かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

研究成果報告会 「オープンアクセス、サイバースカラシップ下での学術コミュニケーションの総合的研究」参加記録


このブログをやっていると色々なテーマを扱うのでたまに自分の本業がなんだか忘れられているのではないか・・・と思うことがあるのですが(苦笑)、博士後期課程大学院生としての自分の研究テーマは学術情報の流通、中でも学術機関リポジトリやオープンアクセス運動など、学術論文を自由に使えるような環境ができると何が起こるのかな、ということなのです。
そんな自分には絶対に外せない科研費プロジェクトの研究成果報告会が、慶應義塾大学・三田キャンパスで開催されるとのことで、参加してきました!

研究成果報告会「オープンアクセス、サイバースカラシップ下での学術コミュニケーションの総合的研究」平成20-22年度科学研究費補助金基盤研究(B) 研究代表者:倉田敬子

日時:2011年2月5日(土)13:00-17:00
場所:慶應義塾大学三田キャンパス東館6F G-SEC Lab
プログラム(各ご発表の概要についてはリンク元参照):
  • 上田修一 (慶應義塾大学文学部):「最初に海外学術雑誌に発表した日本人は誰なのか」
  • 時実象一 (愛知大学文学部):「日本における電子ジャーナルの発行状況」
  • 林和弘 (日本化学会、科学技術政策研究所):「MEDLINE収録の日本の医学系雑誌の電子化状況とインパクトの変化」
  • 加藤信哉 (東北大学附属図書館):「オープンアクセスの進展と電子ジャーナルの利用統計 」
  • 森岡倫子 (国立音楽大学附属図書館):「生物医学分野においてオープンアクセスはどこまで進んだのか:2005年、2007年、2009年のデータの比較から」
  • 酒井由紀子 (慶應義塾大学信濃町メディアセンター):「オープンアクセス化の進む医学論文が一般市民に読まれる可能性はあるのか」
  • 國本千裕 (駿河台大学メディア情報学部非常勤講師):「医学・医療情報源としての「一般雑誌」:10年の変化とその位置づけ」
  • 松林麻実子 (筑波大学大学院図書館情報メディア研究科):「"e-science"とは何か」
  • 倉田敬子 (慶應義塾大学文学部):「日本の研究者にとって「情報共有」が意味すること:e-Scienceに向けての予備的調査結果」


発表タイトルと概要を見ているだけでもテーマが近い人間としてはわくわくするものばかりなのですが、当日はそれ以上に刺激的で今後の研究にも参考になる・・・というか、より直接的に後で論文等を書くときに引用させていただきたいものがたくさんありました。


以下、いつものように当日のメモです。
例によってmin2-flyの聞き取れた/理解できた/書きとれた範囲のものですので、ご利用の際はその点、ご了解をお願いします。
誤字・脱字や問題点等、お気づきの方はコメント・メール等でご指摘いただければ幸いです。



研究代表挨拶(倉田敬子先生、慶応義塾大学文学部)

  • 3年間の成果の一端を発表したい
    • 11人の分担者・協力者に1人ずつ別個の発表をしてもらう
    • 忌憚のないご意見をいただきたい

「最初に海外学術雑誌に発表した日本人は誰なのか」(上田修一先生、慶應義塾大学文学部)

  • 取り上げる内容
    • OAと関係あるか・・・かする程度?
    • 日本人の海外学術雑誌での発表はどのように始まったか?
      • 19世紀後半、主としてドイツとイギリス
      • 全体的な状況、Nature、初めての日本人
  • ポイント
    • 学術雑誌発展期と日本の開国のタイミングはうまくあっている
    • 海外学術雑誌への論文発表は「海外流出」なのか?
      • 昔からあって誰も、何も困っていない
  • NACSIS-Webcatを、創刊年を1年ずつ計算して雑誌数を数えてみる
    • 1861年から急激に雑誌数がふえている
      • この時期にヨーロッパで自然科学・物理学の研究が爆発的に増えた
    • この時期に開国、明治維新、研究体制整備、留学がパラレルに進んだ
      • これを論文発表の面から細かく見る
  • 主要な研究者の留学期間と海外論文発表
    • 下山順一郎:留学中に海外発表
    • 長岡半太郎:留学前に発表
    • 北里柴三郎:留学中に発表
    • 森鴎外:留学中に新聞で論争
    • 津田梅子:帰国後に発表
      • 注目したい・・・2度目の留学時にモーガンの指導を受け発生学の実験を行い論文執筆、帰国後に雑誌発表
      • 優秀な実験学者だった。「日本に帰るな」とも言われている
      • モーガンは後にノーベル賞をとっている。弟子の多くもとっている。そのままアメリカにいれば津田も受賞できた?
  • Natureについて
    • 南方熊楠:Natureへの寄稿者。掲載51本はトップタイ記録、まだ破られていない
    • 南方熊楠以前にNatureに4人の日本人の記事が掲載されている
      • トップ:杉浦重剛・・・若い頃に化学を研究、後に国粋主義者に。東宮御学問所で倫理学を担当
        • しかし当時のNatureは論文誌ではない。Letter to editorを中心とする週刊誌。記事も短い
  • これまでの調査で海外学術誌に論文が載った最初の日本人:長井長義、松本?太郎
    • 1875年、『Chemischen Gesellschaft』というドイツの雑誌の同じ巻号に2人の論文が並べて掲載される
    • 長井:共著論文、松本:単著論文
    • 単著だし松本が一番、と主張したい
  • シーボルトが日本に来た頃の話
    • 日本人にレポートをオランダ語で書かせて提出させていた
      • それを引用ではなく自著の中でそのまま大量に使っている
      • その中に美馬順三の「日本産科問答」というのがある。バタヴィア学芸協会雑誌に掲載され、ドイツの雑誌にドイツ語訳され掲載されている
    • 美馬順三のオリジナル研究ではない、他者の文献の解説
    • 海外研究者から引用もされている
  • まとめ
    • 19世紀後半、自然科学・医学の発展期に日本は間に合った
    • 欧米の雑誌掲載論文や記事はその根拠のひとつ
    • 比較的短い間に当時の雑誌の慣習になじむことのできた留学生がいた
    • 早くに亡くなったあり研究をやめた、志しを全うできなかった人の上になりたっている
  • 質疑
    • Q. 海外に初めてわたった日本人や世界で初めて空を飛んだのは誰か、という話はいろいろある。日本人で初めて海外雑誌に発表したのは誰だ、という研究の意義は? 知的好奇心を満たすのはいいが、なんのためにやるの?
      • A. おっしゃる意味はわかる。わたしが面白いのでやっている、好奇心を満足させる面は強い。ただ、最初でも触れたが、ヨーロッパの科学に日本人がどう順応したか、入っていったかをもう少し具体的に見ていくことができないか、ということ。これは今はカットしているが、研究生活というところでそれぞれがどう・・・日本人のそれまでの環境とは違うところの中でうまく対応していっていることに関心があって、それが知りたい。もう1つは、学術誌とはなにか、というのが関心。
    • Q. 今の質問にも関連して。当時すでに日本に学術誌はあった?
      • A. いえ、ありません。1875年の時点ではない。学術誌的なものはもっとあと。
    • どうして彼らは海外誌に出した?
      • 長岡半太郎は留学前にすでに海外誌に出しているが、その前に東京大学のお雇い外国人がたくさんいて、その1人が大塚貝塚大森貝塚*1を見つけたモース。モースが東大で英文紀要も出していて、雑誌やそれを中心とする研究への理解はある程度、あった。

