かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

国立大学図書館協会北海道地区協会セミナ―「次世代ライブラリアンシップのための基礎知識」第1回2日目


もうすでに1週間も前の話になってしまいましたが・・・(大汗)
北海道大学で開催されたDRF6と、同時開催の国立大学図書館協会北海道地区協会セミナーに参加してきました!


2/4夕方まで用事が入っていたため、国大図協北海道地区協会セミナーについては2日目(2/5)からの参加です。
『略してヲタツー』の岡本さんのエントリでも自分に言及いただいていますが、岡本さんとは長らくネット上ではお付き合いがあり、共同発表までさせていただいた*1にも関わらず実はこれまでリアルでお会いする機会をことごとく逸してきたのですが、今回やっとお会いすることができました!
岡本さん、本当にありがとうございましたm(_ _)m


さて、DRF6については自分は公式アカウント⇒投稿しすぎで制限⇒自分のアカウント、とハッシュタグ#drf6で実況しておりましたのでそちらをご参照いただければ幸い。


今回は国大図協北海道地区協会セミナーでの、北大観光学高等研究センターの山村先生のご講演のイベントレポートを。
山村先生は昨年のDRF5でもご講演されていましたが*2、今回はその内容にプラスして「知識へのアクセス」という観点から機関リポジトリの理念についての検討も行われている、大変興味深い内容でした。


なお、例によってmin2-flyの聞き取れた/理解できた/書き取れた範囲でのメモですので、その点ご了解のうえ、参加されていた方で問題点にお気づきの方はコメント欄などでお知らせいただければ幸いです。
では、以下メモです。




機関リポジトリ整備の理念構築に向けた試論:「知識へのアクセス」に関する国際的議論を図書館・研究者はどう捉えるべきか?(山村高淑さん・北海道大学観光学高等研究センター准教授)

