学術雑誌とページ増加-で、実際どのくらい増えているのさ?-
最近、コンソーシアム契約等で沈静しつつあったかと思われた学術雑誌価格の高騰問題が再び大きな議論になっていますね。
雑誌の価格は毎年5〜8%のペースで値上がりを続けており、努力だけでは限界がある。
値上がりは、紙媒体と電子媒体の両方を発行することなどで出版社の製作コストが上昇しているのが原因。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20080618-OYT8T00231.htm
ここで自分はブックマークコメントで「嘘だ!」と思いきり突っ込んだわけですが*1・・・いやだって、電子化によるコスト増が問題ってんじゃ、1970年代からシリアルズ・クライシスが始まってた理由としておかしいだろうよ、とかなんとか。
むしろページ増の方が問題なんじゃねえか・・・とは思うわけですが、いやでもページが年5-8%ずつ増えているかと言われるとそんなこともなさそうだしなあ・・・。
まあ、気になったら調べてみればいいか。
ってことで、試しに学術雑誌のページ数を調べてみることに。
対象は5号館さんの方のブックマークコメントで名指しで批判されているNature*2と、自分が毎度お世話になっている情報「工学」じゃない情報学系の学術雑誌論文の有名どころJournal of the American Society for Information Science and Technology(JASIST)*3。
それぞれ1950-2005までの5年ごとのページ数と、2006年・2007年について見てみます。
JASISTの方は年1巻なのでカウントが楽なのですが、Natureは1955年分まで年2巻、1960年から年4巻、1975年分から年6巻なのでカウントが難しい・・・とりあえず最初の1950-1955分に揃えて、1950-1955は年の後半の方の巻、1960年分からは後半の2巻分、1975年からは後半3巻分でカウントします。
で、やってみた結果がこのように。<表 年ごとの総ページ数の変化>
出版年 | Nature | JASIST |
---|---|---|
1950 | 1122 | 229 |
1955 | 1232 | 271 |
1960 | 2276 | 323 |
1965 | 2776 | 380 |
1970 | 2740 | 430 |
1975 | 2380 | 356 |
1980 | 2540 | 455 |
1985 | 2370 | 421 |
1990 | 2412 | 614 |
1995 | 2354 | 801 |
2000 | 3104 | 1338 |
2005 | 3602 | 1557 |
2006 | 3210 | 1980 |
2007 | 3444 | 2414 |
・・・・・・増えている・・・・・・
Natureの方は元が多かったとは言え1950-2005でページ数3倍、JASISTに至ってはページ数10倍以上という状況。
Natureは1960年にどばっと増えて、その後1990年代まで抑え気味だったのが2000年代に再び増加。
一方、JASISTは1990年代までゆるゆると増え続けていたのが1990年代半ばから一気に増加傾向、2000年代には年1,000ページを超える状態に・・・と。
これはまあ、雑誌出版社側の「研究者が論文を量産している」という主張もわからんでもない・・・
・・・って言っても、年5-8%の価格高騰がふさわしいかというと微妙なところだけど(苦笑)
Natureの方は意図的にページ数を抑えている気があるので除外するとして、JASISTの方はシリアルズ・クライシス勃発期の1975年から仮に年8%ずつページ数が増加したとすると現在4200ページ弱に、年5%ずつなら1700ページ弱になる計算になり、JASISTの価格変動がわからない*4からなんとも難しいところだけど、ページ数の増え方に対し年5-8%の価格高騰に抑えられているとしたら案外、相場なんじゃないかという気もする・・・
却下率とかもまだきちんとは調べていないが、もし却下率が上がっているとすれば査読コストはさらに上昇している可能性もあるわけで・・・うーむ。
出版社側が便乗して値段上げているってのももちろんあるやも知らんが・・・やっぱ、論文数・研究発表数が増加しているってのもかなりでかい気はするなー。
ま、なんの代表性もなく適当に選んだ雑誌2誌だけを見た結果なのでなんとも言えないけれど・・・*5
最近だと中国の大躍進とかもあるし、国際的な論文・研究成果の生産数自体が増えて、一方で競争も激化しているとすれば、放って置く限り論文数が減少傾向になることはなさそうなわけで・・・
研究が盛んになることは素晴らしいことなんだけどね。
雑誌の値段が上がったり、買わないといけない雑誌の数が増えたりするのは、頭痛い問題だよなー。
研究者に「論文書くな!」って言うわけにもいかんだろうし、日本単独でそんなお触れを敷いたところで意味ないし・・・
・・・実は雑誌の値段下げたり購読数減らすことを考えるより、予算確保するよう国に働きかける方がまだしも簡単なんじゃないかとすら思えてくるが、たぶん幻だろうしなあ・・・
電子ジャーナルに慣れきった身としては今更雑誌購読できないとかマジで悪夢なんだが、はてさて、さてはて・・・。
*1:はてなブックマーク - min2-flyのブックマーク / 2008年6月18日
*3:
*4:雑誌価格調べるのは意外に面倒なんだよ(汗) いえ、あとで時間見つけて調べますが
*5:そもそもビッグディール契約(ある出版社の雑誌を範囲決めてまとめて購読)が定着している中で個別の雑誌見ても仕方ないという話でもあり、となると例えばElsevierのある契約形態で見られる全出版物のページ数とかを考えればいいのかな? ・・・それはブログでやるこっちゃねえな・・・