日本のトップ10%論文シェアの低下、企業論文数の減少、国内論文誌への「回帰」?−「世界における”日本の論文/日本の学術誌”のインパクト」:第8回 SPARC Japanセミナー2010
「日本発の論文数減ってない?」というエントリを自分が書いてから、気付けばもうすぐ1年が経とうとしています。
結局、この件についてその後、自分は追加の調査は行なっていないのですが、トムソン・ロイターのデータのいじり方によっては2008年⇒2009年で日本の論文数は減少する、というのはその後もちょくちょく耳にしました。
一方でソースを変えれば別に論文数は減っていない、という話も同じようにしばしば聞きます。
しかしこのような単純な数字だけ見て一喜一憂することにあまり大きな意味があるわけではなく、より重要なのは日本人による論文や日本の学術雑誌、ひいては日本の科学研究の、世界における位置付けがどう変化しているのかという実態であり、それはデータとより深くお付き合いすることで初めて見えてくるもの。
今回のSPARC Japanセミナーはそのような詳細なデータの分析を行った2人の研究者が講演し、議論されるという素晴らしい機会でした。
概要
日本の研究論文/学術誌は、今、世界の中でどのような位置にあるのでしょうか。
2010年12月に、時を同じくして「世界における"日本の論文/日本の学術誌"のインパクト」を異なる観点から調査分析した2つの報告書が出されました。
国立情報学研究所・根岸名誉教授による「日本の学術論文と学術雑誌の位置付けに関する計量的調査分析」では、いわゆる日本の研究論文の海外流出率や、日本誌の世界的位置付けに関する諸指標が明らかになっています。当該調査の前段階にあたる2003年発表の調査結果にもとづき、「国際学術情報流通基盤整備事業(SPARC Japan)」の事業が展開されました。その成果と今後の課題についても、言及されています。科学技術政策研究所・阪主任研究官による「科学研究のベンチマーキング2010-論文分析でみる世界の研究活動の変化と日本の状況-」では、我が国の科学研究のベンチマーキングとして、個別指標(?論文数、?Top10%論文数、?被引用数)と、複合指標(?論文数に対するTop10%論文数の占める度合、?相対被引用度)により、多角的に主要国を分析し、日本の状況を分野ごとに明らかにしています。
このたび、両報告書の著者ご本人による講演をしていただけることとなり、第8回SPARC Japanセミナーとして開催することとなりました。関係各位におかれましては、ぜひご参加いただき、活発なご議論をいただきますよう、ご案内いたします。
- 「日本の学術論文と学術雑誌の位置付けに関する計量的調査分析」
- 「科学研究のベンチマーキング2010-論文分析でみる世界の研究活動の変化と日本の状況-」
以下、いつものとおり当日のメモです。
例によってmin2-flyの聞き取れた/理解できた/書きとれた範囲のものですので、ご利用の際はその点、ご了解をお願いします。
また、メモ中の強調等は全てmin2-flyによるものです。そちらもご了解願います。
誤字・脱字や問題点等、お気づきの方はコメント・メール等でご指摘いただければ幸いです。
開会挨拶・趣旨説明 (安達淳先生、国立情報学研究所・SPARC Japan Acting Director)
- SPARC Japan:2003年に開始したプロジェクト
- 当時、根岸正光先生がJCRなどを分析して得た、2000年における学術の状況について記している
- 「日本人は世界の論文の12%を生産するが、その80%は海外誌に掲載される」
- それに問題意識を感じて始まったのがSPARC Japan
- 今日はその定点観測として、もう一度やった結果の報告
- こういう調査は数を数えたり足し算したりだが、そう簡単ではない
- 日本人とは何か、日本の論文とは、を決めないとできない
- 現在のグローバルな社会ではそれは容易ではない。各研究者のノウハウを以て定点観測する必要がある
- 今日の話はデータの読み方の話。データは平等に与えられている、それをどう読んでどう判断するかが今日のテーマ
- 8年前から・・・日本の学問のやり方に構造的問題があると感じていた
- その構造的問題にアプローチしないと解決しない
- データから今後の行動指針をどう読み取るか、が今日の重要な点
- 今日の講師はNISTEPの阪さんと、NII名誉教授の根岸先生
- すばらしい先生方にお話いただくということで、データをどう読みとくか、という視点でお聴きいただきたい
SPARC Japanに参画して(司会・永井裕子さん、社団法人日本動物学会事務局長、UniBio Press代表、日本学術会議学術誌問題検討分科会連携会員)
- SPARC Japanのすべてを集約したのが安達先生のお話であった
- UniBio・・・NPO法人兼電子ジャーナルパッケージ
- 日本学術会議学術誌問題検討分科会
- 日本の学術誌には問題・検討事項がある
- SPARC Japanとは?
