かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

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【2009年図書館総合展フォーラムレポートその5】学術コンテンツのデジタル化と情報利用行動の変化:SCREAL調査の意義とこれからの大学図書館


ずいぶん遅くなってしまいましたが(苦笑)、2009年図書館総合展フォーラムレポート、〆は3日目ほぼ1日をかけて開催されたシンポジウム、「学術コンテンツのデジタル化と情報利用行動の変化:SCREAL調査の意義とこれからの大学図書館」です!

  • シンポジウム中、再三話題にあがっているSCREAL(学術図書館研究委員会)のサイト(報告書も全文無料で閲覧可能です!)


3日目はARGカフェもあるのにそっちに顔出さないで*1・・・ということの言い訳のために色々な方に言って回ってはいたのですが。
そもそもSCREAL調査自体、自分の研究分野ど真ん中ストライクでありそりゃ聞かないわけにはいかないだろうというのはもちろんのこと。
今回のシンポジウムでは海外からDonald W. King氏がいらっしゃるということであり!!!
そりゃ行かなきゃ絶対後悔するだろうー、ってことで行ってきました。


・・・と、図書館情報学クラスタに言って回ってもリアクションが薄いのでちょっと凹んでいるのですが・・・
シンポジウム中でも幾度もお名前が挙がっていますが、KingさんとTenopirさん(Tenopir & King)と言えばそれはもう、学術情報流通/大学図書館関係では長年にわたって第一線でご活躍され続けている方々で。
"The Legend"との呼び名も(会場内で)ありましたが・・・日本の学術情報関係の著名な先生や出版社の方がまず「ずっと論文を読ませていただいてきた方にお会いできて感動しています」というご挨拶から始められていたりすることからもおわかりいただけるかと思いますが、特に論文の利用行動については30年以上にわたり変化を追い続けられていると言う方です。


と、あんまり長くファン歴を語っても仕方ないので以下、当日のメモです(ちなみにパネルディスカッション以外の全体司会は後半、パネリストもされている慶應義塾大学の市古みどりさんです)。
例によって聞き取れた/理解できた/書き取れた範囲でのメモであり、その点ご理解の上お読み頂ければ幸いです。
特にSCREAL調査については自分のメモが怪しいと思われた箇所がありましたら、本文閲覧可能ですので是非上記リンク先のサイトからダウンロードして読んでみていただければ幸いです。





開会の挨拶(大野節夫さん 国公私立大学図書館協力委員会 委員長館)

  • 近年、コンテンツのデジタル化が進んでそれを掲載しているe-Jやe-Bookが普及しているが、大学図書館はその導入に頭を痛めている。その折にSCREALで調査を行い、結果が2008年度12月に発表された。今日はその結果報告と、情報利用行動の分析で著名なD. King氏の講演、ディスカッションの3部構成。

基調講演 "From User Behavior to Return-On-Investment: How Electronic Journals Have Made a Difference" (Donald W. Kingさん University of North Carolina)

