文部科学省・科学技術政策研究所(NISTEP)主催のセミナー、「論文の定量分析から読み解く日本の研究活動の現状」に行って来ました!
科学技術政策レビューセミナー 第3回
趣旨
本セミナーは、当研究所の多用な研究成果の中から、「論文の定量分析から読み解く日本の研究活動の現状」に焦点を当てた研究成果をご紹介することにより、より多くの方に政策研究に感心をもっていただくことを目的としています。
主催
文部科学省科学技術政策研究所
開催日時
2011年11月24日(木) 13:30-17:55
開催場所
文部科学省 旧文部省庁舎6階 第2講堂
プログラム
- 13:00 開場
- 13:30 主催者挨拶 桑原輝隆 科学技術政策研究所長
- 13:40 発表1「研究活動の国際化 〜世界の変化を見る〜」(50分発表、25分議論)
阪彩香 科学技術基盤調査研究室 主任研究官
加藤真紀 第1調査研究グループ 上席研究官
古川貴雄 科学技術動向研究センター 上席研究官
コメンテーター:永野博 政策研究大学院大学教授
- 14:55 発表2「先端領域における状況 〜日本の問題点を見る〜」(40分発表、25分議論)
阪彩香 科学技術基盤調査研究室 主任研究官
白川展之 科学技術動向研究センター 上席研究官
コメンテーター:池上徹彦 宇宙開発委員会委員長
- 16:00 休憩(15分)
- 16:15 発表3「日本の大学の研究活動の現状把握 〜機能分化が進んでいるか〜」(40分発表、25分議論)
桑原輝隆 科学技術政策研究所長
コメンテーター:本庶佑 総合科学技術会議議員
- 17:20 全体討議(30分)
- 17:50 閉会挨拶 伊藤宗太郎 科学技術政策研究所総務研究官
- 17:55 終了
「論文の定量分析から日本の研究活動の状況を把握する」というのかこのブログでもしばしば取り上げているとおり、自分もおおいに興味があるところであり。
- 最近の関連エントリ:
このテーマにおいてはNISTEPの一連の調査・研究というのはたいっへん重要なわけですが、1つ1つのボリュームの大きさと複数の研究がパラレルに動いている関係で全体像が把握しきれなくなったりもしていて。
今回のように、関連するプロジェクトを、進行中のものまで含めてレビューする、というセミナーは大変ありがたいものでした。
議論も活発で質疑の時間がおすほどでしたし・・・この先の研究の種になりそうなネタもいろいろあるなあ、と個人的には満足する一方で、日本の研究の今後を考える上では危機感を持って、こういったデータを活かしていかんはずだけど大丈夫だろうか・・・とか心配にもなったり。
というわけで以下、いつものように当日のメモです。
あくまでmin2-flyが聞き取れた/理解できた/書き取れた範囲の内容です、ご利用の際はその点のご理解をば。
NISTEPの各研究報告は冒頭リンク先のwebサイトにもアップされていますし、まだ未発表のものも近日中には公開される予定、とのことでしたので、データなどを引用される際は是非そちらをご覧いただくよう、お願い致します。
誤字脱字・お気づきの点等あれば、コメント欄などでご指摘いただければ幸いです。
では、まずはNISTEP所長・桑原先生による会の趣旨説明から!
「本日のレビューセミナーの趣旨説明」(桑原輝隆さん・科学技術政策研究所長)
- レビューセミナーの目的
- 今回:科学技術論文の定量分析
- 各テーマの議論の後に、全体的な議論もする
- 過去の研究活動の紹介だけではなく、一部、現在進行中でまとめつつある成果も紹介する
- それについても議論する
- 今後の科学技術政策研究・・・どんなテーマを中心にするかの設定も課題
- アジェンダの議論のために進行中の成果も紹介する
- 科学論文計量についての若干のバックグラウンド
- 科学計量学・・・1960年代から約60年の歴史
- 当初:PriceによるScience of Scienceの提唱
- GarfieldによるScience Citation Indexの作成
- 1970年代:
- NSFの取り組み
- 専門誌の創刊
- 1980年代以降:
- 個人、プロジェクトの評価に科学計量学を用いる
- 当初は研究者の反対/のちに一定程度の利用がなされるようになってきた
- 日本との関連:1997 Robert M. May、2004 D. A. Kingなどの論文・・・日本がある種の指標の中では"悪く"見える
- 計量指標について議論が盛んになるきっかけに
- 科学計量学・・・1960年代から約60年の歴史
- 論文の定量分析が果たすべき役割
- 今日のセミナーは今後のNISTEPの研究活動についての議論でもある
- ぜひ活発なご意見を!
「研究活動の国際化:世界の変化を見る」(発表:阪彩香さん・科学技術基盤調査研究室 主任研究官、加藤真紀さん・第1調査研究グループ上席研究官、古川貴雄さん・科学技術動向研究センター上席研究官、コメンテーター:永野博さん・政策研究大学院大学教授)
研究のグローバル化、人材の流動について、定量的にどう把握できるかをやってみた。
パート1:OECD主要国中心の活動状況(発表:阪さん)
- 日本の位置、ポジションについて・・・
- 論文生産における日本の位置の把握
- 国際共著論文にみる日本の位置の把握
- 研究活動における日本の存在感はどの程度か?
- 国に着目:論文を分析して日本と他国を比較・・・日本のポジションを見る
- 分析方法:
- Web of Scienceを使用
- 1981-2010年を範囲とする
- 時系列変化は3年移動平均を見る
- 対象はArticle, Letter, Review
- トップ10%論文=被引用回数が各分野で上位10%に入る論文
- 分野の内訳:
- Web of Scienceの22分野を8分野にまとめる
- 半分はLife Science系、半分は非Life Science系
- 論文数のカウント方法・・・
- 整数カウント:論文1本が国際共著なら、各国を1とカウント。論文生産への「関与度」
- 分数カウント:共著者数に応じて分数カウント(3人の著者で3カ国共著なら3分の1ずつ、とか)。論文生産への「貢献度」
- 世界の研究活動の変化:
- 論文数も国際共著も増えている
- 主要国・・・日本は年間7万件程度の論文生産で世界第5位
- 論文シェア・・・日本は2000年くらいまで右肩上がり⇒その後、急激にシェア低下
- 中国は2000年ちょっと前くらいから急伸
- イギリス・ドイツ・フランス等は論文全体のシェアは落としているが、トップ10%論文は維持または増加傾向
- 分野ごとの論文シェア/トップ10%シェア・・・レーダーチャートに示す
- 日本はチャートが小さい=存在感が・・・/物理学以外はトップ10%論文シェアの方が少ない
- 国によって強み/弱みはある
- 日本について気にかかるところ:
- シェアは相対的な数字だが、日本は論文数自体も伸び悩んでいる
- 化学・・・10年で論文が減っている
- 工学・・・主要国に比べ伸び率が落ちている
- 論文生産が伸びているのは中国だけではない
- ブラジル、トルコ、イランのポジション上昇・・・
- 日本はそれらの国々との位置関係も考えないといけない?