- 学会誌、編集に携わる人の情報の共有と理解
- 新しい知識の獲得
- 今学ぶべきこと、すべきことを考える場
- 参加している方が主体
- 「はあ、そうですか」で帰るのではなく、自分のジャーナルや研究評価についてお考えいただきたい
「科学研究のベンチマーキング2010 -論文分析でみる世界の研究活動の変化と日本の状況- 」(阪彩香先生、文部科学省 科学技術政策研究所 主任研究官)
- はじめに
- 今日は年末に出した「科学研究のベンチマーキング2010」から結果を報告した後、後半別にやっているサイエンスマップについても合わせてご紹介したい
- 安達先生からお話があった点について、注意していただきたいことがある
- この発表における「日本の論文」は「研究機関が日本にある」もの。例えば理化学研究所に日本人以外の研究者もいるが、ソースとなるデータベースには国籍情報はない
-
- 科学技術政策研究所(NISTEP)では研究者のアウトプット=論文を見ることで研究活動がどうなっているかを見ることができると考え、学術論文の分析をしている
-
- 参考データ・・・ScopusとWeb of Scienceの比較
- Scopusの方が書誌情報が多い
- 分野によって収録率が違う。Scopusは化学や材料科学等がシェアが多く、Web of Scienceは計算機科学・数学や工学等のシェアが多い
- どこにその国の強みがあるか、と関係する。例えば日本は化学が強いとすると、Web of ScienceとScopusで結果が変わる。優劣ではなくDBのクセ。それの理解が必要
- データをごちゃまぜにしてストーリーを作るのはナンセンス
- 参考データ・・・ScopusとWeb of Scienceの比較
科学研究のベンチマーキング2010
- 調査の目的と分析単位
- 論文を対象に、国単位で状況を見る
- 日本の状況を見るために他の国と比較する
- 国単位の分析後、日本国内を部門や組織区分ごとに比較する
- 論文数や被引用数の多い論文の割合
- 論文を対象に、国単位で状況を見る
- 分析手法
- 論文数の数え方
- 整数カウントor分数カウント?
- 整数カウント:日本とアメリカの共著ならそれぞれ一本とカウント
- 分数カウント:〃なら2分の1本ずつ、とカウントする
- 国際共著論文が多い国の方が整数カウントで数字が大きく見える
- 各国の比較をする際にどちらを取るかで日本のポジションが変わる
- 整数カウントor分数カウント?
- 分野内訳の時系列変化
- レポート中で用いた指標
- 個別指標
- 論文数
- 被引用数トップ10%論文数(分野ごとに被引用数を降順で並べて上位10%を取る。その中に日本の論文が何本あるかを数える)
- 被引用数:何回引用されたか
- 複合指標:上の3つの数の組み合わせ
- 論文数に対するトップ10%論文の割合
- 相対被引用度=1本あたりの平均被引用数を世界平均で割ったもの
- 論文数にしても数で出すか、シェアで出すか、ランキングで出すか
- 例えば日本は論文数は増え、シェアは減り、ランキングは不変
- シェアは減っても論文数は増えているので力は減っていないかもしれない・・・表現方法にも注意がいる
- 個別指標
- これらに何を絡めて分析する?
- 国単位、組織単位、分野、時間軸・・・
- レポートを読むにあたっての注意点その2
- 複合指標の扱い方・・・その度合を上げることを考えると、被引用数がゼロあるいは低いものを削れば指標は上がる
- 基礎研究ではそういう議論がいいか悪いかも含めて議論する必要がある
- 論文数に対するトップ10%論文、相対被引用度が上がることは本当に日本にとっていいことか、考える必要がある
- 複合指標を上げることを考えるといろんな議論が発生するリスクがある。その理解を
- 複合指標の扱い方・・・その度合を上げることを考えると、被引用数がゼロあるいは低いものを削れば指標は上がる
まずは数で見る
- 全世界の論文数
- 収録論文数は年々増えている、現在は年間100万件程度
- 国際共著論文が増えている。現在約20万件は国際共著
- 収録論文数は年々増えている、現在は年間100万件程度
- 国ごとに見ると?
- トップアメリカ、ついで中国
- イギリス、日本、ドイツがその次のグループ
- 少し離れてフランス、韓国
- 国際共著は?
- 英独仏は論文の約50%が国際共著論文
- 中国は1990年代に比べると緩やかに国際共著の割合が下降気味。率では日本より低い。ただし国際共著論文数は中国の方が日本より多い
- なぜ国際共著論文をそこまで強調する?
