かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

第8回情報メディア学会研究大会に参加してきました


すでに昨日の話になってしまいましたが、情報メディア学会第8回研究大会に参加してきました!


基調講演が小野寺夏生先生、特別講演がACADEMIC RESOURCE GUIDEの岡本真(id:arg)さんということでもともと「こりゃあ行くしかねえ!」って感じであったことに加え。
今回は自分も院の先輩と一緒に、ポスター発表させていただいても来ました。

  • Budapest Open Access Initiativeの思想的背景と受容
    • 岡部 晋典 (筑波大学大学院図書館情報メディア研究科)
    • 佐藤 翔 (筑波大学大学院図書館情報メディア研究科)


ポスター発表、と言いつつも今回の情報メディア学会ではポスター発表者によるライトニングトークの時間も設けてあり、こちらは共同発表の岡部さんが壇上に*1
同じくポスター発表には文学館研究で有名なhttp://d.hatena.ne.jp/literarymuseum/の岡野裕行さん(id:literarymuseum)も参加されていました(岡野さんのご発表の内容については後述のメモ参照)。


では以下、各講演およびライトニングトークのメモです。
いつものように聞き取れた範囲/理解できた範囲/書きとれた範囲でのメモですので誤っている部分や抜け落ちている部分が多数あることと思います、その点についてはご理解いただければ幸いです(誤っている部分に気付かれた方はコメント等でご指摘いただければさらに幸いです)。