  • 最初に司会の市古みどりさんからご紹介
    • 長年、情報利用行動や電子ジャーナルの動向分析に携わっている
    • 今日は利用者行動からROIへの移り変わりの動向について話していただく
  • はじめに
    • 今回は妻のCarolともどもお招きいただいたが、CarolはASISTの別の会議*2に行っている。ASISTで彼女が昨日、有名な賞を受賞した。
    • 日本への来日は1970年代以来。がんの研究機関等を訪問したが高水準の研究が行われていて感銘を受けた。
    • 今日の午後、発表予定の調査結果も見たが、非常に詳細な報告で感心した。これからの話よりも詳細かも。
    • 今日お話したいのは、実際の利用者の行動とそれが引き起こす文献利用、それがもたらす価値とROIの関連性についてお話したい。
    • 利用者行動は利用者の選択の結果として現れる。図書館のコレクションを使うのか、ジャーナル論文や同僚やインターネットからの情報を使うかの選択があらわれている。自分で購読するか図書館の資料を使うかの選択にも関わる。
    • 実際の利用者行動は閲読、その目的、読まれる文献の年齢にも関係する。
    • 情報の価値は2つある。
      • どのくらいの時間、お金を費やして良いと感じるか?
      • 利用価値。その情報を使うことでもたらされる結果は?
    • そしてROIは違った側面から利用価値を見る。その大学が図書館にどのくらい投資しているかで測る。図書館にどれくらいのコストをかけるか、読者がアクセスするためにどれくらい時間をかけたかから算出する。
  • 利用者行動の2つの要因
    • 個人的な要因
      • 読者の教育レベル、領域、年齢、性別
      • SCREALではこの点について詳細な分析あり
    • 状況的(シチュエーショナル)な要因
      • ニーズの性質、情報の属性(クオリティ)、作業の場(図書館の規模など)
    • 利用者行動はその利用者がアクセスする選択肢に現れるが、これについてはイギリスのメドウズが1998年に「情報の利用調査の最もはっきりした結論は、情報のチャンネルの本質的な価値とはほとんど関係ない。最も重要な要因はアクセシビリティ、どの程度利用可能かである」と言っている
    • アクセシビリティとはどのくらい時間や労力を使うかによる
  • 利用者はどのような/どのように情報を使うか?
    • ソースは雑誌論文が93.9%でほとんど、図書は2番目、3番目がweb、4番目が会議録
    • 発見の方法としてはブラウジングが3分の1以上で1位、検索が27%で2番目、3番目は人から聞いたで18%、4番目は引用から見つけたで16%
      • ちなみに日本の調査ではブラウジング46%、検索36%、引用からはわずか5%
      • オンライン検索情報源はアメリカで26%、日本で36%が使うとのこと
      • 検索の60%は電子的なA&Iサービスを使っている
    • 情報を得た場所については、アメリカで半数以上が図書館。33%が個人購読
    • 54%は電子媒体、46%は紙媒体
      • 個人購読では13%が電子媒体
      • 図書館のものでは72%が電子媒体
      • 日本では読んでいるものの75%が電子媒体。アメリカよりもずっと高い
    • 読んだ場所は、アメリカでは研究室が59%. 日本は87%
      • (min2-fly:日本人は研究室でしか仕事しない? いや実際しないけど。自宅で論文とかありえん)
  • 論文の利用の様々な側面
    • 論文を読むとは?
      • King & Carol Tenopirの定義ではタイトル・目次・アブストラクトだけでなく本文を読むことまで指している。1970年代にNSFの助成を受けた研究で使いだした
      • Carolと自分の調査方法は、過去30日間の読んだ量を聞くというもの
    • 論文を読んだ回数
      • 教員の平均値は20回/月。これを12倍すれば、1年で教員は240回、何かを読んでいる
      • NSFの1977年の調査を継続してやっているのだが、1977年に年150回だったのが2005年では280回まで、130回分増えている
    • 読んだ目的
      • アメリカは研究49%、教育23%、報告書等を書くため11%。日本はそれぞれ50%以上、7%程度、20%
    • 読んだ論文の出版からの年数
      • アメリカでは出版から1年以内50%(日本54%)、2年以内20%、3-5年11%、25年以上3%
      • 1940年代の論文を読んでいるケースもあった。16年以上たっている論文は6%で、日米で変化はない。発表後年数の分布も同じような感じ。
    • 読んだ目的×入手方法
      • 研究目的の場合、かなりの部分を図書館に頼っている。約65%
      • 講義に使うものは個人購読による場合が多い
      • カレントアウェアネスは図書館と個人購読が半々
    • 読んだ論文の年齢×入手方法
      • 最近のものは図書館のコレクションの割合が低いが、古い論文ほど図書館のコレクションになり、1996以前では4分の3が図書館のコレクション
    • 閲読傾向の比較:1977年と2005年
      • 1977は90本が個人購読、37本が図書館から、23本がその他
      • 2005は63本が個人購読、174本が図書館から、43本がその他
      • 1977〜2005の間に読む量が増えた分のほとんどは図書館で読んでいる分
  • なぜ図書館で得る情報源にシフトしているのか?
    • 個人購読が減った。1人の教員の個人購読雑誌数は4.2から3.2に
    • オンライン検索で論文を読む数が増えている。1977にはオンライン検索による論文は1本、2005年には65本。図書館提供のもので増えているほとんどはオンライン検索による
    • 電子コレクションが論文へのアクセスを広げた。
  • 雑誌の中の情報の価値
    • 情報の利用は2つの価値につながる
      • 購入/交換価値。その情報を得るためにどれくらいの金額/時間を費やしても良いと読者が思うか
      • 利用価値。その論文で見つけた情報を利用することで得られる、本人にとって良い結果をもたらす価値
  • 購入価値
    • 論文を読む際にどのくらい時間を費やすかに関わる
    • 1回の閲読で6.9分をブラウジング、5.3分を検索、33.1分を実際に読むのに使う(アメリカ)。日本は実際に読むのに55分使う。
    • 1年間の平均では教員は148時間を読むことに費やしている。
    • 1つの論文を読むのに費やす時間は1977年には48分だったが、2005年には31分。実際に読むのに費やす時間の総量は127時間⇒145時間(min2-fly補足:論文を読む本数は増えているから)。
      • 図書館で入手したものは35分、個人購読のものは25分で読んでいる。図書館で読んでいるものの方が個人購読よりも価値がある??
    • 電子媒体か紙媒体かは時間にはあまり影響しない
  • 利用価値のいくつかのタイプ
    • 論文を読んだことで得られるポジティブな結果
