かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

 電子書籍についての大学教員、出版社、そして図書館員の言い分が交差する・・・「学術コミュニケーションのなかのeBook」(第13回図書館総合展参加記録その2)

図書館総合展記録シリーズ、1日目その2は引き続き第8会場、土屋先生が司会の、「学術コミュニケーションのなかのeBook」です。

  • 演目: 学術コミュニケーションのなかのeBook
  • 日時: 2011/11/09(水) 15:30 - 17:00
  • 会場: 第8会場(展示会場内)
  • 講師: 土屋 俊
  • 講師所属: 大学評価・学位授与機構
  • 主催者(団体): 図書館総合展運営委員会
  • フォーラム番号: 9-8-3


このフォーラムでは司会の土屋先生のほか、学生生活や図書館長等の要職を歴任された大学医学部の先生、医学系学術出版社の方、そして大学出版部の方、という3人のパネリストをお迎えして、学術コミュニケーションにおけるeBookについてざっくばらんに語り合う、という趣旨でした。
会場の図書館サイドの方々との意見とも相俟ってなかなか興味深いフォーラムで、自分も今までにない気づきを得られました。


では早速以下、例によって当日のメモです。
あくまでmin2-flyが聞き取れた/書き取れた/理解できた範囲のメモとなっております。
ご利用の際はその点、ご了解いただきますようお願いします。
誤字脱字・誤りなど、お気づきの点があればご指摘いただければ大変助かります。


司会:土屋俊先生(大学評価・学位授与機構
パネリスト:

趣旨説明(土屋先生)

    • まずパネリストの紹介・・・
      • 山田先生:教員であると同時に図書館について知っている。日本のeBookについても考えがある。特に医学部まわりの資料・文献の使い方を前提に、日本でeBookをどう根付かせるか述べていただく
      • 金原さん:医学書院は医学の本を出す、提供側。山田先生とミスマッチがあると将来がないので、できればお2人だけでも意見を今日、一致させて欲しい。
      • 橋元さん:学術書全般について、商業出版ではないものの、多くの本を出し伝統があり信用されている出版社に勤められている橋元さんに学術書全般についてお話いただきたい
    • 皆さんのご意見をできるだけ聞きたい:
      • 会場は図書館関係の方が多い。図書館関係の方が出版関係を吊るし上げる結果になるのは仕方ない、と思っている
      • どういう風にすればみんなが使えるような環境になるのか。電子化して悪化したら最悪。最低限、現状維持。できれば飛躍したい。できるだけ自由な議論ができる場所にしたい
  • さまざまなeBookについて・・・配布資料を見つつ説明
    • 大学教科書
    • 実験手順書
    • 辞書・・・今までのような電子辞書は生きていけるのか?
    • モノグラフ
    • 総説論文集
    • 専門論文集
    • 校訂本・原典資料・図録・・・せっかく電子化されるなら原典に近づいて見られるが、それをどう教育に生かせるか
    • いわゆる入門書、概説書・・・便利な入門書と思っていると、新書はすぐに買えなくなる。どうするか?
    • ビジネスモデルはまだ模索中
      • 解答は出せないまでも手がかりを出版社の方に持って行って欲しい

「医学部教員から見たeBookへの期待」(山田先生)