- 国際共著には特徴がある
- 国際共著論文は国内共著論文よりも平均被引用数が多い。各国別に見ても同じ傾向
- 国際共著が増える=被引用数のパターンに影響する
- 英独仏は国際共著が多いので、被引用数で見ると数が多く見える
- 国際共著には特徴がある
- 分野ごとに国際共著論文の割合には特徴
- 物理学等が頭打ち、環境などはぐんぐん伸びる、臨床心理は低いがそれでも増えている
- 知識を生み出す形態自体が1980年代から急速に変化?
- どの分野の国際共著に重きが置かれているか?
- 主要国はだいたい同じ傾向だが、中国だけ違う動き
- 中国は物理学の国際共著に重きがなく、臨床心理学や基礎医学の国際共著に強みがある
- 国際共著が増える=知識の作り方が変わっている?
主要国の論文数とトップ10%論文数の変化
- トップに限らない論文数は?
- ではトップ10%論文数は?
- 現在はアメリカ、イギリス、ドイツ、中国、フランス、日本の順。日本は順位を落としている
- 論文数自体は減っていない
- 現在はアメリカ、イギリス、ドイツ、中国、フランス、日本の順。日本は順位を落としている
- 分野別:化学
- 中国がシェアを伸ばしている
- ただし中国は近年、若干頭打ち?
- 日本・・・論文数シェア、トップ10%論文数シェア、どちらも右肩下がり
- 中国がシェアを伸ばしている
- 分野別:臨床医学
- 同じく日本は2000年代後半にシェアを落としている
- 特定のジャーナルを見てみる
- ジャーナルには興味の似ている研究者が集まる。その集団を見ることで日本の状況を見てみたい
- 例:Nature
- 基本的に日本は2000年代まで緩やかに伸びていたのが、2000年代で横ばいもしくは少し低下
- トップ10%論文数も同様
- Science
- 日本はゆるやかな上昇傾向。2000年代以降もそれが続いている
- New England Journal of Medicine
- 日本は横ばい?
- 中国のシェアが日本より高くなった。Lancetでも同様。
- 臨床医学全体では日本と中国には差があったが、トップジャーナルだと追いぬかれている。分野で見るのとジャーナルを絞るので日本の状況は変わって出る
主要国の分野ポートフォリオの比較
- 8分野を軸として、世界シェアをプロットする
- 論文数シェア、トップ10%シェア
- 各国
- 時系列変化
- 日本もはじめから丸かったわけではない・・・化学、材料、物理に強みのある形だった
- 2000年代に大きさ自体が小さくなり、化学、材料、物理の日本のシェアも中国に食われた。強みが見えなくなっている
- 日本もはじめから丸かったわけではない・・・化学、材料、物理に強みのある形だった
複合指標
- 論文数に占めるトップ10%論文の割合:日本は低下傾向
- 相対被引用度:こちらは日本は上昇傾向
- どう読む?
- トップ10%より下で被引用数を稼ぐ論文が増えた?
日本の中で組織区分別の状況
- これを出すのは今回が初めて
- 論文数、トップ10%論文に対する各組織区分の割合(分数カウント)
- 論文数
- いつの時代も約半分は国立大学が占めている。日本の知識生産の半分には国立大学が関わっている
- 第2位は次第
- 第3位が変わってきている。1980年代は企業だったのが急激に下がり、代わって独立行政法人が3位に
- トップ10%論文数
- 単純な論文数より国立大の割合が多い
- 1980年代には企業が2位だったのが、現在は独法が2位。以下、私大、企業
- 組織区分別の論文生産数
- 全体では論文数は2000年代に5%程度の伸び、トップ10%は1%程度の現象
- 企業が急激に論文を減らし、国公私立大は緩やかに増加、独法は急激に増加
- 分野別に見ると・・・
- 組織区分ごとのチャート
- 全方位の国立、形はそのままチャートが小さくなっている企業・・・
サイエンスマップ2008
- 今までの分析・・・各雑誌を必ずどこかの分野に入れている
- 研究者には「なんでこの雑誌が・・・」とか「そんな計算じゃ困る」とコメントされることが多い
- どこの分野といえる研究が減っていることはNISTEPでも把握
- そこで科学を俯瞰するマップを作りたい、と考えサイエンスマップ2008へ
- 分野を区切るのではなく全体でマップ化したい
- 手法
- 1. 共引用関係により論文をグループ化し、研究領域を構築する。トップ1%論文の状況を見る
- 2. グループ化した論文をさらに共引用関係でマッピング、意味のある塊に落としこむ
- 論文数が多い部分は赤くする、といった形で論文の多寡もわかりやすいように
- 3. 論文の塊について内容分析を行う
- 国内研究者の力を借りて内容を読む
そのマップの中で日本は?