「日本発行の科学技術分野の電子ジャーナル数:2005年から2008年への変遷」(時実象一先生、愛知大学文学部)

  • 学術雑誌数についての数字はいくつかある
    • Tenopirによれば・・・逐次刊行物は世界で18万、学術雑誌は43,500、電子ジャーナルは37,500
  • 日本ではどうなっている?
    • いくつかの電子ジャーナルサイトにだいたい載っている、とすれば・・・
    • 実際に数えた例としては?
      • 時実の調査:2,899 電子ジャーナル:949
      • 堀内ら:2,207 電子ジャーナル:1,036
  • 今回は・・・前回が2005年なので、2008年にも数えて比較する
    • 大学が発行している紀要は除き、学会が発行しているものを論文誌として数えると、2008年現在も刊行しているものは約3,000件
    • 和文・混載誌が2,673、英文誌374
    • 電子ジャーナル総数は合計で1,875
    • 電子化率・・・全体で35.2%、和文・混載誌29.0%、英文誌79.7%
  • 電子ジャーナルサイト間の分布
    • NII-ELS、J-STAGE、MedicalOnlineには均等に分布している
      • 意外に重複がない。どれかにしかない雑誌が多い。和文・混載誌も英文誌も共通
    • 和文誌はMOが若干多い
    • 英文誌はJ-Stageに多く分布し、MOは少ない
  • 新規雑誌数
    • 最近はオンラインのみで発行されることが顕著に多い
    • オンラインのみで発行されている新規雑誌数を数えると・・・
      • 2002年から徐々に増え、2006年がピーク。だいたい10誌以上、印刷体のない雑誌が出ていて、ほとんどJ-STAGEで出ている
  • 2005年との比較:
    • J-STAGEでの発行がかなり増えている
    • 海外出版社からの発行は1割くらい増加
    • 英文に限ると・・・同じくJ-STAGEと海外出版者が増えている
    • 和文誌・・・同じような傾向
    • 電子化の程度・・・全体として和文誌の電子化率が伸びている。英文誌はそんなに変わっていない
      • 2005年時点でも英文は電子化が進んでいるため顕著に見えない?
  • 本の雑誌を出している海外出版社?
    • SpringerがSpringer Japanと合わせると一番多い、ついでWiley、Elsevier
  • 詳細は『情報管理』誌の4月号に掲載予定
  • 質疑
    • Q.レジュメの中でJST、NII、CJP、医中誌とあるが、これは書誌情報? 本文?
      • A. 本文の電子化は見ていない、あくまで雑誌数をみている。
    • Q. 「電子化率」とは雑誌ベース? 論文ベース?
      • A. 雑誌ベース。論文も数えようとしたがかなり難しい。JSTからは論文数のデータも貰ったが、J-STAGEの数を実際に調べるのはかなり難しい。すべての搭載論文のメタデータをもらわないときちっとできない。雑誌×論文数で数えようかとも思ったが、これもなかなか難しい。論文の搭載の仕方がみなさん違う。J-STAGEでもある雑誌からどの記事を採用するか。医中誌でも、いくつの論文を搭載するかのルールがみんな違う。各雑誌の各号の電子化論文数がみんな違う。つきあわせても難しいので、やりたいができなかった。
    • Q. 海外誌は電子化がほぼ100%、というのは論文ベースかとも思うのだが・・・
      • A. 雑誌ベースではないだろうか?
    • Q. JSTとNIIは同じ雑誌の同タイトルは電子化しない、と申し合わせているのだが・・・
      • A. 2008年ころまでは申し合わせがなかったので若干の重複があった。それ以降はもうほとんどない。

「MEDLINE収録の日本の医学系雑誌の電子化状況とインパクトの変化」(林和弘さん、日本化学会/科学技術政策研究所)

  • 背景と目的
    • 1990年代後半からの論文の電子ジャーナルかで研究者の情報流通環境は劇的に変化
    • 電子ジャーナル化とインパクトの日本における分析はまだ、あまりない
    • 一方でインパクトや学術情報統計の評価では、どうしても一定のクラスタリングがいる。母集団が広すぎると見えてこない。特にインパクトを見るとき
    • 医学分野ではPubMedからの検索がほぼ定着している
      • ここに着目し、今の日本の医学系論文誌の動向のインパクトを見ることを考えた
    • なぜ日本か?
      • 日本に我々はいる。インフォーマルなコミュニケーションで情報が得やすいのと、医中誌のデータベースとPubMedの差分を見ればクラスタリングの正確性をより正しく把握できる
  • 対象:MEDLINE収録誌
    • 採択基準をクリアしPubMedで世界に開かれている。一定のクオリティとビジビリティ
    • この母集団でどういう結果が出るか?
    • バックに医中誌がいるので、そことPubMedの比較で発行国問題等を検討できる
  • 調査方法
    • MEDLINE収録の日本誌の抽出・・・2010年8月現在で162件
    • この162誌を医中誌のリンク情報と照合すると、133誌は発行元が得られた
      • 残りは人手で確認・・・162誌中、医中誌に掲載されていないのは7誌のみ
  • 結果・・・言語、発行元、電子化割合
    • 言語:英語93誌、日本語46誌、混載23誌。日本語のみも3割程度、日本語のものもPubMedに搭載されている
    • 発行元:学会121誌、大学18誌、研究機関11誌で9割。商業誌は1割未満
    • 電子化状況・・・149誌、93&は電子化されている。医中誌収録誌では電子化率は39%で、PubMedと医中誌で大きな差
      • MEDLINE収録誌の電子化率の高さは際立っている
  • 電子化されている149誌についてさらに調査
    • プラットフォームは国内? 海外?
      • 海外26%、国内74%
      • 国内プラットフォームは110誌、その内訳は・・・一番多いのはJ-STAGE、MedicalOnlineとNII-ELSはほぼ同じ、その他に独自プラットフォーム
      • 海外プラットフォーム39誌・・・Springerが7割弱。他はWiley、Elsevier、Nature、OUP、BioOne
  • インパクトの解析
    • 信頼できるものとしてはトムソン・ロイター社のScience Citation Indexから出るインパクトファクター(IF)
      • 162誌中、SCI採録誌は62誌。IFの平均値1.42、中央値1.28
    • 採録された62誌のプラットフォームの国内・海外を見ると・・・
      • IFをもつ雑誌に限ると海外プラットフォーム利用率が上がる
      • IFをもつ雑誌で国内プラットフォームを利用しているものは、86%がJ-STAGEを使っている。他はMOが1誌、NII-ELS1誌、その他3誌
      • IFをもつ海外誌ではSpringerが変わらず強く、Elsevierの雑誌はなくなる
    • 海外プラットフォーム利用・採録誌とJ-STAGE利用・採録誌の間で、IFの値に大きな差はない
      • 医学系のトップジャーナルのIFは30を超える。その中でこの程度の差なら大したものではない?
      • 海外プラットフォームを使えばIF上がる、ということはない
  • 2000年にMEDLINE収録誌のIFの調査があった。それと比較するとIFは倍増していた
    • しかし他のジャーナルもIFは増加している。根岸正光先生の、世界のIFを見た調査の数字とあわせて比較
    • 国内プラットフォーム利用誌のIFの伸びは世界全体よりも大きい
    • OA状況の違い・・・国内プラットフォームは90%がOA、海外は90%が非OA. それがインパクトに影響?
  • 最後に・・・出版地について
    • 人手で雑誌を確認して決めている、とのこと
    • しかし医中誌に採録されている日本の論文誌でも発行国が海外になっているものが相当数ある
    • 研究機関から雑誌だけ独立して海外出版社と組んでいるものもある。難しい
  • まとめ:
    • MEDLINE収録率は電子化率が高い
    • 国内はJ-STAGE、海外はSpringer利用が多い
    • 国内プラットフォーム利用のインパクトの伸びが大きい、OA化率が高い
  • 質疑
    • Q. 前半の問題について。MEDLINEの収録誌はいったん収録すると収録を中止しない。1960年代に日本語の雑誌を収録して、ずっと続いているのだろう。現在は英文誌以外は収録しないことになっている。時系列を見るといいのではないか。後半の問題は、Wileyが精力的にやっていることの影響?
      • A. 日本語論文誌が過去に採録されたことを引きずっているのかはこれから見てみたい。