- ブラジル、トルコ、イランのポジション上昇・・・
- 整数カウント・分数カウントによる数字の変動
- 日本は主要国と比べても変動が大きい
- 国際共著について:
- 世界全体で20%程度の論文は国際共著
- 日本は25%くらい、米国は31%くらい、中国は22%くらい、英独仏は50%以上
- 中国は率は日本より少ないが全体の論文数自体はずっと多いので、国際共著論文数自体は日本より多い
- 世界全体で20%程度の論文は国際共著
-
- 国際共著・・・関与機関数/著者数がどんどん増えている
- 国のボーダーを超えている/研究活動スタイルの変化
- 国際共著・・・関与機関数/著者数がどんどん増えている
-
- 国際共著の質的特徴:
- 1論文あたりの被引用回数・・・国内のみより海外との共著論文の方が被引用数が多い
- どの国でも同様の結果。国を超えた研究は注目度が高い?
- 国際共著の質的特徴:
- ここまでのまとめ:
- 日本の論文生産ポジションが低下
- 日本は世界の国際共著ネットワークから取り残されている
- 世界の研究活動スタイルは変化している。それに対応しないことが、注目度の高い論文に関わる機会を逃すことになっていないか?
パート2:開発途上国中心の活動状況(発表:加藤さん)
- 背景:
- 途上国の論文シェア:近年増加している
- 中国だけではなく高い
- 国際共著率と論文数の関係:
- 途上国の多くは論文数が少ないが、そういう国は国際共著率が高い
- サハラ以南アメリカは国際共著率が高い
- 日本や韓国、中国は低い
- 途上国の多くは論文数が少ないが、そういう国は国際共著率が高い
-
- ナイジェリア・パキスタンは論文数が多く、国際共著率が低い
-
- 共著形態:2国間共著が多い? 3カ国以上が多い?
- 日本は他(米国等)より2国間共著が多い
- 3カ国以上間共著の場合、日本が責任著者になる割合は米国と比べても低くない、あるいは高い
- 共著形態:2国間共著が多い? 3カ国以上が多い?
-
- 日米の他国間共著の相手国・・・
- アジア諸国との共著の場合にはアジアの他の国の研究者との共著が多い
- 日米の他国間共著の相手国・・・
- ここまでの結論:
- 世界の論文に占める途上国論文のシェアは増加している。中でも中所得国で増加している
- 日本はアジア圏で2国間共著が多く、3カ国以上での共著もアジアの研究者との共著が多い
- 責任著者になる割合も高い
- 論点:
- 日本主導によるアジア諸国との研究協同の推進?
- 2国間だけでなく3カ国以上も
- 日本主導によるアジア諸国との研究協同の推進?
-
- 研究実績が少ない国との実績の蓄積がいる?
- 他国主導の取り組みに積極的に参加しては
- 研究実績が少ない国との実績の蓄積がいる?
-
- 留学経験者とのネットワークの維持・拡大
パート3:研究人材の流動性の状況(発表:古川さん)
- 問題意識:日本の大学・研究機関はグローバル化から取り残されている?
-
- 各国の大学・研究機関がどのように人材を育成し、どう海外の人材を受け入れているか?
- 今回は特に日本の研究水準が高い・人材が豊富と考えられる工学系を分析・・・ロボティクス、コンピュータビジョン、電子デバイス
- 各国の大学・研究機関がどのように人材を育成し、どう海外の人材を受け入れているか?
- 分析データ:
- 対象論文誌・・・研究領域を代表するような論文誌を抽出して著者情報(経歴情報)を収集
- 複数論文を書いている著者は名寄せでまとめる
- 各領域について2,200名以上の研究者情報をデータ化
- 研究者の中には院生や企業所属者も含んでいる
- 対象論文誌・・・研究領域を代表するような論文誌を抽出して著者情報(経歴情報)を収集
-
- 国・組織別に分析・・・
- 学士取得時・修士取得時・博士取得時・論文発表時の所属
- 国別・組織別の研究者数を最新の論文を発表した所属国・所属組織でカウント
- 国際的な異動については、院進学時と最新の論文を発表した組織の移動(最大、4つの組織間で3回)をカウント
- 国を超えた移動のみカウントする
- 国・組織別に分析・・・
- 国別研究者数と研究者の国際的な流入出バランス:
- 国外研究者の受入状況:
- 日本は研究者はそれなりにいるが、海外からは移動してきていない?
- 院進学時と最新の論文発表組織移動時の国際移動・・・日本はそれほどない
- 組織別の研究者数と流入出バランス・・・領域別の傾向の説明
- 東大とソウル大の、学部卒後の移動状況のグラフ:
- 東大ロボティクス・・・学部卒後、ずっと東大にいて、半数はそのまま東大の研究者になる/もう半数は国内企業もしくは他の大学へ
- ソウル大・・・米国の院に進学してそのまま活動する研究者が多い
- これまでの結論:
- 大学院における海外への留学が少ない
- 国外から多くの研究者・院生を受け入れるシンガポール・米国の大学や国外から研究者を受け入れる米国・台湾・韓国企業の存在
-
- 論点:日本の大学の国際化が必要とされるが・・・
- 企業が研究者を吸収するセクターとして重要。留学生の就職
- 優秀な海外教員の獲得
- 院におけるアライアンスのようなプログラム?