      • 新しい考え、アイディアを得ることができた:半数以上
      • 結果の改善に役立った:約40%
      • 焦点を広げる/絞る/変えるのに役立った:約27%
    • 賞を受賞したりなど、業績を上げている人の方が読んでいる本数は多い
      • 読んだ本数が276 VS 222
      • 読むのにかける時間:159 VS 119
      • 1本にかける時間:35分 VS 32分
    • 発表数が多い人は読む本数が多い
      • なんらかの発表を行っている教員は月29回ものを読むが、発表していない教員では約15回
      • 査読論文を発表している教員は月29.6回、発表していない教員は18.4回
      • 著書がある教員は33.7回、ない教員は26.7回
    • Contingent Valuation
      • 価格のついていないもの・サービスに価値を見出す方法。そのサービス等を持っていなかったらどうなるかを見ていく手法
      • ここでは図書館のジャーナルコレクションがない場合を見ていく。特に科学者がその他の情報源を使おうとしたら追加的なコストがどうなるかを見る
      • 実際の質問例:「最後に図書館で得た論文を読んだときのことを思い出して下さい。その情報がもし図書館になかったら、どこで代わりにその情報を得ますか?」
        • 「あきらめる」と言う人もいる。
        • 代替手段を使うとした人には、どのくらいの時間や金額までなら費やしていいかを聞いた
      • 調査はピッツバーグ大学(教員数2,500)で行った
        • 回答者の21%は代替手段は使わないとした。79%は別の情報源を使うとした
        • 別な場所の例:図書館、個人購読、データベース、その他
        • 代替情報源に費やしていい時間は平均36分
        • 使ってもいい金額は1本平均10ドル。個人購読のため、もしくは交通費に使う
        • 代替的な情報源を使う、とした論文購読(=図書館での購読)は99回分に相当するので、教員1人あたり図書館がない場合に費やす時間は59時間、金額では990ドルになる
        • 1教員あたり49時間余分な時間を使う。全体で600万ドルに相当する。追加コストは全体で200万ドルにあたる
        • 別な言い方をすれば、図書館により12万2千時間、教員60人分を捻出できるだけの金額を節約している
        • 図書館にコレクションを構築することで800万ドル、教員60人分を大学は確保できる!
      • リモートアクセスできると?
        • 教員1人7時間節約できる。全体で1万7,500時間。教員9人分にあたる
  • ROI(投資効率):上のピッツバーグの例
    • ROIは価値次第で変わる
    • 大学の投資によっても変わる
    • 投資の一部は図書館のコストや教員のコスト
    • 大学の総投資額は330万ドル。うち図書館は164万ドル
      • さらに購入費が51.5%でスタッフコストが43.9%、その他にスペースや製本、複写等のコストもある
    • 教員側のコストは165万ドル(アクセスや他のコスト)
    • 投資によって回収できるのは820万ドル相当。その4分の3は教員の時間
    • 投資回収率は2.5:1。330万ドルの投資で、820万ドルの効果を得ているため
  • イリノイ大学でのROI調査の例
    • 図書館への支出1ドル当たり、4.38ドルの研究助成費が得られている*3
  • まとめ
    • 図書館は今後も非常に重要な情報源になり続ける
    • 論文の入手源としての代替的な情報源は利用者により多くの時間や金額を費やすことを強いる
    • 電子ジャーナルやパッケージは図書館のコストを下げる
    • 図書館は閲読のための重要な情報源になり続ける可能性が高い
    • テクノロジーは今後も前進し、雑誌出版や情報を知らせるサービスは今後力強くなる。
    • 電子ジャーナルはメリットの大きなものだが、印刷体もしばらくは残り続ける
    • 電子ジャーナルで読者も経済的なメリットを享受している
    • 近い将来において、図書館は雑誌システムの中で不可欠な参加者であり続ける
    • オープンアクセス等の新たなモデルは注意深く前進する必要があり、実証可能な成功例を見せる必要がある
質疑応答
  • 慶応義塾大学・倉田先生:長年Kingさんの研究を読んできたものとしてはお話をうかがえてうれしく思っている。質問は、1977年には15雑誌、2005年には25雑誌(補足:上のメモにはないです、自分も意味が取れなかったのでカットしました。「理解できた範囲」って最初に書いてあるので許して下さいm(_ _)m)と言うのはどういうこと? もう1点、投資効果の成果として教員のアウトプットは何ではかられている? 補助金との話だが他には?
    • King先生:個人購読が減っている話? 個人購読が3.4回分減っていて・・・というところ? 2つ目はどこの話?
  • 倉田先生:2つ目はスライドの46番。Returnが820万ドルというのは?
    • King先生:教員が費やさないといけない時間600万ドル相当と、図書館のコスト200万ドル。
  • Springer・深田さん:Tenopir & Kingのお名前はずっとお聞きしていて、お会いできて感動している。アメリカの方が紙のジャーナルの比重が大きいとのお話だが、サンプルの分野が違うのでは? 対象分野の取り方は?
    • Kingさん:調査対象は物理学、化学、工学、ライフサイエンス、生物学、医学、心理学、社会科学、その他等。その後も一貫して同じ領域を対象としている。
  • 深田さん:サンプルの規模は?
    • Kingさん:1977年は2,400人・・・(補足:通訳前に「ありがとうございました」って言われて終わってしまったので、なんとなくはわかったけど正確なとこわからないと意味ないと思うのでメモなし!)
  • 杉並区・(ごめんなさい書き忘れました!)さん:achieverの定義は?
    • Kingさん:achiever(達成者)と言うのは、なんらかの仕事に対する評価がされたかどうか、受賞したかどうかとか、「最もよい教員」として受賞されたかを聞いている。回答者の25%がなんらかの賞を受賞した経験がある。専門図書館を対象にした場合はノーベル賞受賞者もいた。御参考までに、50の専門図書館や2つの州全体の公共図書館を対象にした調査も行っている。妻のCarolはIMLSから100万ドルのグラントを得て、公共図書館の調査をさらにやる。テネシー州に行かないといけないかも。
  • 慶応義塾・市古さん:イリノイ大学の例を出せれていて、そちらではROIが4.38。ピッツバーグでは2.5。この妥当性はどうやっていけば、方法として受け入れられるか?
    • Kingさん:私たちの方法とは違う手法がイリノイ大学のROI調査では使われている。イリノイ大学の調査の仮説は図書館によって助成金の獲得が増えるだろうということ。そして調査結果として、これだけ得られるだろうことがわかった。Carolは最近8つの調査を異なる国でも行っている、これはイリノイ大学と同じアプローチを使っていて、間もなく発表予定。