基調講演 文献の計量でわかること、わからないこと(小野寺夏生先生、筑波大学

序論
  • 計量書誌学
    • 計量書誌学とは?
      • 記録された情報を対象に
      • 計量し、分析することで
      • 情報の記録の過程と学問領域の発生と発展を分析
    • 地味で重箱の隅をつつくような分野
      • 日本でやってる人は指で数えるほど
      • 数字を使う=近寄りがたい?
      • 数字からわかること、わからないことがある
  • 研究評価への関心の拡大で計量書誌学が前よりは注目される?
    • 嬉しいことでもあるが誤った利用への注意も必要
  • 計量書誌学の研究目的
    • 効率的・効果的な図書館運営
    • 効率的なデータベース検索システムの設計
    • 研究及び研究コミュニティの社会学的研究
    • 情報に関する経験的分布法則の解明
  • 何を「計量」するのか?
    • 計量される行為:情報の生産(論文の発表等)と情報の利用/消費(引用、購読、電子ジャーナルの利用等)
    • 計量される実態の単位:記事(雑誌論文・新聞記事等)、単行本、特許、雑誌、webページ、webサイト等の記録された情報
    • 計量される項目:著者等(論文の著者や所属機関等)、情報源(雑誌等)、時期(発表年等)、主題
研究者の論文生産性は向上しているか?
  • 主要文献データベース収録文献数は15〜20年で倍増するペースで増えている
  • 日本の著者による化学論文に限定すると・・・
    • 論文数は増えている
    • 見かけの生産性は上がっている(1人の著者が何本書いたか)
    • 実質生産性は下がっている(実際の論文数に対する共著も含めた著者数)
    • 論文あたりの著者数がかなり増えている=論文が増えているのは著者が増えたため。1人当たりの生産性は変化していない?
  • 数学、化学、生医学分野の著者数の変化を比較
    • どの分野も多人数で書く論文が増えている
  • 確実にわかったこと
    • 論文の著者数はどの分野でも増加
    • 生産性は変わっていないが研究者の数が増えている
  • まだよくわかっていないこと
    • 共著者数が増えたのはなぜ?・・・研究の大規模化だけ? 本質的貢献をしていない人も著者にする傾向?
    • 論文1件の実質的内容は豊かになっているか?
よく引用される論文を予測できるか?
  • 論文の被引用数はどれほど不均一?
    • 同じ雑誌、同じ年に発表された論文だとどれくらいばらつく?
      • 生物医学の6つの雑誌を比較
        • 平均で見ると1/3くらいしか平均以上の引用を得る論文はない。2/3は平均以下で、凄い引用される論文と引用されない大多数に分かれる。だからIF(平均)は個々の論文評価にはならない。
        • どの雑誌でも上位25%の論文で全体の50%くらいの引用を、上位50%で75%前後の引用を占める・・・ばらつく
      • 同じ著者の論文の被引用数はどう変動?
        • 掲載雑誌のIFと個々の論文の被引用数は全然関係してない。
  • Sleeping BeautiesとFlash-in-the-Pans
      • Sleeping Beauties=はじめ引用されないがあとからじわじわ引用される論文
      • Flash-in-the-Pans=最初たくさん引用されたがあとはだめな論文
    • 発表後1〜2年の引用と3〜4年後の引用の間に関係はあるか?
      • 相関はあるがかなりばらついている
  • 被引用数に影響を及ぼす要因(内容・品質以外に何が関係する?)
    • 分野、研究領域・・・違う分野の論文や研究者を無条件に比べるのはフェアではない
      • 生化学、分子生物、基礎医学=よく引用される
      • 工学、数学、社会科学=引用少ない
      • 物理学、化学=中程度
    • 記事の種類
      • レビューはよく引用される
    • 国・言語
    • 著名な著者はよく引用される(マタイ効果/ハロー効果)
    • 著者が多い/国際共著論文はよく引用される
    • 参照文献の多い論文はよく引用される
    • 参照文献中に最近の論文が多いほどよく引用される
    • ただし上の中にはほぼ確かなものと一部でだけ言われているものもあるし、交絡因子が含まれている可能性もある
      • 条件を揃えて交絡を除いて何が引用に影響を与えるかを小野寺先生たちで研究
      • Price指数(参照文献中に最近の論文がどれだけ含まれるかの指数)が最も多くの分野で引用と関係。流行を追っている論文の方がよく引用される傾向がある?