- 論点:日本の大学の国際化が必要とされるが・・・
コメント(永野さん)
中身の濃い発表だったので理解が大変だったが、理解できた範囲でコメントする。
世界の動きの激しさと日本の立ち位置は再認識できたと思う。トップ10%論文のシェアが、日本とアメリカ以外はすべて増えている。(日本は)とにかくクオリティが低い。特に1996年から第1期科学技術基本計画がはじまって、2000年くらいにその成果が出るはずなのに、2000年くらいに論文全体のシェアもトップ10%も落ちている。どういうこと? 国際共著も世界に比べて増えが緩慢。鎖国化? ガラパゴス化? 孤立化? 普段はそういう感じはしないが、こういう数字を見るとそうなのかな、と思う。
根本的には人の問題になるのだろう。OECD統計でも高等教育における入ってくる人と出ていく先の海外との関係は最低のところに日本はいる。多様性の欠如? 文科省が作っている、研究者の統計でも、(海外に)行っている人数は増えているが、30日以上の滞在者は極端に少ない。アメリカにおける留学生は世界の研究者ネットワークの源になる部分である。その減少は単なる留学生の減少ではなく、10-20年後にネットワークから外れることを意味する。その危機感があまりない。
ドイツは1990年代にトップ10%論文が増えているが、これは東西統合で予算がなくて期限付きのポスドクが増えたため、とも聞く。じゃあ日本で増えないのはなんでだ? 変な話。精査する必要がある。政策的に、論文を増やすことを考えて財源やシステムの配分をしているのか? 国際共著につながらないなら自分の資金でやるように、というようなことを考える必要はあるのではないか。博士課程の無料化も500億円もあればできる、いくらでもいいお金の使い方はできる。
研究は研究者があって、という基本が忘れられて、社会の維持が主眼になっていないか? 目的研究はいいが、やり方に問題がある。うまく運営しないと効率が落ちる。科学のパフォーマンスがいい国はそれがわかっているのではないか。多様性の尊重。
以下、各パートについてコメント。
- パート1について:
内容はクリアーだが、国際共著の増加要因は分析する必要があるのでは? NISTEPでやられていたようにも思うが、共著を増やせばいいだろう、ということでそういう施策をしているのかもしれないし、そうだろうと思うが、同じようなことをやればいいわけではないだろう。要因を分析した上で日本に適した施策を考える必要がある。
- パート2について:
面白い切り口と思う。3カ国間以上の共著が日本は少ない、ということだが、それをがんばらないということは日本には世界をリードする意欲がない、ということかも知れない。どうやったら増やせるのか。そうじゃないと研究費を出さない、ということなのかもしれないが、少ないから増やせばいいということではないだろう。少ない原因を探って増やす課題を考える中でいい示唆が生まれるのではないか。
留学経験者との関係維持は日本が遅れているところ。各国と比較したのは良い研究ではないか。
- パート3について:
日本が得意と言われる分野でも流動性が少ないとなると、他の分野はますます心配になる。
外国に出る研究者は優秀な研究者とすると、日本からの優秀な少数の若手のブレインドレインが起こらないか、ということは心配になる。シンガポールの単純な真似はできないが、そのプログラムを日本のグローバルCOEなどと比較して提言をするとかいうことは。
また、企業は本当に必要な人材を採用する。何でも取り組めるPh.Dの育成が課題。日本の企業が激変する予兆は見えている、そうなると日本の大学・学生はついていけない可能性がある。
会場質疑
- Q. 阪さんに。海外共著について。日本が責任著者である国際共著と、日本が責任著者ではないが参加している国際共著で被引用数に差はあったりするのか? もしあれば教えていただきたい。
- 阪さん: 把握していなかった。国が入っているかどうか、で調べている。責任著者の観点から国際共著と被引用数の関係を見るのは面白いかも知れない。また、コメンテーターの永野先生のご発言からも、国際共著が政策的な要因か、自然要因かはもうちょっと考察が要るだろう。施設のシェアなのか、材料のシェアなのか、という、きっかけの分析は今後の国際共著を増やす上でも重要になってくるかと思う。
- Q. 古川さんに。東大とソウル大の比較について、データの制約から東大に採用される研究者は国内大学出身者で、ソウル大は他大の人を採用している、ということではないか。どれくらいの人間が海外に出ているかを考慮しないと最終的な結論は言えないのでは? また、東大とソウル大で海外からとってきた人と自大学採用者でパフォーマンスに差があるのか?
- 古川さん: 分析についていくつか問題点があるのはご指摘のとおり。また、パフォーマンスについてもまだそこまでは調査が進んでいる段階ではない。
- Q. 永野さんからも桑原所長の話にもあったが、科学技術基本計画による研究費の倍増計画は、論文シェアにもトップ10%シェアについても、悪影響を出したように見える。インプット/アウトプットは次回、とのことだが・・・
- Q. 研究における国際共著は目的ではなく、結果と見るべきではないか。被引用度を増やすために国際共著を増やす、というのは策略的である、と疑える。また、留学生も含めて、外国人の提案は日本でどの程度、採用されているのか? 日本の研究者はNSFの助成を外国で受けている。もしそういったfundingのバイアスが存在するとすると、どう制度を直すか、という話になる。次回の調査でやって欲しい。
「先端領域における状況:日本の問題点を見る」(発表:阪さん、白川展之さん・科学技術動向研究センター上席研究官、コメンテーター:池上徹彦さん・宇宙開発委員会委員長)
パート1:科学全体でのホットな研究領域に注目した分析(発表:阪さん)
- 内容:サイエンスマップにみる世界の研究動向と日本の特徴
- サイエンスマップとは?
- 科学の動向を俯瞰的に捉える1枚絵
- 論文のグループ化で研究領域を構築する
- その研究領域を1枚絵にマッピングする
- その研究領域の内容を分析する、という3段階
- 過去に4回作成、時系列の変化を見ることもできる
- 科学の動向を俯瞰的に捉える1枚絵
- 方法:
- データ・・・トムソン・ロイターから取得
- 対象・・・被引用数上位1%論文=非常に注目度の高い論文
- 最新のマップ・・・2003-2008年の6年分のデータでマップを作成
- 論文のグループ化:共引用に基づいて実施
- 注目研究領域として現れた121グループは国内研究者に依頼して内容分析も実施
- [マップ自体の説明については図がないと困難なので記録割愛・・・「サイエンスマップ」でググって!]
- マップからわかる2002-2008の動向:
- 学際的・分野融合的領域の動向
- 各研究領域がトムソン・ロイターの22分野のどの分野に属するか?
