かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

【再掲】第1回 SPARC Japan セミナー2013「SPARCとSPARC Japanのこれから」(オープンアクセス・サミット2013 学術情報のオープン化に向けて〜現在の到達点と未来の展望〜 参加記録その3)

どうやら昨日書いたエントリが、1日にアップできる量を超えていたようで途中で切れてしまっていました(汗)
ご指摘くださった方、ありがとうございましたm(_ _)m
あらためて、6/7のSPARC Japanセミナー記録をアップしたいと思います。
(以下、途中までは前回エントリと全く同じ内容です)



前々エントリ*1、前エントリ*2に引き続き、OAサミット2013参加記録その3です。
2日目・午後の時間は第4期に入ったSPARC Japanセミナーですよ!

今回は第4期SPARC Japanの活動をスタートさせるにふさわしくSPARCのExecutive DirectorであるHeather Joseph氏をお招きし、米国におけるSPARCの活動状況についてお話をいただきます。また第4期のSPARC Japan活動方針をご説明させていただき、日本版SPARCの方向性について模索してみたいと思います。SPARC活動の拠点である米国での最新動向を担当者から直接伺える貴重な機会ですので、是非ご参加いただけますようお願いいたします。


SPARC Japanセミナーはこのブログコンテンツのいったい何割を収めているんだという、ほぼメインコンテンツですが(苦笑)
さすがに関西に就職してもうそう頻繁には行けないかなー、と思っていたところ、今回はOAサミットの一環として開催されたおかげで参加することができました!!
それも米国・本家SPARCのHeather Josephさんがいらしている回ということで、記録もいつも以上のボリュームになってしまったような・・・


以下、例によって当日の記録です。
例のごとくmin2-flyが聞き取れた/理解できた/書き取れた範囲のメモですので、ご利用の際はその点ご理解いただければ幸いです。誤字脱字・事実誤認等、お気づきの点があればコメント欄等でご指摘ください。


では、さっそく米SPARCのJosephさんのお話から!



Open Access: Delivering on the Promise」(Heather Josephさん、Executive Director, SPARC