  • 医学領域はオンライン化が進んでいる
    • 「本」に限ると・・・定番の教科書というものがある。国際的に定番のもの
      • 学部学生だけでなく大学院生も使うレベル
    • 電子版を契約すると、教員、院生、医師は使うが、学部学生は使わない
  • 医学生の現状と問題点:
    • 入試ランクが高いのでエリートが多いと思われがちだが、定員は増えてレベルは究めて下がっている
      • キャラクターは一般の若者。冊子体、本は読まない。図を見たり語句を追いかけるだけで文章を読もうとしない
      • 本を買わない。買う場合は問題集・解説か、めちゃめちゃ簡便な本だけ
      • 成書(立派な教科書)の存在を知らない学生も多い
      • 図書館に置いておいても見てくれない
    • 教員はパワーポイント等の教材を使う
      • それらの資料に傾いて本を読まない
      • 教育の進め方にも問題がある?
  • 出版社の実情と問題点:
    • 医学書は販売冊数が少ない
      • それが値段が高い理由の一因
      • 学生はますます買わない! 値段は山田先生が学生の頃と変わらないし、可処分所得は今の学生の方が多いはずなのに服やケータイに使って買わない
    • ビジネスとしてやっていけるのか?
      • 買っているのはほとんど図書館じゃないか?
      • だとすると、図書館は今予算削減にさらされているので・・・どんどん先細る
    • 実はオンライン・電子化には医学領域的にいい側面があるのだが・・・
      • そのビジネスに気付いていない?
      • シミュレーション機器の会社では年に数台しか売れない、使われていない機器でもビジネスとしてやっている。それに近くなってない?
  • 医学書は電子化に向いている
    • 検索型の読み方をする場合が多い
    • 医学部生に本を読ませたい
    • 医学生はPCはよく利用する。ノートPC所持が義務な場合もある。iPadiPodもよく活用されている
    • 特殊環境(水濡れ、放射能、感染の危険がある場所、臨床現場など)での利用・・・図書館資料を出せない
      • 電子的に配信できると便利!
    • 山田先生自身、iPadを持って色々入れている
      • 本を何冊も持つより極めて軽い
    • 自己検索型の学習の中でeBookが出てくれば、自然といきつくはず
      • 需要が掘り起こせるのでは
      • 医学部は全国で80くらいしかないが、医療系の図書館・図書室まで見こめばたくさん伸びうる
      • 医療系の専門学校は巨大化している。全国に分校があったりする。そういうところは電子化に向いている
  • ビジネスモデルとなりうるか?
    • 今の図書館の負担以上になるとやっていけないだろう
    • 一般の方がインターネットで自分の病気を調べるとき等にeBookを知ると、案外買うのではないか?
      • オンライン型のほか、個人購入によるダウンロードもありうるのでは?
      • 教員も自炊をやめてダウンロードするかも
    • 教育方法も少し変える必要があるが、100人いれば自分用に買いたい学生が10人はいる。存在が知られれば売れる。案外ビジネスになるのでは?
  • こんなものがeBookに向いている:
    • 教科書類。医学書院の『標準xxx学』シリーズなどのほか、単体の教科書
      • 定番教科書の和訳も
    • 問題集等はeBook化しないでほしい、和文の専門書も研究者が手元に置いて読むのであまり必要ではない?

学術書eBookの推進のために」(金原さん)