「オープンアクセスの進展と電子ジャーナルの利用統計」(加藤信哉さん、東北大学附属図書館)

  • 2002年にCOUNTERという電子情報資源の利用統計の国際標準機関ができた
    • その活動レビューから、電子ジャーナルの利用統計・OA電子ジャーナル利用統計への影響、電子ジャーナル利用統計のタイトルから論文レベルへの粒度の変更が意味するものについて考えたい
  • 図書館環境の変化
    • 伝統的な図書館・・・情報利用者が図書館に集まる
    • ネットワークされた図書館・・・利用者はネットワーク上に分散している
      • 旧来は所蔵資料の統計をとっていればよかったが、ネットワーク化された図書館では出版者のサーバにアクセスして利用する。出版者から利用統計をもらわないといけないし、統計のとりかたが統一されている必要がある
  • この背景の中でCOUNTERが出てきた
    • 図書館、出版者、仲介業者による国際イニシアティブ
    • 参加機関222、日本では国立大学図書館協会が入っている
    • 作っているもの・・・"Code of practice"(実務コード)
    • 雑誌・データベース/図書・参考資料の利用統計標準が出ている
    • 事実上の業界標準。140近い出版者が採用。少なくとも15,000タイトル以上の雑誌が対象になっている
    • 図書館としてはコレクション構築のため(「このタイトルはどれくらい使われている?」、「タイトルごとに利用数と価格を比較」)、出版者にとってはマーケティング
    • しかし統計の問題も・・・
      • 実際には共通して出されるのはタイトル別の、雑誌論文のダウンロード件数のみ
  • 利用統計改善の試み
    • auditing・・・定期監査と品質管理
    • 横断検索への対応・クローリングへの対応
      • COUNTERは「人が意図して使う」もののみに限ろうとしている。意図しないものはのぞく
    • Journal Usage Factor:評価指標の試み
    • 論文レベルの利用統計・・・PIRUSプロジェクト
  • なぜ論文レベル?
    • オープンアクセスの進展・・・タイトルレベルでOAのものの他に、著者の選択により論文ごとに同じ雑誌でも有料・無料が混在するように。さらに機関リポジトリに掲載されるものもあり、個々の論文レベルで見たい、という欲求
    • PIRUSプロジェクト・・・機関リポジトリや出版者、他の機関の搭載するコンテンツの統計を横断的につなぎたい
    • PIRUS2・・・論文レベルでの標準プロトコル(初期版)を開発中
      • COUNTERに準拠する形で、著者や論文の版なども含む。論文の識別はDOIで行う、ない場合は別のIDをつける
      • プロトタイプサービスも実施、テストを行なっている
  • 論文レベルの利用統計の意味
    • 図書館としては機関リポジトリを運営しているので必要
    • コレクション評価のための統計とは別のところ。研究成果評価のための統計?
    • 現場からすると・・・購読・非購読、どこからのダウンロードなどがわかればいい
  • 最後に
    • この10年の動向を見ると従来の図書館業務やサービスがゆらいでいる?
    • 粒度の変化によって有料・無料、メディア、コレクションなどの従来概念の捉え直しが必要か
  • 質疑
    • Q. COUNTERについては日本も関与しているとのことだが、日本から論文レベルの利用統計について関与する動きはある?
      • A. 今年の1/11に機関リポジトリ利用統計標準化の国際セミナーがあった。千葉大のROATプロジェクトの研究成果も含めて、いわゆる機関リポジトリの統計標準化の話があった。PIRUSにもコンタクトをとっているよう。
    • Q. 最後のところで、粒度による違いは、論文単位になったときに何が変わる?
      • A. 図書館という館にコレクションがあり、それは雑誌であり・・・というものの見方があったが、雑誌や巻号が消失し、論文そのものがむき出しで使われるようになる。誰がどういうふうに契約・マネジメントしているから使える、ということも消えて、情報環境の中に図書館が消失・見えなくなる気がする。
    • 加藤さんが東北大学の附属図書館で働いている実感としてある?
      • ある。適切な例ではないが、データベースや電子ジャーナルに何億円もかけて整備しているが、先生方はデータベースよりも一次情報、という。Googleがあればデータベースがなくても辿りつける、たどり着いた後のフルテキストが見えるか重要、という強い意見がある。

大学図書館の提供雑誌が研究者の引用行動へ及ぼす影響」(横井慶子さん、慶應義塾大学大学院)