- 特定の分野が6割を占める、という領域=軸足のある領域
- そうでない領域=学際的・分野融合的領域
- 2002年・・・学際領域はライフサイエンス周辺に/2008年・・・マップ全体に広がっている
- 各研究領域がトムソン・ロイターの22分野のどの分野に属するか?
- 日本の存在感:
- ここまでのまとめ:
- サイエンスマップから科学のダイナミズムが見える
- 大まかな研究領域群の配置は不変だが、ライフサイエンス系が減ってナノ等が増える
- 研究領域の変化=知識の波及・融合は頻繁に行われている
- 学際的・分野融合的領域は生命系だけでなく科学全体で行われるようになっている
- サイエンスマップから科学のダイナミズムが見える
-
- 先端研究領域の中で低下する日本のポジション
- 2004をピークに日本のポジションは低下傾向
- 参加している研究領域数自体が少なく、臨床医学や学際・分野融合的領域のような政策的注目度の高いところで弱い
- 先端研究領域の中で低下する日本のポジション
-
- 浮かび上がる論点
- 研究の多様性の担保が重要とよくいうが、日本でもともとそれは担保されているのか?
- 日本の研究者は新しい領域を開くマインドはあるか? あったとして、それを阻害するシステムが日本にないか?
- 浮かび上がる論点
パート2:工学分野に注目した詳細分析(発表:白川さん)
- 内容:IEEE刊行物にみる電気電子・情報通信分野の世界の研究動向と日本
- 背景等:
-
- 分析したデータ:定期刊行物(ジャーナル+トランザクション+マガジン)と会議予稿(プロシーディングス)
- 1980-2008年の約30年間を対象とする
- 定期刊行物355,891件/カンファレンスペーパー1,148,164件。重複は考慮しない
- 過去30年間で定期刊行物は約3倍、掲載論文は約4倍。プロシーディングスは30年で約10倍。特に2000年代からの伸びが著しい
- 分析したデータ:定期刊行物(ジャーナル+トランザクション+マガジン)と会議予稿(プロシーディングス)
- 国・地域別の文献数推移
-
- 定期刊行物:米国はずっとトップ
- 日本は過去、ずっと2位にいたが、2000年代に入り中国だけでなく次々と抜かれ現在、6位に
- 定期刊行物:米国はずっとトップ
-
- その結果どうなった?
- 文献数シェアでヨーロッパ・東アジア・北米が拮抗するようになってきている
- 中国を中心とする東アジアに、電気電子通信研究の中心が移りつつある
- その結果どうなった?
- 世界の研究領域別動向と日本
- 日本のセクター別研究動向
- 日本独自の展開はどうやって起きたのか?
- 論文生産の主役の変化・・・過去20年で大学と企業の論文シェアがちょうど入れ替わった
- 企業の研究生参加落ち込んだ分を、大学と公共セクターが代替したことで、全体が維持されている
- 科学技術基本計画や独法化・大学法人化ごとに大学ごとの論文・ペーパー生産が増えている
- 第2次基本計画までは旧帝大でカンファレンスが増える
- 法人化では地方国立大のカンファレンスペーパーが増えている。法人化で海外出張費の縛りが弱くなった影響?
-
- 大学の変化・・・量的拡大と同時に特化・集中が進む
- 超電導等、特定領域に特化
- 世界の主役であるような分野では文献数は増えているが、構成比は横ばい
- 大学の変化・・・量的拡大と同時に特化・集中が進む
-
- しかし日本全体は・・・?
- 全体のペーパーバランスは過去の産業構造を反映している
- 大学が主体で自由にテーマを選べるようになったはずなのに・・・?
- 産業界が減るとそのぶん大学が増える、ということが各領域で起こる
- 企業研究者が大学に移って同じ研究を続けている? それはイノベーションとして適切なのか?
- 全体のペーパーバランスは過去の産業構造を反映している
- しかし日本全体は・・・?
- これまでのまとめ:
- 1980年代後半、日本はIEEEで世界2位になった。しかし今はアジアの中でも4番手になっている
- 世界の研究は北米、欧州と東アジアが拮抗する環境になっている
- 日本の研究は世界トレンドから一貫して乖離している・・・電気・電子から情報通信に軸足が世界では移ったのに、日本は昔のまま
- かつての構造にひきずられてしまっている。その中で企業は相対的に弱い分野は海外に移転してしまっている
コメント(池上さん)
なんで宇宙開発委員会の委員長が出てきたかというと、かなり私に責任のある分野の話なので乗せられた。
少し過去の話をすると・・・大学時代、レーザーや半導体の分野に飛び込んだ。当時、日本には研究者が少なかったが、その延長が光通信の発展に貢献し、光通信技術のイノベーションの中に飛び込んでいった。日本全体の研究をサポートするような役割だった。後にNTTに移って研究に本気で取り組み、その技術を移転する会社の社長を勤め、さらに会津大学に移り、2006年まで学長をやっていた。デバイスというよりはソフトウェアやセキュリティについてそこでは勉強していた。さらに産総研の理事をやってもいた。科学技術基本計画の立案メンバーでもあり、第1期・第2期では科学技術政策の議論にも参加した。その他、関係する役職を歴任。日本の科学技術政策について今でも強い関心を抱いている。そういうバックグラウンドがあって、宇宙以外のことでもコメントする。
- 阪さんの発表について
科学技術の議論は分野の違いが強いが、サイエンスマップはファクトベースで分野を超えて表現している。課題としてはその解釈の仕方。関心を持って解釈する人に増えて欲しい。
1つは、装置依存度が高い分野があるはず。その特徴を見て欲しい。装置依存度の高いところとそうでないところが見られると面白い。
もう1つは新分野、学際領域の種の育ち方をマップの変化から見られるともう少し面白いんじゃないだろうか。
あとは日本の問題点について、これは今日1日の中でも色々議論が出てくるだろうが、特に大学ははじめたものをなかなかやめられない。海外は新しい分野をどんどん切り開く。ずっと1分野にいる日本のスタイルが悪いとは思わない、半導体などいい方向に行った例もある。そういった点も見たい。
原発事故以後、エンジニアってなんなのか、というのはなんなのかが気になっている。「工学」というのが分野としてあるのは適切ではない。エンジニアリング、エンジニアがなんなのか、という議論が曖昧になっている。エンジニアリング、エンジニアについての議論から逆にサイエンスがわかってくるのではないか。エンジニアは人工物づくりで、サイエンスは今あるデータや過去のデータに基づいて自然を分析する。エンジニアリングは明日を狙っている。その違いをもう少し議論しなければいけない。それがサイエンスマップでどう見えるのかが正直、わからない。
