IRから広がる学術情報ナビゲーション
1日目、午後後半。
コンテンツ収集戦略 紀要のオーバーレイジャーナル化〜貴重資料電子化まで(阿部潤也さん・東京歯科大学)
(自称?)世界初(!)の歯科系の単科リポジトリ、東京歯科大のIRUCCAについて。
IRUCCAについてはブログを業務日誌的に使う試みとして、
が知られていて、発表の中でも「リポジトリとブログは親和性が高いのでは?(どちらも継続的に発行・登録する、内部検索/外部からのクロールを可能にする)」というような話もあり・・・
他にもいろいろ面白い話はあって、個人的にはやはり、卒業論文を登録している、というあたりが興味深かった。
2年間取り組んで、それぞれ卒論書く学生が15人前後の中で、1年目十数人、2年目は今の段階で5人くらいは登録済み、とのことで登録率はかなり高い。
卒論からそのまま修論までつなげようとする人以外は登録しない理由がない、とのことで・・・卒論の中にも価値あるものはたくさんあると思うので、ぜひ今後も成功していってほしい、と想う。
IRからGeNiiへのリンクで広がる学術情報ナビゲーション(杉山智章さん・静岡大学)
リポジトリの中の一つの取り組みとしてではなく、リポジトリ全体の在り方として今回かなり感銘を受けたのはこの静岡大のリポジトリかも。
- 本文の1ページ目をjpeg化してサムネイル表示する
⇒サムネイルがあることで本文の存在もアピール!
- 著者名典拠の整備(学内にも同姓同名の人いるし)
- 出版者、学会によるブラウズ
- リポジトリのメールニュース
- 「サムネイル付きで」コンテンツを配信するRSS...
などなどなど、色々面白い取り組みはあるのだが、特に「これは・・・!」と思ったのは「自分の論文にコメントを付与したい」、「自分のwebから(まとめて)リンクを張りたい」という要望に対応してリンク設定機能やアイテムごとのコメント付与機能も実装したとのことで・・・これはやばいwww
先生が、自分のレコードにフォローを入れられるという。
「これ著者最終稿なんでここの字が・・・」とか、「これは○年の調査なんで今とはちょっと・・・」とか書けるわけですね。
面白いなー、っていうかMy Open Archive*1みたいだ・・・やっぱ、ああいう楽しさがある方が登録する気もわくよね・・・いっそリポジトリもStarが付けられるように(ry
そしてそういうのをフットワーク軽く実装できる体制がまた素晴らしい・・・そこら辺の話はまた質疑でも出てくるのでそちらもぜひ。
社会科学系小規模大学IR Barrelの取組み(鈴木雅子さん・小樽商科大学)
図書館総合展・3日目感想―ずっとDRFのターン!― - かたつむりは電子図書館の夢をみるかの中で、小樽商大の先生の論文についてはILL無料受付、という新たな試みを紹介されていた小樽は鈴木さんの発表。
ただ、今回はILLの話よりは「研究者が執筆した文献の可視性を高めること」ということで、セルフアーカイビングの支援とアーカイブしたくなるような体制作りについて詳しく説明されていた。
研究者ごとにプロフィール等と成果が合わせて表示されるページを作ったりとか、メタデータだけの登録も(著作権等の関係で登録できない人でも、「レコードがないわけじゃないんだ」ってことを示せるように)OKにするとか・・・
無料ILL受付ももともと「これだけ需要がありますよ」っていうのを先生にお伝えしたい、っていう話だったわけだし、ここはかなり研究者への支援、と言うところに力が入っているのが伝わってくる・・・ある意味、小規模大学の強みを上手に活かしている感じ。
(セルフアーカイビングとIRの話は最後でまとめて)
Access path to Institutional Resources via link resolvers(杉田茂樹さん、北大、筑波、千葉、名古屋、九州)
うちのブログでも何回も取り上げてきた、複数大学による連携プロジェクト、AIRwayについて。
要はIRのコンテンツをリンクリゾルバを介して表示しよう、という試みなのだが、その説明付けとして「(Googleから見られるといっても)研究者はGoogleを学術目的で使わない。Web of ScienceなりPubMedなりから見えないと・・・」という意見が研究者サイドからあった、というのはかなりの説得力だった。
「AIRwayは研究者・学生の自然な情報探究作業のなかで、機関リポジトリ搭載の研究成果が引っかかってくるようにする試み」というあたりが強く出ていた感じ。
あと後半で「紀要のビジビリティ向上はセルフアーカイビングとは質が異なる、出版である」というような話からDOIをつける試み等にも話がつなげられていき・・・ここら辺は非常に興味深いのだが、また「でもDSpaceなの?」ってあたりも再燃しそうな。
IRとセルフアーカイビング-島根大学学術情報リポジトリ(SWAN)ほか-(福山栄作さん・島根大学)
その名の通りセルフアーカイビング支援と言うことで、いかに手間無く(情報入力の労なく)リポジトリにレコードを登録できるようにするか、という話が前半。
ここら辺は思いっきりセルフアーカイビング、ということでかなり面白い。
サーチエンジンからのクロールは学生等の利用を、CiNii連携等は研究者狙い、というのを意識されているあたりも凄いな、と・・・
後半では遺跡資料のリポジトリの試みなど、研究「材料」の方のアーカイブの話も出てきてこれはこれでまた面白かった。
e-scienceとe-journalとIR、となれば研究サイクルが色々なところで電子化の恩恵を。
質疑
研究者との関係
- 茂出木さん
鈴木さんへ。研究者の信頼が増えた、と言う話があったが、教員はIRだけで信頼してくれるような甘い人種じゃないと思うが…
- 鈴木さん
信頼を得たくて始めたが、実際に得ているかはまだ疑問。
IRだけで得られるとも思っていないが、図書館=貸出と考えている先生もいるので、そうではないことをアピールしたい。
- 奈良女子大・渡(?)さん
キリのいい登録件数を踏んだ先生にインタビューしている、とのことだが、わざときりのいいところで狙った先生になるようにしたりはしている?