講演「SCREAL調査報告:電子情報資源の利用」 (佐藤義則さん 東北学院大学文学部、SCREAL委員長)

  • 2007.10-11にかけて行ったSCREAL調査の結果について報告する
  • 目次
    • SCREAL調査の概要
    • 電子情報資源の利用
    • 学術情報の取得動向
    • 要望/意見
    • おわりに〜今後の課題
  • SCREALとは?
    • 学術図書館研究委員会
    • 学術コミュニケーション・大学/研究図書館に関わる調査研究を実施する
    • 研究者の養成を図るために行われる事業について、図書館情報学振興と業務支援の観点から後援および調整すること
    • メンバーと調査の概要について紹介
    • 和文・英文で報告書も公開中: http://www.screal.org/
  • 調査の目的
    • 学術情報の利用に関する変化の把握
    • 2つの課題
      • 電子ジャーナルなどの学術情報の利用環境変化が研究者にどのような影響を与えているか?:電子ジャーナルの利用動向調査
      • 研究者が論文をどのように発見、収集、活用しているか:論文のリーディング調査
  • SCREAL調査によって・・・
    • 情報支援利用に対する意識と行動の変化
    • サービス検討、政策決定の基礎資料に
  • 電子ジャーナル利用調査の先行調査
    • 国立大学図書館協議会による2001、2003年の調査
    • 公私立大学図書館コンソーシアムによる2004年の調査
    • SCREALでもできるだけ同じ項目を使う
  • 論文のリーディング調査
    • 1977年以来のKing & Tenopirによる調査と基本項目を合わせて比較を行えるように
    • 日本語版はオーストラリアの調査で使われた項目をもとに日本語化
  • 調査方法
    • 調査協力者に学内便・メール・郵送で依頼を配布
    • webページで回答する形式。Yahoo! ホスティングを活用
    • 大学院生には指導教員経由での配布も行った
  • 調査対象機関
    • 国立大学図書館協会加盟館12、PULC参加公立大学2、私立大学10、日本原子力研究開発機構
    • 研究者/博士後期課程大学院生を対象とする
    • 先行調査が電子ジャーナル導入が進んでいる大学を対象にしていたので、同様の対象を設定
    • 観測対象は先進的な大学における状況の変化。国内一般ではない
    • 他大学の情報環境整備に伴う今後の変化の予測には使用できる
    • 調査対象機関ごとに学部・研究科を選んでそれぞれを悉皆調査
      • サンプリングをおこなうための名簿を入手するのが難しいため。各大学の構成人数を調べて、全体の構成比率が等しくなるように選ぶ
      • 東北大学千葉大学は全学部・研究者・後期課程院生を対象に調査を実施
    • 実施期間:2007.10-11.30
  • 回答状況:有効回答2,890. 率は13.89%
    • 回答者の分野は自由記入してもらった上で、科研費の細目に従って分野を入力
    • 科研費の専門分野中区分によって分類
    • 男女は男性84%、女性16%。全国の値に比べると男性に偏っている
    • 人文社会系が少ない。
    • 結果の分析は分野ごとに見るように
  • 電子ジャーナルの利用度
    • ほぼ毎日:39%. 週に1〜2回:39%. 月に1回:15%. ほぼ9割が月1以上
    • 分野
      • 化学は68%がほぼ毎日、生物学でも60%、医歯薬学では50%以上
      • 化学、生物学で9割が週1以上利用
      • 過去の調査と比べると、確実に利用が伸びている
      • 人社系でも使わない人は少数、41%は良く使うし時々使うも27%. 人社でも68%以上は月1以上電子ジャーナルを使う
    • 年齢層
      • 先行調査では年代による差があったが、SCREALでは年代別の差がなくなってきている。普及に伴い年代の差は消えつつある
    • 利用タイトル数
      • 分野によってかなり違う。生物学や化学、医学等でタイトル数が多い。
  • よく使う二次情報サービス
    • 人文・社会系・・・1位がCiNii。CiNiiは始まってそんなにたっていないが、人文・社会の中ではかなり早い段階で利用がトップに
    • 自然科学・・・PubMedが1位。医学だけでなく生物学も。PubMedは使う分野の範囲が広い。
    • 院生(と、人社の教員)ではGoogle Scholarが3位、自然科学の教員でも4位
  • 印刷体雑誌の必要性
    • 「電子ジャーナルがあれば印刷体雑誌はいらない」が全体で38%.
    • 人文社会と自然科学で考え方の違いがある
  • 電子ジャーナル・印刷体雑誌以外からの論文入手
    • ILLが8割以上。arXivのある数物系科学は少し低い。かわりに数物系はインターネットでの入手が多い。
  • e-booksに関する今後の利用意向
    • 利用自体はそれほど進んでいない
    • 今後の意向としては「ぜひ使いたい」が27%、「できれば使いたい」が33%、約6割があれば使う
    • 自然科学だけじゃなく人文・社会系でもあれば使いたいとする人が半数以上
  • 論文のリーディング調査
    • Tenopir & King(2009) によれば・・・
      • 読む論文数は増えたが1本当たりの時間は減少
      • 著者のweb等、論文の入手先は多様
      • 個人購読<図書館の予約購読
      • ブラウジング<検索
      • 古い論文を読む割合が増え始めている?
    • 読む習慣の変化についての他の研究より
      • 研究者は読む論文が増えているが、1本当たりの時間は減っている
