国立大学図書館協会北海道地区協会セミナ―「次世代ライブラリアンシップのための基礎知識」第1回2日目
もうすでに1週間も前の話になってしまいましたが・・・(大汗)
北海道大学で開催されたDRF6と、同時開催の国立大学図書館協会北海道地区協会セミナーに参加してきました!
2/4夕方まで用事が入っていたため、国大図協北海道地区協会セミナーについては2日目(2/5)からの参加です。
『略してヲタツー』の岡本さんのエントリでも自分に言及いただいていますが、岡本さんとは長らくネット上ではお付き合いがあり、共同発表までさせていただいた*1にも関わらず実はこれまでリアルでお会いする機会をことごとく逸してきたのですが、今回やっとお会いすることができました!
岡本さん、本当にありがとうございましたm(_ _)m
さて、DRF6については自分は公式アカウント⇒投稿しすぎで制限⇒自分のアカウント、とハッシュタグ#drf6で実況しておりましたのでそちらをご参照いただければ幸い。
今回は国大図協北海道地区協会セミナーでの、北大観光学高等研究センターの山村先生のご講演のイベントレポートを。
山村先生は昨年のDRF5でもご講演されていましたが*2、今回はその内容にプラスして「知識へのアクセス」という観点から機関リポジトリの理念についての検討も行われている、大変興味深い内容でした。
なお、例によってmin2-flyの聞き取れた/理解できた/書き取れた範囲でのメモですので、その点ご了解のうえ、参加されていた方で問題点にお気づきの方はコメント欄などでお知らせいただければ幸いです。
では、以下メモです。
機関リポジトリ整備の理念構築に向けた試論:「知識へのアクセス」に関する国際的議論を図書館・研究者はどう捉えるべきか?(山村高淑さん・北海道大学観光学高等研究センター准教授)
自己紹介
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- 観光学高等研究センターで勤務
- 観光業だけでなく、交流や地域振興も含め、人の移動と交流の意味を総合的に研究している
- なぜ観光学の教員が機関リポジトリの話をするのか?
- DRF5での会場からの質問(山村先生単独ではなく全体に対して)
今日の目次
なぜ機関リポジトリが重要なのか?:「アクセス」というキーワードから考える
- 「基本的人権としてのアクセス権」:世界人権宣言(1948)より
- 「アクセス」を権利として位置づけたもの
- 「高等教育は、能力に応じ、すべての者にひとしく開放されていなければならない」(equally accessible to all)
- 「知識へのアクセス」:UNDPにおける意味づけ(1990)
- 近代化理論への反論:経済開発だけでなく社会開発、人間開発がいかにあるべきかの議論を始める
- Haqの言葉「開発の基本的な目標は人々の選択肢を拡大することである。・・・人は時に、所得や成長率のように即時的・同時的に表れることのない成果、つまり、知識へのアクセスの拡大、栄養状態や医療サービスの向上・・・などに価値を見出す。開発の目的とは、人々が、長寿で、健康かつ創造的な人生を享受するための環境を創造することなのである」
- 知識へのアクセスが収入や健康、余暇や社会参加と同様に「開発」=「発展」の重要な指標となった
- 国際的な文書には世界の合意文書として存在していると言う大きな意味がある。
- 「知識へのアクセス」、情報検索・入手方法の手段の選択肢が増えることは、人間としてより豊かな生活であることを意味する。図書館は人間開発のための重要な機能を果たす(「図書館」という言葉自体は出てこない)
- 「知識へのアクセス」:UNESCO高等教育世界宣言(1998)
- 第5条
- 「研究成果に対する知的・文化的権利は、人類の利益のために使用されるべきであり、悪用されないよう保護すべきである」
- 第12条
- 「・・・すべての人が知識へアクセスできるようにすること・・・によって教育の高い水準を維持しなければならない」
- 「・・・ICTを利用することは、高等教育機関がその業務を近代化するためであり、機関を現実から仮想へと変化させるためではない。・・・このことを認識し、ICTの可能性を考慮すること・・・」
- 研究成果に対する知的権利は、人類の利益のために使用すること。ICTを活用して、全ての人が知識にアクセスできるようにすることをこの文書は述べている。
- 教員個々人がこういった理念を持つことは重要。さまざまな研究者がいる中で統括してこうした業務を行うのはどこか? そこに図書館の今後の責務があるのでは?
