かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

もう4,000冊くらいBL小説があっても良かったのかもしれない??

堺市立図書館のBL本の所蔵に対する市民からの問題視する意見と、それに対する堺市の回答が話題になっていますな。


当然、議論はBL本の図書館所蔵を巡る方向に展開していくわけですが・・・ここら辺はなー。
図書館資料について市民から苦情(あるいは訴訟)が寄せられて、なんてのはアメリカ図書館協会あたりだと"mostcahllenged books"とか言ってトップ10発表したりとかするくらいによくある話で、特に同性愛なんて(キリスト教国のお国柄も手伝い)よく批判のやり玉にあがるわけだが。

 2006年トップは同性愛者のペンギンカップルが子育てする絵本(実話に基づくそうな)。

 レズビアンのSEXに関して。こちらは創作ではなく実践本らしいが。


何を図書館に置くべきか(置くべきでないか)、何が市民にとって有益な情報なのか(無益なのか)ってあたりを言い出すとね・・・すでに関連エントリのブクマ米で「BLはダメで失楽園はありか?」とかも言われているし。
青少年が非常に多額の金額をBL本に費やしているような自治体であれば図書館で購入して共有した方が自治体としてのメリットがあるかも知れないとか、結局価値論と要求論の変形議論だろこれとか、なかなか・・・


ただ今回の堺市立図書館の件でひとつ面白いのは、堺市側がBL本の冊数と具体的な購入金額を提示したことではないかとか。

なお、お尋ねの購入冊数と購入金額の現時点での調査結果は、所蔵冊数5,499冊、金額3,668,883円です。

http://www.city.sakai.osaka.jp/city/info/_shimin/data/5374.html


5,499冊!
そう聞くと「それは多いなあ・・・」って気がしてくる不思議。
5,499冊のBL本の表紙がずらっと並んでいる光景を見たら、思わず"challenge"したくなる気持ちもわからないでもない。
そうなってくると、むしろ図書館関係者としてはBL本があることよりは一部のジャンルに選書が偏っているんじゃないかという方が気になってくるわけで・・・5,499冊って、リクエストやなんかをただ受け付けてるだけで入る冊数でもなさそうだし・・・やっぱり図書館員の趣味なのか??


しかしそこで「この中に腐女子がいます!」と決めつけるのもまた時期尚早。
平成18年度の堺市立図書館の統計によれば*1、平成18年度段階での堺市立図書館全体の一般書の所蔵数は1,302,918冊。
市立図書館で130万冊超えってそうとうでかい図書館なわけだが、その全体における5,499冊・・・と聞くと、なんか多いんだか少ないんだかよくわからなくなってくるわけで。
資料全体の0.4%??
そんくらいならあってもおかしくないのか??
でもそもそも日本全体の出版された図書に占めるBLの割合がわからないことにはなんとも・・・


ってことで、例の如く調べてみることに。
BL本の冊数を調べるのに用いるのは毎度おなじみAmazon.
BLっていうジャンル自体はbk1とかの他のデータベースでも検索できるんだけど、ジャンル全体の冊数とかを見る方法がほかだと分からなかったので今回はAmazon.co.jpで。
Amazonで取り扱われていないものが見つからないことには今回は目をつぶっていきます。


これによると2007年に出版されたBL本(小説限定)の冊数は593冊。
対する日本の2007年の書籍出版点数全体については、新刊点数の推移 (書籍):【 FAX DM、FAX送信の日本著者販促センター 】に掲載されている「出版指標年報」の数字によれば77,417冊。


実際にはAmazonの数字には漏れがあるかもしれないとかそういうことはとりあえず目をつぶるとして、単純に2007年のBL小説出版数を出版全点数で割れば・・・


593 / 77417 * 100 ≒ 0.77%


・・・0.77%??
堺市立図書館の所蔵資料におけるBL率より高いじゃないか。
仮に堺市立図書館が一切の選別を行わず、単に国内の出版物を資料規模に合わせてランダムに収集していった場合、所蔵資料数に見合っただけのBL小説の冊数は


593 / 77417 * 1302918 ≒ 9980冊


9980冊!
なんだ、堺市立図書館もう4000冊くらいBL小説持ってても別に問題なかったんじゃね?


・・・まあ実際には堺市立図書館は戦前から存在するのに対してBL小説はせいぜい出始めて20-30年くらいだろとか、しかも出始めてから今の出版規模になるまでにもけっこう時間あるだろとか、逆に堺市立だってそれなりに古い資料は除籍してて今の冊数になっているんだろうからコレクション全体の年齢とかも見てみないことには詳しいことはなんもわからないぞ、というのもあるわけですが(苦笑)
今回は複本購入も考慮してないしね*2
ただ、とりあえずあえて図書館員が恣意的に選書をしなくとも、と言うか「恣意的にBL本を避けるという選書をしなければ」、5,499冊のBL本所蔵と言う状況も蔵書規模に比してみるとありえない数字ではないということは言えそうかも。


・・・っていうかBL本市場がでかいんだよ・・・(汗)
考えてみればAmazonbk1に単独でジャンルとして存在する程度の規模があるんだもんな・・・bk1なんて「マンガ」や「歴史・地理・民俗」とかと同じレベルのジャンル分けとして「ボーイズラブ」があるわけだし(爆)
「あえて避ける」選択をしなければ図書館にある程度のBLコーナーが出来るのは至極当然なのかもな、とかなんとか。


10万冊本があれば770冊はBL小説(コミック除く)。
それが今の日本の書籍事情なのですよー*3

*1:利用統計・蔵書統計(平成18年度)

*2:他分野の複本購入とBL分野の複本購入の割合が等量であるという前提にたてば複本無視してもいいのかもしれないけれど、その前提には無理がある気が

*3:コミック入れれば確実に1%超えるな。もし国内出版が100人の村だったら、1人はBL本(同人誌とかでネタにされるものではなく、一次創作の段階でBLな本)です。