      • 達成度の高い研究者の方が達成度の低い研究者よりもよく論文を読んでいる
      • 研究者はより多く読んでいるのではなく、より多くの情報を斜め読みしている?
      • 研究者は読むことを積極的に避けている?
    • Scienceに載った論文(2009.9)より・・・
      • King & Tenopirの30年間の調査を元にグラフを作ると、やはり読む本数は増えているが時間は減っている
      • 「戦略的に読む」ようになっている。ディスプレイの前での戦略的なリーディング
      • 2人が30年間研究してきた成果によるもの
    • 北海道大学の杉田さんのデータによれば・・・
      • 世界でのScience Directのダウンロードの伸びはどんどん増えている⇔実際の読みにはつながっているのか? 中身を吟味して考える必要?
  • 学術情報流通全体のモデル
    • 入手可能性、文献需要全体に影響を与えるファクターを考えている
    • SCREALはその中で利用対象者の変化、それに資料の検索/発見可能性が与える影響について
  • 分野別の学術論文リーディング量(最近4週間の読んだ論文から)
    • 同じ論文を2回以上読んだケースが全体の26.5%.
    • 分野ごとに読んでいる本数はかなり違う。それがどう変化していくかが見たい。
  • 最近読んだ論文の形式
    • ダウンロード⇒印刷が一番多い。人社以外ほとんどの分野で一番主たる手段。
    • 画面で読むのはまだかなり少ない。
    • 印刷体は人文学で6割、社会科学でも47%
    • 自然科学はPDFをDLして読むのが一昨年の時点で主流に
  • 論文の発見手段
    • ブラウジング4割、個人購読はうち10%に満たない。
    • 分野によってかなり違う。
      • 化学ではブラウジングが54%。ACS等のサイトや雑誌から見るのが多い。オンライン検索は3分の1にすぎない。
      • 医学・歯学・薬学ではオンライン検索5割以上、ブラウジングは34%。分野によってかなり違うので、それを念頭においた上で分析する必要がある
    • 他の分野でもかなり大きく違う。
  • 最近読んだ論文の収録・掲載年
    • 生物学、化学、医学等では最近1年間の論文が6割。7割程度は2年以内くらい。対して、人社や数物系(数学?)では16年以上前、一番古くて1800年代の論文を使っている。工学でも1割はかなり古いものを使っている。
    • 教員はより新しいものを読む。ある意味当たり前? 大学院生は古い論文も探して読んでいる
  • 論文を読むのに費やした時間
    • 全体では1本当たり69分。Most, Medianは30分。早い人と遅い人がいる?
    • 院生は時間がかかる、教員は早い。語学力等の影響?
    • 教員に限定すると、化学は平均で33分、医学等は40分。化学は約2割の人が10分以内、医学等でも13%は簡単に素早く読んでいる。今後、変化を追っていきたい。
    • 全体としてみると、アメリカに比べて時間がかかっている。英語論文を読んでいるから?
  • 論文を読んだ場所(複数回答あり)
    • 研究室/実験室が約88%。次が移動中の乗り物で約19%。日本的?
    • 「図書館で読んだ」は複数回答なのに非常に低い。人社系の院生でも14%。図書館はもはや論文を読む場所ではないといえる。
  • 論文利用の主目的
    • 「最新情報の取り入れ」33%、「研究のため」26%、「報告書作成」31%。
    • 教育はほとんど出てこない。日本の特徴? 教育は日本語、研究は英語でその乖離が出ている?
  • 論文利用効果の認識
    • 「焦点の絞り込み・視点の拡大につながった」63%
    • 20人に1人は「時間の無駄」としているが、多くの人は論文利用効果を認識している
  • 研究者のリーディング数と業績等
    • アメリカでは成功している人はいっぱい読んでいるが、日本では全然違う
    • 受賞等×リーディング数、業績数×リーディング数、科研費×リーディング数、どれを見ても無相関
    • どう解釈する・・・:業績や論文数に関係なく、ほとんどの人が「読んで」いる?
  • 図書館への要望・意見
    • 回答者が真摯。2890の回答の中で、1701人がきちんとしたコメントを寄せている。それも長文で書いている
    • 意見の中身:
      • 半数以上が「アクセス環境を改善してほしい!」。どこからでもアクセスできるように。切実な問題。利用者認証が進んでいるが、この改善は急務。
      • 次は「コンテンツの拡充」。古いものまで読みたい。
      • システム・機能の改善:複写依頼、引用管理、PDFの画質
      • 各大学個別の要望
    • 図書館サービスへの意見:
      • サービスの拡充の要望が一番多い。
      • 次いで蔵書の充実。
      • 図書館職員の質の低下への懸念。委託で質が低下するのではないかという懸念の表明。
      • 全般的に利便性を高めて、等。
    • 大学ごとにまとめてお送りしている。調査協力いただいた方にもお返しするように
  • おわりに
    • 継続的に調査をすることが非常に大事。30年間データを蓄えられてお話されると、過去を振り返りながら将来を考えられる。それは大きい。我々(日本)はそうした資源がないが、そうした資源をこれから自分で作っていかないといけない。我々の使命。
      • 実務と研究が連携しながら継続した調査、資源の整備を行っていければいい。
    • 方法論的な整備。調査やサンプリング、分野の整理の仕方の工夫はもっとある。
      • 視点も加えていかないといけない。オープンアクセスに対する意識など。倉田先生も調査をされているが、現場の図書館員とも協力してオープンアクセスに対する意識と情報資源の利用がどう変わるかを見る必要もあるかもしれない。