- 日本のシェア・・・2004以降、整数カウント・分数カウントいずれも下がっている
- マップ上での日本の位置・・・あまり変化がない
- 日本のシェアの高い研究領域は点在している。特定領域でシェアが大きかったりはしない
- 臨床医学と学際的・分野融合的領域で日本はイギリス・ドイツに差をつけられている
- サイエンスマップ2008はOECDでも採用
- しかし日本で採用されていない(汗)
- 話す機会は多いが、政策立案には使われない
- 研究者には興味を持ってもらえているので、そちらに資することを考えればいい?
休憩タイム
「日本の学術論文と学術雑誌の位置付けに関する計量的調査分析:日本の論文の『海外流出率』の動向を中心として」(根岸正光先生、国立情報学研究所 名誉教授/SPARC Japan 運営委員長)
- はじめに
まず復習:2003年に出した数字
- 2000年の日本の論文と日本発行誌の国際的状況
- Journal Citation Report、National Citation Report Japan(ともにトムソン・ロイター)のデータを付きあわせて分析
- 日本論文の世界シェアは12%程度。
- 日本の論文は海外誌に79.3%が出ている。日本には20.7%しか掲載されていない
- 8割方は外に出ている、というのは由々しき問題?
- 当時から議論はある・・・「流出ではなく進出?」
- ここでいう「日本の論文」は所属機関の住所による。アメリカ人が日本の研究機関でやったら日本の論文、逆もそう。それは問題ないと思う
- 日本の雑誌に掲載される論文数は全世界の3%でしかない。発信力はそれなりに重要では?
- 分野別に雑誌のIFを見ると・・・全雑誌の平均IFは2.36だが日本の雑誌は0.83
今回の調査について
- ソース:
- JCR・・・全世界の状況を知る
- NCR・・・日本の雑誌の情報を掲載。JCR-NCRで海外雑誌が特定できる
- JCR:雑誌ごとのデータ。NCR:論文単位のデータ。論文IDにリンクする形で略誌名が掲載されている。略誌名をキーに結べるが、略誌名はJCRとNCRで完全一致しないこともある。最後は目視で突き合わせる
- 分数カウント(案分集計)の仕方によっても変わるが・・・
- 全体の規模:
- 1994-2009年を対象とする
- NCR・・・約115万論文、雑誌タイトル数:約9,900
- JCR・・・のべ114,874誌、ユニークタイトル数は約11,500
- NCRとJCRを突き合わせた結果、JCR側の雑誌名ベースで約8,645誌、突き合わせられた日本の論文は約110万論文
- NCRにはJCRに入っていない、純粋な人文科学編の雑誌論文も含まれている
- トムソンの収録誌拡大政策により、NCRには新収誌のデータも多い。これはJCRには未収録
- ここまで出来れば、本格的な分析ができる
主要調査結果
- 日本の論文数・・・前回調査と整合性のある結果に。データは信頼できそう?
- 海外流出率
- だんだん増加・・・また減少。ピークを打っている?
- 日本の雑誌の世界シェア
- あまり変化なし。だいたい3%
- 経年変化
- 日本論文の海外流出率は1994⇒2001までのびてピーク、今は減りつつある
- 世界論文での占有率も2000年でピーク、以降減少
- 日本発行雑誌論文の世界占有率・・・1994年来、右肩下がり
- 日本発行雑誌における海外論文占有率・・・右肩上がり
- JCRからNCRを引いた値なので、純粋に外国の著者しかいない論文。そのシェアが10%強⇒30%以上に
- めでたい? めでたくない?
- JCRからNCRを引いた値なので、純粋に外国の著者しかいない論文。そのシェアが10%強⇒30%以上に
- 日本の論文はどの国の雑誌に掲載されている?
- オーストラリアの雑誌に掲載される論文数が増えている。Wiley-Blackwellが学会誌を請け負うようになっている影響?
- イギリスがじりじり伸びる、アメリカへの掲載がじりじり減る、オランダ=Elsevierへの掲載も伸び悩んでいる
- 発行国別雑誌掲載論文数
- 中国が実数・シェアとも伸びている
- 収録タイトル数
- 日本発行誌は伸びているが全体に比べればよくはない。やはり中国が伸びている
- 日本の論文が全く掲載されていない雑誌は我々にとって国際誌か?