  • 通訳を通して話すのは久しぶりなのでなるべくゆっくり話すが、問題があったらうでを大きく回して欲しい
    • そうしたらゆっくり話すようにする
  • SPARCのミッション:
    • 研究成果をなるべく幅広く行き渡らせる
    • きちんと入手できる形で、成果を多くの人が享受できるようにする
    • 大学図書館を通してそれを実現する
はじめに:どのようなプレッシャーが学術情報流通にあって、そこからどんな新しいソリューションが求められるようになったか
  • 学術情報流通システムには何が起こっているのか?
  • 1. 新しい技術
    • インターネット
    • 学術成果を共有するためのさまざまな方法
  • 2. デジタル情報の氾濫
    • デジタル情報がいかに急速に増大しているか
    • ヒトゲノムプロジェクトの場合・・・ 指数的なのびを見せる/これはどの学術領域でも起こる
    • 情報がどんどん出てくるようになると、人や機械のネットワークを活用して理解できる形で情報を活用する必要がある
  • 3. 研究論文へのアクセスに関する、図書館における財政負担
    • 雑誌へのアクセスに関する価格障壁はどんどん上がっている
    • 雑誌価格は高い。ある経済分野の海外紙を1年購読すればMacbookが1台、地理学分野のある雑誌だとティファニーのダイヤモンドのアクセサリ、そして『Brain research』を1年購読するには新車1台分のお金がかかる
    • 雑誌価格の伸びは他のどの経済指標と比較しても激しい
    • 一方で、学術出版市場は拡大している
  • 今のままのシステムで理にかなった方法で研究をするのは難しくなっている・・・それが意味することとは?
  • あるトピックについて検索してみて、読みたい論文がならんだリストを得たとする
    • アブストラクトを見て気になった論文があったので本文を見ようとすると・・・お金を払えと言われる
    • 研究者に提供したい全ての論文を購読できない図書館が増えていて、このようなケースはしばしば生じる
  • 研究者はこれにどう対応する??
    • 図書館のILLを使って欲しいと思うかもしれないが・・・研究者は著者に直接、文献をもらえるようお願いすることが多い
    • あるいは、知り合いの研究者を通じて入手しようとするかも知れない
    • 最近だと、Twitterで誰か文献を持っている人に「ファイルちょうだい」とつぶやくという手も。ハッシュタグもある
    • 今まではこんな感じでやってきたが、最善ではない
  • 学術情報を共有するもっといい方法があると思う
    • 立ち止まって、学術情報の共有の方法、最善の方法を考え、作りなおす必要がある
    • そこで出てきたアイディアが・・・オープンアクセス
オープンアクセスとは、それを今までどう実現してきたか
  • オープンアクセスとは? Budapest Open Access Initiative*3から・・・
    • インターネットを使い、論文を自由に入手し、電子的な形でフルに利用できるようにすること
    • もっと簡単に言えば、「Access + Reuse」
      • Access:すぐにその文献にアクセスできる
      • Reuse:フルに再利用できる
  • シンプル/パワフルなこの定義に基づいて色々活動してきた
  • オープンアクセスの現状は?
  • 1. オープンアクセス雑誌
    • 9,000以上のOA雑誌が既に存在。いろいろな分野/世界中で存在
    • OA雑誌に論文を載せる著者も増えている
      • 当初はゆっくりだった伸びが、次第にハイペースになってきている
      • 今後、OA雑誌掲載論文の数が、購読雑誌に掲載されるものを追い越すタイミングも予想されるように
        • 遅くとも2021年にはそうなりそう/早ければ2017年にはそうなるとも言われている
    • OA雑誌は当初、懐疑的な意見が多かった・・・持続可能なモデルなのか??
      • しかし2013年までにOA雑誌は持続可能なばかりか、収益もあがるものと証明された
      • 出版業界の中で現在もっともハイペースで成長しているのがOA雑誌。2011⇒2012の年間34%の成長率
      • 金額はまだまだかもだが、これだけ成長がはやいことには注目しておかなければいけない
  • 2. オープンアクセスリポジトリ
    • 世界中には3,000以上のOAリポジトリがある
    • コンテンツもどんどん充実。例えばNIHのPMCには250万以上の論文が入っている
    • 数が増えるだけではなく、その文献がネットワークを通じて広く共有されるようにもなっている
      • OpenAIRE*4の例
    • リポジトリの数が増え、コンテンツも充実、リポジトリ間のネットワークが進んでいる。さらに元となったデータへのリンクも貼られるように(オープンデータ)
  • 3. アクセスインフラの充実
    • アクセスそのもののインフラ+再利用のためのインフラ
    • オンライン化したにも関わらず紙時代の著作権のモデルを已然、使っている場合が多い
    • 再利用を促す上で重要なのが・・・オープンライセンスの利用
      • その中でもOAにおいてもっとも重要でよく使われるのがCreative Commons
      • CCBYは中でも最も使われている。デジタル情報を最初に作った人にクレジットしていれば、あとは何をしてもいい、というライセンス
      • CCBYはOAにおけるgold standard。CCBYを使う著者の数も増えている。OA雑誌に投稿する著者の伸びと同じような傾向
  • 4. オープンアクセスポリシー
    • オープンアクセスに関する重要な要素の最後はポリシー
      • 2つの種類:大学のポリシーと国・助成団体のポリシー
    • 国・資金助成団体のポリシー
      • 国レベルの公的団体の理解がどんどん高まっている/公的資金による助成成果のOAは国民に対してメリットになるという認識の高まり
      • OECDの8年前の宣言以降、どうようの考えを取り入れる国は広がっている・・・欧州委員会、オーストラリア、アルゼンチン、アメリ
      • アメリカ・・・ホワイトハウスは全ての政府機関、政府系助成団体は今年終わりまでにOAポリシーを定めるよう指示を出している
      • OAポリシーを定めている組織・機関の数はリポジトリやOA雑誌、CCBY導入者と同じように指数的なカーブを見せる
  • これらのことは研究者や学者にとってどんな意味を持つのか??
    • メリットが目に見える形で見え始めた・・・自分の成果をより幅広く届け/より多くの読者に届けられる
    • 研究成果へのアクセスが増えるのびならず、それを使って何かをすることも今までよりもできるように
オープンアクセスのコンセプトを実現するためのシステムの中にある課題と機会
  • いろいろなことが実現したが、まだまだ課題はあるし、機会もある
  • 再利用可能性について:
    • 再利用は重要・・・テキストマイニングや計算機による解析などもできるようにしておく必要がある
      • しかしそれができるようなCCBYを著者が選んでくれないとできない
      • PMCには260万の論文があるが、CCBYを導入しているのは50万の論文だけ
      • データベースの中の4分の1しかテキストマイニングデータマイニングが出来ない。コレクションの価値を下げてしまう
      • 著者はより厳しいライセンスを選んでいる。自分たちの成果を閉じておきたい・・・わけではなく、オープンライセンスの力を理解していないだけ
    • オープンライセンスの成功のためには・・・「権利を使うための権利」が要る
  • その実現のために、SPARCはさまざまなコミュニティと協同している
    • そのOAがどの程度、再利用可能としているかの枠組みを定めたり(HowOpenIsIt)
  • 研究者・学術コミュニティの文化の変容を起こせるか:
    • 「なぜ自分の研究成果をOAにする必要があるのか?」という質問を投げかける研究者に対してよりよい答えを提供する必要がある
    • 最大の障害は研究者の不安感・恐れ。購読出版と同じようにOA雑誌にのっても見返りは得られるか
    • それに応えるには今までと違う方法で出版活動の質を評価することが必要
    • 従来の研究者にとっての指標・・・インパクトファクター(引用の数に基づく)
      • しかし他にもいろいろな方法を使うことが、デジタルな環境ではできる。引用だけではなくても良いはず
  • Article Level MetricsやAltmetrics
    • 何人が論文を読んでいるか/どこから引用したか
    • 引用の数を見るだけではなく、誰がどこで引用しているかがわかる
    • ソーシャルメディアからどんなことを呟いたり言及されているかを調べることも。TwitterFacebookやConnotea、Mendeleyのような専門的なものも。廊下の立ち聞きを覗き見するように論文の評判をオンライン上で見られる
    • Article Level MetricsはOA雑誌の世界で広く使われるように・・・これを見れば論文1本ずつの情報や数字的な/統計的な情報を簡単に得られる
    • 例えば出たばかりの論文なら被引用数は少なくなるが、FacebookやMendeleyではどんなコメントがついているか、ディスカッションが行なわれているかを見たりできる
      • これまでになかったレベルで論文に対する反応が見られる。自分がもっと探りたいと思うようなインパクト、インパクトの新たな側面を掘り下げられる
      • Facebookで話題になっているスレッドを見て、誰が何を発言しているかを見て、影響力の有無や、意外な人物の発言を見たりもできる。つぶさに論文に関するコミュニケーションを観察できる
    • 誰がどのように研究成果を使っているかが見られる、というのは単なる論文の引用数とは違う切り口で使われ方を見ることができるもの
    • これを成功に導いていくには・・・Article Level Metricsがいろいろな雑誌で使われる必要がある
    • 数カ月前にサンフランシスコで行なわれた会議に基づき「サンフランシスコ研究評価宣言」が出された*5
    • Article Level Metricsには従来とは違うカルチャーへと変革していく刺激となる、大きなポテンシャルを持っている
まとめ
  • これまでに指標・数字で見たように、過去10年のOAの取り組みが大きな進歩を遂げているのは明らか
  • これから対策をとっていくべき課題も明らか
  • SPARCではいつも最後はtodoリストを掲げて終わりにしている・・・今回はこんな感じ
    • 1. やるべきことを片付ける=頑健性の高いインフラを雑誌とリポジトリ双方で実現する
    • 2. できるだけ多様なビジネスモデルの確保。OAが多様化すれば、学術情報流通関係のさまざまな人達の支えになる。営利・非営利ひっくるめてサポートする
    • 3. アクセスと再利用の双方を考えないといけない。そのために、オープンライセンスの利用を進めていく必要がある
    • 4. 最後に・・・研究者に十分なインセンティブを持ってもらうべく、幅広い研究評価の指標を確立する。最初はArticle Level Metrics
  • SPARCの戦略は強力・グローバルなパートナーシップをとること
    • 北米、日本、ヨーロッパのSPARCが協力しあって事業を進めていけるようになっている。協力しながらの活動が今後もOAを成功に導くには重要なはず
質疑応答
  • Q. NIIの技術者兼天文学者。研究者としてArticle Level Metricsは重要だと思う。研究者に広めていく必要があると思うがどうプロモートしていく?
    • A. OAに協力してもらうためにもALMsが重要ってこと? これ以上ないと思うくらい同感で、ブログやTwitter等で自分の成果についてコミュニティが何を言ってるか知ること、こんなオーディエンスがいるとは知らなかったことについて知ると、研究者当人にもインパクトとなる。単に被引用数が出るだけとは違う。こういうものを目にするとOAに舵を切っていくんではないかと思う。
  • Q. 同僚にもすすめて行きたい。
  • Q. Article Level Metricsは素晴らしいと思うが、研究活動の評価に反映されないと広がらないのではないか? アメリカでもどこでもいいが、研究機関や研究費の採択で、ALMsを考慮に入れているところはあるのか? あるいは検討している例はあるのか?
    • A. 確かに普及のためには研究機関や助成団体でこういう手法が受け入れられる必要があると思う。実際、新しい手法としての検討がまさにはじめられた段階。研究助成団体等でそういう動きが始まっている段階。どの程度、関心が高まっているかというと、北米SPARCに昨年来た問い合わせのうちかなりの部分はALMs関係。OAに関する質問と同じくらいの数が来た。ALMsの活用の検討例の一つとして、研究評価手法として、Wellcome Trustでも検討が始まっていたり、さまざまなところで使われるようになってきている。ぜひ参照して欲しい。
  • Q. SPARCの取り組みは非常に大事と思うが、OAの成功には研究者の意識が一番大事と思う。研究者はNature等の著名な雑誌に自分の論文が載ることに熱心だが、OA等の別のルートに論文が載ることへの意識の改革を実現するために図書館員は何ができる?
    • A. 確かに研究者の意識改革は重要。それは図書館職員ができることの一つでもあると思う。OA雑誌の中にはScienceやNatureに匹敵するようなものがあることを知ってもらうことが必要。そこまで質の高いものは多くはないが増えてはいる、例えばeLifeとか。研究者に対してこういうOA雑誌もあること、そこで論文を発表することもできることを知ってもらうことが必要。インパクトファクターへの依存を進めるわけではないが、中にはインパクトファクターの高いものもある。まずは知ってもらうことが最初のステップと思う。また、大学当局にもそういう点を話して、理解を広めることが重要。大学内での研究成果をより幅威ひろいオーディエンスに届けること、そこから視認性を高めていくことの重要性を訴える事が必要。OAにすることは視認性向上にもつながる。
    • 要するに、図書館スタッフは研究者に話しをするときはOAの側面の中でも個人的なメリットを伝えられれば、その人個人も興味を示してくれるはず。大学当局に話をするときは、大学の研究活動のビジビリティを上げ、ブランドの価値を高めることにつながる、と話をしていくと説得力もあるし、理解も進むのではないか。




