かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

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近年、「近年、」ではじまる卒業研究が増えている


先日、文章を書く際のテンプレートの話をしましたが。
以前卒業論文の書き方について後輩に尋ねられた時も同じようにテンプレートの存在の話をして、その際ある卒研生が言ったのが、「『近年、』って書き始めればいいんでしょ?」という一言。
確かに、「きんねん、」と言う音の響きもさることながら、その後に続けて研究の背景となる動機について、現在問題となっている/話題となっている事柄と絡めて書いていく際にこの「近年、」という一言はとても便利です。
「現在、」とかでもいいですが、普段は全然使いもしないのに論文の時だけ使う堅苦しさからしても「近年、」という響きは「なんとなくそれっぽく聞こえる」という良さがある気も。
自分も多用しますしね。


しかし「『近年、』って書き始めればいいんでしょ?」と言った卒研生が裏でそこまで考えていたかと言えばそうではなく、おそらくはその人が読んだ論文や過去のうちの大学の卒業論文の中に「近年、」で始まるものが多く、その結果「論文は『近年、』で書き始めればいい」という考えが経験的に得られたのではないかと思います。


思いますが・・・実際、「近年、」って書き出しで始まる論文ってどれくらいあるんでしょうね?
そこで気になったことはなるべく早めに調べるのが売り*1の自分、早速ですが「近年、」で始まる論文の数を調べてみ・・・たいところですが、世にいくらでも存在する研究論文を片っぱしから全部探るとなるとそれでもう一つの研究になってしまうので(苦笑)
ここは当初の話題にそって、我が筑波大学図書館情報専門学群卒業論文、それも全文は入手できないのでその抄録集を対象として「近年、」のワンフレーズで始まる抄録の数を調べてみたいと思います。


対象とするのはたまたま手元にあったうちの学群(一般的な大学で言えば学部のようなものです)の卒業研究抄録集のうち、平成15年〜20年度のもの。
ただし何故か残念ながら平成17年の抄録集だけ手元にないので、この年を除く過去5年分の抄録を調査対象とします(なお平成15年度については図書館情報専門学群として筑波大学と合併する前の、図書館情報大学の抄録集を対象とします。フォーマット等は変わりないです)。
うちの学群は中でさらに主専攻が2つ(管理=人社および図書館系と処理=プログラミングっぽいことするところ)、分野が4つと細分化されてはいるんですが、今回はそこら辺の差までは見ない感じで。
なにせ学籍番号順に抄録が並べられているので分野分けするとなると面倒で(苦笑)*2
この抄録それぞれについて、冒頭部分のみを見て「近年」で始まっているか否かを判断していきます。


では早速、以下が近年の「近年」の使用状況です。


表. 「近年」および類似の語全体ではじまる抄録数の推移

H15 H16 H18 H19 H20
近年 14 20 20 30 33
現在 9 11 14 7 12
今日 3 4 1 3 4
その他 1 5 2 3 1
全体 27 40 37 43 50
卒研総数 175 178 158 178 195


・・・き、近年、「近年、」で始まる卒業研究が増えている・・・!(ややこしい)
ついでなので「現在」、「今日(こんにち)」など同じような使われ方をする語の数も数えてみましたが・・・(ちなみにその他の内訳は「最近」、「昨今」、「ここ数年」など)。
類似の語まで含めると、平成20年度には実に卒研全体の1/4が「近年」あるいは類似の語で始まっていると言うことに。
まさにテンプレート。
使い勝手のいい書き出しだとは思っていたが、まさかこんなに使われているとはね・・・


ちなみに利用頻度の推移をより見やすくするために、「近年」で始まる抄録が卒研総数に占める割合と、類似の語も含めた全体が占める割合を示したものが以下の図。



図. 「近年」および類似の語全体ではじまる抄録の割合の推移


基本的には一貫して増加傾向ですな。
「近年」の使用こそH19⇒H20で横ばいだったけど、「現在」が増えた分全体としては増え続けている、と。
まさに近年は「近年」で始まる研究が増えているわけで、みんなそんなに近年の問題が気になるのか?(いや俺も気になるけど)。
今回はとってないけど、どこの分野/研究室で利用が多いのか、ってとこまで見ると如何に先輩のテンプレートが後輩に引き継がれていくかのサンプルになるかも?


ちなみにその他に多かった書き出しの例としては、

  • 「本研究は・・・」、「本研究の目的は・・・」などとして冒頭の一文で研究の意図するところを提示する
    • 「近年」の次くらいに多い。背景より先に目的を述べる、ってことでこれはこれでわかりやすいかも。卒論本文からの使い回しではないことも伺える。
  • 「(人名)は・・・」、「(対象)は・・・」などとして研究で扱う対象について最初に説明する
    • これもけっこう数があるけど、「近年」とか「本研究では」と違って文字列だけで見分けがつかない(苦笑)
  • 「○○年○月、・・・」、「○年○月○日・・・」などとして研究に重要な影響を与えること(審議会答申が出た/法案が可決または執行された/何か事件が起こったなど)について説明する
    • 最近の年なこともあれば江戸時代とかだったりすることもあるのはうちの学群の仕様です


など(他にもいろいろありそうだけど今回は取り上げない)。
たまに「私は・・・」で始まるものがあるけれど、研究抄録としてそれはどうなんだろうね?


しかしやはりその中でも「近年」の数の多さは目を見張るものがあり・・・近年話題/問題になっていることを取り上げる場合にはこれほど便利な書き出しもないってことなのかも知れないけど。
きっと来年以降、「近年」の多い卒研抄録を見た学生がさらに「近年、」と卒研を書きだすことによって卒研抄録集に占める「近年、」ではじまる抄録の割合は今後も一貫して増えていくのではないか、とかなんとか。
説明責任が求められることの多い昨今、「近年」問題となっていることを取り上げる内容であれば研究の意義の説明としても伝わりやすいしちょうどいいのかもね!


逆を言うとまだ卒研のテーマが決まってない3年生は「近年、」で書き始められるかどうかって観点からテーマを絞ると言う逆算も出来なくもないのかも。
「近年、」で始まる研究であれば先行例がたくさんあるのでテンプレート真似するのも楽なのではないかとか。
なんかとんでもないこと薦めている気もしないでもないけど・・・あくまでやりたいことが決まってない/悩んでいる人だけ対象の話、ってことで。
Currentな話題にのっかって実用性だけを追求するのが研究ではないとも思うしね。



・・・まあかく言う自分の卒研抄録も「近年、」で始まっているわけですがね!*3

*1:本当か?

*2:ちなみにこの抄録集はwebには学内オンリーの公開となっており外部からはアクセスできません・・・勿体ない気もするけれど、論文として投稿したりする人が多いことを考えると仕方なくもある、のかな・・・?

*3:卒研どころかその後の投稿論文の英語抄録も"In recent years, "で始まっているしね!