かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

IRの更なる発展を目指した課題解決・情報共有に向けて-CSI委託事業報告交流会レビューⅡ-


ってことで、先日の予告通りCSI委託報告交流会2日目のレビューです。
と、その前に昨日の記事について小樽商科大学の「あおばと通信」さんから以下のコメントをいただきました!

・研究者ページとは、教員ごとにプロフィールとBarrelの文献が表示されるページで、このページにメタデータだけ記述できるようにすることで、本文が載せられない学術成果も一覧できるようにしたもの(*)

(*)かたつむりは電子図書館の夢をみるかで紹介していただいています(ありがとうございます;-)が、この点がかたつむりさんに正確に伝わっていないかな?とちょっと不安。IRにメタデータだけ(本文なし)はあり得なく、決して、Barrelにメタデータだけの登録を許しているわけではないのでよろしくお願いします

あおばと通信:平成19年度CSI委託事業報告交流会 - livedoor Blog(ブログ)


・・・ごめんなさい、思い切り勘違いしていました(滝汗)
研究者ページではメタデータも書けるようにしているけれど、IR本体にはメタデータのみの登録はない、と・・・そりゃそうか。*1
Barrel関係者の皆さん、申し訳ありませんでしたm(_ _)m


ではあらためて、2日目のレビューをば。

図書館活動全体からみたIR(竹内比呂也先生、千葉大学

発表自体はCSIの委託事業と関連しているわけではなく、その名の通り図書館活動全体からみた機関リポジトリについて、千葉大学を例に紹介。
色々な例が紹介されていたが、やはり一番気になったのは(その後の質疑でもよく聞かれていた)文献複写と機関リポジトリの関わりについて。
文献複写と機関リポジトリ等の電子化については先日の自分のところの記事のコメント欄で、筑波大学の場合についてやりとりがあって、そこでは電子化があんまり複写依頼減少に役立ってない可能性が考えられていたわけですが・・・
千葉大の場合、複写依頼受付時に自分の大学の機関リポジトリ(CURATOR)もしくは他のオープンアクセスな情報源で閲覧できないかをILL担当の方がきちんとチェックしていて、webからアクセス可能な場合はその旨を相手に伝えているとのことで。
2007年4月から2008年1月までの間に他からの依頼を91件、実際に謝絶した例があったとか。
同じく自分のところから他への依頼もいちいちチェックしていて、こちらは42件謝絶・・・つまり年間133件、オープンアクセスになっている情報源によって不要な文献複写を省くことができた、と。
文献複写の総件数は数桁違う(例えば2006年度の千葉大の場合、提供件数約14,700、依頼件数約6,500。上のリンク先参照)が、今後オープンアクセス可能な文献が増えていけばより複写件数が減ることも考えられる・・・と。
また、『千葉大学看護学会誌』という紀要の場合は、2006年には300件以上の文献複写があったのが、6月からリポジトリに全文搭載された2007年では100件未満に減ったそうで・・・この手の紀要電子化が進むと、商業誌掲載論文のOA化と同じかそれ以上に複写依頼が減るような気も。
もっとも、そのためには利用者の行動変革(リポジトリ等に載っている可能性を考えさせる)、図書館員のナビゲーション、発見しやすいシステムの開発等が不可欠な気もするが・・・id:ceekzさんが開発されている横断検索*2が公開されたら少しは認知されないかな&探しやすくならないかな・・・


地域共同リポジトリの取組みと課題-広島大学共同リポジトリ(HARP)-(尾崎文代さん、広島大学

中小規模の大学が共同でリポジトリを持つ取組みとして知られる広島県のHARP*3について。
まず驚くべきはその参加大学数・・・実に11大学!
そんなにたくさん参加してたのかー、とびっくりした。
それでも県内半分と言うことで、尾崎さんは温度差の問題等を指摘されていたが・・・いやでも、11ってけっこう凄い数字では??
実験サーバの立ち上げを広島工業大がやった、ってことが中小大にとっての「遠い世界の御伽噺」*4を現実のものに引き寄せた、と言うのも大きいのかも・・・