  • 背景
    • 大学図書館の提供雑誌は印刷⇒電子ジャーナルへ
    • 電子ジャーナル導入方法もBig Deal契約に
    • 大学図書館提供雑誌のタイトル数が増加、特に国立大学は電子ジャーナルがコンソーシアムの影響で充実
      • つまり・・・雑誌の媒体・数が変化
    • 研究者の利用行動の研究では・・・ダウンロード数増加、引用する雑誌タイトル増加、古いものの引用が減少、という話がある
      • 一方で引用される論文の平均年齢が古くなっている、古い文献からも引用するようになった、という研究もある
  • 目的
    • 大学の研究者は購読雑誌を多く利用する。図書館が提供する雑誌が変われば引用する雑誌も変わる?
    • 国立大学図書館が提供する雑誌の媒体・数の変化と研究者の引用文献の変化を比較し、上記の仮説を明らかにすることを試みる
  • 調査方法
    • 大学図書館の提供雑誌・・・「学術情報基盤実態調査」(旧・大学図書館実態調査)掲載内容から調べる
      • 同調査では個票データは公開されていない
      • 引用データと突き合わせる中で大学単位で取れるかとも思ったができなかったので、大学規模別のデータで採ることにする
        • 8学部以上、5−7学部、2−4学部、単科大学の4区分
        • 1981年度と2008年度の両方で同じ区分に入っている68の国立大学を対象とする
    • 対象とする研究者・・・「学術情報基盤実態調査」が対象としている大学所属の研究者
    • 引用文献データ・・・Web of Scienceから抽出
      • 大学名と出版年を用いて探索
  • 結果
    • 提供雑誌の変化:印刷版雑誌は1990年代前半までは増加、以降減少。電子ジャーナルは2001年から急激に増加、2006-2007年からタイトル数減少
      • 電子ジャーナル・印刷版の重複タイトルは実態調査からはわからないので今回は未把握
      • 重複タイトルがわからないにしても、電子ジャーナルが2003年度以降中心になり、タイトル数が増えている
      • 1995年くらいまでは印刷版中心、1996-2002年は印刷・EJ拮抗、2003-はEJの時代
    • 1論文あたりの平均引用数(「被引用」ではないよ、論文「が」引用している文献数)
      • 引用文献数と購読雑誌タイトル数はどちらも増加傾向だが、相関はない
      • 特に電子ジャーナル導入前は提供雑誌タイトル数は減っているが引用文献数は増えている
    • 引用文献が掲載されている雑誌タイトル数と、大学図書館の購読雑誌数
      • やはり電子ジャーナル導入前、提供雑誌数が減っている時期にも引用される雑誌の数は増えている。逆の動きをしている
    • 引用文献の新しさの変化
      • 1981-2008年から一貫して、その論文が出された2年前の論文を最もよく引用している
      • 引用文献の平均年齢(何年前の文献を引用しているか、の平均)・・・1981-2008年にかけて緩やかに増加(少しずつ過去の論文の引用が増えている?)
      • 最新5年以内の文献の引用・・・緩やかに減少傾向
      • 最新のものを引用する割合は減っている
  • 考察
    • 大学図書館が提供する媒体の変化は引用行動に影響を与えていない
    • 1981-2008年で引用文献は変化
      • 文献数、雑誌数、古い文献の引用割合が増加している
      • 電子ジャーナルは紙に比べて新しいものがすぐ見えるのでその利用が増えるかと思ったがそうでもなかった。バックファイルにもアクセスできるようになったから?
    • 「自分の古い文献がデータベースでヒットするようになった」という意見もあり、それもあって古い文献の引用も増えた?
  • 質疑
    • Q. 雑誌提供数が減っても文献数が増える、という話で、二次情報データベースの活用が助けている、ということはある? 抄録データベースの活用が増えているので、ということはないのか。
      • A. そこまでは今回の調査からは言えないが、今後考えたい。
    • Q. この結果を見ると図書館の購読は研究者の行動に関係しなさそう。もっと前も見るとどうなのだろう? 科学の黎明期とか。
      • A. 膨大になるので見れるかはわからないが・・・できれば。また、図書館の供給するタイトル数がすでに過剰になっているのではないか、とも考えている。研究者にとってコアとなる雑誌は提供できていて、増えているのはそれを超えたところ?
    • Q. 図書館が提供するジャーナルの充実が研究活動を充実すると思いたいのだが、これを見ると関係ないのかとも思う。でも最後の、バックファイルの提供によって古い文献も使われる、というのは今後新たに発足するEJコンソーシアムの役にも立つと思うので、ぜひ続けてほしい。
    • Q. 補足。東北大学でScienceDirectのバックファイルを買ったが、1割以上のバックファイルが利用されている。バックファイルをどれくらい遡るかも見ている。大学図書館の電子ジャーナルはパッケージ契約で数が増えているが、これもSDのカレントファイルを分析したが欧米では3割のタイトルで80%利用と言われるが、東北大学では1割のタイトルで80%を出していた。そういうところも見るといいのかも。



休憩タイム



「生物医学分野においてオープンアクセスはどこまで進んだのか:2005年、2007年、2009年のデータの比較から」(森岡倫子 さん、国立音楽大学附属図書館)

  • 過去3回の調査をまとめた結果を今回、発表する。
  • 本研究の目的・・・特定分野のオープンアクセスの進展を実際の論文を見ることで調査
    • 対象は生物医学分野。PubMedで情報を得てGoogle等で検索
  • 調査方法
    • 対象論文をPubMedから抽出、11ページ以上20ページ未満の論文でEditorial等でないもの等の基準を設定
    • まずPubMedのid番号検索で基本事項を確認、その後全文リンクがあればそれを記録
    • PubMed Centralで検索⇒Googleで検索
      • 検索結果が20件以上の場合は20件目まで確認
      • 0ヒットの場合はヒットが出るまで検索語を変える
    • 結果の判定
      • OA・無制限、OA・制限あり、有料全文のみ、全文なし
      • OAの実現方法についてさらに詳細に確認
  • 調査結果
    • OA論文が全体に占める割合・・・制約なしOAは2005⇒2009で一律増加、2009年には50%が制約なしOA論文
      • 制限OAも含めると・・・2005・27%⇒2009・51%、OAと非OAの割合が逆転
    • OAの実現手段:
      • 最も多いのはOA雑誌と、有料雑誌のサンプル・エンバーゴ等
      • 次はPMC、以下論文提供サイト、機関リポジトリ、団体サイト、個人web・・・の順
      • PMCは過去3回で一貫増加、他はあまり増えていない
  • 結果から:OAは進展している、雑誌サイトとPMCが多い
    • 今回の手法は人手の調査なので時間もかかるし時間をかけすぎると結果が変わる(途中でOAになる、など)
    • そこでPubMedの検索だけでOA率を調査してみる
  • PubMedのみ調査1:
    • PubMedから無料全文あるいはPMCにリンクがあるもののみOAとして調査する
    • この方法だと、OA率は17.4%⇒21.1%⇒24.3%
  • PubMedのみ調査2:
    • 制限検索での集計
    • 全文あり、無料全文あり、抄録ありのサブセットを指定して検索、各件数を集計、出版年ごとに幻影して調査
    • この方法だと、無料全文ありの割合は2006:19.7%⇒・・・⇒2009年:25.3%
  • 調査方法によるOA率の違い:
    • 簡易調査はGoogleでの調査に比べOA率が下がって出る
    • OA雑誌での公開、有料雑誌でのサンプル公開がPubMedでは無料全文あり扱いにならない場合がある?
  • まとめ:
    • OAは徐々に進展している
    • Google検索調査:OAの実態がより正確に明らかにできるが調査は大変、大勢が長時間かける
    • 簡易調査:簡単な作業で傾向がわかるが、情報がない・見つからないOA論文がある
    • 何年も継続することにこのような調査の意味がある。今後も何らかの方法でデータを取っていくことを考えている
  • 質疑
    • Q. お話の内容とはあまり関係ないのだが。国立音大所属、とのことだがそれと研究内容がつながらない。どういう動機で調査を? 音大で何か生きている?
      • A. これは個人として参加している研究で、業務とどうこうということはない。以前から学術雑誌に関心があり、卒業論文で扱った関係で研究会に参加している。しかしこちらで得るものを職場に持って帰る、という意味では得るものもある。音楽分野ではこういう話は出ていないので、最新の情報を知ることができそれを生かせる。
    • Q. PubMed CentralはNIHで助成を得た研究が公開されるもの。個々はOA雑誌にのっているものかもしれないのでは。
      • A. 論文単位で検索しているので、有料雑誌でもハイブリッド公開とか、エンバーゴを終え無料のものもわかっている。
    • Q. 最後の方でPMCに載っていればOA雑誌は調べない、というのがあったが、それはダブルで見ても良かったのでは? PMCにあり、かつOA雑誌でも公開されている、とか。PMCにある論文がOA雑誌サイトにもある、とか。
      • A. 途中のスライドで出した表ではそのように集計しているが、検索時にはすべてで調査している。
    • Q. Open Choice(ハイブリッド公開。雑誌は有料・論文単位で無料)はどれくらいある? また、Open Choiceで公開されたものはPubMedで明記される?
      • A. PubMedで著者版になっているものは数えているが、Open ChoiceはPubMedで出るか確認していない。単なるOpen Choiceは数えている、17論文。

