かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

「なんで図書館は有償じゃないん?」とか「有償じゃないと利用者増やすメリットないん?」とか


「あとで考える」を消化しよう第一段、ってことでCeekz Logs (Move to y.ceek.jp)さんからいただいたままになっていたトラックバック記事について。

飲食禁止という「ルール」は、館内の清掃コストを利用者に少しずつ押し付けているという見方も出来そうだ。環境維持のための清掃・害虫駆除・殺菌消毒などは、サービス提供者側、即ち、図書館が担うものだと思う。

借りに予算がつけばやるだろうか。やらないと思う。利用者にある種の不便を強いているが、その不便が既に常識化し、変える必要も無いだろう。現状の図書館にとって、利用者の環境を良くし、利用者を増やすメリットあるだろうか。図書館が有償サービスであれば、メリットは明確だが(運営費用を得るという意味で)。

公共サービスとしての図書館は、なぜ有償化しないのか。同様の博物館や美術館は、有償化されている。図書館と博物館の違いは何なのだろう。個人的な意見でも構わないので、コメントやトラックバックをいただけると嬉しい(長文になりそうな場合はトラックバックで)。


先に図書館の有償/無償の問題について考えたい。
これについてはCheekz Logsさんの記事のコメント欄でも指摘があったが、無料原則は公立図書館に関するものであって、私立図書館等の中には有償の図書館も存在する。
例えば雑誌記事索引で有名な公益財団法人大宅壮一文庫は普通に来館利用すると1回500円かかる。

大宅壮一文庫は飲食云々以前に閉架式であり、滞在型というわけでもない(イメージとしては国会図書館の使い方に似ている?)が、まあ有償は有償。


あるいは比較的最近できたところで有名なのはアカデミーヒルズ六本木ライブラリー
著作権問題回避とかのために書籍を販売しているので厳密には図書館ではないが、まあ使い方としては図書館に近いものがあるだろう。
大宅壮一文庫の方は利用料金が安いのでペイ出来ているとは思い難いところもあるが、六本木ライブラリーの方はコミュニティメンバー月9,450円(入会金10,500円)、オフィスメンバー月94,500円(入会金315,000円)とヒルズ価格ばりばりな値段設定になっている。

六本木ライブラリーの方はばりばりの滞在型であり、食事は決められた場所でしかできないが、飲み物の方はどこでも飲めることになっている。


そんなわけで「一応、有償の図書館もあるんだよー」ってことは紹介しつつ。
まあでも実際に一番頻繁に目にする公立図書館や大学図書館は無償でやっているところが多いので、図書館っていうと無料のイメージはあるよね。


公立図書館が利用料金を取らないのは図書館法の規定による*1
で、じゃあなんで博物館や美術館は有償のところが多いのに公立図書館は無償なのかと言うところだが(個人的には博物館や美術館も無償でいいんじゃないかとか思ったりはするがそれはさておき)、同じ社会教育施設の中でも、美術館/博物館が文化的側面が強いのに対し、公立図書館は(本来)より直接的に生活に結びつくものだから、と言うのが理由として考えられる。
国内だとすぐには例が思いつかないのであれだが、たとえばアメリカだと英語が使えないヒスパニック系移民が英語を図書館で学ぶとか、他州から引っ越してきて制度の違いでわけわかんなくなっている人に図書館が諸手続きの仕方を教えるとか、選挙の時には図書館で候補者/政党のデータを提供しているとか、パソコンの使い方わかんないし買うお金もない人にパソコンを利用できるよう提供するとかいうことが行われている*2
図書館に「機会の平等」を保障する機関としての役割があるとも言えるし、あるいは自分とこの住民の労働力としての価値を高めることで自治体全体の経営に貢献するためには有料じゃやってられんだろう、と言う風にも考えられる。
Cheekz Logsさんのところのコメント欄で「言論が文化においてもっとも優先されるから(図書館は無償なのか)?」っていう意見があったが、文化以前に生きていくために(この場合は「最低限の生活」を送るためではなく、一定レベル以上の教育を必要とする職業に就いたり、生活上直面する場面で適切な選択ができるだけの情報を得るために)必要な情報を入手するところとして捉えられているからこそ図書館は無料なんだろう*3


一方、大学図書館の場合は別に法律上の規定があるわけではないが、利用は無料であることが一般的である。
っていうか大学図書館の場合はそもそも自分の構成員に利用させるためにあるのであって構成員から料金をとっても仕方がない(公共図書館も良く考えると同じ理由が成り立つ)し、学外開放の場合もなんらかの思惑(地域住民に開放することで好感度/イメージアップを図ろうとか)があって開放しているんだろうから料金をとろうという話にはなりにくい(利用カードを作る実費くらいはとることもあるだろうが)のではないかと考えられる。


結局、以前も似たようなことを書いたが、図書館はあくまで利用を通じて親組織や組織構成員の目的達成に貢献するための「従」の存在であって、その目的のために親組織(自治体/大学)から金とって経営してるのであり、利用料金をとることで利用に制限を加えては意味がないだろう、と言うところか。
受益者負担」と言うと聞こえはいいが、それで金のない奴が図書館利用しなくなって、自治体であれば貧困層が定着・拡大して治安が悪化したり*4、大学であれば必要な本を読まない奴が増えて卒業生のレベルが落ちて大学自体の評価が下がったりしたら構成員全員にとってダメージだろ、と。
逆も真。
利用に制限を加えないことによって全員が利益を得られるでしょう、と・・・あくまで理想だけどね。
そもそも図書館使ってそういう目的が達成されることを前提にしちゃった議論だし。