自己紹介
    • 観光学高等研究センターで勤務
    • 観光業だけでなく、交流や地域振興も含め、人の移動と交流の意味を総合的に研究している
  • なぜ観光学の教員が機関リポジトリの話をするのか?
    • 北海道大学リポジトリ、HUSCAPを愛用しているため
    • 御礼/恩返しも兼ねて登壇
    • 去年の11月のDRF5でも講演。そちらにいらっしゃらなかったのために、後半の一部はそのエッセンス。
    • HUSCAPの2009年のアクセスランキングでは、昨年の上位2位に入って「しまった」。
      • 一部の人から「北大はどうした?」というコメントも。
      • 従来はグラフ理論講義ノート民法理論などが並んでいたが、2位にアニメ聖地巡礼が入ってしまった。「北大はアニメの研究を始めたのか?」と2ちゃんねるでちらほら。
      • どうしてこうなった? 機関リポジトリを見ているのは研究者ではない?
      • HUSCAPのスタッフと議論をするようになった経緯
  • DRF5での会場からの質問(山村先生単独ではなく全体に対して)
    • 「どうして図書館がリポジトリを整備する必要があるのか? 私は自分の研究室でwebを作っていて、実験成果はすべてそこで公表している。機関リポジトリの必要など感じたことはない」という意見(理系の研究者)
    • 「なんて身勝手」とも思うが、多くの教員はそういう感覚。それは何故かも今日の話の中で分析できれば。
  • 図書館は教員になぜ機関リポジトリを作るのか説明しなければならない
    • DRF5で明確な理念、理由を説明されたかは、教員にとっては理解できなかったのでは?
    • 今日の話の前半は、「どうして大学の図書館は機関リポジトリを作る必要があるのか」を幅広い観点から整理したい
  • なぜツーリズムの教員が機関リポジトリに口を挟むのか?
    • 私の専門はヘリテージツーリズム(アニメではない)
      • 文化資源の保護・管理と活用・公開の在り方について研究する分野
      • 文化資源:従来・・・古い建築、寺社仏閣、古い壺などに限定⇔ここ数年で定義が広がる。世界遺産からアニメまで
      • 文化資源を保護・活用するのは・・・「当該文化資源の価値へのアクセス性を高めるため」
      • 「ツーリズムはそうした価値へアクセスするための重要な手段(vehicle)である」
      • ツーリズムと並んで博物館や図書館も位置づけられる。私の専門と機関リポジトリはかけ離れたものではない
今日の目次
  • なぜ機関リポジトリが必要なのか?:アクセスと言うキーワードから考える
  • リポジトリ整備のための三つの理念
  • 研究者に対しメリットを明示することの必要性
  • 研究者の意識改革とリポジトリの位置付け
  • 事例報告
なぜ機関リポジトリが重要なのか?:「アクセス」というキーワードから考える
  • メトロポリス』という映画の紹介
    • UNESCOの「世界の記憶」の中に登録された。フィルムも文化遺産に位置づける流れが国際社会にある
  • 基本的人権としてのアクセス権」:世界人権宣言(1948)より
    • 「アクセス」を権利として位置づけたもの
    • 「高等教育は、能力に応じ、すべての者にひとしく開放されていなければならない」(equally accessible to all)
  • 「知識へのアクセス」:UNDPにおける意味づけ(1990)
    • 近代化理論への反論:経済開発だけでなく社会開発、人間開発がいかにあるべきかの議論を始める
    • Haqの言葉「開発の基本的な目標は人々の選択肢を拡大することである。・・・人は時に、所得や成長率のように即時的・同時的に表れることのない成果、つまり、知識へのアクセスの拡大、栄養状態や医療サービスの向上・・・などに価値を見出す。開発の目的とは、人々が、長寿で、健康かつ創造的な人生を享受するための環境を創造することなのである」
    • 知識へのアクセスが収入や健康、余暇や社会参加と同様に「開発」=「発展」の重要な指標となった
    • 国際的な文書には世界の合意文書として存在していると言う大きな意味がある。
    • 「知識へのアクセス」、情報検索・入手方法の手段の選択肢が増えることは、人間としてより豊かな生活であることを意味する。図書館は人間開発のための重要な機能を果たす(「図書館」という言葉自体は出てこない)
  • 「知識へのアクセス」:UNESCO高等教育世界宣言(1998)
    • 第5条
      • 「研究成果に対する知的・文化的権利は、人類の利益のために使用されるべきであり、悪用されないよう保護すべきである」
    • 第12条
      • 「・・・すべての人が知識へアクセスできるようにすること・・・によって教育の高い水準を維持しなければならない」
      • 「・・・ICTを利用することは、高等教育機関がその業務を近代化するためであり、機関を現実から仮想へと変化させるためではない。・・・このことを認識し、ICTの可能性を考慮すること・・・」
    • 研究成果に対する知的権利は、人類の利益のために使用すること。ICTを活用して、全ての人が知識にアクセスできるようにすることをこの文書は述べている。
