LibQUAL+による図書館サービス品質評価:慶應義塾大学における実施と結果(三田図書館・情報学会第139回月例会参加メモ)
「図書館系以外のイベントにも参加しないとね!」と言ったのも束の間、今度は思いっきり図書館系のイベントの参加記録です。
- 第139回
演題:LibQUAL+(R)による図書館サービス品質評価:慶應義塾大学における実施と結果
発表者:酒井由紀子氏(慶應義塾大学メディアセンター利用者調査ワーキンググループ), 上岡真紀子氏(慶應義塾大学メディアセンター利用者調査ワーキンググループ)
日時:2009年3月28日(土) 14:00-16:00
場所:慶應義塾大学(三田)第一校舎102教室概要:慶應義塾大学では、「メディアセンター中期計画2006-2010」の行動計画に従い、2008年10月〜11月に、ウェブによる利用者調査 LibQUAL+(R)を実施した。LibQUAL+(R)は北米研究図書館協会(ARL)とテキサスA&M大学によって共同開発され、すでに世界の約1,000の図書館で実施されている。日本で同調査が実施されるのは今期が初めてで、大阪大学、金沢大学も参加した。発表では実施の概要、結果の中間報告を行う。
慶應のLibQUALはこの1年ずっと注目していたところなので以前からこの月例会は楽しみにしていました。
ちなみにLibQUALについてはLibQUAL+®, CA1404 - 図書館サービスの質の測定指標LibQUAL+の開発 / 須賀千絵 | カレントアウェアネス・ポータル等も参照。
乱暴にまとめると、図書館の利用者満足度評価(webによる)のパッケージです。
北米で開発されたもので、基本料金3,000ドルでお使いいただけます(2009年から3,200ドルに値上げ)。
昨今の図書館利用者調査では国際的に信頼と実績(すでに約1,000機関で実施)があって国際比較も可能、とか。
以上ほとんど酒井さんのご発表の受け売りです(爆)
基本料金3,200ドル・・・質問項目とかも全部考えて分析方法も出来上がっている、ってことではかなりお得かねえ・・・調査ものはお金がかかるからねえ・・・
さらに他の参加機関との比較とかも(悪用したり勝手に公開したりしなければ)やっていいとのこと。
ここは有難いね。
そのほか、LibQUALのより詳しい説明については上記のリンクや論文等を参照のこと。
では以下、慶應での実施の経緯とか結果についてのメモ。
いつもの通りmin2-flyの聞き取れた/理解できた範囲でのメモですので正確性などについては請御容赦。
長いエントリはあんまり読まれないってわかってるんだけど、要約するより楽なんです。
削る方が難しいのはなんでも一緒。
酒井由紀子さんから
実施まで
- LibQUALはメディアセンターの中期計画の一環。
- 対象者のメールアドレスの収集が必要
- LibQUALはメールで招待してwebで回答することになるので
- 携帯電話のアドレスは使えません
- 対象はサービス対象者すべて(悉皆調査)
- 各センター(図書館)の主なサービス対象者
- キャンパスによって卒業生が対象に入ったり入らなかったり、柔軟に対応
- 各センター(図書館)の主なサービス対象者
実施概要
- 回答状況はかなりいい。LibQUALから個別問い合わせがくるレベル。
- キャンパスによって温度差もある。理工は院生が実施前にパソコンの前で待っていたとか
- 自由回答のコメント率も高い。同時期にやってた阪大も多いらしい。日本人はコメントが好きなのか?
- 回答者は図書館利用者が多い。
結果(スコア分析)
- 結果はPDFで来る。「よく使う図書館」別の結果は別料金。
- データはEXCELで。SPSS用のデータは別料金。
- (min2-fly)別料金っていくらなんだろう・・・元の変数フィールド打ち込むのはめんどくさそうだが、それ以外はそんなに大変でもなくない?
- 分析の視点
- 代表性の確認
- 許容範囲(望ましいと思っているライン、最低限と思っているラインと実際のサービスレベル)
- ピア機関との比較
- 経年変化を見る
- コメントの質的な分析
- 代表性
- 大学院生が母数より多い。学部1−3年生が少ない。
- 理工キャンパスの回答者が多い。SFCも多い。広報の問題と、webへの馴染み深さ?