で、もう一つの有償サービスでなければ利用者を増やすメリットがないのか、というところだが・・・これも結局、目的達成のためにどうなのか、って言うところに話が尽きるのではないかと思われる。


公立図書館の場合、居心地のいい空間を演出して利用が増え、増えた利用者が図書館資料を利用してなんか新しい情報を得て…というサイクルが出来上がれば、自治体全体のレベルアップに貢献できる、と考えられないこともない。
大学の場合も同じで、まあ研究者であれば自分とこの研究室に資料持って行って作業することが多いとは思うが、そうじゃない学生に対してはいわば図書館が快適なオフィスあるいは研究室的なスペースを提供することで、学生が心地よく作業(レポート作成なり論文執筆なり趣味の研究なり)出来る、そうすることで卒業生のレベルがアップして、大学の評判が良くなり、入学希望者が増え、うっはうは…ってなことも考えられる。
そこまで考えてやっているなら利用者を増やすことは無意味じゃないだろう。
(逆に利用だけ増えて目的が達成されていないなら無意味である。図書館利用は増えたけど学生馬鹿ばっかになって就職悪化したとか。どうやったらそんなことになるのかわからないが)
図書館がそういうものである、との認識が一般化し、利用増のメリットが広く図書館外でも認知されれば、清掃の予算を増やすことができるかも知れないっちゃあ知れない。
ただまあ、飲料ほどには食品持ち込ませる説得力がないのも確かで…コーヒー飲みながら作業したい、って人は多いが、弁当食いながらとなると要望は減る(っつーか弁当食う時は休憩してるときじゃね?)だろうし。*5
あと、館内でものを食べるために多量な清掃コストをかけるのと、清掃コストにかかるはずだった分のコストを別のところで使うことのどちらがメリットか、と聞かれると難しいものもある(そういや今年度の学生リクエスト用図書費そこを突いたそうですな、筑波大)。


・・・そして、以上すべてが「で、それは図書館にメリットあるの?」と聞かれると・・・
ぶっちゃけ、図書館のパフォーマンス向上とそれに対する評価&フィードバック体制って必ずしも明確じゃないので・・・
いいサービスを提供しても別に図書館は評価されない、あるいは図書館が評価されても別に図書館員は給料上がらない、ってことだと「メリットがない」とも捉えられる。 
それぞまさに「公務員体質」であるとも言えるが、アウトソーシングした場合でもきちんと評価してフィードバックする体制がなきゃ一緒だし・・・「がんばればがんばるほどやることは増えるが給料は変わらない」となれば、そりゃ図書館にとってのメリットはともかく就業者にとってはメリットとは言えないよな・・・。
やる気がなくて存在意義が認められないと図書館の存在自体切られかねない、と言う意味では利用を増やすことはメリットであるとも考えられるが…それはそれで、なかなか図書館自体を切るって話は聞かないしなー。
ま、話がそこまで行くと図書館に限らずどこの役所/大学事務のどの部署でも似たようなもん(がんばっても報われない)じゃないかと言う気もするので、深く追求するのはやめておこう。


とりあえず、有償じゃなくても利用者を増やすこと自体は無意味ではないと考えられる、ということで。
ただそれと食い物の話題は直接に結びつくかは微妙だけれど。
自治体においても大学においても、「図書館がコストを負担するべきである」と言うことは、「自治体予算/大学予算を削ってそれが図書館の清掃コストに回される」ということであり*6、それって結局構成員である俺らが他のところで使えたかも知れない金を館内でものを食うために消費してる、って言うことなので。
そこまでして館内で食いたいか、ほかのところで使ってほしいか、はちょっと考えてしまうところである。


・・・別に清掃しなきゃいけない部分を限定する、って意味ではゲート内に置いてもゲート外に置いても一緒なんだから、いっそゲート内にカフェ設置しちゃえば良かったんじゃないか、とか思わないでもないが・・・それなら雑誌とか持ったままカフェ利用できそうだし・・・
まあ立地上難しかろうとは思うが。
っていうか回転率馬鹿みたいに落ちそうでもあるし、それやると。特にテスト時期。

*1:なので、図書館法が成立する前(戦前)には有償の公立図書館もあった。参照:http://wwwsoc.nii.ac.jp/mslis/am2007yoko/03_yoshida.pdf

*2:らしい。見たことはないよ?

*3:もちろん、実際には最低限の情報を提供することにとどまらず自治体が発展するために必要なサービスは色々と展開されているところもあると思うが。ていうか最低限の保障、っていう面から捉えるとほとんどの人が学校教育を受けていて、生活水準も一定のレベルが保障されている国内だと、公立図書館の存在意義って微妙だよね・・・って話を昨晩の飲み会でid:katz3さんやid:humotty-21さんとしてたり。「むしろ学校図書館に力入れるべきだろう」とか

*4:日本でそれが起こりうるのか、逆に日本で図書館がそれを防ぐために貢献できているのかはわからないが。イギリスあたりではsocial exclusionの問題が図書館関係でも話題には上がる

*5:それを言えば間食はどうなるって感じではあるが

*6:実際には図書館がうまいことどっかから補助金なりなんなりを獲得してくる、っていう手も考えられるが。ラーニング・コモンズを飲食自由にして清掃コストをその分上乗せした形で補助金取ってくるとかってできるかな?? それができるならものを食えた方がうれしいかも知れない・・・