  • まず医学書院の紹介
    • 1944年に本郷で開業
    • 社員240名、売上約120億円
    • 事業内容:医学・看護と関連領域の書籍・雑誌・電子媒体の出版
      • 書籍は年に220点の新刊を発行
      • 電子媒体はずっと金原さんが担当
      • 人にコンテンツを渡すのではなくすべて医学書院ブランドで発行
        • 出版はそこまで責任持つべき
  • 図書館から日本語が消える?
    • ある大学図書館から・・・
      • 電子化が急速に進んでいる。もう過半数を超えている。いずれほとんど電子になる
      • しかし和文コンテンツが全くない。このまま行けば、蔵書は英文だけになる
      • 図書館から日本語が消えるが、それで日本の出版社はいいのか?
    • わたしはそれでは良くないと思う、が・・・
      • 日本の出版社の本音:「それは良かった」
      • 志よりもビジネスモデルの問題。日本の出版社は殆どが個人に向けたビジネス。出版コストを個人の購読で回収する。図書館に買われると多くの人に読まれることはできるが、目指すモデルではない。出版コストが回収できなくなる
  • 日本の出版は個人向けモデル
    • 海外:施設向け/日本:薄利多売の個人向け、なるべく多くの方に買ってもらう
    • 例えば雑誌なら・・・日本の雑誌価格は洋雑誌の2-5割程度。そもそも日本の雑誌は個人価格しかない、施設価格がない
      • 施設購入をあまり考えていない
    • 書籍も個人購入が前提。英語の3分の1程度の値段で、3倍売ることを目指す
    • 英語で世界中のマーケットに売る部数よりも日本語で狭い日本で売る部数の方が多い
      • 人口は英語話者が圧倒
      • 個人が買うから日本は部数が多い。
      • そのままやっていければよかったが・・・
  • 出版市場の衰退
    • 戦後伸び続けた市場も96年をピークに減少。現在は21年くらい前の水準
    • この傾向はどんどん続く。あと5年もすれば出版は崩壊する?
  • 医書出版教会のアンケート:
    • 70%以上の出版社がなんらかの電子化に着手している
      • 残る30%弱もやらなければいけない認識はある/準備はしている/やるつもりはある
    • 「電子化しなくていい、紙でいい」という出版社は一社もない
    • しかし中身を見ると・・・
      • ほとんどは個人向けのタブレット端末向け等の方向
      • iPhone, iPad, Android向け。1台だけに個体認証して提供する、B2C
      • DRMもがっちがち。みんなに読まれる心配はない。図書館も排除
  • 電子も個人モデル
    • 出版社はあくまで個人向けモデル
    • 個人に買ってもらって、電子の中でも「部数」の概念を継続したい。部数は編集者にとっての大事なファクター、全体の売上という認識はない。電子でもそうありたい
    • それでどうなるかと言えば・・・「難しいのではないか?」
      • 冊子体で「個人購入」と思っているものも、かなりは公費購入。科研費やその他の研究費
      • 電子でB2Cを明確化すると、公費購入しづらい。そのぶんの部数が減る
  • 施設モデルの確立が和書でも必要
    • 学術書は平たく言えば業務用。趣味や楽しみで見る人はいない、仕事で見るもの
    • 所属施設が買って当たり前。施設が買えば施設内で共有するのも当然。病院、大学、製薬会社で買うのが本筋
    • そこで問題になるのは・・・価格
      • 出版は売上を維持しないと電子化の意味が無い。せめて同じだけ維持したい
      • 施設提供で減る分があるなら加算せざるを得ない
      • ビッグ・ディールで提供したら個人購入の数倍くらい。しかし図書館の和書の購入予算が数倍になるのは無理
      • しかし施設全体で見れば、薄利多売でいっぱい買っている、同じ大学で40冊も買っているような重複がかなり減らせる。その分の予算は施設全体ではあるはず
        • 予算を集中化すれば成立する話
  • その先に待つもの・・・デスクトップ図書館の実現
    • 誰でも/いつでも/どこでも/どれでも利用できる
      • 同時アクセス制限/貸出・返却制限のような紙のフリもいらない
    • したいだけ勉強できる世界
      • 机の上で図書館と同じ環境がある
      • STM各社が実現しているモデルを、和書も歴史・慣習を乗り越えて提供していくべきではないか。していきたい。

「大学出版部の電子書籍への取り組み」(橋元さん)