もうひとつ、HARP公開前と後での参加館の意識変化が面白い。
公開前は「学内成果の電子公開」が「HARPに期待すること」の筆頭だったのが、公開後には「HARPを通じた連携強化」がトップになった、という・・・「ローカルなDRF*5」という表現も良く分かる・・・同じ方向を向いて何かをするのが「仲間」だよなー。


「業績DB・IR連携プロジェクト」の概要と今後の課題(橋洋平さん、金沢大学・九州大学早稲田大学

発表者の橋さんは金沢大学。
学内研究者の業績データベースと機関リポジトリを連携させる試み、ということでいろいろ紹介されていたのだが・・・うーん、話を聞いていてもなんか色々課題がありそう・・・
面白い試みだと思うし、大学のアカウンタビリティの点からすればこれはぜひやるべきことだとは思うんだが・・・自分を顧みた時、業績DBって使ったことすらあんまりないからかなぁ。
実際、運用状況、利用実績は紹介できる段階ではないというような話もあり・・・ふむー。
とりあえず試しにまず研究者データベース見てみよう、ってことで金沢大学の教員総覧に行ってみる。


・・・これは使いづらいよ・・・って言うか見づらいよ。
他にDBあるのかと思ったが見つからないし、たぶんこれだよなぁ。
なんだろう、携帯電話に最適化とかしてるのかな・・・?
筑波のTrios*6もたいがいだと思ってたが(フルネームで検索できないとかね。佐藤&鈴木虐めかっつーの)、それ以上やも知らん・・・
業績DB側は図書館の管理下にないので手を入れづらいってのはわかるんだが、こりゃそっち側から攻めないとなんともしづらそうだなぁ。


国内学協会等の著作権ポリシー共有・公開プロジェクト(SCPJプロジェクト) (平田完さん、筑波大学千葉大学神戸大学

発表者の平田さんは筑波大学
名前の通り、国内の学協会の著作権ポリシーを調べ上げて公開する、というリポジトリに論文登録する際に便利なSCPJプロジェクトについて。
システム開発とかに比べると地味だけど、(先日の無断転載騒動なんかを考えても)「あれ、ここの著作権ポリシーってどうだっけ?」ってなことを簡単に調べられるようになるのはありがたいところ。
昨年度で学会名鑑に入っているようなところはあらかた登録した、とのことでこれからは著作権ポリシーがグレーな学会とかにどう働きかけるか、って話だそうだが、そこで問題になるのが今の体制の限界なんだとか。
・・・まあ、いきなり特定の大学に「著作権ポリシーはっきりしてよ。出来ればリポジトリ登録OKにしてよ」とか言われたら、どんなに丁寧に言われても「いきなりなに言ってるんだこいつ」的なリアクションとられることもあるよなあ・・・そこでNIIや国大図協などの「虎の威」が欲しい、とのことなんだが*7・・・・・・確かに、「委託事業」としてはともかく、委託機関が切れたら「そもそもなんで筑波とかがそんなことやってんの?」って話だしな。
虎の威っていうかそもそも委託期間が終わったらこれ、国やその他の機関に引き継ぐべき活動なんじゃ、という気もする・・・色々難しいだろうけど。


機関リポジトリコミュニティの活性化(森一郎さん、北海道大学千葉大学・金沢大学)

発表者の森さんは千葉大学
デジタルリポジトリ連合(DRF)の取り組みについて。

今回のエントリ読んでるのほとんど業界関係者だろうからあんまり説明する必要なさそうな気もするが(爆)
DRFの会合は縁あって先日ちょこっとお邪魔したりもしたんだけれど、日本中の大学から人が集まって同じテーマについて情報交換したりイベントしたり、ってのは、大学図書館協会系の取り組みが不振であるといわれる昨今、かなり重要だよね。
一方で各大学で担当者の異動も多いようで・・・図書館内に限らず、国大においての大学間での異動、私大においての部署間(図書館⇔他)での異動はなきゃないで困るところなのだが、まだリポジトリに関する取組みが定まり切っていない現状での担当者の異動って何をもたらすんだろう、ってなことは考えたり。
リポジトリ図書館界に普及することに一役買うか、業務の不安定さが増すか。
業務の面については、それこそDRFメーリングリストや、システムに限れば森さんの発表中にあったマニュアル的なものでもなんとかなる気がするが・・・そして小樽商科大の例などを考えると経験者の異動で他が花開く、ってことが増えると面白いとも思うのだが・・・さてはて、はてさて。


