かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

大阪府有害図書指定リスト―小説も有害図書指定対象にはなりうる。府知事が指定してないだけ。


先日のエントリ(18禁じゃないのは男同士だからでも女性向けだからでもなく要件満たしてないから - かたつむりは電子図書館の夢をみるか)で、表現に注意したつもりではあったんですが若干誤った認識が広まりそうな気配があるので補足エントリを。


先日のエントリでは

全裸または半裸、あるいは陰部または陰毛を露出または強調しているか、臀部を露出または強調しているか、自慰を描写しているか、女性の排せつを描写しているか、陰部、胸部または臀部へのせっぷんまたは愛ぶの姿態がある、あるいは性交または性交を明らかに連想させる行為か、サディズムまたはマゾヒズムによる性行為か、強姦あるいは強姦を明らかに連想させる行為・強制わいせつ行為を描写した図画、写真等を掲載したページ(表紙含む)が書籍全体の5分の1又は合わせて30ページ以上を占めるもの

大阪府における有害図書であって、BL小説はその基準を満たさない(該当する図画、写真がないかそのページ数が基準に満たない)から有害図書にはならないんだ、と説明したわけですが。
それはあくまで知事が個別指定しなくても自動的に有害図書扱いされるケースの話です。
一応、上の説明でもそのさらに上まで目を向けてもらうと

つまり、知事による個別指定による有害図書を除けば、大阪における有害図書とは(書籍に限れば)、

全裸または半裸、あるいは陰部または陰毛を露出または強調しているか、臀部を露出または強調しているか、自慰を描写しているか、女性の排せつを描写しているか、陰部、胸部または臀部へのせっぷんまたは愛ぶの姿態がある、あるいは性交または性交を明らかに連想させる行為か、サディズムまたはマゾヒズムによる性行為か、強姦あるいは強姦を明らかに連想させる行為・強制わいせつ行為を描写した図画、写真等を掲載したページ(表紙含む)が書籍全体の5分の1又は合わせて30ページ以上を占めるもの


ってことで、「知事による個別指定」を除いたら、と断っています。
ちなみにその後、「小説は有害図書にならない」としている場面でも

要は小説は(知事が指定しない限り)大阪府内では18禁にならない、と。


と断りを入れています。
なんでそこに拘るかと言えば、知事が個別に指定する場合には、文字による表現を有害図書として定められることが府条例には明記されているからです。
これも前回エントリで明記していたんですが、大阪府における有害図書の基準は2つあります
上に示した基準は知事が指定しなくても勝手に有害図書になるケースの規定の要約であって、知事が指定する場合の基準はこれとは異なります。
知事が指定して有害図書とする場合の基準は以下です。

大阪府青少年健全育成条例施行規則

第4条 条例第13条第1項第1号の規則で定める基準は、次に掲げるとおりとする。
(1) 陰部、 陰毛若しくはでん部を露出しているもの(これらが露出と同程度の状態であるものを含む。)又はこれらを強調しているもので、青少年に対し卑わいな、又は扇情的な感じを与えるものであること。
(2)全裸、半裸若しくはこれらに近い状態での自慰の姿態又はこれらの状態での女性の排せつの姿態を露骨に表現するもので、青少年に対し卑わいな、又は扇情的な感じを与えるものであること。
(3)異性間若しくは同性間の性行為若しくはわいせつな行為を露骨に表現するもの又はこれらの行為を容易に連想させるもので、青少年に対し卑わいな、又は扇情的な感じを与えるものであること。
(4)変態性欲に基づく行為又は近親相かん、乱交等の背徳的な性行為を露骨に表現するものであること。
(5)ごうかんその他のりょう辱行為を表現するものであること。
(6)青少年に対し明らかに卑わいな、又は扇情的な感じを与える表現が文字又は音声によりなされているものであること。