自己紹介:日本の大学出版部の特色
  • 日本の大学出版
    • 1872年・・・日本初の大学出版は慶應福沢諭吉によって設立される
    • 国立系はs年後、東京大学出版会が初めて
    • 現在は60大学くらいは出版部を持っている。うち、出版社として活動しているのが32大学くらい
      • 最大の東大・慶應でも従業員40名程度
      • 全部あわせても年間で750点くらいの出版。書籍刊行点数の1%くらい。アメリカは9,000点で15%くらいを占める
  • 大学出版部は商業? 民間? 大学?
    • 株式会社・財団法人形式・・・独立採算。一般の出版社と同じ
    • 大学の一部局・・・予算消化型と独立採算があるが、基本は商品として投入して原価を回収するのが好ましい、と考えられている
      • 独立採算を志向しつつ、理念は大学と結びつく
  • 大学出版のマーケティング
    • 教科書・・・一番安定している
    • 学術書・・・出版部のミッション。成果の発表
    • 教養書・・・一般向けの啓蒙活動
  • 流通形態:
    • 日本の伝統的モデルに依存する
問題意識:教育・学術現場の変化への対応
  • 日本の出版産業の推移:
    • 1996年をピークに2010年ではピーク時の70%に
    • ただしトリックもある。これは取次の数字。
    • 伝統的なモデルの相対的な地位の低下ははっきりしている
      • その中で、出版社や書店はどこをビジネスのモデルに盛り込めるか
      • 衰退=読書離れではない
  • 図書館と大学の変化
  • 大学出版部にとって図書館の存在は・・・?
    • 金原さんと逆の話だが、学術書において図書館需要は大きな顧客
      • 東大出版会学術書、5,000円で1,500部発行したら、少なくとも100館、多くて300館は購入している。公共でも50-100部は購入している
        • 最低でも10%は図書館、多いと30%くらいは図書館による購入
      • 大きなマーケットになっている
現状報告:デジタル化の話
  • 日本の出版社はデジタル化の展開をし始めているが、儲かっているところはないという話ばかり
    • 投資だけがかかって利益が出ない
    • 紙からただ電子にいってもコストは回収できない
      • 安定して流通できればひとつのモデルとして成功する?
  • 教科書・・・学生が購入している
    • 学生に電子的に配信する・・・図書館・大学を通してやる、B2B2Cモデルの可能性?
    • 教科書コースパック・・・授業にあったコンテンツを別のコンテンツから付きうイノス
  • 電子書籍の課題:
    • いろいろ実験してわかった・・・非常に困難
    • 理由その1:著作権。過去の書目を電子化するには著作権者の許諾がいる
    • 著者はまだいい。図版の権利者を探すのは困難。例えばお寺の写真が含まれていた場合などに撮影者の許諾がいる
      • 過去分には膨大なコストが掛かる
    • 理由その2:マーケティングモデルが確立していない
      • 価格、製品、宣伝、流通・・・
      • 委託販売制度・・・書店の店頭がプロモーションとして本の宣伝をしてくれる/電子書籍はそれがほとんどない
      • 流通・・・プラットフォームがない。ほとんどが中小零細。
最後に
  • ようやく大学出版部も電子化に向けてなにかやろう、という気温
    • 電子化のオーサリングは難しくない。自炊でも十分綺麗なものができる
    • しかし商売にはならない
  • 「初期の印刷業者が、ただやたらに印刷しまくっても商売にならないことを覚ったとき、出版社が誕生した」(箕輪成男、2011)