「オープンアクセス実現手段の新機軸:すべてはPubMedのもとに」(三根慎二先生、三重大学人文学部

  • オープンアクセスの実現手段:BOAIによる定義
    • セルフアーカイビング:arXiv、PMC、機関リポジトリ
    • オープンアクセスジャーナル:PLoS、BMC、Hindawi等のOA雑誌、Hybrid誌、完全無料誌(著者にも金を取らない)
  • 生物医学分野のOA実現手段:森岡さんのデータの最集計
  • しかし今日はこの代表的な集団を見るのではない・・・無料論文提供サイト、という新機軸を見る
    • 新しいサイトが次々、どんどん出てくる。これはなんなんだ?
    • 今後、OAの提供手段の一つとして考えられる?
  • 代表的無料論文提供サイトの紹介とその特徴
    • The FREE LIBRARY:http://www.thefreelibrary.com/
      • HTMLでベタに論文を表示する
      • 図や表は削除されてしまう。ベタの文章のみ
    • pubget:http://pubget.com/
      • 無料論文提供というよりは、論文を探すサイト。サーチエンジンの性格が強いが、ここで無料で論文を提供することも
      • 特徴:検索からPDF本文表示までをスムーズにしようとしている。フレームを使ってPDFを見ながら検索結果を辿れる
        • PDF表示
      • 全文がない場合は抄録+全文入手手段へのリンク
    • novo seek:http://www.novoseek.com/
      • これもサーチエンジンの性格が強いが、読める論文が表示される
      • 基本的には電子ジャーナルサイトと同質。画面左にファセットが出る
      • クリックするとHTMLで全文が表示される・全文がなければ入手段へのリンクもしくはPubMedへのリンク
      • 図や表も表示される
  • 無料論文提供サイトの特徴のまとめ:
    • 対象領域:領域横断型と生物医学分野専門型
      • 領域横断・・・FREE LIBRARY
    • 収録論文・タイトル数
      • 論文数:確認できる範囲では100万-8,000万単位の検索ができる
        • FREE LIBRARYでは1,600万の論文が無料で読める
        • サイトだけで読める無料論文も存在
      • タイトル数:3,000-2万
        • 領域横断型はGale、生物医学はPubMedのデータを利用
    • ファイル形式:ほとんどはHTMLのベタで提供
      • HTML・PDF双方の提供はない。どちらかdake
    • 図表の有無:領域横断型は図表カット。
  • 生物医学分野におけるOA実現手段を俯瞰する
    • 全体としては3つのグループ:学協会・出版者提供、無料論文提供サイト、その他(リポジトリ等)
      • 無料論文提供サイト・・・PubMed等のデータ+OA雑誌等のデータ+オリジナルデータ
    • PubMed/PMCの役割:
      • OA雑誌へのリンクがある
      • 各サイトからPubMedへリンクがある
      • Googleからどのサイトにもアクセスできるが、PubMedメタデータを提供している点で生物医学分野のOAに大きな役割
  • まとめ
    • 無料論文提供生徒は多くの論文を提供しているが、多くはGaleやPMC由来
      • OA実現手段を補完する・付加価値をつけるのが無料論文提供サイト?
    • 非専門家などに論文を提供する上で機能している?
  • 質疑
    • Q. あまり注目したことのないサイトについての紹介をありがとうございました。聞き漏らしたのかもしれないが、提供論文が外部に由来しているというのは、デポジットを受け付けているのではなく、勝手にクローリングしてミラー化している?
    • 著者にとっての新手段ではなく、あちこちからとってくるミラーサイト? ある種、Baiduのようにあるものが使えるから使う、というイメージ? セルフアーカイブはできる?
      • 今日紹介したものではデポジットは不可能。研究者向けSNSではできるが、それを使っている研究者はほぼ皆無。
    • Q. 関連して。PMCはNIHから助成を受けたものは強制的に投稿させられる。Mandate。だから、ちょっと違う気もする。もう1つは、図書館側としてはそこに投稿する手助けをやっている。
      • A. PMCはご指摘の通りだが、当初は無料のアーカイブとして始まりOA雑誌も入っているので、その2点。著者稿はあまり入っていない。

「オープンアクセス化の進む医学論文が一般市民に読まれる可能性はあるのか:2008健康医学情報に関する社会調査」(酒井由紀子さん、慶應義塾大学信濃町メディアセンター)