- 日本人の論文が年間2件以上掲載される雑誌に限定するとどうなるか・・・国際誌基準の底上げ
- 日本人論文の世界シェアは1%程度、上がる。日本発行誌掲載論文のシェアも上がる
- 日本人の論文が年間2件以上掲載される雑誌に限定するとどうなるか・・・国際誌基準の底上げ
- 分野別に見ると・・・理工系or生物医学系で違う
- 理工系:海外流出が高止まり。海外への投稿・発表が定着している
- 生物医学系:日本に戻ってきている。2001年をピークに日本回帰
- 学際系雑誌・・・数が少ないので統計になじまない(日本発行は学士院のプロシーディングス1件のみ)
- PNASへの掲載は増えている
- 細かく見ると・・・じわじわ上がって高止まりor少し日本回帰、が多いのに、臨床医学は妙に下がっている。それが全体の日本誌回帰に
- JCRにおける臨床医学のタイトル数が急速に増えている。
- 論文数・流出率の経年変化を合わせてみると?
- 多くは論文数も流出率も増えて高止まり
- 臨床医学は1994-2000まで内外ともに論文数が増えていたのが、論文数はそのままで流出率だけ減っている
- 収録誌の拡大の影響?
- 日本誌でもJCRに収録されるものが増えてきている
「日本回帰」は本物か?
- 全体として海外流出率は低下、その大部分は臨床医学によるもの
- JCRでは日本の臨床医学の収録率が増加している。回帰分は新規収録誌である
- 自虐的に解釈すると・・・研究活動が停滞して海外有力誌に掲載されなくなったのが、国内誌が収録されるようになったので補われている?
- 日本誌の国際化=外国人論文数の比率の増加
出版者の種別・系列別の日本論文数の趨勢
- SPARC Japan初期から商業出版者の参入が問題に
- 系列別に見てみると・・・
- NPG、Wiley-Blackwellの論文数が増加
- 経年変化を見ると・・・2000年くらいまでは商業系増加、学会系減少
- 以後はそこでストップ
- Elsevierに掲載される日本論文のシェア自体は下がっている
- 代わりに台頭しているのはWiley-BlackwellとSpringer
- 雑誌タイトル別で見るとさらに顕著。日本の学会誌の受託出版に力が入ってきている?
そもそも国際化は必要?
- そもそも「日本誌」とは?
- 最近は居直って「ガラパゴス」ともいうが・・・
- グローバルといってもアメリカ標準では仕方がない
- 日本発のグローバルを考えるべき?
- ガラパゴスでもウィンブルドンでもなくなって・・・色即是空みたいになっても・・・
- 日本人研究者から見た「国際誌」の基準をどこに採るか?
- 年1論文は外れ値として、2論文で採るか4論文で採るか・・・
- JCR収録誌のうち日本の論文が1本もないのは42.6%
- 掲載論文数では日本論文ありが全世界論文の82.8%を掲載
- 無縁雑誌をどこから採る?
- 日本誌・日本論文の「品質」は向上しているのか?
- Impact Factorを分野別に正規化してみる
- IFも応用的に見れば使える?
- 日本誌のIFは伸びているが、世界標準から見るとまだ低い
- 海外誌に出ている日本論文の正規化IFは世界標準を超えている
- 着実に日本論文の品質は向上している。日本掲載論文の品質も向上しているが、まだ世界標準よりは低い
- Impact Factorを分野別に正規化してみる
今後の課題・問題点
- 「日本誌」の認定の困難さ
- 「実質日本誌」を25誌以上発見。個別に調査して集計しなおす必要があるかも? 全体の動きには影響しないと思うが・・・
- 国際共著論文の案分統計(分数カウント)
- 今はNCRに入っているものを全部日本論文、としてカウント(整数カウント)
- やり直すとどれくらい影響があるか?
- 日本だけの論文に比べてアメリカ・ヨーロッパと組むと被引用数が増える傾向
- 引用を稼ぐのには国際共著が手っ取り早い
- そうなると海外誌での発表が当然? このあたりをどう考えるか
- 理工系、生物よりさらに小さい中分類での分析をきっちりすべき?
- 機関種別の統計も可能・・・これもやってみるか?
- 試しにやってみた値(確定値ではない)・・・国立大学の論文数が2004年で腰が曲がるように、一瞬で論文数の伸びが横ばいに
- 私立大学は順調に増加
- 法人化の影響が如実?
- 試しにやってみた値(確定値ではない)・・・国立大学の論文数が2004年で腰が曲がるように、一瞬で論文数の伸びが横ばいに
- 今はNCRに入っているものを全部日本論文、としてカウント(整数カウント)
おわりに:あらためて「学会」誌とは?
- 単なる論文誌出版者ではない
- 会員相互のコミュニケーションの中から知識が出る。そこを考え直すべきでは?