それも含めて宝物と思うので続けて欲しい。122の分野もよく見るとおかしいので、適切かどうか検討を。
- 白川さんの発表について
彼の結論はNTTが悪い(笑) 1996年以降には私はNTTを離れたので責任はないのだが。1つには、IEEEのエンジニアリングの分野は市場と非常に連動している。市場が変わるとあわせて変わる。
IEEEはプロフェッショナル・ソサイエティであってアカデミック・ソサイエティではない。極めてアメリカ的。分野の人間が大学・企業関係なく参加する。日本でもそういうものを作りたかったが、どうしても論文を書いておしまい、という内向きになってしまう。ぜひIEEEをよくご覧になって、日本でも同じようなものを。
また、IEEEについていえばフォトニクスがピークだったときに、そのソサイエティの会長を僕はしていたことがある。私がアメリカのピークになったことで、アメリカだけの学会ではないのかも、と考えてヨーロッパの人間が入ってきた。そこまで読んで私をchair manにしたとすると凄いが、そこまで読んでいたようには思えない。そんなわけで色々説明できるが、当時関心があったのは、アメリカとイギリス・フランスだけで、NTTにいたときも大学の論文はほとんど読まなかった。読んでたらもっといい研究が出来たかも知れないが、大学の研究は企業の6ヶ月後に論文が出てくるような感じ。エンジニアリングの特性がそこにもある。
また、エンジニアリングについてのイベントがあったことの影響や、インターネットでがらっと変わったことの影響が見られるともう面白い。
あとはITバブルがどうだったか、というのも結果から読み取れると面白い。今のアメリカでベンチャーでうまくいって大金持ちになった、というのはIT分野にしかない。ITバブルってなにか見ていくと面白いと思う。
あと日本について言うなら、人だと思う。霞が関はお金まではとっても人の面倒が見られない。NTTの研究所時代には職員に「NTTを向いて仕事をするな」と宣言していた。トップによって組織は変わるが、日本の場合はなかなかうまくいかない。トップの人間を考えないとなかなかいい研究はできない。
会場質疑
- Q. 白川さんに。IEEEのカンファレンスプロシーディングスや論文を見ているが、工学分野では論文や発表だけでなく特許も重要なはず。特許の位置づけをもう少しはっきりさせながら分析する必要があるのでは?
- Q. 白川さんに。かつての産業構造をひきずる・・・という結論は、大学に責任がなく、企業が担い手になっているように読める。大学に責任はないのか? 講座制を廃して自由に研究できる環境があるはずなのに、自分のコピーのような人をひっぱってきて新しいことをしないような構造にも問題があるのでは?
- 白川さん:書き方はニュートラルになっているが、大学・企業どっちにも責任があるが、主として大学の問題として言えば、講座制のなごりは否定できないし、科研費も人口数に応じた資金配分になってしまっている。また、経産省の影響が大きすぎて、fundingがソフトウェアにいって上手く行った試しがない。超電導は経産省のfundingが効きすぎてしまっていて、日本の工学部の生態系を大きく変えてしまっている。要因は多いが、2000年代に技術の流れが速くなっている中で、大学の人事はあとを引きずってしまっているし、あとは企業から大学に来た人が、過去の研究の話をしているので周回遅れのさらに周回遅れになっている、という批判もある。大学の組織運営の問題も大きい。
- 池上さん:大学の責任を問うような話ではないのではないか? 原発事故に関連してエンジニアリングを考えるとき、日本の工学部は論文を書いている。外国なら論文を書いておしまい、というようなことはない。そこは考えるべき。また、科学技術の中ではサイエンス、サイエンス、サイエンス、という。サイエンスは好きな事をやらせてください、というようなことだが、イノベーションについてどうなのか。また、イギリスではケンブリッジがイノベーションを率いてきたが、何も生まれなかった。サイエンスからイノベーションが生まれうるのかと悩んでいる。イギリスでは研究開発のお金が20%は減らされるという中でモデルが崩れつつある。日本だけではない。ある意味では日本ががんばるチャンスも出てきている。
- 阪さん:池上先生のコメントに少しお答えしたい。先端領域の中で研究材料・施設がどう使われるのかも見ていけると面白い。データベースも情報が綺麗に入るようになり、近年ではacknowledgement(謝辞)も入ってくるようになった。今後は所属機関だけでなく踏み込んだ分析もできるようになるはず。深めていきたい。また、学際領域の種を発見する方法は国際的にも興味が持たれているがなかなかいい方法がない。サイエンスマップ2010では、研究領域が今、引用している論文を捕まえてくることで、より新しい動きを捉えられないか、チャレンジしたい。また、研究者との議論についてもサイエンスマップ2010で考えていきたい。
- 白川さん:同じく先生のコメントについて。NTTだけでなく、IBMやベル研など、かつて栄華を誇った組織の仕事は分析していて、諸行無常の流れを表していることがわかっている。ただ、彼らは散ったが、もとのネットワークを維持して世界の大学の中で頑張っている。また、IBMとMicrosoftは世界に研究所を展開している。とくにMSはアジアに研究所を置いていて、グローバルに人材を求めている。先ほどの古川研究官の発表にもあったが、完全にグローバル企業ではその人材の流動は当然になっている。これに日本企業はどう対応するか、最近日本でも出てきているが・・・。イベントとの辛みは興味をもってやっていきたい。
休憩
「日本の大学の研究活動の現状把握:機能分化が進んでいるか」(発表:桑原さん、コメンテーター:本庶佑さん・総合科学技術会議議員)
今までは大学全体の話。ここからは設置主体や規模で分けた話や、英国の大学集団との比較の話、最後に個別大学のデータから浮かんでくることを紹介する。
事前注意:
- 発表資料中の結果は、2011年度中にNISTEPの報告書として公開予定
- 結果等は変更になる可能性があるのでその点は了承願う
- 正式な公表前のデータなので、引用は控えて欲しい
はじめに
- 大学の機能分化?
- 分析手法:
- トムソン・ロイター、Web of Scienceのデータを見る
- 論文の「量」・・・機関名が所属に入った論文数
- 「質」・・・トップ10%シェア/被引用数シェア
- 変化の方向・・・時間軸でどう変化するかを分析する
日英の大学の研究活動の定量的比較分析(分数カウント法採用)
- レポートは2-3年前にすでに出ている。その復習
- 日英をおおまかに比較したら構造的な違いはあるのか?