      • 参照文献数が多いほど引用が多い、も顕著。他の要素はそんなに顕著ではない?
  • まとめ:論文の引用データの特徴
    • 被引用数は論文の他の品質指標とある程度の相関はあるが、高くはない。引用だけで内容評価は不適当
    • 分野、論文の種類、使用言語等で被引用数は大きく変動
    • 他にも形式的要素が関係
    • 同一分野の同一雑誌でも被引用数は大きく変動。平均値を代表に使うのは不適当
  • コメント
    • ロングテール説への疑問
      • 20-80の理論は誇大表現
      • 少なくとも計量書誌学データではせいぜい20-60
    • 引用されない論文は無用のゴミか?
      • 「実験科学の発展は・・・凡庸以下でさえある人間の手によって・・・」(オルテガ, 1930)
      • 引用されない論文を淘汰すると、それらによる引用がなくなるので再び引用されない論文が出てくる
著者の論文生産性や論文の被引用数はどのように分布する?
  • 非常に偏るのはわかるが・・・
    • ロトカの法則、他の多くの生産分布にもあてはまる
    • なんでそう分布するのか?
  • 累積優位性モデル
    • ある著者が新たな論文を生産する確率は、その著者がすでに持つ論文の数に比例する
    • 新たな著者が出現する確率αが存在(そうでないと新しい著者はまったく出てこないことに)
    • 定常的Yule分布・・・ロトカの法則に漸近する/定常的分布は経験的な分布とそぐわない面も
    • 定常状態を仮定しない累積優位性モデル・・・小野寺先生が仮定
      • 著者数が増えるほど分布の湾曲がゆるやかになる
      • 「現代雑誌70誌」の単語出現頻度データに当てはめると、ロトカよりも当てはまりが良い
      • データが発展していくと分布がどうなるか、例えばテキストが長くなると異なり語数がどうなるかといったことを考えるときに役に立つ(?)
質疑
  • 放送大学・三輪先生:小野寺先生の研究成果に基づいて、今後の研究者にどうすれば引用の機会が増えるかのアドバイスがあれば・・・
    • 名和先生たちが『引用する極意、引用される極意』*2という本を書かれた。『情報管理』に紹介を書かせて貰う予定。引用されるための戦略を立てるのはいいが、ある程度は程度の高い雑誌を選んだ方がいい。ただIFの高い雑誌なら引用されるわけではなく向き/不向きというのがある。内容が読者層にあった論文に出す方が引用が高い。なるべくそういう雑誌は何かを見定めて出すことが必要。それからタイトルに魅力的なのをつけるとかいうのもあるが、あんまり関係ないらしい。ただ抄録をきちんと書くのは重要。雑誌が構造化抄録を取り入れた方が読みやすいしそれだけ引用もされやすい。
  • JST・加藤さん:応用ほど引用されるのが少ないというお話だが、応用の方が引用されなきゃいけない気がするのだが・・・。それと個々の論文の情報量が変わっていないというがその根拠は? 年々、複写をしていると1論文あたりのページ数が落ちている気がする。
    • ページ数はMEDLINEで調べた結果。平均7ページで変わっていない。ただ雑誌によって違う。電子ジャーナルになると詳しいデータは電子版にだけ載せるとか、逆に論文の審査を絞って長いのを載せるというところもある。それと内容は変わっているかどうか調べるのが難しい。
    • 応用分野の引用が少ないのは応用は基礎を引用するが基礎は応用を引用しないのが一つ。ただそれだけではなく、例えば工学は論文だけが命ではなく特許や製品化も大事なので論文に必ずしも発表しない、だから引用も少ない。引用数の多寡は分野により複雑。論文数の多寡、参照文献数の多寡、ISIへの採録の程度など。
  • 鶴見大学・長塚さん:研究グループの規模が引用数に影響を与えるとかいう研究もあるが、それを今回の分析に含めなかった理由と、それについてどうお考えか教えてほしい。
    • それは個々の論文の引用ではなく研究グループの引用を調べるときに、グループが大きいと引用されやすいとかいう話。個々の論文にも関係あるかも知れないがそこまでは見られなかった。
  • 東邦大学・児玉さん:最後のロトカと累積優位性モデルのところの最後の例で言葉の分布の話をしていたが論文の分布とは違うのでは?
    • いろいろなデータが生み出される状況はそれぞれに違うが、それだけ違うはずのものが似たような分布をするというのが見たい。論文の分布については共著をどう考えるかが問題だが、すでに試した人はいて、基本的にそんなに変わらない。基盤的なところの共通性があるのではないか。




