かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

ふだん意識しない「海外にあって日本語/日本の本・情報を求める人」に気づかせ、できることを考えたくなる本:『本棚の中のニッポン』


図書館クラスタを中心に一部ネットでも話題の本、『本棚の中のニッポン』を著者の江上さんから献本いただきました!*1


本棚の中のニッポン―海外の日本図書館と日本研究

本棚の中のニッポン―海外の日本図書館と日本研究


著者の江上敏哲さん(国際日本文化研究センター)とはこのブログをはじめてごく早い時期に、確かARGカフェでお会いして以来のお付き合い。
笠間書院のニュースサイトでこの本の情報を知ったときはびっくりしました・・・ここしばらくよくスタバで作業されているらしいことはTweet等で知っていましたが、なるほどこの本の執筆にかかわられていたのかと。
こりゃ是が非でも買わねばなー、と思っていたところにお送りいただき、ならばぜひ感想をお伝えせねば・・・とものすごい久々に「書籍感想」タグのエントリを上げた次第です。

概要紹介パート

既に読まれた方もいるかと思いますが、本書の内容は帯にある

日本人の知らない「海外の日本図書館」。
そこはどういうところで、
今、何が必要とされているのか。


海外で日本について学ぶ学生、研究者、
そのサポートをする海外の日本図書館について紹介し、
その課題やニーズに日本側からどう応え、
資料・情報を提供・発信していけばいいのかを考える本

という説明にごく端的に表されています。
また、あとがきでは

本書では、

  • 海外で日本について学ぶ学生、研究する研究者
  • そのサポートをする海外の日本図書館

について紹介し、

  • その課題やニーズに日本側からどう応え、資料・情報を提供・発信していけばよいか

ということを考えてきました(p.283)

とあり、さらに詳しくは「序」において、

より具体的には、海外の日本図書館、およびそのライブラリアンについて、

    • どのような資料があり、どのように取り扱われているか
    • 資料・情報が、図書館やwebを通してどのように流通・提供・利用されているか
    • どのような活動・サービスを行い、どのように日本研究・教育をサポートしているか
    • 互いに(あるいは日本と)どのように連携・協力しあっているか
    • どのような課題・問題点を抱えているか

を紹介します。
 そして、それらを通して、

    • 日本資料・日本情報に対し、海外の日本研究者・学生などのユーザや、図書館・ライブラリアンは、どのようなニーズを持っているか
    • 日本側ではそのニーズをどのように把握し、どのように応えればよいか
    • 日本資料・日本情報を、日本から海外へ効率的・効果的に提供・発信するには、どうすればよいか

といったことを考えてみたいと思います。(p.11-12)

と紹介されています。


これも図書館界隈で話題になり書評等も出ていた和田敦彦氏の『書物の日米関係』*2や『越境する書物』*3を読んだことのある方ならイメージしやすいのではと思いますが、両者で歴史として扱われていた対象についての、米国以外の国々(フランスや台湾など)も含めての現代の状況を中心に扱っているのが『本棚のニッポン』です。
より詳しい目次等については笠間書院のページ*4を確認していただければ幸い。


感想パート

本書を読むまで(より正確にはそれ以前からの江上さんがしばしばなされていた情報提供に触れるまで)、海外にあって日本を研究する人びと、日本語の本やその外国語訳、あるいは日本に関する本を欲している人の存在を自分はあまり意識して来ませんでした。
如何に英語等で発信して世界のメジャー・シーンに情報を出すか、ということ自体は研究者として当然、常に意識していた一方で、「日本で流通しているものを」海外へ、というのはころっと失念していた。
そのこと自体、そしてそれが如何に問題かということに気付かされました。