    • 教員個々人がこういった理念を持つことは重要。さまざまな研究者がいる中で統括してこうした業務を行うのはどこか? そこに図書館の今後の責務があるのでは?
  • UNESCO IFAP(Information for All Program) 2000〜
    • 「・・・情報における貧富の差を縮小し、すべての人のための情報、知的社会の構築を目指す。」
    • 情報格差」というキーワード。よりよいアクセスは平等な社会を作るため。情報格差是正のためになにができるか?
    • 枠組み自体は政府間のプログラム。政府主導と言う文言で、リポジトリ整備を国家的義務として考えることも可能?
  • 「ヘリテージへの知的アクセス」(ICOMOS 1999/2002)
    • ヘリテージ:祖先から受け継ぎ、後世に伝えなければいけないもの
    • 「遺産を保護し、管理する主たる目的はそれらの重要性を地域社会ならびに来訪者に対して、物理的・知的にアクセス可能とすることにある・・・」
    • 遺産の保護は地域社会と来訪者が遺産の価値にアクセス可能とするためにあるべき、と明記
    • 遺産概念の拡大
  • UNESCO 世界の記憶(1992〜)
    • 「貴重な文書や図書館蔵書など「文書・記憶遺産」は言語・人類・文化の多様性を反映した"記憶"であるが、壊れやすいものである・・・」
  • UNESCO Charter on the Preservation of the Digital Heritage(2003)
    • Digital Heritage!
    • 「益々多くの文化上・教育上の資源が、紙媒体ではなくデジタル資源で流通しアクセスされるようになっている。オンラインで入手できるデジタル遺産:eジャーナル、webサイト、オンラインデータベースは今や世界の文化遺産の一部をなすものとなった。しかしながら、デジタル情報は技術的にも物理的にも失われやすい」
    • オンライン上にあるものは非常に消えやすい。保護が必要、という考えに
    • 機関リポジトリ整備の理念はおのずと明らかになる? 文化資源の保護・管理と言う意味で機関リポジトリは人類の文明上、人類の文化において非常に重要な意義を持っているのではないか?
  • (おまけ?)UNESCO 文化的表現の多様性の保護及び促進に関する条約(2005)
    • 「・・・豊かで多様な文化的表現に対し世界中から平等にアクセスできること、そして文化が表現手段・普及手段にアクセスできること、これらは文化の多様性と相互理解を促進するための重要な要素である」
    • アメリカのハリウッド映画の侵略に対してヨーロッパが関税で保護しようとしたところ、アメリカが貿易の障害を作ることはまかりならんと訴え、ヨーロッパ側からこのような条約を出してきた・・・という流れ。
リポジトリ整備のための三つの理念(私案)
  • 理念は非常に重要。利用者の立場でDRF5に参加したが、技術的な議論は多いが、理念や目的はあまり見えてこなかった。
    • 目的と手段を履き違えて、手段が目的化すると危険。リポジトリを作ることが目的になると失敗すると思う。教員も説得できないだろう。
    • 「自分さえよければいい」研究者を説得するには、個々人の研究理念のさらに上位概念となるような理念がいる。
    • DRFの方で憲章のようなものを作ればいいのでは?
  • リポジトリの整備は情報社会における人間開発に貢献することを第一目的とする
    • 大学研究者のサポートではない
    • 知的情報へのアクセスは基本的人権として保護されるべき。大学図書館は人類の文化的発展に資するためにリポジトリで情報公開する義務があるのでは?
    • 大学の知的創造物は人類の利益のために公開され、格差なくアクセスできるよう配慮されなければならないのでは
  • リポジトリ情報格差是正のために整備されなければならない
    • 地域格差:東京に情報が一極集中、いくらインターネットが整備されても居住地によって学術・教育成果に差は出る。それは問題がある。機関リポジトリはそれを是正するために技術を使わなければいけないのでは?
    • 分野間・専門家と一般の間の情報格差:学会の弊害? 研究者・専門家が専門的知識を独占している状況。ある学会では発表論文をHUSCAPにアップしたいと言ったところ、理事会まで行って却下された。学会自体、社団法人であり社会に貢献してなんぼのはずなのに。
      • 大学の職員・研究者は中でしか通用しない言語でしゃべっている。是正がいる
  • リポジトリは知的財産の保護のために機能しなければならない
研究者に対しメリットを明示することの必要性
  • 検索率・引用率が上がる
    • 明らかに違う。ネットで検索する人が多いため?
    • 研究者の業績評価の数値化できる指標は論文数と、引用数
    • オンラインに出すと引用される確率がアップ。
  • E-heritageとしての保存
    • 重たいデータの論文・報告書は紙媒体にすると引っ越しの際にどこかに行ったりする。公的機関がそれを保存してくれるのは大きな意義
  • 知的創造物の信頼性の担保
    • 学術論文、雑誌掲載論文にはある程度の重みがあると思うが、今日の配布資料のようなものは北海道弁で言えば会議が終われば「投げられる」。しかしこれをHUSCAPにアップすると大学の公的リポジトリによるauthorizeがなされる。玉石混交のネットの中で一つの信頼の指標になる?