特別講演 Academic Web宣言:学術資源を生かすための構想とその課題、そして可能性

  • (min2-fly注):リンク等についての詳細は岡本さんが絶対にプレゼン資料をアップするはずなので、そちらを参照のこと!
  • タイトルは深夜のテンションでノリでつけた。やり過ぎたかも。
  • 「何が宣言だったんですか」とか聞かれるかも知れないが気にせずやっていきたい。
  • 今日の話はこれまで『情報管理』に執筆してきた話をまとめて再整理したもの
  • なるべく多くの事例を紹介したい
    • こういうものがあった、ある、という事例を多く紹介したい
  • 日本のアカデミックな、政府系のサイトの駄目な部分・・・
    • 1番の問題は基本理念、基本コンセプト、人間とは何かとか情報とは何かをきちんと考えてないから駄目
  • 自己紹介
    • 国際基督教大学卒。卒業研究では中国の法律が日本にどう入ってどう変わったかを政治思想的にやってた。
      • ICUは広く浅くなところ。強みとしてとりあえず単語を見ればそれが何であるかはわかることがある。
      • 教養系の科目はつまらなくてもやっておいた方がいいよ>学生へ。使える新卒は勉強してきたやつ。部活やサークル、バイトを頑張ったと主張する奴は自分が新卒の面卒担当なら速効落とす。
    • ACADEMIC RESOURCE GUIDE(http://www.ne.jp/asahi/coffee/house/ARG/, ブログ版はhttp://d.hatena.ne.jp/arg/
      • 1998年7月に創刊したメールマガジン
      • 継続は力なり。ここまで来ると習慣化してきている。
過去:ARGの10年間
  • 1998年7/11創刊、当時700部発行(ちなみに任意参加の学会のメルマガで1,000部超えたら奇跡。700〜800で打ち止めになる)。当時岡本さんは25歳。
    • 「自分のメディアを持つ」ということに憧れて始める
  • 創刊時の発想:2点でのつなぐメディアとして
    • 分野と分野の間をつなぐ
      • 日本文学における電子テキスト作成・・・文字コード、異字体等の様々な問題
      • 法学における法令の電子化計画・・・XMLを使ってどうやって法令を電子化するか
      • 2つの分野と関わってお互い学ぶことがあるだろう、と気付く。
      • 分野、対象は一致しなくても「電子化」という手段は一致する、つなげられる。分野ではなく電子化という手段に着目して情報提供・・・興味が持たれるように(ニーズの発掘)
    • 市民と専門家の間をつなぐ
      • ここも「電子化」を軸につなごう
      • 「残念」発言は毎年繰り返されている。梅田望夫はネット上で人気があったから大騒ぎになっただけ。
      • 「日本のインターネットはアカデミックに役に立たない」と繰り返される。特に市民から
      • 数十万のアカデミックなwebサイトを見てきた経験としてはそんなに言われるほど少なくはない。よくある単なるアカデミズム批判では?
      • 「もっと紹介しよう」。
      • 「それもリンクだけでなく解説もつけよう」。
      • 「批評しよう。市民が身近に感じられるように、学問的な内容には立ち入れないけど市民の目から使いやすさをレビューしていこう」。
      • 実際にその場でJ-GLOBALについての紹介&批評記事をその場で紹介。
  • 「"電子メディアの学術利用"を促進していこう」
    • 数年後・・・「インターネットの学術利用」
    • 最近・・・「広げよう、インターネットの学術利用」とビジョンは変遷
  • メディアとしてのARGの成果
    • 知見の先行
      • いくつかの事例の紹介。電子文献の参照方法(2000, 指宿信さん)、ウェブ日記=後のブログ(1999, 森山和道さん)、インターネット・アーカイブの必要性(1999, 鵜川義弘さん)
    • 研究の誕生
      • 「インターネットでの発信は業績にならない」
      • 赤間道夫さんが「二村一夫著作集」(過去の業績をすべてウェブ公開)について記事執筆、その際ウェブ上で新作を出せるかと指摘
      • 二村一夫さん、ウェブ連載で「高野房太郎とその時代」を発信、完結
      • 岩波書店から図書として刊行されることに。ウェブで発信されたものが学術的な業績になった
  • ARGの限界・・・10年を経ての気づき
    • 10年やって気付いたのはむしろ限界。部数は最近まったく増えない。メディアとしての限界を感じている。
    • メディア型コミュニティーの限界・・・著者、読者、紹介される人がARGというハブを通してやりとりする。結局岡本さんの一存?
    • メディアのままじゃ駄目だ、プラットフォームになろう
  • ARGの構造転換:2つの試み
    • 入れ物的な場を作ることで岡本さんがいなくても回るように
    • ARGカフェ&フェスト
      • 来年2月はつくばで開催するよ! よろしく>つくば勢
    • academicweb.jp
現在:学術資源の今
  • Why:「入手」と「共有」
    • 倉田敬子先生の2000年の分類・・・情報入手型の利用と情報共有型の利用