- 国際化の意義の再考
- 日本医学雑誌編集者会議で・・・New England Journal of Medicineの人が講演
- COI、CMEの明記について
- COI:著者がどこから顧問料や講演料を得たか、というのまで管理し論文末尾に明記するようになっている。そのデータベースがある
- CME:医師の生涯教育。編集者が設問をつけて一定の点が取れると、講習会に出たのと同じようにポイントが出る。
- 他の会員サービスとの連携を考える必要:単なる論文誌の出版団体ではない
- COI、CMEの明記について
ディスカッション(司会:安達先生)
- 安達先生:基本的には質疑という形でこれからの時間を進めたい。基本的にこういう話は現場の研究ができなくなったただ、場の雰囲気がこなれるまでは雰囲気も出にくかろう。まずサクラに質問をお願いしたい。(佐藤=min2-fly指名される)
- Q. 筑波大学大学院図書館情報メディア研究科、佐藤翔(min2-fly):分析ソースとなるデータについて。阪先生の分析はWeb of Science、根岸先生はJCRとNCRを用いているとのことだが、どちらも収録対象誌自体が増えている。その影響で論文数全体が増加している面もあると思うが、影響をどう排除するか、そもそも排除すべきか? 採録基準を満たしているものが採録されていると考えれば弾く必要もないのかも知れないが、一方でトムソン・ロイターの地域誌も取り入れるといった拡充戦略の結果、中国の論文数がさらに増えて見える・・・ということもあるのではないか? トムソン・ロイターが方針を変えると世界の論文が増えてしまう(自分の質問・先生方のお答えともに、自分の質疑なので正確なメモが取れていません。その点ご了解願います)
- A. 阪先生:その影響は確かにある。根岸先生のお話にあるように、日本の論文の投稿対象とならないような雑誌を外すことが考えられる。1つは雑誌の言語を見る(英語以外の排除?)方法がある。できれば、fixed journal setが作れるといい。日本の研究者が、自分たちのポジションを見る際に分析すべきジャーナルのセットが作れればいい。そのためには研究者の協力が要る。
- A. 根岸先生:16年間分のデータがあり、その間ずっと採録されている雑誌に限定するといいだろう、と思ってやってみたが、それだと定評のある雑誌に限定され、結果が日本にとって自虐的になりすぎた。海外の土俵での議論にもなってしまい、日本誌の話にならなくなってしまう。
- 安達先生:それは誌名変遷も考慮して分析された?
- 根岸先生:やってみている。大変。
- Q. 物質・材料研究機構、谷藤さん:提案したい。2人の話の共通項で、元のデータセットの間違い・不適切さの影響が、素人考え以上に大きいというのがあった。Journal Profileを整備する必要があるのではないか。文献DBを作っている会社にプロフィール情報を渡せる体制を作るべきではないか。そのサンプルとして、根岸先生のご発表にあった日本雑誌の国籍分析についてのスライドの中に物質・材料研究機構のオープンアクセス雑誌は、ずっと日本で出しているのに国籍がオランダになったりイギリスになったりする。それによって、その論文が材料科学の世界トップ論文だったりするのにイギリス雑誌の論文とされてしまう。日本の学術誌のprofileのデータベースを作るべきではないか?
- A. 根岸先生:学術雑誌総合目録でもやったが、新しい観点でそういうものがいる。当時は所蔵がどこにあったか、だったが。
- 谷藤さん:研究者として研究を専門とする方もこの場にいると思うが、昨年の総務省の統計によれば日本の研究者数は微増、研究投資額も増えている、しかし論文数は漸近線、世界のインパクトは下がりつつある。分野個別の事情があるにしても、日本の研究はサボっているのか? 資金が投資されているにも関わらず、世界全体に発表された成果の総量・影響力が数字に出ていないのが意外。
- 安達先生:研究者数が話題に出てこなかったのは気になってもいた。投資額・研究者数あたり、という観点でどうか?