講演「学術コミュニケーション研究におけるSCREAL調査の意義」 (松林麻実子さん 筑波大学大学院図書館情報メディア研究科)

  • SCREAL調査結果へのコメントを依頼されたが、経験からも立場からもコメントできるようなところにはいないので、自分の研究にひきつけて結果を眺めてみたい
  • 学術コミュニケーション研究の観点から、SCREAL調査とその結果の意義とは?
    • King & Tenopirの枠組みを入れることで他の研究との比較が可能になった!
      • 学術コミュニケーションの変容の疑問は大きいが、その材料をSCREAL調査が提供する
  • SCREAL調査の結果のどこが面白い?
    • e-Jの利用頻度、どちらを使いたいと思っているのか
    • 読む論文の形式とそれを発見する手段:どのような状態で入手し、読んでいる?
    • 情報検索について:書誌データベースの利用実態、Google利用との関わり
  • 今日の構成
    • SCREAL調査の結果の解釈と関連研究の紹介
    • 調査結果から考えるべきことの方向性
  • e-J利用頻度
    • 関連研究の紹介
      • e-Jの利用について
        • イスラエル、自然科学系、2003・・・週1以上が97.3%
        • アメリカ、自然科学の教員&院生・・・週1で雑誌を使うのが87%、大部分は電子ジャーナル?
        • トルコ、2006、全分野・・・週1以上が64%
        • RINの調査(アクセスログ)・・・DL回数はこの数年で伸びている
        • 全世界的に電子ジャーナルは普及。利用も伸びている
    • SCREALの結果を解釈
      • 人社系を含めても、全体の7割以上がe-Jを週1以上使うというのはかなり高い数字。化学で9割を超えるというのは本当に頻繁に利用しているといえる。SCREALの対象はe-Jをかなり利用している
      • 印刷体の雑誌を必要と考えるかも面白い。Hemminger(2006)の調査と比べると、日本の方が電子版だけでいいと考えている研究者が多い。自然科学の教員は半数近い。かなり高い
      • SCREALからわかるe-J利用の特徴・・・
        • 他と比較しても低くない、分野によっては極めて高い
        • 導入が若干遅れた日本でも、欧米とほぼ同様の利用
        • 自然科学系は電子ジャーナルがあればいい人が他国よりも多い。電子メディアの普及で行動/意識が変化しつつある
  • 最近読んだ論文の形式、発見手段について
    • 倉田ら2007、King & Tenopir(197-2005)と比較
    • 倉田×SCREAL
      • 倉田の調査に比べSCREALでは印刷版を読んでいる人が減っていて、ダウンロードして読んでいる人が増えている。
      • ほぼ同時期・同分野の結果ではあるが、e-J利用がSCREALの方が多い。
    • King & Tenopir×SCREAL
      • ブラウジングはSCREALではそれなりの数あるが、SCREALはオンライン検索の数値もKingらより高い。日本ではブラウジング=オンライン検索?
    • SCREALからわかる論文形式・発見手段の特徴
      • 電子ジャーナルの利用が進んでいる
      • オンライン検索で文献を見つける人が日本は多い。
      • SCREAL調査の対象となるような恵まれた/進んだ電子的な環境にいる人は電子メディアの普及でコミュニケーションも変化する?
  • 情報入手における図書館への依存
    • KingとTenopirによれば個人購読⇒機関購読へ
    • 倉田ら・・・印刷版そのままは個人購読、電子版は8割が図書館の機関購読
    • 電子環境下では研究者の図書館への依存度が高い?
      • しかしSCREAL調査ではそこの分析がない。直接的に図書館が説明に使えると思うので、作ってみては?
  • 情報検索
    • 情報検索をどの程度やっているか? 支配的なデータベースはあるか? Googleがどの程度利用されているのか?
    • RIN:Googleが一番/松林ら:ライフサイエンスでもPubMed + Google/Hemminger:書誌DBが一番、Googleはそんなでもない
    • SCREALでは・・・1位と2位、2位と3位が20%以上開くのは医学、生物学、化学で1位はPubMedあるいはSciFinder Scholar。一方、人社では雑誌記事索引あるいはCiNiiは1位だが支配的でない。医学等以外は支配的な、「これがあれば十分」というデータベースがない。
      • Googleは使われないわけではないが優位でもない。支配的なデータベースの有無とは関係なくなんとなく使われる。
      • 人社系についてはデータベース検索にとどまらない文献の発見に目を向けるべき?
  • 今後の方向性
    • 同一の枠組みを用いて調査を継続してほしい
    • e-Bookの発展可能性について。利用実態がないとのことだが、伸びるのでは? その時、SCREALでは出版社ごとに聞いているが、そういう形で聞くのが得策か?
    • 人社系研究者の実態・・・学術コミュニケーションを理解するために、別の枠組みで見ることも必要では?

パネルディスカッション

  • コーディネーター:逸村裕さん(筑波大学大学院図書館情報メディア研究科、SCREAL委員)
  • パネリスト
  • 逸村先生:これまではSCREALの調査とそれに関連するKingさんと松林先生の話だったが、ここで趣向を変えてSCREAL調査の原研に関する部分について石川さんからご発表いただく。大学との差異と理由などについて考えていただければ



「科学技術分野における研究者の文献調査活動と図書館の役割(石川正さん)
  • 大学、専門図書館に共通の課題
    • 外国雑誌の値上がりによる購入数の減少。現在は最盛期の3分の1以下。
      • JAEAの貸出・複写では外国雑誌50%、国内誌20%、合わせて70%
    • 来館者の減少とダウンロード数の増加
      • 非来館利用が研究者の中でだんだん大きくなる
      • e-J増加と貸出・複写は逆の関係
    • 非来館利用は図書館サービスの向上
      • 利用者が何を使っているかが把握しづらくなってきている
      • Google Scholar, サーチエンジンの利用が拍車をかける
      • 研究者ニーズが把握しづらい?
    • 冊子体中心の整理・提供方法の見直し
      • e-Jのバックファイルを購入したらどうするか??
  • このような状況をうけ・・・SCREAL調査に参加
    • 結果をもとに外国雑誌の重要性を、予算を握っているところにアピールして予算を確保したい!
    • 対象はJAEAの研究者1,200人。回答136人なので1割強が回答。
    • 研究者の文献調査に焦点。特に論文をどれくらい読んでどういう効果があるか
  • 回答者の特徴
    • 学位:80%近くが博士持ち
    • 世代:30-40台が8割
    • 過去2年間の査読付きの投稿論文数:1件が20人で多い。7本以下が全体の55%. たくさん書く人と少ないグループに分けられる
  • 研究者がどれくらい論文を読むか?
    • 文献調査のニーズの大きさがわかる?
    • 過去4週間読んだ論文数・・・たくさん読む人と読まない人に分かれる。一様ではない
    • 1本にかける時間・・・5分から5時間。読みながら考えているのであれば長いというのもうなずける話
    • ニーズは一様ではない?
  • なぜ論文を読むのか?
    • なぜ論文を書くのかと同じこと??
    • 誰かの成果の上に成果を積み上げる/自分の研究のオリジナリティ=論文を読まないと研究ができない
    • 目的:「研究を進めるため」が70人、「最新情報の収集など」30人、合わせて全体の75%
    • 論文利用の効果:焦点・視点の拡大・変更が最も多く、次いで新たなアイディア、研究成果向上
    • 論文の重要性:30%近くが「非常に重要」、「どちらかと言えば重要」と合わせて8割が読んだことの効果を重要と考えている
    • 論文を読むことは研究に非常に効果がある
  • 論文の情報をどこから得ているか?
    • 図書館が研究者のニーズにどこまで応えているかの推測に役立つ
    • 情報を得ている入手先で最も多いのは雑誌論文。多くは図書館提供。
      • 個人購読をしている人は7割弱。
    • 次いで仲間との意見交換、学会/ワークショップ
      • JAEAの成果発表のチャンネルとしては会議発表が半分以上。研究者のチャンネルとしては大きな役割を担っている。
  • 調査の結果から
    • 研究者1人当たり年間105時間を使って122件の論文を読んでいる。13万時間、15万件。かなりの時間を文献調査につかっている
    • 中心は外国雑誌
    • 論文を読むことが視点やアイディアに非常に役立っている
    • 読む本数は個人差がある
  • (SCREALとは関係ないが参考に)冊子⇒電子にすると利用が増えた
    • 電子ジャーナルは論文を読むだけでなくデータべース等からもいける
    • 今まで図書館に来なかったような人も利用する
    • 24時間いつでも使える
    • 勤務時間中はそれなりに使われている
  • 今後の図書館の役割について
    • 外国雑誌は重要⇔予算は限られる
    • Science Directを利用した電子ジャーナルの分析。
    • e-jは使っても使わなくても料金を払う。今以上に普及活動が必要
    • 研究者のニーズをよく理解した上で
    • 雑誌を読む・読まないではなく情報基盤としての捉え方をした整理が必要


