輸出産業としての高等教育/「大学図書館はもうお終いだ!」/「OAは商売になった」etc... 「学術コミュニケーションの動向2011年」(第13回図書館総合展参加記録その1)
毎年恒例、秋は図書館総合展の季節です!
図書館総合展とは
2011年11月9日(水)〜11日(金)の間、パシフィコ横浜にて第13回図書館総合展/学術情報オープンサミット2011が開催されます。第1回図書館総合展が1999年に開催されて以来、年に一度のペースで開催が続き、本年で13回目を迎えることとなります。
図書館総合展とは、図書館を使う人、図書館で働く人、図書館に関わる仕事をしている人達が、“図書館の今後”について考え、「新たなパートナーシップ」を築いていく場です。当日会場では、図書館にまつわる様々なフォーラムやプレゼンテーション、多様な団体によるポスターセッション、そして企業による最新の技術や動向が伺えるブース出展など、様々な企画が行われます。
このサイトでは、メニューおよびサイドバーの「出展情報」から出展団体、開催フォーラムの詳細をさがすことができます。また、新着情報、事務局だより、L1-グランプリなどのブログコーナーにも、第13回図書館総合展の新着情報が掲載されます。ぜひご覧下さい。
図書館関係企業、図書館職員の皆様はもちろんのこと、学生や一般の方々のご参加を心よりお待ち申し上げております。
年に一度の図書館業界最大のイベント、図書館総合展。
今年も面白そうなイベントが目白押し・・・ということでmin2-flyは3日ともフル参加しています。
昨年はちょっと更新ペースが落ち気味でしたが(苦笑)、今年はできるだけ即日更新を目指していこうかと。
べ、別に公式で記録作成&アップサービスが開始されたから対抗しよう、なんて考えているわけじゃないんだからね!
などというツンデレはさておき、初日の午前のフォーラムはあの土屋俊先生がまるまる90分しゃべり倒す、例年恒例のフォーラム、「学術コミュニケーションの動向2011年」に行ってきました!
- 演目: 学術コミュニケーションの動向2011年
- 日時: 2011/11/09(水) 10:30 - 12:00
- 会場:第8会場(展示会場内)
- 講師: 土屋 俊
- 講師所属: 大学評価・学位授与機構
- 主催者(団体): 図書館総合展運営委員会
- フォーラム番号: 9-8-1
タイトルがそのものずばり、今年から大学評価・学位授与機構に移られた土屋俊先生が、2011年の学術コミュニケーションをめぐる動向の中で気になったもの等についてひたすら紹介される、というフォーラムです。
実はこのフォーラム、恒例なのですが僕は今年が初めての参加・・・ということでどんなものなのかどきどきしていたのですが、総合展の最初の時間にふさわしい目が覚めるような刺激的なフォーラムでしたw
以下、例によって当日のメモです。
あくまでmin2-flyが聞き取れた/書き取れた/理解できた範囲のメモとなっており、土屋先生の独特の言い回しやニュアンスをまったく反映できていない危険性があります。
ご利用の際はその点、ご了解いただきますようお願いします。
誤字脱字・誤りなど、お気づきの点があればご指摘いただければ大変助かります。
ということで早速以下、今年の図書館総合展開幕フォーラム(のうちの1つ)の記録ですっ。
「学術コミュニケーションの動向2011年」(土屋俊先生、大学評価・学位授与機構)
はじめに
- 所属が今年の4月から変わった。
- 最近、講演はキーワードを言えばあとは皆さん、検索して調べてくれることに気づいた。
- でも大学評価・学位授与機構は調べてもすぐにはわからないので説明すると・・・
主な話題:
- 2011年を振り返るとなると・・・3月前半と3月以降では違う世界なのでこの名前は安易かも知れないが・・・
- もう1つ・・・デジタルコミュニケーション
- 出版の状況・・・基本的にはOA(Open Access)が商売として扱われるようになったことが画期的な変化
- OAが気高い理念なのは過去の話し。あれは金儲けの手段
- 大学図書館について・・・「もうお終いだ!」がはっきりしてきた
- 典型例:ジョンズ・ホプキンス大学(米国のトップ大学、年間学費5万ドルくらい)のようなお金のあるところですら、医学図書館を閉じた。そういう時代
- もう図書館は止め、の時代
- 蔵書構築の観念がもういらない、というのはほぼ自明。その紹介
- 「この次はもう図書館総合展はいらない?」
- 所蔵カタログの概念もなくなるので、検索は何かもう一回考えなおさないといけない時代
- もっと恐ろしいことに・・・図書館を代表してくれるはずのコンソーシアムへの不信感
- 出版社だけでなく図書館、大学も不信感を持つようになった?