- 大学数・・・短大を入れると日本は1,000以上、英国は170程度
- 上位4分の1大学で日本は97%、英国は79%の論文を生産
- 論文数シェアに基づいて大学をグルーピングした上で、日英を比較
- トップ第1グループのシェアは似たようなもの
- 英国は第2集団の厚みが高い
- 日本は1・2・3・4がやや拮抗している
- 各グループを研究者1人あたり論文数でプロットすると?
- 日本・・・規模の小さい大学の中に、1人あたり生産性の高い大学がある
- 英国・・・上述のような大学はない。第2グループに集まっている
- なんで?・・・トータルでは第1グループにはかなわないけど、いくつかの強い分野では資金・人材で第1に拮抗する、という大学が多い。日本はそうはなっていない?
- 日本でも第2グループの厚みを増すダイナミズムが働くか?
- 働けばよし・働かないなら問題がある
日本の組織区分ごとの論文生産(分数カウント法採用)
- 大学、政府、企業、その他ごとのシェア
- 国大微減(50%で推移)、私大微増、企業大幅減(12%⇒6%)、独法大幅増(5%⇒9%)
- トップ10%のシェア
- 国大は55%くらいで一定、私大は微減⇒増加へ、独法は大幅増加で企業は大幅減(全体と同じ傾向)
- 分野別:
- 化学:国大・私大一定。しかし国大は論文数自体は減少傾向へ
- 材料科学:企業は完全に低下、独法も伸びは停止
- 物理:独法が第2位
- 計算機科学・数学:国立大学がずっと上昇、企業激減
- ここは論文数での議論には限界がある。計算機科学は工学なので論文だけではない。数学は1論文の持つ意味が違う。
- 工学:国立大のシェアは低い、企業が最近激減
- 環境・地球科学:国立大学のシェアが6割くらい。トップ10%は国大が一時激減⇒回復。あまり強くない分野なので変化がよく出る?
- 臨床医学:国立大学がシェアを5割⇒4割へと一貫減少。そのぶんを私大が補っている状況。2008-2010では私大とシェア逆転。他と異なる傾向。
- 基礎生命科学:ここは国大のシェア一定。ただし論文数は国大が減少傾向に転じている。
個別大学の研究活動の分析(整数カウント法採用)
- min2-fly注:ここがまだ正式公開までのデータなので、引用はしないで、とのこと。ざっくりした話しかメモらないよ!
- 過去10年の総論文数が1,000以上のすべての大学をマッピングしていく
- データ的に人文社会科学は全く見えていない点には注意
- 東大の例:
- 論文全体:
- 世界シェアが高いのは物理、材料・工学・計算機系はそれよりは弱い
- 国内シェアで見ると、日本全体で環境が弱いので東大のシェアが相対的に高い
- トップ10%/被引用:物理の突出がより顕著になる
- 共著の状況
- 国内での共著相手:若干、推移するけどそう変わらない
- 海外での共著相手:大きく変化。90年代はドイツ・イスラエル・イタリア等⇒2000年代後半は中国・韓国等が増えてきている
- 論文全体:
-
- その他、各大学の例等について会場配布資料に基づいて説明
- 量の比較をするにも、分野による差が大きい。似た分野の大学をグルーピングする必要がある
-
- さらにクラスターごとに量(論文数)・質(トップ10%論文数)で内部をクラス化・・・時系列変化も見る
- さらに小さい(細かい)領域別の分析の可能性も検討
- 規模の小さい大学でも小領域単位では一定の存在感を示す場合がある
まとめ
- 各大学で戦略を立て選択・集中をするときに・・・
- 自分以外の周辺大学等のデータに使えるのでは?
- 大学交流等の参考にもなりうる
- どういうデータが欲しい/必要、というのを教えて欲しい
コメント(本庶さん)
データが広範なので何がコメントできるか困っているが・・・今日の大きなテーマは引用や論文の量を使って評価をやっていくこと、指標、日本の大学の力を評価し、それに基づいて選択・集中を行う、それにどれだけ役立つか、という試みであると思って拝聴した。従来、我が国では大学の評価をタブー視する傾向があった中で画期的で、しかも具体的なデータに基づくクラスター分析ということで大変重要な取り組みだと思う。
そこで少し感じた点を話したい。英国との比較の中でも出てきたが、日本における第2グループの強化の必要とともに、小規模でかなりクオリティの高い論文を出す集団の存在に興味を持った。英国にはそこは少ない。米国ではどうなのか。数はそれほどないだろうが、立派な大学がある。Cal Tech(カリフォルニア工科大)は極めて小規模だがトップが揃っている。こういう日本の中に育ちつつある特色のある小規模大学が、Cal Techのようになれるか。現在、この象限にある分がもっと大きな飛躍をしてくれるか、期待したい。
もう1つ、これは一般的なことなので難しいかも知れないが、引用を今は価値の指標にしている。しかし引用は平均値である。ボリュームの大きなところのトップ10%シェアは概ね引用の平均値を表している(min2-fly注:ここちょっとどういう意図でおっしゃっているのか・・・?)。しかしトップ・オブ・トップスを見ることは、現在のトムソン・ロイターの指標では捉えられない。本当にオリジナルな知見は最初は人気がなくて、10年くらい経ってから引用されるようになってくる。だから、はじめは小さかったけど10年くらい経ってから成長した、というようなものも見てはどうか。いろんな角度からの指標がいるのではないだろうか。