2 条例第13条第1項第2号の規則で定める基準は、次に掲げるとおりとする。
(1)殺人、傷害若しくは暴行(動物を殺し、傷つけ、又は殴打する行為を含む。)又はこれらの行為による肉体の苦痛を残忍に、又は陰惨に表現するものであること。
(2)殺人、傷害、暴行等の暴力的な行為を賛美し、又は扇動するような表現をするものであること。

3 条例第13条第1項第3号の規則で定める基準は、次に掲げるとおりとする。
(1)殺人、傷害、暴行、窃盗その他の刑罰法令に触れる行為を行うようそそのかすような表現をするものであること。
(2)殺人、傷害、暴行、窃盗その他の刑罰法令に触れる行為(これを直接の目的とする準備行為を含む。)の方法であって、青少年が模倣するおそれがあると認められるものを詳細かつ具体的に表現するものであること。


出典(条例本文):http://www.pref.osaka.jp/koseishonen/jorei_public/jourei_kisoku.pdf(PDF注意)


ここでポイントになるのは

(6)青少年に対し明らかに卑わいな、又は扇情的な感じを与える表現が文字又は音声によりなされているものであること。

が含まれているということと、もう1つ、知事による指定の場合には該当表現が含まれるページ数等の規定はない、ということです。
つまりこっちの規定により、知事が個別に指定する場合には、文字による表現のみであり、かつその表現が含まれる箇所が該当する図書のうちの1ページにしかなくとも(あるいは1行しかなくとも!)大阪府青少年健全育成条例で言うところの「青少年の性的感情を著しく刺激し(青少年の粗暴性又は残虐性を著しく助長し/青少年の犯罪を著しく誘発するおそれがあり)、青少年の健全な成長を阻害する」ものであれば有害図書とされることもあり得ます。
ただしこれはあくまで「知事が個別に指定した場合」に有害図書となるものなので、該当しそうな内容であっても知事の個別指定や自主規制団体による規制がかかっていない場合には有害図書にはなりません。
どうなるかは知事の判断次第、ってところですね。


そんなわけで、知事が個別指定を行った場合については小説であっても有害図書として規制対象になる場合は十分に考えられます*1
じゃあなんで前回、知事による個別指定の話はあんまり真剣に取り上げなかったかと言うと、

ただし実際にはこっちの「知事が定める」指定の方は(まあ全ての書籍を全部チェックするなんてえらいコストでしょうし)そんなには数は多くなく、『http://www.pref.osaka.jp/koseishonen/jorei_public/hokatsu/hokatsu.html』の府のページを見ればわかるようにほとんど特定の雑誌に毎月出されているような感じです。

18禁じゃないのは男同士だからでも女性向けだからでもなく要件満たしてないから - かたつむりは電子図書館の夢をみるか


これに尽きます。
性的表現の包括規定や自主規制団体による規制を有害図書として採用するケースに比べ、知事が個別指定して有害図書になる例ってのは少なく、大阪府青少年健全育成条例が現在の内容で施行された平成18年2月以降、府のホームページによる告示(http://www.pref.osaka.jp/koseishonen/jorei_public/hokatsu/hokatsu.html)に基づけば図書が知事の個別指定で有害図書指定された例は一例もありません
個別指定の対象はほとんどが雑誌(279件。タイトル数ではなく号数*2)で、それ以外ではDVD5件(グランド・セフト・オートシリーズ4件、「POSTAL2」1件)、CDが1件(「POSTAL2」)あるのみです。


さらに平成18年5月から平成20年12月までの告示で有害図書指定を受けた雑誌について、タイトルごとに指定回数を集計したのが以下の表です。


表1.大阪府における個別指定有害図書一覧(DVD・CD除く)