質疑応答(パネルディスカッション)

時間が押したため質疑応答はパネルディスカッションとひとまとめにされることに。
ちなみに発表者がそのままパネリストになったわけではなく、筑波組は平田さんから斎藤未夏さんに、広島大は尾崎さんから上田大輔さんに変更。
さらにNIIの学術基盤推進部学術コンテンツ課長・尾城孝一*8さんがパネリストとして参加。
コーディネータは筑波大の逸村裕教授。


以下、質疑の主な流れ。



  • (竹内先生に)図書館と学術コミュニティの関係の機関リポジトリによる変化について
  • 機関リポジトリとILLについて、リポジトリに載っているものがILL依頼来るってのは調べもせずに依頼しているということ? 利用者は図書館員の意識はどうなっている?
    • 竹内先生:図書館あるいは学術コミュニティがOA/IR搭載文献を快適に探せるようにできていないせいでは? 探さない方が悪い、とは言えない。
    • 斎藤さん:利用者の問題と言うよりリポジトリにあることに気づかないILL担当の問題。図書館員にリポジトリに対する意識が浸透しておらず、利用者も図書館員も文献探索経路の中にリポジトリが入っていない。
  • 虎の威を借りたいっていうけど、SCPJこれからどうするの? 虎の威借りないとやっていけない状態?
    • 斎藤さん:NIIの委任を受けて・・・というのだといいが、SCPJのような「よくわからないもの」には学会は答えてくれにくい。また、個別の学会に対するだけでなく今後はもっと効率的な窓口がないか模索している。この2年で最善の道を考えたい。
    • 尾城さん:学会の人と話す時は気長に相手をしないといけない。
    • 尾城さん:SPARC-Japanの事業の中で、大学と学会の橋渡しをしたいと考えている。機関リポジトリへの論文搭載についても、図書館の人と学会側の人を集めた協議の場を設定できないか検討中。
  • 総研大・矢代さん)研究機関の構成員が独自にリポジトリを立てたら、それも図書館のと競合的な関係になったらどうする? あるいは一大学多リポジトリの可能性は?
    • 逸村先生:IRワーキングの知0府としては、連携支援事業は一大学の責任者による提案、となっている。
    • 杉田さん(北大):北大はHUSCAPの前から数学のリポジトリがあったが、競合せずに連携出来ている。HUSCAPはリポジトリを持つのも面倒くさいような人へ場を提供する、という考え。
  • (土屋俊先生)著作権について、我々は学会を甘やかしすぎている。宣言してどうしてもいやだってところ以外はもう登録しちゃう、ってアプローチは出来ないの?
    • 森さん:優等生的には権利が学会にある以上、許諾を得ないのはまずい。先生方が「権利譲渡は嫌だ」という方が話は早いのではないかと思うが・・・
    • 土屋先生:研究者が面倒くさくてセルフアーカイブしないからみんなが手間暇かけてやっている。研究者に期待しても無理。
    • 土屋先生:まずは「こうやるけど文句ある学会は言って来て」と宣言して登録しちゃえば、本当は文句があるところでも訴訟が面倒で結局何もしないのでは? 「やっていいですか?」じゃなくて「やるけど文句あるか」と聞いちゃえば?
    • 斎藤さん:宣言って、図書館側から突き付けるの? それとも著者の権利の宣言?
    • 土屋先生:「著者の申し立てを受けたら図書館は登録する、問題は著者と学会で解決しておけ!」として、あとは図書館の名前を何十個も並べる。
    • 斎藤さん:やってみたいがここで即答はできない。その宣言をしたとして、学会にどれだけ影響を持つのか。
    • 土屋先生:著者が自分の権利を行使しているんだから図書館としてのチェックが要るの?
    • 斎藤さん:著者に権利はあるの?*9
    • 土屋先生:当然あるべき。なくしちゃったのは「ちょっとした過失」ってあとから主張しちゃってもいいんじゃない?
  • 静岡大・杉山さん)教員が大学を異動する場合、前の大学にいたときの実績の扱いは? どっちに載せるべきとかの話し合いはされている?
    • 森さん:出版社が宣言している著者の権利がどうなっているか。「著者そのもの」か「著者の所属機関」かで扱いが変わる。
    • 逸村先生:私の論文もまだ前の大学にあるし、問題ないのでは?
    • 森さん:出版社も学会もそこまでチェックしてないし、クレーム言うほどのもんでもない。
    • 土屋先生:その程度の文言でしかないんだから、そんなに気にしてない。
    • 杉山さん:つまり、早いもの勝ち?
    • 土屋先生:著者の権利だから(著者次第)
    • 橋さん:金沢は二重登録でもいいかな、と思っている。