- 阪先生:第3期科学政策基本計画のフォロー分析で研究費・研究者数を扱っているが、研究数は使う統計によって変わる。日本は博士後期の学生も入っているが、アメリカではPIしかカウントしていない。研究者という1つの指標でも比較するのが困難。まず統計自体を比較できるかどうかから研究しなければいけない。それをやった感じで言えば、日本の効率は悪くない。時系列で見ても低くなってはいない。インプット・アウトプット分析は割り算をすればすぐできるが、例えば研究者をどう数えるか。頭数を使うのか、FTE(研究にかける時間)を使うのか。教育・研究半分ずつな人は研究者としては0.5人とも数えられる。FTEについては
昨年末一昨年に調査結果が出たが、2002年の調査から20102008年では研究に使う時間が10%減っている*2。研究者数は変わっていなくてもFTEは減っている、にも関わらず論文数が増えていることを研究者は頑張っていると評価するのか。論文のインプット・アウトプットのデータも揃えて因果関係を見たい。
- 安達先生:数年前にオーストラリアのリポジトリ担当者が、評価システムを変えれば研究者の論文数は確実に伸びる、という話であった。数で評価すればそうなるだろう。
- 根岸先生:科学技術の予算ってジリ貧だったのでは? それにしてはよくやってきたのではないか。
- 会場(安達先生の指名以外は名前は書かないよ):発行している学会誌がCiNiiに収録されている。みなさんのお話はほとんど自然科学系。私は社会科学系。専門の経済学者として私が訓練を受けた頃からもう50年経っている。専門誌をずっと眺めてきたわけだが、自分が若かりし頃は15誌見ていれば済んだ。アメリカ、イギリス、ドイツ、スイス、日本。ところが今は50誌を超えている。図書館ではもう「これは止めよう」というくらいに数が増えている。心理学も増えている。そうなった理由は、被引用率と論文数で教授のtenureを評価したことと、Ph.Dを大量生産したせい。そのために猫も杓子も雑誌論文を出さなければいけなかった。我々が訓練を受けていた頃はせいぜい論文2〜3本、という著名な経済学者もいたが、今はみんなリストを作る。すべて数量で判断しようとしたため。客観的・科学的な基準にしようとしたことが経済学の根本にある。そういう状況を作ってしまったのが経済学という学問だったのではないか、と経済学者は深く反省している。最も深く反省しているのはシティグラフ、アマルティア・センなど。彼らがGDPの計算方法を根本的に変えよう、という論文を出している。参議院の調査室でその勉強会も始まっている。経済学者がこのように言い出したことにもう少し注目する必要があるのではないか。今日のお話でも同じような現象がどこでも起こっているのではないか、と感じた。量を基準にしていると限りない。量から質へ戻る必要があるのではないか。
- 根岸先生:研究者がそういうふうに発想を変えなければいけない、そのためにもこういうデータを出して、「こんなデータでやるとこうなっちゃう、だから駄目だ」というふうに使う必要があるのではないか。
- 安達先生:ただ、ここにいらっしゃるのとは違う研究者、30前後でポストがいる研究者はジャーナルに論文を載せるために死に物狂いでやる。10-20年前の人よりもより厳しいプレッシャー。
- 会場:大学の数の膨張による就職難と同じ。大卒を就職の基準にしたので猫も杓子も大学を、となる。猫も杓子も論文を、となるのでElsevier等がいい商売をしている。
- 安達先生:SPARC Japanの裁量の範囲で力を注いできたのは数学分野。数学は古典的なスタイルを保っていて、評価も論文の内容、要するに頭の良さで競っている。そこでの出版活動は古典的に健全な気もしている。一方、数学は算数まで裾野が広いわけで、他分野から見ていい形をしている。論文をたくさん書かなければいけないとかは考えずに仕事をしている。しかし研究費につながるようなところではそのへんがシビアである。ほかに何かあれば?
- Q. 根岸先生に。大学の論文の生産性がフラットになり独法が伸びているとの話があったが、独法の伸びに事情があるのか。また、論文の質について、論文にIFをかけたような話になるわけで、IFが被引用数をベースにしているものに論文数をかけるとなると、二次的なデータになるのではないか。質を見るなら個々の論文の引用数を集計したほうがいいのでは?
- 根岸先生:平均値としてのIFについて加重平均を使っているので割といいと思う。個々の論文を見ると範囲の区切りが問題になる。全体としてIFの高い雑誌に日本の論文が出るようになっている。結果がめでたかった。結果がめでたくなくても、平均的な質の代表としては悪くないだろう。それから独法の話は阪先生。
- 阪先生:そうですね、独立行政法人の役割が大きくなってきている、とのデータを紹介した。何故か、は難しいが・・・独立行政法人も論文を出すように評価が難しくなったせいではないか。時期的には2000年代に入ってからなので、それとあいまっている。
- 谷藤さん:図書館員として、根岸先生に。IFはそもそも図書館が購読誌を選択する指標として使うはずだったのが、最近は研究評価に応用されるようになって、図書館は最近はダウンロード数で購読料を除するしかなくなっている。何か新指標は作れないか?
- 根岸先生:やるとしては予算額との最適配分、とかをやらないといけない。
- 谷藤さん:そうなると国内雑誌はますます買わなくなるのでは?
- 根岸先生:それは・・・まずいな。やるとすれば個別の雑誌ではなく全体のポートフォリオになるのではないk。
- 日本化学会・林さん:お2人のお話を聞いてわかったのが、日本のプレゼンスが出せない大きな要因は日本で新刊雑誌が出せていないことがあると思う。本来はサイエンスは生き物で変化に従ったスコープの雑誌を出しているが、日本では出せていない。阪さんのサイエンスマップを見ると日本人の強い分野が見える、それを雑誌を出すポイントとして見られるといいのではないか。そういう考え方はどうだろう?