    • (懸念)「入手」環境は整備が進んだ。しかし「共有」は?
  • Who:「個人」と「組織」
    • 10年前のアカデミックwebの大部分は個人(研究者、専門家)が担っていた
      • 人は誰でも専門家であることが誰もが発信することで見えてきた
    • 近年は組織が学術資源をwebで公開していく、大きな役割を果たすようになってきている
      • 大きいのは大学図書館、国立であれば機関リポジトリ等。+JST等の国の機関。
      • 少なくとも10数年前はJSTもNII(以前だけど)もNDLも「こんなんが国のでいいのか」っていうくらいで酷かった。
      • 最近は国系の機関が情報発信をガンガン
    • (懸念)昨今の大学教員の過酷な状況。誘われても「絶対にやだ!」と断っている。「個人」が現実的な忙しさで活力不足に?/核になっていた世代がポジションを得て忙しくなる・・・次の若い世代があまりいない/組織はwebに集中してくるようになった
  • What:「成果」と「過程」
    • 成果:機関リポジトリ
    • 過程:研究系ブログ
      • 有名どころや80歳の研究者もやっている
      • 日常ネタがあってもいい、等身大の研究者の姿を見せるべき。日々をつづる中でこそ研究の過程は生まれる
  • 著しい進境
    • 基盤整備、Web2.0CGM/UGC、情報量の爆発
    • 事例
      • 組織系:PORTA, CiNii, J-GLOBAL(今は不当に評価が低い?), JAIRO, Researchmap.jp
      • 個人系:Copy & Copyright Diary(http://d.hatena.ne.jp/copyright/)・・・国会議員も見て勉強している, かたつむりは電子図書館の夢をみるか(ここだよ!)・・・学部学生でも自分をプロモートできる
  • (懸念)現在は成果に集中しすぎ。機関リポジトリから生まれるものが市民との良いコミュニケーションになるようには思えない。現在は組織の成果を見せることに熱心になり過ぎ。いくら成果を伝えられたって一市民が理解するのはノーベル賞とったときくらい。成果を伝えようなんてのはおごりで、プロセスの方がよほど共感しやすい。
    • 組織/入手/成果が重視されていて個人/共有/過程が軽視されている?
    • 事例:牛山素行さん・・・豪雨災害と防災情報について研究。研究として悩んでいる過程もつづっている。
    • 事例:岡野裕行さん・・・文学館研究のプロセスをつづっている。具体的な成果だけでなく行ったところも書く。
未来:Academic Webへ
  • 前史としてのデータ開放提案
    • NDL, NII, JSTにDBまで名指しでAPI公開の要望を表明
    • 研究者DBの壁・・・国立のサービスは永続性が懸念される(Researchmap.jpは民業圧迫?)
  • なんでこんなことをやるか?
    • シリアルズクライシスから何も学ばないのか? なんでも外資系のベンダでいいのか?
    • Google和解条項・・・アメリカはああいう判例が起きる国。今オープンなものがいつどうなるかわからない。アメリカは明確に国益を重んじる、依存しすぎはどうなのよ?
    • 学術産業の未成立・・・国だけじゃ回らない、民間で公共的な事業ができる領域を作らないとまずい?
    • 「やらねばならない」からやること。「Elsevierがあるからいいじゃん」とかじゃない。
  • どんなサービスになるの?
    • アグリゲータになる
      • Import/Integrate/Exportを出来るもの
    • インセンティブデザイン
      • 研究者が使いたくなる⇒使わざるを得ないものに、アクティブな他分野の研究者や一般市民をうまく取り込めるか、パッシブな人も取り込めるか
    • インテリジェンス&インタラクションの基本要件
      • 相互参照関係を維持
  • 実現に向けての課題
    • 自立的な持続可能性の余地
    • 商用利用禁止規定との兼ね合い・・・民間だけど公共的な役割をするところが何もできなくなってしまう
    • 依然クローズな基盤データ環境
  • 実現すべき未来・・・「学問の生きる社会」を作るべき
  • 研究者への問い・・・「どのような社会を望むのか」
  • 今日の資料は月曜日の朝までにはブログでアップされるとのこと
質疑
  • 筑波大・小野寺先生:ARGの成果のお話が多かったが、プロセスの話をお聞きしたい。日本の学術資源は成果はあるがプロセスは不足しているというが、プロセスはwebに出ているが探すのが難しいだけなのでは。どうやってこれだけの情報を集めている?
    • 後半について言えば全般に見つけにくく、探しにくくなった。ブログに移行したことでac.jpとgo.jpだけで見つからなくなった。そう言う意味ではacademicweb.jpに集めて探しやすくしたいということもある。プロセスについて言えば、10年もやっていると全然調べていない。ほぼ勘。研究者の名前が目に入った時にすぐ検索する、それをやっていればあちこちの機関のサイトは必ずチェックするようになる。実際、最近は調査に時間とれていないのでかたっぱしからメモして後で一括してやっている。それとそう言う本も今年の9〜10月くらいには出すのでそちらも手にとってみて。