- スコアの分析
- 慶應全体ではすべてのサービスの評価が「許容範囲内」(「最低限欲しい」と思われているレベルと「望ましい」と思われているレベルの間に「実際」のレベルがある)
- 一番利用者に期待されているのは「情報」(資料)、次が「場所」。一番期待度低いのは「サービス」
- 「場所」に対する期待はばらばら
-
- 身分別に区切ると・・・
- 職員からはリモートアクセス、共同研究やグループ学習のためのスペースの評価が「最低限」と思われているラインより低い
- 身分別に区切ると・・・
-
- 期待度の高いサービス
- 全体で見ると・・・本や雑誌(紙資料)、ひとりで学習するための空間
- サービスに限ると・・・図書館スタッフが利用者の質問に回答できる知識を持っていること、ただし期待度は情報や場より低い
- 情報・・・紙と、雑誌(電子版含む)
- 場・・・ひとりで勉強、快適さ
- 学部生・・・紙と場所
- 院生・・・紙、電子ジャーナルとか資料が欲しい。あと場所
- 教員・・・とにかく資料が欲しい
- 図書館スタッフ・・・唯一サービスへの期待が高い
- 期待度の高いサービス
上岡真紀子さんから
- コメント分析
- 数値で見るのとまったく違った世界
- 自由記述
- 顧客の顕在化したニーズが書かれる
- 潜在ニーズはフォーカスグループインタビューとかで探る
- 先行研究の説明
- 顧客の顕在化したニーズが書かれる
- 慶應のコメント分析
- コメント数は3,442件(回答者の58%)
- コメントには非常に熱い思いが語られている。精神状態のいいときに見ないと胸をえぐられたり、逆にやる気が出たりする。通信簿みたい。
- コメントは語られている事柄によって切片化。切片化後の件数は4,781件。
- メンバーで分担してコーディング。FGIのコーディング(潜在ニーズなのでよくわからない)に比べるとはっきり書かれていて(熱い寒い狭い態度悪いetc...)コーディングしやすい。
- コメントは非常にローカル。キャンパスを超えて共通の内容は少ない。
- 最後に全体調整。
- カテゴリごとにコメント数をカウント。
- コメントを見ると、慶應は「異なる図書館の集まり」であることがよくわかった。今回はこのうち理工学部だけ扱う。
- コメント数は3,442件(回答者の58%)
- 理工学部のコメント
- 資料
- 場としての図書館
- 回答が割とばらばら
- グループ学習室を設置して(10%)
- 2階の書架配置がわかりにくい(9%)
- 私語対策(9%)・・・個人机/グループ学習室がなくまるでゾーニングがないせい? お互いが干渉しあっている
- サービス
- 貸出期間延長(16%)
- ILL(コスト・時間)(15-6%? 見えなかった)
- 検索支援・ガイドの充実(15-6%? 同じく見えず)
- コメントの代表性・・・院生が母数より多い。
- 特に理工の院生が多い。
- 慶應全体で見ると:場としての図書館にコメント集中(4割)
- 理工は資料組織・管理と場としての図書館がツートップ(どっちも3割くらい)
再び酒井由紀子さんから:今後の展望と課題
- コメントの中に短期的に取り組めるものがあるので、それは実践する
- 次期中期計画策定の材料に
- 調査者としてはやってよかったと思う。ARLに慶應義塾大学が認知された。WS等にも声をかけられている。
- LibQUALからnote bookを受け取っただけではわからない。自分でも見てみてわかる。
- 「日本でどうなの」ということについては、「答えにくい」という声があった。レイアウトや煩雑さなど。レイアウト等はパッケージなので変えられないし・・・
- スコア分析は日本のPeerがたくさんいないと日本の規範が作れないかも
質疑
- 日本人はこういう調査に慣れていない。最低限・望ましい・実際の3レベルの評価について、ひとりの回答者の中で整合性はあるの?