休憩タイム



SPARC Japan 〜来し方行く末〜」(尾城孝一さん、国立情報学研究所

  • 今日の話:
    • 国際学術情報流通基盤事業:通称 SPARC Japanは10年前、2003年から活動開始
      • 最初の経緯
      • これまでの成果・課題
      • 今後の展開
  • SPARC Japan開始の経緯:
    • 2000年当時の日本の英語学術論文出版状況・・・日本の論文の割合は世界全体の12%に達する/日本の英文雑誌の占める割合は4%未満
      • 日本人研究者の英語論文の79%以上は海外の英文誌に掲載・・・海外流出?
    • 当時の日本の学術情報流通の問題点:
      • 研究成果は海外に流出
      • 国内学会誌の電子ジャーナル化が遅れている
      • 数少ない電子ジャーナルも海外商業出版社に流れてしまっている
      • 日本発のものもほとんどは無料発信。オープンに利用できるのはいいことだが、ビジネスモデルは存在しないので安定性には不安
    • 文科省の審議会の中でも問題点は認識される・・・NIIが国際発信の方策をとる、という提言が出される
      • そこで日本発の学術論文誌を電子的に発信する事業へ・・・SPARC Japanの開始
    • アメリカでは1998年からSPARCの取り組みが存在:
      • 商業誌による寡占化を崩し研究者の手元に成果を取り戻そうということで、北米ARLを中心に活動
      • SPARC Japanも理念は共有/事業の現れ方にはかなりの差
        • アメリカ・・・商業出版社による市場独占・学術雑誌へのアクセス阻害が背景/成果を研究者の手に取り戻すための学術コミュニケーション変革がミッション
        • 日本・・・日本の優れた成果が海外に流出していることが背景/日本の学会が発信する電子ジャーナルの強化が第一のミッション
    • 商業出版社による市場独占・雑誌の価格高騰に対する危機意識は日米で共通
      • 日本には国内のジャーナルの国際競争力を高めないといけないという固有の問題も存在
      • 日本はとりあえず固有の問題の解決に力を注ぐ必要があった・・・SPARC Japan
  • SPARC Japan 3期10年の成果と課題
    • 第1期:パートナー誌を募集、45誌の電子化+SPARC Japanセミナー(〜3期)
    • 第2期:合同プロモーションの開催・・・国内外の学会の年次総会に出店してパートナー誌の販売を促進(〜3期)
    • ジャーナルについて
      • 45誌はすべて電子ジャーナルか完了
      • 電子オンリーの雑誌も新創刊
      • UniBio Press・・・生物系プラットフォーム
      • 数学系・・・Project Euclidに参加
      • 新たに5誌がIFを獲得
    • 大学図書館との連携等は進んでいなかった
    • オープンアクセスについても、セミナーでは取り上げても一歩踏み込んだ活動はできなかった
  • 第4期の活動・・・
    • 基本方針:大学図書館と研究者の連携を促進しつつ、OAに関する問題に取り組みながらOAを推進する
    • 国際的なOAイニシアティブの支援/課題への対応/基礎的な情報・データの把握
    • 具体的なプロジェクト:いくつかあるが、中でも力を入れたいもの・・・オープンアクセス支援のパイロットプロジェクトの検討
      • Gold OAのビジネスモデルとして定着しつつあるArticle Processing Charge(APC)について、重点的に取り組んでいく
      • APCによるジャーナルは数を増やしつつある・・・それに伴って、大学・機関単位でAPCを集めてしまうモデルを採用する出版社も
        • 一方で・・・実際に大学でどれくらいの額をAPCに支払っているのかが、わからない。データがない。まずはその実態を把握する
          • 海外動向調査/国内のOA雑誌への投稿実態調査
      • いくつかの出版社から連絡が来ている、APCについてのパイロットプロジェクトをなんらかの形で実施したい
        • JUSTICEや大学図書館と連携してこういう活動を進めていく
  • 最後に:今年度の予定表
    • 今年からセミナーのテーマは研究者・図書館の合同企画チームに依頼している
    • このセミナーを通じて研究者と図書館員がOA・学術コミュニケーションのいろんな課題を話しあう場を提供したい
    • セミナーへの参加+企画へのご協力を