休憩

プロダクトレビュー




ポスター発表 ライトニングトーク

  • 19世紀末イギリスの公共図書館の利用者の実態:Portsmouth Free Public Libraryを事例として(筑波大学、千錫列さん)
    • イギリスの公共図書館・・・1850年公共図書館法が成立
      • 労働者階級を対象に教養の向上を目的とする
    • 実際はどうだったのか?
      • ポーツマス公共図書館を例に調べてみた
      • 貸出の構成比ではフィクションが他を圧倒している
        • 教養の向上にはなってない?
        • 人気だったのはディケンズの『二都物語』とか
        • 当時は通俗小説の扱い
        • ×教養 ○娯楽の提供
      • 新規登録者の職業
        • 最も登録率が高いのは学生(当時は裕福な家庭の子弟)
        • その他、ホワイトカラーが上位を占めている
        • 労働者階級はだんだん減っている
        • ×労働者 ○中産階級
  • 論文情報と特許情報を使った研究波及効果測定の試み:特定の研究者を対象とした分析調査事例報告(JST, 山口祐穂さんほか5名)
    • 研究者のアウトプットの評価を行う際に、数ではあらわせないイノベーションの推進に関する貢献度や人的ネットワーク構築への貢献をあらわせないか挑戦
    • JDreamIIの論文情報とNRIの特許情報から共著関係、共同出願関係の情報を絵に示す
      • 人と人のつながり
      • 機関と機関のつながり
      • 「経年変化を見ることでこういうふうにネットワークが変わった」を示して見た
        • 他の研究への影響や新たな人のネットワーク構築の評価につなげたい
    • 使ったのは+Planetというソフト。論文情報はJDreamIIから。特許はNRIから。事例検証の対象はJSTの北澤理事長。
    • 論文書誌情報のみ、特許書誌情報のみ、両方を統合した場合の解析・可視化結果を見てみる
    • 描いた絵を評価機関の先生に見せてヒアリングして見たところ、「機関評価においてはどこも自己評価をする際に数であらわれるものはリストにまとめて提出するがそれだけを求めているわけではないし、機関の研究全体のポートフォリオをあらわして研究の強みや他機関との比較、プロジェクト前後の変化を示してほしい」、「それを客観的に示すのは難しいがこのようなツールで可視化してもらえると評価者の支援にもなる」との意見をもらう
    • 一つだけ絵を見せる・・・北澤先生と共著が5件以上の機関を可視化。数だけではわからないどこと研究をしたのか、どうつながっていたのかがわかる。これを経年変化で分析すると年代を追ってネットワークが広がっていく姿が見える。人と人とのつながりを増やしたと言える。
  • Budapest Open Access Initiativeの思想的背景と受容(筑波大学、岡部晋典さん+id:min2-fly
    • 佐藤はメモをとるのに必死なので岡部が発表(今とっているよ)
    • 近年、OA運動が盛ん。その契機にBOAI*3がある。しかしその思想的根拠にはあまり踏み込まれていないのでBOAIの意図とその受容を見る。
    • 結論から言うとBOAIの裏にある思想はOA界隈に伝わっていない。
    • BOAIに援助しているのはOpen Society Institute*4という財団。投資家/篤志家であるジョージ・ソロスが設立した団体で、その目的はポパーの「開かれた社会」を実現すること。
    • つまちポパー⇒ソロス⇒OSI⇒BOAI、と意図が伝わっている
    • ソロスがどういう人かと言うと、独裁政権下のハンガリーで慈善事業の振りしてコピー機をたくさん寄付、そのコピー機を使って社会の情報伝達力がアップして独裁政権転覆させたりしていた。BOAIにも同様の意図を持って参加してきている。
    • このBOAIがどう引用されているかを見てみると、BOAIの理念に踏み込んでいるのは4件しかなかった*5。ソロスの意図はOA運動内部に伝わっていない。
    • 原因はいろいろありそう。OA運動家が思想的根拠まで踏み込んで考える気がない/参加する動機が多様すぎてまとまらない/ポパーが傍流だから黙殺されている...など、他にもあるかも。
    • でもOSIの援助を受けた、ってのはソロスの意図を実現することにつながるんじゃない?
  • 消費者教育における疑似体験学習教材の開発と評価(鶴見大学、市村希さんほか4名)