同じく引用に関しては、これは分野にもよるかも知れないが、引用されることを重視することの弊害が起こっている。引用されるためには流行りの分野にのればいい。そうすれば論文も出しやすいし手っ取り早く職も得られる。人気のあるところで早く論文を書いて人気のある雑誌に載せて職を得る。本来のサイエンスから見れば堕落している。日本の大学もその例外ではないことが指摘されている。引用に頼りすぎることは大きな問題であって、論文を分析するときには中身をチェックする技能がないといけない。
もう1つ桑原所長の発表で指摘があったが、日本は大学が多すぎる。英国に比べ人口・GDPは倍だが、大学の数は10倍。しかしうち研究に貢献している数はGDPなり人口に比例している。日本の多すぎる大学が我が国にどのような貢献をしているのか、文科省としてのお考えを聞いてみたいとは思う。大学としてのクオリティ・コントロールとして、こういった指標でひっかかってこない大学をあわせた大学全体の進むべき方向を見ていくことをしないと、文部行政としてはいけないのではないか。もちろん、研究に貢献せず教育に力を入れる大学があり得るが、その場合のクオリティ・コントロールをどうするのか。大変雑駁な感想を述べたことで私の役目を果たしたことにしたい。
会場質疑
- Q. 本庶先生のコメントもわかるが、桑原先生の分析には大きな意味があると思う。大学を比較するデータがあまりにも日本には少ない。理科系や科学系を比較できるデータがない。先週、QSのランクを見たが、日本の大学のランクは落ちている。おそらく、研究でがんばっていても国際性の問題や大学間のピア・レビューの点数が落ちるのだろう。日本の大学は落ち目であることがはっきり出ている。そうなると、いろんな大学の留学生がどこを選ぶかといえば国際ランクを見て優秀なところを選ぶ。そうなれば、日本の大学の留学生は75%が人文系、25%は理科系。しかし理科系の優秀な大学はほとんどがアメリカや、シンガポールや香港に行っちゃう。そういうときに、今回のようなデータは単純であっても、日本の大学だって理科系で海外に負けないクオリティを出していることの証になる。ぜひ発表後、すぐに英語に訳して出して欲しい。
- 桑原さん:留意したい。また、成長の状況については各論文の年毎の被引用数を見てある時から注目された、というのを見つけたいと思って進めている。準備はしたがどう評価するか検討中。このあたりは進めていきたい。
- Q. 発表の趣旨には外れるかも知れないが、企業シェアの低下はびっくりした。経産省のデータを見ても企業研究がすぐに利益の出るもの中心になっている、というような話があるが、それとも符合する。企業研究の減少が日本のイノベーションにどう影響するのか。昔は企業は余裕があったのが正常化したと見るべきか、長期的・基礎的研究がおろそかになって、今後重大な影響を持つのかが気になった。それを補うためにはアメリカでは企業でやらないなら産学連携を、というような取り組みがあったが、それは日本では進んでいるのか。
- Q. 機能分化、というのはどういう分化を考えているのか? 分野別なのか。医学や工学に強い、というのが分化なのか。それとも総合大学と単科で特色があることなのか。それとも教育・研究の分化なのか。どう考えられているのだろう。
- 桑原さん:何をもって機能分化、というのは我々が定義するものではなく、各大学が考えるものかと思う。それを支援するデータが作れればいいが、所詮は論文の分析なので、分野バランスやある分野の中での連携関係等は議論できても、総合大学主義がいいのか単科大を目指すのがいいのか、等の答えは単純には出てこない。それぞれの判断の結果としてある種の特化が進めばいい。
全体討議
桑原さん:全体討議のポイントについて説明
- 今日の発表全体を通じての質問やコメント
- データに基づく「把握」についてのこれからの方向性:何をやるか
- 「動向」:いろんな動向をデータで見る、そのとき何を見るか? 大学の論文全体? 学部や院別? そこから何を抽出する?
- 「判断」:問題のあり/なし
- 次回以降・・・インプット/アウトプットの関係
- 広い観点から意見を
- フロア:
阪さんと白川さんの先端領域の話が面白かったが、ペーパーになるものは時間がかかる。分野別の動向について、NISTEPでは別に定性的なレポートも出している。その定量分析と定性レビューの統合によって、先端領域のダイナミズムについての分析を行うといいのではないか? インプット・アウトプットと同時にやって貰えれば、新課題の選定やfundingを行う人間に意味のあるデータになると思う。
- フロア:
自然科学分野は専門ではないのだが、気になる事が出てきたので聞きたい。論文の引用数トップ10や大学ランキングの話が出てきた。中国人はそういうことが大好きだが、論文の引用の中で、中国人同士でやり取りしていたりするのではないか? 信用できる数字なのか。私は何度、科研費に応募しても落ちるのだが、評価のところが実に大事なんじゃないだろうか。そこをしないとかえって間違いそう。
-
- 桑原さん:うちわでの引用は間違いなく一定程度、存在する。ただ、各分野のトップ10%になると、数百回引用されないといけない上に、その数百とは全部査読を通ったもの。査読を通ると自分の論文が1回だけ引用できるわけで、うちわの引用や自己引用は大きな指標を狂わすほどではないだろう。これは実体を表したもの、と把握した方がいい。
- フロア:
途上国研究について、アフリカと東南アジアについては、歴史・政治・経済的背景を無視してアフリカと連携せよ、と言われてもどうしたらいいのか。それよりはアジアとの関係を強化するのでいいのではないか?
- フロア:
大学の数が多すぎる、という点について。文科省の政策かなあと思うのだが、大学に資金を持っていくことは何かメリットがあって、少なくはならないのではないか?