SPARCへの期待」(戸瀬信之先生、日本数学会

  • 最初にNII、特にSPARC Japanに深い感謝を:
    • 日本では数学会はじめ、旧帝大に数学の雑誌があって、世界から論文を集めていた
    • その電子化はSPARC Japanのサポートのおかげで進んだ。世界に発信する能力がすごく高まった
  • 今日の講演は数学会を中心に、日本の数学者がどのように研究発表を進めているかを考え、どのようなことが今後必要とされるか、何をお願いしたいかを考えてみた話
  • 日本数学会の雑誌の電子化事業:
    • 定期刊行物はほぼ完了
      • 英文原著論文誌/レビュー誌はともに電子化完了
      • 岩波書店から出している「数学」・・・2年以上経過したものは電子版一般公開/遡及は今年の12月で終わる予定
    • 不定期刊行物:
      • シンポジウム報告集・・・アメリカ数学会のサイトから刊行5年後のものを一般公開
      • 英文/日本語のモノグラフ/レクチャーノート・・・刊行8年で一般公開+英文モノグラフは有償公開も
  • 数学者の研究成果発表:
    • まずプレプリントを公開(arXivや機関リポジトリ
    • 学会発表・・・アブストラクト発表
    • シンポジウムでの講演⇒報告集 or ビデオ(重要なシンポジウムはかなりの割合ビデオがある)
    • 最終版を論文に
    • 長い期間を経たもので大きくまとめたものは講義録、レビュー、モノグラフに
  • これらの多様な形態に対応するために、日本数学会は・・・
    • 大会の講演アブストラクト(論文要旨)について過去30年分のデータベース化と過去分のアーカイブ化を進める
    • 講演ビデオ・・・国際的な数学者を招いたレクチャー(年2回)と、夏休みに2週間、世界から人を集めてやっている企画のビデオは公開している。無償公開
      • http://mathsoc.jp/videos/
      • 大会の企画特別講演もビデオ公開
      • 東京大学数理科学研究科では外国人を招いたシンポジウムを多数実施・・・その講演ビデオもある。共通データベースが必要?
      • 英語の講演は大韓数学会とも話し合い、アジアで講演ビデオの情報を交換するという動きも
    • 大会分科会の総合シンポジウムなど・・・講演記録(1人10ページ程度)も毎年、頒布
      • 分科会によって温度差はあるが、徐々に電子化しはじめている
    • 過去の重要な国際シンポジウム・・・たとえば50年前、日本初の国際シンポジウムの記録などにも重要な論文がある・・・Proceedingsの公開
  • 今後さらに進めるとするとデータベースがいる: Digital Mathematical Library
    • 世界的な構想・・・日本ではDML-JPが存在(北大・行木先生が構築)
    • 今後は・・・ビデオを含めるなど多様な形式への対応
    • メタデータの国際化・・・日本数学会の大会では英文タイトル+サマリーを要求/雑誌「数学」も英文メタデータも付与している
    • 日本語文献には独自にDOIを付与したい。ビデオにも
  • SPARCへの期待
    • 現金なようだが・・・DML-JP拡張版の構築を援助して欲しい
      • こういう試みは数学に限らずいろんな分野で日本国内の研究成果を作って、また統合していくことにもなるかも。なっていくと思う
    • 不定期刊行物について、最初の20巻は出版権が他にあり、なかなか交渉もできていない・・・今後、日本で行なわれた出版物を電子化・公開するとライセンスの調整が必須になる。その交渉チャンネルをどこかが持っておくのがいい。各学会がそれぞれ欧米の出版社とチャンネルを持つのはまず不可能で、SPARCがやってくれるとありがたい
    • 特に不定期刊行物について、電子化したとして図書館のデータベースにも統合して欲しいのだが、そういうことを推進する仕組みを作っていったらどうか?
      • OPACに統合するような動きがあってもいい
    • 最後に・・・モノグラフの電子化の推進
      • 今後、いろいろな技術的な進歩が必要とは思う。いろいろな規格は進んでいるが、日本数学会はPDF以外はアクセプトできない。EPUBのようなレベルでは数学者は満足しない、数式がまるで達していない。それはジャーナルについてもそう、HTMLで公開する動きもあるようだが、数学者を満足させるレベルで数式を表示できていない。そこは頑張って欲しい。SPARCは関係ないのかも知れないが
  • 以上はほとんどボランティアベースでやっていた。若い人たちも巻き込みながら今後もいろいろなことをやっていきたいし、SPARCにも期待している

パネルディスカッション

  • モデレータ:安達淳先生(国立情報学研究所
  • パネリスト:
    • Heather Josephさん
    • 戸瀬信之先生
    • 関川雅彦さん(東京大学附属図書館)
    • 林和弘さん(科学技術政策研究所)
安達先生