・・・土屋先生が飛ばしてるなあ・・・(笑)
オプトアウト方式は面白そうだし、書籍を勝手に電子化しようとしたGoogleに比べれば著者自身の許諾を前提にしている分、穏当な上訴えも起きにくそうな気はするんだけれど、どうなんだろう。
やっぱどうしてもいや、って学協会もあるかな。
あるだろうなぁ・・・あちらはあちらで、学会の運営のこととか*10、国内誌だと「ある程度良心的な価格設定にしてあるのになお買わずにそれか!」とかいうことも考えてるだろうし・・・
まあ、下手するとガチで訴えてきそうな大手商業出版はあらかたポリシーわかってる分、少し強気になれるかも・・・とか言うのはあんまりにもあんまりな考え方か(苦笑)


でも実際、「著作権譲渡しない!」とか下手に著者が言った結果掲載されなかった、なんてのは嫌だし、ならいっそ図書館側で団結して宣言、ってのもありかも知らん。
・・・それでセルフアーカイビング可になった途端、購読館が減ったとかになると一気に学協会との間で溝が生まれそうなのでそこら辺は両刃だけど・・・たぶんそんなことはない、と思いたいなぁ・・・


講演形式のセッションの感想は以上。
その他にポスターセッションもあって、そちらの資料はまだ公開されていない(公開されるのかな?)のだけど・・・ポスターの作りとしては立体工作の要素を取り入れたお茶の水女子大がインパクト強かった。
リポジトリに登録した人の体験談広告みたいなのも載ってて「どこの通販だwww」とか思ったり。
配布物等の中では、広島大の「機関リポジトリ著作権Q&A」が有難い。
「他機関や個人が所有している貴重書の画像を論文に掲載しています。これをリポジトリから公開する場合には、再度許諾を得る必要があるでしょうか?」*11など、かなり込み入った事例についても書かれていて、これから重宝しそうかも。


そんなこんなで、セッション等の他にもたくさんの方にお会いできて大変面白い委託報告交流会でした。
昨年は内部でやってた、ってことで自分みたいなのは参加できなかったわけですが・・・見た感じ、他にも委託事業を行っている機関以外からの参加者も何人もいらしたし、オープンにしたのは正解だったんじゃないか、とかなんとか。
この調子で今後もオープンだと有難い・・・いや、来年はいい加減自分も修論書いているはずなので、あったとしても行けるかどうかは未知数だけど・・・

*1:いや、ほとんどメタデータオンリーに近いようなレコードを見かけるIRもたまにありますが。

*2:学術機関リポジトリ横断検索構想 - Ceekz Logs (Move to y.ceek.jp)

*3:広島県大学共同リポジトリ

*4:はてなブックマーク - wackunnpapaのブックマーク / 2008年6月14日

*5:参照:http://drf.lib.hokudai.ac.jp/drf/index.php

*6:http://www.trios.tsukuba.ac.jp/scripts/websearch/index.htm

*7:実際、SCPJのアンケートでは色よい返事をしないところもNII-ELSやSPARC Japanの調査にはいい返事をあっさりしたとかいう例もあるとか。世間って正直かつ薄情

*8:現在日本最古の図書館系ブロガー認定中。参照:ACADEMIC RESOURCE GUIDE [まぐまぐ!]

*9:「当然著作権が・・・」と思われるかもだが、多くの学術雑誌は投稿時に著作権譲渡させている。細かい内容はその中身をみないとわからないけれど

*10:日本図書館情報学会も、繰越金収入を食いつぶしている状況だそうで、早ければ今年度中にも赤字転落しかねないとかなんとか

*11:黒澤節男. 機関リポジトリ著作権Q&A. 広島大学図書館, 2008, 34p.