- フロア:
データを出すと客観的に見えるが、出せるデータと出せないデータがある。手間もかかるし資源は限界がある。桑原さんは意識的に役割分担についてかなり控えめに表現されていたし、今回のデータでも「こうも見られるが間違っているかも」という話が多い。これからのNISTEPではどういう方向でデータを出していくのか? 文科省の政策のためにデータを出すというときに、独立系シンクタンクとしてやるのか、文科省が欲しいデータを客観的に出すのか。すべて全部出す訳にはいかない以上、なにか考えなければいけないと思うが。私自身も悩んでいる、お知恵を拝借できれば。
-
- 桑原さん:おっしゃる通り。データは客観的だが、あるものしか使えない。データがないものは言いたくても無視される。存在するデータも、フェアにやっても加工方法のやり方の問題等も出てくる。文科省として「こうありたい」というのはない。最終的には今や国立大学は文科省は若干の誘導はできても強制はできなくなったので、各大学で行ったことの結果として期待する方向が導かれる、ということになる。とにかく色々なデータを出して平場で議論をしていただくことになる。私はデータについて慎重に議論している、それは危ない部分の存在を意識しているからだが、各大学から「こんなデータを出して」というのを言ってもらって、それをやるのが今の文脈ではいいのではないか、と思う。データは実感にあうことが重要と思っているのだが、ある大学で自分のデータについて「これは実感に合わない」と言われたとき、別の大学のデータを見せると「あっている」ということもあったりした。バランスの問題もある。
- フロア:
サイエンスマップについて。科学研究のダイナミズムに関して、物性研究と素粒子・宇宙物理の間で研究が起きているらしい、というのがわかったときに、そこで何が起こっているかもっと突っ込んで解明してもらえないだろうか。融合研究をしろ、とは文科省からも言われるが、どうすればそれができるのかを知りたい。
-
- 阪さん:ぜひ進めたい。時系列で変化がとれるようになったのは最近。研究領域も論文もピックアップできているので、それを中心に分析してみたいと思う。
- フロア:
生のデータを政策の現場に放り込むことの弊害も馬鹿にならない。議論のフレームワーク、NISTEPが蓄積されている知見・・・例えば集中がいいのか分散がいいのかの議論は過去にも蓄積されている中でデータをどう解釈するか、というようなことを添えて政策に放り込まないと危ないのではないか。NISTEPにはその力は十分にあると思う。なんらかのフレームワークとともに議論するのが1つの方向性ではないか。
-
- 桑原さん:本質的なご指摘だが・・・個人的な勝手な意見はあるがそれを押し付けても意味はない。「これが正しい枠組みだ、これを目指しなさい」ということのエビデンスとしてデータをつけるのは、そこまでの能力はNISTEPにはないし、誰にもできないと思う。そうしないで、データを公開すると色々使われてしまうというのももちろんありうるので曲解を招かないバランスは重要と思う。ただ、10年前はこのようなデータを議論することはタブーだった。今はこういうのはもう当たり前になっている。変わってきている。世界の中でも大学ランキングで評価される。10年前に比べると議論がしやすい環境になっていると思うが、注意深くやっていきたい。
- フロア:
国立大学で副学長をやっていたことがあって、学内資源の配分に興味を持っていた。そこから考えると、1つの材料として各大学の財務諸表から研究をどれだけ目指しているか等を、多少の曖昧性はあるがある程度は読み取れるのではないか。どこまで細かいデータが要るか、ということだが、中規模の国立大だと研究のできる人も業績の少ない人もいて、誰が芽を出すのか読めない。研究だけでなく教育も見ながら配分しないといけない。ある学部がすごく良くてどこかがすごく悪い、と分けるのも難しい。よその学部のパフォーマンスデータや個人のデータも、意味が無い以上に弊害があるだろう。大学単位が適正な規模ではないだろうか。論文分析とはメタデータの統計処理なのだからあまり細かい事は言えないはずだし、細かくしすぎない方がいい。欲しいのは、うちの大学がよそと比べて現状どうなのか。どこに対策がいるのか。対策については、別に考える。
- フロア:
臨床医学の教員で、地方国大の元学長。臨床医学の論文数の減少を懸念している。国大では数・質ともに臨床医学の論文が落ちている。他の分野でも減っているところはあるので、ある程度共通の理由があるんだろうというか、臨床の特殊な状況が敷衍できるかも知れない。国立大学の臨床の論文が減っている一因には法人化の影響があるだろう。とくに大学病院への予算削減は激しかった。病院経営に重点を置くことになり、教員あたりの研究時間は減って診療時間が増えている。そういった政策的なことの影響がかなりあるんじゃないか? また、大学間の減り方を見ると、旧帝大も減っているが程度はそれほどでもない。地方国立大の一部が激減している、恐ろしいほどドーンと下がっている。病院経営について病院長や学長に訪ねにいくときに論文数データもあわせて持っていって説明しつつ、国に対して予算削減に関して理解を得るべく、政治家をまわって議論したりもしている。
閉会挨拶(伊藤宗太郎さん・科学技術政策研究所総務研究官)
- 今日のテーマは論文の定量分析から研究・教育の場面で何を言えるか発表した
- 今回は3回目のレビューセミナー。1、2回とは趣きが違う
- 1・2回目は各グループの抱える大きな問題が中心の報告
- 今回は論文から何を読み解けるのか、という横軸と、そこから出た問題への取り組みについて
- 大きなトピックは2つ:
- 各分析の結果から示された問題:日本の論文生産の停滞、中国の躍進、人材の流動etc...
- 論文の定量分析の可能性:政策研究における情報・データの扱い
- NISTEPでは科学政策のための科学を国と連携して行なっている
- 客観的なデータとevidenceに基づく政策、というのが主眼にあるのだが、それは極めて難しい
- 組み合わせ・見せ方で客観的でない見方もできる。注意がいる
- 今日の段階では定量的なことでできることをお示しした
- さらにこれを分析し、政策の示唆につなげるのは我々の課題でもあり、次の議論にも引き継がれるもの
- その例として・・・臨床研究の減少。定量データではないが、数週間以内に発表するレポートの中で、研究者の研究従事割合、研究に避ける割合を調査している。それによれば、国立大の臨床系の教員の研究従事割合の低下率は極めて顕著。間もなく発表できるはず。このデータと今日のデータを組み合わせればいろんな事が言える。ただ、そこから何を言えるのかが、まさに客観的なデータを提供し、それを議論の中でどう使ってもらうかの問題にもつながる。
- コメンテーター/会場から極めて貴重な意見を得た
- これを咀嚼して引き続き調査・研究していきたい
興味深いお話がいっぱいで、今日のディスカッションの咀嚼はもちろん、NISTEPの結果の咀嚼にもしばらく時間がかかりそうです(汗)
企業による研究成果公開(論文等の形での)の減少は世界共通の傾向で、ただ日本は企業研究が大きな比重を占めていた分野があったために、その影響が論文数の伸びの上で他国より如実に出たんじゃないか、とか。
国立大における臨床医学研究の論文数減少と研究時間の関係とか、もともと個人的に気になっていた話に関する部分も多く、後者については後日、報告書の公表を待ってぜひ読み込みたいと思います*1。
その他、会場で配っていた報告書類も貰ってきたのですが(大学で印刷すると紙とインクが・・・なので)・・・お、重かった・・・。
こんだけの分析結果を活かしていけないともったいないよなあ、と思いつつ、すぐに読めるとは限らないので興味がおありの筑波大春日クラスタはぜひお貸しします(笑)
*1:2011-12-15追記 件の報告書『減少する大学教員の研究時間』、次のURLで公開されました! お知らせいただいた阪先生、ありがとうございましたm(_ _)m http://www.nistep.go.jp/achiev/ftx/jpn/dis080j/idx080j.html