- 独自には確かめていない。LibQUALのpracticeとして「おかしいものは落とす」という言葉を信じている。rawは1万件くらいあるから、落ちていると信じている。
- 結局、回答者の多くが図書館の利用者ということだが、従来の来館者調査でも出来るのでは? 従来の調査と違う良さは?
- webを通して利用している人もある程度入っている。参加賞を渡すときに「いつもは図書館来ない」という人もいた。紙で配るよりはいいかな、と思う。
- 幅が非常に外国に比べ広いとのことだが・・・最低限の部分が低いんじゃないかという気がするが、低くなる理由とか低いというレベルってどういう根拠で・・・個人の主観で設定してしまっていいのか?
- まったく個人的な見解だが、やはり低いかな、と。そこは文化的な違いなのかな、と思う。やる人は許容範囲の中に実際のレベルを入れようとするのかな、と。あとは日本人は辛く点数をつけないのかも。日本の中で比べたらどうなのか確かめていくしか。
- レーダーチャートは平均で・・・とのことだが、回答は平均を見て意味のある分布になっている?(質問者:min2-fly=佐藤本人)
- 質問項目の「図書館スタッフは利用者に自信を持たせてくれる」というのがよくわからない。翻訳の問題? 図書館文化の問題? これが今後も使われるのはうまくない。
- 同感。元は"instill"? この項目はアメリカ人もよくわからないと言われている。結果にもあらわれてしまった。LibQUAL実施後のフィードバックで伝えたい。
- コメントについて、カテゴリをローカルに作らざるを得ないと言うのは本当? 同じ内容をローカルに作ってはまずい。本来はやはり共通しているのでは?
- 慶應の図書館である、というのが共通部分として考えられる。bottomから抽出していくと、一番下はローカルだが、次のレベルはより一般化するので・・・抽象度を上げていくと全塾的に使えるカテゴリになると思うが、そうなると「情報としての図書館」〜とかに落ち着いていく。コメントに基づいてなにかを解決するレベルはもっとローカルなレベルの方がいい。ただ皆さんにお話しするときにローカルなカテゴリだと伝わらないので、少し抽象度を上げて話すのがいいかも。
- 慶應の8つの図書館で違う結果というのを面白く聞いた。私立の70%は3,000人規模の大学だが、規模によって結果は変わり得るものか。
- 日本でpeerがたくさんできれば比較するのにいいと思う。一応、LibQUALの売りは規模が違っても比較できること。小さくて新しい図書館が高い評価を得たりする。まずは共通の物差しで測ることができる。
- 図書館員に分析能力がないといけないのでは?
- それはその通り。Note bookだけではわからないことがたくさんあるし、レーダーチャートの読み方も学習しないとわからない。自分たちも学習しながらやっていかないといけない。ただ、そうはいっても3,000ドルでこの規模の調査は(他では)できないと思うし、これを解析する力は必要なんだと思う。
- 大学院生の使える環境などにも依存しているのでは? そこまで分析できないにしても影響の存在を感じる
- ローカルで見た場合の話はFGIなど追加の調査で明らかにしていかないといけないな、と思う。グループ学習については話をしながら勉強したい人へのゾーニングの要望ではないかと思うが・・・
うわちゃあ、やっぱ回答は正規分布はしてないっぽいのかあ(汗)
となるとレーダーチャートも含めて、LibQUALの結果をどう見るかってかなり難しいよなあ・・・生データ見ないとなんとも言えない感じ。
質疑でもあったけど、これは解析能力を持った図書館員がいないと、LibQUALから来たnote bookだけじゃぱっと見いろいろわかってそうで実は全然なんもわかってなさげな気がする。
特に分布がなあ・・・まあそういうことを言い出してしまうと結局全部自力で解析した方がいいとかいうことになって、なんのためのパッケージかわからんくもなるが・・・。
データ取得のためのパッケージと割り切って、詳細の確認を自力でやるガッツ、もしくはデータを分析することに対する情熱がある人がいる図書館向けかも。
あるいはそういうの好きな教員・院生がいるところか。
・・・万が一にも筑波でやる機会があったら、ちょっとでいいから自分に分析させてくれんかな。
とりあえず分布だけ確認したい。
正規分布してないっぽいと聞くと俄然興味が・・・