向さん:ネットに公開した情報ってなんなのか。CiNiiからだと有料だが、他では無料で見られる、というコンテンツもあり、それにはどういう立場をとるのか。全てオープンにするのも難しく、それなりのコストはかかるが、ネットでオープンになっているものはたやすく辿りつけるようにしたい。あと、CiNiiにアドセンスはいつか貼りたい(笑)
- 時実先生(愛知大学):学生にCiNiiをよく使わせている。今のCiNiiは検索の勉強に適している。フィールド検索機能は新CiNiiでも残してほしい。
- 大向さん:残ります。色々出来るようにする中で、色々なパターンがあると思う。
- **(関東学院大学、ごめんなさい、お名前聞き取れませんでした):関東学院大学はリンクリゾルバもないので、OpenURLを使っている。新CiNiiでも変更を加えずに使えるよう、残しておいてくれると助かる。CiNiiの仕組みが変わったからといって、大学図書館システムも改修しなければならない、となると大学は困る。連携プロトコルやAPI仕様も早めに出してくれると助かる。
- 大向さん:OpenURLは変わらない。大枠を変えず、心配をおかけしないようにする。仕様も前もって公開する。
- 安達さん(國學院大學):引用リンクも重要。拡充を。
- 阿蘇品さん:検討する。
- 鈴木さん(富士通):企業図書館に勤めているのだが、個人課金はとっぱらえないか? 他社でもよく聞くことだが、それまで大学で使えていたものが、卒業して会社に入った途端に使えなくなる、と言うのでは困る。
- 阿蘇品さん:それまで大学で使えていたものが、卒業して就職したとたん使えなくなった、という不満はよく聞く。なるべく個人課金はなくして機関定額の範囲に収めるよう、学協会には働きかけているし、今後も続けていく。
- 岡本さん:自分も大学にいたころを考えるとよくわかる。大学図書館の今後として、卒業性のホームライブラリーとしてふるまう、その一つとして卒業後もCiNiiが同じように使えるようなサービスを提供する(そのかわりに寄付金を募る)というのもありかと思う。システムは、NIIでなんとかして(笑)
- 渡辺さん(埼玉大学):国家政策としては、これからどうする? NII、NDL(国立国会図書館)、JST(科学技術振興機構)がバラバラでは困る。それぞれが生き残りのために特色を出したいのもわかるが、一般の人からすれば違いなどわからない。今後、国家政策としてどうするかが国際的な評価にもつながる。ドイツにはそういうシステムがあるが、日本語論文を今後世界に公開する際にどうするのか。仲が悪いのは承知しているが(会場で笑い) 例えば一般の人にはCiNiiからNDLのコピー取り寄せサービスへ連携するとか、三者の協働を求めたい。
- 阿蘇品さん:おっしゃることはよくわかる。「特色を〜」のところはグサッと来た。細やかなフォローが出来ることが望ましいが、実現には壁が・・・
- 林さん(AFFRIC):農水も「なんで他のサービスから探せない!」と言われる。国内の無料ジャーナルの網羅的リストがない、という問題がある。調査をしたり、リポジトリを作ったりすることが必要なのではないか。海外からの日本語文献へのニーズ、というのも実際に受けているので、日本語ジャーナルの包括的なリストやDOI等について検討してほしい。
・・・濃い・・・
短い時間で、なんて濃い話題をしていたんだと改めて見て実感。
ざっと見ただけで、
- JST、NII、NDLの連携(CiNiiにJSTへのリンクない、とかさー)
- 無料ジャーナルの網羅的リスト作成やDOI付与等の試みの必要
- 大学卒業者等へのサービスをどうするか
- 新世代CiNiiでも残してほしい部分、「変わってもらっては困る」部分
などなど、などなど・・・これら全部、岡本さんのプレゼンにもあるが、「CiNiiへの期待の裏返し」でもあるよなー。
検索部分は無料で誰でも使えて、こんだけ本文リンクもあるってんだから、「学術コミュニティに不可欠の共有財」という最初の尾城さんの話は現状でもかなり実現しつつあるように思うし、もっとその立場を強めて欲しい、って思ってる人がたくさんいるってことだよね。
かくいう自分もその一人だし。
いいぞCiNiiー、もっとやれー!
検索技術的なところはなんもわかりませんが、無料でweb公開されているジャーナルリスト作成とかは時給安めでも作るならお手伝いします。*1
そんなこんなで、今年も非常に興味深く楽しかったNIIオープンハウス。
他にポスター展示も見ましたが、「テキストとデータベースレコードの対応付けに関する研究」とか、こちらも興味深いのが色々と。
今回も筑波・非社会人学生(院生)は自分だけだったみたいですが・・・面白いからみんな来ればいいのに。
もっとも、今回はワークショップ定員が早々に埋まったのも一因なのかもしれないけれど・・・このメンバーで会場70人(実際はもっと収容できたそうな)は勿体ないよなぁ。
そこは来年はもう少し定員増やしてもらってもよいのでは、とか思ったり。
一橋講堂で、ってのはさすがに無理があるかも知れないけれど(苦笑)
明日は大図研オープンカレッジに行く予定。
・・・しばらく東京づいてるな、自分・・・