モデレータの特権として少しお話したい。
Josephさんのお話は大変印象的な講演だった。いいタイミングでいい人に話を聞けた。私もオバマ大統領がオープンアクセス出版へのレターを出したとか、サンフランシスコの会議の件とかのニュースはしっているが、それを大きな流れの中で見る、というのは大事なこと。非常にインスパイアしてくれた。
一つは、OA= access + reuse、といってくれた。reuse、ということで、さまざまな課題が出てきた。
もう一つはmetricsのこと。日本では同じ問題を大学の評価や研究者の評価でストレートに捉えて議論してしまうが、もっと別の観点、研究者の立場から使い方の話をされたのは私どもの議論で抜けていたこと。
尾城さんのお話にあったように、私ども日本は少しリポジトリに注力しすぎた。おかげさまで成果は出ているが、おおもとのOAについてもう一度考えてみるいいチャンスと思う。

Josephさんのお話のポイントは、別の言い方をすれば、"game change"の話だろう。従来からの出版/インパクトファクターに対し新しいものを持ち込んで、学術コミュニケーションを全く変える可能性を示してくれた。
午前中の博士論文の話も、日本におけるgame change。OAの問題と思ってお聞きかもしれないが、「大学が学位を与える」という制度を変えてしまうところにインパクトが有る。午前中はそういうところを避けて話をしていたが、Josephさんの話も、博士論文の話もゲームを変える話。その中で何を目指すのかが、今日一日、私が学んだこと。

前振りはこれくらいにして。まずプレゼンテーションをしなかったお二人に意見をいただきたい。
まずは関川さん、スライドを用意いただいているのでそこから。

関川さん

私は基本的にはOAはとてもいいことだと思っている。その大前提を踏まえて、スライドを作ってきた。

一つは、リポジトリに関して。もし雑誌が完全にOA化されたら機関リポジトリはいったいどうなるのか? 
機関リポジトリに今、論文を登録している場合、著者最終版とか色々バージョンが有る。もし完全にOAなら版を分けなくていいのではないか、出版社版を登録すればいいしエンバーゴもない。出版社版を登録できる。
でも、そうなると、機関リポジトリの役割はなんなんだろう?

二つ目は、APCについて。一般に著者が投稿するときに払うモデルが普通だが、今後、図書館でAPCをとりまとめて出版社に払うようなことも起こるだろう。
私の図書館現場からの関心は、APCの総額は、今、購読料として負担している金額と、同じになるのか? それ以上取るつもりはないだろうか? もっとお金をとるとか、まさか言い出さないよね?
とはいえ過渡的には、購読料を変えないままAPCを上乗せして回収している、そういうのが続くのかな、と思う。

三点目は、これがどんどん進展したとき、図書館はAPCにどのようなスタンスでどのような対応をとればいいのか。
図書館現場の人間としてはこれは大きな問題なのではないかなと考えている。

安達先生

ゴールド、グリーン、APCの話が重要な論点ということで承った。
続いて林さん、お願いします。

林さん

前職の日本化学会の頃からお話したい。
2003年のSPARC準備室の頃からかかわってきて、SPARC Japanが紆余曲折なことも肌身で知っている。
オープンアクセスについても、日本の出版社としては初めてOAに関する支援を明示的に示して、ハイブリッドオプションを導入したり、OA dayで日本でもイベントをやったり、Science分野のCreative Commonsの翻訳プロジェクトの立ち上げもやったりしている。
OAに関してはそれなりに貢献し、SPARCでもセミナー等通じてどうエンハンスできるかやってきた。
感慨深いのは10年くらいやってやっと、研究者が向き合ってくれるようになってきた。ここに来て急に変わってきているので、ここで何か起こすことで次の飛躍につながると思う。

日本の特殊な事情として、今年度から始まる科研費の成果公開促進費でのOA特別枠の支援があることと、他のパターンの中でもOA実現を推奨している。そうなると、学会の先生方がOAを考えだして、認識も上がっている。
その上で、昨日、安達先生もおっしゃっていた、研究者が研究者のイニシアティブで、どうやってOA化すべきという、mandateを決めればいいのか。OAをなんのためにするかといえば、研究者が研究者の成果のビジビリティを上げ、貢献し、その世界をボトムアップすること。そのことを研究者自身に考えてもらう仕掛けを考えて行かないといけない。

安達先生

今日のご講演とお二人の問題提起をまとめて3つにしてみた。

  • 1. Gold、Green、APC、Diversity
  • 2. 研究者との緊張関係をどう考えていくか・・・日本では政府も義務化で動き出し、アメリカではオバマ大統領がレターも出した。その中で図書館はどう機能していくのか
  • 3. 従来型の論文からそれ以外のコンテンツに広がっていく。オープンデータ等も言われる。カバーしなければいけない領域が広がることについて

この3つについてまず議論をして行きたい。

APC、Gold、Green、リポジトリの役割
  • 安達先生:Josephさん、アメリカの状況等についてコメントがあれば。
  • Josephさん:

アメリカでは大学・図書館がAPCに資金を拠出することは受け入れられている。全ての大学で行なわれているわけではないが、従来より多くの機関がOAのためのfundを用意している。
資金源はいろいろ。一つは図書館が購読料の一部をOAのために、さまざまな費用のために割り当てている。
二つ目は大学当局が新しい資金を用意する。今までそういうことに使っていなかったお金をfundのために用意している。
SPARCの役割としては、このような問題についての情報・データを提供すること。過去5年間のOA fundの情報を伝えるプロジェクトを実施している。金額や資金源、APCのリクエスト数やその領域、対象は院生/ポスドク/新任研究者なのかといった情報をまとめている。SPARCのwebサイトに情報は載せているので、そちらを参照いただければ。

  • 安達先生:アメリカの大学では色々という話だが、日本は?>関川さん
  • 関川さん:

昨年12月のセミナーでも触れたが、日本ではAPCに関して学内合意・・・研究者や執行部がAPCをどこが扱うかについて、まったく固めていない状態とお話したと思う。
学術情報流通、その流通という面では、APCを図書館が扱うのはごく自然と思う。
でも、科研費や外部資金という見方をすると、それに図書館が直接関与する習慣・文化はあまりない。科研費をどうとるかとかは研究推進や助成部署がやっている。APCが学術情報流通の視点ではなく、研究推進の視点からは、図書館の出る幕ではないという考え方もある。
結論から言えば図書館が関与するのが一番リーズナブルと思うが、そのことを先生方や執行部、学内関係者に説明して、了解を求めることをしていかなければいけないと思う。

  • 戸瀬先生:

数学の場合はAPCへの理解は進んでいない。ただし、アメリカ数学会APCジャーナルを創刊するということがあり、注目は集まっている。
いずれにしても数学者は世の中の流れに・・・っ・・・こだわらないので、なかなか乗ってこないと思う。学内調整をするにあたって、分野間の温度差がかなり激しいのではと思う。

  • 安達先生:

日本の数学者はギスギスした感じがなくていい分野と思うが、Josephさん、アメリカの大学では図書館がAPCを扱うとみなされている? それ以外のところ?

  • Josephさん:

全く同じ状況。やはり図書館はこれまで購読料の対応をしていたので自然とAPCも自分たちと認識する。
一方で、研究者は自分たちの研究成果を流通させるコストと考え、研究の枠組みの中にあるものと考えがち。そこから両者の間に緊張感のようなものが生まれている。

すべてOA雑誌になったらAPCは購読費のトータルと同じなのか、という話があったが、APCは雑誌を賄うコストなんだし読者が増えても儲けようとしないのではと思う・・・が、出版社はどう考えるだろう?
パネリストの中だと林さんの立場が近い?

  • 林さん:

APCでも稼げちゃうので、怪しい雑誌がいっぱいある。まずあれには気をつけて、と先生方にadvocacyする必要がある。
とはいえ、すべての雑誌がOAにはならないだろう。NatureやACSのトップジャーナルは購読モデルのままだと思う。
トップジャーナルはほとんどの研究機関で買えているので、実質的に研究者にとってOAと変わらない。
それに価値のある情報は有料、という認識も広がっている。
ハイブランドの雑誌は購読モデルのままだと思うし、それはそれでいいんじゃないか。図書館の役割もそこで残る。

難しいのはミドルクラス。トップレベルじゃないから、購読費はトップジャーナルにとられる。
どう対応するか困っているところがあるので、そこは出版社と図書館が手を組むチャンスかも知れない。
直接の答えにはならないかもだが・・・

  • Q. 同じ方:

多様性の問題にもつながると思う。いろいろなモデルのものがあって良くて、だからこそ図書館がその辺の事情をわかる努力をした上で、大学内でそういう機能を担う必要はあると思う。

  • 林さん:

APCも、「いくらが適当か」と「その雑誌にそのAPCを払うべきか」の目利きもいる。先生の論文をどのジャーナルに載せるかを限られた予算の中で判断する必要があるわけで、それもAPCの課題になってくると思う。

  • 安達先生:

そうすると図書館は確実に仕事が増える。マネジメントする人には頭がいたいかも。

奇しくも研究者との距離の話にもなってきた。研究者との距離を近くしてその行動に関与することになりそう。
従来、図書館はとにかくきちっと資料を集めることに専念すれば良かった。今の林さんの話は、どこに投稿するかという、従来は研究者が決める、図書館が口を出してはいけなかったところにも関与することになるかも。
日本は従来、OAやリポジトリはがんばってきたが、まだ研究者自身や助成機関によるmandateが弱い。アメリカは日本から見ると急にオバマ大統領のレターを契機にそっちに行こうとしているように見える。
NSFの成果をOAにすることなどは近々、制度化される?

  • Josephさん:

オバマ大統領のレターの件は、それを出してもらうには4年間という長い期間、図書館コミュニティから政府に対し日々、働きかけてきた、努力を払ってきてようやく実現したもの。
外から見ると突然の実現のようにも見えるだろうが、図書館コミュニティの働きかけの結果、ようやく実現したもの。
図書館が果たした役割は非常に大きい。政府に働きかけただけではなく、各大学でも図書館員がきっかけになって教員を動き出した。
ハーバード大学などでも、アイディアは図書館員が出し、それに教員が納得して、政府を動かすまでに至ったのは、図書館員が大きく人々を動かした、ということ。
その結果としてこのように実を結んだ。

  • 安達先生:

冒頭で機関リポジトリの役割に関するご心配を関川さんが表明されていましたが、今朝のセッションはこの会場が全部うまる稀なセッションで、機関リポジトリに博士論文を、今年から入れなければいけないということで、それだけで図書館の人もずいぶん、集中的に作業したり学内調整をしたりが目の前に控えている。
関川さんは大学でそれをマネジメントする立場だが、どう考えている?
まだどんどん、なくてはならないものになっていくのでは?

  • 関川さん:

最初のスライドの中で「どうなるの?」としていたが、心の中では「でも必要だよね、少なくとも会場にいる人が生きている期間くらいのスパンでは」と考えていた。
全ての学術情報、講演や会議録などが商業誌等には載り切らない。確実に学術情報を世界にオープンにする流れの中で、機関リポジトリの働きはずっとあるだろう。
少なくとも日本ではかなり時間がかかるはず。学位論文の電子化ですら、図書館の会議などで説明すると、「そんなこと言ったってね・・・」と言い出して、当分は学位論文の100%搭載はまだ先。
機関リポジトリに携わる人は、当分飯の種に困らない。

もう1つは、前の大学のときにすごく感じたのは、大学という単位に対する評価の目が非常に厳しい。
完全OA誌があったとして、そこを見れば成果が見られるとしても、「A大学がどういう成果を出しているか」というものは、それを外部に公表する機能として機関リポジトリの役割はあるだろうと思う。
そういった意味で、OAという面と同時に大学の活動評価ツールとして見た時に機関リポジトリはそれなりの意味を持つだろうと思う。

  • 安達先生:

補足すると、従来の日本政府のやり方なら、博士論文を電子化しようというなら集中的に、単一リポジトリを作ってやろうということが多かった。
それが各大学の機関リポジトリで、となったのは、日本の機関リポジトリが普通のものになってきた、図書館員の努力の成果に加えて、個々の大学の活動評価を意識しているから。
政府はとにかくお金を減らそうとしているので、厳しくなっていくことも予想されるが、主として国立大学には当てはまることの余波として私立大学にも博士論文のmandateが来た。
しかしそれをネガティブにではなく、ポジティブに、外にアピールするためのアプローチとして発展させることが必要。
そういう形で大学図書館から学内にうまくアピールしてくれればありがたい。

私も機関リポジトリのプロジェクトに携わって、研究者へのアクセスがなかなか難しいと思っている。
今回の博士論文のmandateは大きな意義を持つ。このチャンスを捉えて、研究者とより近くなって、今までのOAに関する活動を強化して欲しい。

このようなことについて、図書館の方はそうはいっても苦労していると思うが、もしご質問・ご意見等あれば・・・

  • フロア:別の方:

機関リポジトリは今後も必要だろうと思う。
一つは紀要のようなもの、従来distributeされていないものを載せる機能。
もう一つはジャーナルに入れる際に削っていたバックデータ等も含んだドキュメントもリポジトリで公開することになるのではないか。
そういう点で、出版に近いような形でリポジトリは、OA雑誌が増えても重要性はあるのではないか。

  • 安達先生:

リポジトリにはますます要求も増えて仕事をきっちりしないといけない状況に思う。
Josephさんに質問したいのだが、評価・大学評価が日本のパネリストの議論の中で焦点になっている。日本の国立大学はかなり税金を投入されてもいるので。
アメリカの大学は私立大学も多くて、大学の評価という観点は日本ほどではない、主として研究資金獲得という視点が強いのではと思うが、アメリカの状況についてコメントいただきたい。

  • Josephさん:

確かにアメリカの状況は若干違う。私立大学と州立・公立大学の場合で、評価の仕方がかなり違うから。
ただ、この2者は同じようなことについて競争しているのも事実。質の高い学生の確保、研究資金の確保などで公私立問わず競争している。
そこで重要になってくるのが大学のブランドを高めることで、そこで研究出版活動や使われるデータセットの存在は大きく、機関リポジトリはそこに生きてくる。
機関リポジトリを使って大学のブランドを高めること、研究成果を幅広く発信する上で機関リポジトリはますます重要になってくるのではないかと思う。


  • 安達先生:

コンテンツの多様化について。出版形態の多様化とも関係するが、機関リポジトリも変わっていく必要があると思うし、出版社の活動も変わってきている。
大学だとオープンデータに今後どう対応するかというのもひとつの論点になってくると思う。
例えば東京大学では図書館がそういうことにコミットメントする、オープンデータに対応しようとか言う動きはある? それは研究者サイドの活動?

  • 関川さん:

東京大学に移って日は浅いのでよくはわからないが・・・図書館とオープンデータの関わりの話はあまり聞いていない。
先生方、研究者レベルでそういう動きはあって、いずれそれが図書館なり学内のセンターにコンタクトがあるかも知れないが、現時点では図書館へのコンタクトはない。
前の大学(=筑波大学)では従来の図書館の守備範囲からずれたものについての働きかけはあった。オープンデータではないが。

  • Josephさん:

興味深い点として、オバマ政権はオープンアクセスに積極的でレターを出したが、刊行物だけでなくデータもオープンにせよと強く言ってきている。
政府から大学図書館のコミュニティに対して、データアーカイブの解決策がないので、大学図書館と一緒に考えたい、と話があった。
現在、アメリカの図書館コミュニティは大きなチャンスを迎えていて、これから図書館が果たす役割は広がると思う。
アメリカでは明示的に図書館への働きかけがある。

  • 安達先生:

日本ではそこまでの動きがない。
オープンデータと聞くと例えばメタデータをどうつけてコミュニケーションできるようにするかは大きなチャレンジと思う。
そういう点で、化学は従来から化合物のレジストリと論文を結びつけるとかいう動きは有り、他方でアメリカの化学会はOAについて極めて独自のスタンスをとっているが、林さん、その点について。

  • 林さん:

化学はごく早い時期から化合物データを貯め始めたり結晶データを集めていたりする。
今、結晶学の研究者は、投稿時点でケンブリッジにあるデータセンターに自分のデータを登録して、IDをもらってから投稿して、出版するとケンブリッジのセンターにリンクもしている。
1990年代に構想が出て、2000年代前半には実現している。大変、美しい解決。
一方、Chemical Abstractsは集めた化合物データをSciFinderとして商売している。ケンブリッジのセンターは、企業等にはまとめて売って商売しているが、研究者の利用は無料。

どちらの場合もメタデータの目利きが要る。図書館員がその役割をやろうとすると、サブジェクト・ライブラリアンの話にもつながってくる。
そこがうまく機能すれば、専門のデータセットメタデータを付け広く流通させるライブラリアンのミッションにもつながってくる。

  • 安達先生:

遺伝分野の活動を横から見ていても、共有・登録して別々のものをつなげて新しい価値を出そうとしても、専門家がいなくて苦労している。
オープンデータとなると本当に生きていく価値のあるデータをオープンにするには相当の努力とお金がかかると思う。
図書館がどう関与するかは大きな問題。人材がいないのでどの分野も大変と思う。
人材がいないので・・・アメリカでは図書館にそういうコーディネイトの依頼が来ているというのは、今までの活動を見てもうなずける気がする。
今後、日本の図書館はどうするか? ぜひ考えていただきたい。

戸瀬先生はずいぶん、いろいろなデータを公開したいとのことだったが、図書館に期待している?
それとも数学者に、学会としてやることを期待している?