    • 新しい要素を盛り込んだ体験型教材の検証が目的
    • 近年、未成年者からのネット上でのサービスに関するトラブルの相談が多い
    • 疑似体験学習は福祉分野でも理解向上に効果がある。文部科学省も推奨。生徒が自分のこととして理解しようとしているという先行研究も。
    • 高校生の消費者教育の授業で3回研究授業を実施、2回目でフィッシングサイトの手口の理解を深める疑似体験教材を作成し生徒に使って貰った
    • 偽物のアンチウィルスソフトをつくんだCD-Rを配布。勝手に起動、いもしないウィルスがいたことを伝えて有料版購入フォームから個人情報を盗む
    • フィッシング詐欺とはどういうものでしたか?」という授業後質問の回答をテキストマイニング、ちゃんと理解してそうな単語が頻出
    • 理解度テストも授業実施前後で点数が向上
    • SP表でもいい結果が!
  • 地方自治体の施設間における地域資料認識の差異:古河図書館、古賀歴史博物館、古賀文学館を事例として(二松学舎大学、岡野裕行さん)
    • 研究の背景:おもな研究テーマは近代文学資料の収集・保存・公開の問題を図書館情報学的に考える。文学研究と図書館情報学研究の折衷。
      • 専門資料論や学術情報流通論の一領域
      • その延長として文学館の存在が浮かんでくる。文学研究者にとっての専門図書館としての文学館の機能、役割を検討
      • これまでの文学館研究は博物館的立場ばかりで図書館情報学からのアプローチが見られない。図書館としての側面を研究しているのは自分だけ。
      • 図書館情報学の立場から文学館の機能、役割を検討する=文学館と文学研究者に図書館と利用者と同様の関係がある?
    • 今回調査したのは・・・同じ自治体で公立の図書館、博物館、文学館を有している茨城県古河市
      • 3つの施設で地域資料はどう考えられているのかの比較・検討
    • 今日の図書館情報学では地域資料が重視されている(古文書、郷土出身者の著作、地方行政資料等)
      • 文学という観点からは郷土出身者の著書を考える必要
      • 図書館情報学では地域資料としての近代文学資料への言及は不十分
      • 博物館・文学館との関連の中で図書館はどのように文学資料を地域資料として位置づける?
    • 博物館、文学館はいずれも図書館情報学の観点から見ると地域資料を収集する施設。
      • 図書館が地域資料の保存期間として選ばれない可能性がある。古河市はまさにそうで、図書館<文学館、図書館<博物館。
      • 図書館では頼りにならない、期待されない部分が出てくる。「博物館ならば寄贈します。図書館にはできない」。
      • 地域資料は図書館にだけあるわけではないし境界はあいまい。図書館以外の施設に所蔵されていることを認識しないといけない。
      • どこに自治体の資料があるのかを探っていくことも必要。
      • 類縁機関とのつながりを積極的に模索することも必要。
    • 中小規模の地方公共図書館は地域としてのつながりをどの程度意識して資料を収集しているのか? 役割分担の意識はあるのかが問題に。
  • 「萌え」とメディア状況の影響:キャラクターの前面化(駿河台大学、想田充さん)
    • 「萌え」はよくわからない
      • 対象の事象を指さずプロダクションや個人の感情、文化をひとまとめに語っている
      • 今回はプロダクションについて扱う
    • なぜ「萌え」が大きな比重を得てきた?
      • メディアの性格と関係?
    • 蓄積、萌芽、展開、拡散の4期に分類
      • 萌芽期・・・美少女ゲームが成立した。福数ヒロインの差別化のためのキャラクターの類型化が必要に/マルチシナリオシステム・・・ストーリー選択とキャラクター選択が一体化する
      • 展開期・・・ゲームはシステム的な分岐によって何人ヒロインがいても一貫したストーリーを作れる/漫画・アニメでは複数のヒロインを併存させるためにストーリーが破綻
        • これまでの任期要素を再構成したキャラクター/12人の妹が出てくるようなゲームが出てくる
        • 表現の再構成でキャラが作られる、作品がキャラに依存
    • まとめ・・・
      • 製作者も消費者もキャラクター以外に盲目に?
      • 既存の表現の蓄積が整理・利用された
      • 「キャラクター」が最もわかりやすかった
      • 結局キャラクターだけじゃ駄目になってストーリーが再度必要になってきている・・・?