  • 一部の結果は2009年のアメリカ国立医学図書館協会年次大会で発表済み
    • 情報環境・・・インターネットの普及で誰でも医療情報を得られる
      • その中にはオープンアクセス化された医学論文も入ってくる
    • 医療消費者の健康医学情報への関わり方が変化するのでは?
  • 先行研究
    • 健康医学情報へのニーズ・収集の規模:
      • 関心・・・患者・家族の96%、一般市民の76%が関心を示す
      • 情報収集・・・一定条件下での調査しかない。患者会所属者は85%が情報収集(東邦大学 2006)
        • 野村総研の調査・・・医療選択のための一般市民の情報入手は約10%
      • 実際に積極的に収集する市民はどれくらいいる?
    • 主題:どんな情報が必要?
      • 患者・家族・・・診療情報への関心が高い
      • 一般市民・・・病気、治療・手術のほか、運動・体操などの健康情報も
      • 日本の調査は最近はない。何が求められている?
    • 情報源
      • 患者・家族・・・第一は医師・看護師。他は本・雑誌、家族・友人・・・
      • 米国の一般市民への調査・・・医師86%、家族・友人、インターネット・・・
      • 日本での現在は? 何をどのように探している? 医学論文は探す可能性はある?
    • 得た情報でどんな影響がある?・・・米国の調査結果しかない
      • 実際の治療の意思決定への影響:58%/その次は「安心感を得た」で56%.実行動に出るか心理的な変化?
      • 日本はどうか
  • 目的と方法
    • 日本に医学・医療情報を積極的に探索する市民はどれだけ存在?
    • その情報ニーズと探索の実態は?
    • 調査会社に依頼、調査
  • 結果
    • 実際に探索経験がある・・・51.8%
      • 有意差のあるクロス項目:性別、職業、学歴、病気・けがの経験
        • 女性の方が経験あり、職業は主婦・自由業・管理職、学歴は高卒以上、病気・けが経験ありの人が調べている
    • 探索主題:
      • 1.病気の名前、症状、しくみ・・・約8割
      • 2.医師や病院
      • 3.くすり
      • 4.治療や手術方法・・・2〜4は50%前後
    • 情報源:
      • 医師とインターネットが2大情報源
      • 本・パンフ・家族/友人はその次のグループ
      • インターネット利用の有意差・・・若い人、自由業・事務、技術職・学生・管理職、専門学校卒以上の方がインターネットを使う
      • 20-40代はインターネットを使い、50-70代は医師に聞くほうが多い
    • 影響:一番知りたかった内容についての役にたった情報源とその影響
      • 病気・・・医師とインターネットで情報を得て、安心感を得ている
      • 治療・手術、くすりも同じ。ただし治療・手術についてインターネットで調べた人は安心感を得るより、治療の意思決定が多い
      • 医師や病院についてはインターネットと家族・友人。さすがに当人である医師や病院には聞かない。
    • 医学論文を読みたいか:
      • 英語でも有料でも読みたいのは5.5%。
      • 56.1%の人は読みたい、と考えている。予想外
  • 考察
    • 新発見
      • 新たな発見・・・実際に検索している人は高い割合で存在する
      • 医学論文を読みたい人は56.1%もいる
    • 過去の調査からの変化:
      • 医師・病院について調べる人が増加
      • インターネットは情報源として躍進、2000年の調査から4倍に
    • 2008年の米国調査とは共通点が多い
      • インターネットの割合は違う。ただ、米国調査は一度でも使っている場合は上げてもらっているせい。
      • その後の影響については、米国では治療法の意思決定に役立っているが、日本は安心感を得ている。
  • 結論
    • 日本の医療消費者も健康医学情報をさがしている
    • 医師+インターネットの躍進
      • 意思決定には影響しない
    • 医学論文を読む可能性
      • 本当に一般市民が探索し、どう読むのかは今後の研究が必要
  • 質疑
    • Q. インターネットでどういうページを探して、どういう信頼性のイメージを持っている?
      • A. 信頼性の調査はしていない。探索の有無と何をどうやって探索しているかのみ。
    • インターネットで何を見たか、も?
      • 全く聞いていない。
    • Q. 医学論文を読む可能性が意外と高い、という感想だが、PMCで公開が義務化されているのは、アメリカは英語圏なので読めるので意味がある、日本ではふさわしくないとも言われる。今回は日本人が英語でもいい、有料でもいいとの結論だが、これが今後の医学論文のOA化にどう影響する?
      • A. じゃあ全部OA化も乱暴な議論だし、日本語なら読みたい人は多かったが、実態として最新の医学研究の成果は日本語では書かれない。何が役に立つか、どういったものがいいかは研究していかないとわからない。

「医学・医療情報源としての「一般雑誌」:10年の変化とその位置づけ」(國本千裕先生、駿河台大学メディア情報学部非常勤講師)

  • 一般雑誌=学協会誌以外の雑誌
    • 公共図書館健康雑誌コーナーにあるものや、保険組合のリーフレットのようなもの
    • 健康雑誌は体験談中心で役に立たないのでは?」、「医師が書いた記事に限れば質が高い」など、情報源としての評価がまちまち
    • 医学・医療情報源の調査から・・・
      • かつでは本雑誌・新聞/雑誌はよく使われていたのだが、最近は雑誌は1割以下の利用。急減
    • 従来は比較的使われていた可能性があるが、当時から情報源としての評価はまちまち。では、使われなくなったかもしれない現在における位置づけは?
  • 研究の目的:
    • 医学・医療分野の「一般雑誌」について、その医学・医療情報源としての評価を検討する
      • 役に立ちうる記事はどれだけ存在しているのか?:種別
      • そこで取り上げられているトピックは?:主題
      • 医療専門家によって書かれているものは?:執筆者
  • 調査方法
    • 対象:『新聞雑誌総かたろぐ』2009の「家庭医学・健康」84誌のうち、2000年以降刊行や休刊、学会誌、入手不可を除いた43誌中、東京都の公立図書館に所蔵されている10誌+出版部数上位10誌=20誌(手に入りやすいもの)
      • 対象とする記事:2000年と2009年の初号掲載記事。2000年は約1,000件、2009年は約800件
    • 記事種別:医学・医療の特定の10主題、関連する健康系記事(健康食品、サプリメント、ヨガ)、広告、その他(旅行記・占い・クロスワードパズル・編集後記など)
      • 主題・・・酒井らの調査でよく調べられていたものとの関係
    • 執筆者・協力者:専門家(医師・看護師・理学療法士)、ジャーナリスト・ライター(他分野の研究者はこちら、保険制度の話など)、患者・体験者、不明(編集部含む)
  • 結果
    • 記事種別:全体で見ると医学・医療の記事の掲載率は極めて低い。1割を切っている
    • 記事主題(医学・医療種別の1割のみ):特定の疾病・症状、診断・治療・手術・検査法に2009年には主題が集中(2000年はもっと散っていた)
      • 薬や医者・病院は酒井調査で探している人が多い主題だったが、一般雑誌への掲載率は低い
    • 執筆者・協力者(これも医学・医療種別のみ):医学・医療専門家が8割を超えている。他の人が書いているのは、健康保険・医療費問題の解説や、心の健康(患者・体験者が多い)について。それをのぞけば大方は専門家の記事。
    • 雑誌別に医学・医療記事の掲載率を見てみると・・・(広告は除く)
      • 『暮らしと健康』や『きょうの健康』は4〜5割が医学・医療主題記事。
      • 『へるすあっぷ』や『安心』はほとんど医学・医療関係ではない何かの記事。雑誌による差がひどく大きい
    • 雑誌別の「広告」掲載ページの割合(総ページ数に対する広告掲載ページの割合)
      • 全く広告のない雑誌もあれば、7割広告の雑誌も。『暮らしと健康』は広告も少ない
  • 医学・医療情報源としてみた一般雑誌の長短
    • 医学・医療記事の掲載は少ないが、雑誌を選べば専門家が書いている記事が多い
    • 雑誌を選べば効率よく情報を探せる。選びやすくする仕組みが必要
  • 質疑
    • Q. リハビリテーションの記事はどこに入る? けっこう多そうだと思うが・・・
      • A. 今回は「運動や体操」の項目にいれている。ちょっと違うが質問紙調査と項目を合わせるため。
    • Q. 介護・福祉の雑誌など、関連雑誌を調査される予定はある? 情報は入っていそうだが・・・
      • A. おっしゃるとおり、『新聞雑誌総かたろぐ』に不足があるので、可能なら適切なものを選んで追加したい
    • Q. 最後の雑誌を選ぶ手段の話があったが、特定の疾病や治療について知りたい、というニーズが一般誌を読む読者にあるだろうが、個々の記事に対するアプローチはどういった状況?
      • A. 雑誌選択の動きがあるのは確か。各図書館に健康情報コーナーはある。しかし索引作成のところまでは手がまわっていない、というのが現場を見ていての感想。次々に出てくるので索引を作るのが大変なのはわかるが、欲を言えば雑誌の選択ではなく記事単位でやるべきだとは思う。記事単位でいい悪いもある。見ている範囲ではそこまでは手がまわっていない。
    • では結局、記事の発見は利用者のブラウジングに頼っている? 例えば雑索でどれくらい探せるかの調査等は?
      • そこまでは手がまわっていないが、雑索より細かい単位でとるべきな記事もある、というのが個人的な感想。雑索は目的が違うので微妙なところもあるだろうが。
      • 酒井さんから補足:慶應義塾大学病院では『きょうの健康』の各特集記事をExcelで打ち込んで対応している。それで患者さんの要望にかなり応えられている。