- 露骨な/刺激的な表現は使っているが、けっこう実態に近い
- 残るラーニング・コモンズの発展型についての話は午後のフォーラムに任せる
- はっきりしていること・・・図書館についても重要だが、著者を除く供給側と図書館の問題共有が起こり始めている
- そこでもっと建設的な議論をしなければいけないのではないか、というのが結論
ここで1つネタ提供:
- これでもう話すことは全てあとは質疑でもいいのだが、質疑のためにもネタを提供する
-
- これからどうなるか楽しみ。日本の電機会社系のe-readerはいつまでたってもコンテンツプラットフォームができてこない
-
- この話だけは10分間時間を削ってでも紹介したかった
- 話を戻して・・・
世界の高等教育
- 日本の高等教育の資料探索の困難の話
- 大学評価・学位授与機構にあまり資料がない
- 文科省の資料は1990年代以前は電子化されていない
- 旧科学技術庁系は昭和30年代から資料が電子的にある
- 海外を調べるほうが楽だ!・・・世界のことを調べる
- もはや「高等」(higher)教育ではない
- 進学率の上昇
- 日本・・・大学・短大・専門学校・高専あわせて75%以上。ほとんどの人は高卒後、上級学校に行く
- 上級学校を総称して高等教育と呼ぶならば、4分の3以上は高等教育に進む。これは先進国共通。韓国にいたっては100%
- 日本・・・大学・短大・専門学校・高専あわせて75%以上。ほとんどの人は高卒後、上級学校に行く
- ちょっとでも勉強する気の残っている人はほとんど高等教育に進む。高等というよりは第三次教育。初等、中等ときたら「上等」?
- 「higher」の時代は終わった、と認識せざるをえない
- ほとんどの人が進学するのだから、できない人がいるのも当然。そういう人をどう教育するかが課題で、どう排除するか考える状況ではない
- これは大学で働いている人はみんな考えること
- 大学コミュニティ全体としてどう教育を行うか
- 雇用の状況は縮小している
- 国内でできの良い人からとってしまうと、できの悪い人は国内で就職できない
- そうなると、できの良い人は海外に出ていかないとできの悪い人の雇用が確保できない
- できる人が国内で職を得るのは「犯罪的」? いずれそう言われるようになるかも
- 進学率の上昇
- 一方で世界全体として、供給力が各国の国内需要を上回りつつある
- 現実の日本の場合は?
- こういう状況の中で、日本はどうなのか? 不安
- 一般的な問題としての先進国の財政状況の不安
- イギリス・・・2012年に改革
- 高等教育は産業関連部門の下に
- 学費上限が3,000ポンド⇒9,000ポンドに。日本の私立大学の平均程度
- ほとんどの大学がそれで8,000-9,000ポンドにしたが、「払えない」とデモに
- 払えないわけではないが、奨学金と言う名の借金をさせる
- 借金は返せないといけないので、各大学・学科は卒業後の稼ぎの目安等もサイト等に出さないといけなくなった
- 英国の高等教育は雇用に直結する、というはっきりとした国民認識
- 「そんなんじゃいけない」というので、全部私費で政府助成を受けない私立学校建学の試みも
- 今後、そういうものが増える?
- しかし全体としては「大学を出たら雇用」
- 国内は高失業率。卒業したら、外で雇用を得ないといけない。東欧など
- しかしそれらの国にも大学はある。であれば・・・東南アジアがヨーロッパが攻めるターゲット。根拠はないが
- 日本もそこが狙いになる。東南アジアでヨーロッパと闘うことに。山田長政? 今の高等教育から考えると不安
- アメリカ
- 日本は今みたいな「皆でがんばろう」でいいのか?
- 一方で科学技術への投資は全体としては横ばい:
- 教育の原資がまずいので途上国への輸出で賄おうとしているのに対し、科学技術投資は各国で維持できている
- 要するに:
-
- 国際的に「就職とかでなく勉強しろ」とは言ってられない状況
- 「雇用と結びついた高等教育」
- 多国間調整に長けたヨーロッパがアジアに出てくるとなると、日本はかなり苦戦することになる?