・・・ライトニングトークをメモするのにかなり集中したせいで体力をえらい消耗しました・・・


小野寺先生のお話は自分が興味を持っている分野にかなり近いこともあり、また昨年度末にお聞きした最終講義についてブログにアップしていなかったこともあり、この機に当ブログで取り上げさせていただけたのはとても嬉しかったり。
計量書誌学的手法を用いた昨今の研究評価に興味があったり、あるいは疑問・不満を抱いている研究者にはとてもためになる内容なのではないかと思います。
ちなみにPrice指数が高いものの方が被引用数が多い傾向がある=「よし、じゃあ新しい論文をいっぱい引用しよう」みたいな単純な話じゃない、ということも学会後の打ち上げに参加した際に小野寺先生がしていらっしゃいましたが・・・もともと「論文の中身以外の何が引用に影響するか」という話≒それらの影響を考慮したベースラインに対して実際の論文の被引用数がどうなっているか、ってことを見られるようにする話であって、「Price指数が高くなるような論文を書こう」ってのは中身以外の要因のために中身を流行に合わせるような本末転倒になりますしね・・・*6


岡本さんのお話の方では自分が取り上げられていてびっくりしてしまいましたが・・・岡本さんも本人がいるとは思っていなかったそうで(笑)*7
Academic Webについても、具体的な部分については諸事情により伏して話されていましたが、徐々にどういうものになるのか見えてきたような・・・


ライトニングトークはどれも濃縮されていて刺激的でしたが、個人的に一番印象的だったのはトップバッターの千さんでした。
イギリス公共図書館法成立がらみの、労働者階級を対象に教養を向上させるために(それが治安維持にもつながる・・・)って話はなんのために公共図書館が必要なのかって話題の時に自分もけっこう使っていたんですが。
1館の事例とは言え、そのイギリスでもかなり早い段階からむしろ中産階級に娯楽を提供するものになっていた、というのは考えさせられます。


ライトニングトーク後は飲み物/食事をとりながらポスター発表を回る時間となり、その後には参加者の投票でポスター発表の優秀賞も決められたのですが。
有り難いことに、今回の最優秀賞をいただくことが出来ました。
お手伝いいただいた皆さん、参加者の皆さんに心より感謝したいと思いますm(_ _)m


最初に共同発表の岡部さんから「ポパー⇒ソロス⇒OSI⇒OA運動・・・」という話をされた時に自分はかなり興奮したのですが、それが多くの方に伝わる機会を得られたようでとても嬉しいです。
共同発表させてもらえてありがとうございましたm(_ _)m


・・・朝、つくば駅を出る前に「ポスター発表なのにポスター持ってくるの忘れたから走って取ってくる!」って電話がかかってきたときはどうなることかと思いましたけどね!(爆)

*1:図書館情報学関連の学会で「ライトニングトーク」って言葉を聞くのはそう言えばはじめてかも・・・? 短時間なのでかなり濃縮されていて、後のポスター発表へ向かう動機付けとしては素晴らしいものなのではないかとかなんとか

*2:

引用する極意 引用される極意

引用する極意 引用される極意

*3:Budapest Open Access Initiative | Budapest Open Access Initiative

*4:Open Society Foundations

*5:佐藤補足:ちなみにこの4件もOSIの意図についてはふれていない

*6:自分が流行りものに弱いことはさておき

*7:ちなみに岡野裕行さんについてはいらっしゃるのを知っていてあえて、だそうですが