- 根岸先生:ごもっとも。
- 安達先生:日本にはそういう観点から経営する出版機関がない。新しいジャンルで編集委員をまとめて出す、というダイナミックな動きがあればいいが、根岸先生のご講演にあるようにそれを今やるならインターナショナルになってしまう。そういう時代に日本の・・・というのはどれだけ・・・
- 林さん:当然、欧米を巻き込むのだが、日本がイニシアティブを取れないといけない。それが日本誌、という考え。日本の強い分野で主導権を持ってエディトリアルを組めるなら海外の出版者と協力してもいい。
- 安達先生:IEEEでは日本の半導体が強い時期は、トランザクションに日本が強く関わっていた。日本が強ければ関わるし弱まれば離れる。それでいいのではないか? かつて華やかであった、ノーベル賞をとっているところが10-20年後もとれるか、ということへの心配があるのでは。今の若い人がインターナショナルに戦うことに違和感を持っていないときに、政策的に日本が、というのとどう対応するのか。大学はどうするんだろう?
- 林先生:そこから化学に話を向けると、化学の日本の国際誌が・・・というのは定性的に見ても正しいと思う。それはアジア誌として出している雑誌が大変成功しているためでもある。分野によっても状況によっても変わる問題だが、本当に国際的に競争的な状態になると、オープンになる前の情報はライバルに流れる、という状況がある。それは化学のトップクラスの先生からも聞く。そこでちゃんと日本が編集のコントロールをできる分野を持つことに反対する先生はいない。そこが日本発の、ということの意味では。国際連合的なものは、どんなところでも日本が買ったらルールが変えられたりする。日本がプレゼンスと力を示すメディアをどう作るのか。
- 安達先生:難しい問題があとに残った。
- 根岸先生:どこまで話を広げるか。あんまりひどいなら研究者にならなければいいんじゃないの、となる。考える必要があるが、ベースとなるのは学術研究の場、というのを考えないといけない。
ディスカッション冒頭での質問とも関連して、会の終了後に阪先生にトムソン・ロイター内での各データの採り方についても質問させていただきました。
自分で見ている限りでも、Web of ScienceのデータとESI(Essential Science Indicator)のデータで論文数等の結果がずれて出ることがあったのですが、阪先生が分析されている中にはさらに重要な問題(キーになる論文がESIにだけ採録されていない、など)もあったそうです。
どうもトムソン・ロイターの中でもデータ作成のラインが分かれていて、かつそれがかなり上流で分かれているために同じ会社のデータであっても必ずしも整合しない、という現象が起こっているのではないか、とのことでした。
そのため、Scopus(Elsevier)由来とトムソン・ロイター由来のデータを単純に比較できないのはもちろんのこと、同じトムソン・ロイター社のデータでもものによっては合算したりしてはいけないことがあり、その他にも注意点が多数あるためそのあたりがわからないで数字をいじることの危険性も指摘されていました。
また、阪先生・根岸先生どちらのご講演でも指摘されていた臨床医学の特徴的な動きについては興味深かったです。
阪先生のお話から臨床医学では国立大学の役割が低下してきている、根岸先生のお話から国内誌回帰の傾向がある、という2点を併せて考えると、国立大学における臨床医学研究の停滞、という1つの現象から私大への役割移行と海外誌での発表減という2つの結果が起こっているのでは・・・というストーリーが考えられる気がするのですが(そしてそれは、国立大学の臨床で大学病院運営に割く時間が増大して研究する時間がない、という良く耳にする話とも合致すると思うのですが)、実際どうなのかはもっと詳細に分析してみないと、ですね。
根岸先生のご発表のラストで示された国立大学の論文数が法人化直後からガクッと折れて横ばい、というインパクトも凄かったですが・・・これも阪先生がディスカッション中でおっしゃっていた、研究時間が2002⇒2010で10%減、という話、および周囲の先生方の状況を見ると実感には即していそうな結果で、確定値が出るのが楽しみです。
(大学教員の研究時間を削り、教育や他の業務に当てさせる、というのが日本の施策なのだと考えればそう問題ない結果なのかも知れませんが、どうなんでしょうね・・・?)
その他、自分でも聞きながら色々と考えることの多いセミナーでした。
会場は大入りで、思わぬ方が関西からいらしていたりと注目度の高いイベントでしたが、それ以上に濃い内容だったのではないでしょうか。
お2人の先生方の講演中で示されたデータの詳細は本エントリ冒頭に挙げた報告書中により詳しく記載されているので、興味がおありの方は是非そちらも読んでいただければ、と思います。