  • 研究プライオリティの確保
    • 自分の着想・アイディア・業績を人に盗られる前にオフィシャルにアップする。研究者はえげつないので、紙に書いてないと自分の議論が他人のアイディアのように書かれてしまうことがある。自分の着想を定期的に発表・公表してアピールしていく上で機関リポジトリには大きなメリットがある
研究者の意識改革の必要性とリポジトリの位置付け
  • 研究成果は誰のものか?
    • 個人webでアップしているからリポジトリはいらないという先生もいる。しかしその先生も大学の給料・科研費等の国民の税金でやっている。それを「自分の成果だろ勝手にしていい」とするのは研究者倫理としてどうなのか?
    • 企業との共同研究であればその成果は企業と先生に属するもの。その辺のしっかりした区分けを考える必要がある。
    • 狭・中・広という考え方
      • 狭:個人と共同研究者に属する
      • 中:所属大学の成果として位置づける
      • 広:広く社会に還元。科研費等はここになければならない。
    • 機関リポジトリはarchiveのポータルサイトになる。大学の中のポータル。
HUSCAPを用いて地域との共同研究成果へのアクセス性を高める
  • 横浜に来なかった人向け
  • 観光の研究は研究者のための研究ではない。社会の課題を解決するための処方箋を出す研究。相手は一般市民や商工会が多い。
    • アニメの研究も商工会との研究
    • 詳細はHUSCAPのNews Letterも参照
    • その中で考えたこと・・・成果物は誰に還元しなければならないのか?
      • 大学ではない。学会ではない。商工会と、その会員の自営業者、そして地元の市民の皆さん
      • 調査の結果はネット上で発表してしまおう。調査⇒発表⇒フィードバック、となるのでは。
      • その際に機関リポジトリが役に立つ。調査に行くたびに報告を作成、アップすれば地元からアクセス可能になる
  • 3つのプラットフォーム
    • HUSCAP*3(成果物/報告書・論文)
    • 鷲ペディア*4(ニュース形式で調査とその成果報告の紹介)
      • 北大と商工会のやっていることが常に見える
    • WoTaCS*5:研究室のweb
      • 論文には至らないものの新たな着想のあったレポートをどんどんアップするサイト
      • HUSCAPとも連動。常にリンクを貼れる
    • 3つのプラットフォームの連携・・・成果の永久保存としてのHUSCAP、研究のプロセスを出せる鷲ペディア、自由な議論のできるWoTaCS
      • アクセス数増加の一つの理由?
        • YOMIURI ONLINE掲載とアニメファンからのアクセス
        • 観光客として来訪するのはファンの人たち。その人たちの考えを把握できるのはいいこと。研究者以外に読まれたことが非常に大きい
  • 現場の教員・研究者が機関リポジトリをいかに活用し、学外の人たちの情報を共有できるのか。今後も成功・失敗を報告できれば
質疑
  • 日本動物学会事務局長・永井裕子さん:アクセス権についてお話があったが、これは重要なことだと思う。「世界人権宣言」の「accessible to all」が現在、間違った使い方をされている。先生は間違えられていないが、digital contentsに対する平等なアクセスは基本的人権ではない。学術審議会の中でも危ういことを言う人がいる。全ての機会にaccessibleであるという意味と、後付けの話が混乱している。それと同時に、山村先生が図書館の界ということで機関リポジトリのミッションを強調されたかと思うが、私自身は今日のお話は図書館のみならず、学術情報に関わるすべての学会・図書館・研究者がそれなりの形で協調しない限りは本当にaccessibleな社会にはならないのでは、と思う。機関リポジトリはそういったところから考えなければと思う。もうひとつ、文系の先生が機関リポジトリを理解されないが、理系は先取権が査読で守られる。文系こそ考えるべき?



リポジトリの理念については、自分もBudapest Open Access Initiativeなどのオープンアクセス関連文献から検討するということはしてもいたのですが、山村先生のように国際的な宣言等から検討する視点はまったくありませんでした・・・(汗)
しかしこうしたところから詰めて理念を、というのは説得力が段違いであるとお話を聞いていて感じました。
論文を書くときに一番苦手なのがIntroductionである自分ですが(苦笑)、博士論文に向けてはこういうところも読んでいくべきかな、と痛感です。


イベントはその後、パネルディスカッションに入っていくのですが、そちらは会場でのやり取りに基づいたTwitterでの議論の方に自分が熱中してしまいメモを取っていませんでした(大汗)
これについては岡本さんのブログで感想も述べられており、自分でも検討して別にエントリを立てたいなあ、と考えているのですが・・・はて、最近イベントレポートとか調査・報告以外のエントリを最後に書いたのはいつだったやら・・・(遠い目)


最後になりますが、「北海道だし無理だろうなー」と考えていた自分を(Twitter実況要員として?(笑))お招きいただいた皆様、本当にありがとうございましたm(_ _)m