かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

「次世代の目録所在情報サービスを考える」

*ブクマ等から直でこの記事へ来られた方へ・・・6/6の記事は(うちでは珍しく)全体で一つのまとまりとなっています。単独で見てわからないところがあったら6/6分の他のエントリをご確認くださいm(_ _)m


今年3月に公開されたNII次世代目録ワーキンググループの「次世代目録所在情報サービスの在り方について(中間報告)」(以下、「中間報告」)について、ワーキンググループの皆さんからの内容の説明と、パネリストの方々からの「中間報告」に対するコメント、そしてディスカッション、という構成で次世代の目録所在情報サービス・・・次のNACSSI-CAT/ILLについて考える、という構成のワークショップ。
パネリストも凄ければディスカッションに参加された会場の方々もまた濃かった・・・


「中間報告」についての説明パートでは、まず佐藤先生からNACSIS-CAT、ILLについてのこれまでの状況の説明と、大学図書館が置かれた環境の変化(特に電子情報資源の普及とそれに伴う利用者行動の変化)、そこから出てくる検討事項について説明があった。
かなり印象的で、その後の発表/ディスカッション等でも何度か触れられることになったのが、NACSIS-CAT参加機関別の書誌/所蔵登録件数について。*1
実に書誌作成件数上位20機関くらいで全体の半数近くの書誌を作っている一方で、1〜100件しか作っていない機関も501機関あり、1件も書誌レコードを作っていない機関も190機関以上ある、とのこと。
だからと言って「なんだ、一部の機関ばかり作ってて他はフリーライドじゃないか!」という方向の話ではなく、「参加機関は多様であって、それを一様に見るわけにはいかない」ということを意識しないといけないのではないか、と。
これは後々にも絡んでくる話。


以降は「中間報告」の3つのテーマそれぞれについて発表。
まずは東北大の加藤さんから、「電子情報資源への対応」パートについて。
現在のNACSIS-CAT、ILLは電子情報資源(電子ジャーナルとか)管理をするようにはなっていない。
電子ジャーナル等の場合はILLにはライセンス確認等も必要になってくるので、次期システムでは印刷体の所蔵と電子情報資源のアクセス権を同時に扱うことができることや、検索粒度の問題等にも対応すること等が必要。
と言うことで、CATと同時に「電子情報資源データバンク」を構築して、横断的に検索できるようにすることなどの提案について説明されていた。


次に帝塚山学院大学の渡邊先生から、NACSISのデータ構造とAPI公開について。
特にAPI公開については兼ねてNACSIS-CATでも公開すべき、と言う意見・要望が多いが、一方で(これも後にキーになる話題だが)「NACSIS-CATのデータは参加機関のもの」という理念もあり、慎重に検討している・・・と言うようなお話。
最後に、「参加機関のみなさんに考えてほしいこと」というスライドもあり、参加機関全体で考える必要性が強調されていた。


説明の最後は千葉大の竹内先生から、運用体制の抜本的見直しについて。
大学図書館界は目録のスキルを失うべきではない」という思想と、「大学図書館間での書誌情報基盤の共有」を前提とした上で*2、如何に目録作業の負担を軽減化・合理化するか、というお話。
その中で、出版社等からのメタデータ入手(発生源入力)や、「目録センター館」構想について説明がなされていた。
後者は、先に佐藤先生からもお話のあった参加機関が2つに分化している(書誌データ作るところと作らないところが分かれている)ことを考えて、年に何件かしかオリジナルで書誌データを作らないところがたくさんある状況で1,000以上のNACSIS-CAT参加機関全体で書誌の調整するのは非合理的だ、と言うことから、外国雑誌センター館みたいに目録を集中して作る機関を選んで、そこがメタデータのスキルを持つ図書館員の養成の場ともなればいい、という提案。
実際、NACSIS-CAT叩いてても重複レコードとか割とばらばらとか、気づくことは多いしなあ・・・(汗)


以上で説明パートが終了で、今度は3人のパネリストの方からのコメント表明と、ディスカッションに。


コメントの最初はNEXT-Lでオープンソースの図書館システムについて取り組んでいる慶應義塾大学の原田先生。
指摘された点は多かったが、「理想論を追い求めることも必要、理想論をあきらめることも必要」、「拙速にならないことも重要、拙速な対応も重要」と言うことで、慎重になりすぎることや多くを求めすぎることへのコメントが印象的。
「とにかく時間がない」、とのこと。
そして、「NACSIS-CATが目録技術の崩壊を招いたのでは?」という爆弾投下も(笑)



次いで筑波大学の高橋さんからは国大図協が出した要望書についての話があった上で、発生源入力の限界と、やはりAPIの公開などについて。
API公開は参加館の合意が前提だけど、今は議論もされてないよ、と言う話。
「API公開は、(今回の話とは)切り離して進めては」という提案も。


最後は、鶴見大学の長谷川さんからNACSIS-CAT、ILL等の電算化がもたらした効果と、それでずいぶん楽になったはずなのに昔に比べて全然楽になっていない大学図書館業務の現状について、長谷川さんが研究されている大学図書館の館員数の話題などとも絡めてコメントされていた。
その中でいかに(NACSIS-CAT、ILL始動時のような)win-winの関係を築けるか。
そして現在、図書館全体/大学全体でイベント的な盛り上がりがないが、それがもっと必要ではないか、と言ったコメントだった。