パネルディスカッション

  • 土屋先生:まず何か質問があれば。どなたからから、どなたへでも。パネル同士でもかまいませんので。
  • 土屋先生:なければ。金原さんと橋元さんの一致しない点について。医学書院は図書館の購入が取るに足らないが大学出版には大事、というのは分野が違うから?
  • 橋元さん:刊行部数と図書館の数の関係。東大出版は1,500の刊行なら、大学図書館は1,000ある。でも刊行部数10,000部くらいあると、そのときも図書館は200-300の購入。そうなると全体の部数の中でのシェアが、少部数では大きくても刊行部数の多い文芸だとそんなにシェアがない。無料貸本屋論争も典型的にそう。文芸書出版社で10-20万部するところには公共図書館が3,000冊程度買ってもシェアが少ない。そのシェアが図書館が顧客になるか、それとも少ないシェアが全体を阻害すると考えるかの違い。
  • 土屋先生:ちなみに今の問題、調べてみたら数字上はなんの影響もなかった。それで解決かと思ったら依然として著者はぶつぶつ言う。で、金原さんは今の返しでいい?
  • 金原さん:医学の場合は医学大学は80しかないので、全部買っても80部しか売れない。普通、出版物を企画する際に医学書院は3,000-5,000で立てるので、非常に少ない割合になる。そこが大きなマーケットという認識もないし、なにか企画することもない。
  • 土屋先生:しかし山田先生の話を考えるとそんな小さくならないような・・・
  • 金原さん:教科書は別。教科書は学生が全部買う前提で考えている。学生が買わなくなってきた中で、図書館が複本を買っていることから、先程よりも割合は高い。それでも、各図書館10冊買っても800冊。やっぱりそんなに多くはない。
  • 橋元さん:もう1つは貸出。図書館において個人ユーザの購入が阻害されるか。学術書ならないんじゃないか?
  • 山田先生:医学部では逆に増える。学生は本の存在を知らない。存在を知ることが重要。
  • 土屋先生:授業で紹介しないの?
  • 山田先生:段階がある。授業で購入を義務だ、と言っても、120人の学生のうち、大学で買うのが30人、よその書店で買う人も20人いるか、とう状況。
  • 金原さん:確かに図書館においてもらうことで売れる本もあるが、どうも編集・出版はそこで紹介されなくても個人が買うのでは、と思ってしまっている。でもおっしゃるとおりだと思う。あることで売れることもあると思う。
  • フロア:材料研究所の図書館員。山田先生のお話に同意していた。研究室に入ったら手を洗って図書館になんて行けない、というのが似ている。金原さんがおっしゃっていた、施設価格がない、というのは、機関購読料の設定がないということ? (金原さん:そう)。そうだとすると、洋書は海外出版社が施設価格を設定しているし、価格設定も上手い。そういう状況を日本の出版社はどう見ている?
  • 金原さん:日本の出版社は羨ましく見ている。なぜできないかと言えば、日本の出版の特殊性。特に書店。日本の書店は雑誌も置く。書籍・雑誌の区別がないので、書店の店頭で図書館か個人かなんて区別ができない。そこで機関ごとに価格を設定できない。
  • フロア:中身を見ず規模でやればいいのでは?
  • 金原さん:そうやりたいが、書店の慣習の中でできない。
  • 土屋先生:伝統的に図書館は「同じものになんで値段が違うのか」と言ってきた。賢く安くやったら、結果的に首を締めた?
  • フロア:橋元さんに。図書館をショーケースとして使って、そこを起点に個人販売や学生への販売、iPadアプリへの販売などを目指すことはできない?
  • 橋元さん:おっしゃるとおり。B2B2Cモデル、図書館をBとして、ビジネスからビジネス、その先に個人、というモデルが電子でできればいい。それをやらないと広がらない。電子書籍をやっても紙の本が電子に変わるだけだと予算も一緒で、出版社は二重投資になる。そうでなくビジネスをやってパイが広がる絵がないと出版社も動けない。
  • フロア:図書館、研究者が出版・流通の形態を如何に知らないか、日本と海外の形態が全く違うことをいかに利用者が勉強して来なかったかを最近、実感している。そこで橋元さんに。海外では出版社が宣伝も営業もやっているが、日本は取次があって、取次から書店に行く。宣伝・販売する、営業面について出版社は考えて来なかったんじゃないか? その流れのままでいくら電子化しようとしても絶対無理ではないか。「取次の問題がある」「自分たちはできない」という、取次が潰れると全部終わるからできないともいう。ビジネスモデルを作るときにプラットフォームにお金がかかるとも言った。そりゃそれぞれがプラットフォームを作ったらお金がかかる。しかし共通のプラットフォームができたらそこは取次的なものになる。それがあったら出版社はのるの?
  • 金原さん:出版社は昔から机と電話があればいい、と言われてきた。流通は印刷や取次に任せて、企画立てて原稿を集めるだけでできた。そのかわりに日本の出版社は90%近くが東京にある。ただ、実は取次は出版社が作った。その昔、出版社が共同出資して作った。流通を作ったことで書籍の流通がされてきたが、電子はまったく違う流通にあるので、昔トーハン/日販を作ったのと同じように電子の取次を作る必要がある。全体の他に専門分野ごとにも作る必要があるかも知れない。それは、橋元さんがおっしゃるように配信の仕組みだけの付加よりも、営業上の問題、ユーザの囲い込みの問題かも知れない。それを作ればAmazonに・・・いいのか悪いのかわからないが・・・コントロールされない、自分たちでコントロールできる。みんな乗ると思う。
  • 土屋先生:でもそれでは構造が変わっていない。雑誌・一般書籍流通の上に学術書が乗ってなんとかなってきた。そういうものができてその上に学術書も乗れると言うことかと思うが、なんというか・・・そこのところを今はともかく、学術関係という極めて利己的な、学問さえ残れば人類が滅びてもいい観点から言えば、そんな風に一般書への寄生でいいのか。印税も、学術書は放棄させればいいじゃないか。5,000円で150部の本を15人で分担執筆したら1人5,000円。それだったら放棄した方がいい、その名前が載ってたらそっちの方が面白い。それから古いものは新しいものをやって余裕ができてからやればいい、新しいものだけやっていけば問題ないんじゃないか。古いものができないので新しいのができない、というのはナンセンス。