「"e-science"とは何か」(松林麻実子先生、筑波大学大学院図書館情報メディア研究科)

  • "e-science"に対する注目の高まり
    • 様々な文脈で議論される、そのため定義が明確ではない
    • そこで"e-science"とは何か考えたい
      • 話題になってきた文脈とその定義の整理
      • 典型的なe-scienceとされるものの研究の様態
  • e-scienceが注目されだしたのは2000年前後
    • グリッドコンピューティングの重要性、の文脈
    • 田中(2005):情報技術の高度利用に立脚した新しい科学技術研究手法
    • Burton(2007):科学が電子化したものであるが、新たなパラダイムや手法、領域を生み出す可能性を持つものである
    • 技術決定論的な発想?
      • 「技術が科学を変える」、シンプルかつ明るい未来像の延長線上
      • その可能性を持つものとしてのグリッドコンピューティングへの注目
      • 新しい「科学」に対する具体的なイメージはない
      • e-science = Grid computing、という単純なイメージ?
  • 国家プロジェクトにおける注目・・・少し違う動き
    • NSF、JISC等の国家機関が注目した頃
    • Atkins et al. (2003):より広い文脈で捉える。科学と技術の融合。Cyber Infrastructureの文脈
      • 技術が創出する新しい科学のイメージの具体化、そのためのインフラとしては何が必要、という方向
    • それがさらに強調されたのが・・・NSF report(2007):
      • 科学が日常的に大量のデータを扱うようになる
      • データ利用のグローバル化
    • NSF & JISC workshop (2007):
      • 大量のデータの処理で見えてくるものがある。新しい方法で従来見えなかった何かが見えるようになるはず
      • "Cyber scholarship"
    • 国レベルの機関の注目でe-scienceのイメージが具体化
      • データ主導科学、data driven science
      • そのインフラストラクチャの整備がこれからは必要?=cyber infrastructure
  • 焦点の以降:最初は技術そのもの、その後それによって実現される科学の様態に注目が移る
    • 現在のe-scienceについての明確な定義:National e-Science Center @ UK
      • 「インターネット技術の導入によって可能となった国際的協同によって実現されつつある大規模研究活動」
        • データコレクションやコンピュータ資源に個々の研究者がアクセスできる
        • そのためのコンピュータ
  • 実例1:バイオインフォマティクス
    • 統計学・計算機科学の技術応用で生物医学の問題を解こうとする
    • 大量の遺伝子データなどを、網羅的な解析技術を用いて視覚的に表現する手法の重視
    • Gen Bank、日本DNAデータバンク、ヨーロッパなどとの協調
  • 実例2:天文学
    • 理論・観測問わずデータの収集・解析が重要
    • データは膨大・・・ハワイにある天文台が1年に20TBのデータを集める(min2-flyコメント:あ、それくらいなのか)
    • Gen Bankのようなアーカイブは存在していない
      • 望遠鏡によってデータ形式が異なり、必要な解析ソフトなども異なるのですべて別々のものがいる
      • シミュレータもそれぞれ個別。それぞれの研究室で独自に研究を行なっている
  • 実例から見るe-scienceの特徴:
    • 研究者が日常的に大量のデータを利用するのがe-scienceの特徴
      • 逆に言えば大規模データ利用が研究の中心にある、というのが特徴
      • 結果、データ共有・公開についての議論が出てくる。実現している領域もあればそうではない領域もある
  • 最近のe-scienceをめぐる動向:
    • 学術図書館界では注目が高まっている・・・ARLによるNSF reportのレビュー、そこで図書館はどう関与可能か. データ管理・電子データ作成に関与できる?
    • 日本でも同様に注目が高まっており、翻訳・紹介は頻繁にある。2007年の段階ですでに国際会議も開かれている。
    • cyber infrastructureと学術図書館界の関係。図書館界は密接に関係することを見越して動き出している。
  • まとめ:
    • データ共有と公開への意識の高まりがe-scienceの今後の議論として出てくる
    • 情報提供機関の関与についての議論も同様に高まる
  • 質疑
    • Q. 学術情報の中で、文献・論文以外のことに図書館情報学者が発表していることを嬉しく思う。データ共有・公開の意識の違いの例をあげられていたが、その理由はどういうところにある?
      • A. 天文学は制度的な問題もあるだろうが、その背景には研究者そのものがデータの共有・公開をよく思わないことが根本にある。結果として機材が全部専門化している。ではなぜ、バイオインフォマティックスでは簡単に行ったのに・・・というのは今の段階では簡単にはわからない。
    • Q. こういった動向に対しては研究者コミュニティの動きが強いのか、政策の要因が強いのか?
      • A. こちらもどっちが先というのは議論になっている。どちらとも言えないが、国が動くことによってかなり大きく方向性が変わる、早い、という意味では国の影響力が強いかと思う。
    • Q. 最後のほうで学術図書館界の関与の話があったが、全体としてe-scienceの担い手に関する資質やスキルの議論が、諸外国ではどうなっているのかお教えいただきたい。
      • A. 今の段階で具体的にこれとこれ、という話にはなっていない。国レベルないしは大きな機関が議論しているところ。e-scienceは研究者の活動そのものがe-scienceであるわけで、それを誰が支援し、どういった技術が必要かを議論しているところ。もう少し議論が進めばご質問いただいたこともクリアになってくる?