  • 逸村先生:続いて市古さんから。



「電子ジャーナルは善魔か」(市古みどりさん)
  • 私はSCREAL調査に直接の関係はないのだが、実務家的に思っていることをお話したい。学術的ではなく泥臭い話。
  • 「善魔」という言葉は遠藤周作を読んでいたら見つけて以来、思い入れがある。
  • 慶應義塾大学は2008年からLibQual+を実施
    • 理工学メディアセンター・教員の期待度の高いサービス
      • 「自宅または研究室からデータベースや電子ジャーナルなどの電子環境にアクセスできる」こと。自宅からいつでもどこでもアクセスしたい。
      • 電子資源は理工学系の図書館にとってはなくてはならないもの。
    • 図書館に足を運ぶ頻度(教員)
      • 毎日はゼロ。週1が50%、月1が40%。でも週1も嘘じゃないかと思うくらい、先生方の姿は見ない
  • 理工学部では昔からの製本雑誌を処分した
    • 図書館員にとっては一生懸命やってきたことがこんな形になり切なかった
    • 図書館の中は学習機能のために改善されたスペースへ
  • 理工学メディアセンターの図書予算:2億6,500万円
    • 8割は電子ジャーナルかデータベース
    • プリント版はほとんどキャンセルしている。
    • 円高が幸いして、なんとか乗り切れそうだがもはや限界
  • じゃあ誰が支払うのか?
    • 私立大学の予算は学費+補助金+外部資金
    • 財布の中身相応の契約orやめてしまう?・・・図書館員としてはなんとかすることが性(さが)
    • オープンアクセスの可能性?
      • 政府の援助/著者のweb
      • 研究者にインセンティブがなくて働くか? 評価なくして印刷するか?
    • ROIを上げると費用が出てくるのか? 本当に説得力になる?
      • 大学にとっても研究者にとっても電子ジャーナルは有益であると、そうした数値で納得するか?
      • 国の未来に欠かせない情報だからと言って払ってくれるか?
      • ベンチマークが可能か? その数値を上げるために教員に違う負荷がかからないか?
  • 図書館は何をどうすべきか? 何ができるか?