  • 橋元さん:先生方が納得するなら印税についてはおっしゃるとおり。ただ厄介なのは、紙の本は重版未定でお付き合いが終わるが、電子は延々と売り続けることになる。売れるものならいいが、これが1年に1とか2年に1とかだと、印税何百円のためにずっと著作権管理がいる。先生が亡くなったあとも遺族を探して・・・
  • 土屋先生:それは著作権譲渡にすればいい。
  • 山田先生:解剖学では顕微鏡写真を中高の教科書に、とかいう話も来る。手数料、ということで1万円くらいはくれる。教員は最近、苦しいので10-20万円でもすがりつきたいのかも知れないが、教科書は名前が残るが、訳本だと印税率が違うはずで、ごくわずかになる。もう新しいスタイルに変えちゃったら?
  • 金原さん:大きな声では言いたくないが、当社だけでなく医学の出版社は著作権譲渡契約に変えている。そうしないと電子出版ができない。電子データは全部蓄積して、出版契約も譲渡契約で結んでいる。ただ、それは時限付きで、1年で見直す契約。困るといわれれば考えるが、だいたいの先生はそれでOKしている。
  • 土屋先生:皆さん、外国雑誌に出すときは譲渡契約しているので気にならないが、それをやったので海外出版社は不当に強くなった。あれはいけない、というOA論者はいない? ・・・いない? じゃあ譲渡契約で。で、バックリストは忘れよう。
  • 橋元さん:バックリストは価値があると言う人が多いが、逆に図書館の皆さんはどうなのか?
  • 土屋先生:図書館にあるならあえてデジタル化しなくていいじゃないか。なんでするのかわからない。図書館員は来てもらえば嬉しいんじゃないのか。
  • フロア:大学図書館の端くれなんだが、話がよく見えない。どういう話?
  • 土屋先生:すでに出ている本の遡及的電子化。そんなのコストかかるからやめよう、という話
  • フロア:私はやる意味はあると思う。重版未定のようなものはリポジトリ等で出せるように大学図書館とうまく協定できたらいいんじゃないか。
  • 土屋先生:出版社がやるからいけないんで、持ってる図書館がやればいいじゃないか、と。
  • 金原さん:ニーズがあるなら商品にしたい。
  • 土屋先生:それはずるいんじゃない? ニーズがあるなら売りたいがあるかないかわからないからしたくない、というのはおかしいんじゃない?
  • フロア:重版未定のものは?
  • 土屋先生:今はもう版もない、電子データくらいしかないのに。
  • フロア:ついでに確かめたい。金原さんへ。医学部が全国に80校というが、病院は何千もあるはずで、その重要は? 病院ではなく医師個人として見てる?
  • 金原さん:病院の中に図書室があるものは多くの病院のうちの一部。どちらかと言えば、病院の中に勤めている個々の先生方、という認識。病院図書室もあるが、かなりの量あるが、ある程度の規模以下のものは個々の先生方に買っていただいている。
  • 土屋先生:病院図書館の実態がわからない、という最大の問題もある。全国の病院図書館団体はコミュニケーションしようとしない、ひどい人たち。そのくせ本人たちは善人面する。ただ、問題は病院のお金の出元は学術ではない。日本の厚生労働省や県などがやるわけだが、そこには本を買うことが医療の一部なんて考えはないのでは。
  • 山田先生:いや、病院機能評価で図書室は見られるし重要。ただ、全国の病院で図書室があるのは少数。それでも大学よりははるかに多い。図書室が充実しているようなところは看護専門学校等を持っている。極めて零細でやっているところで、教科書類が参考書や医師の調べ物のためにあれば役立つ。そしてもう1つの問題は面積。置く場所がない。それは電子の方がずっといい。
  • 金原さん:病院図書室もとってもいい方ばかりで・・・教科書については、プロの先生方がいるので難しいが、臨床的な話、治療の情報については、 場所もない中でデータベースの購入等はずいぶんされている。大きなマーケットとしての可能性は感じている。
  • 土屋先生:最後に1つだけ。これだけ色々考えていて、プロジェクトもあって、こんなに人も集まる状況で。誰が一番悪いの?
  • 山田先生:優等生の答えだが、みんな悪い。お互いに知らない。私が図書館長しているときに機関購読と個人購読の価格差のことを教員は誰も知らなかった。あるいは学会で展示が出るときに、地元書店が出ることが多い。でも医学教育学会のような教育関係者の集まる場には出版社が全く来ない。お互いに情報を共有しようよ。
  • 金原さん:まったくそのとおり。医学出版社と図書館は情報をエンドユーザに伝達する、同じ使命があるはずなのに全く話し合いがなく全く別に動いている。これは冊子体ならそれでもいいかもだが、電子は力をあわせて実現しないといけない。これを機会に、図書館と出版社の話し合いを始めたい。
  • 土屋先生:なんかもう遅いような・・・
  • 橋元さん:目先の利益を考えるビジネスセクターが悪い。絶対、儲からない。1-2年は儲からないのがわかっている。先ほどから話題になっているが、図書館予算が決まっている中で電子化しても爆発的に売れたりしないのでそこは無理。ただ、学術出版は図書館と組めばイノベーションができるのでは、という僅かな期待を持って電子化をしている。そこで優等生的なことを言うと、出版社は図書館や大学が切実に電子化を望んでいることをまだまだ理解できていない。図書館は、出版社が電子をやるのが非常に大変なことを理解して欲しい。その溝を埋めることが契機になる。
  • 土屋先生:僕の個人的な意見としては悪いのは出版社。海外出版社は図書館から金が取れないのでOAで商売しようとしている。そのくらい、強欲であって欲しい。がんばって儲けたい気持ちが日本の出版社にあった方が良いモデルが出てくる。出版社の強欲さが足りない。