- 国際的に「就職とかでなく勉強しろ」とは言ってられない状況
- 日本の高等教育はかなり危機にひんしている
- 話を変えて・・・
SNS
- 世界中で同じ技術が使われている
- web2.0がどうなったかは興味深いが、ソーシャルネットワークサービスが自然なものになったのは間違いない
- 一方でメーリングリスト・マガジンはまだ生きている
- 黙っていてニュースが入ってくる仕組み。TVをつけるとニュースが入ってくる仕組みを作るのがインターネットは難しい
- 救世主と思ったRSS。なのにどこ行った?
- ポッドキャスティングで世界が変わるかと思ったが、忘れられてきている
- プッシュする仕組みがインターネットでは難しい
- でも売り手はプッシュの仕組みが欲しい。そこで便利なのがSNS? そう考えと売る側が積極的なのもわかる
- ほとんどすべてのSNSは「ものを売るための仕組み」?
- 出版社にとっては使い物になる。「これを買った人はこれも〜」のようなサービスモデルを作れる
- 図書館はものを買うしか能がない。果たしてこういうものを使いこなせるか?
- サービスを売るったってただで売ってるんだし、顧客を呼び込めるかは・・・ものを売るモデルが図書館で通じるはずがないので、どこまで通じるかは興味深い
- でも2011年を振り返ってもっとも重要なトレンドはこれ(SNS)、と言わざるを得ない
出版サイドの大きな変化・・・話す気はなくしつつあるのだが・・・
- Elsevierのセッションが明日あって、そこで「未来の論文」等の広報はあるらしい
- 去年、一昨年に重要性をお伝えしたこと。いよいよ本格展開?
- 機関リポジトリでPDF集めをやっている人には脅威。プラットフォームなしでは論文が生きていけないようにする、論文をプラットフォーム漬けにする
- プラットフォームから離れられないようにしてしまう。
- 「SciVerseがなければ生きていけない」科学者が増えれば、キャンセルされない。非人道的な行為(笑) 言い方が悪い・・・「賢さ」
---"collexis"で探すと出てくる*2
OAの商業化
- もはやOAは理念ではない。単なる商売の道具
- アイディアを考えた図書館業界者、Harnadは偉い・・・「経済活動の発展につながったから」
- これ以上、購読を増やす/雑誌を創刊して図書館に売るのは無理だ、という判断は正しい
- そこで反発を買わないようにしたい/掲載料なら図書館じゃないところから出るから反発がない、そこで商売しよう
- 掲載料で購読で取れない分の売上を取ればいい
- しかし今の有料誌のOAかやHybridは面倒くさいし大変
- SpringerとMax Planck等でやろうとしたができなかった
- 新規創刊でやろう。新規創刊しても図書館に売らなければ図書館は文句言わない
- 掲載しない分にかかる査読経費は?・・・Nature Communicationsでまずアプローチ、そのあとScientific reportsを受け皿にする
- PLoSも大赤字であったのを、有名雑誌の査読から漏れたものをPLoS ONEに載せるモデルで途端に掲載料収入が約2倍(!)
- 雪崩を打ってこのモデルへ・・・Springer、Wiley、Sage(パートナーだったHindawiの中で使える雑誌だけ取ってパートナーシップを切った!)
- 学会系も似たようなことをする。論文をrejectionできるような雑誌を持っているところは、rejectしたものの品質保証ができるので、掲載料を払うと載せられる雑誌を作ると濡れ手に粟の凄く良いモデル。図書館に、どころか誰にも売らなくてもいいモデル。掲載料が払えなくなったらやめたらいい(!)
- PLoS ONEのように全分野を包括すればさらに・・・ところでPLoS ONEは定期刊行物か?⇒日刊の学術雑誌だ!
- そうなると投稿増減とかどの分野が強いとかが後からじゃないとわからない
- なんとも素晴らしい展開?
- 金があると思えば出版社は寄ってくる? ありのようなもの
- しかしすべての雑誌で可能なわけではない。rejectされても誇りに思われるような雑誌がないとできない
- 限られた雑誌のあるところしかできない
- 大きいところではそれなりのことができる、という仕組み
- 一方でWellcome Trust等は自分でも雑誌をつくろうとしている
- 助成を出したところが「うちに載せろ」と言い出したら上のモデルは生き残れるか?