- 第5条
- UNESCO IFAP(Information for All Program) 2000〜
- 「ヘリテージへの知的アクセス」(ICOMOS 1999/2002)
- ヘリテージ:祖先から受け継ぎ、後世に伝えなければいけないもの
- 「遺産を保護し、管理する主たる目的はそれらの重要性を地域社会ならびに来訪者に対して、物理的・知的にアクセス可能とすることにある・・・」
- 遺産の保護は地域社会と来訪者が遺産の価値にアクセス可能とするためにあるべき、と明記
- 遺産概念の拡大
- UNESCO 世界の記憶(1992〜)
- 「貴重な文書や図書館蔵書など「文書・記憶遺産」は言語・人類・文化の多様性を反映した"記憶"であるが、壊れやすいものである・・・」
- UNESCO Charter on the Preservation of the Digital Heritage(2003)
リポジトリ整備のための三つの理念(私案)
- 理念は非常に重要。利用者の立場でDRF5に参加したが、技術的な議論は多いが、理念や目的はあまり見えてこなかった。
- リポジトリの整備は情報社会における人間開発に貢献することを第一目的とする
- リポジトリは知的財産の保護のために機能しなければならない
研究者に対しメリットを明示することの必要性
- 検索率・引用率が上がる
- 明らかに違う。ネットで検索する人が多いため?
- 研究者の業績評価の数値化できる指標は論文数と、引用数
- オンラインに出すと引用される確率がアップ。
- E-heritageとしての保存
- 重たいデータの論文・報告書は紙媒体にすると引っ越しの際にどこかに行ったりする。公的機関がそれを保存してくれるのは大きな意義
- 知的創造物の信頼性の担保
研究者の意識改革の必要性とリポジトリの位置付け
HUSCAPを用いて地域との共同研究成果へのアクセス性を高める
- 横浜に来なかった人向け
- 観光の研究は研究者のための研究ではない。社会の課題を解決するための処方箋を出す研究。相手は一般市民や商工会が多い。
- アニメの研究も商工会との研究
- 詳細はHUSCAPのNews Letterも参照
- その中で考えたこと・・・成果物は誰に還元しなければならないのか?
- 大学ではない。学会ではない。商工会と、その会員の自営業者、そして地元の市民の皆さん
- 調査の結果はネット上で発表してしまおう。調査⇒発表⇒フィードバック、となるのでは。
- その際に機関リポジトリが役に立つ。調査に行くたびに報告を作成、アップすれば地元からアクセス可能になる
- 3つのプラットフォーム
- HUSCAP*3(成果物/報告書・論文)
- 鷲ペディア*4(ニュース形式で調査とその成果報告の紹介)
- 北大と商工会のやっていることが常に見える
- WoTaCS*5:研究室のweb
- 論文には至らないものの新たな着想のあったレポートをどんどんアップするサイト
- HUSCAPとも連動。常にリンクを貼れる
- 3つのプラットフォームの連携・・・成果の永久保存としてのHUSCAP、研究のプロセスを出せる鷲ペディア、自由な議論のできるWoTaCS
- アクセス数増加の一つの理由?
- YOMIURI ONLINE掲載とアニメファンからのアクセス
- 観光客として来訪するのはファンの人たち。その人たちの考えを把握できるのはいいこと。研究者以外に読まれたことが非常に大きい
- アクセス数増加の一つの理由?
- 現場の教員・研究者が機関リポジトリをいかに活用し、学外の人たちの情報を共有できるのか。今後も成功・失敗を報告できれば
質疑
- 日本動物学会事務局長・永井裕子さん:アクセス権についてお話があったが、これは重要なことだと思う。「世界人権宣言」の「accessible to all」が現在、間違った使い方をされている。先生は間違えられていないが、digital contentsに対する平等なアクセスは基本的人権ではない。学術審議会の中でも危ういことを言う人がいる。全ての機会にaccessibleであるという意味と、後付けの話が混乱している。それと同時に、山村先生が図書館の界ということで機関リポジトリのミッションを強調されたかと思うが、私自身は今日のお話は図書館のみならず、学術情報に関わるすべての学会・図書館・研究者がそれなりの形で協調しない限りは本当にaccessibleな社会にはならないのでは、と思う。機関リポジトリはそういったところから考えなければと思う。もうひとつ、文系の先生が機関リポジトリを理解されないが、理系は先取権が査読で守られる。文系こそ考えるべき?
リポジトリの理念については、自分もBudapest Open Access Initiativeなどのオープンアクセス関連文献から検討するということはしてもいたのですが、山村先生のように国際的な宣言等から検討する視点はまったくありませんでした・・・(汗)
しかしこうしたところから詰めて理念を、というのは説得力が段違いであるとお話を聞いていて感じました。
論文を書くときに一番苦手なのがIntroductionである自分ですが(苦笑)、博士論文に向けてはこういうところも読んでいくべきかな、と痛感です。
イベントはその後、パネルディスカッションに入っていくのですが、そちらは会場でのやり取りに基づいたTwitterでの議論の方に自分が熱中してしまいメモを取っていませんでした(大汗)
これについては岡本さんのブログで感想も述べられており、自分でも検討して別にエントリを立てたいなあ、と考えているのですが・・・はて、最近イベントレポートとか調査・報告以外のエントリを最後に書いたのはいつだったやら・・・(遠い目)
最後になりますが、「北海道だし無理だろうなー」と考えていた自分を(Twitter実況要員として?(笑))お招きいただいた皆様、本当にありがとうございましたm(_ _)m