最後に土屋先生が「出版社の強欲さが足りない」とおっしゃっているのがなかなか象徴的で、会の後に大学図書館員の方ともお話ししたりしていたのですが、(金原さん、橋元さんは「それではいけない」とお気づきである、というのは大前提として)、つまるところ日本の出版社、というか編集者の皆さんはお金が儲けたいんでもなく、なんらかの情報・知識を人に伝えたいんでもなく、「本を出版したい」、「それを多くの人に『手にとって欲しい』」んだな、というのは今日のお話で強く感じました。
さらに言えばその2者のうちでもとりわけ「本を出したい」んだろうな、という気がします。
そこがお金儲けに貪欲で、研究者に必要な情報流通を常に模索し、出版文化への寄与とか聞こえてすら来ない、海外学術出版社との最大の違いかな、と。
日本の学術出版は趣味人。


でもそれって考えてみるとそうおかしい話か、という気もして。
というのも、僕はここ最近ずっと、文学系の同人誌即売会である文学フリマに買い手として参加しているのですが。
考えてみれば文学フリマで売っているものだって、あえて今、本にする必要があるのかと言われると「うーん」となるところもあって、読者数等々で考えればブログ記事とかの方がよっぽどリーチするかも知れないわけです。
それでも本にしたい、という人が東京流通センターのホールを1つ埋めるくらい集まってくる。
そういう、「本を出したい」人が喰っていけるレベルで稼げるようになると出版社になる、という感じであると考えると、一向に強欲さが出てこないのもわかるような気がします。
頭が古いとかそういう問題でなく、根本的にやりたいことがマッチしていない。
お金が欲しければ出版なんか最初からしやしない、という人たちが相当数いるとすると、それはもう溝とかそんなレベルでない、根本の断絶もあるのでは、とか・・・


もちろん、今日いらしていた方はそんなことはない、という方々だと思うのですが。
日本でも大手出版や小規模でも電子化に積極的なところはありますしね(それも実はお金云々ではなく、電子化自体に憑かれているんじゃないかとかいう危惧はさておき)。


そういう意味でも、最後の土屋先生の「もっと強欲でいい」ということ、言い換えれば「趣味とか好きだからとかでなくビジネスとして学術出版にガチで取り組むプレイヤー」の国内での登場がいるんじゃないか、というのは共感するところが大きかったです。


まあそれでエルゼビアとかNature Publishing Groupばりにタフなところに出てこられても困るわけですが(笑)