- まあ掲載料が入らなくなったらやめて、販売に戻ればいい
- 図書館はアイディアを盗まれた。これからものすごくやりにくくなる?
- OA雑誌は図書館を通過しないだけでなく、図書館ブランドとしても使えない。ブランド価値を高めることにも使えない
- 助成を出したところが「うちに載せろ」と言い出したら上のモデルは生き残れるか?
大学図書館の苦しさ:
- ジョンズ・ホプキンスのことだけ紹介する・・・Welch Medical Libraryが利用者の入館禁止に
- 2011.12.31から
- 理由:利用の95%が電子的利用になった。図書館に来ない。わずかの人のために開ける電気代・光熱水費が省ける
- 図書館員は?:「あなたのオフィス等、研究・教育の現場で一緒に仕事します」
- 雇用は一切切られていない。
- ブランチ・サービスポイントは残して、そこを拠点に仕事をする、ということに
- これは日本の医学図書館も近くなってきている?
- 電子サービスを入れるためには図書館の建物をやめる
- 資料を購入するためにはもう「図書館」であることをやめればいい?
- 雇用も維持できる。雇用、資料、図書館で「図書館」をやめたのがジョンズ・ホプキンス
ここでビブリオバトルのために記録を停止しました。時間ギリギリまで面白かったので残念!
最っ高に面白いところだったのですが、お昼休みの時間のビブリオバトルに参加するために泣く泣く途中退出しました・・・(泣)
輸出産業としての高等教育、という観点もさることながら、「OAはもはや商売になった」というのは土屋先生に夏前にお会いした頃からずっとおっしゃっていて、今回あらためて公の場でのお話を図書館の方はどうお考えになるのかなあ、と興味深く拝聴しました。
実際、PLoS ONEによってPLoSシリーズはいっきに黒字化、他の商業出版社も追従・・・となるとこれはなかなか、過去にPLoS ONEを「ゴミ捨て場」と揶揄したNatureの変わり身など実に興味深いのですが、ビジネスとして儲かる限り取り組む態度はさすがだなあ、とか思ったりもします。
このあたりは明日のDRFのフォーラム(DRF全国ワークショップ:DRF8 【第3部】 | 第13回 図書館総合展)でも取り上げられるはずなので、興味がおありの方は是非是非そちらもご来場いただければ、とかなんとか。
ちなみに泣く泣く途中退出して参加させていただいてきたランチタイム企画、知的書評合戦ビブリオバトル in 図書館総合展ですが。
幸いにして会場の皆さまのご支持をいただけまして、チャンプ本の栄誉に預かることができましたm(_ _)m
ご来場の皆さん、参加者の皆さん、ありがとうございました!
ちなみに自分が紹介したのはピアス・バトラーの『図書館学序説』です。
- 作者: ピアス・バトラー,藤野幸雄
- 出版社/メーカー: 日本図書館協会
- 発売日: 1978/04
- メディア: 単行本
- クリック: 11回
- この商品を含むブログを見る
書影が出ないことがいろいろ象徴していますが、現在絶賛、絶版中です(苦笑)
会場でもいいましたが、今もって色褪せない一冊ですので、ぜひぜひ、再販の健闘、あるいは電子書籍化の検討をいただければとかなんとか!>出版者各位
そんなわけでビブリオバトル参加後の体力回復のためにフォーラムは1回休み・・・
今日はその後、引き続き第8会場の午後2時限目のフォーラムに行ってきました。
そちらの記録はまた後ほどっ。
*1:ちなみに個別に見ると興味深い・・・短期大学生数減を大学院生増が補うようなグラフになっている
*2:2011-11-11 8:40 エルゼビア・ジャパンの高橋さんから、collexisはArticle of the futureとは関係ない、とのご指摘をいただき削除。ご指摘ありがとうございましたm(_ _)m ちなみにcollexisは「研究者プロファイル、研究者ネットワークのシステムを開発していた会社で、エルゼビアが買収してからは、SciVal Expertsという製品になっています」とのことです・・・なるほどScival Expertsならば自分も見たことがありました。ジョンズ・ホプキンス大学でやっている例はこちら:http://www.experts.scival.com/jhu/