誌名 指定回数 備考
恋愛白書パステ 24 レディコミ・女性向け
絶対恋愛Sweet 24 レディコミ・女性向け
恋愛美人if 23 レディコミ・女性向け
無敵恋愛S*girl 22 レディコミ・女性向け
恋愛天国 21 レディコミ・女性向け
恋愛熱情 ラブパッション 14 レディコミ・女性向け
恋愛kiss 13 レディコミ・女性向け
上級恋愛ミント 12 レディコミ・女性向け
Sweetプチ 12 レディコミ・女性向け
miniパラ 12 レディコミ・女性向け
恋愛楽園ピュア 11 レディコミ・女性向け
恋愛LoveMAX 11 レディコミ・女性向け
恋愛CherryPINK 9 レディコミ・女性向け
恋愛Revolution(ラブレボ 8 レディコミ・女性向け
レディースコミック・タブー 8 レディコミ・女性向け
Young Love Comic aya 8 レディコミ・女性向け
Comic Amour 8 レディコミ・女性向け
レディース・コミック[微熱] 6 レディコミ・女性向け
プチプリンセス 5 レディコミ・女性向け
Lady’s Comic Special AYA 5 レディコミ・女性向け
増刊まんがグリム童話Love&Sexy 4 レディコミ・女性向け
極上恋愛セレクション 3 レディコミ・女性向け
デラパラ 3 レディコミ・女性向け
恋愛白書ハニームーン 2 レディコミ・女性向け
最強恋愛BARI☆LOVE 2 レディコミ・女性向け
快感?H?体験 ヒミツの恋SPECIAL 2 レディコミ・女性向け
恋的伝言 1 レディコミ・女性向け
ホットヘブン関西版172号 1 風俗情報誌
プチ?ダーリン 1 レディコミ・女性向け
ちびMAX 1 レディコミ・女性向け
シティヘブン関西版1月号 1 風俗情報誌
極上恋愛セレクション 1 レディコミ・女性向け
MAN・ZOKU 関西 1 風俗情報誌


風俗情報誌が3件入っている以外はすべていわゆるレディース・コミックスで、確認できる範囲で内容を確認しましたが男女のやや過激な恋愛を扱っているものがほとんどのようです。
一応、BLが入っているかどうかも確認しましたが観測範囲内では見当たりませんでした。
もちろん隅から隅までチェックしたわけではなく表紙と出版社等の内容紹介をざっと見ただけなので中にはBLが含まれるものもあるかも知れませんが、少なくとも「半裸の男性同士が抱き合っている」というような表紙はなかったですね。
ちなみに全て要件は性的表現が引っ掛かったほうです(グランド・セフト・オートシリーズ等のDVD・CDで有害図書指定食らった方は全て「青少年の粗暴性又は残虐性を著しく助長」するとされたものです)。


で、このDVD・CDを除く有害図書指定279件は、実に33タイトルの雑誌に集中しており、しかもそのうち指定全体の6割を超える件数は指定回数上位10タイトルによって占められます。
要は、基本的には常連になっていて毎号のように有害図書指定をくらう数タイトルのレディース・コミック誌がある以外は、めったに抜かれることもない伝家の宝刀状態になっているのが現在の大阪府青少年健全育成条例における有害図書の知事による個別指定です。
有害図書」と言いながら知事による個別指定では「図書」が指定されたこともないと言う話であり・・・当然、今のところは図書として刊行された小説が有害図書指定を食らった例もありません*3
なので、知事による個別指定を含めて見た場合でもやはり堺市立図書館におけるBL小説はいずれも大阪府における「有害図書」に該当しない、と言えますし、少なくとも現在府内に現行条例下で有害図書指定をくらった小説はないものと考えられます。


結局、今のところは知事による有害図書個別指定は件数もそう多くないし一部に集中していて「図書」に出されたこともない、ってことで前回の議論では脇に置いておいたわけです。
もちろん将来的には小説等の、一般基準ではひっかからない文章による表現も個別指定される可能性はあるわけで、「小説は過激な表現があっても絶対有害図書にはならない」なんてことはありません。
っていうか知事の個別指定による有害図書の要件はかなり広めに作ってあるので、めちゃめちゃ厳格な性格の人がメディア良化委員会みたいな(最終的に知事が認定する前段階で選別を行うような)集団を組織して徹底的に取り締まったら、既存のエンターテイメントの大部分は取り締まり対象になりうるでしょうね。
「殺人、傷害、暴行等の暴力的な行為を賛美し、又は扇動するような表現をする」って取りようによってはバトルものや勧善懲悪ものだって含まれるわけだし。
厳格に適用したらBL小説にとどまらず、多くのライトノベルやミステリ、大衆小説やハーレクイン・ロマンスは18禁になっちゃいますな。