「日本の研究者にとって「情報共有」が意味すること:e-Scienceに向けての予備的調査結果」(倉田敬子先生、慶應義塾大学文学部、研究代表者)

  • e-scienceへの関心・・・どうしてe-science?
    • もちろん学術情報流通・研究者の学術コミュニケーションが一番の眼目である
    • それを考える際に避けて通れないのがe-scienceへの関心ではないか
    • ただ、はっきり言って今は海のものとも山のものともつかないところがある。それでも方向性としてあるなら、今後の学術情報流通・学術コミュニケーションについて考える上で、先を見通したい
  • 大量のデータとコラボレーションがe-scienceに重要
    • 「共有」がこれまでの科学にないポイントで、OAでも重要になるのでは
    • 実際のe-scienceを知らないと始まらない/研究者自身はどう考えているのか?
  • 目的と今回の調査:新しい方向性=情報共有とコミュニケーションのありかた
    • まだ本格的な調査ができる段階ではない
      • アメリカで調査例もあるが芳しい結果はない。日本でやっても結果は出ないだろう
    • 共同研究はたしかに増えている。それがどうなっているのか
    • データ共有をやっていないならやっていないでどういう意識があるのか
  • 方法:
    • 2009.9-2010.3に26人の研究者にインタビュー
    • 国立大学および研究所所属者が多い。第一人者といって差し支えない方が多数。
      • 今回はある程度、分析が進んでいる6名について発表したい。医学系とビッグ・サイエンス系の物理学
    • 共同研究の種類・形態、データの位置づけ、データ共有の意識と実態、論文の位置づけ、発表方法、オープンアクセスの認識など
    • 内容分析を行う。現段階で227項目のカテゴリを作っている
      • 今回は核となるデータ共有に関わる部分を分析
      • カテゴリ例・・・量的な面、考え方、フォーマット、データの秘匿など
  • データ共有の現状・実例1:大規模データの共有
    • 巨大な研究プロジェクト=いわゆるビッグ・サイエンス
      • 天文学での1年間に20TBはアーカイブされている量で、生成されているのはそんなレベルではない。全データをとるのは無理。ハード的にフィルタを作っている
      • 研究者が扱えるデータになるまでに何段階も必要。ある意味では非常に特殊な研究の仕方で、ここまで大量のデータをすべての分野で使うようになるとは考えがたい
        • この規模なら選別も共同でやるしかないし、分析も標準化せざるを得ない
  • データ共有の現状・実例2:いわゆる普通の研究・・・レーザー
    • データに個別性を認めている・・・データベースを信頼しない/他人の作ったものと自分の作ったものは違う
    • 研究成果としての発表においても、データベースが形を決めることを嫌う。個人が自分で考えて出すもの、という点を協調
  • データ共有の現状・実例3:遺伝子診断・治療
    • Gen Bankは使っているが、本当に使うのであれば足りない。もっとデータベースがないと使い物にならないが簡単ではない
      • フォーマットが難しい・維持して動かすには人でもお金もかかる・誰がどこで負担するのか?
  • データは誰のものか?:分野にかかわりなく同じ意識
    • データの秘匿はどの分野でもある
    • 自分の評価に関わる部分・・・「大きいものをねらっているときは絶対外に出しません」
      • 分野をリードする人ほど国際的に競争が厳しい中で、「これを出したら抜かれる」という不安・懸念が常にある
    • 科学ではなく企業や異分野の論理が入ると、データ公開は無理になる
      • 産学協同でやるようなところではデータの秘匿が重要になる
    • 「なんか出すのは存した気分」
      • 日常感覚としそういう意識は残っている。順調にはデータ共有が進まない
    • 公開時期の留意で解決できる?
      • 最後の「なんとなく」が残る限りは解決できないかも
    • 「関係ない」という人もいる
      • 研究とはアイディア勝負。データで勝負するんじゃない。データなんか外に出すし発表前でもいい
      • 他人のデータは一切信用しない。論文になっていても自分で採取しなおす。公開はしても人は見ない?
      • 「実験に関与しなければ研究者ではない」という意識は非常に強い
        • 実験に貢献しない人はビッグ・サイエンスでも著者に入らないし、基準が明確に決まっている
        • 「自ら実験して得たデータは自分のもの」という意識がある
  • 質疑
    • Q. ここでいうデータの共有・公開がいきなり一般公開のようである。研究仲間や国際共同研究では共有は行われているし、その規模は伝統的な共同研究とは変わっていると思う。そのあたりはどう捉えられている?
      • A. かなり端折ったが、大量のデータの標準的な処理・分析は共同研究内での話。規模はものすごく大きいが、一般公開は一切されていない。プロジェクトが違えば他人のデータには一切触れないし、過去に関わっていても著者リストから外れた人はそれ以降、データに一切触れられないくらい厳しい。一方で、医学系で進んでいるものは、基礎的なデータの話なので、本当に一般公開のレベルでしている。さらにデータ共有については共同研究内でも、意識としては「ちょっと嫌だな」と考えたり、国際共同研究ではトラブルになることもある。「あいつが勝手にやった」とか。進んでいるのは確かだが分野によっては従来の意識を引きずっていて、まだまだ課題はある。
  • Q. 海のものとも山のものともつかないとおっしゃっていたが、e-scienceの広がりというかアプローチしている学問分野、例えばGoogle Booksの活用やコーパスを使うような人文学もe-scienceとして捉える?
    • A. 当然e-scienceやcyber infrastructureが示すものはSTM分野だけではなく、むしろ人文社会系の方が「こういうデータはみんなで使っていいんじゃない」というのを簡単に受け入れる余地はあるし、現にコーパスのようなものでも進んでいる。もちろん研究範囲はそちらの方まで広げていきたい。
    • Q. e-scienceの観点とは違うかもしれないが、データの公開という面から見て、最近は医学関係の雑誌で義務付ける動きもある。これは研究者の不正を防止する意味もあると思う。データ共有にはいろんな面があると思うが、そのあたりはどう?
      • A. そのとおり。医学系では「雑誌に要求される」「査読者に要求された」という理由で出すが、釈然としない、仕方ないから・・・ということも言われている。義務化については出していない研究者もかなりいる。データの公開のところには著作権という言葉は出てこないが、それとは違う形でデータの公開の形を作りたい、ということには法律関係の方も含めて強い意志がある。しかしうまくはいっていない。問題はより多様に広がるだろう。

終了の挨拶(倉田啓子先生)

  • こんなにたくさんの方に最後までいらしていただけるとは考えていなかった。座席数等の不備が多く申し訳ない
    • このような形で報告会を持てたことを感謝したい



ご覧頂けばわかるように、「学術コミュニケーションの総合的研究」とあるだけあって、本当にバラエティに富んでいる報告会でした・・・濃かった!
全て(そう、全て!)自分の関心領域に含まれる内容で、4時間の研究報告会だったのですがほとんどのめり込みっぱなしで記録を取っていました。
予稿集も配布されたので、引用文献含めこれからチェックしたいと思います・・・自分がこれから引用したい内容もいっぱいありましたし。


会場も席が足らなくなるほどに満員で、倉田先生が「こんなにたくさんの方に最後までいらしていただけるとは・・・」ともおっしゃっていましたが、先生方が思われる以上に社会的な注目度も高いのでしょう。
それぞれ単独でも研究会等のテーマになりうるトピックですが(例えば自分のブログで記録をアップしている中でも、関連するトピックを扱うセミナーや研究会、シンポジウム等がけっこうあります)、それを総合して学術コミュニケーションの様態を考えよう、という場はなかなかないので・・・本当に貴重な機会でした。
まだ研究をつづけられているトピックも多く、これからも引き続きフォローしていきたいと思います。


さて、3日連続のイベントレポートもこれにて終了です。
最近さぼりがちなこのブログにしてはずいぶんがんばった感じですが(笑)、今月これからはしばらくイベントに出かける予定がないので、次はまたいつになるやら・・・

*1:2011-02-10 0:48 kany1120さんのご指摘を受け修正