例えばCiNiiや機関リポジトリ等による日本の雑誌の話も出てきて、そこでは自分(min2-fly)が普段研究として扱っている日本語で書かれた人社系の論文へのニーズも語られています。
今まで電子的な英語文献に海外からのアクセスがあるのは当然と捉えていた一方、「日本語の文献を」あえて欲している海外の日本研究者のことをどれだけ考えていたかと言えば・・・(汗)
でも実際にはそういう人びと、容易に日本の大学図書館で冊子体をコピーしたりなんかできない人にこそ電子的な発信の需要が強く存在するわけです。
加えて予算の制約が厳しくなる中では電子情報となっていないものへ予算を振ることは困難になりつつもあるという話もしばしば言及されており、日本からの情報の入手がより難しくなっていることが伺えます。
そうなればより情報が得やすいテーマの方に自ずと研究者人口がシフトしていくことにもなるわけで・・・
いわゆるCJK,中国、日本、韓国の中では電子ジャーナル/データベースとも日本が最も遅れている*5ことを江上さんはたびたび指摘されていますが、ただでさえ日本研究自体が海外において徐々に衰微していく中で(もちろんそれ自体は国際社会の中での日本自体の位置づけが第一因であって直接の原因が電子化の遅れにあるわけではないですが)、興味を持った人でもなかなか研究しにくい国に日本はなってしまっているんじゃないか、という指摘は、はっとさせられるものがありました*6
最近は入手できる文献も増えてきたけど紀要とか電子化しやすいところからやって主要誌が後回しじゃないのー、とか、わかってはいたもののそれを海外から指摘されるとは・・・(汗)


さらに、日本の情報が入手しにくいというのは電子化自体の遅れの問題のほかに、そもそも端から海外で求めている人がいるって事自体に意識行ってない、というより根源的な点も指摘されます。
クレジットカードで買えないとか国内からじゃないとか買いにくいとか日本語PCでしか動かないとか海外から取り寄せようがないとか。
端から「自分たちの発する情報が海外から求められる」ことがあるなんて想定していない。
日本語論文の海外需要に気付いてなかった自分の場合もまさにそうですね。
本書中で幾度か日本の発信ベタについての言及が出てきますが、下手以前にそもそも発信したり応えたりすることを想定できていないってーのは本当にそうだなあ、と。


これからはこの点は従来よりかなり意識して研究に取り組んでいってみたい、という意識を強くしただけではなく、他にもこう、なんかできることないか、っていう・・・焦燥感とも違うけどうずうずした気分になる本でした。
さらにそのうずうずを行動につなげていくためのヒントもいっぱい提示されていて・・・むう、考えられているなあ・・・


これは是非、いろいろな方に読んでもらいたい本だと思います。
最後に、「あとがき」から江上さんご本人の言葉の引用。

わたしは図書館司書という立場でしたが、他の学術機関・公的機関、出版・情報関係、資料・情報に関わるあらゆる業種・立場の方々に、この問題について広く関心と意識を持っていただき、より多くの方に"援軍"になっていただきたい、と願っています。日本から海外へ効率的・効果的に資料提供・情報発信できるかどうか、そうしようという姿勢を持てるかどうか、それによって最終的に影響が及ぶのは日本自身だろう、と考えています。(p.283)

あ、ちなみに来月、7/14には池袋のジュンク堂にて、江上さんとエントリ中でも紹介した和田敦彦さんによるトークセッション「国境を越えた知の流通 過去・現在・未来 ―海外の日本図書館から考える」も開催されるそうですよ!


江上さん、和田先生、どちらの本も読んだあとだとこのトークセッションが如何に面白そうなシロモノであるか実によくわかります!!
7/14の夕方かー、他に予定入らないことを願うばかり・・・。

*1:あらためて、ありがとうございましたm(_ _)m >江上さん

*2:

書物の日米関係―リテラシー史に向けて

書物の日米関係―リテラシー史に向けて

*3:

越境する書物―変容する読書環境のなかで

越境する書物―変容する読書環境のなかで

*4:江上敏哲『本棚の中のニッポン 海外の日本図書館と日本研究』(笠間書院) | 笠間書院

*5:この場合、「日本国内の情報について」の電子化が最も遅れているということ。海外データベースとか電子ジャーナルとかの契約数の話ではない

*6:ちなみにこのあたりの話は昨年の第1回SPARC Japanセミナーでの友常勉先生のご発表、「国際日本研究と学術デジタルコミュニケーションの現在」の内容等もかなり関係してきます。参照:「OA出版の現状と戦略:ジャーナル出版の側から」(Open Access Week: 第1回SPARC Japanセミナー2011) - かたつむりは電子図書館の夢をみるか