- 鈴木さん
(そういうことは)懇親会で話したい(笑) 今はあまりそういうことはない。
AIRwayについて
- 茂出木さん
そもそもリゾルバ買えないところはどうするの? 日本でどれくらいリゾルバ買ってるか調べている?
- 杉田さん
ここで聞きたい(買っているところと買ってないところそれぞれ挙手。全然みんな買ってなかった(汗))
無料のリゾルバがあればいいが・・・
- 鈴木さん
小樽はAIRwayに参加しているがリゾルバはない。
買っているところに読んでもらえれば著者のメリットにはなる。
- 九大・池田先生
AIRwayからリポジトリにどれくらい流れているかはチェックしている?」
- 杉田さん
していない。ただ、母体が少ないからまだとても少ないと思う。
- 千葉大・土屋先生
リゾルバ買えるところは電子ジャーナルが買えている。
いまいちやる気が出ない。
- 杉田さん
北大でも読めないジャーナルもあるし、それなりのメリットはある。
- 土屋先生
リゾルバは「ついでに買う」余裕があるところが買うもので、余裕がないところは買わない。
機関リポジトリのコンテンツが見たくてリゾルバを買う、なんてまずない。
意義は認めるが作戦としてはもっと考えないと。
こっから先は発言全部は無理(爆)
腱鞘炎になる(死)
ってことで要旨だけ。
- リポジトリの実働人数は?
⇒東京歯科:関与は正職員8員全員関与。実質は1人以上2人未満。
静岡:日常3人、WGで企画や広報を担当。
小樽:正職員5人全員。それぞれが担当の先生を受け持ち、130人の教員全員カバー。
北大:システム・貴重書DBと合わせて中心3人。広報は10人くらいで手分け
島根:7-8人のWG
- 研究者のブログをリポジトリに登録したり、ということは?
⇒(歯科)検討はしていないが、ありかとは思う
- 遺跡リポジトリについて(詳細)
こんな感じで初日は終了、と。
いや本当、面白かったー・・・というか、発表を聞いていて色々気づかされることが。
ちょっと前のエントリ*2で「オープンアクセスやそれに関する運動の中でも割と何に重きを置くかは人によってばらばら」ということを書いたが・・・今回のCSI報告会では、そこら辺が特に強く出てきているように思えた。
つまり、
- 「誰」にとって
- 「何」を見えやすくするのか
- それによって何を達成したいのか
と言うこと。
「誰」のところは大きく研究者/一般に分けられて、機関リポジトリのアウトプット分析のあたりがこれにかなり関わってくる・・・IRに登録してもJ-STAGEのアクセスが変わらず、IRへのアクセスが別に増えているというのなら、IRへアクセスしているのは「研究者ではない」=政府機関、企業やそれ以外の一般の方等が、仕事の目的や趣味・興味でアクセスしたりしているんじゃないか、という可能性。
ここら辺はNIHのパブリックアクセス方針みたいに、「国民にとって利益となる」という考えにつながるわけで、非常に重要な側面である・・・一方、引用等にはあんまり結びつかないことが考えられる(だって論文書かないだろう人らのアクセスなわけだし)こともあり、伝統的なセルフアーカイビングによる利益として言われてきたこと(研究インパクトが上昇する)とは別のこととして捉える必要があるはず。
研究者はこういう形での「利用の伸び」を嬉しいと捉えるか(そりゃ嬉しくないわけはないだろうが)、それともコストを割いてまでやることじゃない(業績に反映されるか不明だから)と考えるのか、とか。
それと同時に従来からのセルフアーカイビング支援という側面もあり・・・さてはて、はてさて。
あるいは「なに」ということについて言えば、もちろん研究者にとっては研究に使う情報が見えやすくなるわけだが、それと同時に自分の業績がどれだけ実際に読まれているか、というアウトプットもIRによって今までにない形で目につくようになるわけで、これはこれで一つ重要なことであるのだが。
そこで問題となるのが、さて、IRへのアクセスとは何であるのか、という先の疑問・・・誰が、何の目的で使っているのか。
ボット等は省くにしても、例えばサーチされやすい単語だったもんだから興味本位でちょっとネット住民によく見られてた、と言うのと、本気で興味のある民間の方が読んだとか学生が読んだ、っていうのと、同僚の研究者読んだというのが違う意味を持ちうるわけで・・・でもそこはしばらくはっきりしそうにもなく。
まあ引用増加の有無とかで研究者へのインパクトは見えないこともないだろうが・・・なかなか、一筋縄ではいかなそうだしなー。
いや本当、これだから機関リポジトリやオープンアクセスは複雑怪奇で、面白い。
・・・本当は2日分まとめていっきに、と思ったのですが、さすがにそろそろ体力限界なので(苦笑)
2日目の様子については、また後日ー。