  • 戸瀬先生:

文章/文献は数学会独自でできると思う。
ただし、数学会のサイトにおいておいてもビジビリティが低いので・・・実は英文のものはProject Euclid等に置くことも考えている。
たとえば歴史的なproceedingsの公開はEuclidだし、モノグラフの公開もそちらを利用しようと思う。

ところが、何が問題かと言えば、ビデオ。
ビデオは数学会のビデオ、200本くらいあるが、すべて東大の数理科学研究科にホストしてもらっている。
無償でやってもらっているが、どこの学会もそれを独自でやるほどの力は・・・物理学会や化学会ならあるかもだが、会員数5,000人の数学会では辛い。
公的な、集中的なサービスがあればいいと思っている。

  • 安達先生:

勝手に課題を設定して自分の聞きたい質問ばかりしてきたが、フロアからこういうことを聞きたい、などあれば。

  • フロア3:

APCモデルに関連して。今はまだ考えなくていいのかも知れないが、利益相反は問題になる?
製薬会社の話題が最近、ニュースにもなっているが、論文には「〜から資金を受けた」は書かれる。
例えば今後、製薬会社がAPCを払うから載せてね、ということもあると思う。
そうなるとAPCの支払いを誰がしたかを書く必要があるのではと思うが・・・

  • 安達先生:

ご指摘の点は重要な問題のような気がする。
林さんでしたっけ? OA雑誌で詐欺のようなことをするところも出てきているが、逆にいうと、投稿者の自己責任・・・ということにもなるのかもだが、関連して何かあれば。

  • 林さん:

図書館の役割なんだと思う。出す側だけじゃなくて入りの目利きがいる。
例えば製薬会社の資金を受けたときに何処に出すかをマネージしたり、あるいはそもそももらわないというようなことを判断することを図書館が担う、というのはあるかも。

  • 安達先生:

従来は個々の研究者に責任を局在化させていたが、図書館が絡むと自体は複雑化するかも知れない。
具体的にどう対処するかは今後、OAを進めるコミュニティがきちっと発言して行かないといけないと思うし、研究者の啓蒙も重要と思う。

最後に:パネリストから一言ずつ
林さん

出版に関する質問に関連して、機関リポジトリ担当の方に提案したいのは、人社系の紀要を中心に機関リポジトリから出版されている。
それはぜひ進めて欲しいが、「出版していこう」と思うのならば、もう少しattractiveなインタフェースや、CrossRefのようなリンク、長期的にはさらにALMsのようなものも実現して欲しい。
特に日本の人社系の研究成果は被引用数では測れない。それ以外の方法でどうやるのかを考える、一番近い存在が機関リポジトリ+図書館になりつつある。
そこをぜひ進めて欲しい。

関川さん

OAとか図書館の役割とか高邁な部分ではないのだが。
OAは、あるいはOAの動きは、お金がかかる。ただではできない。だから、なんらかの金が絶対必要、ということを感じている。
それと派生して、金儲けは悪いことではない。金儲けを悪いような雰囲気があったが、日本では金儲けは悪いことではない。
ただ、適切でない利潤を出す金儲けは、もしするようなところがあるなら、目を光らせなければいけない。
コンソーシアムなんかの活動では出版社側の人間のようにも言われるが、お金は大切です。

戸瀬先生

出版側の人間でもあるんですが、数学会も出版しているので。
関川さんの指摘は重要。日本のジャーナルが脆弱なのは、日本に海外商業出版にあたるような出版社がないから。
数学会は不定期刊行物については、海外の出版社を使っているが、メインの雑誌は取次会社2つくらいあって、そのプロモーション能力は・・・あまり意味が無い、なきに等しいもの。
そういうところがかなり難しいのだな、と常に思っている。
数学会自身が国際的にプロモーションせざるを得ないと思いつめている。

Josephさん

他のパネリストの方々のコメントにさらに付け加えたい。
OA出版市場は新興市場で、その最もよくわかっている専門家は図書館員と研究者。
今こそこの市場を健全なものにすべく、協働していくべきと思う。
そうすれば、より学協会にとっても、研究者にも利益になる市場を形作っていくべき。
協力しあって市場について、何が起こっているか啓蒙し、健全な市場を形作っていくべき。

安達先生

予定時刻も過ぎているのでパネルを終えたい。

最後に・・・今日のSPARC Japanセミナーの企画WG紹介:
  • 北大・行木先生
  • 日本動物学会事務局・永井さん
  • 明治大学生田図書館・西脇さん

OAサミット全体の閉会の言葉:安達先生

壇上でも申したとおり、OAの動きの潮目が変わってきた、変わったと思っている。
そういうタイミングにSPARCからJosephさんをお呼びし、刺激的なお話を聞けたことは良かった。
お話が始まる前に、まずタイトルがずいぶん意義深いものだなあ、と思った。
「Delivering on the Promise」・・・「どのように期待に応えるか」。
今までの活動を具体的に社会に位置づけて機能していく時期になった、ということだと思う。
彼女はアメリカ・世界のOA Advocateの1人として、大変元気な方。
僕などはペシミスティックに考えがちだが、彼女は常に前向きなことを見てエンカレッジする、稀有な方。
快くお話いただいたことに感謝しています。ありがとうございました。

私どもの活動はさらに強力に進めていく。
博士論文について、いろいろな課題を的確かつエレガントに解決出来れば、このコミュニティの実力を社会に知らしめられる。
私どもNIIとしてもぜひ協力していければと考えている。

今後とも、このSPARC Japanのセミナーはコミュニティにいる人はもちろん、いない人も巻き込んでいきたいと思っている。
待っていますのでぜひ、よろしくお願いします。

この2日間の会議にご参加いただき、ありがとうございました。




以上で2日間にわたったOAサミットの記録、自分の手元にある分は全てです。
その後、慌ただしく京都に帰還⇒翌日・翌々日とあわあわ過ごしていたのでまだ十分に内容を咀嚼できた気はしないのですが。
全体を通じて(あるいはOAサミット以外の場でも)感じるのは、現在の「図書館」って枠組みはそろそろ見なおす必要があるんだろうなあ、というあたり。
・・・という書きだして続けて何か書こうと思ったんですが十分には咀嚼できていないので案の定、うまくまとまりませんでした(苦笑)


今期はSPARC Japanセミナーも最後にご紹介があったとおり、研究者、図書館、学術出版のそれぞれから人が参加し協働していく体制だそうで、まさにそういうことが重要であるとかあるいはその垣根が消えていくかもとかいうことをいずれ整理して書けたらいいなあ、とかなんとか。


さあて、次の更新はいつになることか・・・*6