  • 逸村先生:ではディスカッションへ。まずフロアからいくつか質問。
  • 逸村先生:佐藤先生と松林先生へ。新しい人たちが研究者になる、完全に電子環境で育つわけだが何が考えられる?
    • 佐藤先生:イギリスのCIBERやBLが調査しているが、新しい世代は本当に質が違うかと言う話。私もよく知らないが、UCLのCIBERと、大英図書館が調査をして、ログ分析とブラウザでのOPACウィンドウの仕掛けで質問を出して利用者の考えと行動をくっつけて分析したもの。やってることはどういう人がどういう利用をしているかまで。新しい世代までは踏み込んでいない。私もこの件はよくわからない。SCREALの中でも新しい世代の研究者がどうなるかを扱っているわけではない。
    • 松林先生:はっきりしたことは言えないが、Googleを普通に使う、学習過程で使っている若い世代の人であれば検索して現物が手に入るのが当然、そういう環境に慣れているので今以上に電子的に手に入ることがいいのだという方向にはなるのかも。それが質の違いによるものなのかは難しい。それを「質が違う」と言っていいのか?
  • 逸村先生:次に午前中のKing先生のお話について。Contingent valuationで図書館がないときの代替手段について、時系列の数値はあるか?
    • King先生:contingent valueが時間の経過と共に変わるかという話だと思うが、専門図書館ではあまり費用は変わらない。学術図書館は今までの蓄積が十分でないので今の段階では言えないが、変わる可能性があるものとしては情報の入手源があると思う。機関リポジトリがあれば情報の入手場所とコストが変わると思うが、そのためにはリポジトリの質が良くて有益でないといけない。
  • 逸村先生:次もKing先生へ。ROIについて、ROIの結果を図書館経営に生かして大学内で予算・人材を得た実例はあるのか?
    • King先生:大学図書館の実例はない、大学図書館で充分再現することができていないから。専門図書館だとこのような手法を50〜75回やっているので、この数値を使って図書館の経営が変わったということはある。
    • 市古さん:取り越し苦労かも知れないが、私企業だとポイントをあげた方がいいと思うが、大学ではあんまりいいことにならなさそう。そんなことはない?
    • King先生:繰り返しになるがどちらとも言えない。公共・専門図書館での経験がなく、そうした分野ではポジティブな効果をもたらした。大学図書館でもポジティブな効果が出ないことはないとも思うが、例が十分にないので確定的なことは言えない。
  • 逸村先生:次は佐藤先生へ。King先生、あるいはSCREAL、あるいは松林先生でも研究者の文献入手が図書館に依存しているというお話があったが、個々の研究者が「図書館のおかげで入手できている」と考えるかは別の話。また、このことを国や大学執行部に理解してもらうにはどうすれば?
    • 佐藤先生:研究者がどう考えるかは別の問題なのでご指摘の通り。ここで言いたいのは、図書館が考える価値と利用者が考える価値と経営サイドの考える価値はおそらく一致しない。そのためにROIというのは経営者を説得するための、投資が価値をもたらすことを説明するための材料。そう言う面では利用者が何を考えているかとは結びつかない話。ここでいう価値は研究者の時間やそこからもたらされるであろう助成金の獲得等を総合して考えたもの。ただ、ROIで怖いのはInvestmentを減らせばROIは高くなるわけだから、非常に使い方が難しい。そこはKing先生も御承知の上だと思う。
  • 逸村先生:また佐藤先生へ。古いコンテンツへのアクセスがSCREALの調査でも相当数あったとのことだが、詳しくご説明を。また何故かは解釈できる?
    • 佐藤先生:King先生の調査結果にもあるとご紹介したが、古い論文の利用が伸びている。これは一つには電子ジャーナルのバックファイルが手に入って、それの発見可能性がGoogle等によって、あるいは雑誌のサイトを使うことで高まっている。古い論文が発見できて電子的に入手できるので、古い論文も使われるようになってきている。それが本当にどうかを言える材料を持っているわけではいので、解釈ができるという話で。
  • 逸村先生:それではフロアからどうぞ。
  • 三重大学・小山憲司先生:SCREALのメンバーだが質問する。情報の入手手段について質問したい。「人から論文の存在を知らせてもらうことが結構あるよ」と倉田先生に言われたことがあって、Kingさんの発表の中でも研究・教育・カレントアウェアネスのすべてで18%くらいを占めている。一方、SCREALの方では5.7%。SCREALは選択肢が多いせいもあるかとは思うが、このあたりについて時間が許すのであれば皆さんのお考えをお聞きしたい。
    • 石川さん:直接の答えにはならないが、図書館に文献を探しにきた質問では「〜の会議の会議録が見たい」と聞いてくる。人的ネットワークのチャンネルで情報を探すことは日常的にかなり行われている気がする。図書館の収集・提供でよく灰色文献の話があるが、図書館の主要な仕事として研究者のニーズにこたえるには出版社のチャンネルに載らないような会議録情報の収集・提供に積極的になると評価が上がる気はする。
    • 佐藤先生:先ほどのKing先生の発表でもご指摘があったが、日本では同僚の紹介が少ない。分野を分けると、人文学、社会科学、数物系ではパーセンテージが高い。自然科学系では少ない。一つには設問の設定の問題で、「誰かに教えて貰ってGoogleで検索した」というように一連の行動がある。それを考えるとこの設問の設定の仕方が良くなかったか、説明の足りなさがあったかもしれない。それからもう一つは、松林先生のご指摘のように人社では情報のチャンネルについて質的な調査をする必要があるかも。
    • King先生:はじめに調査のやり方を明確にしておくと、この調査の中では回答者に過去30日間にどういうものを何件読んでおり、その読んだものについて聞いてもいるので人についての情報は失われている。また、SCREALの調査では複数回答が可能だが、私たちの調査では厳密に取っていたのでその違いがあるのかも。
    • 逸村先生:2003年の調査の反省をいかしてSCREALをやったが、まだ誘導的な質問があるのかも。
  • 古賀先生:松林先生に。文献の入手手段として、Google等のサーチエンジンGoogle Scholarを分けている調査はどの程度ある?
    • 松林先生:分けているのもあれば特に言及なものも、併記しているものもある。どれが多いかは手元にないので申し上げられないが、いろんな調査の仕方があるのが現状。
    • 佐藤先生:SCREALでは分けてあったが、今はGoogleでScholarの中身も検索できるので今はそれほど分ける必要性はないかも知れない。
  • King先生:Contingent valuationについてコメントしたい。CVには経営側にとって2つの側面がある。図書館の良いコレクションがないよりいいものを提供できるのが一つ、もう一つは、12万2,500時間分も節約でき、60人分の時間に相当するとなると、大学の管理者側にとって重要。大学の管理者は常に教員の数や他のことに時間を取られてやるべきことができないことを気にしている。



SCREAL調査やアメリカでの調査などの学術論文のリーディングや電子ジャーナルの話はもちろんのこと。
ROIやContingent valuationの話は最近の流れとして知ってはいても、具体例を細かく聞きながら考えたことはそれほど多くはないので興味深かったです・・・イリノイ大学での話を去年のライブラリ・コネクト・セミナーで伺っていたというのもちょうど良かったかも知れません。
事業仕分け等が話題になる昨今、文科省のサイトで仕分けの資料を見たところ仕分け人の方から若手向けの競争的資金等について「成果の検証」という言葉がたびたび出ていましたが*4・・・図書館からさらに範囲を広げて見ても、なかなかタイムリーなお話だったように思います。


そして何を考えるにしても計るにしても評価するにしても、まずは基礎的なデータがないとお話にならない・・・ということでSCREAL調査のような活動が今後も日本で継続して行われていくことはやはり重要であるな、と。
Kingさんたちは30年以上にわたって継続されているわけですが、「凄い!」と感想を述べるだけではなく、日本でも電子ジャーナル調査は既に国大図協、PULC調査からの蓄積があるものでもあったわけですし、リーディング調査についてもこれから継続していくことで20年後、30年後の研究にも図書館にも*5活きるのではないかとー。

*1:夜のフェストからは参加しました

*2:2009 Annual Meeting

*3:この話の詳細はこちらのエントリも参照:ライブラリ・コネクト・セミナー2008 -Return on Investment 〜 図書館への投資効果 〜 - かたつむりは電子図書館の夢をみるか

*4:http://www.mext.go.jp/a_menu/kaikei/sassin/1286925.htm

*5:後者は「あれば」という注がいるかもですが