ディスカッション


ここからいよいよ、仁義なきディスカッションがはじまる・・・
てことで以下、省力のため

  • 発言者(初めての場合は所属):発言


形式で記述していきます*3



  • 佐藤先生:原田先生へ。目録技術はコンピュータやMARCが崩壊させたのではないかと思う。公共図書館はNACSIS-CATがないが崩壊している(会場で笑)
  • 逸村裕先生(筑波大学):長谷川さんの「大学全体のイベント」について詳しく聞きたい。
  • 長谷川さん:図書館がやりたいことと大学がやりたいことは違う。図書館の目録の質の話を大学は理解していない。初年次教育とかの方が期待されている。その中でなぜNACSIS-CATにリソースを割かねばならないのかは図書館/大学ともに理解できていない。
  • 岡本さん(ACADEMIC RESOURCE GUIDE編集長):API公開と共同分担目録の理念、についての対比がよくわからない。何が一番のネック?
  • 渡邊先生:NACSIS-CATデータは参加機関の持ち物。参加機関内で声が一致して上がればやることになるだろう。
  • 佐藤先生:国大図協とWGの間で、討論はした。まずAPI公開についての理解(min2注:公開の是非、というよりはそもそもAPI公開ってなに、公開するとなにいいことあんの、なんかまずいことあるの? ってあたりの理解)がないので、実験的なことをしたいと国大図協にお願いしているところ。具体的にやらないと見えない。
  • 岡本さん:CATデータは公共財なのか、誰かのものなのか。誰か「(CATデータは)俺のものだぁ!」という人は?(会場へ)
  • 会場:(笑) さすがに誰も名乗り出ず
  • 原田先生:ボールを投げて、国大側からAPI公開への反対は出得るの? NIIが「こういうことがあるかも知れないが、問題あるか?」と聞かないと反対は出ないのでは?
  • 佐藤先生:なんらかの形で参加館の意見を聞きたい
  • 岡本さん:「ノークレーム制度」(「反対がなければやるよ」という制度)でやってしまっては?
  • 竹内先生:NACSIS-CATのデータは誰のものなのか? NIIが一元的に決められるわけではない。決めるのは参加館。目録情報は一次情報としての利用が前提で、例えばOCLCでも公開して利用が急激に増えた、という問題もあった。
  • 長谷川さん:APIを公開して面白く使える、となれば図書館の地位は上がるかも知れない。時間はないので、一気に走ってしまっても。
  • 佐藤先生:図書館の位置を上げる/下げるの2面性がありうる。だからまず実験。
  • 林さん(AFFRIC):AFFRICではAPIを公開しているが、NACSISのデータを多く利用している。NII由来データで目録を作って、API公開しているのだが、今のところクレームはない。しかし凄いことが出来た事例もない。
  • 佐藤先生:個別でやるのは問題ない。各図書館がAPIを出すのを止める権利は・・・




ここで時間切れ(苦笑)
いやぁ・・・これは何と言うか、もっと時間をとって2時間くらいがっしりディスカッションとかだとえらいことになったのではという気が・・・(爆)


API公開について、実際に使ったりする側からすると、確かに参加機関の同意が大前提、って気はする。
特に所蔵データも使えるようにするのであれば、いつぞや自分がやったみたいに「ケータイ小説持ってるとこはどこどこ」みたいなデータが流用される可能性もあるわけで・・・*4


自分はそういうのも含めて「面白い」と思うし有益であると思うけど、みんながそう思うかはわからないし。
あるいは、「利用が急に増えた」っていうOCLCの問題みたいなのもある(午後のCiNiiの問題とも重なる)わけで、それを望まない参加機関にとって不本意かも知れないし。
そこら辺、正も負も合わせてきちんと参加機関で話をするのは、時間がないのを承知の上でもきちんとやっておかないと・・・「こんなはずじゃなかった」ってなっても困るし、それはやはりNACSIS-CATの本意でもないだろうし。
・・・つまるところ、つくづく、「共同」「分担」目録である、ってことがNACSIS-CATの面白いところであり、価値あるところであり、頭を悩ませるところでもある、と。
ぜひ、国大図協だけでなく、私大・公大・高専系も含めて、参加機関皆で考えていけるといいのではないか、とかなんとか。


・・・個人的にはぜひ公開してもらって、便利なサービスがわらわら湧いてくると良いと思うのですがね。
皆もの、ってことは難しいな。



・・・このあと、午後の「CiNiiのいま、これから」編があるわけですが、ここでいったん力尽きたので続きは後ほど・・・
・・・うう、会場で岡本さんに「議事録はかたつむりがなんとかしてくれるでしょう」と言われたからって真面目にメモ取りすぎたやもしれない・・・

*1:書誌登録と所蔵登録については、書誌登録=目録に登録されていない新しい資料について、自分で書誌を作るなりなんなりして新しくレコードを登録すること、所在登録=すでに書誌レコードのある資料について、「自分の図書館、持ってるよ」ということを登録すること、と理解しているんだけれど問題あったらご指摘お願いします

*2:「目録作れなくなったっていいじゃん」とか「もうNACSIS-CATもILLも要らない」とか言い出すのはナシで、ってことだと理解

*3:もちろん、発言内容については自分の聞き取りミス・解釈ミス・メモミス等があると思うので、精一杯書きとめましたが保障はできませんのでご了承願います。発言者の方で、「こんなこと言ってない!」という方がいましたらコメント願います

*4:ケータイ小説はどこの大学にあるのか? -あるいは、ブックハンティングの副産物? もしくは、GO! WEST- - かたつむりは電子図書館の夢をみるか