もちろん、実際にはそんなことにはならないでしょうが。
知事による個別指定が少ないと言うことは、(知事がサボっているという見方もできますが)現在の青少年健全育成条例における一般規定(指定しなくても有害図書になる場合)と自主規制の適用(認定団体による自主規制対象はそのまま有害図書となる)がそれなりに上手くいっていて知事がいちいち個別指定を発動する必要がない、ということでもあるわけで。
どうも現在の運用を見る限り、大阪府において知事による個別指定は一般指定や自主規制団体による規制の適用より条文上では前に書いてありながら、事実上は知事による個別指定こそが例外であって、一般基準や自主規制の網をもれてくるようなものを有害図書指定するためにわざと条文を広範に作ってあるんだろうな(あるいは制定時は意図してなかったけど現在そうなってるんだろうな)、って感じがします。
その「もれ」が頻繁に起こるのが自主規制等がない、あるいはうまくいっておらず(あるけれど大阪府の方針と合致していない)、かつ表現手法が一般的な有害図書(個別指定しなくてもなるケース)の基準に合致しない(男性成人向けと女性向けだと角度とか描写が違う、と言う話は実際に見てても感じます)レディコミ誌で、それ以外においては一般基準や自主規制はそこそこうまく回っているのかな、とかなんとか。
そうである限りは無闇に知事の個別指定を乱発してコストをかけて他人様の反発を招くようなことはしないだろう・・・と思いますが、ここら辺はまったくの憶測ですし、ある日突然有害図書指定が厳格化することがないとは言い切れません。
あるいは有害図書指定を拡大したい人にとってはここが一番の突破口になるとも言えます。
自分はあまり個別指定を乱発するよりは一般基準の明確化や自主規制基準の明確化など、はっきりと基準を示せる方法で政策を進めるべきだと思いますが。
個別指定の基準はいくらなんでも曖昧と言うか、主観的なところがあるし。
「いや、確かに一般基準だとそれは有害図書じゃないけど、でもこれはいくらなんでもさあ・・・」って言うようなのを指定するときにはいいかも知れませんが・・・事実上のレーベル指定っぽいところもあるからなあ。



あ、ちなみに以上全て大阪府の話です。
有害図書に関する条例は都道府県単位で決められていることが多いので、自分の自治体については自分の自治体の条例と個別指定を確認されることをおすすめします。
条例の大筋はそんなには違いませんが、例えば知事による個別指定なんかだと茨城と大阪ではグランド・セフト・オート以外ほとんどかぶっていません。

茨城の場合は個別指定対象に図書が含まれていて、しかもなんとまあ『多重人格探偵サイコ』が規制対象です。
マジかよ。
筑波大出身の作家が原作やってるコミックが県下で数少ない知事による有害図書指定とはね・・・まあ確かに暴力表現は多いが・・・あれ、ていうか普通に18歳未満に売ってないか・・・大丈夫・・・?

*1:ちなみに刑法上のわいせつ物頒布等についても、刑法第百七十五条では「わいせつな文書、図画その他の物を頒布し、販売し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役又は二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処する。」って書いてあるだけなので小説であってもわいせつ物認定されれば刑法上の罪になりかねないし、実際チャタレー事件みたいなのも起こっていたり。ま、最近はとんと文字による表現でのわいせつ物頒布等の罪に問われたケースは聞きませんが

*2:「Aという雑誌」全部を有害図書に指定することはせず、「Aという雑誌の第1号」みたいな形で一つずつ指定されている

*3:各雑誌が何がひっかかって有害図書になったかは不明です。一応、風俗情報誌以外はすべて「コミック誌」ではありますが